04. 2013年3月04日 00:28:15
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日本経済、手早い対策は緩やかな停滞より危険か 2013年03月04日(Mon) Financial Times (2013年3月1日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) いわゆる「安倍トレード」で、日本株は上昇し、円は大きく下げてきた〔AFPBB News〕
大方の日本人投資家は、通貨を押し下げ、新たな財政刺激策に乗り出す首相の決意を歓迎した。安倍晋三氏が昨年12月に首相に選ばれてから、TOPIX(東証株価指数)は22%上昇し、円相場は大幅に下落した。 そして今後、財務省の元キャリア官僚で新たに日銀総裁に指名された黒田東彦氏が、より積極的な量的緩和策を指揮することになる。 だが、もっと懐疑的な向きもある。構造改革の不足や不利な人口動態、低い生産性、中国、韓国などの近隣諸国からの競争上の脅威を考えると、こうした政策は金利上昇を招く一方、悪影響を相殺する恩恵が見込めないと考えているからだ。 数十年とは言わないにせよ、もう何年も、日本円と日本国債に対する空売りは、損失が膨れ上がるために墓場トレードとして知られてきた。 「墓場トレード」と呼ばれてきた日本売りに異変 ところが今、アベノミクスという決して新しくはないが素晴らしい世界のおかげで、円売りは利益を上げており、日本に対する弱気筋は、弱気に基づく賭けの対象を日本企業に広げている。 こうした投資家のポジションは、政府がやろうとしていることにどれだけ大きな利害が絡んでいるかを物語るとともに、多くの運用担当者やエコノミストが、新政権が日本を今より高く持続的な成長軌道に乗せられる可能性について悲観的な理由を示している。 なぜなら、政府の政策課題は概ね、過去にうまくいかなかった手っ取り早い対策から成り、長年の低成長ないしマイナス成長を経た今では、従来以上に危険な対策だからだ(そして現在、日本はマイナス成長が3四半期続き、再び景気後退に陥っている)。 いくつかの面では、安い円は確かに日本の輸出企業の収益に貢献する。だが、そうした効果はある意味で人為的だ。むしろ、より魅力的な製品を作り、価格決定力を持つ方が望ましいだろう。 純粋な恩恵ではない円安 いずれにせよ、円安は決して純粋な恩恵ではない。何しろ日本は依然、原材料の輸入に依存している。福島の原発事故で原子力発電が大幅に減少したため、現在は輸入エネルギーに対する依存度が高まっている。円安により、貿易収支と経常収支の双方に大きな圧力がかかる。 そのうえ、もし政府が望んでいるように円安進行が続いたら、外国人投資家は為替サイドのリスクを補うために、高いリターンを求めるようになる。こうした資金は市場に流れ込む投資の一部にすぎないが、変化は常に周縁から始まるものだ。 金利の上昇は、政府にとっても、過度な借り入れを行っている日本企業にとっても問題になる。後者のような企業が、新政権の政策に納得していない例の投資家の標的だ。 政府の支出政策も、お粗末な対策に終わる可能性が高い。景気刺激策はこれまで、特に建設業界の既得権益の要求をそのまま反映しており、乗数効果がゼロだった。こうした事業は日本の有名な光景であるコンクリートで舗装された川や山間の小川にかかる立派な橋を生んだ。 だが実際、そうした政策はこれまでは逆効果だった。消費者は、これらの不要な工事の代金を払うための増税を見越して、従来以上に節約しなければならないと感じたからだ。 日本の人口高齢化を考えると、道路よりも老人ホームを建設した方がずっと良かった。そうした施設は、発展の遅れた日本のサービス部門を育成するとともに、老後のために貯蓄する動機を減らす助けにもなるはずだ。だが、それには移民が必要となるかもしれない。移民の受け入れは、政策課題に挙がってさえもいない多くの構造改革の1つだ。 「オールドジャパン」銘柄に目を付ける弱気筋 さらに言えば、たとえアベノミクスが円安の結果としてより高い物価上昇率をもたらすことに成功したとしても、賃金は恐らくインフレに追いつかないだろう。賃金は物価に追いついたことがないからだ。その場合、弱い内需は一段と弱くなる。 こうした理由から、米国の一部ヘッジファンドの運用担当者は今、まさに安倍政権の政策の恩恵を最も受けるはずの「オールドジャパン」銘柄に対してネガティブなポジションを取っている。 こうしたファンドは例えばクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場で、製紙業界や海運業、鉄鋼業界の多くの企業のプロテクションを買っている。これらの企業がデフォルトすると考えているからではなく、事業衰退のリスクと比べて、CDSの保証料率が安く思えるからだ。 これらの投資家が考えているように信用スプレッドが拡大すれば、投資家は儲かる。一部の鉄鋼メーカーは、アルセロール・ミタルよりも債務負担が大きく、同社以上に中国に影響されやすい。また、日本人がファクスされた地図の代わりに様々な機器を使うようになり、製紙会社ではついに需要が減少し始めている。 最軍備関連銘柄が買われ始めたら・・・ さらに、多くの日本人でさえ、安倍氏の右派の国家主義的な見解のために、こうした政策が短命に終わったり効果がなかったりしたらどうなるか心配している。 一部のバンカーは、ほぼ150年前の明治時代以来、日本は戦争によってしか景気後退から脱したことがないと指摘する(望むらくは、1950年代の朝鮮戦争などの他国の戦争だった)。 再軍備関連の銘柄が高騰し始めたら、日本の運勢は短期的に上向くかもしれないが、長期的には一段と大きな危険にさらされるだろう。 By Henny Sender まだ円安ではない。1ドル=107円が適正 古森重隆・富士フイルムホールディングス会長・CEOに聞く 2013年3月4日(月) 西 雄大 日本の製造業は円高による競争力の低下に苦しんできた。アベノミクスの登場で円相場の流れは変わったが、古森重隆・富士フイルムホールディングス会長・CEOはまだ円安と呼べる水準ではないと見ている。適正なレートはどこなのか。 アベノミクスへの期待感から円安が進行しています。 古森:円安ではありません。行き過ぎた円高の是正と考えるべきです。日本は工業製品を輸出して稼ぐ国です。経済を成長させるには為替水準の是正が欠かせません。 政府には電気料金や為替、税金など国の基礎的な競争力を整えてほしい。なかでも円のレートがフェアであることが一番大事です。購買力平価をみると1ドル=107円が適正な水準の目安ではないかと思います。そのなかで安倍さんが「行き過ぎた円高を是正します」と表明したことで変わりました。就任直後に第一声として表明して頂いたことは評価できます。 (写真:的野 弘路) リーマンショック前は1ドル=115円くらいで推移していました。我々は来年度が中期経営計画の最終年度になります。売り上げ2兆5000億円、営業利益が1800億円を見込んでいます。仮に115円の水準に戻れば、売り上げは3兆円、利益は3000億円になります。いかに企業がダメージを受けているのかお分かりいただけるでしょう。企業努力でできる部分はもちろんありますが、円高の為替水準では他国と競争になりません。
行き過ぎた円高になると、製造業は生きていけません。海外へ製造拠点を移転させるか、国内に残ってつぶれるのを待つしかありません。電機業界など一部の業界は赤字で苦しんでいますが、ほかの競争力が弱い業界も同じような状況に陥り、ついには誰もいなくなるかもしれません。 企業の活動が活発になれば雇用の問題も解決します。国内に製造拠点が残るというのは最も大事なことです。 デフレから脱却するために賃金を上げるべきだという声もありますが、賃上げをして経済が良くなるのではありません。順番が逆で、まず原資が必要です。企業が売り上げを上げてから分配しなければならないのです。 世界でフェアに戦えるようにしてほしい 安倍政権に注文したいことはありますか。 古森:大きく4つあります。まず1つ目が税制改革です。法人税は海外に比べて高い。研究開発関連の減税ももう少し拡充してほしいですね。中小やベンチャー企業は利益率が低く、減税の恩恵を受けられる企業は少ないように思います。 税制はそもそもの問題があります。税金を払っていない企業が多すぎるように思います。聞く所によれば、7割が法人税を払っていないといいます。やはり公平に負担してもらいたいところです。 2つ目が規制緩和です。我々は医療機器を製造していますが、実に規制が多いと感じます。例えば医療機器のソフトウエアはハードウエアに組み込まれていないとダメ。ソフトだけの認可はしてもらえません。これではソフトウエア産業が育たないです。医薬品の承認も時間がかかりすぎています。アメリカは5年程度のところ、日本は倍かかります。時間もコストもかかる。規制緩和をしてもらわないと産業が育ちません。 3つ目はエネルギーコストが高いことです。日本向けのLPガスは高値で推移しています。日本はアメリカに比べて6倍ほど高いそうです。我々だけでも600億円ほど払っています。アメリカの企業は100億程度で済んでしまいます。これでは競争になりません。 最後に教育です。若者の教育を強化してほしい。みんな戦って紳士的にやろうしている。たしかにルールは守らないといけませんが、世界では熾烈な競争が繰り広げられています。昔の日本人のレベルと遜色がないくらいに資質を高めてもらえれば多くの課題に勝てると思うのです。 製造業が弱くなっているとの指摘もあります。 古森:それは違います。為替さえ適正な水準に戻してくれれば我々はきちんと経営できます。精密機器や化学など競争力が強い領域はあります。繰り返しになりますが、行き過ぎた円高を是正してさえくれれば負ける気はしません。 適正なハンディキャップにしてもらえれば我々は自力でやっていきます。有利になるような制度を作って下さい、と国に頼ることはしません。とにかく世界でフェアに戦える状態にしてほしいだけです。 安倍首相とは以前からのお付き合いですが、印象はどうですか。 古森:安倍さんは色々な人の意見を聞かれます。経営者を交えて意見交換会をしていますが、じっと聞かれていることも多いです。 前回と比べて余裕が出てきたように思います。ご本人も第一次内閣の時には「肩肘がはっていた」と振り返っていました。最近は自民党総裁選や総選挙を勝ち抜いた自信と経験からでしょう。このところ頻繁に会っていませんが、応援しています。 昨年の総裁選でもご自分がなられると思っていなかったようです。僕も「立候補されたらどうですか」とお薦めしました。前回、政権を担っていた時も国の問題をご自分のこととしてとらえられている。私は応援していますよ。 西 雄大(にし・たけひろ) 日経ビジネス記者。 徹底検証 アベノミクス
日本経済の閉塞感を円安・株高が一変させた。世界の投資家や政府も久方ぶりに日本に熱い視線を注ぐ。安倍晋三首相の経済政策は日本をデフレから救い出す究極の秘策か、それとも期待を振りまくだけに終わるのか。識者へのインタビューなどから、アベノミクスの行方を探る。
TPP交渉で農業改革に号砲 日米首脳会談 2013年3月4日(月) 安藤 毅 、 張 勇祥 日米首脳会談を経て決定的となった日本のTPP交渉参加。政府は交渉進展のカギを握る農業改革に本腰を入れる方針。守る対象から“稼げる”農業へ。政府の改革姿勢が試される。 本誌が2月18日号で報じた通り、安倍晋三首相は近くTPP(環太平洋経済連携協定)交渉参加を表明する。2月22日のバラク・オバマ米大統領との首脳会談で、すべての品目の関税撤廃を前提にしないことを確認したためだ。自民党内では今夏の参院選での農業票離れを懸念する声がなお根強いが、安倍首相は交渉参加の判断について党役員会で一任を取りつけた。 自由貿易推進論者の安倍首相は、日米同盟強化や成長戦略に弾みをつける観点からも、再登板前からTPP交渉参加に意欲を示していた。 日本国内で「聖域」確保が交渉参加の条件との空気が広がる一方、米国も高い水準の自由化を目指しつつ、自動車や砂糖など一部品目は例外扱いとしたいのが本音だった。年明け以降、両国政府は首脳会談に向けた事前協議で、双方の顔が立つ落としどころを探った。 政府関係者によると、「聖域」確保の感触が強まった2月上旬に安倍首相は交渉参加を決意した。それを前提に共同声明の文言調整が加速。「日本には一定の農産品、米国には一定の工業品というように両国ともに2国間貿易上の重要品目が存在する」とする共同声明が固まったのは首脳会談の前日だったという。 交渉参加は6月決定か TPPは関税撤廃に加え、投資や知的財産権保護などのルール整備を進めることで、アジア太平洋地域で企業活動がしやすくなる効果が見込まれる。 ただ、交渉の見通しはなお霧の中だ。交渉に参加する11カ国は10月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の場での大筋合意を目指す。日本の交渉参加には米議会の了承を得る必要があり、正式な参加決定は早くても6月。交渉参加は9月からになりそうだ。 TPP推進を主張してきた日本の自動車業界も手放しで歓迎しているわけではない。米側は自らの「聖域」として、乗用車で2.5%、トラックで25%の輸入関税の当面維持を求めると見られるほか、軽自動車の税負担の軽さが非関税障壁に当たるとの主張を下ろさない可能性が大きいためだ。 9月の交渉参加時には日本が重視する農林水産物の扱いなどに関する議論が大詰めを迎えている可能性が大きい。今のところ政府は2つのアプローチで農業対策を進める方針だ。農家にとってプラスになる議論を先行。農産物の輸出拡大や農商工連携の強化、耕作放棄地の解消策などを整理し、6月にまとめる成長戦略に盛り込む。 一方、コメ、砂糖などのうちどの品目を例外扱いにし、農家向けにどのような補助金や振興策を用意するかに関する検討は激論が必至だ。自民党内では1993年のウルグアイラウンド合意時に約6兆円の対策費が投じられたことを念頭に、「10年で10兆円」といった構想が早くもささやかれる。 だが、「金額ありき」の姿勢では農家や農協向けの単なるバラマキに終わりかねない。一律の支援を前提とする農政から、専業農家や中山間地向けに支援を手厚くするなど「選択と集中」が欠かせない。 本間正義・東京大学教授は「成長が見込める分野はコメ。輸出産業化には農地集積による大規模化とコストダウンが必要」と指摘する。“稼げる”農業への脱皮に向け企業の農地取得や減反制度見直しなどタブー視されてきた課題に今度こそ手をつけられるのか。TPP交渉参加は安倍政権の改革姿勢の試金石になる。 安藤 毅(あんどう・たけし) 日経ビジネス編集委員。 張 勇祥(ちょう・ゆうしょう) 日経ビジネス記者 時事深層
“ここさえ読めば毎週のニュースの本質がわかる”―ニュース連動の解説記事。日経ビジネス編集部が、景気、業界再編の動きから最新マーケティング動向やヒット商品まで幅広くウォッチ。 景気映す業種・地域の広がり 2013年3月4日(月) 大村 法生 企業のIPO(新規株式公開)が回復基調をたどっている。業種の広がり、地方銘柄の増加が企業業績の回復を示唆する。一方、個人を中心に売買は過熱。相場に波乱を招きかねない。 2012年のIPO(新規株式公開)社数は48と2011年の37社を上回り、3年連続で前年比プラスになった。上場を準備している企業の動向を分析しているが、2013年の新規上場は60社ほどと、引き続き増加しそうだ。 なぜか。アベノミクスへの期待で株価が上昇していることが主たる要因ではない。多くの場合、企業は株式公開による調達額の多寡より、上場そのものを通じた信用力、知名度の向上に重きを置いており、上場できる時には上場する傾向が強いためだ。むしろ、上場予備軍の企業業績が上向いていることが大きい。
このことは、次の2つの「状況証拠」からも見て取れる。1つ目は、上場する企業の業種が良い意味でばらけてきたことだ。 上場企業、業種が多様化 日本経済が振るわない時期には、それでも底堅い収益が稼げる医薬品・ヘルスケアの新規上場がどうしても目立つようになる。例えば2010年はIPO件数の18%、2011年は16%が医薬品・ヘルスケアで、比率としては最も高かった。それが2012年はサービス業が16社と全体の3分の1を占めた。足元は住宅、不動産の動きが活発なうえ、円安に伴い製造業の業績も改善しつつある。海外経済などに変動がない限り、今後は製造業の上場増も期待できる。
2つ目は地域の分散だ。景気が悪い時は、やはり経済規模の大きい東京の企業の割合が高くなる。東京以外の企業が増えることは、日本全体の景気が改善していることを表しているのだ。 2011年は37社中25社が東京の企業だったが、2012年は48社中26社だった。九州に本社を置く企業の割合が1割に乗ったことも特筆できる。新幹線の整備が進んだこともあって熊本や鹿児島が九州経済圏として一体化しつつあり、地域全体の生産性が向上していると考えている。 円高修正を除けば新政権による景気対策の効果が出てくるのはこれから。しかし、企業はこれまでのデフレや円高に必死に対応し、その成果が出つつあることがIPOの回復に表れている。 ただ、株価を見ると個人を中心に売買が過熱している。今年に入り株式を公開した4社の初値は公開価格を大きく上回り、短期筋の投資意欲は過去数年にないほど盛り上がっている。この点は、株価形成のうえで波乱要因として意識する必要がある。 (構成:張 勇祥)
会社に姥捨て山を作らない方法 2013年3月4日(月) 蛯谷 敏 「100歳の現役サラリーマン」、福井福太郎氏をご存知でしょうか。日経ビジネスの読者なら、昨年9月10日号の特集「隠居ベーション」で紹介したその活躍ぶりを記憶している方も多いでしょう。文字通り、100歳を超えた今も現役の会社員です。 毎朝、神奈川県藤沢市から東京都内のオフィスに約1時間かけて通勤。宝くじを委託販売する会社で事務仕事を精力的にこなしています。万歩計を常に身につけ、1日7000歩が日課。矍鑠としたスーツ姿は、実年齢を感じさせません。「衰えは感じないねえ。まあ、97歳を超えた頃から、老化を感じるようになったけれど」と福井氏は笑います。 60歳の定年を超えても、福井氏のように能力を発揮できる高齢者は少なくありません。引退世代を「隠居」と呼んで社会から追い出すよりも、むしろその力を積極的に活用してはどうか。それが、閉塞感漂う日本経済の活性化につながり、高齢化社会を生き抜く処方箋となる――。特集には、そんなメッセージが込められていました。 ところが、物事はそう簡単ではありません。確かに、福井氏のように経験と能力と体力、さらにはモチベーションまで備えた人物であれば、会社も喜んで働いてもらいたいと願うでしょう。しかし、残念ながら世の中そんな人ばかりではありません。 本日から公開している2013年3月4日号特集「定年延長パニック」では、今年4月1日から本格化する定年延長制度の実態に焦点を当てました。年金支給開始年齢の引き上げに合わせ、段階的に実施されてきた定年延長制度。法改正によって4月1日以降は、一定の猶予期間後、希望する全社員を65歳まで雇用する義務が、すべての企業に課されます。 いわゆる、「65歳定年時代」の到来です。これまで60歳で定年を迎えていた多くの会社員が65歳までの雇用継続を選択することが想定されることから、企業がその対応に追われています。企業にとっての人件費増加は言うまでもありませんが、元上司が部下になるといった指揮系統の混乱、新規採用の停滞など、その余波は決して小さくはありません。特集班の試算では、65歳定年制によって、雇用しなければならない社員数は最大で約100万人増加。企業の人件費も、1.9兆円増え、各産業の利益率に0.1ポイントの押し下げ効果があると見ています。 「新人でも半日でこなせる仕事に丸一日費やしている。電話を取ったかと思えば、他部署の人と世間話。パソコンに向かったかと思えばゲームの『ソリティア』。定年延長でこういう人が増えていくのかと思うと不安になる」。特集に登場する現役社員の冷ややかな言葉からは、定年延長世代の活用を間違えると、組織の活力を落としかねないリスクをはらんでいることが分かります。 無論、すべての60代がこのような社員ではないでしょう。しかし、福井氏のような優秀な人ばかりでないのもまた現実です。制度が走り始める以上、企業の対応は不可避。では、経営者はどう向き合っていけばよいのか。特集では、4種類の方法を具体的な企業ケースと共に提示しています。若干品はありませんが、本質を言い当てた特集のサブタイトル「会社に“姥捨て山”を作らない方法」。定年世代を抱える企業にとって無縁ではいられないテーマを深堀りしました。 蛯谷 敏(えびたに・さとし) 2000年、日経BP社入社。通信業界誌『日経コミュニケーション』記者を経て、2006年より日経ビジネス記者。情報通信、ネット、金融、不動産、政治、人材など色々担当。「一極集中」から「多極分散」へと移り変わる様々な事象をテーマに日々企画を考えている。 特集の読みどころ
企業が直面する変化や課題に多角的に切り込む日経ビジネスの特集。その執筆の動機やきっかけ、誌面に込められたメッセージをお届けします。誌面と併せてお読みいただくことで、理解がより深まる連載です。 |