01. 2013年2月28日 01:33:53
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緊縮財政の悲しい記録 欧米の赤字削減が無用な悲劇を招いている 2013年02月28日(Thu) Financial Times (2013年2月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) G20のトロントサミットで、先進国は財政赤字の半減を決めた〔AFPBB News〕
2010年6月にトロントで開催された20カ国・地域(G20)首脳会議をもって、高所得国は緊縮財政に転じた。 ギリシャ、アイルランド、そしてポルトガルでソブリン債務危機が始まりつつあったことがその1つの理由だった。政策立案者たちは、自国がギリシャになるリスクに恐れおののいたのだ。 G20サミットの共同声明の記述は具体的だった。「先進国は、2013年までに財政赤字を少なくとも半減させ、2016年までに対国内総生産(GDP)の政府債務を安定または低下させる財政計画にコミットした」 どちらの措置も必要かつ賢明なものだったのだろうか? 答えはノーだ。 緊縮財政が必要でも賢明でもなかった理由 ユーロ圏は、世界を震撼させたソブリン債務危機の中心地だった。危機に陥った政府には急激な財政引き締めが必要不可欠だと判断された。すると、市場の圧力にまださらされていなかった国々もこの見方に同調し、予防的な引き締めに踏み切った。英国の連立内閣が取った立場はまさにこれだった。 ギリシャ化はすぐそこまで迫っているとの見方は、米国でも(特に共和党支持者の間で)勢いを得た。強制歳出削減を巡る今の争いは、この時の不安感の産物でもある。 これとは正反対の見方を取る有力な識者で、説得力もあると筆者が見ている識者の1人に、現在ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)に籍を置くベルギーの経済学者ポール・デ・グラウウェ氏がいる。 グラウウェ氏によれば、ユーロ圏の債務危機は欧州中央銀行(ECB)による政策の失敗の結果だという。 ECBが政府の最後の貸し手として行動することを拒んだために、政府は流動性リスクに苦しめられた。国債はいつでも簡単に転売できるという信頼感を国債の買い手が持てなくなったせいで、政府の借り入れコストが上昇した。差し迫る危険とはまさにこれであり、各国の支払い能力ではなかった、というわけだ。 グラウウェ氏は先日発表した論文(共著)の中で、いわゆる「アウトライト・マネタリー・トランザクション(OMT)」プログラムを通じて国債を買い上げるという原則的な決定をECBが下したことにより、自分の仮説を検証できるようになったと論じている。 これによれば2012年第2四半期、すなわちOMTが発表された時以降に見られるドイツ国債との利回り格差(スプレッド)の縮小の主たる要因は、OMT発表当時のスプレッドだった。要するに「スプレッドの縮小幅が最も大きかったのは、恐怖という要因が最も強かった国々だった」のだ。 では、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)はどんな役割を担っていたのか? 一部の国、特にギリシャの財政がひどい状況にあったこと、そして現在もそうであることを疑う人はいない。 ここで言うファンダメンタルズの1つに、GDPに対する政府債務残高の比率の変化を挙げることができるが、グラウウェ氏の論文はこれについて重要な所見を3つ述べている。 第1に、対GDPの債務比率は、ECBがOMTを発表した後もすべての国々で上昇した。第2に、債務比率の変化はスプレッド縮小の前ぶれにはあまりならなかった。そして第3に、スプレッドの大きさが各国の緊縮財政の度合いを決定していた、という3点だ。 さらに、ニューヨーク・タイムズ紙のポール・クルーグマン氏は次のような指摘も行っている。危機に襲われた国々にとって緊縮財政は高くつくものとなり、国際通貨基金(IMF)によれば、2009年から2012年までの財政引き締めが厳しければ厳しいほどGDPの落ち込み方も大きくなっている、というのだ。 ECBはパニックを防げたはずなのに・・・ ECBの政策の失敗のせいで、大勢の人が無用な苦しみを経験している〔AFPBB News〕
OMTをもっと早く導入していればECBはパニックを防ぐことができ、その後の緊縮財政を正当化するスプレッドの拡大も防ぐことができたのに、実際にはそうしなかった。 おかげで何千万人もの人々が無用な苦しみを経験させられている。まさに悲劇的な話だ。 とはいえ、筆者は2つの面でECBの行動を擁護できると考えている。1つは、緊縮財政を受け入れるという覚悟を見せてもらわなければ支援はできない、というもの。 もう1つは、欧州経済諮問グループ(EEAG)が最新の報告書でいみじくも喝破しているように、真の問題は財政赤字ではなく、経済を不安定にする資金フロー、対外不均衡、および悪化する競争力という3点にある、というものだ。 しかし、相対的なコストの調整や必要な労働市場改革を断行する唯一の手段としての緊縮財政を(情け容赦ないものではあるが)正当化することは可能だ。筆者の同僚のヴォルフガング・ミュンヒャウは、その逆こそが正しいと主張している。 ただ筆者自身は、ユーロ圏は現在の治療に耐えて生き延びることができるのだろうか、と思っている。ユーロ圏の中核国が脆弱な周縁国に調整の時間をもっと与えてやれば、中核国自身ももっと楽になるだろう。 ユーロ圏外の国々は全く異なる立場にある。同様な流動性の問題に直面していたわけではないため、ユーロ圏諸国のようにスプレッド拡大を恐れる必要がなかったのだ。大ざっぱに言えば、英国や米国の国債利回りは、将来の短期金利の予想値と小幅なリスクプレミアムを反映しているはずだ。完全なデフォルト(債務不履行)など考えられないからだ。 つまり、利回りが急上昇する可能性があるという多くの人が抱いている見方は、インフレの急進を予想していることになる。だが、インフレ率は多くの人が思っている以上に変動しにくいため、そのような急進は実現しそうにない。 マネタリストなら、広義のマネーサプライの伸び率は低位にとどまっていると指摘できるし、ケインジアンなら、民間部門の貯蓄が過大になっていると指摘できるのが現状だ。どちらもインフレ圧力の高まりを示唆する要素ではない。 英国政府は倹約のパラドックスを知らないのか? 英国の連立政権はパニックにおびえ、長期の財政緊縮プログラムに乗り出した〔AFPBB News〕
したがって、英国の連立内閣による長期の財政緊縮プログラムへの方針転換を正当化したパニックは、誤りだったことになる。 連立内閣のメンバーは、倹約のパラドックスという言葉を1度も聞いたことがなかったのだろうか? 経済をさらにひどい不況に陥らせようと思っているのでなければ、国内の民間部門と対外部門が支出を減らしている時には、公共部門はどんなに頑張っても、支出の削減に成功することは期待できない。 短期的な要素が大きな影響を及ぼしてきたとはいえ、英国の景気回復が行き詰まり、財政赤字がなかなか減らないことも意外なことではない。したがって、国債が格下げになっても意外ではない。もっとも、自前の紙幣印刷機に手を伸ばせる発行体の場合、格下げは大して役に立つことを教えてくれるわけではないが。 オクスフォード大学のサイモン・レン・ルイス氏が指摘するように、「2010年のパニックが終わった後、つまり債務危機は本当はユーロ圏危機だったということが明確になり、英国の長期金利が景気の変動に伴って低下した時に、我々は政策を大きく転換すべきだった」のだ。 ここで言う政策転換にはどんな施策が含まれるのだろうか? 答えは簡単だ。 政策転換のあるべき姿 第1に、ロンドンを本拠地とする経済アドバイス会社スミザーズ・アンド・カンパニーのアンドリュー・スミザーズ氏が指摘しているように、英国の非金融法人企業部門が構造的とおぼしき資金余剰になっているのはなぜなのかを真剣に考えなければならない。 第2に、経常的支出の緊縮は景気の状態に明示的に連動させる必要がある。経済成長率が高い時には緊縮の度合いを高め、経済成長率が低い時にはその手を緩めるということだ。第3に、民間部門による投資の増加を促す可能性がある構造改革を加速するために、あらゆる努力を払わねばならない。 第4に、銀行部門は抱えている損失を明かし、貸し出しを再開できるように必要な資本注入を受け入れなければならない。そして最後に、足元の低金利は公共投資を増やすまたとないチャンスを提供していることを政府は認識しなければならない。 長期的には、財政赤字はゼロにしなければならない。短期的には、英国は経済成長率を押し上げるチャンスを手にしているのだから、このチャンスをものにしなければならない。米国も同様だ。 By Martin Wolf 揺れるウォール街、バリュエーションへの懸念に火 2013年02月28日(Thu) Financial Times (2013年2月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 米国株のバリュエーションに対する懸念が生じている〔AFPBB News〕
株式市場が乱気流に巻き込まれると、強気筋の投資家はよく魅力的なバリュエーション(株価評価)に安らぎを求める。現在、強気筋はこの台本をしっかり守っている。 米国株の運用指標であるS&P500種株価指数は、昨年11月の安値から13%の猛烈な高騰を見せた後、2月に入ってマイナスに転じ、1500ポイント台を割り込んだ。 市場は今年、2007年に記録した史上最高値を更新できると確信している米国株の強気筋にとって悪い知らせは、バリュエーションの根拠が以前ほど説得力を持たないように見えることだ。 株式市場で今週起きた唐突な反転について、投資家やストラテジストの意見は割れている。市場がさらに弱含むと見る人もいれば、今回の調整により市場は魅力的な価格になり、高値更新を再び試す展開になると言う人もいる。議論となっているのは、2013年の予想利益の伸びに基づく上昇余地の大きさだ。 PERは確かに魅力的だが・・・ S&P500は現在、今年の予想利益の13.5倍の水準で取引されており、歴史的に魅力的なPER(株価収益率)となっている。 だが、バリュエーションの根拠を不透明にするのが、米連邦準備理事会(FRB)が果たしている積極的な役割だ。「量的緩和」と呼ばれるFRBの大量国債購入は資産価格を押し上げるとともに、2008年以降、自立できずにいる米国経済を下支えしてきたからだ。 コンバージェックスのチーフマーケットストラテジスト、ニコラス・コラス氏は「世界経済の状況を考えると、資本市場がひとりでに13倍を超すPERで株を買うかどうか疑問だ」と言う。 同氏によると、投資家は過去数年間、FRBが金融システムに低利資金を供給し、株式に対するリスク選好度を高めるということを基本的な前提と考えてきた。企業収益は過去最高に迫る水準にあるが、高い失業率と低成長に苦しむ経済全般とのズレが生じている。来週発表される2月の雇用統計が労働市場の大幅な改善を示す可能性は低い。 「通常であればこれは、市場が景気後退への逆戻りと企業収益の低下を恐れて、足元の高い収益に冴えないPERを与えることを意味した」とコラス氏。「しかし、徐々に増加する流動性と低金利のために、株式市場のバリュエーションは『正常』な回復サイクルの途中に近いものになっている」 実際、ここ数カ月間の株式に対する熱意の大部分は、債券と比べた株式の魅力に基づいていた。S&P500を見ると、13.5倍の予想PERの逆数である株式益回りは7%前後で、現在の「ジャンク」債の平均利回り(6%)を優に上回っている。 だが、債券から「比較的安い」株式への資金流入は実現せず、投資家の間の疑念が浮き彫りになった。中央銀行の低利資金を背景とした米国経済、世界経済の脆弱な状態は、S&P500の「魅力的」なバリュエーションに対する懸念に火を付けた。 「一部の優良銘柄がバブルめいた水準で取引されており、株式市場は多少高く見える。今年の利益予想が継続的に引き下げられていることを考えると、特にそうだ」。ハリヤード・アセット・マネジメントのプリンシパル、マイケル・ケストナー氏はこう話す。 「私は一部の強気なアナリストの利益予想には懐疑的で、現在の経済状況を考えると、今年の収益見通しには大きな疑問がある」 期待された力強い成長が実現せず、調整局面を迎える繰り返し バークレイズで米国株戦略の責任者を務めるバリー・ナップ氏に言わせると、お馴染みの物語が今再び展開している。というのもS&P500は過去2年間、年初に同じように力強いスタートを切った後、経済が力強い成長への期待を裏付けることができず、毎年この時期に調整局面に入ったからだ。 「我々はここ数年、毎年陥ってきたジレンマにまた直面している。株価が上昇しているのは、企業収益が理由ではなく、PERが上昇しているためだ」とナップ氏は言う。 S&PキャピタルIQによると、直近の決算発表シーズンでは、S&P500を構成する企業が2011年第4四半期に7.5%の増益を発表した(市場予想は3.4%の増益)。だが、100社中73社が第1四半期に減益見通しを示したことから、第4四半期の増益は先行きの暗い見通しによって相殺されてしまった。 企業収益に対する望みが薄れつつあるのは、経済から次第に矛盾したサインが出ているさなかのことだ。強大な小売企業で消費支出の指標となるウォルマートは、給与税の増税がここ数週間、売り上げの足を引っ張っていると述べた。 「市場は本当に財政の足かせと弱い成長をただ受け流して、好転するかもしれない下期の成長に目を向けることができるのか、それとも第2四半期の調整が再び我々の足を引っ張るのか」とナップ氏は疑問を呈している。 By Arash Massoudi and Michael Mackenzie
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