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アベノミクスと国債市場 インフレ予想に投資家は動じ:日本国債の需給状況は過剰感どころか逼迫感
http://www.asyura2.com/13/hasan79/msg/316.html
投稿者 あっしら 日時 2013 年 2 月 24 日 01:59:04: Mo7ApAlflbQ6s
 


[英FT特約]アベノミクスと国債市場 インフレ予想に投資家は動じず

 投資家はジレンマに直面している。来年度は約25兆円の5年物日本国債が償還期限を迎える。巨額の国債の加重平均金利は約1%で、国債入札で現在実現可能な利回りの約6倍に相当する。単純に入札を6倍にして利益を一定にすべきか、長期国債を買い増して少しでも多くの利益を捻出しようとするのが得策か。

 結果は国債に強気な見方になると、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の石井純チーフ債券ストラテジストは指摘する。安倍晋三首相が成長を推進し、財政支出を増やしているものの、日本の国債市場が持続的に低迷するとの予想が見あたらない主因の一つだ。
 今後1年間は「日本国債の需給状況は過剰感どころか逼迫感が強まる」と石井氏はみる。これが世界第2位の債券市場への「アベノミクス」の現実だ。株式や為替の市場参加者の多くは名目3%の成長率を実現する政策に目がくらむが、債券投資家は動じていない。

 利回り曲線は、すでに低水準にある5年物までの利回りが低下している。日銀の異例な金融緩和によるもので、投資家は新総裁がより徹底した措置を講じるとみている。BNPパリバ証券の金利ストラテジスト、藤木智久氏は「短期と中期の国債は今後しばらく抑制されるはずだ」とみる。

 11月中旬に総選挙が決まって以降、投資家による売りが見られたのは、超長期国債だけだ。外国人投資家は、日銀によって短期の利回りは固定するが、長期の利回りは上昇するはずだと踏んで、利回り曲線の傾斜が険しくなる「スティープ化」を前提とした取引に熱心になっている。
 モルガン・スタンレーMUFG証券のレー・ゴック・ニャン金利ストラテジストは、日本がデフレによる景気低迷を脱しつつあると経済指標が示すまで、国債価格は「レンジ内」にとどまるとみる。一部の海外ヘッジファンドは長期利回りが6〜7%に急上昇すると予想し、行使価格の高いオプションを買い続けているが、勢いは1年前より低下した。ニャン氏は「日本の『破産』シナリオはもう一般的ではない」と言う。
(19日付)
=英フィナンシャル・タイムズ特約

[日経新聞2月20日朝刊P.9]

 

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コメント
 
01. 2013年2月24日 22:29:59 : cIkmTyypTY

 そもそも アベノミクスでは インフレになりそうにない
 インフレよりは 土地バブルになりそうだ 

 インフレは 消費>生産 だが 生産はロボットが 無制限に生産するため
 人間の消費には限界がある事になる

 物価を押し上げる要因は 原料の高騰 燃料・電気の高騰 人件費の高騰
 などだが 通常 製品の原価は安く 20%だとすると たとえ 原価が
 10%上がっても 製品レベルでは 2%も上がらないことになる

 そして 日本の70%はサービス産業(人件費が大半)であるため 
 工場製品のインフレも 日本全体では 1%未満になる

 ===

 要は サービス産業の賃金が上がらなければ インフレにはなならいわけで

 インフレが先か 賃金UPが先かという問題は 賃金が上がらないので
 インフレにはならないという 結論になる

 ===
 
 アベノミクスの 紙幣の増産で インフレになるのなら アメリカやユーロで
 紙幣の増産をしているのだから 真っ先に インフレになりそうなものだが
 なっていない 

 原理的にいっても 日銀は国債を増刷した紙幣で購入できるわけで 
 単純には 国債の暴落は起きないわけだ
 
 ===

 一番有りそうな ストーリーとしては 日本の経常収支がマイナスになり
 日本の円が 200円位に 暴落すれば 輸入物価が高騰して
 インフレになるだろうけど それは もう少し(10年)先の話だ

 ===

 ただ 世界恐慌は 突発的な事象に起因するため 予測困難だが
 有りうる可能性ではある
 


02. 2013年2月24日 22:43:20 : 8sTClhcXpI
日銀総裁人事 黒田東彦氏を軸に調整
(東京都)


■ 動画をみる

 政府は、日本銀行の次期総裁に、財務省出身でアジア開発銀行総裁・黒田東彦氏を起用することを軸に調整に入った。黒田氏は安倍首相の進める金融緩和など「アベノミクス」について同調する姿勢を示している。  政府は25日から与野党への調整を本格化させる方針。
[ 2/24 20:32 NEWS24]

http://www.fbs.co.jp/news/movie/news89053559.html
http://www.fbs.co.jp/news/news89053559.html


03. 2013年2月24日 23:33:19 : cIkmTyypTY

 そもそも

 インフレターゲットとは 2%以上にインフレにするということではなく
 2%以内にインフレを抑えると言うことだ
 
 日銀が 逆さまになっても インフレを助長することは出来ない
 出来ないことに 同調するって <== 気が狂ってるよね!!
 
 黒田は ニセモノだな!!
 


04. 2013年2月25日 00:39:16 : Zag6oDNMIo
徹底検証 アベノミクス

2013年2月25日(月)  小平 和良

 「経済がよくなったという実感は、賃金の増加と雇用が一緒になって、はじめて得られるのではないでしょうか。ただし、経済が活性化し、産業界全体が賃金を上げられるようになるには、早くても2〜3年の期間が必要でしょう。まずは収益の上がっている企業から、すぐにやるべきです」

 これは、安倍晋三政権の経済政策、いわゆる「アベノミクス」に呼応し、20代後半から40代の社員の所得を3%引き上げると明言しているローソンの新浪剛史社長のコメントです。

 大胆な金融緩和、機動的な財政出動、成長戦略の促進を3本の矢とするアベノミクスによって、日本経済がわずかながら明るさを取り戻しています。円高の是正と株高が進み、輸出企業を中心に業績回復への期待も高まってきました。問題はこの流れが、国民一人ひとりのところまでやって来るのかどうか。より直接的に言えば、私たちのふところが潤うのかどうかが焦点です。新浪社長はこの部分にいち早く踏み込みました。

 新浪社長は以前から、消費意欲の高い20代後半から40代の所得を上げるべきだと主張してきました。「これまで日本の企業は、コストを削減して収益を確保する経営を行ってきました。これで職員の士気は上がりません。今回の決定は、これとは逆のやり方を目指すものです。賃金を上げることで士気を高め、職員に頑張ってもらい、目標を達成して収益を上げるというものです。従来型からの方向転換を図りました」。

 「企業のコスト削減→従業員の所得減→消費の落ち込み」というデフレスパイラルからいかに脱却するのか。2月25日号の特集「徹底検証 アベノミクス」では、今後アベノミクスが乗り越えなければならない課題を徹底検証しました。企業の賃上げと家計所得の上昇はその大きな課題です。

 しかし、新浪社長のような志を持っていたとしても、企業が持続的な成長を続けていかなければ賃上げは絵に描いた餅に終わります。さらに今後は消費増税も予定されており、仮に企業が賃上げをしたとしても、それが個人の可処分所得の上昇につながらない可能性もあります。

 そこで課題の1つとして重要になってくるのが、3本の矢の1つでもある「成長戦略」。しかし、成長戦略を描く産業競争力会議では思想の違いから、早くも主導権争いが起きつつあるようです。今回の特集では成長戦略を巡る政府内の微妙な駆け引きについても活写しています。

 20年にわたる長い停滞を打破する、歴史に残る政策となるのか。それとも、一発屋と呼ばれるお笑い芸人のギャグのように一時の流行り言葉で終わるのか。ロケットスタートを切ったアベノミクスの真贋が問われるのはこれからです。


小平 和良(こだいら・かずよし)

日経ビジネス副編集長。大学卒業後、化学メーカー、通信社での勤務を経て2000年に日経BP社入社。日経ビジネス編集部にて自動車業界や金融業界を担当。2006年に日本経済新聞社消費産業部に出向。2009年に日経BP社に復帰し、流通業界などを担当してきた。


 


 

2015年、500mlペットボトルが消える日

味香り戦略研究所の菅慎太郎氏にアベノミクスの生活への影響を聞く

2013年2月25日(月)  小平 和良

円安・株高でロケットスタートを切った安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」。一方で、急激な円安進行は輸入価格の上昇などにより、個人の生活には負の影響が出る可能性もある。食品の生産や流通に詳しい味香り戦略研究所の菅慎太郎・味ブランド戦略部部長兼味覚参謀に、アベノミクスが食品価格などに及ぼす影響について聞いた。
(聞き手は小平 和良)
アベノミクスで円安・株高が進んでいる。消費者の購買行動にはどのような影響が出てきているのか。

菅:円安で輸出企業を中心に業績が上向く兆しが出てきていることもあって、短期的なマインドとしては悪くない。しかし、実際の購買行動という意味では大きく変わっているわけではない。

購買行動が変わるにはやはり所得が増えないとダメなのか。

菅:というよりも構造問題だと思っている。少子高齢化による人口減が進み、1人暮らしの世帯も増えている。仮に企業業績が上向いて、賃金が上がってきたとしても、生産年齢人口の比率が下がっている中では賃上げの効果も限定されてしまう。景気の動向よりも、こうした問題が与える影響の方が大きい。恐らく5%程度、賃金が上がったとしても、消費者の購買行動は変わらないのではないか。


菅 慎太郎(かん・しんたろう)氏
味香り戦略研究所味ブランド戦略部部長兼味覚参謀
1977年埼玉県生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。焼酎アドバイザーの資格を持ち、食べ合わせ、飲み合わせの研究を進める一方、味を作る“味覚参謀”として、大学での講義や地方での商品開発、地域特産物の発掘、ブランド化を手がける。キッズデザインパーク講師。日本味育協会認定講師。渋谷珍味研究会顧問。鹿児島市新産業連携創出WGアドバイザー(写真:陶山 勉)
流通業や食品メーカーにとっては厳しい状況が続くということか。

菅:やはり人口そのものの減少や、世代や世帯の変化といった構造問題の影響が大きい。例えば、野菜の価格が高騰するとスーパーはセールを打って消費を促そうとするが、現在、家計支出に占める生鮮野菜の比率は5%以下になっている。それだけ、総菜などの中食や外食で野菜をとる人が増えているということだ。

 また最近では、米国産牛肉の輸入条件が緩和され、スーパーの中には米国産牛肉を特売しているところもあるが、これもどうだろうか。高齢者が増えているということは脂身の多い肉は買わなくなっているということだ。そんな中で米国産を特売してもどれだけ響くかどうか。スーパーの中には米国産を特売しておきながら、国産の牛肉の価格を引き上げているところもあって、ひどい話だと思う。

 インターネット上でチラシの価格をすぐに比較できるようになり、以前ほど消費者はセールに響かなくなっている。通常のスーパーは商圏内で10億〜12億円ほどの売り上げが見込めないと出店ができない。だが、今はそのような場所はほとんどなくなっている。出店をし続けることで資金繰りを確保する手法も限界に来ている。流通業にとっては、これまでの売上高至上主義から粗利益重視の考え方にどのように転換していくのかが、問われている。

急激な円安進行は輸入食材や飼料の値上げにつながり、我々の生活を直撃する可能性がある。

菅:輸入食材や飼料を含む穀物などにじわじわと影響が出てくる。あるメーカーの缶コーヒーは既に容量が減っている。ただ、メーカー側は「原材料価格の上昇によるものではなく、プルタブを開ける際にやけどすることを防ぐため」と説明しているようだが。

容量の変更で実質値上げが増える?

さらに2014年には消費増税も控えている。

菅:飲料などでは上記のように、容量で工夫をしながら、実質的に値上げするという動きが増えてくるかもしれない。既に400ミリリットルのペットボトル飲料を出しているメーカーなどもあり、これはある種のテストを行っているという見方もできる。ボトルを細くすることで、「女性のかばんにも入りやすい」といった売り方もできる。ほかにも、子供向けに100ミリリットル100円といった飲料が出てくるかもしれない。

 飲料メーカー各社は1本150円がペットボトル飲料を買ってくれる上限価格だと見ているのだと思う。この価格設定を変えないために、消費税が10%になる予定の2015年には、500ミリリットルのペットボトル飲料はなくなっているかもしれない。

 そのほかの食品に関しても、様々な容量の商品を用意することで、実質的な単価を引き上げようとするメーカーが今後増えてくるかもしれない。

いずれにしても、流通業やメーカーが単純に値上げすることは難しそうだ。

菅:実は効果があるかもしれないと思う政策もある。交際費の損金への算入だ。報道によると、中小企業については2013年度から年800万円を上限に交際費を損金算入できるようになる見通しで、大企業についても損金算入の拡大を検討するという。これにより飲食店などは恩恵を受けるかもしれない。

 おかしな話だが、自分のふところが痛まないお金であれば何も気にせずに使えるし、企業に内部留保をはき出してもらう効果も期待できる。飲食店はパートやアルバイトの比率が高く、恩恵がそうしたところまで及んでくると、好循環が生まれる可能性もある。

菅:仮にビール系飲料にかかる酒税が変わり、ビールは価格引き下げ、発泡酒と第3のビールは価格引き上げとなると、すでに新ジャンルが多い小売店の店頭では全体としてビール系飲料の価格が上がったという印象を持たれかねない。こうしたことも飲食店にはプラスに働き、飲食店バブルのようなことが起きるかもしれない。

「おいしい」「安全」「高品質」だけでは買わない

人口減など消費が増えにくい構造がある中で、メーカーや流通業はどうやって消費者の心をつかめばいいのか。

菅:「おいしい」「安全」「高品質」だけでは消費者は買わなくなった。そこに「おもしろい」とか「楽しい」とか「うれしい」といったものがないと商品を買わない。極端に言えば、ものの良さは関係ない。いかに心を満たすかが大事になっている。

 またビールの話になってしまうが、ビール離れと言われているけれども、以前よりも複雑な味のビールを好む人は増えているし、ドイツ発祥のビールのお祭り「オクトーバーフェスト」を開けば、大勢の人が押しかける。単なる消費を超えた、心を満たされるものにはお金を払うということだ。

 メーカーや流通業もいよいよ転換を迫られている。例えば、冬の野菜を夏の暑い時期に無理やり並べる必要はもうないのではないか。今の品目数を並べることが、環境面なども含めて正しいのかどうか。これまでは価格との見合いで成り立っていたのかもしれないが、消費の構造が変わる中でそれは成り立たなくなっている。消費者を含め、今の消費生活を考え直す時期にきているということだろう。


小平 和良(こだいら・かずよし)

日経ビジネス副編集長。大学卒業後、化学メーカー、通信社での勤務を経て2000年に日経BP社入社。日経ビジネス編集部にて自動車業界や金融業界を担当。2006年に日本経済新聞社消費産業部に出向。2009年に日経BP社に復帰し、流通業界などを担当してきた。


 
円安でも素材空洞化は止まらず

住化、エチレン国内生産休止

2013年2月25日(月)  張 勇祥

円安が進んでいるにもかかわらず、住友化学がエチレンの国内生産を休止する。長引いた円高下で設備の更新や人材育成が遅れ、競争力が予想以上に低下した。円高の傷痕は深く、日本のモノ作り復活へ、「アベノミクス」の課題は多い。

 「一抹の寂しさはあるが、千葉工場のエチレン設備は操業が1970年と非常に古い」。住友化学の十倉雅和社長は2月12日に開いた中期経営計画の説明会などで、老朽化により競争力を失ったことが休止の理由だと述べた。

 住友化学にとって国内唯一の自社エチレン設備を、定期修理の時期を迎える2015年までに休止する。今後は丸善石油化学との共同出資会社「京葉エチレン」からの調達を増やし、化学品生産のサプライチェーンは維持する。

 エチレンはポリエチレンや塩化ビニール、ポリエステルなど幅広い化学品のもととなる重要な基礎原料だ。化学大手の国内生産能力は合計で年720万トンほど。これに対し、内需は年500万トン台にとどまる。長く続いた円高により輸出が落ち込み、化学大手はプラントの稼働率低迷に苦しんできた。

 住友化学は人員削減をしない方針にもかかわらず、「一部の川下製品のリストラと合わせ、合理化効果は年100億円」と言う。これだけの規模の採算改善を見込むのは、エチレン設備の収支がいかに悪かったかを示す。


住友化学は千葉工場で稼働するエチレン設備を休止。国内での自社生産から撤退する
化学は六重苦プラス「3つの壁」

 日本の製造業は「六重苦」にさいなまれてきたと言われる。円高に加え、諸外国より高い法人税率や電気料金、自由貿易協定への対応の遅れ、自由度が乏しい雇用、厳しい環境規制だ。こうした状況下で、化学大手は設備の大胆な更新投資に踏み切れなかった。

 UBS証券の高橋昌平アナリストは「日本の化学業界は六重苦に加え、さらに3つの壁がある」と指摘する。その1つが設備の老朽化だ。

 住友化学のエチレン設備は操業開始後40年余り。他社でも高度成長期に建設し、今なお現役で操業を続ける設備は少なくない。国内で最新設備を持つ京葉エチレンでも、操業開始は94年。修繕や改良を加えても、海外で建設が相次ぐ新鋭設備に生産性で追いつくのは容易ではない。

 2つ目が設計の古さに伴う規模の小ささ。国内には14のエチレン工場があるが、その過半は年産50万トン以下。これに対し、中国では年産100万トン規模の建設計画が相次ぐ。住友化学がサウジアラビアで展開する「ペトロ・ラービグ」は、既に稼働する第1期だけでも年産130万トンの規模だ。

 3つ目が海外で活用が広がる低コスト原料だ。国内のエチレンはナフサから作るのに対し、北米で産出するシェールガス(新型天然ガス)に由来するエタンを使うと、原料価格が10分の1以下で済むとされる。米ダウ・ケミカルが米テキサス州に年産150万トンのエチレン設備を新設するのもそのためだ。高コスト原料を使っていては、米大手に競争力で太刀打ちできない。


日本以外で増産が続く――エチレン設備の能力増減
(注:海外における設備休止の可能性は加味していない 出所:経済産業省。一部は日経ビジネス予想)
 実は、化学の国内生産が危機に直面していることを示す証拠がほかにもある。事故の多発だ。

 総務省消防庁の集計では、危険物施設における火災、流出事故の発生件数は2011年が585件。1994年の287件に比べ、2倍に増えた。最近では三井化学の岩国大竹工場(山口県)で2012年4月、大規模な爆発事故が発生。1割の世界シェアを持つ接着剤原料の生産再開を断念せざるを得なくなった。

 NKSJリスクマネジメントの鈴木拓人・主任コンサルタントは、「背景に熟練技術者の大量退職による技術伝承不足、設備の経年劣化、メンテナンスコスト削減などがある」と指摘する。円高下でのリストラが、製造基盤を弱体化させたとの見方だ。

国内生産さらに縮小も


 化学大手は国内のエチレン能力削減を急いでいる。三菱化学は岡山県の設備を旭化成ケミカルズとの共同運営に切り替え、茨城県鹿島事業所で2基ある設備のうち1基を休止する。

 これらを織り込んでも、国内の過剰生産能力の解消にはまだ不十分だ。「(停止後も)すぐにまた、内需に見合う水準への生産調整が課題になる」と岡三証券の西平孝アナリストは予測する。現在、年約500万トンの国内需要が、中長期的に300万〜400万トンレベルに落ち込む可能性があるためだ。

 内需の減少に苦しむ素材産業は化学にとどまらない。新日鉄住金は、鉄鉱石と石炭から鉄を生産する高炉の統廃合を検討しているという。昭和電工の市川秀夫社長のように「1ドル=150円といった水準訂正が起きない限り、(海外移転を含めた)生産拠点適正化の流れは進む」と考える経営者は多い。

 顧客企業の国内生産に期待が持てないことが厳しい。日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は15日の会見で「これまでの円高が日本のモノ作りをどれだけ痛めつけてきたか理解してほしい」と強調した。円安が長期間続く保証でもなければ、自動車など顧客企業は、海外に移した生産を国内に戻す選択肢は取らないだろう。これでは、素材メーカーにとっても、国内での生産維持は簡単ではない。

 大胆な金融緩和を進める「アベノミクス」への期待で、為替相場は円安に振れ、日本の製造業は今のところメリットを受けている。ただ、国内生産回帰につなげるには、課題が山積している。製造業の基盤を支えてきた素材産業の空洞化を止められるのか。日本のモノ作り復活へ向けた、アベノミクスの試金石になる。


張 勇祥(ちょう・ゆうしょう)

日経ビジネス記者


 


アフリカ産LNG急増 ナイジェリアが日本救う

2013年2月25日(月)  大竹 剛

 アフリカからのLNG(液化天然ガス)の輸入量が急増している。先月発表になった貿易統計によると、2012年はアフリカ産LNGの輸入量が前年比で約2倍の878万トンに達し、全輸入量の約10%を占めた。2011年も2010年比で約2.5倍も伸びており、LNG輸入に占めるアフリカ産の重要性が高まっている。


(出所:貿易統計)
 アフリカからのLNG輸入が急増しているのは、福島第1原子力発電所の事故以降、発電に使われるLNGの需要が増えたからだ。年間の総輸入量は2010年の7000万トンに対し、2012年には25%増えて8731万トンに拡大した。この増加分を最も多く補っているのがカタール産で、昨年は2010年比でほぼ倍増の1565万トンとなり、マレーシア産を上回ってトップに立った。

 だが、増加分の約1700万トンすべてカタールで補うのは難しく、新たな調達先としてアフリカに注目が集まっている。アフリカ産の内訳を詳しく見ると、最も多いのがナイジェリアの478万トンで、赤道ギニアの279万トン、エジプトの103万トンと続く。ガス関連施設で人質事件があったアルジェリアからも16万トン輸入していた。アフリカ諸国の中でも伸びが著しいのがナイジェリア産で、2011年に前年比3倍、2012年にさらに同2.5倍と2年連続して大幅増となった。

 ナイジェリア産がこれほどの伸びを示しているのにはいくつか理由がある。LNG事業に携わるある商社マンは、「ナイジェリア産のLNGは日本にとって使い勝手が良い」と説明する。LNGの品質が日本の電力会社などが求める基準の範囲内にあり、需要の急増による不足分を補うためのスポット取引に適しているという。

品質基準が合致し「誰もが買う」

 具体的には、LNGの発熱量が高いことを「リッチ」、低いことを「リーン」と呼ぶが、インドネシアなどリッチなLNGに頼ってきた日本にとっては、スポット取引される南米のトリニダード・トバゴなどのリーンなLNGは扱いづらい。一方、ナイジェリアのLNGはリッチとリーンのほぼ中間で、「いつでもどこでも誰でも買ってくれる」(先の商社マン)。

 また、ナイジェリアの主な出荷先である欧州は、ロシアやアルジェリアなどとパイプラインでつながっているという要因も影響している。つまり、欧州のガスメジャーは需給が逼迫していない時には、ガス価格を見ながら自社が抱える余剰LNGをスポット市場に放出しているのだ。欧州はユーロ危機による不況でガスがだぶついており、LNGの確保に奔走する日本は格好の売り先となっている。

 ただ、ナイジェリア産のLNGを買うことにはデメリットもある。スポット取引の価格はその時々の需給に左右される。日本は現在、総輸入量の約2割をスポット取引に頼っており、欧州景気が回復するなどしてスポット市場に回るナイジェリア産LNGが品薄になれば、価格は上がり魅力が薄らぐ可能性がある。

 また、ナイジェリアからLNGをタンカー船で日本に海上輸送するには、西アフリカからアフリカ大陸最南端の喜望峰を経由してインド洋に抜けるルートとなり約1カ月かかる。カタールからの約2週間、インドネシアからの約1週間と比べ、距離のハンディはどうしても残る。

 インドネシアなど東南アジアからのLNG輸入量は、生産量の減少と各国内の需要が増加しているために急速に落ち込んでいる。福島第1原発事故以降、LNGの需要が急増している日本にとって、中東に次ぐ新たな調達先の確保は喫緊の課題だ。米国のシェールガスが大きな注目を集めているが、調達先を多様化してリスクを分散するためにも、アフリカ産のガスをうまく活用することが欠かせない。


大竹 剛(おおたけ つよし)

1998年、デジタルカメラやDVDなどの黎明期に月刊誌「日経マルチメディア」の記者となる。同誌はインターネット・ブームを追い風に「日経ネットビジネス」へと雑誌名を変更し、ネット関連企業の取材に重点をシフトするも、ITバブル崩壊であえなく“休刊”。その後は「日経ビジネス」の記者として、主に家電業界を担当しながら企業経営を中心に取材。2008年9月から、ロンドン支局特派員として欧州・アフリカ・中東・ロシアを活動範囲に業種・業界を問わず取材中。日経ビジネスオンラインでコラム「ロンドン万華鏡」を執筆している。


大竹剛のロンドン万華鏡

ギリシア危機を発端に、一時はユーロ崩壊まで囁かれた欧州ですが、ここにあるのは暗い話ばかりではありません。ミクロの視点で見れば、ベンチャーから大企業まで急成長中の事業は数多くあるし、マクロで見ても欧州統合という壮大な実験はまだ終わっていません。このコラムでは、ロンドンを拠点に欧州各地、時にはその周辺まで足を延ばして、万華鏡をのぞくように色々な角度から現地ならではの話に光を当てていきます。

 

「現代版茶の本」出版プロジェクトのススメ

クールジャパンへの関心を日本ブランド再生につなげよう

2013年2月25日(月)  御立 尚資

 江戸時代の絵師、曽我蕭白(そが・しょうはく)が描いた「雲龍図」を、既にご覧になっただろうか。

 2012年3月から始まった東京を皮切りに、国内4カ所を巡回している「特別展 ボストン美術館 日本美術の至宝」という展覧会の目玉の1つだ。現存する形でも、ふすま8枚にわたって巨大な目とひげを持つ龍が雲の合間を泳ぐ姿が描かれている。鼻とひげの部分だけでも、ふすま一枚からはみ出す大きさで、その大胆な構図と迫力は、本当に一見の価値がある。

 これまた素人目にもその凄さがひしひしと伝わってくる長谷川等伯の「龍虎図屏風」と併せて見ると、興味をますますかきたてられる。特別展はこの2月は福岡県太宰府市の九州国立博物館で実施中で、4月からは大阪に移動する予定である。

 私自身、昨年の東京国立博物館での展覧会を、何とか時間をひねり出して見てきたのだが、東京だけで来場者は40万人以上を数えたという。

 明治期以来、遠く離れたボストンの地で、よくもまあこれだけのものを集めてきた、という点にも驚かされる。蕭白の「雲龍図」も、明治になって米国人医師のビゲローが来日して収集した約4万1000点のうちの1つだとのこと。

日本美術の海外での人気拡大に貢献した岡倉天心

 ボストン美術館所蔵の日本美術品は約10万点に上るが、ビゲローやフェノロサ(米国の東洋美術史家)とともにその収集に大きな役割を果たしたのが、岡倉天心である。

 岡倉天心(本名は岡倉覚三)は幕末の文久2年(1862年)生まれ。東京美術学校(現在の東京芸術大学)設立に関わり、その後、日本芸術院を開設。この間、横山大観、菱田春草ら日本画の巨匠たちを育てたことでも知られる。

 後にボストン美術館中国・日本部顧問をへて、同部長を務め、収集品の整理、評価、目録化を行うとともに、追加収集の方向性を決定づけたという。

 さて、この岡倉天心、明治39年(1906年)にニューヨークで英文の「茶の本(The Book of Tea)」を出版している。この「茶の本」、現在でも、村岡博訳による岩波文庫版を始め、容易に入手できる。岩波文庫版で本文90ページに満たない薄い本だが、その内容は実に濃い。

 道教と禅、そして茶の関係性。
 唐・宋・明期の茶の進化とその後の日本における展開。
 芸術鑑賞のあり方、あるいは、茶における花、などなど。

 この深みある内容を簡潔に説明するのは、私の手に余る。ご興味のある方は、「茶の本」そのものだけでなく、松岡正剛さんの千夜千冊の中の「茶の本」の項をご覧になることをお勧めする。

 しかし、この薄い本は日本の生活の中にある「茶」について、その世界的歴史的位置付けを説くことから始め、背景にある折り重なった文化的意味の深さ、生活哲学としての茶などを、簡潔に、しかし奥行きを持って語っている。

 こういった内容を達意の英文で書き、当時の英米先進国の読書人層に問うということが、彼の地においての「日本という新興国とその文化」に対する意識を高め、(大げさに言えば)日本のブランドを高める一助になっただろうことは、想像に難くない。

天心とともに日本の哲学や文化を海外に伝えた先達

 以前、内村鑑三の「代表的日本人」(岩波文庫)について書いた回(新中流社会の構築を目指して)でも述べたのだが、こういった「相手の言語で、相手の文化的背景を理解したうえで、相手に理解できる形で」日本とその文化について語る必要性は高まる一方だと思う。

 1894年「武士道」(新渡戸稲造)。
 1900年「代表的日本人」(内村鑑三)。
 1906年「茶の本」(岡倉天心)。

 この先達3人の書いた英書3冊は、日清・日露戦争を経て、国際社会に登場してきた日本という国について、欧米から大きな興味を持って迎えられたという。

 キリスト者である新渡戸、内村の意図と、美術家岡倉の意図は異なっていたかもしれない。しかし、「日本という国には、このような哲学があり、文化がある」ということを、強烈なプロパガンダとして述べ伝えたかったことに変わりはないだろう。

 今でも時々、海外の友人に「若い頃、読んだのだけれど」といって、この3冊のいずれかについて語りかけられることがある。新興国として何とか先進国の仲間入りをしたかった時期に書かれた3冊がいまだに日本を理解する基本図書となっていることは、正直恥ずかしい気がしてならない。

 「MANGA」の棚が海外主要書店で次第にスペースを広げ、村上春樹の新作は必ず平積みになって注目を集める。村上隆のアート作品はオークションの目玉になり、女性歌手のきゃりーぱみゅぱみゅは欧州ツアーを行う。
 
 また、NIGOのBATHING APEのアパレルは、ロンドン、ニューヨーク、香港、上海と世界中で売れている。ゴスロリ(ゴシック&ロリータの略で、ヴィジュアル系バンドのイメージに近いストリートファッション)のネットサイトには、海外からのアクセスが増加し続けている。

 いわゆる「クール・ジャパン」ものに代表される日本の現代文化は、次第に多くの国の人々に受容されるようになってきている。

 何よりも、アジアで最初に欧米に伍す中流社会を作り上げ、その後、長らく経済不振を続けた日本。この国に対して、ここのところの中国の台頭を受け、もう一度日本を再考しよう、きちんと見てみよう、という流れが強まっていることを、国際会議に行く度にひしひしと感じる。

 一方で、残念なことに、経済の相対的地位低下とともに、日本の存在感、ビジビリティー自体は長期低落傾向にあることも事実だ。このところの関心度アップは、それを逆転させるまたとない好機ではないだろうか。

「現代版 茶の本」が突破口の1つになる

 そのための手段の1つが、「現代版 茶の本」だ。この機会をとらえて、日本の文化、哲学、社会の有様を海外の目から見つめ直し、深さを持った形で書籍化して提示する。そして、日本への認知と理解を少しでも高め、日本ブランド再構築につなげていくことで、我々がメリットを享受することを目指す、という趣旨になろうか。

 もちろん、過去の欧米先進国向け英文出版、という形態だけでは現代版にふさわしくない。イスラム圏の人々に向けたアラビア語版、中華圏向けの中国版などなど、複数のバージョンの「現代版 茶の本」が必要だと思う。

 最も大事なのは、書き手だろう。

 お役所が予算を付けて、広報誌的なものを作る、というのとは訳が違う。連綿たる日本の歴史を踏まえたうえで、現代の日本文化、国の有様を深みを持って語れる、ということになると、茶道・華道などの伝統的な生活芸術のトップクラス、文化人類学や美学、はたまた文学といった社会科学の泰斗、といった方々が書いたものでなければ、話にならない。

 そのうえで、読み手側の文化的背景を深く理解したサポーターが、執筆・編集を手伝う、というのが、必要条件だろうか。

 こういう本があってもいいな、と思われる方々。ぜひ、機運を盛り上げ、「書ける方々」の背中を押して、「現代版 茶の本」を何カ国語バージョンで作り上げるために、盛り上げていきませんか。


御立 尚資(みたち・たかし)


ボストン コンサルティング グループ日本代表。京都大学文学部卒。米ハーバード大学経営学修士(MBA with High Distinction)。日本航空を経て現在に至る。様々な業界に対し、事業戦略、グループ経営、M&A(合併・買収)などの戦略策定、実行支援、経営人材育成、組織能力向上などのプロジェクトを数多く手がけている。著書に『戦略「脳」を鍛える』(東洋経済新報社、2003年)、『使う力』(PHP研究所、2006年)、『経営思考の「補助線」』(日本経済新聞出版社、2009年)など。


御立尚資の帰ってきた「経営レンズ箱」

コンサルタントは様々な「レンズ」を通して経営を見つめています。レンズは使い方次第で、経営の現状や課題を思いもよらない姿で浮かび上がらせてくれます。いつもは仕事の中で、レンズを覗きながら、ぶつぶつとつぶやいているだけですが、ひょっとしたら、こうしたレンズを面白がってくれる人がいるかもしれません。
【「経営レンズ箱」】2006年6月29日〜2009年7月31日まで連載


05. 2013年2月26日 02:07:39 : xEBOc6ttRg
【第267回】 2013年2月26日 真壁昭夫 [信州大学教授]
アベノミクスで「給与引き上げ論」は盛り上がるか?
新浪社長の決断と現実の間に横たわる“乖離”の正体
ローソン新浪社長の年収引き上げ発言
「給与引き上げ論」は高まるか?

 産業競争力会議のメンバーであるローソンの新浪剛史社長は、20歳代後半〜40歳代のグループ社員の年収を、平成25年度に平均3%上げると発表した。具体的には、年2回の賞与に上乗せする形で平均15万円を支給するという。今回の新浪社長の決断もあり、「給与引き上げ論」が高まりそうな気配も出ている。

 ただ、これによって我々の給料が上がるかといえば、そう簡単な話ではない。何故なら、給与を払う側の企業にとって、業績が改善して従業員の給料を上げられる状況にはなっていないからだ。

 2013年3月期のわが国の主要企業(除く金融・電力)の業績は、前年対比で約3%の改善といわれている。この数字を見ると、確かに徐々に企業業績は回復しているとはいうものの、そのペースは緩やかであることがわかる。

 企業は業務活動を行って稼ぎ出した収益の一部を、従業員に給与という格好で分配する。経済学では、従業員に対する分配の割合を労働分配率という。通常、企業の業績が良くなって儲けが増えと、従業員に分配される給料は上昇することになる。逆に、企業業績が悪化すると、給与がカットされたり、従業員の整理=リストラが実施される。

 企業の儲けが増大しない状況下で給与を上げることは、企業にとってコストアップ要因となり、最終的には企業がつくる製品の価格競争力が低下する可能性が高い。製品の競争力が落ちると企業の収益状況が悪化し、最悪のケースでは、企業自身が淘汰を受けることにもなりかねない。

 そのため、アベノミクスの政策だからといって、企業が無理をして給与を上げてみても、一時的な現象になる可能性が高い。問題は、給与引き上げに見合った企業業績の改善がないと、いずれ給与水準は下がってしまうことだ。給料の引き上げは“ぬか喜び”だったことになる。

賃金は景気の遅行指数
給与引き上までには時間がかかる

 一般的に、景気が良くなって企業の儲けが増えると、我々の給料も上がる可能性が高まる。しかし、景気の回復と給与の引き上げには、一般的に時間的な差=タイムラグがある。

 通常、景気が回復して企業業績が改善する傾向が顕著になった後、6ヵ月から1年程度の時間を経て、ようやく給与の引き上げが実現するケースが多い。給与の上昇は景気回復から遅れることから、給与所得水準は景気の遅行指数(ラッギングインディケーター)と呼ばれている。

 実際の企業のことを考えてみると、経営者は業績が上向いてきたといって、すぐに基本給与の水準を引き上げてくれるものではない。業績回復の初期段階では、まず様子を見ながら、少しずつ残業時間を増やすなどの手法で対応する。

 そして徐々に、業績回復にしっかりした手ごたえを掴むようになると、まず業績に連動して動かせる賞与を嵩上げすることになる。今回のローソンの新浪社長の判断も、30代までの社員の賞与を上乗せする手法を採るようだ。

 ところが賞与は、年に1回、ないし2回支給されるのが一般的であるため、企業業績の回復過程から最低数ヵ月遅れることになる。

 また企業が、従業員の基本給の水準を引き上げるにはさらに時間を要する。基本給与は、業績連動で一時金の格好で支給される賞与と違って、一度決められるとそう頻繁に変更できるものではない。そのため、基本給与を引き上げることはコストアップ要因になるため、企業としてそれなりの覚悟が必要だ。

 特に、わが国には年功序列や終身雇用制などの労働習慣が残ってるため、企業経営者は、基本給与の改定にはより慎重な態度をとらざるを得ない。そうした慣行の少ない欧米に比較して、わが国の給与水準の動きのペースは遅いことが一般的だ。

円安でもすぐに効果は出ない
企業業績の回復は緩やかに進む

 もう1つ、我々が貰う給与が上がりにくい理由は、企業業績の回復が緩やかなことだ。昨年11月以降、アベノミクスの後押しもあり、円安が進んだことで株価は堅調な展開を示している。

 そうした株価の動向を見ると、「我々の給与は上がってもおかしくない」と思いがちなのだが、その裏付けとなる企業業績の回復が、それほど進んでいない現実がある。実体経済は、単月ベースで見ると昨年11月が底になり、徐々に回復しつつあるとはいうものの、実はそのペースは株価が示している速度よりもはるかに緩やかなのである。

 わが国の主要大手企業の2013年3月期の決算予想を集計しても、経常利益の対前年伸び率は約3%程度だ。前年比3%台の伸び率は、有体にいうと、収益はほとんど横ばいという状況である。個別の業界を見ても、米国市場の立ち直りと円安効果で大幅改善が見込まれる自動車などを別にすると、総じて回復のペースは極めて緩やかだ。

 たとえば建設機械の業界は、米国のシェールガス革命の影響で世界的に鉱山開発にブレーキがかかっていることもあり、収益状況の大きな好転は見込めない。その他、鉄鋼など素材関連分野も、厳しい決算を余儀なくされると見られる。

 こうした状況を考えると、安倍政権の賃上げの呼びかけに対して、二つ返事で応えられる状況ではないのが実情だ。ある素材系メーカーの経営者は、「従業員の給与を引き上げてやりたい気持ちはあるのだが、足もとの状況を考えると、ない袖を振るわけにはいかない」と苦しい胸の内を明かしてくれた。

 おそらく多くの企業経営者は、彼と同様の心境だろう。簡単に給与が上がることを期待することはできない。

アベノミクスへの期待と実態は乖離
円安傾向に変化が生じれば足踏み状態に

 足もとの経済状況を冷静に考えると、アベノミクスの追い風もあり、景気回復に対する期待の盛り上がりに比べて、実体経済の回復の速度がかなり遅れている。つまり、期待と実体に明確な乖離ができているのである。

 特に、円安傾向が進んでいることを背景に、わが国の株価は堅調な展開を示している。2月20日現在の日経平均株価は1万1468円で、昨年11月13日の底値8681円から約29%も上昇している。

 この背景には、昨年11月以降、海外投資家、特にヘッジファンドなどの投機筋が、円売り・日本株買いの大規模なオペレーションを始めたことがある。

 ヘッジファンドなどは、わが国の貿易収支の赤字傾向が定着しつつあることや、米国の景気回復に伴う米国の金利水準の上昇などの要素を見込んで、円が弱含みの展開になると見た。そこで円売りのポジションを作ったのだが、それと同時に、円安が進むとわが国の主力輸出企業の業績が回復すると予想した。

 その結果、彼らは円売りと同時に日本株買いのポジションをつくった。彼らの投資戦略は今のところ大当たりで、中には過去3ヵ月間で年率30%を上回る収益を上げたところもあるようだ。

 問題は、企業業績の回復の実績が、膨らんだ期待に追い付くことができるか否かだ。ドル・円の為替レートが90円を超える水準で落ち付いていると、この先6ヵ月から1年の間に大手輸出企業を中心に企業の業績は徐々に回復するだろう。

 安倍政権の補正予算の執行も、強力な追い風となるはずだ。企業業績も徐々に回復すると、我々の給与も少しずつ上がってくると見る。

 しかし、ユーロ圏の信用不安問題が再燃したり、アベノミクスに対する期待が剥落するようなことがあると、円安傾向に変化が出る可能性もある。その場合には、わが国企業の業績回復が期待に追い付かず、結果的に景気回復が足踏み状態になることも考えられる。

 そうしたケースでは、我々の給与が上がることは考えにくい。給与上昇の期待は、はかない“夢”で終わることになるだろう。

 

【第265回】 2013年2月26日 加藤 出 [東短リサーチ取締役]
ハト派傾向の強いFOMCでも
増加する緩和策の“出口”発言
「中央銀行が直面している最も困難な問題は、クレジット市場の過熱である」。スタインFRB理事は2月7日の講演で、FRBのいわゆるQE(量的緩和策)の影響によって一部の金融市場でバブル的な価格高騰が起きていることを強く懸念する発言を行った。

 REIT(不動産投資信託)の残高は2010年末の1520億ドルから、12年末は3980億ドルへと急成長している。しかし、REITの価格はFRBの金融引き締めで短期金利が上昇したり、FRBがQEで購入したMBS(住宅ローン担保証券)を市場に売却し始めたら、急落する恐れがある。逆に数年後の出口政策を慎重にやり過ぎると、今度は市場の過熱がさらに激しくなってしまう。

 FRBの現在の金融緩和策は、長期にわたる低金利を約束している。このため金融業者は利回りを求めて、より長い期間のリスクや、信用リスクを積極的に取るようになった。また、金融規制の強化によって、金融業者は規制の網をかいくぐる「ループホール」を作ろうとして、金融革新に取り組んでいるとスタインは警告した。

 バーナンキ議長は金融緩和の継続に前向きであり、輪番制のFOMC投票メンバーも今年は昨年よりもややハト派傾向が強い。FOMC声明文にQE3の縮小を示唆する文言が載るのはしばらく先だろう。だがスタイン以外にも、緩和策の弊害を心配するFRB幹部の声が最近増えている。

 プロッサー・フィラデルフィア連銀総裁は「マーチン元FRB議長は、パーティが盛り上がり始めたところでパンチボウル(酒の入ったボウル)を取り上げるのが金融政策の仕事だとよく語っていた。しかし、今は皆が気持ちよくなるように、夜更けまでパーティを続けさせ、パンチボウルは取り上げないことを金融政策が約束している」と述べた。

 ブラード・セントルイス連銀総裁は、FRBは長期債を大量に購入してきたため、金利上昇期にFRBのポートフォリオに巨額の損失が発生すると語った(FRBのスタッフ、および米議会予算局も同様のシミュレーションを最近公表している)。ピアナルト・クリーブランド連銀総裁も「資産買入策のコスト増大と便益の縮小により、労働市場がさほど顕著に改善しなくても、FRBは同政策をやめることになるだろう」と話している。

 日本では、次期日銀総裁に対して、「FRBに見習って、大胆で、次元が異なる緩和政策を行うべきだ」という声が多い。しかし、そのFRBは今後、超緩和策の副作用と格闘することになるだろう。

 (東短リサーチ取締役 加藤 出)


 

【第314回】 2013年2月26日 原田武夫
すでに「通貨戦争」の対日宣戦布告が発せられた?
円安に沸く日本が気付かぬリスキー・ゲームの内実
――原田武夫・原田武夫国際戦略情報研究所CEO
アベノミクスへの期待から、顕著な円安・株高傾向が続き、金融マーケットは活気を取り戻している。しかし、外交官として日本と諸外国との駆け引きの現場を見続けてきた原田武夫・原田武夫国際戦略情報研究所CEOは、円安に沸く日本に警鐘を鳴らす。現在の円安トレンドは、欧米が仕掛ける「通貨戦争」の前哨戦であり、日本は円高反転を狙うリスクの高いゲームに巻き込まれてしまいかねないというのだ。日本経済復活への期待を抱く企業や投資家は多いと思うが、現在起きている状況を多角的に分析し、バランス感覚をもって今後の戦略を練ることも必要だ。原田氏の持論に耳を傾けてみよう。

「知る者は言わず、言う者は知らず」
円安・株高で浮かれてばかりでいいのか


原田武夫(はらだ・たけお)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)代表取締役(CEO)。東京大学法学部在学中に外交官試験に合格、外務公務員T種職員として入省。12年間奉職し、アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を最後に自主退職。情報リテラシー教育を多方面に向けて展開。自ら調査・分析レポートを執筆すると共に、国内大手企業などに対するグローバル人財研修事業を全国で展開。学生を対象に次世代人材の育成を目的とする「グローバル人財プレップ・スクール」を無償で開講。著書に『ジャパン・シフト 仕掛けられたバブルが日本を襲う』(徳間書店)などがある。
「知る者は言わず、言う者は知らず」

 先日、東京・芝にある芝大神宮を参拝したときに境内で見つけた言葉だ。マーケットと外交、そして国内外情勢の狭間を歩いている私からすると、まさに「そうだ」と大きく頷いてしまう言葉だと思った。

 だが哀しいかな、忙しい日常を過ごしているとどうしてもこのことを忘れてしまう。そして「その発言者が学者として有名だから」「マスメディアが皆、その発言者を取り上げているから」といった理由で、世の中で大勢を占めている議論を鵜呑みにしてしまう。

 特に欲に駆られているときが一番危ない。やれアベノミクスだ、株高だ、円安だなどと大騒ぎしているときこそ、危険なのである。

 一見すると非常に複雑に見える金融マーケットと国際情勢。これら2つに多くの日本人が苦手意識を持つ共通の理由がある。それはどちらも「イロハのイ」を学校で習うことはないという点である。

 そのため、どうしても安易に「専門家」と称する人たちの言葉に頼ってしまう。そうすることによって、失敗してしまってからでは遅いのである。大切なことは、金融マーケットにしろ国際情勢にしろ、「己の頭」で考えること、これしかない。

 しかもマネーは、経済大国・日本にとって基本中の基本であるし、島国ニッポンにとって国際情勢を踏まえないわけにはいかないのだ。

 もっとも「己の頭」で考えると言っても、何も複雑なことをいきなり詰め込めば良いというわけではない。まずは「基本中の基本」を押さえること、これをすべきだ。

 今をときめく「リフレ派」と呼ばれるアカデミズムの住人からは、「とんでもない床屋談義」と言われるかもしれないが、マーケットは閉じられた条件の下で温室培養された実験室ではない。まずは誰しもが肯定しない、しかしそれでいて否定することもできない「事実」から考え始めること。ここから私たちのリテラシー磨きの第一歩が始まる。

知っていそうでよく知らない
為替マーケットの「イロハ」

 たとえば為替レート。第二次安倍晋三政権が成立してから「円安、円安!」とかまびすしい。渋る日本銀行を抑え込んで、いよいよ量的緩和に我が国が踏み込んだから円安になり、インフレになり、全ての問題が解決するような楽観論がメディアを席巻している。

 しかし、そうしたユーフォリア(熱狂的陶酔感)の中だからこそ、「いや待てよ……」と考えることが必要なのだ。

 まず為替マーケットにおける「イロハのイ」を列挙してみる。するとこうなる。

●為替マーケットにインサイダー規制はない

 とても単純なことだが、為替マーケットにインサイダー規制は存在しないのである。この点は商品マーケットについても同じだ。「為替マーケットでインサイダー? いったい何のこと?」と思われるかもしれない。この場合のインサイダーとは、金融・通貨政策を決定する政府当局及び中央銀行と密接な関係にある者たちのことを指している。

 たとえば、政策金利について考えてみよう。政策金利とは、その名のとおり政策的な配慮から設定されている金利のことであり、これを引き上げるとその国の国債が買われ、当該国債を買うためにその国の通貨が買われていく。「高金利国の通貨は買われる」という原理原則だ。

 ということは、政策金利の引き上げ・引き下げが間もなく行われることを知っている人物(=インサイダー)は為替マーケットで予め仕込んでおくことが可能なのだ。しかもそうしたとしても、一切インサイダー規制には引っかからない。これが株式とは全く違うところだ。

●金融メルトダウンからの脱出のため
主要国全てが輸出増進を図っている

 私は先月、香港で行われたアジア金融フォーラム(AFF)に出席したが、その際、ランチで基調講演をしたローレンス・サマーズ元米財務長官が語ったこんな言葉が忘れられない。

「米国、欧州、そして日本に中国。全ての主要国が今、輸出主導で景気を良くしようとしている。しかしいったい誰が買うのでしょうか、それだけのたくさんの輸出品を?」

今や世界中が使いたくて
仕方がない「伝家の宝刀」

 至極単純な事実なのだが、私たちがどうしても忘れてしまうことが1つある。それは「富」とは結局のところ、開放経済の下においては国内でつくったものを国外で売り、国外から得て来るものだということだ。

 だからこそ、政府は貿易政策を決めて物を盛んに輸出しようとする。あるいは関税政策を決めて、逆に富が外に出ていかないようにする。攻める側からすればそうした壁をつくられては困るので、「自由貿易論」を展開する。守る側はそれでは困るので、関税引き下げには応じつつも、事実上の壁である「非関税障壁」を密かに築き上げる。

 すると、攻める側はこれを「規制だ、構造だ」と騒ぎ始め、「構造改革こそ善」という議論を展開する。その繰り返しなのである。

 輸出で有利な立場に立つためには色々な手段があるが、最も典型的なのが自国の通貨を相手国の通貨との関係で切り下げてしまうことだ。いわゆる「近隣窮乏化策」というものである。今や世界中が「この伝家の宝刀を使いたくてたまらないと」いった衝動に駆られている。

 最も安易な手段だからなのであるが、通貨切り下げ競争が始まるとこれを防ぐ側との間で「自由貿易体制」が崩れてしまい、しまいにはヒト・モノ・カネの国境をまたいだ移動はまかりならんということにまでなってしまう。これでは「戦争」の一歩手前なのであって、これは絶対に避けなければならない――。


米欧間で激しく通貨切り下げ競争が行なわれてきたことがわかる
(C)SBIサーチナ株式会社
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 そんなわけで、2010年11月に行われたG20ソウル・サミットの「首脳宣言」では、こうした競争的な通貨切り下げを行わないという約束が明文化されているのだ。

キャリア外交官時代に見た
外国に従い易い日本人の性

「これをやってはいけない」と外国に言われ、ルールが決まってしまうと素直に国内法を整備し、これに従うのが日本人の性(さが)だ。私はキャリア外交官として、外交の現場でそんな哀しい性(さが)を何度となく見てきた。

 逆に言えば、我が国がそうして決まった金科玉条であるはずの国際ルールを真正面から破るというとき、我が国はかなり追い詰められているはずなのだ。まさに「不退転の決意」であって、もはや逃げ道がないから正面突破だ、ということになる。

 しかし米欧は全く違う。何が違うのかと言うと、ルールをつくりながら平然とそれを破るのだ。むろん、表向き政府当局は「ルールの遵守」を謳い、実際そう行動する。だがそのルールにとって「想定外」の出来事の発生をあえて招き、それによる反射的効果によってルールが破られてしまうような事態を創り上げるのだ。

 このとき、米欧諸国はいずれもこう言うはずだ。――「私たちこそ被害者だ。ルールを守りたかったが、想定外の出来事が生じてしまった。遺憾だが致し方ない」

ルールを守った者だけが馬鹿を見る?
「円バラマキ論」に納得してしまう日本人

 結果、ルールを墨守してきた我が国だけが馬鹿を見ることになる。国際ルールを押しつけられた政府当局は、独りだけでその責任を負いたくはないので、都合の良い「アカデミズムの大家」を持ち出す。

「円バラマキ論」をテーマとした「リフレ派」と呼ばれる識者たちが、政府による「円安誘導」のときに駆り出されるのはそのせいだ。

 そして私たちは、新聞やラジオ、そしてテレビ、雑誌や書籍でこうした「エライ先生方」の議論を毎日のように目にし、耳にするので、ついつい何も考えずに思ってしまうのである。「確かにそうだな」と。

 仮にこれが塗炭の苦しみを私たち国民に強いるものであっても、全くもって同じなのである。結果、私たち日本人の富は海の向こうへと次々に流れ出すのだ。そしてまた新たなゲームが米欧によって始められ、我が国がカジノに誘い込まれていく……。

 この2つの、誰も否定することのできない「事実」を重ね合わせたとき、いったいどんな近未来が見えて来るのだろうか。

 昨年暮れ、民主党の野田佳彦前総理大臣が衆院解散総選挙を宣言し、安倍晋三総裁の率いる自民党の優位が報じられるにつれて、為替レートが円安・ドル高/ユーロ高へとぶれて行ったことは記憶に新しい。

 安倍晋三総裁は「安倍晋三総理大臣」となり、そこでの政権公約であったデフレ脱却のため、量的緩和を強力に推し進める政策を実際に執行し始めた。為替レートがますます円安へとぶれていったことは、読者もご承知のとおりである。

 むろん、安倍政権のお歴々は鼻高々といった感じである。だが、そのことに大いなる不安を感じるのは私だけだろうか。

 なぜならば、国際ルールを押しつけられ、ギリギリまで追い詰められた我が国がいきなり逆襲に出るとき、外交の現場で米欧がいつもとる手があるからだ。それは「まずは我が国に勝たせる」というやり方だ。

緒戦はわざと勝たせるものの……
太平洋戦争を「通貨戦争」に当てはめる

 このことが一番わかりやすいのが、太平洋戦争の緒戦であった「真珠湾攻撃」である。1941年12月8日に行われたこの攻撃によって、旧日本軍は大勝。国内世論は「勝った!勝った!」と色めき立った。

 だが、そのわずか半年後に行われた1942年6月初旬の「ミッドウェー海戦」で、我が国の連合艦隊は大敗北を喫することになる。様々なミスが重なった結果であったが、虎の子の空母を数多く撃沈された我が国は、制空権・制海権を共に失い、その後3年間にわたり苦しい戦いを強いられることになる。そして原爆2発を投下されるに至って、「敗戦の日」を迎えたのである。

 緒戦で勝利した旧日本軍がとった手段、それは機動部隊による奇襲戦法だった。つまり、空からの戦いで我が国は勝利したわけであるが、ミッドウェー海戦ではまさにその「空からの戦い」で大敗北を喫したのである。同じやり方を今度は米軍からされて、日本は負けたといっても過言ではない。

 このことを、現在進行中の我が国を取り巻く「通貨戦争」に当てはめてみるとどうなるか。安倍政権はいわば猛烈な口先介入を行い、円安誘導を行った。政府関係者はこれを「デフレ脱却のための措置を講じ、その意思を表明しただけで、為替操作には当たらない」と繰り返している。

 だが、こうした詭弁が厳しい国際場裏で一切通用しないことは、その後の、とりわけ欧州要人たちの発言からも明らかだ。1月に開催された世界経済フォーラム(ダボス会議)で、メルケル独首相は「円安に対する懸念」を表明。続いて2月には欧州議会の場でオランド仏大統領が「欧州も為替政策を執行していくべきだ」と発言。

 これに続けて欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁も、「急激なユーロ高進行をウォッチしている」と言い出したのである。これで何も起きない、起こされないと考えるのがおかしい。

G20の共同声明による縛り
ほくそ笑む米欧の「次の一手」

 外交の現場感覚から言ってまず考えられるのが、2月15日にモスクワで開かれた、G20財務大臣・中央銀行総裁会合の「共同声明」による縛りだ。

「円安展開は日本も為替操作によるものではないと説明している。疑わしいが、しかし一応は信頼しよう。いずれにせよ、G20ソウル・サミットの首脳宣言に立ち返って、競争的な通貨切り下げは止めることをお互い確認しよう」と話し合いが行われ、ホッとした我が国は二つ返事でこれに応じた感がある。

 だが、これを見てほくそ笑む米欧には、「次の一手」がある。何らかの「市場外」「想定外」の出来事が発生するのを看過し、それが延焼していくのを慌てふためいたふりをして事実上放置するのである。

 この「市場外」でありかつ「想定外」の出来事はむろん、ドル安・ユーロ安へと為替レートを反転させる。急激な円高展開を前にして、これまでの凱旋気分から我が国の状況は一変。「いったい何が起きているのかわからない」と阿鼻叫喚の事態に陥るはずだ。

 ここで言う「市場外」「想定外」の出来事が何になるのかが、1つにはカギを握って来る。中東における本格開戦なのか、イタリアなど南欧諸国のデフォルト・リスク拡大なのか、はたまた米国債の格下げ騒動なのか、あるいはこれら全部なのか。想像は尽きず、予め決め打ちすることは不可能だ。

 とりわけ気になるのが、今週27日から始まる、2002年にデフォルトとなったアルゼンチン国債の取り扱いを巡るニューヨーク控訴審裁判所での公判の行方だ。その債務交換を拒むヘッジファンドによる提訴を受けての公判だが、仮にこれでアルゼンチン政府が敗訴となれば、そのデフォルトへの急転換が現実味を帯びてくる。

 なぜこれが重要なのかというと、かつての「メキシコ債務危機」と構図がよく重なるからだ。アメリカの強力な後押しで経済開発協力機構(OECD)に加盟したメキシコには当時、「新興国」として投資が殺到した。しかし1994年になって、同政府発表の主要な経済データが何と虚偽であったことが判明。怒涛の勢いで資本の逃避が始まり、12月には「メキシコ債務危機」となった。

 市場ではこれを受けて、ドル安へと急展開した。なぜならば、「メキシコが危機ならばアメリカに飛び火する」と考えられたからである。やや遅れて発生したこの急激な円高は「テキーラ効果」と呼ばれたが、1995年4月19日に「1ドル=79円75銭」にまで到達。当時の自社さ政権は大混乱に陥った。

 日本政府は武村正義大蔵大臣(当時)をワシントンに急遽派遣した。「何とか円安に戻してほしい」と懇願する武村蔵相を出迎えたロバート・ルービン米財務長官(当時)は、涼しい顔で「我々には何もできない」と言い切ったのである。その結果、円高局面は持続した。かの有名な「慇懃なる無視」(ビナイン・ネグレクト)政策である。

メキシコの先進国クラブ入りは早い
でも、アメリカの圧力だから……。

 一連の出来事を「単なる偶然だ」と思われるかもしれない。しかし私は入省したての1993年当時、OECDを担当する国際機関第2課に所属し、「メキシコ加盟」のプロセスをつぶさに見ることのできる立場にいた。

 そこで省内関係者たちは、異口同音に「メキシコを先進国クラブ入りさせるのは早過ぎるのではないか。だがアメリカからの圧力だから……」と述べていたことを、今でもはっきりと覚えている。その後起きたことに、アメリカの密やかだが強烈な国家意思を感じた我が国政府関係者は、私1人だけではなかったと思う。

 ここで浮かび上がる「構図」を、今のアルゼンチンに当てはめてみるとどうなるか。つい10年ほど前にデフォルトになったはずのアルゼンチンは、今や「G20」の一国として処遇されている。当然、そこにはアメリカを中心とする西側諸国が盛んに投資しているが、その一方でこの2月には国際通貨基金(IMF)より消費者物価指数を巡る改竄疑惑を指摘され、データの再提出を命じられているのだ。

 そこに来て、ニューヨークにおける訴訟騒動なのである。しかも厄介なのは、かつてデフォルトになったアルゼンチン国債を大量に持っていると考えられるのが、歴史的にも同国と関係性の強いイタリア人たちだということだ。

 そのため、仮にアルゼンチンが再度デフォルトとなれば、アメリカだけではなくイタリアにも「飛び火」するのである。まさに「ドル安・ユーロ安」のダブル・ショックへの導火線だ。

 仮にそうなった場合、ダンディな出で立ちで先のG20会合に登場し、メディアの注目を集めた麻生太郎財務大臣が、米欧に急派されるはずだ。しかし、そこで米欧のカウンターパートたちはこう言い切るかもしれない。――「G20モスクワ会合での合意を踏まえれば、残念だが人為的に円安への誘導はできない」。

 そうなれば、まさにビナイン・ネグレクトの再来だ。今度は「タンゴ効果」とでも呼ばれる中、強烈な円高が事実上放置されることになる。

すでに金融マーケットにおいて
「対日宣戦布告」が発せられた

 だからこそ、「疑いようのない2つの事実」に立ち返る必要がある。そして歴史的に、米欧が我が国をどう処遇してきたのかを振り返ってもらいたい。

 そうすれば、こうした米欧による無言の大戦略を知り、あるいは察したインサイダーたちが今、為替マーケットで「円安の続伸」ではなく「円高への急転換」にこそビッドしていることを悟るはずなのだ。そして気付くのである。「2月15日にG20の場で、金融マーケットにおける対日宣戦布告が発せられたのだ」と。

 むろん、予算委員会もたけなわの今、急転直下の展開に慌てふためくであろう安倍政権は、さらなる緩和措置を講じ、それが歴史的なバブルへとつながっていくはずだ。

 そう、この「日本バブル」への自らの追い込みこそ、米欧の狙いなのだとすれば、輸出主導による景気回復の宛先人が一体誰なのかも、すぐにわかるのである。間違いなくそれは我が国であり、だからこそアメリカは環太平洋経済連携協定(TPP)への安倍政権のコミットメントを強く求めているわけだ。

「知る者は言わず、言う者は知らず」――私たち日本人1人1人が「言わずとも知る者」にようやくなったとき、この「日本ゲーム」には終わりが訪れるのかもしれない。


06. 2013年2月26日 14:05:51 : xEBOc6ttRg
通貨戦争と国際政策協調のどちらが優れているのか
以下は、Barry Eichengreenの最近の論文”Currency War or International Policy Coordination?(※リンク先PDF)” (January 2013) の全訳です。あまり分量のあるものではないので全訳にしましたが、1ポストとしては長めです。最後の結論部が全体をサマライズしていますので、時間のない方はそちらから読まれてもいいかと思います。また、参考文献リストは省略しましたので、要すれば原文を参照願います。

バリー・アイケングリーン
カリフォルニア大学バークレー校
2013年1月

1.はじめに(Introduction)

「通貨戦争」は消えることのないミームになろう。この用語はブラジルの財務大臣グイド・マンテガが2010年9月にアメリカの量的緩和に対して使ったのが始まりである。マンテガのこの時の批判は、デフレを回避し、不景気にある経済を刺激するためのFEDの非伝統的金融政策は近隣窮乏化策であるというものだった。そうした政策は新興市場へのキャピタルフローの津波を解き放ち、その結果インフレ、通貨高、競争力の低下、たちの悪い資産価格の上昇圧力を引き起こした。2012春にはブラジル大統領ジルマ・ルセフがこの用語を引いて財務大臣の批判に重ねた上に、彼女は同年にホワイトハウスを訪れた際もそれを口にした。2012年末と2013年初に日本銀行が資産の大量買入れを発表し、新たに就任した安倍晋三首相が日本銀行のインフレ目標値の引き上げをしようとした際には、おもに日本の近隣アジア諸国から、不法な通貨戦争を引き起こしているとの批判が出た。[1]

これらの批判は政策についてどのような含意を持っているであろうか。第一には、おそらくはブラジルの指導者の頭にあったように、これらの非伝統的金融政策は先進国の経済の回復と成長を加速させるという目標を達成するのには役に立たない一方、新興市場にマイナスの波及効果があるため、取りやめるべきというものだ。もう一つは著しく異なっており、非伝統的金融政策は先進国経済にプラスの影響があるとともに、他国にマイナスの波及効果を及ぼすというものだ。後者の場合には、アメリカのような国々にとって、非伝統的政策を取りやめるのがファーストベストの手段であるかは定かではなくなる。むしろ他国がマイナスの波及効果を中和するように政策を調整するのが最適解ともなりうる。

しかし、それぞれが一方的行為をとる国々がファーストベストのグローバル均衡を達成できる状況というのは限られている。この論点については、今や多くなった国際政策協調に関する論文(Hamada 1976, Cooper 1984, Meyer, Doyle, Gagnon and Henderson 2002)のおかげで広く知られている。非金銭的な波及効果が引き起こす別の経済的歪みが存在し、自らの政策によって互いに影響を及ぼすほど各国が個々もしくは集団で十分に大きい場合において、一方的行為及び反応は最適な結果をもたらさない場合がある。この場合には国際的に強調した相互的な政策調整である国際協調が、パレート最適よりも優れた結果をもたらすことができる。ここでさらに、国際協調から得られる利得は大きいのか小さいのかという問いが出てくるが、多くの学術論文は後者の方を示している。

こうした今日における議論には、利子率がゼロに近づき国の金融政策が近隣窮乏化と批判され、国際政策調整による利得だけが最後に残されたと解されている1930年代における例と類似点がある。[2]
 問題は、この従来的な解釈が実際のところ1930年代に起こったことを正確に捉えているかどうかということであり、したがって当時の教訓は今日においても適用できるのかという点である。

2.過去の状況(The Story Then)

Eichengreen and Sachs (1985, 1986)では、歴史的事実と2国間マンデル・フレミング・モデルを使用し、1930年代における貨幣・為替政策の国内及び国際的な影響を分析している。このモデルにおいて、貨幣拡張の国内へ影響は多くの経路を通じて波及している。すなわち、実質資産価格(トービンのq)を上昇させたことによる投資の刺激、デフレを抑えたことによる債務負担と利益圧迫の軽減、将来のインフレ期待の上昇による家計消費の将来から現時点への移転、実質為替レートの減価をもたらすことによる純輸出への刺激、国内製品へのさらなる需要増を引き起こしたのである。

国際比較による証拠と国内事例研究も同様に、顕著な国内的な効果の存在を確認している。金本位制度を止めた国においては、その国の通貨が減価し、国内の貨幣供給と信用が増加したことによって、金本位制度を継続した国よりも早く大恐慌から回復している。それらの国による金本位制停止決定の時期と景気回復の時期には強い相関がある。

この事実は当然ながら、伝統的もしくは非伝統的な手段による貨幣拡大は金利がゼロ近傍である状況においては無効であるという見解と相反するものである。したがって、貨幣政策がなぜ流動性の罠のような状況において効果があったのかは精確に考えるに値する。これには3通りの説明がある。第一の説明は、各国の中央銀行は我々が現在「先行き見通し(forward guidane)」と呼んでいるものを実施したというものである。彼らは貨幣と信用を拡大し、平常化の条件を満たしたと思われるまで自国通貨建ての金価格を引き上げることによって、低金利を続けることにコミットした。金本位制度からの離脱は、このコミットメントを示すための断固としたもっとも重要な方法であった。これは貨幣制度における劇的で永続的な変化とみなされたのである。[3] アメリカにおいては、フランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領はデフレ期待を克服するために金の購入を行い、(その当時の状況においては)健全なレベルのインフレ期待に変化させた。イギリスにおいては、イングランド銀行が、正常な状態に回復したとみなされるまで金利を2%に据え続けることをコミットする、「安い貨幣」と呼ばれる政策を実施した。[4]  スウェーデンでは、政府及び中央銀行が金本位制の代わりに明示的な価格水準目標を採用した。日本においては、政府がリフレ的な貨幣政策を公的支出の急増によって支え、それはさらに新たな政策レジームを強調するものであった。これら全ての国において、依然として金本位制度を採用している国々の通貨に対する減価は、スヴェンソン(2003)が言うところの将来価格の上昇への望まれた期待(the desired expectations of a higher future price level)を導くために有効であった。

第二の説明は、貨幣政策の変更は資産価格に対してプラスの効果があり、したがって投資に対しても同様の効果があったというものである。資産価格は貨幣制度の変更に対して即座に反応した。投資とともに工業生産も資産価格の変化にすぐさま反応した。当時も現在と同様に、中央銀行が資産価格を持続不可能なレベルにまで押し上げることについては「バブルを膨らませる」として批判があったが、とりわけ株価が非常に低水準にまで落ち込んでいることを鑑みれば、そうした批判を真面目に受け入れるのは難しい。ともかく、投資と産出が破滅的な低水準にまで落ち込んだ時期において、この資産価格効果が少なくとも穏やかかつ有益な効果を持っていたことに疑念の余地はほとんどない。

第三の、そして最も議論の余地のある説明は、競争力に対する実質為替レート効果である。金本位制度を廃止して通貨の減価に向かった国々は金本位制度に留まった国に関連する輸出を拡大することができた。ある国の輸出の拡大はそれ以外の国における経済問題の悪化という犠牲の上で成立するという理由から、この経路は議論を呼んでいる。実際のところ金本位制度を廃止した国々が1929年時点のレベルにまで輸出量を回復させるのは1930年代半ばであったという事実は、少なくともこれが双方向の効果を持っていたということを反映している。

もし1930年代における非伝統的金融政策の自国に対する影響が明らかにプラスであったのであれば、それを相殺する効果が存在するために全体的な国際間の波及効果については明らかではない。直接的な実質為替レート効果による国際間の波及効果は、上述したようにマイナスだった。為替レートが減価した国における輸出力強化は、その国の貿易相手国の各国に対する輸出競争力を悪化させたが、この波及効果の大きさは国内製品と外国製品の代替性の大きさに依る。対照的に、貨幣と信用の増加による国際間の波及効果はプラスであった。通貨減価国からの資本流出(もしくは少なくともより早期の資本流入の減少)は、その他の条件が一定である場合には他国の貨幣・信用市場の状態を緩め、デフレ期待を和らげることに寄与した。[5]  しかし、輸出競争力効果が優位を占めた可能性は高い。計測作業と歴史研究の双方が全体としての波及効果はマイナスだったことを示唆している。

異なる全ての国々が同一のデフレショックを受けた場合において、最適な対外政策は貨幣拡大と貨幣拡大同士、通貨減価と通貨減価同士を対応させることである。イギリスの主要な貿易・金融相手国が多くを占める24カ国は、ポンドに合わせて自国通貨を下落させる対応をとった。それ以外の国においては、歴史を鑑みるに、政治とイデオロギーがこのファーストベストの対応策に頼ることを遅らせ、場合によっては除外することさえした。後者の国のうちの一部は、需要を自国の生産者へ向かわせるように仕向けた資本及び貿易規制によって対応する立場をとった。[6]  この対応は、自国とその相手国の双方においてファーストベストの対応策よりも劣っていた。[7]

協調のとれた国際的対応(international coordinated response)と当時呼ばれ、それ以降そう呼ばれ続けることになった対応策はよりそれよりは良い結果を招いたことだろう。しかし、各国経済を脅かす対照的なデフレ貨幣ショックに際しては、一国における一方的なファーストベストの対応の合計が世界的な最適解でもあった。明示的な調整はそこに至るのには必要ではなかった。数少ない例外を除いて、各国はこうした政策のセット(金に対する自国通貨の減価が全てだが、普遍であった)に1936年までには辿り着いた。

協調した対応がより優れていたという見地をとるためには、もう一つの別の主張を付け加えておく必要がある。一つ説得力のある主張は、各国通貨が減価していた1930年代における調整されてない方策は、金融市場とその参加者を混乱させるような不確実性を作り出し、経済状況を悪化させたというものである。金の価格をとりわけ全ての国における中央銀行による金買い入れを通じて上昇させるという国際合意によって、この不確実性は回避されたであろう。政策の不確実性がマクロ経済においてマイナスの結果をもたらしたという証拠はいくらかあるものの、その効果が大きかったという証拠は一つもない。[8]  これは、国際政策協調による利得は存在するもののそれは比較的小さいとする現代の主張と整合的である。

さらに、歴史的、政治的、そしてイデオロギー的な理由から国内における金価格を一方的に引き上げることを望まなかった国々は、国際協調イニシアティブによってそれを行うことも望まなかった。大恐慌への調整された国際的政策対応の調整を目指して1933年にロンドンで開かれた世界経済会議での議題は、アメリカのドル建て金価格の引き上げを防ぐことであり、各国がアメリカと同様の政策を行うというものではなかった。会議においてルーズベルト大統領は、自国の一方的行為の自由を制限されることを防ぐために、はっきりと「爆弾発言」を行ったのである。[9]

3.現在の状況(The Story Now)

2008年から始まった非伝統的金融政策の効果に対する学問的な合意はあまりない。理由の一つには、あまりにも最近の出来事であるため完全に解釈するには早すぎるということがある。一部の研究(例えばKapetanios,
Mumtaz, Stevens and Theodoridis 2012, Gagnon, Raskin, Remarche and Sack 2011, Swanson 2011)は国内におけるプラスの効果を述べているが、他の研究は懐疑的である。

Haberis and Lipinska (2012)は国際間における効果に注目している。彼らはゼロ下限にある二国経済ニューケインジアン・モデルを採用している。彼らのモデルにおいては、国内製品と他国製品の代替性が高い場合には、自国が拡張的な貨幣政策をとればとるほど、他国の政策当局が抱えるインフレの安定化と産出ギャップとの間のトレードオフが厳しくなる。これは、自国の緩和的な政策が他国通貨の増価をもたらし、それが自国製品との代替性が高い他国製品に対する支出を減らすことにつながるからである。それとは対照的に、両国の製品の代替性が低い場合には、支出変化効果(expenditure-changing effects)が支出切換効果(expenditur-swiching effects)よりも優位になるため、自国の拡張的な政策によって他国の政策当局は経済安定化が行いやすくなるという恩恵を受ける。 尚、現在の環境における非伝統的な貨幣政策の国際間における効果を把握することを意図したこの分析結果は、1930年代におけるそれを調べたEichengreen and Sachs (1985)の結果と細部に至るまで類似している。

1930年代と異なっている点は、今日においてはショックの形が遥かに非対称的であるという点である。先進国においてはデフレショックとそれに対する政策対応によって金利がゼロ下限にまで下がった一方で、新興市場ではデフレ圧力やデレバレッジは少なく、高い成長率を維持した。これら新興国においては、インフレ率や資産価格、そしておそらくは成長率も不安になるほど高い。[10]  片方の国家グループのみにおいて金利がゼロ下限にあったのであり、先のモデルにあった二国がともに同じ状況にあったのではないのだ。

厳格なマクロ経済的見地から言えば、後者のグループにおける最適な一方的対応は財政緊縮だった。[11]  資本流入は、国内消費、とりわけ建設のような利子率に敏感な活動を顕著に増加させる。また、緊縮的な財政政策はこの支出の変化を抑え、資本流入による資産価格の上昇圧力も限定的なものにしただろう。[12]  さらにはインフレ圧力に対抗するとともに、各国の利子率に下落圧力を加えて先進国間での利子率格差の縮小することによって資本流入を減少させ、国内消費と資本流入双方に対する需要を減退させることによって輸出業者に不利に働く通貨の上昇圧力を抑えたことだろう。

しかし、1930年代の時と同様に、歴史的、イデオロギー的、政治的な理由が重なることによってこのファーストベストの方法を取ることは妨げられた。景気が過熱している際に公共支出を削減するような政治的合意を行うことは難しいし、増税に関しては景気が過熱していようといまいと難しい。実際、大量の資本流入を相殺したいと考えていた小国が行うべきだった多量の財政的な調整は、政治的には実現不可能だった。そうした財政的調整がずば抜けて実行しやすい政治体制や制度の下にあったチリでさえ、先進国の政策による影響を完全に打ち消すのに十分なまでに柔軟に財政政策を発動することは出来なかった。[13]

理論上は、国際的な調整によってより優れた結果が得られたかもしれない。ファーストベストな一方的対応に対して、幾分穏やかな先進国による量的緩和と、幾分穏やかな新興市場国政府による財政引き締めは、双方の国々にとってより優れた結果をもたらしたであろう。先進国の生産者たちはどちらの場合においても同量の需要の増加に直面したであろうが、この場合においては新興国市場からの需要が国際的な調整による場合よりも多いのが唯一の違いである。また、新興国市場が直面するやっかいな資本流入が減少する量も両ケースにおいて同じだっただろうが、この場合においては先進国の量的緩和が比較的穏やかなものであるがために、新興市場国政府は多量の財政的調整を行うという政治的コストを回避することができる。

しかしながら、現実においてはファーストベストな世界的最適解を国際政策調整によって達成するのは不可能であった。なぜなら、この場合においてさえ新興市場国政府が行うファーストベストな政策である財政的調整は実現不可能なほどに大きく、議論されることはなかったからである。この状況は、政治的な理由によって最適な対応が排除されたという点で、1930年代における国際政策調整の失敗と相似している。

その代わりとして、1930年代と同様に新興市場はセカンドベストな方法をとったが、それら資本流入の規制と国内的な影響の緩和の両方もしくはどちらか一方であった。これらの多くは限定的な効果しかないか、望まない副作用があるかのどちらかであった。通貨の増価への対処に苦慮する国内生産者を保護するための貿易制限は、1930年代におけるそれと同様、世界的な貿易制度にリスクをもたらした。海外からの預金を銀行が貸し出しに回す能力を制限するために導入されたより厳しい規制は、ノンバンクを通じた海外資金の迂回によって部分的に相殺された。海外資本の流入を減少するための国内利子率の引き下げは、貨幣政策の目的との間に混乱を生じさせ、インフレを低下させることに対しては何の効力もないばかりか、その逆方向に大きく働いた。自国通貨の増価を防ぐための外国為替市場での介入は、不胎化された場合には限定的な効果しか持たず、非不胎化された場合には利子率の下落など先と同様に望ましくないインフレ的な効果をもたらした。

これらの方策の中で最も議論の余地があったのは資本規制であり、またもや1930年代の場合と類似している。30年代のそれと比べると今日におけるそれは行政的なものというよりは価格ベースのものが多い。すなわち、あからさまな禁止措置をとるよりも、外国人による証券購入に対して課税を行う形をとるのである。しかしながら、こうした規制については、規制に対応するためのコスト(compliance cost)が生じるという有力な批判がなされた。この資本規制の効果については今も議論が続いている。Baumann and Gallagher (2012)によるブラジルにおけるケースの分析は、規制が流入資本の総量を変化させることよりも、それをより長期の投資に向かわせるという性質の変更に効果を発揮したことを示している。その一方で、Forbes, Fratzscher, Kostka and Straub (2012)は、ブラジルはより長期の投資についても制御したとみなしており、資本流入量に対して一定の効果をもたらしたと結論している。しかしその場合においてもコストはあった。すなわち、政策当局による市場の開放度に対するコミットメントについての疑心を高めることにより、望ましい形での海外からの投資、例えば直接投資を減少させた可能性がある。Klein (2012)は、金融市場が比較的発達していない国において、資本逃避が起こる可能性が少なかったり、長期間規制を実施している国であるために実効的な監視措置や報告制度、実施のためのインフラを立ち上げるために必要なサンクコストを負担する可能性が高いという場合、こうした規制は資本流入を防ぐのにより効果的であったと結論している。

こうした措置よりも国際協調に軍配をあげるような事例は他にもある。その他のマクロ健全性政策(macroprudential policy)やマクロ経済政策と同様に、資本規制は適切な国際協調がない場合には国内政策決定者が予期しえない波及効果を持つ場合がある。この波及効果についてはその大きさはおろか方向についても共通理解は存在せず、国際調整を妨げる。Ostry, Ghosh and Korinek (2012)は、一国による資本流入の規制実施はその他の国において資本流入を増加させる可能性があるとし、そうしたキャピタルフローの方向転換の危険性を強調している。しかしForbesらは、一国による規制の実施が、その他の国においても外国資本の流出と流入の双方のハードルを上げることよって初めに規制を実施した国を後追いすることを招き、そのためそれらの国に対する資本流入が減少するという模倣効果を見出している。この二つの事例において波及効果はそれぞれ逆方向に働いており、国際協調に対して持つ意味も異なっている。波及効果の徴候や大きさについてより優れた証拠や合意は存在せず、IMFが想定したような資本規制に対する多国間の枠組み(IMF 2012)は、実施にあたっては困難に直面するはずだ。

4.結論(Conclusion)

不景気に直面している中央銀行による近隣窮乏化政策と主張されるところの通貨戦争は、1930年代においても今日においても経済問題を悪化させたとして広く批判されている。経済に問題のある国々の政策当局は、単に近隣国への問題の押し付けに過ぎないそうした方法を取ることを差し控えるべきだったのであり、その代わり協調的な方策をとるべきとされた。この場合、両時代の経験から同様の含意を見出している。実際、1930年代の歴史は現代における通貨戦争に警鐘を鳴らすものによって広く呼び合いにだされた。

本論文における分析は、過去のケースは今日のそれよりも若干異なるのであって、1930年代の教訓を今日において適用することについてはより慎重になる必要があることを示している。渦中にあった国々が本質的に対称のデフレショックに襲われた1930年においては、今日通貨戦争とされているものは解決策に含まれるものであったのであり、問題ではなかった。全ての国においてリフレ政策が必要とされていたのである。当時の制度下においてこれは、金に対する、ひいては金本位制度に留まった国の通貨に対する自国通貨の減価という形で達成されたのである。実質的には近隣窮乏化為替調整と呼ばれたこれらの政策とそれらが可能にした政策イニシアティブにより、この世界的なリフレは1930年代後半まで続いた。金の国内価格の上昇についての国際協調は、不確実性や国際的な非難を制限するという意味においてより良い結果をもたらしただろうが、結果の差異の大小については議論の余地がある。デフレへの対処に最適なファーストベストの貨幣政策により注力し、貿易・資本規制といったセカンドベストの実施を控えることによってさらに結果は改善されたであろうが、厳しい政治的、イデオロギー的、歴史的制約によっていくつかの国はファーストベストの方法をとることができなかった。こうした制約は実効的な国際協調の達成も不可能なものとした。

現在において、アメリカ、ユーロ圏、イギリスそして日本の各国が再度おおよそ類似したデフレショックに襲われた際もやはり、それらの通貨を下落させる量的緩和が最適な対称的方策であった。そして同様にファーストベストな貨幣政策に注力していればより優れた結果となったのであり、金融緩和に関する国際協調も不確実性を減らした可能性があるが、その効果の大きさについてはこれまた同様に議論の余地がある。

今日において異なっているのは、非対称的な影響を受けた国々という第二のグループが存在することである。新興市場はデフレよりもインフレに悩まされており、通貨や資産価格、そして場合によっては成長率も高過ぎることが問題なのであり、弱過ぎるのではない。こうした国におけるファーストベストな対応は財政引き締めであった。先進国における緩和的な貨幣政策と新興市場国における財政引き締めに関する国際協調はより良い結果をもたらしたであろうが、その効果の大きさについてはまたもや議論がある。需要超過や過剰な景気過熱、高すぎる成長率、過大評価された通貨、インフレに対して最適なファーストベストな財政的対処に注力し、貿易・資本規制といったセカンドベストの介入策を控えることによって、この時もまたより良い結果がもたらされただろう。そしてこれもまた同様に、厳しい政治的制約がファーストベストの方策に全力を注ぐことを妨げたのであり、それが国際協調を実現不可能なものにしたのである。

原注1. 2013年1月、ロシア中銀総裁第一補佐であるAleksey Ulyukaevは当時「我々は現在、おそらくは過度に感情的な呼ばれ方で「通貨戦争」とされている非常に深刻な、私が思うに挑戦的な行動の入り口に立っている」と発言している。 [↩]
原注2. 「世界経済百科(The Encyclopedia of the World Economy)」によれば、「近隣窮乏化政策とは、他国の厚生を犠牲にして国内経済厚生の増加を狙うものである。近隣窮乏化政策の古典的な事例とされているものは、ある国家が国内の産出と雇用を増加させるために自国通貨の減価を行い、それによって産出と雇用の問題を他国に押し付けるというものである。これは1930年代の世界的な景気後退にあたって複数の国が、輸入に対する需要を減退させるとともに輸出に対する需要を高めることで国内産出を押し上げる政策、つまりは自国通貨の減価による産出と雇用の増加を求めた際に起こった。これによりそれ以外の国では景気後退がより深刻なものとなったが、これがさらにはそれらの国々による通貨の減価という対抗措置を招き、各国は通貨減価競争の連鎖に陥ることとなった。」とされている。また、この項目は「1930年代の近隣窮乏化政策使用の解決は、ブレトンウッズ体制によって制度化された国際政策協調によってもたらされた」と締めくくられている(http://world-economics.org/40-beggar-thy-neighbor-policies.html)。いずれ分かることだが、伝統的な知識はなかなか滅びない。 [↩]
原注3. Temin and Wigmore (1990) 及び Eggertsson (2008) はこの期待経路を重視している。 [↩]
原注4. これは Nevin (1955) 及び Howson (1975)において述べられている。 [↩]
原注5. その他の条件が一定でないため、この効果は常に表れるものではない。特にドイツとその近隣ヨーロッパ諸国の間の政治的緊張はアメリカに向かっての資本逃避を招いた。(Romer, 1992) [↩]
原注6. この繋がりについてはEichengreen and Irwin (2010)において示されている。 [↩]
原注7. ファーストベストの対応が根本的な歪みを最も直接的に対象としている状況(今回のケースにおいては、貨幣政策はデフレを最も直接的に対象としている)においてのファーストベストとセカンドベストの政策的対応の対比については、少なくともBhagwati and Ramaswami (1963)にまで遡る長い研究の歴史がある。 [↩]
原注8. Mayer and Chatterji (1985) 及びArchibald and Feldman (1998)を参照のこと。 [↩]
原注9. 火に油を注ぐような言動によって自国の代表団を青ざめさせたのに加えて、ルーズベルトは外交的・政治的な優雅さがリフレ政策を採用することよりも優先されることがあってはならないということを明確に示した。したがって、この「爆弾発言」が新たな貨幣レジームに対する大統領のコミットメントを打ち立てるプロセスにおいて重要な部分を占めていたと考えることが可能である。 [↩]
原注10. 中国の成長率が2010年には11%にも達したことを思い起してほしい。 [↩]
原注11. 資本流入に対処するための代替アプローチの効果、コスト及び費用についてはEichengreen (2011)において議論した。 [↩]
原注12.原注:Chin, Filardo, He and Zhu (2011)は、アメリカによる量的緩和が新興国において顕著な株価の上昇と債券スプレッドの低下を招いた事実を述べている。Fratzscher, Lo Duca and Straub (2012)ではこの点を一般化している。IMF (2011)ではイベントスタディーを用いて、アメリカによる一回目の量的緩和が新興市場の通貨と資産価値に対して顕著な効果をもたらしたことを示している。 [↩]
原注13.チリの政治と制度についてはVelasco (2011) and Frankel (2012) 、2011年における資本流入についてはBaumann and Gallagher (2012) を参照のこと。 [↩]


 

将来の経済学
以下はBarry Eichengreen, “Our Children’s Economics” (Projet Syndicate, Feb.11.2013)の訳です。

東京にて―経済学者たちは良い危機[1]を迎えてこなかった。なぜ金融危機を経済学者は予想できなかったのかというエリザベス女王の問いは有名だが、女王はおそらく彼らに期待しすぎていたのだろう。しかし、多くの経済学者たちの研究は的外れだったという考えは広く共有されており、もっと恐ろしいことに経済・金融危機をなんとかしようとする政策決定者に対してなされた経済学者たちの助言の多くはほとんど役に立たなかった。

将来世代はもっとうまくやるだろうか。この間のダボス世界経済フォーラムにおいて私が携わったものの中で一番興味深かったのは、20年後の経済学理論の教科書の内容を想像するというグループワークだった。参加者からのアイデアや論点は尽きることがなく、これらは既存の教科書が触れてはいないが、20年後にはきっと注目を浴びるであろうものであった。

例えば、経済学と心理学にまたがった領域の研究をしている経済学者たちは、効率的市場仮説といわれるものが成り立たないことの理由を人間の性格的短所に求める、行動金融学がよりメジャーな存在になるだろうと主張した。その一方で歴史経済学者たちは、将来の経済学の教科書において、昨今の出来事はより長期の歴史的記録として必ず記載されるものになるだろうと言っていた。とりわけ、現在経済学を勉強している学生たちはこれによって経済学制度の進展をより真剣に捉えることになるだろう。

開発経済学者たちは、彼らとしては無作為試験とフィールドワークがより注目されるようになるだろうと述べた。応用計量経済学者たちは、高まる「巨大なデータ」の重要性とともに、20年後までには大量のデータセットのおかげで我々の経済政策決定の理解が有意に高まることを指摘した。

しかしながら、結局のところこの青写真は現在の経済学とほとんど変わるところがないものであった。20年後の教科書は今日の最先端の研究結果を盛り込み、現在のものよりもより洗練されているかもしれないが、しかしながら根本的な構造やアプローチにおいて今日のものと違ったものにはならないだろう。

言い換えれば、会議の結論は、今後20年にあるのは1890年代のマーシャルによる体系化や1930年代のケインズ革命の焼き直しにしかならないだろというものだった。彼らの時代における経済学と比べると、現代の経済学は洗練され、より発展した学問である。そしてその他の洗練された学問と同様に、革命的な変化が起こるのではなく斬新的に進歩するというのである。

こうした推測はほぼ間違いなく正しくない。これは、全ての画期的なブレークスルーは既に起こってしまったと主張する科学者たちが陥ったのと同様の誤りだ。彼らがしばしば言うのは、蒸気機関やトランジスタほどの革命的な変化はおこらず、科学技術は革命的な変化が起こるのではなく斬新的に進歩するというものである。そして漸進的変化が小さいものである限り、生産性の成長は低く、「大停滞(Great Stagnation)」を引き起こすだろう。

実際には、科学技術の歴史はこうした悲観的な考えを何度も否定してみせた。我々は次に起こる画期的な変化が何であるかを知ることはできないが、人類の長い歴史はそうした変化が(少なくとも)あと1回は起きるということを示唆している。

同様に、我々は次に起こる経済分析における革命がどのようなものであるかを知ることはできないが、1世紀以上に及ぶ現代経済学による思索は、それが起こるであろうことを示唆している。

こう考えると、20年後の経済学の教科書は今日のそれとは非常に異なったものになるだろうということになる。ただ我々はそれを知ることができないというだけで。

確かに、少なくとも我々の知っている経済学の教科書と同じようなものが20年後も存在するのではないかと思う人もいるかもしれない。今日において、経済学は権威がかったお決まりの理論が書かれた著名な経済学者(大抵は男)による教科書を使って教えられている。知識は、その教科書に書かれたものが教師によって解釈されたうえで教授されている。

これはもちろん、新聞が元来ニュースを届けてきた方法と同じものだ。編集者や出版社が出来事を収集・分析し、彼らが作り上げた新聞が購読者のドア口まで届けられた。しかし、ここ10年間でニュース産業には紛れもない革命がおこった。いまやニュースはウェブサイトやウィキ、ブログのコメント欄によって収集・拡散されている。言い換えれば、ニュースはますます一般人からもたらされるようになってきている。人々は、編集者たちに頼るよりも、自らがニュース配信者になりつつあるのだ。

それと似たようなことが、人々が自らの意見とテーマについての直接の経験を持つ分野の教科書、特に経済学のそれにおいて起こるだろう。教科書は、教員や学生が内容の修正・追記を行うウィキのようなものになる。抑え役としての著者の役割は残るかもしれないが、教科書は知識の源泉ではなくなり、著者も内容をコントロールすることはなくなる。

出来上がるものは酷く乱雑なものになろう。しかし、経済学者はより多様でダイナミックになり、結果として我々の子供たちの世代の経済学はより健全なものになるのだ。

訳注:オバマ政権の大統領首席補佐官(当時)であったRahm Emanuelが発言した”Don’t waste good crisis”(=良い危機を無駄にするな)という発言が元ネタと思われます。


アメリカの財政政策は危機的ではない BY MARK THOMA
1月23日にEconomist”s Viewに掲載されたMark ThomaのAmerica’s Fiscal Policy is Not in Crisisの訳。誤訳の指摘お願いします。

ピーター・オルザグが言うには:

医療費がアメリカの本当の問題: 医療費はアメリカが直面している長期間にわたる財政的課題の核をなしている。…これが最近のこれらの費用の減速がとても激しくなっている理由だ。…

良い知らせは医療費に関する最新事情は多くの評価よりも良いということだ。費用の伸びは劇的に鈍化している。…

昨年、連邦議会予算事務局は次の75年間で歳入と歳出のギャップがGDPの8.7%に達するだろうと推定している。それ以来、法定収入は増加し、改善された基本予算の見通しはことによるとそのギャップを7.5%にまで減らしている。

医療費の伸びの抑制を成し遂げれば、さらにGDPの2.5%を減らせて、長期の財政の穴はGDPの5%になる―ワシントンで現在論議されているどんな政策変更よりも大きな効果だ。…


マーティン・ウルフによると:

アメリカの財政政策は危機的ではない: …連邦政府は破綻しかかってなどいない。むしろ強く速く締め付け過ぎだ。財政状況も最も緊迫した経済課題というわけでもない。それより回復を促進することのほうがずっと重要だ。より長期的な課題は、医療費を抑えながら歳入を増やすことだ。その間、人々はただ落ち着いてほしい。


ところで、ブッシュ時代、どこに赤字タカ派[1] がいたのだろう? 以下がマーティン・ウルフの「むしろ強く速く締め付け過ぎ」が意味していたことだ:


[ケヴィン・ドラムより]
赤字タカ派はこのことを知ってほしくないだろうが、私たちの目の前にある最大の問題は赤字ではなく、職なのだ。

deficit hawk。政府の予算を抑えこんで赤字を減らそうとする人々のこと。 [↩]

 


金融崩壊の10ステップ回復プラン BY ALAN BLINDER
1月19日にNew York Timesに掲載されたAlan S. BlinderのFinancial Collapse: A 10-Step Recovery Planの訳。誤訳の指摘お願いします。

ヘーゲルはかつて「歴史から学ぶことができるただ一つのことは、人間は歴史から何も学ばないということだ。」と書いた。実際には人々はきちんと学ぶと思う。問題は人々は忘れてしまうということだ―時には驚くほど素早く。現在それは起きているように見える―2008年から2009年にかけての経済崩壊からの回復は完全とは程遠いというのに。

この忘却の証拠はどこにでもある。国民は危機の原因に対する興味を失ってしまい、もちろん多くの人はなんとかやっていくだけで精一杯だ。後悔知らずの金融業者は「過剰な」規制について駄々をこね、改革にむけてのあらゆる段階で戦うためにロビイストに金を払っている。保守党は「大きな政府」を嘆いて自由放任主義的な無規制状態に戻りたがっている。銀行の自己資本と流動性についてのより高い国際基準は遅れている。例を挙げればキリがない。

その代わりに、私たちが金融危機について覚えておかなければいけないこと―危機に至るまで厚かましくも背かれてきたものばかりだ―を金融の十戒としてまとめさせてほしい。

1. 人々は忘れるということを忘れるな

ティモシー・F・ガイトナー財務長官は昨年、危機前には「極めて大きな危機の記憶はなく、国家が巨大なリスクの積み上げを許してしまったときに何が起きうるかの記憶もなかった。」と悔やんだ。彼は正しかった。異端の経済学者ハイマン・ミンスキーは知っていたように、投機市場が極端な方向へ向かうのは普通のことだ。ミンスキーが信じていた基本的な理由は象と違って人々は忘れるということだ。良い時が続くと投資家はそれがずっと続くと期待してしまう。バブルが弾けるとき、彼らはいつも驚くのだ。

2. 自主規制に頼るな

金融市場の自主規制は残酷にも矛盾した表現だ。私たちには動物を見守る飼育係が必要だ。政府はこの機能を「市場の規律」(もう1つの矛盾表現だ)や信用格付け機関のような営利企業にアウトソースしてはいけない。2010年のドッド・フランク法は完璧ではないが、それは良い方向に規制を変更する可能性を秘めている。しかし、その改革のほとんどは未だに段階的に導入され、ルールが策定されているとして、業界(国内も海外も)はそれらとあらゆる方法で戦い、しばしば優勢となっている。

3. 株主を尊重せよ

公開企業の取締役会は株主の利益を保護することになっていて、部分的にはそれは最高経営幹部の行動を監視することによってなされる。彼らは雇われているのであって皇帝ではない。危機前の間、あまりにも多くの取締役がその責任を忘れ、彼らの会社とより広範囲の国民の両方が有害な職務放棄に苦しんだ。今彼らは覚えていられるだろうか? 一部はそうしておけるだろう―しばらくの間は。しかし業績不振による取締役への制裁はごくわずかだ。

4. リスクマネジメントを向上させよ

危機の苦い教訓の1つは、リスクテイキングに向かうとき、あなたの知らないものがあなたを傷つけるかもしれないということだ。部下にリスクマネージャーの意見を無視して好き勝手させ、欲を追求して怖れを捨てる方向にバランスを偏らせているCEOが多すぎるのだ。リスクマネジメントシステムの抜け穴を塞いでおく主な責任は最高経営幹部と取締役会にかかっている。しかし連邦準備制度理事会と他の規制当局は、監視するのをやめてはいけない。

5. レバレッジを少なくせよ

過剰なレバレッジ―借り入れ超過としても知られている―は2008年に激しく崩壊したトランプタワーの主な土台の1つだった。給料もらいすぎな投資の「天才」たちはレバレッジを使って通常の投資から並外れた収益を生み出した。銀行家や投資家(住宅購入者はもちろんのこと)は、大きなリスクを引き受けずに高い収益を稼げるという誤った考えを持っていた。しかしレバレッジはアルコールのようなものだ: 少しなら健康にいいが多すぎると死ぬかもしれない。銀行の仮死体験に加えて来るべき高い資本要件への備えは銀行を一旦しらふにしている。しかし彼らはどんちゃん騒ぎに戻るのを待ち構えているのだ。

6. シンプルにしておけ、バカ

現代の金融は複雑性から利益を得ている、なぜならまごついた顧客はより儲けになるからだ。しかしこれら法外な金融商品はすべて経済になにか良いことをしているのだろうか? Fedの元議長であるポール・A・ヴォルカーはかつて、ATMが過去最近で唯一の有益な金融イノベーションであると述べた。彼は大げさかもしれないが、言うことには一理ある。債務担保証券に対するクレジットデフォルトスワップやその他の混合物を誰が必要とするのだろうか?

7. デリバティブを標準化し取引所で取引せよ

デリバティブは危機の中で汚名を着せられた。しかしそれらが複雑でなく、透明性があり、十分に担保されていて、大資本のカウンターパーティーによって流動的な市場で取引され、かなり規制で縛られていれば、デリバティブは投資家のリスクヘッジを手助けしうる。もっとも危険なのは、個別化され、不透明で、「相対取引」のデリバティブだ―それは顧客よりディーラーの興味を惹きつけるのにおあつらえ向きだ。ドッド・フランク法は、デリバティブの一部をさらなる標準化と取引所での透明な取引に向けて推し進めたが、十分ではない。業界はできるだけ多くのデリバティブが日光にさらされずに取引されるよう精力的に動いている。

8. バランスシートに載せておけ

危機の前、いくつかの銀行はどれだけレバレッジをかけているかを隠すために重要な金融活動をバランスシートに載せなかった。しかしお話にならないものがそこにあった。危機で、いくばくかの最高経営幹部は銀行のバランスシートに載っていないものについておぼろげにしかわかっていなかったことを明らかになった。これら「宇宙の支配者」たちは彼ら自身の帳簿を支配できていなかった。ドッド・フランク法は 「資本要件は会社のオフバランスシートないかなる活動をも考慮しなければならない」と明示している。それはオフバランスシートな実体を安全でほとんどないものにするために歓迎すべき一歩だ。今、規制当局はルールを機能させるべきだ。

9. 倒錯報酬を見直せ

トレーダーが成功すればとてつもない報酬を提供し、失敗してもほんの軽い罰で済ませることは、彼らが過大なリスクを取ることを助長する。最高経営幹部や取締役は推定報酬が損失に変わるときに「回収」払いをするべきだ。彼らがそうしないのなら、政府の不器用な手が必要になるかもしれない。

10. 消費者には用心せよ

いくじなしが継続的に金を巻き上げられていれば、彼らは地球の公平な取り分を相続できない。私たちが危機で学んだことは、うぶな消費者を金融略奪者から守るのに失敗すると経済が丸ごと蝕まれるかもしれないということだ。その驚くべき教訓を忘れてはならない。消費者金融保護局がそれを制度化するべきだ。

マーク・トウェインは、歴史はそれ自体では繰り返さないが韻を踏む、と警句を発したと言われている。将来にも金融危機は起きるだろうが、次のものは前回のものの丸写しではないだろう。しかしながら、これらの掟が適用できないほど違うということはないだろう。金融の歴史は韻を踏むが、私たちはすでに拍子を忘れかけている。

 


 


「私は誰でしょう?」 BY DAVID BECKWORTH
以下は、David Beckworth, “Who Said This?”(Macro and Other Market Musings, October 30, 2011)の訳。

今日のエントリーでは1990年代に日本経済が直面していた問題をテーマとして取り上げているとある論文から文章をいくつか引用してみようと思う。文章中の「日本」を「アメリカ」に置き換えると、マーケット・マネタリストの誰かが書いた文章ではないかと思うかもしれない。ともかく、まずはこの文章。
先に示唆しておいたように、金融システムやその他の領域における重要な構造問題が日本の経済成長を阻害する役割を果たしていることを否定するつもりはない。しかし、現在日本経済は同時に総需要の不足にも悩まされていることを示す説得的な証拠がある、と私は考えている。金融政策を通じて名目支出を刺激することができれば、日本が抱える困難な構造問題のうちいくつかのものはもはやそれほど困難なものとは思えなくなることだろう。


スコット・サムナーっぽく見えるが、先に進めば進むほど一層そのように感じられることになろう。次の文章では、マーケット・マネタリストがよく持ち出すあの主張、「低金利は実のところ金融引き締めのサインであるかもしれない」との主張が展開されている。

主に名目金利が極めて低い水準にとどまっている事実に基づいて、現在の日本においては金融政策は大きく緩和されているんだ、と語られることがある。ここまで読み進めてくれた読者の方々は、貨幣史にも十分通じておられて、そのために(金融緩和の証拠として)名目金利の水準を持ち出してくるような主張など真剣に聞き入れることがないようにと願うばかりである。大恐慌期を思い出してみられるとよい。大恐慌期を通じて名目金利は多くの国々でゼロ%近辺であったが、大恐慌期といえば貨幣の大規模な収縮とデフレ圧力に見舞われた時期である。つまるところ、低水準の名目金利は金融緩和の証拠であるだけではなく、デフレが予想されている証拠・金融引き締めの証拠であるかもしれないのである。


次の文章ではちょちょいのちょいといった感じで流動性の罠が軽くあしらわれている。

現在日本が置かれている貨幣的な(金融面での)状況(monetary conditions)のために通常型の公開市場操作の効果には制約が課されることになるというのは確かである。しかしながら、この先論文の残りの部分でも説明するように、流動性の罠に嵌っていようがそうでなかろうが、金融政策には名目総需要を刺激する上で大きな力が備わっているのである。日本経済を苦しめている原因に関するこれまでの診断に従えば、10年にわたるスランプを終焉させる上で金融政策は大いに役立ち得るのである。


引用は次の文章で最後になるが、この文章では日本銀行の政策目標に関する曖昧さが生み出す不確実性に対して批判が加えられている。この批判はマーケット・マネタリストがFedに対して向ける批判−Fedは明確な政策目標を欠いており、そのためにマクロ経済に対して一層の不確実性がもたらされている−に不気味なほど似通っている。

しかしながら、現在の日本銀行の政策が抱える問題はその曖昧さにある。「デフレ懸念の払拭が展望できるまで」(“until deflationary concerns subside”)という文言で意味されているのは正確には何なのだろうか? これまでにクルーグマン(1999)をはじめとしたその他の論者から、日本銀行はインフレ目標の宣言(採用)を通じて政策目標の数値化に踏み込むべきであり、それも高めの(インフレ率に関する)目標値を設定すべきである、との提案がなされている。そのような提案が実現されることになれば、民間の経済主体に対して金融政策の目標に関する一層の情報が伝達されることになるという意味で、助けとなることだろう。特に、今後数年間にわたって3〜4%のインフレ率の達成を目指す旨が宣言されることになれば、日本銀行がデフレレジームから十分な余裕を持って離れる意図を持つばかりか、さらには過去8年のうちにゼロ%ないしはマイナスのインフレが継続したことで生じた「物価水準のギャップ」(“price-level gap”)を埋め合わせる意図も持ち合わせていることが鮮明になるだろう。


言い換えれば、ここでこの論文の著者は、日本銀行は総需要の回復を促すために物価水準目標(price-level targeting)を採用する必要がある、と主張しているわけであり、その目的に照らして考えると、ここで論文の著者は名目GDP水準目標を支持する議論を展開してもいる、と見なすことができよう。しかしながら、この論文の著者はマーケット・マネタリストではない。その正体はFRBの現議長ベン・バーナンキ(Ben Bernanke)であり、この論文は彼がプリンストン大学の教授時代に執筆したもの(pdf)である。バーナンキ議長が名目GDP水準目標を採用すべき理由を探しているのだとすれば、彼自身のこの論文こそがその理由を提供している。バーナンキ議長には、ゆっくりと椅子に腰掛けて、論文の中の「日本」をすべて「アメリカ」に置き換えた上で、この論文が現在のFedに対してどのような意味合いを持っているかをじっくりと考えてもらいたいものだ。

 


 


「ルーズベルト政権の失態」 BY DAVID BECKWORTH
以下は、David Beckworth, “Maybe FDR Should Get More Blame”(Macro and Other Market Musings, September 11, 2011)の訳。

ルーズベルトと財務省による平価切り下げと金の非不胎化(金の流入を不胎化しない)の決定がいかにして1933〜1936年の堅調な景気回復につながったか、という点に関してはこのブログでも何も言及してきた話である。この一連の政策行動は初めての量的緩和プログラム(邦訳はこちら)と呼ぶことができ、少なくとも1935年までは民間部門で依然としてデレバレッジ(債務の圧縮)がすすんでいた事実にもかかわらず、劇的なまでの効果を発揮したのであった。

1936〜1937年に景気後退が発生したことでそれまでの景気回復に向けた動きは頓挫することになった。1936〜37年の景気後退はちょっとした財政引き締めと大規模な金融引き締めのためにもたらされた、というのが通念となっており、特に後者(大規模な金融引き締め)はFedが預金準備率を引き上げたために生じた、と通常よく語られるところである。ところが、ダグラス・アーウィン(Douglass Irwin)は最近の論文(pdf)でこの通念に疑問を投げ掛けている。彼によると(邦訳はこちら)、景気後退をもたらした主たる原因は金融引き締めだというのは確かだが、金融引き締めが生じたのはFedが預金準備率を引き上げたためではなく、むしろ財務省が金の流入を不胎化する決定を行ったからだ、というのである。アーウィンはこう語る。

1937-38年の景気停滞があそこまで深刻であったのは、財政政策の引き締めや預金準備率の引き上げのせいではなかった。(その原因は、財務省が決定した金の不胎化政策にあったのであり、;訳者挿入)金の不胎化に伴って生じた金融ショックは決して穏やかなものではなかった。金不胎化政策の結果として、マネタリーベースの成長率が単に(プラスの範囲で)数%ポイント低下したというのではなく、その成長率はゼロ%にまで下落することになったのである。しばしばFRBに対して大恐慌下における稚拙な政策運営を叱責する非難の矢が向けられるものであるが、こと1937-38年の景気停滞下において生じた金融ショックに関しては政策上の誤りの責任は財務省にあったのである。


これは驚くべき発見である。というのも、1933〜1936年の景気回復をもたらした主たる決定の一つ−金の流入を不胎化しないとの決定−が同じルーズベルト政権下で財務省により反転させられたというわけだからだ。言うなれば、ルーズベルトは自らの行動によって引き起こされた景気回復の息の根を自らの手で止めた、というわけだ。ニューディール政策のパッケージの中には市場の働きを歪めた政策(例えばNRA;米国復興局)も含まれていた事実にアーウィンのこの発見もあわせて考慮すると、ルーズベルト政権の評価は玉虫色となるのかもしれない。とはいっても、物価水準目標を伴った量的緩和プログラムに踏み出すだけの勇気ある行動を採ったことに対しては正当に評価せねばなるまい。水準目標を伴った量的緩和がうまく働く可能性をルーズベルトは現に示したのだから。

(追記)このエントリーを書いていて、2007〜2009年にかけてブロゴスフィア(ブログ界)で断続的にたたかわされた「ニューディールの遺産」をめぐる熱い論争のことを思い出した。その際に−2009年初頭のことだが−私はその熱い論争を1枚の図に要約しようと試みたことがあった。以下がその図である。ご笑覧あれ。


 


 


イノベーションの本当の源は高賃金 BY TIM HARFORD
1月11日にFinancial Timesに掲載された、Tim HarfordのWhat really powers innovation: high wagesの訳。誤訳の指摘お願いします。

500年前、世界の最富裕国―西欧諸国―は1人あたりで最貧国のたった2倍だけ豊かだった―ざっと比較して現代のスイスとポルトガルの間のような控えめな格差だ。産業革命の幕開けによって、2世紀前には1人あたり所得の比率が3:1になっていた。それが今では20:1ないしは30:1で、もし最貧困者と最富裕者を見比べればそれよりも大きな違いが見られるだろう。

これらの事実は説明に値する。このような不平等は現代世界の経済を定義するだけでなくその謎も提示している。ここでの基本的な話が、豊かな国はより優れた技術を持っているということだとすると、貧しい国がその技術を真似ることで素早く成長するのはまあまあ簡単だろう。中国はこれが真実だということを証明しているが、過去2世紀の間、こんなに劇的な追い上げ成長はまれだった。

多分この理由のために、経済学者はそれよりも、きちんと機能する裁判所、ほどよい税を徴収したりインフラに支出できる政府のような制度の重要性を指摘する傾向があった。

しかし多分結局のところ答えは技術なのだ。経済史家のロバート・アレンはなぜ産業革命が例えば中国などよりも英国でうまくいったのか研究している。アレンは文化的や制度的な説明を退け、代わりに経済的インセンティブに焦点を当てている。

例えば、英国がジェニー紡績機を開発していた一方で英国の陶芸家は不経済的な青銅時代の窯の技術を使用していたという事実を考えてみよう。その間に中国は熱風を循環させ工程のエネルギー効率を最大化する高度に洗練された窯のシステムを作り上げていた。どちらの文化のほうが革新的だったのだろうか? ボブ・アレンにとってはその質問は的外れだ。どちらの国も新しい技術を開発していたが、異なる経済的インセンティブに反応していた。

産業革命の黎明期、英国では労働力は高価で、石炭によるエネルギーはこの上なく安かった。これは大陸ヨーロッパではあまり当てはまらなかったし、中国やインドではその逆が当てはまっていて、労働力は安くエネルギーは高価だった。英国の賃金は大英帝国の貿易の成功のおかげで高かった。中国の発明者はエネルギーを節約する方法を探した。腕力を蒸気の力で置き換えることの見返りが明らかだったので、英国の発明者は労働力を節約する方法を探した。

ボブ・アレンの計算によると、1780年にフランスの企業家にジェニー紡績機を簡単​​に組み立てられる説明が提示されていても、それを組み立てる価値はほとんどなかっただろう。インドでは、それは明らかに赤字だっただろう。しかし英国では、その収益率はほぼ40%だった。英国の工学の天才たちなんてそんなもの: それは誰も労働力を節約する節約する機械を開発できなかったからではなく、誰もそれを必要としていなかったのだ。

これは産業革命の起こった場所についての説得力ある説明だが、ボブ・アレンのイノベーション観は自己強化スパイラルへと振り向かせるので、このコラムの始まりに提示した混乱に対する解決策でもある。高賃金は労働力を節約する技術への投資につながる。その投資はそれぞれの労働者がより強力な設備を操作してより多く生産することを意味する。このプロセスが段々と労働生産性を高め、そうすると賃金も上がりやすくなる。さらにイノベーションを起こすインセンティブだけが続いていく。

アレンが述べているように、中国とインドは、数世紀にわたって製造部門の発展に失敗してきた農業経済国ではなく、高度に機械化された英国の工業との競争によって国内産業が破壊された低賃金な製造国だった。なんとか英国と対等な条件を取り戻すのは積極的に産業政策を行い幼稚な産業を保護するために関税をかけた国々だった。それは英国が植民地には許していない戦略だったのだ。


 


「『ヴォルカー・モーメント』と『ルーズベルト・モーメント』」 BY DAVID BECKWORTH
以下は、David Beckworth, “Obama Needs His FDR Moment”(Macro and Other Market Musings, April 18, 2012)の訳。2012年4月のエントリーです。

「ベン・バーナンキ(Ben Bernanke)FRB議長は「ヴォルカー・モーメント」(Volcker moment)に踏み出す必要がある」。これはクリスティーナ・ローマー(Christina Romer)の発言(erickqchanさんによる邦訳はこちら)である。この発言の趣旨は、1980年代初頭のポール・ヴォルカー(Paul Volcker)(元FRB議長)のように、バーナンキは喫緊の経済問題を解決するためにも臨機応変に行動し、新たな金融政策のレジームを採用する必要がある、ということだ。当時ヴォルカーが直面していた課題は加速するインフレであり、彼が採用した新たな金融政策のレジームは準備預金をターゲットとする政策運営であった。一方、現在バーナンキが直面している課題は長引く総需要の低迷であり、現在採用すべき新たな金融政策のレジームはNGDP(名目GDP)水準目標ということになるだろう。かねてよりNGDP水準目標を支持する人間の一人として、私もローマーと同様に、バーナンキが「ヴォルカー・モメント」に踏み出してくれないものかとこれまでずっと願ってきた。バーナンキが教授時代に日本経済に対して加えた分析に照らすと、「ヴォルカー・モーメント」に踏み出すことは彼の信条からそれほど大きくかけ離れたものでもないだろう。しかしながら、これまでバーナンキは「ヴォルカー・モーメント」に踏み出してはおらず、Fedの金融政策は2008年中頃以降実質的に引き締めスタンスが採られ続けている。この点はFRB副議長であるジャネット・イェレン(Janet Yellen)も認めているところであり、Fedの現状の金融政策は腹立たしいばかり(by Tim Duy)であり、完全な失敗(by Karl Smith)であり、あまりのフラストレーション(失望)からうつむかざるを得ないほど(by Ryan Aven)である。

今後もバーナンキは「ヴォルカー・モーメント」に踏み出す気はないのではないか、と認める必要があるのかもしれない。これまでにも「ヴォルカー・モーメント」に踏み出す機会は何度もあったにもかかわらずその瞬間は未だ到来しておらず、Fed内部における集団思考(groupthink)のためなのか、貯蓄家からの政治的圧力のためなのか、それとも彼がスコット・サムナー(Scott Sumner)のブログを読み過ごしてしまっているためなのか、その理由はともあれ、バーナンキが「ヴォルカー・モーメント」に踏み出すことはできないように思える。今後彼が「ヴォルカー・モーメント」に踏み出すかどうかはっきりしないのである。となれば、バーナンキが「ヴォルカー・モーメント」に踏み出すことを願う代わりに、オバマ大統領が「ルーズベルト・モーメント」(FDR moment)に踏み出すことを願うべきなのかもしれない。

「ルーズベルト・モーメント」が到来したのは1933年のことだった。1933年にフランクリン・ルーズベルト大統領が役立たずのFed−ルーズベルト政権誕生前の3年間にわたり、Fedは総需要の落ち込みを放置していた−に代わって金融政策の主導権を握り、総需要の堅調な回復に道筋がつけられることになったのである。ルーズベルトは、物価水準を危機以前の水準にまで引き戻す意向(すなわち、将来における期待名目支出(名目所得)を高める意向)を宣言し、その宣言を(行動で)裏付けるために財務省に対して平価を切り下げるよう命令したのである。ルーズベルトのこの行動によりマネタリーベースが劇的に増大し、総需要の急増が促されることになったのであった。

さて、オバマ大統領はどのような手段を通じて「ルーズベルト・モーメント」に踏み出すことができるだろうか? ルーズベルトのように、オバマ大統領は、名目支出の水準を引き上げる意図を宣言し、その宣言を(行動で)裏付けるためにFedに代わって財務省が金融政策の主導権を握るよう取り計らうべきである。そのための具体的な方法としては、NGDP水準目標を宣言し、その宣言を(行動で)裏付けるために財務省に額面の大きなプラチナコインの発行を許可したらよいだろう−そのプラチナコインはFedに預けられ、国民に対する支払いの原資として使用されることになるだろう−。財務省はNGDP水準目標が達成されるまで−名目GDPが目標経路に復帰するまで−プラチナコインの発行を続けることになるだろう。名目GDPが目標経路を超えて増大した(オーバーシュートした)場合、財務省は債券を発行して過剰な貨幣を吸収することになるだろう。

確かにこれはラディカルなアイデアであり、マーケット・マネタリズム(Market Monetarism;MM)とモダン・マネタリー・リアリズム(Modern Monetary Realism;MMR)[1] との混血児のようなアイデアだ。FedがNGDP水準目標を採用することが最善だと個人的には考えているが、このアイデアもまたうまくいくはずである。このアイデアもまた期待の管理(expectations management)に訴えるものであり、それゆえ実際に発行する必要のあるプラチナコインの金額は極力抑えられることになるはずだ[2] 。また、オバマ大統領が「ルーズベルト・モーメント」に踏み出そうすれば、それが脅しとして働き、突如としてバーナンキが「ヴォルカー・モーメント」に踏み出すきっかけとなるかもしれない。

訳注;モダン・マネタリー・リアリズムについてはこの記事やこちらのブログを参照のこと。 [↩]
訳注;NGDP水準目標の採用により将来的に名目支出(名目所得)が上昇するだろうと予想されるようになれば、人々がポートフォリオの組み換えに乗り出し、その結果として資産価格が上昇し総需要が刺激される可能性がある。そのためプラチナコインの発行はそれほど必要とされないかもしれない。この点について詳しくは例えばこちらのベックワースのエントリー「QE2の波及メカニズム〜QE2はどのようなメカニズムを通じて実体経済に影響を与えたのか?〜」を参照のこと。

http://econdays.net
http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20091111/nominal_debate


07. 2013年2月26日 20:32:16 : xEBOc6ttRg
コラム:早くも正念場を迎えるアベノミクス=斉藤洋二氏
2013年 02月 25日 20:04 JST

為替フォーラム
焦点:中国軍が広域展開能力にシフト、補給艦や輸送機も強化
アングル:グリッロ氏、今を変えたいイタリア有権者取り込み「大金星」
アングル:投機筋の後退でドル/円重い、中長期的な円安期待は変わらず
焦点:米企業は設備投資に積極的、雇用増や株高で景気押し上げ期待

斉藤洋二 ネクスト経済研究所代表(2013年2月25日)

政府が次期日銀総裁に黒田東彦・アジア開発銀行(ADB)総裁を起用する人事案を固めたとの報道を受け、積極的な金融緩和策への期待感が再燃し、25日の東京市場では円安・株高が進んだ。

行動経済学者ダニエル・カーネマン氏の言葉を借りれば、人間の思考には、直感的な「速い思考(システム1)」と、熟考型の「遅い思考(システム2)」がある(「著書「ファスト&スロー」」。

25日朝の急激な動きだけに着目すると、アベノミクスに対する市場のマインドは依然、前者の「システム1」に支配されているような印象を受けるが、このところ、こうしたニュースが出るたびに一進一退を繰り返していることを考えると、安倍政権の政策の有効性と適正な相場水準について論理的に熟考する「システム2」も投資家の脳内で以前より機能しているとみてよいだろう。

そもそも、補正予算および新年度予算案と合わせて100兆円を超える財政支出にみる、公共事業への手厚い配分には1990年代の既視感が拭えない。「財源は財政ファイナンスで」との説も現実味を増す。

一方、日銀法改正をちらつかせて独立性の根本に揺さぶりをかけて迫った大胆な金融政策については、「経済学説を社会実験しようとするギャンブルだ」と語る経済学者の声も耳に残る。物価上昇率を2%とすることで先月目標を同じくした政府と日銀だが、日銀の正副総裁の選任にあたっても政府の意思は、衣の下に鎧(よろい)が見え隠れしている。

日本銀行券は、日銀の貸借対照表の負債の部に計上されるいわば「債務証書」のようなものだが、国民が日銀の節度を信用していればこそ中央銀行システムは機能している。このシステムが政府の圧力によって損なわれ、貨幣価値の下落を通じて将来的に国民に多大な損失を与えるのではないかとの不安がアベノミクスにはどうしてもつきまとう。

<「消費が得」はコペルニクス的転回>

15年にわたりデフレが常態化している日本では、消費や投資を控え、先送りすることによりデフレ予想が自己実現的に強まるデフレスパイラルに陥ってきた。したがって、日銀が国債などを購入する資産買い入れ基金の枠を101兆円へと拡大し、過去20年間においてマネタリーベースを40兆円前後から130兆円台へと大幅に増加させても、金融機関が日銀に持つ当座預金残高が積み上がるばかりで、市中に出回っていかなかった。

そこで浮上したデフレ脱却策が、「2%インフレ目標」の設定である。狙いは、個人・企業の意識を「デフレ予想」から「インフレ期待」へと転換させ、消費・投資活動を活性化させ成長率の向上を図るというものだ。このシナリオの妥当性を支えるのは、合意的な人は期待値が最大になる選択をするという期待効用仮説である。しかし、主力輸出産業である自動車・家電産業の既存資本が遊休化し、また賃金上昇の見通しが立たない状況で、果たして「期待」に働きかける金融政策は効果を発揮するのだろうか。

前出のカーネマン氏の分析に従えば、確率に対する人の行動は非線形であり、人間は得をすることよりも損を嫌う性格が色濃く行動に反映されるがゆえに、期待効用仮説では説明不可能な、いわゆるアノマリーが起きる。これを現下の日本に当てはめてみれば、長年のデフレにより、個人・企業には「消費・投資は損」との行動バイアスがかかっている。つまり、いくら「消費・投資が得」と合理的期待仮説を政府・日銀に説かれても、賃金上昇の確証がない中で消費選好へのコペルニクス的転回は難しいのではないだろうか。

国税庁の民間給与実態統計調査では、年間平均給与は1997年の467万円から2011年は409万円へと減少している。 さらに、1月に公表された日銀の「生活意識に関するアンケート調査」によれば、1年前に比べて物価が下がったと感じる人の3割以上が「どちらかと言えば、好ましいことだ」と回答し、物価が上がったと感じる人の8割以上が「どちらかと言えば、困ったことだ」と回答している。つまり、個人はインフレを期待していない、いやその到来を恐れてさえいるのである。したがって、給料が増えない限り、個人が消費を活発化させるとは思えない。

<「日銀独立性」への危惧>

2番目の問題は日銀の独立性だ。中央銀行の起源は、1668年のスウェーデン国立銀行の設立までさかのぼるといわれる。それに続くイングランド銀行(BOE)が政府への財政支援を第一義として設立されたように、各国の政府と中央銀行の多くは、軍事費調達を目的とした財政ファイナンス、そして敗戦によるハイパーインフレの発生、さらに国家破綻の歴史をたどっている。

第一次世界大戦後に、マルクの価値が「1兆分の1」に下落したことや、第二次世界大戦後にハンガリーで10垓ペンゲー紙幣(10の21乗、紙幣には10億兆)が印刷されたことなどはその象徴的な例だ。これらを教訓に各国政府は無節操な中央銀行の利用を自ら戒め、中央銀行の独立性を尊重してきた。これは、人間の叡智というべきだろう。

戦後に激しいインフレに見舞われた日本も例外ではない。過去の経験を踏まえて、財政法第5条により日銀の国債引き受けが原則として禁じられ、97年に英国をはじめとする欧州の各国中銀の改革機運を受け、独立性と業務の自主性を強化すべく日銀法は改定された。

日本の為政者は、過去に国民の資産を無にするハイパーインフレの高い代償を払ったことを忘れてはならない。過去7年で7人も首相が交代するような日本においては、日銀こそ国の信用を体現するものであり、その独立性は日銀のためではなく、国民の生活と資産を守るべく担保されねばならない。

08年のリーマンショック以降の信用収縮下において、各国中央銀行が大量の資金供給を行ったが、金融危機前夜の07年以降で、BOEのバランスシートは5倍、また米連邦準備理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)はおよそ3倍へと膨らんだ。一方、日銀のバランスシートも1.4倍へと拡大し、対国内総生産(GDP)比では30%を超え、FRBを大きく上回る。

むろん、欧米に対して日本のクレジットカード決済比率が低い(現金決済・保有比率が高い)事情などを勘案すれば、この間の日銀の対応が十分だったとは言い切れない。市場対話力の向上や国債買い入れ対象年限の長期化など、日銀にまだ策が残されている点は、筆者も同意見だ。

<財政・金融政策は時間稼ぎ>

すでに経済再生への取り組みは始まっている。財政政策の効果は一過性であり、また金融政策はあくまでも経済成長のための時間稼ぎでもある。現状、潜在成長率は0.5%程度と低水準が見込まれており、さらに生産年齢人口の減少による低下も含めて考えれば、生産性を引き上げるために、構造改革こそ喫緊の課題となる。

1月3日に日本経済新聞に掲載された経済界トップへのアンケートでも、期待される施策として、社会保障改革、環太平洋連携協定(TPP)・経済連携協定(EPA)の推進、規制改革、法人税減税、少子化対策、農業改革、対日投資推進と、構造改革に関連する7項目がトップ10に並んだ。

つまり、従来のように需要不足を公共事業で埋めるのではなく、医療・介護などの潜在需要を顕在化させるような、規制緩和を通じた供給構造の転換が求められている。成長戦略の実現に向け、現政権には、反対勢力の抵抗を退ける突破力と身を切る覚悟があるかどうかが問われる。

言い換えれば、それができなければ、アベノミクスはやがて高インフレと財政悪化をもたらし、株安や債券安と円安が連鎖する「日本売り」を誘発する恐れがある。リフレ政策を掲げ、ルビコン川を渡った安倍政権に、もはや退路はない。

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。

ドル92円付近、円安基調継続か円高回帰か「ここが正念場」
2013年 02月 26日 16:14 JST
[東京 26日 ロイター] 午後3時のドル/円は、ニューヨーク市場午後5時時点に比べてドル高/円安の92円ちょうど付近。イタリア総選挙をめぐる不透明感や株価急落を受け、この日の早朝に90.85円まで急落。その後は輸入企業や証拠金取引、ファンド勢の買いで持ち直したが、午後になると再び下落圧力が掛かった。

市場では、ドル/円が上昇基調を維持できるか、それとも円高局面に戻るのか正念場に差し掛かっているとの見方も出始めた。

<ドル/円、正念場に>

ドル/円はこの日、午前5時33分と5時53分と2度にわたって90.85円まで急落し、約1カ月ぶりの安値を付けた。ユーロ/円も一時118.74円まで急落した。イタリア総選挙の開票状況を受け、モンティ前政権が推し進めた緊縮路線が継続されるかについて先行き不透明感が高まったことで円買いが加速した。

ドルの下値では、月末の外貨手当てをする輸入企業の買いや、証拠金取引のドル買い、それらに便乗した海外ファンド勢のドル買いが見られ、こうした買いに支えられてドルは一時92.75円まで反発した。しかし、午後になると再びリスクオフモードが強まった。ドル/円は91円後半まで下落したほか、ユーロ/円は119円後半まで下げた。イタリア総選挙の結果を受け、ロンドン時間のイタリア国債や株価の反応が注目されている。

新生銀行・市場営業本部の政井貴子部長は、ドル/円が上昇基調を維持できるか、それとも円高に戻るのか正念場に差し掛かっているとの認識を示した。

日銀の次期正副総裁人事が報じられたことで、ドル/円は25日早朝に94.77円まで急上昇したが、すぐに伸び悩み、市場では上値の重さが意識されていた。その矢先に、イタリア総選挙への警戒感から円が全面的に買い戻され、この日早朝には90円後半まで急落した。

政井氏は「もともと調整機運が出始めていたところで、94円台がトップになったという雰囲気がマーケットに出てきてしまっている。先行き、底値探しみたいな相場展開になる可能性がある。90円台を切れてくると非常に雰囲気が悪くなる。せっかく雰囲気が上向いてきたところに、日銀総裁が新しく代わったといってもレートがついていかなくなる可能性がある。ここがおそらく正念場だろう」と話している。

<警戒要因は米国にも>

ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの村田雅志シニア通貨ストラテジストは、米国で自動歳出削減を控えている一方、日本では日銀正副総裁人事が報じられて新規の材料が出にくい状況になり、さらにはG7声明以降、海外当局が円安に対して懸念するという見方も警戒されて、現時点で円を再度売り向かうのは厳しいと指摘した。

この日の米国では、バーナンキFRB(米連邦準備理事会)議長の議会証言が焦点になるが、「FOMC(米連邦公開市場委員会)議事録でQE休止という話が一部のメンバーから出たといっても、肝心のバーナンキ議長自身はQE継続という見方が大勢で、今回の議会証言でもQE継続姿勢を打ち出すとの思惑も強い。1月の指標が底堅いといっても、マインド面では一部悪化している指標も出ているし、給与減税休止の影響もまだ見極めきれていない。このタイミングでFRBがQE休止ないし縮小を打ち出す合理的な理由はない」と指摘。「QE継続ということであれば米金利は低位安定され、ドル買い需要を落とす形にならざるを得ない」とした。

(ロイターニュース 和田崇彦)


金融政策は国内目的のために実施されるべき=東京で英中銀総裁
2013年 02月 26日 18:54 JST
[東京 26日 ロイター] 来日中のイングランド銀行(英中央銀行)のキング総裁は26日、各国中央銀行は国内目的のために金融政策を実施すべきであり、このルールが守られれば世界経済の成長も加速する、との見解を示した。

総裁は都内での講演後、日米欧7カ国(G7)は為替市場に介入したり、為替レートの特定の目標を持つべきでないとの認識で一致したが、仮にある国が国内経済てこ入れのための政策を追求すれば、その国の通貨が下落する原因になる可能性がある、とも述べた。

一部の国は、一部の中銀による積極的な国債購入がその国の通貨を押し下げ、世界貿易を害しかねない競争的通貨切り下げの高まりを誘発することに懸念を表明していると指摘した。

英中銀の量的緩和策については、マネーサプライの急激な縮小の回避を通じて英経済を支援したが、金融政策は経済の「万能薬」ではなく、依然として民間銀行のバランスシートや生産性、賃金の調整といった課題に直面していると説明。「金融政策は将来の支出の前倒しに適しているが、将来の支出を奨励するにはさらに刺激策が必要だ」と述べた。

英中銀が20日発表した2月6─7日の金融政策委員会の議事録によると、キング総裁、フィッシャー委員、マイルズ委員の3人は3750億ポンドの資産買い入れ枠を4000億ポンドに拡大することに賛成票を投じたが、資産買い入れ枠は6対3で据え置きが決定された。

キング総裁はまた、現在は政府が構造改革を実行するのに最適な時期だと指摘。それによって賃金下落の影響を相殺し、輸出向けの製品に生産をシフトすることができるとの考えを示した。

実質マイナスの英債券利回りについては、持続的な景気回復とは両立せず、世界的に見て長期の実質金利は依然として維持できないほど低いと警告した。

キング総裁は6月に退任する予定。

*情報を追加して再送します。


 

イタリア総選挙結果、欧州が成長促す必要性示す=仏経済・財務相
2013年 02月 26日 19:57 JST 記事を印刷する | ブックマーク | 1ページに表示 [-] 文字サイズ [+]

特集 欧州債務危機
イタリアのモンティ首相、中銀総裁・経済相と昼頃に会談へ
イタリア、モンティ氏の改革路線続ける必要=独与党有力議員
ユーロSTOXX50ボラティリティ指数が年初来高値、伊総選挙受け
イタリア、改革以外に選択肢ない=独経済技術相
[パリ 26日 ロイター] フランスのモスコビシ経済・財務相は26日、不透明な結果に終わったイタリアの総選挙について、欧州各国の指導者が有権者に対し、痛みを伴う緊縮措置の影響を打ち消す経済成長好転への希望を与えねばならないことを示していると述べた。「ロイター・ユーロ圏サミット」でのインタビューでの発言。

経済・財務相は総選挙後のイタリアの政局混迷について「疑いなく懸念」であり、中道左派のベルサニ氏が下院で過半数を確保した結果を生かし、強固な改革政権を樹立することを望むと語った。

その上で、「欧州が送る唯一のメッセージが緊縮策である場合、人々はある時点で我慢できなくなってしまう。再び成長するという別の視点が必要だ」と指摘した。

 

イタリア株と国債が大幅下落、ユーロ圏主要市場にも衝撃
2013年 02月 26日 19:13 JST
[ミラノ 26日 ロイター] 26日のイタリア株式と国債は、大幅に下落した。イタリア総選挙では上院で過半数を獲得した勢力がなく、政局不安を背景に、ユーロ圏債務危機悪化への警戒感が強まった。

主要株価指数は序盤に5%下落。大手銀行は10%以上も下落した。

伊10年物国債と独連邦債との利回りスプレッドは346ベーシスポイント(bp)と、2カ月半ぶりの水準に拡大した。

ユーロ圏の主要市場にも衝撃が走り、フランスとドイツの市場が下落したほか、ユーロは対ドルで7週間ぶりの安値圏に落ち込んだ。

総選挙では、下院は財政緊縮を掲げる中道左派連合が勝利したものの、上院は過半数獲得勢力が出なかった。さらに、グリッロ氏の「五つ星運動」やベルルスコーニ前首相の中道右派連合の躍進に象徴されるように、反緊縮票が拡大。市場では「最悪の結果」との見方が出ている。

ただベルルスコーニ前首相が、中道左派連合との連携について前向きな姿勢を示したことが伝わると、相場は一部持ち直しの動きを示した。


 


スペイン、イタリア総選挙結果の影響を懸念
2013年 02月 26日 19:56 JST
[マドリード 26日 ロイター] スペインは26日、イタリアで実施された総選挙の結果を受けて政局の混迷が深まったことについて、強い懸念を表明し、ユーロ圏全体に影響する可能性があると警告した。

マルガージョ外相は、マドリードで開かれた会議に出席した際、記者団に対し、選挙結果への反応として、債券スプレッドの動向を非常に懸念する感覚が生じていると指摘。「イタリアにとっても欧州にとっても幸先の良くない、どこにもつながらない急転だ」と述べた。

スペイン政府は状況、特に金融市場への影響を注視していることを明らかにした。

スペイン10年債の対独連邦債利回りスプレッドは、イタリア総選挙の結果を受けて393ベーシスポイント(bp)と数週間ぶりの水準に拡大した。

0900GMT(日本時間午後6時)現在、スペインのIBEX指数.IBEXは2.87%安。

デギンドス経済相はマドリードでの会議を前に記者団に対し、イタリアについて「状況がどう進展していくか見守る。安定政権が樹立されることを望んでいる。イタリアにとって良いことはスペインにとっても良い」と述べた。

また「最終的には欧州の危機脱却に必要な政策の実施に向けた政治的意志が勝利を得る」と指摘した。

同相はまた、スペイン財務省が先週の国債入札で110億ユーロ(145億ドル)近くを調達したことを受け、同国の流動性は潤沢であり、市場の混乱に対応できるとの見解を示した。


 


ユーロSTOXX50ボラティリティ指数が年初来高値、伊総選挙受け
2013年 02月 26日 18:56 JST 記事を印刷する
[ロンドン 26日 ロイター] 26日の欧州株式市場で、投資家の不安心理を示すユーロSTOXX50ボラティリティ指数が年初来の高水準をつけた。イタリア総選挙結果を受けた政局不安で、債務危機をめぐる懸念が再燃している。

ユーロSTOXX50ボラティリティ指数は15%上昇して始まり、年初来高値となる24.73をつけた。

欧州金融市場は全面安の展開で、特にイタリアの主要株価指数.FTMIBは約4%安と大きく下げている。


08. 2013年2月26日 20:46:59 : xEBOc6ttRg
2013年 2月 26日 14:52 JST
次期日銀総裁の黒田氏、前途多難−現職委員6人説得で難儀か

By MEGUMI FUJIKAWA AND TATSUO ITO

【東京】日本銀行の次期総裁に就任する見通しの黒田東彦氏は来月、新総裁として歴史ある日銀本店の建物に足を踏み入れると、やっかいな問題に直面することになるだろう。日本経済を復活させるためには、より大胆な金融緩和措置が必要であることを、6人の現職メンバー(日銀政策委員会審議委員)に説得することになりそうだからだ。

 今週末までに総裁に指名される見通しとなった黒田氏は元財務官。同氏は、20年間にわたるデフレとの戦いから脱却するため、はるかに大胆な金融緩和を実施する姿勢を示唆している。しかし、現職の審議委員のこれまでの行動からみると、黒田氏を中心とする新体制は、政策決定を巡りこれまでのような影響力を保持できないかもしれない、とアナリストたちは予想する。

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 新総裁になる黒田氏は、自分と同じく新任の副総裁に指名される見通しの学習院大学の岩田規久男教授とは容易に連携が可能だと想像がつく。岩田氏は長年、日銀の政策を批判しきた急先鋒であり、多くの日銀支持者の間で積極的な緩和論者とみなされている。しかしもう一人の新副総裁に指名される中曽宏氏(現日銀理事)は日銀の路線を踏襲すると予想されている。1978年に日銀に入行して以来、ほとんどのキャリアを日銀で過ごした生え抜きだからだ。白川方明現総裁は、副作用なども配慮しながら、金融緩和を慎重に進め、政治家や財界指導者に対し、中央銀行だけでできることは限界がある事を説いてきた。

 したがって、焦点は日銀金融政策委員会の現職6人の審議委員に移る。そして同委員会は安倍晋三首相率いる政府の圧力を受け、金融緩和策の大筋を受け入れてきた。しかし他方で、6人は白川総裁をおおむね支持していた。新総裁になる黒田氏は異なる境遇に直面するかもしれない。

 バークレイズ証券チーフストラテジストの森田長太郎氏は「4月以降、これまでの日銀の政策を刷新するような方向性が執行部から打ち出されてくれば、金融政策決定会合では反対票が恒常化してくる事態もありうるだろう」と述べ、「皮肉なことだが、スリーピング・ボードの様相を呈していた決定会合の議論がこの人事を機に活性化されてくるのではないか」と語った。

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Bloomberg
日銀本店(東京中央区)

 日銀ウォッチャーたちは、昨年7月に政策委員会メンバーに任命された佐藤健裕氏と木内登英氏の行動は予想外だとしている。民間エコノミストとして2人は極めて果敢な緩和を提唱していたが、今年1月の決定会合では、2人がインフレ目標を1%から2%に引き上げるのに反対票を投じたからだ。2%の物価目標は、安倍首相が強く要求していたことだった。首相は日銀政策決定会合で2%の物価目標を決めた際、デフレ脱却に向けた大きな前進ととらえた。

 1月の金融政策決定会合の議事要旨によると、佐藤、木内両氏は2%の物価目標を、直ちに達成することは無理があることを指摘し、成長力強化の取り組みの効果が確認できる前の段階で2%を掲げた場合、「日銀の金融政策の信認をき損したり、市場とのコミュニケーションに支障が生じるおそれがある」と主張した。

 こうした立場は、とりわけ歯に衣着せぬ岩田氏との間で、対立の火種となるかもしれない、と一部の日銀ウォッチャーは予想する。

 岩田氏は、ハト派とみられている委員会メンバーの1人である宮尾龍蔵氏と連携できる可能性がある。宮尾氏はしばしば果敢な緩和措置を提案してきたが、8対1で否決されてきた。最近では、消費者物価の前年比上昇率2%の実現を目指し、それが見通せるようになるまで、実質的なゼロ金利政策を継続するべきだと提案している。

 他の2人のメンバー、金融サービス業界出身の石田浩二氏と元国際通貨基金(IMF)エコノミストの白井さゆり氏は一層の緩和に前向きと見られている。石田氏は昨年12月、日銀が金融機関の当座預金の超過準備に支払う金利(付利金利)を引き下げるという大胆な措置を主張した。これは、市中銀行に対し、中銀に預金を預けておくよりも民間に貸し出すのを促すことを狙った措置で、欧州中央銀行(ECB)のとった措置に倣ったものだが、他の委員全員から反対され、否決された経緯がある。

 白井氏には未知数な部分がある。会議議事要旨によると、2011年4月の審議委員就任以来、同氏から政策提案は一切出されていない。しかし同氏は最近のインタビューで、新しい政策措置にオープンだと述べており、「最初から特定の政策オプションを排除するつもりはない」と語っている。

 9人目の委員である森本宜久氏は、日本で最悪の原子力事故を起こした東京電力の元役員。同氏は2010年の就任以降、一貫して過半数グループに投票してきた。同氏は先週の講演で、日銀による大規模な国債購入には潜在的な副作用があると警告している。

 しかしアナリストたち、新しい委員会がどう動くかを見極めるのに単純な頭数を数えることに警告している。黒田氏の任務は過半数を形成することではなく、コンセンサスを構築することだからだという。

 みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト、上野泰也氏は「金融政策決定会合で総裁・副総裁以外の6票を有する審議委員の動向も見逃せない」と述べた。


 

2013年 2月 26日 07:25 JST
安倍首相、黒田氏指名で財務省との亀裂回避か

【東京】安倍晋三首相は、日本銀行次期総裁に黒田東彦アジア開発銀行総裁を選んだ。これは首相と財務省との間に亀裂が入ることを防ぐための融和的な決定とみられる。

 今月、日銀総裁選びが本格化するなか、安倍首相と、副首相も兼ねる麻生太郎財務相との間で候補者をめぐり意見の食い違いがみられたと、ある政府筋は言う。

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Bloomberg
財務省(東京千代田区)

 だが、総裁選びに詳しい複数の情報筋によれば、25日に安倍首相が黒田氏を総裁に、学者の岩田規久男氏を副総裁の一人に指名したことが公になり、緊張は和らいだ。ある情報筋は今回の指名で内閣に深刻な軋轢(あつれき)が生じなくてよかったと述べた。

 政府が安倍氏による黒田氏の指名を確認した後、麻生財務相は、財務省の為替政策を担当していた黒田氏は「正しい選択」だと同意の意を表した。

 麻生財務相はこれまで理想的な候補者には「組織運営」の経験が必要と主張しており、政府関係者の間では元財務次官の武藤敏郎氏を念頭に置いていると考えていた。武藤氏は財務省内の伝統的なエリートコースである主計局でのキャリアを積み上げ次官にまで昇り詰めていたからだ。黒田氏の財務省時代の肩書きよりも高い位置付けにある。

 武藤氏は2003年まで日銀副総裁を務めていた経歴もあり、日銀は財務省と一致団結して武藤氏を推していた。だが国会議員の中にも多くの支持者を持つ武藤氏は交渉に秀でているものの、金融緩和に関しては黒田氏や岩田氏ほど積極的ではないとみられていた。

 このため日銀による金融緩和の強化を強く提唱している経済学者や国会議員ら安倍首相の経済アドバイザーは、武藤氏を次期総裁として指名した場合、金融緩和と景気刺激・経済成長促進策を合わせた「アベノミクス」にブレーキがかかったと受け止められることを憂慮していた。これまでアベノミクスへの期待の高まりによって円安が進行し、東京の株式市場は4年ぶりの高値を付けている。

 安倍首相のアドバイザーの一人は、武藤氏擁立の勢力は非常に強く、積極的に官邸に働きかけていたと述べ、安倍氏がその圧力に流されるのではないかと心配するアドバイザーが多かったと述べた。

 だが、これまで一貫して日銀による更なる施策を求めていた黒田氏を指名したことをこのアドバイザーは歓迎した。財務省で為替を担当していた黒田氏は何年も前に、円高によって輸出業者はコスト削減を余儀なくされ、その結果として賃金や価格が下落するためデフレが悪化すると警告していた。

 また、黒田氏は総裁としてのアジア開発銀行の組織運営は既に6年間にも上っているため、麻生財務相も納得するだろうと、アドバイザーは指摘する。

 過去に多くの財務次官が退官後に日銀総裁に就任したが、1998年に日銀の独立性が高まってからは財務省出身者が総裁を務めることはなかったため、同省はポスト奪還に力を入れていた。結果として武藤氏が総裁候補から外れたが黒田氏も財務省出身であることに変わりはなく、安倍氏側近の一人はそれを財務省側の勝利ととらえている。

 総裁の正式決定には衆参両院の承認が必要であり、白川方明現総裁が退任する3月19日までの時間を配慮して安倍首相は今週中に日銀人事案を国会に提出する予定だ。


09. 2013年2月27日 10:53:26 : Pj82T22SRI
アベノミクスに“落とし穴” 相次ぐ「入札不調」
2013.2.27 08:15

 2012年度補正予算の柱は、地方自治体向け交付金などを含め、5兆円規模となる公共事業費だ。しかし、建設業界の人手不足や建設資材の高騰の影響で入札参加者が足りずに落札者が決まらない「入札不調」が相次ぎ、着工が遅れている。「三本の矢」の一つである財政出動がうまく機能しなければ、「アベノミクス」の景気浮揚効果に対する懸念が高まる恐れもある。

 首都圏のある自治体が最近実施した公共施設の入札は「不調」に終わった。参加を断念した地元の建設業者は「資材や人件費の上昇はバブル期並み」と表情を曇らせる。工期中にも高騰が続けば、赤字を出すのは避けられない状況という。

 建設業界はこれまで、公共事業の削減や景気低迷への対応でリストラを加速させてきた。国土交通省の調べでは、11年度末の建設業者数は約48万と、ピーク時の1999年度末から20%減ったほか、高齢化も進んでいる。このため、老朽化した橋やトンネルの補修・点検など、急増した公共工事に対応する余裕がない。

 一方で、東日本大震災による復旧・復興工事が東北3県に集中しており、熟練工や建設資材の争奪も激しくなっている。建設物価調査会や国交省の調べでは、仙台市の生コンクリートの価格は2月時点で震災前の4割以上も高騰。昨年4月から今年1月までの「入札不調」の割合が49%にものぼっている。

 資材の高騰や人材不足の影響は、準大手以下のゼネコン(総合建設会社)の業績を圧迫し始めている。準大手の戸田建設は13年3月期の業績予想について、連結最終損益を当初の385億円の赤字から630億円の赤字へと下方修正し、井上舜三社長が引責辞任に追い込まれた。井上社長は会見で「見通しが甘かった」と唇をかんだ。

 26日の参議院予算委員会で、民主党の桜井充政調会長は、補正予算について「被災地の復興や真の経済再生につながるか疑念が強い」と批判した。政府は「アベノミクス」の思わぬ“落とし穴”にどう対処するのかが問われている。


 

アベノミクス円安に不満の韓国 反日感情の火に油、国際競争力低下を懸念
2013.2.25 10:00

【漢江経済リポート】

 「アベノミクス」によるデフレ対策の結果としての円安に、韓国が不満を高めている。メディアは「1931年の世界大恐慌直前の状況に似ている」との説まで持ち出して、日本が「円安誘導政策」を取ると批判。韓国の金融・財政当局は世界貿易機関(WTO)など国際舞台で対日攻撃を強める。

 25日に就任する朴槿恵(パク・クネ)新大統領も、国内のムードに考慮して国内経済・景気への影響に懸念を表明。今後、中小企業が早期の景気改善を実感できなければ、円安が「為替ナショナリズム」に短絡的に結びつき、常にくすぶる反日感情の火に油を注ぎかねない。朴政権はいきなり、対日外交と国内経済という難題に直面している。

 お粗末な牽制球

 モスクワで開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議。韓国の企画財政相が日本を標的に「これはタダの昼食会ではない」と、日本の円安攻勢を俎上(そじょう)に載せた。

 だが、16日に採択された共同声明で、日本の「円安誘導」という名指しの批判が回避される。これで韓国のメディアが騒いだ。

 中央日報はG20が「日本の“円安政策”に事実上の免罪符を与えた」と指摘し「お粗末な牽制(けんせい)球だ」と批判した。

 「円高誘導政策が疑われる」

 韓国は19日、ジュネーブで開かれたWTOの貿易政策審査会合でも、日本を正面から批判した。

 韓国では、円安は日本による「対韓貿易戦争」との認識が急速に広がっている。

 原因は韓国メディアにある。

 1月末に米国のブルームバーグが、日本企業が円安を追い風にライバルの韓国企業を追い落とすという記事を配信した。

 韓国貿易協会は1月末、日韓の輸出産品のうち韓国の上位50品目の5割が、日本の上位50品目と完全に重複しているとする調査結果を公表。こうした結果を受けて、韓国メディアでは次第に円安脅威論が幅を広げ、徐々に反日感情と連動した為替ナショナリズムが台頭しているのだ。

 中央日報はまた、「円安は沈黙の殺人者」と刺激的な表現で韓国産業の競争力を落とすだろうとも指摘している。

 朴新政権は、5年ぶりに経済副総理ポストを復活させた。韓国のベンチャー企業などを育成し、中長期で国民生活改善に狙いを定めた人事だった。それだけ、「中小企業の業績と庶民生活にきめ細かい気配りをする政権であることをアピールしたものだ」(新政権関係者)

 生活者感覚とずれ

 ただ、円安は韓国にとって悪いことばかりではない。

 「電子製品ばかりではなく、韓国市場では、おむつや日用品、衣類など幅広い製品で、質の高い日本製品は人気が高い。これまでは中国製などしか手が出なかった一般消費者が、対価格満足度の高い日本製を、これまでより安く手にできることは、韓国の生活者感覚ではプラス」(韓国消費者団体関係者)

 さらに、近隣国の日本経済が好転すれば、幅広い貿易の拡大にもつながり、「両国のウィン・ウィンの関係に役立つ」と認める韓国側の貿易関係者もいる。

 北朝鮮の核やミサイル開発に危機感を強める朴新政権は、昨年8月に李明博大統領が日本固有の領土である竹島に上陸したことをきっかけに悪化した日韓関係の改善という外交課題を抱える。

 ただ、新政権発足後しばらくは、景気・経済対策に集中し、具体的な成果を求められているため、円安が「韓国企業を狙い撃ちしている」との韓国内の認識が広まると、政権の求心力を損ないかねない。

 日本の外交筋は「そもそも、ウォン安誘導政策の疑惑を払拭できない韓国が、日本を批判することが奇妙だ」と指摘。

 そのうえで「朴槿恵氏は円安という国際経済の現象を受け入れ、そのメリットとデメリットをメディアや世論に丁寧に説明し、両国関係をコントロールすることが重要になる」としている。(ソウル 加藤達也)


 

 


 


「親日国」だからといって甘えるな いらだつミャンマー
2013.2.7 08:00

【ビジネスアイコラム】

 経団連の訪問団がミャンマー、カンボジアを歴訪中だ。日本から140人もの大型訪問団が行くのは初めてだが、せっかく企業トップが行くのだから、ぜひミャンマー側の本音を聞いてもらいたい。ミャンマー側は、なかなか進まない日本側の投資にいらだちをつのらせており、今回の経営トップの訪問に高い期待をかけている。

 ヤンゴンにあるユニ・アジア・モーターズのシャヒーク・ウル・ラーマン社長もその一人だ。

 同社は1994年にある日本の自動車メーカー側と代理店契約を結んだが、その後、欧米による経済制裁を理由に同社が撤退すると、部品の仕入れや整備マニュアルの入手さえ難しくなった。

 それでも制裁が解除されるまではと辛抱してきたが、昨年暮れ、日本側から、今後はユニ・アジアだけでなく、他社とも代理店契約を結びたいとの意向が伝えられたという。

 ラーマン氏は「これまで必死に看板を維持してきたのに、これからというときになって他社と組むとは」と憤懣(ふんまん)やるかたない様子。

 ラーマン氏はバングラデシュ国籍ながら、シンガポールやベトナムでもビジネスを展開し、イスラム世界にも幅広いネットワークを持つ。

 「契約を切れば、これまでの努力は何だったのかと思うが、こちらにもプライドがある。われわれなど小さな存在だと思っているのだろうが、彼らが正しい決断をすることを期待したい」と語る。

 実は、こうした問題は今後、ミャンマーで頻発する可能性がある。1990年代半ば、民主化の動きがあったとき、多くの日本企業が投資に動き、多くの企業がミャンマー側企業とパートナーを組んだ。

 だが、20年近くたつ間、軍関連企業などが民営化し、新たな企業が誕生した。

 再進出する日本企業のなかには、これら新企業へとくら替えする企業も少なくないだろう。そのことが、新たな問題を引き起こしかねないのだ。

 ミャンマーをよく知る人たちは「ミャンマーの人はいちずなだけに、裏切られると怒るだけでなく、必ず仕返しに走る性格の人が多い」と口をそろえる。

 先の大戦中、日本軍はアウンサン将軍にビルマ独立を約束したが、英国を追い出すと約束をほごにし、日本軍が軍政を敷く。当時の日本軍の圧政ぶりを今のミャンマー人も学校で学んでいる。ただ、反日教育を行っていないだけだ。

 ミャンマーの人々が親日的であるのは確かだ。しかし、だからといって、それに甘えるようなことがあってはならない。(産経新聞編集委員 宮野弘之)

 


 シンガポール、高齢化で政府支出増 25年に5兆3730億円
SankeiBiz 2月27日(水)8時15分配信
 シンガポールで高齢化が進み、保健など公共サービスへの政府支出が増加するもようだ。

 現地のチャンネル・ニュース・アジア電子版によると、世界120カ国・地域に事業所を展開するコンサルティング大手アクセンチュアは、シンガポール政府の公共サービスへの支出が2025年までに720億シンガポール(S)ドル(約5兆3730億円)となり、政府予想よりも130億Sドル増加する可能性があると試算した。

 シンガポールは1人の女性が生涯に出産する平均人数を表す出生率が1990年の1.83から11年には1.20に低下するなど少子化が進んでおり、高齢化社会への懸念が深刻化している。総人口に占める65歳以上の国民の割合は10年の8%から25年には17%に拡大する見通しだ。

 すでに少子高齢化の影響は出始めており、同国の医療関連など保健分野への政府支出は08年の27億Sドルから11年には41億Sドルに増加した。今後もこうした公共サービスへの政府支出の増加傾向は続くとみられており、アクセンチュアのシンガポール担当者は「経済成長を維持しつつ、公共分野の業務効率化を大胆に図る必要がある」と提言している。

 また、同社の調査ではシンガポール人の56%が自国の公共サービスに満足しており、70%が今後5年間の政府施策に不安を感じていないとする結果が出ている。

 国民の高い期待にどう応えていくか、政府の手腕が問われていきそうだ。(シンガポール支局)

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最終更新:2月27日(水)8時15分

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10. 2013年2月27日 11:33:53 : xEBOc6ttRg
コラム:新総裁の重い課題、半年後に物価上昇ゼロなら緩和強化も
2013年 02月 25日 17:40 JST
田巻 一彦

[東京 25日 ロイター] 政府は黒田東彦・アジア開発銀行(ADB)総裁を次期日銀総裁に起用する方針を固めたが、物価目標2%という"重い"課題が、黒田氏の率いる日銀にのしかかると予想する。

リフレ派の主張のように、金融政策によって期待を操るだけで、日本経済をデフレ体質から脱却させることは困難であると考えるからだ。

新総裁の就任から半年が経過し、物価情勢に大きな変化が生じていない場合、政府・日銀が何をなすべきか、大きなテーマに浮上しているだろう。その時に安倍晋三首相は新総裁の責任を追及するだけでは済まず、自らの責任についても説明する義務を負うと指摘したい。そこで緩和が不足していると判断し、大幅な追加緩和策に打って出ると、あるタイムラグを伴って円安と物価高の行き過ぎに直面し、長期金利の上昇も発生し日本経済が混乱に陥る危険性がある。新総裁には先行きを見通した賢明な判断が求められる。

<国債以外の金融資産買い入れにも黒田氏が意欲>

黒田氏は元財務官としての豊富な経験を有し、国際金融業務に精通しているだけでなく、金融政策に関しても、日銀内で消極論が多かった時期からインフレターゲットへの積極的な支持を打ち出し、大胆な金融緩和で日本のデフレ体質からの脱却を図る考えを明確にしてきた。

では、「黒田総裁」になると、日銀の金融政策が見違えるほど変化し、物価目標の2%を早期に達成できることになるのか──。今後の展開は、そう単純ではないだろう。

黒田氏は昨年末からメディアのインタビューにしばしば登場したが、2月11日の主要報道機関とのインタビューでは、2%達成までに要する期間については「2年ぐらいが適切」との見方を示した。また、「日本国内に日銀が買うことができる金融資産は何百兆円もある」として金融緩和の手段は豊富にあるとの持論を展開した。昨年12月の国内メディアとのインタビューでは、買い入れ資産として長期国債以外にも、資産担保証券(ABS)、インデックス債、株式などを例示していた。

<円安でも積極化しない企業の値上げ戦略>

一方、足元の消費者物価指数(生鮮除く、コアCPI)は、2012年12月が前年比マイナス0.2%と2カ月連続で下落。総合も同マイナス0.1%だった。この状況から2年間でプラス2%まで物価を持ち上げるのは、容易なことではない。直近の3カ月間で15%超のドル高/円安になっているが、小売りの現場では輸入原材料の価格上昇を理由にした値上げは目立っていない。需要の盛り上がりが期待できない中で、値上げ戦略の発動を決断できない企業経営者が多いためだろう。

日銀は、需給ギャップが縮小していけば、次第に物価は上がっていくとの見方を取ってきたが、日銀が新総裁の下で、これまでよりも急ピッチで資産規模を膨らませても、それが国内需要の増加に結びついて、目立った物価上昇につながるのかどうかは、極めて不透明だ。

<円安で減益の素材系企業も、株全面高は過去形になる可能性>

リフレ派の人たちは、期待に働きかければ、経済の動きに変化が生じ、実際、円安と株高が実現したと主張している。確かにここまでは、想定通りに進んでいるが、そこから設備投資の拡大や個人消費の増加につながるのかどうか、断定的なことは何も言えない。企業や個人の行動に大きな変化が起きなければ、半年たっても物価は前年比ゼロ%近辺で推移している可能性が高いだろう。

また、現状では円安が幅広い企業の株価上昇につながっているものの、売上原価に占める輸入コストの割合が多い素材系の企業は、売り上げ予想が一定なら、当初予想よりも減益になるだろう。今は市場の注目度が低いものの、そうした企業が続出すれば、市場の株価を見る目が変わってくるに違いない。さらに輸出競争力の落ちた企業は、円安のメリットを受けることができず、「円安イコール株式全面高」という構図は、遠からず過去の遺物になると予想する。

<半年後も物価上昇ゼロ%なら、大幅な緩和強化も>

安倍晋三首相や日銀の新総裁は、半年たって物価が上昇基調を示さない場合、どのような判断を下すのか、非常に興味深い。安倍首相が任命した日銀総裁が、成果を出せなかった時には、総裁だけでなく首相も、説明責任を明確に果たす義務があるだろう。

その結果、緩和が足りないという結論に達するなら、大幅な量的緩和の強化という決断をする可能性もあるのではないか。ここから先は、大規模な社会実験の様相も強まると予想する。日銀が急速に資産規模を膨らますことで、時期は断定できないものの、円安が市場の想定を超えて進み出すとともに、国内ではそれまでにデフレ的な物価から、ガラリと変わって物価が上がり出す可能性がある。

<円安・物価上昇が止まらないリスク>

物価上昇のテンポが前年比プラス2%前後でとどまっていればいいが、勢いが付いた物価上昇力が3%を突破し、4%を目指し始めても急には止めることができない。量的緩和で膨らませた日銀の資産を市場へのショックなしにスムーズに減らすことが難しいからだ。

こうした事態に直面したり、接近していることが明確になれば、市場は日銀が引き締めに転換すると予期し、長期金利が急速に上昇するリスクも高まることになる。もし、このシナリオが現実になるようなら、日本経済は相当の混乱状態に陥っていると予想する。

こうして見てくると、物価上昇率2%は、なかなか達成が難しい目標と言えるが、達成のために金融緩和をどんどんと強化させると、一定の水準で安定せず、行き過ぎる危険性があることに気付くだろう。狭い尾根道を転落せずに目的地まで到達するには、政府の成長戦略の実行が欠かせない。日銀だけに責任を押し付ければ、投げつけたブーメランは、安倍首相自らに戻ってくると指摘したい。



11. 2013年3月01日 11:28:14 : xEBOc6ttRg
【第16回】 2013年3月1日 
【特別インタビュー】岩田規久男・学習院大学教授
「日銀は2%インフレ目標にコミットすべし。
わが金融政策のすべてを語ろう」
「アベノミクス」で円安・株高が続く日本。人々は日本経済復活への期待に胸を膨らませている。そのアベノミクスで金融政策の柱となるのが、インフレターゲット(物価上昇率目標)を2%に定め、大胆な金融緩和によって、デフレと円高から脱却するというシナリオだ。それには、新たな金融政策レジームの構築も必要となる。これまで多くの課題を指摘されてきた日本銀行の本来あるべき姿や、とるべき金融政策のスタンスとはどんなものか。また、アベノミクスの効果とはいかほどのものなのか。日本のリフレ派経済学者の代表格として知られ、次期日銀副総裁にも名前が挙がる岩田規久男・学習院大学経済学部教授に、論点を詳しく聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 編集長・原英次郎、小尾拓也)

――まずは、日本銀行のあるべき姿や、とるべき金融政策のスタンスについて、詳しくお話を聞かせてください。政府と日本銀行は、1月下旬に行なわれた日銀金融政策決定会合を受け、2%のインフレ目標(物価上昇率)などを掲げた共同声明を発表しました。今回の声明の内容をどう評価していますか。


いわた・きくお
経済学者、学習院大学経済学部教授。1942年生まれ。大阪府出身。東大経済学部卒、東大大学院経済学研究科博士課程修了。上智大学経済学部教授を経て、1998年より学習院大学経済学部教授。2007年より2年間学習院大学経済学部長。専門は金融論、経済政策。『昭和恐慌の研究』『デフレの経済学』『デフレと超円高』『日本銀行デフレの番人』ほか著書多数。 Photo:DOL
 インフレターゲットは、一国の中央銀行が物価の安定に全責任を持ってコミットし、おおむね2年以内の目標達成を目指す政策です。それができなかった場合、中央銀行は厳しい説明責任を問われます。

 それがそもそものインフレターゲットの意味であり、市場がそれを信頼して行動することにより、インフレ期待が醸成され、目標が達成されることになります。

 そうした観点から見ると、これまで日本では、日銀が物価の安定にきちんとコミットしてきたとは言えませんでした。日銀はデフレ脱却も穏やかな物価上昇も実現することができず、「中国からの安い輸入品が増えているから、物価が下がるのは仕方がない」「資金供給量を増やしても、銀行の貸し出しが増えないからデフレから脱却できない」「政府の成長戦略が不十分なせい」などと言い訳をしてきた。

 そこで私は、安倍晋三首相に「政府と日銀が共同文書を出す際には、日銀の金融政策のみでインフレ目標を達成する旨を盛り込むべき」と提言しましたが、「それではなかなか日銀と折り合いが付かない」という話になったようです。

 結果的に共同文書では、日銀に金融政策の全責任があるとは書かれず、政府の成長戦略についても言及されました。読み方によっては、政府と日銀の「共同責任」を謳うイメージになっていることに、懸念が残ります。

 実は政府の成長戦略には、経済の潜在成長率を押し上げる効果があっても、物価を上げる効果はない。その意味で、今回も日銀は2%のインフレ目標にコミットする気はないようです。

独立性の意味を明確にするため
日銀法の改正は必要

――そうしたなか、今後日銀の金融政策は効果を出せるでしょうか。

 日銀は小泉政権時に「デフレ脱却」と言われればそれに言及し、米国が実質的なインフレ目標を導入するとそれに追随するということを続け、表向きは政府の意に従ってきました。しかし、いずれも「目標」ではなく「メド」という曖昧な言葉を使い、責任をもってデフレ脱却にコミットしようとしなかった。

 今回はアベノミクスへの期待が盛り上がり、市場が予想以上に反応を示したことから、さすがにこの流れを止めるわけにはいかないと思ったのでしょう、これまで「絶対に無理」と言ってきた2%のインフレ目標を「やる」と言い出し、初めて「目標」という表現も使いました。

 しかし、このままだと現状は変わらない。先の決定会合で日銀が公表した物価見通しによると、今回の金融緩和策や各種の経済対策を織り込んでも、2014年度の消費者物価の上昇率は0.9%に止まります。ここからも結局、日銀には2%インフレをできるだけ早期に達成するような「大胆な金融緩和」を積極的にやる意思がないことが読み取れます。

 試算によると、今のペースで物価が2%に届くには、最低でも3年、長ければ5年近くかかる。それでも市場が反応し続けて、円安・株高が続いているのは、次期日銀新執行部への期待があるからでしょう。これからが勝負だと思います。

――日銀に対しては、第一に制度に対する批判があります。「現行の日銀法が現実に則していない」という意見がありますが、これについてはどうお考えですか。


 インフレターゲットを導入している他国の枠組みと同じになるよう、日銀法を改正するべきです。先にも述べたように、中央銀行が物価の安定に全責任を持つ、そして目標を達成できないときは重大な説明責任を負う、という体制にしないと、日銀は本気にならない。基本的に共同声明や文書には法的根拠がないので、日銀を縛ることはできません。

 物価安定の具体的な内容であるインフレ目標は政府が決めることですが、その達成手段は中央銀行が決めるべきこと。「中央銀行の独立」とは、そもそも「手段の独立」を意味します。インフレターゲット導入国を見ると、きちんと法律があり、政府と中央銀行が毎年アグリーメント(協定)を交わします。そこには、中央銀行の責任について明記されている。日銀法にそういった物価安定に関わる責任の法的根拠が書かれていない日本は、そもそも特殊なのです。

 これは企業組織に例えればわかりやすい。経営者が部署の営業目標の立案を現場に任せていれば、社員は達成しやすい低い目標しか立てません。しかるに本来は、目標は経営者が決め、現場がそれに見合う働きをして賃金をもらうのが普通です。ところが今の政府と日銀の関係は、そうなっていないのです。

2%程度の期待インフレ率実現には
現在の当座預金残高を倍の80兆円に

――もう1つ、「日銀の金融緩和が不十分だから物価が上がらない」という量の問題も指摘されています。これは本当でしょうか。

 現在の買い入れ基金を通しての金融緩和では、ネットで日銀当座預金残高がどう推移しているか見えにくい。確実なのは、先にも述べた通り、今のままでは物価が2%に届くまでに多くの時間を要することになります。

 その背景には、日銀が短期国債ばかりを買うため、すぐに償還期限が来てしまい、日銀が保有する長期国債残高がネットでなかなか増えない状況があります。2014年は13兆円も国債を買う予定にもかかわらず、そのうち10兆円を短期国債が占めるために国債が償還され、結果的に日銀の保有資産残高は10兆円しか増えない見通しです。

 私の試算によれば、本当に2%程度の期待インフレ率を醸成したいなら、日銀は当座預金残高を、現在の約44兆円の2倍となる80兆円くらいまで増やさないといけないでしょう。しかし、これはあくまで試算ですから、実際の物価動向やマーケットの予想インフレ率の変化を分析した上で、修正していくことになります。

――短期国債ばかりでは不十分ということであれば、どんな資産を買うのが最も理想的でしょうか。

 中央銀行が引き受けて効果的なのは、民間が保有しにくい流動性の低い資産。そうすることで、デフレ脱却期待やインフレ期待を起こすことができます。今後買うべきは、償還までの残存期間が5年以上の長期国債でしょう。

 2013年2月末現在、マーケットの今後2年間の予想インフレ率は0.97%です。2年後までに2%のインフレ目標を達成するには、予想インフレ率をさらに1ポイント上げる必要があります。

 インフレになると、インフレに弱い長期国債は民間が保有しにくくなり、流動性が低下するので、それを日銀が長期国債をたくさん保有する地方銀行などから買い取り、その代わり彼らに短期国債を持たせる。そうすると、長期金利の上昇を抑えつつ長期での期待が醸成され、予想インフレ率を上げることができます。

――量の問題については、日銀はよく「長期国債をたくさん持つことはリスクが高い」と説明します。たとえば、金利が上がり、損失が出て日銀の資産が棄損されると、国庫納付金が減少して国民負担につながったり、通貨の信認が失墜すると言われます。

 それは日銀の詭弁です。国庫納付金については、長期国債を持ち続ければ金利が入るため、それを納付金で還元すればいいだけの話です。

 また、日本はそもそも金本位制ではなく、通貨の発行量を通貨当局が自由に調節できる管理通貨制です。金本位制では金と通貨との兌換を考える必要があるため、金かそれに準ずる外貨を中央銀行が保有していないといけませんが、管理通貨制ではそうではない。

 管理通貨制の下では、大胆に言えば、日銀の自己資本がマイナスでもいいのです。中央銀行が「破産する」と言われることがありますが、普通の銀行と違って、管理通貨制の国の中央銀行がつぶれることなどあり得ません。

――とはいえ、日銀が保有する長期国債の総額は、市場に流通している通貨の額を超えてはいけないという「銀行券ルール」もあります。大量の長期国債の買い入れは、財政ファイナンスとの批判もあります。

 そもそも、財政ファイナンスが起こらないようにするために考案されたのが、インフレターゲットなのです。物価が2%に達するまでは国債を買うけれども、それ以上は買わないと言っているのと同じ。むしろこれまでは、インフレ目標がないからこそ、市場が「日銀がどんどん国債を引き受け、財政ファイナンスになるのでは」と懸念する可能性があったのです。

 逆に言えば、政府と日銀の間で金融政策の目標と手段がきちんと分けられていれば、日銀が政府から国債購入の圧力を受けることもありません。

銀行貸し出しが減少しながら
景気が回復する理由

―― 一方で日銀は、すでに市場に流動性を十分供給しているのに、需要が不足しているため、貸し出しが増えず、景気がよくならないと説明しています。

 それは認識が違います。過去のデフレからの脱却の歴史を見ると、むしろ銀行貸し出しが減少しながら、景気はデフレ不況から回復してきたのです。

 日本は2002年1月に景気の谷を迎え、景気の山となる2008年2月のピークまで回復基調が続きました。この回復期は、小泉内閣と第一次安倍内閣の時代に当たります。実はこのとき、2000年時点で460兆円もあった銀行の貸し出しが、毎年減り続けたのです。つまり、量的緩和の時代に銀行の貸し出しが減ったにもかかわらず、景気が回復したということです。

 これはなぜか。それまでのデフレで慎重になった企業が設備投資を控えて、稼いだ資金を内部留保で溜め込んだため、内部資金が潤沢だったからです。2002年からの景気回復期に、企業はその潤沢な内部資金で設備投資の資金を賄ったため、貸し出しは増えなかったのです。


 貸し出しが増え始めたのは、景気の谷から3年半ほど経った2005年6月から。企業の内部留保が底をつくと共に、外需が堅調に増えたため、生産拡大のために資金調達需要が増したのです。

 つまり、景気が回復期に入ってから貸し出しが増えるまでの間には、タイムラグがある。1930年代に世界が一斉にデフレから脱却したときも、こうした経緯を辿りました。

 これを足もとの状況に当てはめてみると、今後はアベノミクスによってインフレ期待が広まり、円安になって輸出が伸びるという観測が出てきます。そして、企業が現在の資金で生産を拡大し、それが足りなくなると、3年半後くらいに銀行に貸し出しを頼みに行く。そうなると、景気は本格的な回復基調に乗るはずです。こうした経緯を考えずに、流動性の供給に意味がないという批判は間違っています。

 リーマンショック後、企業の現金・預金残高は急増し、現在は215兆円にも達しています。設備投資をしないことに加え、彼らが現金・預金を金融資産で運用していることも原因です。設備投資に対する現金・預金の比率は、2011年末に3.4倍まで拡大しているのが現状です。

 世界中を見回しても、企業がこれほど現金・預金を持っている国はありません。これでは国内で、生産のためにお金が回らず、「富」を生めなくなってしまう。これこそがデフレの最大の問題点です。

――ところで、金融資産ということについては、アベノミクス効果で資金が株式へシフトすると、国が国債を発行できなくなって困る、という声もありますね。

 国の仕事はほとんどが再分配であり、社会保障費や地方交付税の形でお金を移動させているに過ぎません。民間と違って富を生まず、ただ富を再分配するだけです。その国が、「デフレだから国債を安定的に消化できる」「低金利だから負担が少ない」などと喜んで、余った企業のお金を国債で吸い上げているだけでは景気がよくなるはずがない。これは国が亡びる道です。

 それに対して、アベノミクスで株高になり、景気が上向けば、税収が増えて、国が国債を発行しなくてもよくなります。これこそが正常な状態ではないのか。お金は富を生む機関に移動させなくてはいけません。

日本を「普通の国」に戻す
アベノミクス効果

――日銀のあるべき姿や、とるべき金融政策のスタンスについて、詳しくうかがいました。それでは次に、アベノミクスの効果について。「不況下で賃金が増えず、物価だけが上昇すると生活が苦しくなる」という不安の声は多いです。これをどうお考えですか。

 インフレターゲットを導入している国は、経験的に物価上昇の適正水準を理解しています。2%はその適正の範囲内であり、それ以上物価が上がらないようコントロールもされている。そうしたなかで、「ハイパーインフレが起きるのでは」といった不安を持つ国は、世界を見回しても日本だけ。これから「普通の国」に戻ろうとするのが、アベノミクスなのです。

 また、消費者物価の上昇を引き起こす要因の大部分は賃金の上昇によるものなので、そもそも賃金が上がらずに物価だけが大きく上がることは考えにくい。

 一方、デフレ下では、物価よりも賃金の下落のほうが激しい。この10年間で実質賃金は10%も下がっています。これでは実質的な物価上昇で、働く人の購買力が落ちていることを意味します。それでもデフレのほうがいいという理屈には、ならないと思います。

――そもそもお金を増やすと、どのような経緯を辿って、インフレ期待が高まっていくのでしょうか。

 マーケットで債券、株式、外貨などへの投資を専門にしているファンドなどの関係者は、日銀が本気でデフレ脱却に取り組んでいるか、金融政策のレジームはどうかなどを注視しており、それによって行動を決めている。


 そのため、マーケットが2%インフレの早期達成に向けた「大胆な金融政策」がとられると予想すると、インフレ期待が高まりやすいのです。それに対して、資産市場で投資をしていない一般国民のインフレ期待は、なかなか高まらないかもしれません。

 予想インフレ率は物価連動債から予測できますが、これは金融政策レジームに依存しています。昨年2月のバレンタインショック(日銀が事実上の物価安定のメドを1%に策定)では、予想インフレ率が急上昇して、5月には0.7%まで上がりました。ただ、日銀当座預金残高の減少を受け、「日銀は本気ではない」との見方から、一旦修正が入ります。

 アベノミクス期待の今は、2年物で0.97%ほどになっていますが、こうして金融政策のスタンスを見ながら、市場のインフレ期待は動いていきます。

 マーケットがそう動くと、円安になって輸出が伸びる。そして株高になって企業の増資や設備投資が増える。そうなると需要が増えてデフレギャップが縮小し、結果、だんだんインフレになっていく。一般国民は、そうした状況が目に見えるようになってから、初めてインフレ期待を持ちます。これがインフレ期待が醸成されるプロセスであり、資産市場の投資家たちのほうが一般国民より先に動くのです。

――アベノミクスの「3本の矢」には、財政政策、成長戦略もあります。金融政策とこれらの政策とのポリシーミックスは、どうなりますか。またどのような形が望ましいのでしょうか。

 財政政策には必要なものと、そうでないものがある。きちんとコストベネフィットは考えてやるべきでしょう。今問題になっている老朽化したインフラの改修などにはお金を使っても、新規の投資はよく吟味すべきです。

 また、財政政策で効果を出すためには、金融緩和とセットで考えることが条件となります。マンデル・フレミングモデルの考え方では、財政拡大で国債を大量に発行し、金利が上昇すると、海外資金の流入を招き、円高になる。そうすると、円高で輸出減、輸入増が起き、外需が縮小して、財政出動で生まれた内需を相殺してしまう可能性があります。そうならないために、金融政策で金利の安定を図ることが必要です。

 もう1つの成長戦略も、特定の分野にお金を集中的に流すのではなく、広く規制緩和を進めたほうがいい。ある産業が参入障壁で守られ、既得権益を得ていると、新しいイノベーションを生み出すための競争が生まれません。

 競争が生まれると当然、「敗者」も出てきますが、これも金融政策と裏表の関係にあり、デフレを脱却することで景気全般が回復すれば、敗者の行き場所ができます。逆に、敗者の行き場所ができれば、規制緩和もしやすくなる。小泉政権時は、日本がデフレ下にありながらも世界は空前の同時好況期だったため、外需の伸びが追い風となって、構造改革をしても摩擦が小さかった。しかし、本来はデフレ下での構造改革は難しいのです。

――そうした成長戦略により、格差が拡大する恐れはないでしょうか。

 格差の最大の要因は、雇用を減少させるデフレです。そう考えると、結局はデフレを放置してきた日銀のせい、という理屈になりますね。

 私はよく、「何もかも日銀のせいにしている」と批判されますが、よく考えてみると、世の中で起きている問題の多くは、元をただせばやはり日銀のせいだと言えます。

 たとえば、少子化、非正規社員の増加、企業倒産の増加、国の税収が増えないことなどは、デフレや円高で不況が続いたのが原因。日本の自殺者が3万人台になっている状況も、このことと無関係ではないでしょう。私が実証研究したところによると、自殺の一定割合以上は経済的要因が原因だとわかっています。そう考えると、日銀の責任は重大だと言えないでしょうか。

 いずれにしても、日銀を変えない限り、全ての政策がうまくいかないことを、日銀自身がわかっていないことが、何よりの問題だと思います。


 

【第10回】 2013年3月1日 佐々木一寿 [グロービス出版局編集委員]
じつは、経済学は常識はずれのサイエンス!?
麹町経済研究所のちょっと気の弱いヒラ研究員「末席(ませき)」が、上司や所長に叱咤激励されながらも、経済の現状や経済学について解き明かしていく連載小説。引き続き嶋野主任の甥・ケンジを相手に、今回は、経済“モデル”とは何か?を考えます。(佐々木一寿)

「あのー、素朴な質問なんですけど…」

 ケンジはいまさらながらなのですがというように、申し訳なさそうに言った。

「こう言うとなんですが、叔父さんと末席さん、お2人ってなんとなく変わった人ですよね」

 叔父の嶋野主任は、ユニークだといわれることが研究者として誇らしい、といった表情をしている*1。一方、末席研究員は、いたいけな大学生に「変人」だと言われたことに、ショックを隠し切れないでいる。

*1 一般に、研究者の論文にはユニークさが求められる。新規的であればあるほど、そしてそれがきちんと論証されていればいるほど、その評価は高い。

 ケンジは末席に申し訳なさそうにしながら、自身の質問を続ける。

「たとえば、『自由』と『平等』って、両方大事だと思うんですが、なぜお2人はそれぞれを極端にした意見を2つ作って、対立させようとするんですか。それってなんか、現実的ではない気もします」

 この指摘には叔父の嶋野は大いに喜んだが、ケンジはなぜ叔父が喜んでいるのかわからない。やはり叔父はユニークすぎる、と思いながら、ケンジはショックから立ち直ろうともがいている末席に立ち直りの機会を提供すべく、返答を求めた。

「なるほど。フランスの三色旗にも謳われる『自由』『平等』『博愛』*2を引き合いに出すまでもなく、自由と平等はどちらもなくてはならないものですね。それをなぜ極端に先鋭化させて論じるのか、ということですね」

*2 諸説あるなかの一説で、仏語のLiberte, Egalite, Fraterniteの日本語訳。

 立ち直り気味の末席を見て、ケンジは嬉しそうにうなずいた。末席はなんとか先を続ける。

「ケンジくん、それはね、じつは、現実がフクザツすぎるからなんですよ」

 ケンジのアタマのなかは、「?」でいっぱいになっている。末席は解説を続ける。

「『自由と平等が大事じゃない!』という人は、近代国家以降*3ではまあ、そうとうの少数派だと思います」

*3 近代国家への移行を論じる際に、歴史的に象徴的な出来事として、カトリックとプロテスタントによる宗教戦争、いわゆる「三十年戦争」の講和条約であり、近代国際法の元祖とも言われるウエストファリア条約(1648年)が挙げられることが多い。ウエストファリア条約以降は、教皇や皇帝といった中世的な権力をもって欧州を秩序づけようとする試みは事実上断念された。

 そりゃそうだ、中世の宗教国家でもあるまいし。高校で世界史を履修したケンジは、それは当然だという顔をしているが、納得をしている気配はない。その気配を察知しつつ末席は続ける。

「現実には、両方大事だとして、では、どのくらいのバランスがいいのか。これは非常に難しい問題です」

 ケンジは、末席の意図がすこしわかった気がするが、簡単にショックから立ち直られてもツマラナイ気がして、表情を変えず、あえて質問をする。

「両方大事にしましょうじゃ、なぜだめなんでしょうか」

 末席は「変人」のレッテルからの名誉挽回のために、必死で説得を試みる。

「じつは、『自由』と『平等』って、両立しない場合が多いんですよ」*4

*4 柄谷行人「自由・平等・友愛」『<戦前>の思考』所収などを参照。

 ケンジは、意外だな、という顔を作りつつ、末席の解説を待っている。

「といいますか、たとえば、近代に移行する過程では、『自由』と『平等』はどちらもそれまでにない新しい概念だったので、それを獲得しようということで済んでいました。その時点では、『自由』と『平等』の関係に対して、大して問題なかったわけです」

 期せずして、掛け言葉*5を使ってしまった末席に乗じて、嶋野が即応する。

「で、革命が起こる、と。まあ、話は簡単だよね」

*5 「対して」と「大して」。念のため。

 たぶんフランス革命あたりのことを言ってるんだろうけど、「革命が簡単」とかってなに言ってるんだろうこの人は…。世界史履修者のケンジはドラクロワの絵を思い出しながら呆気にとられている。

 嶋野の援護を受けつつ、末席は話を承ける。

「そうですね、王政を倒して近代(市民)革命が成功に終わると、それでメデタシメデタシかというとそうでもなくて、じつはそれからが大変なのでした。『自由』と『平等』は必要だし重要なので勝ち取ったのはいいとして、でも手に入れてみると、その両立はかなり難しいものだったのです」

 ケンジは頷きながらも、経済学の説明のはずなのに、なぜ世界史と社会学の話になっているのか、見当がつかないでいる。末席はそれを見越して、復習を促すように言った。

葛藤のモデルが必要なワケ

「絶対的な宗教家や封建領主による支配を脱してヤレヤレと思ったとして、こんどは市民同士が『自由』尊重派と『平等』重視派に分かれてしまう。自由に任せると、強い人と弱い人の差が出てくる(自由競争の帰結)。でもそうなると、こんどは『自由』の行使の幅が人によって異なってきてしまう(強者による支配の可能性)。それを修正(富の再分配などで)したほうがいいのではないか、あるいはどのくらいしたほうがいいのか。自己責任によるべきなのか、不平等をかなり是正するべきなのか。これが、第9回の『リバティvs.リベラル』の構図につながってくるわけですね!」*6

*6 フランス革命(1789年)で、絶対王政に基づいた旧体制(アンシャン・レジーム)は打ち破られ、市民(といういわゆる「ブルジョア」)たちによる共和制が実現したが、わずか10年後にはナポレオンの帝政(1799年)に取って代わられ、短命に終わる。これは、革命を成功させた仏貴族たちがこの難問に手こずったことが(たとえばジロンド派(=穏健派)とジャコバン派(=急進派、議会の左翼に陣取ったことから「左翼(左派)」の語源に)の抗争などを参照)、のちにナポレオン皇帝の独裁を招いたという見方がある。

 ケンジはあわてて第9回を読みなおして言った。

「なるほど、リバティ=自由主義=自己責任論と、リベラル=社民主義=社会構造論の天秤だというわけですね」

 末席は、すでにショックを乗り越え、自信を持って応える。

「まさにそうですね。さらにいえば『天秤だ』ということも実際、そのとおり。天秤の関係を専門的には『葛藤』、あるいは『ジレンマ』と言ったりします。どちらかが増すと、どちらかが少なくなる」

 今回は出番が少ないな、と危惧をしていた嶋野がここぞとばかりに補足した。

「葛藤やジレンマは、数式で表すと、たとえばa=x+yあるいはa=xyのようになる。aは定数で、ある定量の数です。xとyは変数で(ヴァリアブル、ファクターとも)、ここでは 、x=リバティ、y=リベラル、と置いてみましょう。どちらの数式でも、xが増えればyが減り、xが減ればyが増えるのを確認してください」

 ケンジは、数式が出てきたことに面を食らっている。末席は嶋野の数学的暴走を目で制しながら、フォローを試みる。

「たとえば、世の中が『自由』と『平等』の天秤で成り立っているとして、それでは、どのくらいのバランスがいいのかを論じるときに、純粋なxと純粋なyがはっきりしていたほうが、分析しやすいですよね。『それぞれの要素がこれくらいで入っている塩梅です』というふうに説明もしやすい。このときの純粋なxやyを『理念型』や『モデル』と呼んだりもします」

 ケンジは、パッチリと目が開いた、というふうに清々しく答える。

「だからお2人は、極端な例を持ち出すんですね!」

 ケンジの素朴な質問への満額回答を確信した末席は、まんざらでもない表情で続ける。

「理念型xと理念型yを組み合わせて、より大きなモデル、たとえば葛藤のモデル(a=x+yなど)を作っていったりもします。このように、モデルを構築していくことで、フクザツな現実社会のなかで見えにくくなっている両者の関係性を、非常にスッキリと見えやすくしていくわけですね。また、こうすることによって、変数のバランスを自由に変えてみたり、そうするとどうなるかを想像してみる、という『思考実験』(頭の中での仮想実験)ができるようになります。たとえば、最近のものでわかりやすい例を挙げると、『白熱教室』で知られるマイケル・サンデルの正義論がいいかもしれませんね。彼の問う、『コミュニティの最大の利益の追求』(=x)か、『個人の尊厳の尊重』(=y)か、というのも典型的な葛藤モデルの議論*7なんですね」

*7 たとえば、5人で遭難した時に、4人が助かるために1人を犠牲にしてよいか(正当化され得るか)、という議論などが典型。

 嶋野も、理論経済学者として黙ってはおれない、というふうに話を承ける。

「これを『モデル構築』あるいは『モデルビルディング』と言ったりするんだけど*8、経済学では、このモデルビルディングによって、現実の複雑怪奇な経済現象を、メカニズムとして(どう動くか)説明しようとする。そしてより良いモデルでより上手に説明できた人がエライとされる学問なんだよね」

*8 たとえば葛藤モデルによる問いは、現実的にはどっちかしかありないという答えにはならず、そのバランスが含蓄深い「永遠の(普遍的な)テーマ」となることも多い。サンデル氏のクラスがよく「白熱」するのは、このようなモデルビルディングの巧みさに大きく起因する。

「なるほど。だから、叔父さんの話は極端で常識はずれなことが多いんだ。2人で漫才してるのも、キャラを作って、葛藤のモデルを説明するためなんですね!」*9

*9 いわゆる一般理論的には、キャラを作ることは「理念型を作ること」、漫才の掛け合いは「モデルビルディングによる思考実験」に相当する。一般理論については、ベルタランフィ著『一般システム理論――その基礎・発展・応用』などを参照。

 やっぱりなんだか、今回はケンジくんに一本取られたようだ。末席は、ナポレオンに逆転負けを喫したブルジョアたちはこんな気分だったのだろうか、と、勝ち負けとは無縁の境地にいる嶋野を尻目に落ち込んだ。

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