01. 2013年2月25日 00:52:58
: Zag6oDNMIo
【第5回】 2013年2月25日 滝波純一 [ヘイ コンサルティング グループ プリンシパル],松尾博文 [神戸大学大学院経営学研究科教授] 倒れ行く巨象を変貌させた ガースナーのIBM改革のやり方 ――ヘイグループ プリンシパル 滝波純一 カルチャー・トランスフォーメーション(3) 1990年代にIBMを立て直したルイス・ガースナーは、彼の著書『巨像も踊る』(日本経済新聞出版社)で企業文化について次のように書いている。「IBMに来る以前に聞かれればたぶん、企業文化は企業を成り立たせ成功に導く要因のひとつだと答えただろう。……IBMでの約十年間に、私は企業文化が経営のひとつの側面などではないことを理解するようになった。一つの側面ではなく、経営そのものなのだ」 1992年、約50億ドルという巨額の赤字を出し、瀕死の状態にあったIBM。ガースナーは1993年にCEOに就任し、それからわずか5年で60億ドル強もの利益を計上するまでに復活させた。一体、彼は何をやったのだろうか? ガースナーは、メインフレームの箱売りに依存していたビジネスを、ITソリューションと多様なエンジニアによる問題解決の提供へと、ビジネスモデルを大きく転換した。ビジネスモデルの転換に加え、コスト削減や組織変更など、さまざまな取り組みも実行。IBMが「e-business」という有名なコンセプトを作り、積極的なマーケティングを実施していたのも、このころである。 しかし、この改革は、簡単にできたわけではない。新しい戦略がいくら明確であっても、人は簡単に変われるわけではない。ましてや、複雑な組織階層、既得権益の横行、IBM語に代表されるような、閉鎖的な企業文化をもっていた巨大企業である。そして、この難しい課題に対するガースナーの取り組みは、まさにカルチャー・トランスフォーメーションであった。 もちろん、当時はカルチャー・トランスフォーメーションの方法論などまだ確立しておらず、試行錯誤を繰り返しながらの取り組みであったはずだ。しかし、今から振り返ってみても、彼がやったことは、非常に理にかなっており、参考になる面が多い。 リーダーの戸惑い 1993年にCEOに就任するやいなや、ガースナーはソリューションビジネスへの転換を打ち出す。しかし、IBMの多くの当時のリーダーたちは、この戦略の実行に苦戦を強いられた。 IBMのリーダーたちが、ガースナーの打ち出した戦略に取り組まなかったわけでも、ましてや抵抗したわけでもなかっただろう。一部には、そのようなリーダーもいたかもしれないが、当時のリーダーたちにも、従来のやり方・ビジネスではIBMが立ち行かないことも、変革が必要なことも、わかっていたはずだ。しかし、優秀なリーダーですら、ソリューションビジネスの取り組みに苦戦し、成果を出すことができないでいたのである。 なぜか? ガースナーが知りたかったのも、まさにそれである。なぜ、これまで優秀な成果を上げていたリーダーですら苦戦しているのか? どのようなリーダーであればソリューションビジネスへの転換を実現できるのか? リーダーが変われば、社員が変わり、組織全体が変わるのではないか? 科学的アプローチによる分析 よくよく調べてみると、すべてのリーダーがソリューションビジネスに苦戦していたわけではなかった。中には、ソリューションビジネスを実行し、成果を上げているリーダーが存在したのである。 IBMはソリューションビジネスで成果を上げているリーダーを特定し、それらのリーダーが、ソリューションビジネスで苦戦しているリーダーと何が違うのか、調べていった。調査の内容は、3時間超に及ぶインタビューや、各種の診断ツールを活用した心の奥底にあるリーダーの動機、価値観、思考・行動特性(いわゆるコンピテンシー)、マネジメントのスタイル、組織の風土の評価など、さまざまな側面に及んだ。 その結果、新しいビジネスで成果を上げているリーダーと、従来のビジネスでは成果を上げていたにもかかわらず、新しいビジネスでは苦戦しているリーダーとの間に、特徴的な違いが浮き彫りになった。 例えば、マネジメントのスタイルについては、従来のビジネスでは成果を上げていたにもかかわらず、新しいビジネスで苦戦していたリーダーは、主に自らの率先行動に頼る形で組織を引っ張っていく傾向があった。従来のメインフレーム中心の箱売りビジネスでは、トップセールスが成功のカギであり、このため自ら率先垂範で組織を引っ張っていくリーダーが、成果を出していたものと考えられる。 一方で、新しいビジネスに適応し成果を上げていたリーダーは、むしろ自らが前面に出ることを抑え、メンバーに大きな目標や何故それをやらなければならないかを伝え、人間関係に十分配慮し、聞き耳を持ち、また、メンバーの育成に注力する傾向があった。 新しいビジネスは、リーダーにとっても新しい領域であり、またソリューションビジネスでは、分野の異なる様々な技術者の力を引き出していく必要があるため、自ら率先垂範で組織を引っ張るよりも、部下や同僚に働きかけ、人の力を引き出すマネジメントスタイルが求められたのである。 また、リーダーの思考行動特性(コンピテンシー)にも、違いがあった。新しいビジネスで成果を上げていたリーダーは、顧客志向が強く、チームワークに優れ、率直にものを言い、即断即決で、またIBMのビジネスに対するパッションや達成志向性が強い、などの特徴があった。これらも、ソリューションビジネスに求められる要素を考えれば、納得がいく。 そのほか、動機面にも、組織風土面にも、違いがみられた。例えば動機面では、新しいビジネスに適応し成果を上げていたリーダーは、成果を上げることに加え、人に対する影響力を行使することや、人とのよい関係を作ることに動機づけられる/やりがいを感じるタイプが多かった。一方、苦戦していたリーダーは、成果を上げることにのみ、強く動機づけられるタイプが多かった。 逆にいえば、新しいビジネスで成功していたリーダーは、成果を上げることに加えて、人に影響力を行使することにやりがいを感じる傾向があり、そのため、思考や行動面でもチームワークや顧客志向が高くなり、またマネジメントのスタイルも、自ら率先垂範して組織を引っ張るよりも、人の力を引き出すマネジメントを、ある意味、自然としていたともいえる。 リーダーシップの変革を梃子に リーダーシップの改革が、社員の意識改革、ひいては組織風土の変革につながり、ビジネスモデル転換の成功のカギとなると判断したガースナーは、リーダーシップ改革プログラムを開発し、展開した。 300人のIBMのベストリーダーを世界中から選抜し、6年間に渡って、新しいビジネスに求められるマネジメント力を習得させていったのである。ガースナーを含めたトップマネジメント層も、このプログラムにフルコミットし、リーダーシップ変革を引っ張っていった。また合わせて、新しい戦略を実行に移せるリーダーの重要ポジションへの登用も進め、組織全体のリーダーシップ変革を加速していった。 プログラムのベースとなったのは、新しいビジネスで成果を上げていたリーダーと、苦戦していたリーダーの違いである。ガースナーは、このプログラムをMMPIと呼んだ。Managing Motivation for Performance Improvementの略である。動機を変えることはできないが、マネージすることはできる。思考行動特性も意識することで強化することができ、またマネジメントのスタイルも変えることができる。だから、自分のリーダーシップの「クセ」を知り、それを求められるリーダーシップに変えてほしい、ということである。 リーダーシップ改革プログラムでは、参加者は、まず自分の動機や価値観、思考行動特性、マネジメントのスタイル、組織風土を、心理学的な診断ツールや多面評価によって、評価を受ける。こうして、自分のリーダーシップの「クセ」を知ることができるわけである。 そして、自分のリーダーシップと、新しいビジネスで成果を上げるリーダーのリーダーシップとのギャップが分かれば、自分の課題に気づくことができる。自分の課題に気づけば、おのずと、どうすればよいかも見えてくる。ガースナーは、リーダーシップ改革プログラムを通じて、これを徹底してやったわけである。 ガースナー改革からの学び ガースナー改革をカルチャー・トランスフォーメーションの方法論にあてはめて、検証してみよう。 カルチャー・トランスフォーメーションには、3つのポイントが存在することを、前回申し上げた。1つ目は水面下の要素に照準を合わせること。2つ目は、個人・社会・組織の3つの側面の交点にフォーカスすること。3つ目は、企業文化が影響を与える流れに着目すること、である。 水面下の要素という視点では、ソリューションビジネスで成果を上げているリーダーと、逆に苦戦しているリーダーと何が違うのかを、心の奥底にあるリーダーの動機から、価値観、思考・行動特性(いわゆるコンピテンシー)、マネジメントのスタイル、組織の風土に至るまで、さまざまな側面から見ていった点が当てはまる。 加えて、ガースナーは、IBMの企業文化がどのように形成され、何が今の事業環境において障害になっているかについても、観察・分析している。例えば、IBMの文化は、トーマス・ワトソン・シニアがまとめた3つの基本信条:「完全性の追求」、「最善の顧客サービス」、「個人の尊重」、に深く根ざしている。しかし、例えば完全性の追求を例にとれば、それがいつの間にか「完全性へのこだわり」に変化し、窒息しそうな文化と、意思決定の遅さにつながっていた。ガースナーは、こういった水面下の要素にも着目し、どこにメスを入れるべきか検討している。 個人・社会・組織という視点では、ガースナーが行った「原則の表明」がそれに当たるだろう。彼は1993年、IBMの新しい企業文化の基礎になる八原則を定め、全社員に発信した。 例えば、「市場こそが、すべての行動の背景にある原動力である」、「当社はその核心部分で、品質を何よりも重視するテクノロジー企業である」、「企業家的な組織として運営し、官僚主義を最小限に抑え、常に生産性に焦点を合わせる」、「優秀で熱心な人材がチームとして協力し合う場合にすべてが実現する」といったものである。これらの原則は、IBM社員の動機や価値観、人間関係、組織の目的や意味づけという、個人・社会・組織の3つの交点になるような、共通の意味づけとなっている。 企業文化が影響を与える流れの視点では、リーダーの意識・行動変革を梃子にした点が当てはまる。共通の意味づけとなる「八原則」を定め、それをIBM社員のDNAに浸透させるため、学習や、仕事の機会、昇進や金銭的な報酬など、ありとあらゆる手段をガースナーは使っている。 しかし、なんといってもポイントは、リーダーを目覚めさせ、自らが指導者として正しいリーダーシップを発揮させることである。ガースナーが行ったリーダーシップ改革プログラムは、まさにその中心的な取り組みであった。これに加え、IBMはリーダーに求められる行動要件を「リーダーシップ・コンピテンシー」として定め、研修の基盤として活用するだけでなく、業績評価や報酬にも連動させ、リーダーの意識・行動変革にドライブをかけている。 これ以外にも、ガースナーのIBM改革には、カルチャー・トランスフォーメーションの実現に向け、多くの示唆がある。今更ながら、ガースナーのすごさを、再認識させられる。幸い、IBM改革については、『巨象も踊る』以外にも、さまざまな文献・情報が利用可能である。ご関心のある方は、ぜひ参考にしていただきたい。 次回は、リーダーシップ変革を梃子に企業文化を変えていったもう1つの例として、ブラジルの企業の最近の事例をご紹介する。 【第19回】 2013年2月25日 高野秀敏 [株式会社キープレイヤーズ代表取締役] 実は前の上司の方がマシだった!? 「人間関係の悩み」による転職の危険性 前回から、マネジャー転職をした場合、どうすれば転職先で嫌われないか、周囲に陥れられないか、転職者が注意すべき点を紹介してきました。転職者のなかには、自分のスキルや経験を自信満々でアピールして新たな会社に入ったり、現職の会社での人間関係の問題を解消しようと嬉々として転職をする人が少なくありません。しかし転職先では、必ずしもあなたのスキルが評価されたり、前職の会社で抱えていた問題が解消されるとは限らないのです。そこで今回は、転職後に後悔することになってしまった2人の方の事例をご紹介したいと思います。 役員への過度なアピールに要注意! すぐに結果を求められ、追い込まれる羽目に 【事例@】 海外事業の開拓を期待されるも すぐに結果が出せずにクビになったAさん(40歳) Aさんは、東南アジアでのビジネス経験が豊富な商社出身の方。転職経験もあり、東南アジアでのビジネスコンサルタントを個人で営んでいました。海外事業の経験もあり、シンガポールで法人を設立し、東南アジア各国での会社設立やビジネス実行経験、さらに人脈もあるという比較的レアな日本人でした。もちろん英語は堪能です。 ベンチャー企業のX社は、急激に成長をし続けており、IPOも視野に入れていました。そこで次は海外進出を狙い、買収、事業立ち上げのどちらかを問わない状況で、東南アジアで活躍してくれるキーパーソンを探していました。 Aさんは、コンタクトをしてきたX社社長の海外出張中に会い、東南アジアでの過去体験に基づく多くの失敗事例と一部の成功事例を交えて話をしました。海外経験の長いAさんは自分の能力を十二分に伝えることも忘れません。X社は日本では高収益を上げる事業を展開しているものの、海外はまったくの未知数。しかし、上場以降の戦略シナリオを考えると、国内市場は成熟化しており、「次のエリア」か「次の商材」をつくらなければいけないことは明らかでした。 Aさんは、これからはコンサルタントとして活躍するよりも、ひとつの会社の内側に入り、大きな成功体験を作ることに興味がありました。そこで最初からプレゼンにも熱が入り、その後も社長と再度面談をして、海外事業成功のシナリオを強くアピールをしたのでした。 条件面に関しては、住宅手当や自動車、メイドまで、海外駐在に必要な要素は全て要求。事業上、必要な予算もつけてもらって、AさんはX社への転職を決めました。 しかし、ここからが問題でした。X社の本業の業績が、その後1年程度で想定以上に早いペースで悪化。海外事業は投資フェーズではあるものの、投資家からすると、まだ結果の出ないこの事業は無駄な投資であるように映ってしまいました。その結果として、X社の海外事業は後退させることに。Aさんは、それから会社に残ることはできませんでした。 海外事業はひとつの新規事業であり、1年、2年ですぐに結果がでるものではありません。自動車のスズキで有名なインド事業の成功も、決してここ最近はじめたものではなく、進出からすでに30年という歴史があります。それにもかかわらず、Aさんがたった1年で会社を追われてしまったのは、周囲からの期待を最初から高めすぎてしまったからでしょう。社長や株主に期待させた結果がすぐに出なかったことが、Aさんの評価を下げてしまったのです。 <転職を失敗させないためのポイント> 自分を売り込むこと自体は問題ありませんが、強く売り込めば入社後の期待も当然大きくなります。多少でも乖離があったり、会社の都合が悪くなければ、ポジションを外される可能性も高くなることを覚えておきましょう。 「人間関係」が理由の転職は要注意! 前職よりひどい上司に悩まされる恐れも 【事例A】 直属の上司と相性が合わないから…と 自分が権限を握れる中小企業に転職したBさん メーカーの管理部門に勤めていたBさん。人事系の部門でのキャリアが比較的長く、現場での経験もあるものの、今後は人事に関する専門性を高めていきたいという志向がありました。 しかし、現職の会社では人事本部長との相性が合わないという問題が…。直属の上司であるうえ、そう簡単に一社員が上司を変えることはできません。この上司は、思いつきでの発言、指示出しが多く、加えて責任を取ろうとしない。成功すれば手柄は上司、失敗すれば自分の責任に近いような事例もあり、正直ご機嫌取りにも毎日疲れていた。 一方で社長は、完全なイエスマンである人事本部長との相性は良いように見えた。少なくともなんでもいうことを聞いてくれるわけだからやりやすいわけだ。リストラや労務問題についても社長があまりタッチしたくないような重大なトラブルもその人事本部長に任せておけば解決してくれる。しかし、自分からすると、その人事本部長が引き受けていた仕事は、実際には部下である自分が多くをこなしていた。また未然にトラブルにならないように自分のほうで処理してきたものも沢山ある。 人事の仕事にプライドは持っているが、この上司が意外と若く、自分と5つしか違わないため、上司が辞めなければあと10年以上この関係が続く可能性もある。そこで思い切って転職を決め、直接社長とやりとりができるぐらいの規模の小さな会社へと転身をした。完全に人事の責任者として実行して良いという話だったので、張り切って転職した。しかし、その後が大変だった。 創業社長の直下での仕事ということだったのだが、この人が前職の上司以上に指示が思いつき。加えて、防波堤になってくれる上司もおらず、部下の多くはプロパー社員で社長を信じているため、中間管理職としてのつらさが尋常ではなかった。 多くの社員が、社長が横暴だとは思っているが、それには慣れており、会社へのロイヤリティが絶大だった。絶大というよりは、それしか知らないという新卒上がりの社員が多かったからかもしれない。 毎日胃が痛い。創業社長に比べれば前職の上司の無茶ぶりなんて可愛いもんだった。突然、感情的に怒鳴られることも多々あり、社長の顔を見ると胃が痛くなる毎日となった…。 <転職を失敗させないためのポイント> ほとんどの会社において上司が良い上司、素敵な上司である確率は高くありません。組織である以上、みな利己的に動きやすく、人間関係の苦労はつきないもの。転職だけで人間関係を解決することは難しいのが現実です。 また、責任のあるポジションにつくということは、権限がある分だけ、よりプレッシャーがかかり、要求レベルが高くなります。この高いハードルをクリアできるかどうかで、次のステップがあるかどうかが決まってくるものです。ですから、より高いポジションや責任のあるポジションに中途採用で入る場合は、上司だけではなく、部下の目線も厳しくなることが多いため、覚悟が必要となることを忘れないでください。 【第84回】 2013年2月25日 高城幸司 [株式会社セレブレイン 代表取締役社長] 「活字離れ」が若者の人間力まで低下させた!? 上司が“読書をしない部下”を嘆く理由とは 「若者の活字離れ」は、もう随分前から懸念されてきました。ただ、最近では、「ヘビーな読書家」と「まったく読書をしない」タイプへの二極化が激しく進んでいるように感じられます。
一方で職場の上司は、すべての若手社員が平均的に読書をして、それを仕事に役立ててほしいと願っているようです。そんな上司の期待に対して、部下たちはどう感じていると思いますか?また、電子書籍も含めて、仕事に役立てるための読書をどのようにしていくと効果的なのでしょうか? 今回は、部下に読書を強要する上司を例に、若者の本とのあるべき付き合い方について、みなさんと一緒に考えてみたいと思います。 上司が部下に「読書」を強要! 読書量が人格の善し悪しを左右する? 「少し気が滅入っているんだ。1杯付き合ってくれないか?」 専門商社に入社して3年目のGさんは、学生時代の友人にこうメールを送り、飲みに誘いました。Gさんは学生時代にサークルを仕切っていたようなリーダータイプ。そんな明るい彼が、悩みに打ちひしがれている状況なんて想像できません。ゆえにその友人はとても心配になり、仕事を早めに片付けてGさんと会うことにしました。 「場所はうちの職場から離れたところがいいな」 との願いも追加で送られてきたので、友人はGさんを自分の職場のそばに呼び出すことにしました。一体、何に悩んでいるのか?気になって仕方ありません。 さて、2人が落ち合ったのは19時過ぎ。場所は個室のある居酒屋です。 「久々なのに、急に連絡してゴメンな」 到着したGさんの声も何となく力がありません。友人は1杯目のビールを注文。お互いの近況など報告し合いながら、あっという間に飲み干してしまいました。ただ、よくよく考えてみれば、Gさんはあまりお酒を飲まないタイプ。それにもかかわらず、今日はグイグイとビールを飲んでは追加注文。やや気分を発散させたい様子です。30分ほど経過したところで、ようやくGさんは悩みを切り出しました。 その内容は上司から「本を読め」と強要されること。日常の会話で常識が無いと指摘されることがあり、ついには、 「本を読まないから人間力が高まらないのだ。月に4冊以上読んで感想を提出すること」 と無茶な指示を受けたようです。しかも、懸命にその指示をこなしたにもかかわらず、読んだ本に対して「センスが悪い」とか「そんな本を選ぶなんて…」と嫌味を言われる始末。 「そこまで読書を強要される意味がわからない。しかも、読むべき本の選び方まで注意してくる。だったら、いっそのこと読む本を決めてくれればいいじゃないか」 こう悩みを打ち明けたGさんでしたが、友人にしてみれば、もっと深刻な内容かもしれないと思っていたので、ほっと一安心です。そして、 (イマドキの若手社員は読書なんて誰もしてないよ。似たような悩みは誰もが抱えているだろう) と心の中で思いながら、 「俺も会社の上司に『本を読め』とよく言われる」 と、同じような境遇にあることを伝えました。おそらく、上司は一般常識を身につけさせるためにそうした指示を出しているのでしょう。ただ、具体的に何を読めばいいかは教えてくれません。 同じように友人も、 「読書の量で人格の善し悪しを判断するなんて困るよな」 と嘆きはじめました。するとGさんは、似たような境遇に置かれている友人の話を聞いて、みるみる元気になってきました。 「お前も俺と同じで読書の強要をされているのか。安心した」 妙な共感が得られたことで、悩みが一気に飛んでいったようです。ただ、明日からも上司からの読書の強要は続きます。一体、どうしたらいいのでしょうか?そもそも、読書は仕事において本当に必要なものなのでしょうか? 本を読まないから会議で発言できない? イマドキの若者に足りない「まとめる力」 読売新聞社が実施した『読書に関する全国世論調査(2012年)』によると、1ヵ月間に本を1冊も読まなかった人は近年平均して50%以上に上るとのこと。「本離れ」に歯止めはかかっていません。 その代わりに電子書籍を読んでいるのかと言うと、そういうわけでもありません。紙の書籍に比べれば電子書籍市場は大きく伸びていますが、そもそもグロスの規模は比較にならないくらい小さいもの。多くのメディアで「日本の電子書籍、普及はいつ?」と取り上げられる状態が続き、本格普及にはまだ至っていません。 取材した若手社員たちに聞いても、 「端末で読書するのは疲れます。なので、電子書籍は読みません」 と回答する人が大半でした。紙では読まないけれど、端末でならば読むという単純なものではないのです。アプリやソーシャルメディアでは遊ぶけれど、電子書籍は読まない。活字離れは止まりません。 こうした状況の影響なのか、職場の上司のなかには、活字離れが人間力を低下させて仕事に支障をきたしていると感じている人が少なくありません。そこで、先ほどご紹介したようなGさんやその友人の上司のように、 「若手社員は強制的に読書をさせるべき」 という考え方になるのかもしれません。 では、具体的には活字離れによって若者のどんな力が低下しているのでしょうか? 取材した管理職の方々が主張していたのは、「考えをまとめる力」でした。あるメーカーの管理職であるDさんは、こう話してくれました。 「活字離れで文章を読まない部下たちは、考えをまとめる能力が低いと思います。同時に自分の考えを伝える能力も低い」 ゆえに会議で発言を求められても答えられない、お客様からの要望を理解できないといった場面を頻繁に見ると教えてくれました。 確かに話すべき内容をまとめる事ができなければ、適切な言葉を発する事もできません。読めない、と言う事は、喋れない、と言う事。そんな認識が、上司が部下に対して「本を読め」と言うことにつながっているかもしれません。 最初は趣味に関する本を読んで 読書へのハードルを下げよう ただ、部下にしてみれば本を読まないからといって、読書を真っ向から否定している訳ではありません。具体的に何を読んだらいいのか、上司に教えてもらいたいと感じています。ですから、ここは、上司のマネジメント上の丁寧な対応が必要かもしれません。 イマドキの若手社員は、「適当によろしく」というような曖昧な上司からの指示では動けない傾向にあります。ゆえに、読書を勧めるのであれば、部下が読書を好きになる、興味が持てる、さらに仕事に有効などと思えるジャンルの本をアドバイスするべきでしょう。 例えば、 「俺が若い頃によく読んだのは○○という本なんだけど、仕事に悩んだときに救われたものだ」 とおすすめの1冊を紹介したり、仕事上で役立ちそうなテーマを教えてあげるような配慮をすると効果的です。ちなみに私も入社2年目のときに上司から、城山三郎氏の1冊を勧められて、読んだことが今までの大きな糧になったと痛感しています。 ちなみに活字離れが進んでいるといっても、趣味に読書をあげる人はかなりいます。では、そんな人たちはどんなジャンルの本を読んでいるでしょうか? 毎日新聞社が行う『読書世論調査』によると、読む本のジャンルは、 男性は、「趣味・スポーツ」「日本の小説」 女性は、「暮らし・料理・育児」「趣味・スポーツ」 が人気とのこと。上位にはランクされませんでしたが、ビジネス書を熱心に読んでいる人も最近では少なくありません。そこで、こうした読書好きの人たちに仕事への読書の有効性を聞いてみると、 「(仕事に役立つかどうかなどを)深く考えて読書をしているわけではない」 との回答が大半でした。ただ、あえて振り返れば「気分転換のため」という理由に加えて、以下のような理由を挙げてくれる人もいました。 「自分の課題を解決するヒントを読書から学ぼうと、本を探して読むと効果が明らかに出てくる可能性が高い」 こう話してくれたのは月に4冊以上の読書をしているSさん(35歳)。趣味に関する本を1〜2冊読み、好きなことを活字で読むことで読書に対する抵抗感を下げて、自分の課題を解決するため本を勢いで読む習慣をつけているようです。 読書に慣れない人には活字をみているだけで眠くなる人もいます。そんな抵抗感を払拭することも必要かもしれません。 GさんやGさんの友人も、 ・上司には報告しない「趣味的でお気楽な」ジャンルの読書 ・上司に報告する「自分の課題を解決する」ジャンルの読書 を組み合わせつつ、読書に取り組んでみたらいいのかもしれません。 1日で4冊の本を読破!? スピード重視は無意味になることも 一方で、マニアックなほど、仕事用に読書をする人も増えているようです。「速読」という本を速く読むスキルを身に付けて、「効率的にたくさんの知識を本から吸収したい」と頑張っているのは広告代理店に勤務しているFさん(25歳)。学生時代から就活のためにビジネス書の読書を開始。累計で5000冊を超える読書をしてきました。Fさんは読書を趣味として楽しんでいるのですが、知識の吸収よりも、 「速さにこだわり、月に一体何冊の本を読めるか?」 を探求していると言います。仕事が忙しいので平日に読書をあまりできない状態が続いているので、週末は自宅から4冊の本を持ちだして、近所のカフェに移動。問題解決力、コーチング、整理法、経営学などの本を1日で読破。そして、「達成感を感じます」とのこと。こうした週末の過ごし方を3年以上続けています。 こうなると読んだ中身が頭に残っているかが、とても心配になります。読書とはすべて目的に紐づいて行うものではありませんが、活字を単なる情報としてインプットするのはいかがなものと感じます。文章に潜む著者の「意図」を組みながら楽しみ、学ぶことで読書は奥深くなること間違いありません。 日々の忙しい時間のなかで自分の読書時間をどれくらい費やすべきか。ゼロでは困りますが、仕事との関係を踏まえて有効なボリュームを考えて取り組んでいきましょう。 ◎編集部からのお知らせ 本連載の高城幸司氏が共同執筆をした最新刊『新しい管理職のルール』が好評発売中!
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