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窮地に立つ日本企業
レアアース問題、その後 高性能磁石の生産厳しく
一時に比べて鎮静化したレアアース(希土類)問題。ところが、レアアースを原料にした高性能磁石を生産する日本メーカーは一段と厳しい状況に追い込まれている。日米中の政治的な緊張関係のなかで身動きが取れなくなり、このままでは世界に誇る先端素材技術が立ち枯れになるという。何が起こっているのか。
世界で需要が伸びている高機能インバーターエアコン。その中核部品であるインバーターモーターから日本製の高性能磁石が突如、消えてしまった。三環高技術、北京京磁技術、安泰科技(いずれも北京)など中国政府系の新興磁石メーカーの製品に置き換わっている。
2010年9月に起きた、尖閣諸島沖での中国漁船による体当たり事件で状況が大きく変わった。中国政府がレアアース輸出規制を強化し、日本メーカーは思うようなコストで磁石をつくれなくなった。中国の新興磁石メーカーが品質は劣るが、2〜3割安い磁石で攻勢をかけてきた。
デジタル機器の基幹部品
長期間強い磁力を維持する高性能磁石は家電、デジタル機器に使うモーターの性能を左右する基幹部品。20年の市場規模は現在の10倍以上、1兆〜2兆円に成長するとされる。日立金属の元社員が発明し、TDK、信越化学工業を合わせた3社が30年以上かけて市場を開拓。世界市場を独占してきた。だが、泣きどころがあった。高温でも磁力を維持するためジスプロシウムというレアアースが欠かせないが、埋蔵量の9割以上が中国に集中する。
技術流出は覚悟のうえで日本メーカーは中国での現地生産に踏み切ろうとした。昨春、TDKと昭和電工は中国での磁石の合弁生産に乗り出すことを決めた。日立金属も14年をめどに中国生産の検討に入っていた。ところが、日米政府からストップがかかった。「安全保障上の理由」という。高性能磁石は長距離弾道ミサイルが飛んでいく方向を制御する装置の材料に使われる。経産省は昨年8月に輸出貿易管理令を改正。高性能磁石と製造装置、関連部品を規制対象に加えた。
メーカーにとっては死活問題。日立金属会長の持田農夫男、社長の藤井博行が経産省を訪れ、改正撤回を求めた。しかし経産省幹部が日立製作所社長の中西宏明を呼び出したため、これ以上動けなくなった。
一枚岩だった日本勢の関係にも亀裂が生じている。「それは裏切り行為だ」――。昨年12月上旬、TDK首脳は昭和電工社長の市川秀夫に食ってかかった。昭和電工が磁石の原材料であるレアアース合金を「13年から中国磁石メーカーにも売る」と公表したからだ。昭和電工のレアアース合金を使ってTDKは高性能磁石を生産してきた。昭和電工の行為は「敵に塩」と映った。昭和電工も苦しい。日本勢の中国磁石合弁工場は建設の見通しが立たず、日本向け輸出もままならない。
中国政府がジスプロシウムやネオジム、合金の輸出に課す輸出関税を引き上げていることも痛い。15%だったレアアースの輸出税を近年25%まで引き上げた。一方、中国企業がつくった磁石を輸出すれば、逆に増値税(消費税に相当)が還付される。仮にタイやインドネシアに磁石を輸出しようとすると、日本勢のほうが3割以上高くつく計算だ。
ジスプロシウム相場の暴落も打撃だ。中国製や格安フェライト磁石の台頭で、ジスプロシウム需要が大きく減った。取引価格は最高値をつけた11年夏に比べ4分の1以下に急落。在庫を増やしていた日本メーカーを直撃した。
「技術革新しかない」
日本の高性能磁石のカギを握るのが自動車メーカーだ。今後、最も潜在需要が大きいのは、モーターで動くEV。その巨大市場は中国。トヨタ自動車や日産自動車はいずれ、中国でEV生産に乗り出す可能性が高い。しかも中国市場向けの車の部材は現地で調達するのが基本戦略だ。
「技術力で突破するほかない」――。日本ではジスプロシウムをまったく使わない高性能磁石の開発が進む。実用化で高性能磁石のコストのおよそ半分を占めるレアアースの原料費を大幅に減らせるか、時間との戦いだ。=敬称略
(石塚史人)
[日経新聞2月17日朝刊P.10]
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