★阿修羅♪ > 経世済民79 > 291.html
 ★阿修羅♪  
▲コメTop ▼コメBtm 次へ 前へ
アベノミクスの死角は マーティン・フェルドシュタイン氏:「金利上昇、財政再建阻む」
http://www.asyura2.com/13/hasan79/msg/291.html
投稿者 あっしら 日時 2013 年 2 月 21 日 00:18:18: Mo7ApAlflbQ6s
 


経済論理に関する説明は驚かされるほど支離滅裂だが、対中国観は妥当である。


●「中国はよほどの大きな問題が起こらない限りは、GDPの規模が世界一になる。それは様々な変化をもたらす。いまはアジア地域の国々は中国に警戒感を抱き、米国を頼りにしている。しかし、今後30〜50年たって中国が責任ある態度をとるようになれば、中国はより好意的にみられるようになるだろう」

●「米国はGDPでは世界第2位になるが、1人当たりGDPでみればまだ中国は貧しいことを、米国の思慮ある人々は理解するようになるだろう。貿易・外交面では中国の力が増すだろうが、それに対処していかなければならない」

●「米国一極支配ではなく多極化した世界になる。中国が最大の軍隊を持ち、最大の市場になる。第1は、そういう事態に驚かないことだ。第2は、米国は自らのためにも、同盟国を安心させるためにも、軍事力を強化しなければならない」

● 米国にとって真の課題は、GDPが第2位に転落するのを心配するより、成長を促す政策に集中し国内問題を解決することだ」


===================================================================================================
アベノミクスの死角は
マーティン・フェルドシュタイン氏 「金利上昇、財政再建阻む」
「米量的緩和は過大評価」

 金融緩和と積極財政、成長戦略の「3本の矢」で経済再生を狙うアベノミクス。日本以外の先進国も、金融危機後の景気対策や税収減で財政赤字が膨らむ中、量的緩和など非伝統的な金融政策を推進している。こうした経済政策に死角はないのだろうか。日本経済や世界市場の長期展望について、米経済学界の重鎮、マーティン・フェルドシュタイン氏に聞いた。

 ――金融緩和と円高是正を目指す安倍晋三政権の政策を「間違った政策」と批判していますね。

 「日本経済の潜在的な問題は金利上昇だ。日本政府は、インフレ、円安と同時に低金利を維持しようとしているが、これらを同時にすべて実現するのは極めてまれだ」

 「日本がこれまで低金利だったのは非常に幸運なことだ。だからこそ今の政策は危険な方向なのだ。長期にわたりインフレを約束する政策は金利上昇を招き、利払いの増加で財政再建を難しくする」

 ――今のところ円安・株高が進んでも、金利は安定しています。

 「将来物価が上昇すると市場が確信したら、金利が低いままでとどまるだろうか。日銀の巨額の量的緩和で一時的に金利を抑えることはできるかもしれないが、通常、通貨安と物価上昇は長期金利の上昇(国債価格の下落)を招く」

 ――日本国債の大半は国内投資家が保有するため、消化に問題はないのでは。

 「日本の貯蓄率が低下しているなかで、今後、日本政府がどう国債を消化していくのか。住宅や設備投資など内需が回復すれば、海外投資家にもっと国債を買ってもらう必要が生じる」

 ――金融政策でインフレ率を上げるのは簡単ではないという見方があります。

 「金融緩和がインフレを起こすかどうかはわからないが、円安が進めば輸入価格の上昇を通じて物価は上がる。輸入コストの価格転嫁だけでも大きな問題だ」

 ――日銀が金融政策の一環で米国債など外債を買う案も浮上しています。

 「それは円安を促しインフレ圧力を高めることにはつながるだろう。それで金利が上昇しなければいいのだが。市場が景気回復やインフレ圧力をおりこんで、金利が上がる恐れがある。そうなると円安がもたらす好影響も打ち消される」

 ――今年中に日本国債が急落する可能性もあると。

 「市場は期待で動くので何ともいえない。何か特定の出来事によって起こるとは限らない。人々があたりを見回して『(金利上昇は)避けられない』と言い出したら、それは起こる」

 ――アベノミクスが正しい処方箋でないとすると、正しい政策は。

 「私がすでに過去に示した案だが、消費税率を四半期に1%ずつ2年間にわたって引き上げ、同時に所得税率を下げることで、増減税同額の財政中立にして財政引き締めを回避する。これでインフレが永続するという期待をつくらずに、物価を上げることができる」


通貨戦争にあらず

 ――財政危機の欧州も、ユーロ安で輸出競争力を回復しています。

 「ユーロ圏の個別国は通貨切り下げができない。ユーロ全体が安くなれば、スペインやイタリアなどの景気刺激になる。私は日本も含めて通貨が安くなることに反対しているわけではない。金利上昇を招かずにそれを進められないのではないかと心配しているのだ」

 ――欧州では、日本の円高是正政策への反発もあり、通貨戦争を懸念する声もあります。

 「今起きていることが通貨戦争だとは思わない。多くの中央銀行が国内要因で金利を引き下げているが、皆がそれが為替相場に影響することを認識している。米国の金融緩和は米国の輸出を促進するためのものではなく、銀行を支援し、消費を刺激し、企業を元気づけるために実施したものだ。通貨戦争を仕掛けるという政策ではない」

 ――ユーロ圏は少し落ち着いてきたようです。

 「欧州中央銀行(ECB)の金融政策で市場は落ち着いたが、スペインなどが財政再建計画を実行できるかわからない。ECBがスペインの国債を買い始めてから、途中で財政再建がうまくいかなくなった時、(ECBの損失を抑えるために)国債購入をやめることができるだろうか」

 ――米経済の状況は。

 「住宅価格は上がっているが、経済実態に基づいて上がっているのかがはっきりしない。米連邦準備理事会(FRB)が金利を低くおさえているからだけかもしれない」

 ――量的緩和など非伝統的な金融政策の効果はあまりないと?

 「少しはあるだろうが、最初の1年目だけでその後は効果は小さくなっていく。FRBは毎月850億ドル、年間では1兆ドルの資産購入をする予定だが、大きな効果は期待できない」

 ――米国の量的緩和の効果は過大評価されているのでしょうか。

 「そう思う。人々は『住宅価格は大きく回復した』という。昨年10〜12月期に実質建設支出は年率15%伸びたが、それは国内総生産(GDP)を0.3ポイント押し上げたにすぎない」

 ――金融緩和で、米国は深刻な景気後退に陥るのは回避しました。

 「そうかもしれないが、どれだけのリスクが伴っているかはわからない。ある時点でFRBは『これ以上はできない、経済をこれ以上のリスクにさらすべきではない』と言うべきだ」


国債バブルを懸念

 ――米経済のリスクは何でしょうか。

 「第1は国債バブルのリスクだ。ある時点でFRBは国債を買い続けることができなくなり、売却し始めるかもしれない。その時、国債市場は支えを失う」

 「第2はインフレのリスク。失業者の4割は6カ月以上の長期失業者だ。職探しをあきらめて統計上は失業者と計算されない人もいる。物価が上昇し始めても長期失業の問題は残る。金融引き締めが遅れ、インフレが進む恐れがある」

 ――FRBは物価安定だけでなく雇用の最大化も目標にしています。金融政策でできることには限界があるのでしょうか。

 「FRBは『経済は明らかに弱いし、議会はこれ以上の財政刺激策をとる能力がない。金融政策しか残っていない』と言うだろう。ほかにできる手段がないということだろうが、私は失敗につながるかもしれないと思う。FRBは政策のコストを過小評価している」

 ――金融政策に頼らずに成長を支えるにはどうしたらいいのですか。

 「米国が財政再建に取り組まなければいけないのは疑いない。将来の増税不安を取り除き財政赤字を縮小する道筋を示すことが経済を支える。消費者や企業の心理も好転するだろう」


中国が最大市場に

 ――少し先に目を転じて、2050年ごろの世界経済はどうなっているでしょう。

 「中国はよほどの大きな問題が起こらない限りは、GDPの規模が世界一になる。それは様々な変化をもたらす。いまはアジア地域の国々は中国に警戒感を抱き、米国を頼りにしている。しかし、今後30〜50年たって中国が責任ある態度をとるようになれば、中国はより好意的にみられるようになるだろう」

 ――米国の位置は?

 「米国はGDPでは世界第2位になるが、1人当たりGDPでみればまだ中国は貧しいことを、米国の思慮ある人々は理解するようになるだろう。貿易・外交面では中国の力が増すだろうが、それに対処していかなければならない」
 「米国一極支配ではなく多極化した世界になる。中国が最大の軍隊を持ち、最大の市場になる。第1は、そういう事態に驚かないことだ。第2は、米国は自らのためにも、同盟国を安心させるためにも、軍事力を強化しなければならない」
 「米国にとって真の課題は、GDPが第2位に転落するのを心配するより、成長を促す政策に集中し国内問題を解決することだ」

 ――シェールガス革命は何をもたらしますか。

 「今後10〜20年で米国の輸入原油への依存は弱まる。最も大きな政治的影響は産油国に及ぶだろう。サウジアラビアなど中東諸国は、原油価格が1バレル50〜60ドルになれば深刻な問題を抱える。サウジ、ロシアなど他の国にどう影響するのか注意しなければならない」


米保守派の論客

 Martin Feldstein ニューヨーク市出身。米ハーバード大、英オックスフォード大で学び、67年にハーバード大助教授、69年に同教授に。77年に40歳以下の経済学者が対象で米経済学界の登竜門とされるジョン・ベーツ・クラーク賞を受賞した。
 レーガン政権初期の82〜84年に大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めた。その後も歴代政権で、経済政策のご意見番として活躍する。「小さな政府」を志向する共和党の支持者で、米保守派を代表する論客だが、オバマ政権の経済再生諮問会議のメンバーに入ったこともある。
 大学でのマクロ経済学の講義は学生の間で人気で、サマーズ元財務長官、リンゼー元大統領補佐官、ハバード元CEA委員長らは教え子でもある。財政・金融から国際金融・通貨、医療・福祉問題に至るまで、幅広い分野で発言を続けている。73歳。


金融政策への過信、重鎮の言葉は重く

 大胆な金融緩和を打ち出したアベノミクスに対して、ノーベル賞学者のクルーグマン教授をはじめ米エコノミストの間では好意的な評価が目立つなか、フェルドシュタイン氏は「間違った政策」と辛口評価だ。
 同氏は、日本に限らず超低金利のもとで、日米欧の中央銀行が打ち出した非伝統的政策の効果には懐疑的だ。住宅価格や株価などへの好影響も一時的なものにすぎないとみる。
 むしろ各国は地道な財政再建に取り組むべきで、特にこれまで巨額の政府債務を抱えながら国債金利が低位安定してきた日本には懸念を抱く。金融政策への過信に警鐘を鳴らす重鎮の言葉は重い。
(ワシントン支局長 藤井彰夫)

[日経新聞2月17日朝刊P.9]


 

  拍手はせず、拍手一覧を見る

コメント
 
01. 2013年2月21日 14:38:57 : xEBOc6ttRg
アベノミクスでIT業界の給料は上がるのか?
企業の業績と連動しない人月単価と年収
2013年02月21日(Thu) 横山 彰吾
 2012年12月の総選挙で自民党政権が誕生し、今年に入ってからは円安株高の流れが続いている。安倍晋三政権の景気対策は果たしてIT関連業界において良い影響が出てくるのであろうか?

 安倍政権の景気対策は金融緩和を中心として進められているが、一般の企業向けの中長期的な対策としては規制緩和と補助金・減税のようだ。

 TPPへの参加をはじめ規制の枠組みが変わると、ビジネスの枠組み、それに応じたシステムの見直しも発生する。補助金や減税についても、どういう活動が恩恵を受けられるのかにもよるが、うまくすれば情報システムに企業の投資資金が回ってくる可能性はある。大きな流れとして、IT業界には順風が吹くと見てよさそうだ。

 IT業界は1980年代からずっと成長軌道を描いてきたが、リーマン・ショックで大きな打撃を受け、現在は踊り場の状態にある。企業努力はもちろん必要だが、政府の景気対策に期待をかけたくなるのは無理もない。

会社の業績が良くなっても業界の年収は変わらない

 では、企業の業績はそれなりに良くなるものとして、そこから収入アップにつながるかを考えてみたい。政治家は「国民の生活」「豊かさ」という言葉をよく口にするが、果たしてそこに至るのか?

 業績向上が給与に反映されるかどうかは、業界や所属団体によってまちまちであろう。もちろん企業の方針によっても異なる。ローソンはじめ一部の企業で賃上げの動きはあるが、経団連は消極的だったりして、一概には言えない。

 特にIT業界は、勢いがいいときは飛躍的に収入が上がったり、逆によくないとバタバタと人員が整理されたりする。一般企業の動きは参考にならないようにも思われる。

 IT業界における収入アップの理想的なメカニズムを簡単に言うと、「情報システム投資が増える」→「案件が増える」→「仕事が増え、売り手市場になり単価が上がる」→「各社の収益が上がる」→「利益の配分や人材確保のため就業者の収入が上がる」という流れである。この流れがスムーズにいけば万々歳なわけだ。

 現在のIT業界で、このメカニズムが機能するだろうか。ここ数年のデータで検証してみたいと思う。

 下の図は、2005年を起点に、IT業界における売上高、従業員数といった経営指標(経済産業省の公表値より)と、(人月)単価(日銀の企業向けサービス物価より)、さらに調査機関による年収推移を重ねたグラフである。「動きの違い」を見たいので、2005年の数値を「1」として指数化した。


情報システム業界における2005年起点での業績・雇用指標の推移
 売上高は2006年に大きく伸び、2009年まで増加し続けている。従業員数の推移もほぼ同じような動きを示していることが分かる。

 一方で、単価と年収はいずれも「横ばい」、むしろ「微減傾向」にある。現場感覚としては、単価はもっと劇的に下がっているのではないかと思われたが、エンドユーザーが実際に支払う額が大きく下がっているわけではなさそうだ。

 先に述べた、売り手市場で単価も売上も両方上がるという動きは見られず、また、売り上げが上がったからといって収入が上がるという流れもそう簡単には成り立たないようである。

 また、この業界は非常にシンプルで、人件費と人月単価を連動して見るところがある。そのため単価が横ばいのままだと、給与を上げようという判断には向かわない。

人月単価に引きずられるコスト構造

 この図で注目すべきこととして、リーマン・ショック直後の2009年はなんとか売り上げ増加傾向を維持しているが、単価、年収が微減にさしかかっている点が挙げられる。

 この時期、企業は来るべきリスクに備えてコストの抑制に動いていた。売り上げ向上を維持できたとしても、それは人件費向上には回らなかったのである。

 逆に言うと、追い風の兆しが出てきても人件費を抑えることで、なんとか業績を維持向上させておきたいという本音が見える。IT企業は、向こう数十年の単位での明るい未来でも見えない限り、そう簡単には給与を上げたりはしないということだ。今の景気対策でそこまで見えるかというと、それはあり得ないだろう。

 少し違う視点として、グラフ上に同時期のIT企業の倒産件数も並べてみた。2009年は過去最大数の倒産があったようだ。この時期に各企業が生き残りのために人件費を含めてコスト抑制に奔走していたことは容易に想像できる。

 手堅く経営をする会社で変動のない給与をもらうのが幸せか、会社がいつどうなるか分からなくても好業績の時には給与を増やしてもらうのが幸せか。これは価値観によって意見が分かれるところだろう。

 いずれにしろIT業界は、人月単価に引きずられるコスト構造になっている。組合活動も活発ではなく、企業側にイニシアチブがある。そんな特徴のあるIT業界においては、アベノミクスで給与が増えるという現象は起きにくいのではないだろうか。

企業が高い給与を支払う人材とは

 もちろん、以上はマクロなデータを基にした仮説である。「会社の業績と給料が連動しない」と言い切るのは乱暴で、個々の企業によって異なるであろう。個人のスキル領域とスキルレベルによっても恩恵の受け方が異なってくる。

 むしろ、IT業界で働く人は以下のことを念頭に入れる必要がある。

 今、企業が高い給与を支払う人材というのは、人件費の1.5倍とか2〜3倍のレベルで稼いでくれる人ではなく、数十倍、数百倍、数千倍の事業貢献をしてくれる人材である。こうした人材の給与は人月単価の変動に左右されない。

 IT企業の経営者は、上昇しつつある景気の波をうまく捉えながら、本当に有効なシステムを適切な価格で提供できるよう努力すべきである。社員の側は、どうすれば会社の事業に高度に貢献し「豊か」な生活を手に入れられるかを考えるべきだろう。

 


 

安倍政権と習近平政権の共通点
2013年02月21日(Thu) 瀬口 清之
 昨年12月26日の安倍晋三政権発足から1カ月半が過ぎた。経済面ではアベノミクスに対する期待から円安と株高が生じ、経済界の気分は明るくなっている。外交面では中国との関係修復に動き出した矢先に、レーダー照射事件が起きて、正常化に向けた動きに水が差された。

 しかし、全体としては日中双方とも冷静な態度を維持しており、正常化に向けた流れを後退させることにはならないように見える。現時点では国民の多くが安倍政権に対して、経済・外交両面にわたり安心して見ていられる政権が発足したという印象を持っているのではないだろうか。

安倍首相・習総書記への期待は、スローガン倒れの前政権への反動

 日本で安倍政権が発足する1カ月余り前の11月15日、中国では習近平が党総書記および党中央軍事委員会主席に就任した。ほぼ同時に誕生した両国の政権を比べてみると、いくつも共通点があることに気づく。

 第1に、国民の期待の高さである。2009年9月に鳩山由紀夫政権が発足した後、菅直人政権、野田佳彦政権と3代の民主党政権を経て、安倍政権は3年3カ月ぶりに自民党として政権を奪還した。民主党政権時代は、外交面で日米関係、日中関係を悪化させ、内政面では東日本大震災の復興事業および原発問題での対応策において、国民の期待を大きく裏切った。


首相官邸で緊急経済対策について説明する安倍晋三首相〔AFPBB News〕

 多くの国民が「コンクリートから人へ」「政治主導の国家運営」などのスローガンに期待をかけたが、鳩山・菅内閣時代に官僚を排除し過ぎて行政運営が停滞した。野田政権はその反省に立って政治主導路線を修正したが、時すでに遅しだった。先の総選挙での自民党の大勝は前政権に対する批判の裏返しによるものである。

 国民はスローガンを重視し過ぎて実務面で安定感を欠く民主党の政権運営に対する批判を強め、安心して見ていられる国政運営を望んだ。自民党の政策に積極的に期待するというより、民主党には任せられないので、代替の選択肢は自民党しかなかったという消極的な選択の結果だった。

 習近平政権も国民からの期待が高い。これは習近平の過去の政策運営実績からみて彼の政策実行能力に期待するという積極的な要因ではない。2002年に党総書記に就任した胡錦濤が、「人間本位」「科学的発展観」「和諧社会」といったスローガンを前面に出したことに国民は当初大きな期待を寄せた。

 江沢民政権時代に経済成長重視路線を突き進んだ結果、貧富の格差拡大、都市と農村の格差拡大、役人の腐敗・権力乱用の深刻化など社会に大きなひずみが生じていたからだ。胡錦濤はこれに対してアンチテーゼを提唱し、その問題解決に取り組む意思を表明した。しかし、10年経って何も変わらなかった。胡錦濤政権が独自色を出せるようになった後半の5年間もほとんど改善が見られなかったことに対し、有識者層を中心に国民の多くが失望した。

 2007年10月に習近平が政治局常務委員となり、次期国家主席と目されるようになった時点では習近平に対する期待は目立たなかった。しかし、胡錦濤政権が末期になっても改革を断行しなかったため失望が強まった。この失望の深まりとともに、習近平に対する期待が徐々に強まってきた。習近平政権に対する期待の高さも安倍政権同様、前政権に対する批判の裏返しによるものである。

順調な滑り出しに見える日中新政権の前に立ちはだかる難問


習近平総書記と、政治局常務委員に選出された李克強氏〔AFPBB News〕

 第2に、滑り出しの順調さである。冒頭にも書いたように、安倍政権の滑り出しは経済・外交両面において順調である。国民の間には、安倍政権であれば何かやってくれるのではないかという期待感が高まりつつある。

 習近平政権もやはり順調な滑り出しを見せている。3月の全国人民代表大会が終わらないと、政策運営を担う国務院(日本の内閣に相当)の人事が固まらないため、現時点では政策は動いていない。しかし、習近平―李克強政権であれば胡錦濤―温家宝政権が先送りした改革を先送りせずに実行してくれるのではないかという期待感が高まっている。

 その期待の根拠となっているのは「8条規定」と呼ばれる綱紀粛正に関する具体的な指示である。主な内容は党・政府要人に対する過剰な接待の抑制、虚礼廃止、職務の効率・内容重視などである。過去にも類似の指示が出されたことがあったが、今回のように具体的な内容が示されたことはなかった。

 すでに高級官僚を中心に「8条規定」は行動規範として重視されている。その影響から主要都市では高級官僚の接待に利用されていた高級レストランはガラガラになっている。これを見て、中国では有識者も一般庶民も習近平なら何かやってくれるのではないかと期待し始めている。

 第3に、直面する構造問題の解決の難しさである。アベノミクスという言葉が流行し、円安と株高で気分は明るくなっているが、まだアベノミクスの政策の中味は固まっていない。5〜6月に向けてこれから練り上げていくところである。

 解決すべき最大の課題は財政赤字の改善とデフレからの脱却である。そのためには社会保障改革、財政配分の見直し、大胆な規制緩和など、20年以上にわたって先送りされてきた政策課題に取り組まなければならない。

 習近平政権が直面する課題も胡錦濤政権が10年間先送りした問題の解決である。安倍政権、習近平政権が立ち向かう課題はともに長期にわたって問題解決が先送りされてきた難題である。その解決に本格的に着手することには既得権益層からの強い反対があり、政治的なリスクが大きい。この点も共通している。

 両国とも最重要課題は経済構造改革の推進である。外交面では、両国政府はともに日中経済関係の正常化を重視すると同時に、日中韓FTAの交渉にも前向きである。これらの外交課題解決の大前提が尖閣問題の沈静化である。

 両政権とも尖閣問題を収束させたいという意図は一致している。1月下旬の公明党山口那津男代表と習近平総書記との会談を機に両国間の空気は一旦和らいだ。そこでレーダー照射事件が起きて再び摩擦が生じた。

 しかし、中国外交部の対応の遅れを見る限り、習近平自身が指示を出してやらせたとは考えにくい。もし中国側が山口公明党代表訪中以後の流れの中で対日政策を進めていくのであれば、引き続き歩み寄りの余地は残されている。

安倍―習会談を早期に実現し、両国の協調発展への地ならしを

 日中両国とも領有権を巡る摩擦の存在を否定することはできない。しかし、世界第2の経済大国である中国と第3の大国である日本は、ともに世界のステークホールダーとしての自覚を共有し、力を合わせてアジアをリードし、世界に貢献することを目指すべきである。

 日本人も中国人も多様な人間の集まりである。すべての日本人を代表できる日本人もすべての中国人を代表する中国人も存在しない。相手国の名前で抽象的な相手を意識する発想を改め、顔の見える個人を意識して両国間の対話を続けるようになれば、摩擦は一部の限られた人間同士だけの問題になる。

 日韓関係では竹島問題で対立しても若い女性を中心に日本の韓流ブームは続いており、多くの日本人が韓国旅行を楽しんでいる。これが両国間の対立を緩和する上で大きな役割を果たしているのは明らかである。

 そうした経済・文化交流の大きな流れを促進するためにも、安倍―習会談を早期に実現し、両国関係を正常化させれば、両国の協調発展の基礎となる経済・文化交流のための大きな舞台が整う。

 その舞台の上で前向きかつ強固な日中関係の構築に向けて主役を演じるのは企業と個人である。両国関係の改善は経済の協調発展を支え、政権基盤を強化する。それが安倍・習両政権にとって最大の難題である構造改革推進の一助となることは間違いない。


 

ユーロ危機がまだ終わっていない理由
2013年02月21日(Thu) Financial Times
(2013年2月20日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)


ひとまず落ち着きを取り戻しているユーロだが、緊張が再び強まる恐れは残っている〔AFPBB News〕

 ユーロ圏の危機は終わったのだろうか? その答えはイエスでもありノーでもある。

 イエスだと言えるのは、すぐに危機に陥るリスクが小さくなっているからであり、ノーだと言えるのは、ユーロという通貨の存続がまだ確実ではないからだ。この見立てが正しい限り、緊張が再び強まる恐れは残る。

 人々の信頼感が回復してきたことを最もよく表しているのは、脆弱な国々の国債とドイツ国債との利回り格差(スプレッド)が縮小したことだ。例えば、アイルランド国債のスプレッドは18日現在で205ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)にすぎず、2011年7月の1125bpより大幅に縮小している。

 ポルトガル国債のスプレッドは465bpで、ギリシャでさえ2012年3月の4680bpから946bpに低下している。イタリアは278bp、スペインは362bpであり、どちらも比較的低いレベルにとどまっている。

 この改善の背景には3つの現実がある。第1の現実は、ドイツが現在のユーロ圏を維持したいと思っていること。第2の現実は、債権者の要求した政策を歯を食いしばって実行する意思が脆弱な国々にあること。

 そして第3の現実は、欧州中央銀行(ECB)がドイツ連邦銀行に反対されながらも大胆な施策――銀行を対象とする長期資金供給オペ(LTRO)や、国債を購入するアウトライト・マネタリー・トランザクション(OMT)など――の発表を決断したことだ。これらの施策はいずれも投機筋を手こずらせた。

不幸せな結婚生活はよい結婚になるか?

 しかし、話はここで終わらない。通貨同盟は、取り消すことのできない貨幣の結婚だと見なされている。たとえ不幸せな結婚だとしても、離婚のコストが非常に高いことから、通貨同盟は世間が思っている以上に長続きする可能性がある。

 しかし、別れるコストがいくら高いとはいえ、うまくいっていないロマンスはやはり壊れやすい。ユーロ圏は不幸せな結婚生活を送っているわけだが、これが幸せな、よい結婚に変わることはあり得るのだろうか?

 よい結婚とは、何もかも最初からやり直せるという選択肢があっても、当事者たちが元のさやに収まろうとする結婚のことだ。今のユーロ圏ではきっと、元のさやには収まりたくないと考える国が多いだろう。苦難と敵意という悪夢にさいなまれることになるからだ。

 ユーロ圏全体の国内総生産(GDP)は、昨年第4四半期においても危機前のピークの水準を3%下回っていた。同じピークを2.4%上回った米国とは対照的だ。同じく第4四半期のイタリアのGDPは2000年と同じレベルで、危機前のピークの値より7.6%も少なかった。スペインでも、GDPは危機前のピークを6.3%下回り、失業率は26%に達した。

 危機に襲われた国々はアイルランドを除いてすべて、経済がここ数年縮小し続けている。アイルランド経済も基本的には停滞している。ドイツでさえ、GDPは危機前のピークを1.4%上回っているにすぎない。主要な貿易相手の国々で経済が縮小しているために、ドイツの輸出力も弱まってしまったのだ。

現状では喜んで再出発するのは極度のマゾヒストだけ

 もし今日、ユーロ圏のメンバー全員が喜んで再出発を決めたとしたら、彼らは極度のマゾヒストということになるだろう。ドイツでさえ、ユーロ圏にとどまることで本当に豊かになれるかどうかは疑わしい。確かにドイツはトップクラスの輸出国になり、多額の対外黒字を計上しているが、実質ベースの賃金や所得は抑制されている。

 また、危機の直撃を受けた国々では政治情勢にもぐらつきが見える。国内の怒りと外国との摩擦は、債権者と債務者の双方を悩ましている。

 では、この不幸せな結婚生活を幸せな、よい結婚生活に変えるには何をどうする必要があるのだろうか? この問いの答えには2つの要素が含まれる。1つは、できるだけ早く経済を健康な状態に戻すこと。もう1つは、災難が繰り返されることがないように改革を実行することだ。

 この2点は互いに関連し合っている。経済が長期的な健康を取り戻す可能性が高まれば高まるほど、現在の景気回復のペースも速まる公算が大きいからだ。

 経済を健康な状態に戻すという作業は、互いに関連し合う3つの部分から構成される。過去から引き継いだ返済不可能な債務の帳消し、リバランシング(均衡回復)、現在の不均衡のカバーという3点だ。

 これらがどの程度うまくいくかについて考える際、筆者は、典型的な「連邦」で見られるリスク共有や財政移転はユーロ圏では行われないことを前提としている。ユーロ圏は今後、以前より統合が進むことになるが、その統合の度合いはオーストラリアやカナダ、米国などに比べればはるかに弱いものにとどまるだろう。

 債務の帳消しについては、ギリシャに対して行われてきたことを上回るものが必要になる。また、危機に見舞われた国々に賃金や物価の下落という形でのしかかる調整の負担が重くなればなるほど、債務の実質的な負担も重くなり、帳消しが必要になる額も大きくなるだろう。

 帳消しは、国の借金についても銀行の借金についても必要になる。この点を認めることへの抵抗は非常に強いが、それは無駄な抵抗かもしれない。

 調整と成長再開に向けた旅はそれ以上に重要だ。これは厳しく、長い道のりになる。筆者は疑わしいと思っているが、仮にスペイン経済とイタリア経済が年間1.5%のペースで成長し始めたとしよう。それでも両国経済が危機前のピーク水準に戻るのは2017年か2018年になる。10年が失われたことになるのだ。

 さらに、何がそうした成長の原動力になるのかも不透明だ。潜在的な供給はそれだけで実際の需要を保証するものではない。

 財政政策は景気収縮的だ。スペインなど、民間部門の過剰債務に苦しんでいる国では、民間部門の貸し付け、借り入れ、支出が復活する可能性は低い。

 外需は弱い状況が続く。主に多くのユーロ導入国が同時に景気収縮的な政策を採用しているためだ。そして何よりも、調査会社キャピタル・エコノミクスが最近のリポートで説明したように、アイルランドのケースを除き、危機に見舞われた国々の競争力が決定的に向上したことが全くはっきりしないためだ。

 実際、様々な兆候は、ドイツと比べたイタリアの対外競争力が現に低下していることを示している。確かに対外勘定の赤字は減少したが、大部分はこれらの国々が経験してきた景気後退によるものだ。

 一方、ECBからの資金供給は、弱い政府と、その政府が縛られている銀行が突如破綻するのを防ぐには十分だったものの、急激な財政引き締めが必要になった。その結果は悲惨だった。

賢明な結婚カウンセラーの助言を無視

 欧州委員会で経済・通貨問題を担当するオリ・レーン副委員長は最近、閣僚に送った書簡で、先に国際通貨基金(IMF)が示した財政乗数への疑念を「ためにならない」と非難した。筆者の見るところ、これは関係者が以前より敏感になっている兆候だ。当局は賢明な結婚カウンセラーの助言を聞き入れずに、助言を完全に拒んだわけだ。

 ユーロ圏の試練はもう終わったと考えている人は、驚異的な経済再生を想定しているか、深刻な景気後退に陥った国々は何年も続く惨めな歳月に耐え抜く意思があると思っているに違いない。どちらの想定も全く妥当に思えない。

 さらに、銀行同盟とリスク分担の拡大という望ましい長期的な改革が実行される見込みは、かなり小さいように思える。それよりずっと可能性が高いのは、一方的で景気収縮的な調整の上に成り立つ同盟だろう。

 関係者は今後、いつまでも幸せに暮らすことになるのか? それとも、この同盟は和解し難い不和を特徴とする結婚であり続けるのか? 少なくとも筆者にとっては、その答えは明白だ。だとすれば、この不幸な物語は絶対にまだ終わっていない。

By Martin Wolf

 


英国の高齢者にまたアメ:間違った政策
2013年02月21日(Thu) The Economist
(英エコノミスト誌 2013年2月16日号)

政府は老人の面倒を見ており、若者が歳出削減の矢面に立たされている。これは間違いだ。

 「我々は皆、一蓮托生だ」。2009年に、英国の財務相に就任しようとしていたジョージ・オズボーン氏は、こう語った。緊縮財政は厳しいものになると警告しながらも、痛みは均等に分かち合うことになると述べた。

 このキャッチフレーズは非常に受けが良かったため、オズボーン氏はほかのスピーチでもそれを繰り返した。この言葉はTシャツにもなり、保守党のオンラインショップで10ポンド(16ドル)で買うことができる。だが、このTシャツはほつれ始めている。

 退職年齢に満たない英国人は確かに一蓮托生だ。労働年齢の貧困層は生活保護の支給金に上限が設けられて苦しめられている。裕福な両親は児童手当を奪われた。大学の授業料は高騰している。全員が従来より多くの付加価値税(VAT)を払っている。

甘やかされる年金受給者

 だが、高齢者の場合は、緊縮財政はそれほど厳しいものに思えない。好況期に特にいい思いをした年金受給者は、不況下で甘やかされてきた。

 公的部門の給与と生産年齢の人々に対する各種手当は今後数年間、年にわずか1%しか増加しない見込みだが、年金は「3重に錠がかけられている」。年金はまず、平均所得によって増えるほか、インフレ率(現在は2.7%)ないし2.5%のどちらか高い方の率に合わせて増加する。

 無料のバス定期券や無料のテレビ受信権、冬季暖房費受給といった特典には手がつけられていない(もっともオズボーン氏は大胆にも、太陽が降り注ぐスペインで隠居生活を送っている英国人への燃料補助金を削減することを思案しているが・・・)。

 先日はまた別の贈り物が届いた。現在、認知症のような疾患で長期の介護を必要としている高齢者は、治療費の大部分を自分で支払わなければならない。中には、手元の残金が2万3250ポンドになるまで――この時点で国が介入する――、自分の家を売ったり、貯金を取り崩したりしなければならない高齢者もいる。

 ジェレミー・ハント保健相は、このようなことは容認できないと考えている。ハント氏は2月11日、自身の介護に対する支払い額が7万5000ポンドに達した段階で国が引き継ぐと発表した。自宅の売却を強いられる人は出さないという。

 これは人気を集めるはずだし、ハント氏がもっと気前よくなっていたら、もっと人気を集めていただろう。人は、自分の家を売らざるを得ないという考えに我慢ならない。人がより長生きするようになり――85歳以上の英国人の数は2010年から2030年にかけて2倍になる――、ありきたりの介護では耐えられなくなるにつれ、介護費用で無一文になるという不安は高まっている。

 だが、ハント氏の政策は原理上も実際問題としても間違っている。

屋根裏の現金

 財政が逼迫している時には、福祉はごく基本的な生活水準を万人に保証するという中核的な機能まで縮小される必要がある。福祉は、豊かな老人が家を売らなくても済むようにするために使われるべきではない。

 人は、家族の不動産には何か特別なものがあると感じるものだ。だが、道の上に建っていようが銀行の中にあろうが、富は富であり、住宅は過去数十年間、富を生み出す素晴らしい装置だった。

 なぜ納税者は、住宅市場から利益を上げた人たちがその財産の大半を保てるように手助けしなければならないのだろうか? 社会の生産的な構成員に変えることができる貧しい若者に国の支出を集中する方がずっといい。

 先進国が高齢化するに従い、人々はより長く働き、自分たちの面倒を見るためにより多くの費用を負担しなければならなくなる。格付け会社フィッチは多くの国(英国を含む)に対して、人口の高齢化は信用格付けを脅かすと注意を促している。

 英国は、一律に給付する国の基礎年金を創設したり、定年(年金支給開始年齢)を引き上げたり、公的部門の労働者に拠出金を増やすよう要請するなど、賢明なことをいくつか行ってきた。

 だが、もっと大胆な対策を取っている国もある。イタリアやポルトガルは、年金を徹底的に削減している。スウェーデンは他国に先駆けて、年金が拠出金と連動する制度を導入した。

 老人は、政治家が恐れる強力な有権者基盤だ。だが彼らは、最終的には帳尻を合わせなければならないということを理解するだけの人生経験を持っているはずだ。


02. 2013年2月21日 15:11:21 : xEBOc6ttRg
【第60回】 2013年2月21日 高橋洋一 [嘉悦大学教授]
財務省の「公取」植民地化を是認した
国会同意人事ルール撤廃の光と影
 安倍政権は、安倍晋三首相が訪米から帰国する来週から、注目の日銀総裁・副総裁人事に着手するようだ。日銀総裁・副総裁は、衆参両議院の同意を得て内閣が任命する、いわゆる国会同意人事である。こうした形式のものは、日銀に限らず法令によって設置される行政機関の役職者の多くに採用されている。

 国会同意人事は、各省の委員会・審議会などの委員長、委員などが対象になることが多い。この国会同意人事では、衆議院の優越性がないので、あらかじめ衆参両院で同意を得なければいけない。2007年の参院選挙前には「衆参のねじれ」がなく、同意人事は問題のない事務的な手続きにすぎなかったが、衆参のねじれ以降は、参院の独自性発揮として同意人事は注目されている。

 安倍政権は、自公で衆院の3分の2以上を確保しているが、参院では少数だ。参院(総定数242)は欠員があるため現在236。通常議決に加わらない議長を除くと過半数は118。自公で102議席なので、同意人事案可決には16以上の賛同が必要。その場合は民主(87)か、みんな(12)・日本維新の会(3)・新党改革(2)との連携が必要である。

 ねじれが威力を発揮したのが、2008年3〜4月の日銀総裁・副総裁の国会同意人事。自公政権が出した人事案を、再三にわたって民主党が多数を握っていた参院で否決して不同意にした。

「同意人事ルール」が存在した理由

 ねじれになった5年前の2007年、与野党は、国会同意人事が事前報道されたら、政府の国会提示を認めないとする「同意人事ルール」で合意していた。同意人事ルールは当時、参院を握っていた民主党が主導してつくられた。与党側、その裏にいる官僚が情報リークして、人事を既成事実化しようとするのを防ぐ意味があったとされている。要するに、このルールは、官僚がマスコミに地ならしして、官僚側に都合のいい人事をすることへの牽制であった。

 今回、このルールがなくなった。マスコミは、これで自由に報道できるが、日銀人事についていえば、これから報道されるものはほとんどがガセ、記者の思い込み、推測であろう。というのは、この人事は安倍首相の胸の内にしかないし、もちろん安倍首相は誰にも言質を与えないはずだ。

 あえていえば、マスコミの報道する日銀人事は、その記者がどこから情報を得ているのかすぐわかる。それが既成事実化のために行われているのを自覚しているだろうか。まあ、そうしたマスコミの情報が、マーケットにどのような影響を与えるかがわかるという点では、少しは意味があるともいえるが。財務省OBの記事が出るたびに、マーケットが失望するという光景が見てとれるので、既成事実化というより候補者潰しに役立っているといえるだろう。

公取は財務省の植民地

 日銀人事の場合は市場の反応をみることができるので、同意人事ルールの撤廃はいい。でも他の案件ではどうなのか。

 公正取引委員会委員長の場合はどうだったのか。厳密にはルール撤廃の前であるが、既成事実化が進み、送り込んだ官僚側の勝利ともいえる。民主党は19日、公取委委員長に元財務事務次官の杉本和行みずほ総合研究所理事長を充てる国会同意人事案に賛成する方針を決めた。近々、国会同意人事で正式に決まるだろう。

 民主党が賛成したのは、民主党時代に内定していたからという理由。民主党は脱官僚、天下り根絶を掲げて政権交代したが、日本郵政への財務省からの天下りを認め、脱官僚の看板も下ろし、挙げ句の果ては野田佳彦前首相が財務省の走狗となってマニフェストにない増税路線に転じて、総選挙で惨敗した。であれば、民主党が与党時代の政策は否定されたのだから、天下りの典型である、今回の公取委委員長人事を認めるべきでなかった。

 公取委委員長のポストは、事実上財務省の指定席だ。戦後の公取委委員長は16人いるが、うち11人が財務省(旧大蔵省)出身者だ。残りは日本銀行2人、法曹界2人、民間1人だ。最近は、橋本政権で意図的に大蔵省排除をした時を除いて、ほぼ財務省(旧大蔵省)独占状態だ。

 筆者はかつて公取委事務局に課長補佐として勤務したことがある。当時の大蔵省にとって公取委は「植民地」であり、委員長がトップとして天下るので、「植民地統治」に困らないように、その下のライン(部長−課長−課長補佐)も大蔵省から派遣するということだった。いってみれば、組織として天下りとそのサポート要員を出していたわけだ。

 競争政策の本家本元である公取委委員長を財務省が固定化して天下り先とし、ポストを独占しているでは、ブラックジョークにもならない。

 実際、競争政策にも歪みがでている。独禁法には適用除外という例外があるが、競争政策上好ましくないので年々徐々に縮小している。ところが、財務省関連としてたばこ、信用金庫、信用組合、労働金庫、保険、損保、酒類業組合とあり、他省と比べて際立っている。これらは財務省の天下り先であり、その天下りネットワークを維持することと大いに関係している。はっきりいえば、競争政策は財務省に甘いのである。

 財務省は、公取委委員長のポストは、経産省と対抗のために財務省がいいという。しかし、財務省であっても経産省であっても、天下りネットワークを抱え業界に利害関係のある役人OBは、公取委委員長をやるにはふさわしくない。

マスコミはなぜ批判しないのか

 むしろ公取プロパーのほうがいい。公取委事務局に出向した経験でいえば、公取プロパーは気の毒だ。トップは財務省から天下ってくるのがわかっているので、同じキャリア公務員でありながら、財務省の役人をたてている。公取プロパーのほうが独禁法に精通してはるかにできる。しかし、出世しても事務総長か公取委委員止まりである。素人の財務省上がりを公取委委員長に持ってくるよりも、長い間独禁法を研究している公取委出身者のほうが、はるかに日本の競争政策上いいだろう。

 なお、こうした話が日本のマスコミに出ることはまずない。マスコミも再販の独禁法適用除外でうまみを享受している業界だ。そのさじ加減をマスコミと旧知の財務省OBが差配するほうがマスコミにとってもいいのだろう。そして、財務省とマスコミの地ならしが成功して、公取委委員長ポストの財務省からの天下り固定化につながっている。

 

 
【第30回】 2013年2月21日 安東泰志 [ニューホライズン キャピタル 取締役会長兼社長]
株高続く中で国内機関投資家は売り越し
リスク回避思考に陥るサラリーマン経営者の大罪
株高下でも進む
国債への集中投資

 いわゆるアベノミクス効果とされる円安・株高効果で、日本企業にもやや明るさが戻りつつあるように見受けられる。

 しかしながら、この株式相場の中で株式の売買主体を見ると、少し違った風景が見えてくる。昨年12月から本年1月の東証1部の投資部門別株式売買状況(金額ベース)を見ると、総額では273億円の買い越しとなっているが、その内訳は、外国人が約2兆7000億円の買い越しなのに対し、国内法人は約2兆円の売り越し、国内個人が約7000億円の売り越しになっている。

 この国内法人の売り越しの中身は、金融機関が1兆9000億円の売り越しであり、その中で都銀・地銀が売り越したのは800億円程度なので、残りは、生損保や年金等の売りである。つまるところ、このところの株高を演出しているのは外国人投資家である反面、本来、長期投資によって日本企業を育てていくべき国内の生損保や年金は、売りに転じているのである。筆者は、銀行と企業の株の持ち合いには従来から批判的なので、都銀・地銀の売り越しは是とする。

 一方、含み損を抱えていた生損保や年金は、やれやれといった感じで売りを増やしているのだろうが、これには強い違和感を覚える。国内投資家は、株式を筆頭とする「リスク資産」を減らし、国債にシフトする、いわゆる「リスク・オフ(リスク回避)」傾向をずっと続けているが、それでは、1500兆円の家計部門の金融資産は、ROE(株主資本利益率)目標のない国(政府)に還流し、非効率に使われるだけで、企業の活性化には繋がらない。

 家計部門のネットの金融資産が、ほぼすべて国や地方の借金に充当されており、企業の成長に全く使われていないことは、2年以上も前の連載第1回で既に指摘したことであるが、その状況は、変わらないどころか、どんどん悪化しているということである。無論、これを裏から読めば、だからこそ、大量の国債の消化が円滑に進んでいるのであるが、本当にそれでいいのだろうか。

コンプライアンス至上主義に
陥った日本企業

 話は少し飛ぶが、筆者が属している、ある中東の国と日本の友好協会の会合で、こんな一幕があった。その協会には多数の日本の有力企業が参加しているのだが、その国からの日本への留学生に対してのわずかな支援金や、その国の大使への少額の記念品の代金を協会の会費から出すといった提案に対し、大反対が起こったのである。

 理由は、それらが、たとえ総額数万円の支出であったとしても、拠出した友好協会の会費を「シェア割り換算」して1社あたり3000〜4000円を超すと、社内規定に違反する可能性があるというものだ。

 相手が公務員やその子息である可能性があれば、友好協会からの支出であっても、シェア割り換算でたった数千円でも賄賂と言われるかもしれないというのだ。結果的に、それらの経費は協会の役員が自腹で支出することになったのだが、筆者はこれには猛烈な違和感を覚えた。折しも、アラブの春を経て、欧米各国や中国・韓国の企業は、中東への猛烈なアプローチを続けている。

 筆者は、決してコンプライアンス違反を奨励しているわけではないが、国際市場で戦う日本企業には、もう少し融通の利く対応が必要なのではないのか。社内規定に汲々とする時間があったら、少々のリスクを取ってでも要人とのパイプを太くし、戦略的リスク対応や情報収集をして、今回の日揮のような悲劇を繰り返さないように、官民一体となった努力を考える方が有意義である。つまらないコンプライアンス至上主義は国を滅ぼしかねない。

誤ったリスク・オフに
突き進む日本企業

 2001年に発覚したエンロン事件を契機に、2002年に制定されたサーベンス・オクスリー法(SOX法)は、投資家保護のために財務報告プロセスの厳格化と規制の法制化を目的としたもので、財務報告に係る内部統制の有効性を評価した内部統制報告書の作成と、公認会計士による内部統制監査を義務付けた。

 日本でも、06年の新会社法と金融商品取引法を経て、いわゆる日本版SOX法が施行されており、上場会社と連結子会社には内部統制報告書の作成と、その外部監査人による監査が義務付けられている。この時期、多額の費用と時間をかけて、多くの日本企業がその対応に追われたのは記憶に新しい。

 しかし、「リスクをなくせば(回避)、危険性もなくなる反面、チャンスもなくすことになる。……企業はリスクを取ることで事業機会を伸ばすが、そのリスクの影響度で(経営)判断しなければならない……(後略)」(「内部統制と会社法」東京海上日動リスクコンサルティング、2007)という指摘の通り、形式的に社内規則や制度を作り、それに金科玉条の如く拘泥することをコンプライアンスと呼ぶのでは、企業の成長は覚束ない。行政サイドも、本当の意味での投資家保護が必要というなら、連載第21回で述べたような利益相反取引の規制などの方が、よほど重要な課題である。

 そもそも、日本の経営者は、企業経営の目的が企業価値の向上にあるということを忘れているのではないか。企業に社外取締役を設置することを義務付けるかどうかを問う、法制審議会の「会社法制の見直しに関する中間試案」(2011年12月)に対して、経団連を筆頭に経済界は大反対の合唱となり、結果的に義務化は実現しなかった。

 彼らの反対の大きな理由の一つは、「既に監査役の半数以上は社外監査役であることが義務付けられているので、二重になる」というものだった。しかし、社外取締役の重要な役割は、経営の監視、つまりコンプライアンスや内部統制の順守状況のモニタリングだけではなく、企業の成長や価値向上を図ることであって、社外監査役と同一視できるものではない。

 日本企業は、リスクを取らず、社内規定を守って大過なく務めた人間が評価される傾向にあるが、リスクのないところに、リターンは生まれない。誤った「リスク・オフ」思考は企業と国の針路を危うくする。冒頭の国債への集中投資、中東の友好協会の事例も同じことである。

リスクを取る人間を
評価せよ

 日本企業では、リスクを取る人間は評価されていない。特に大企業では、どんなに正しくないことであっても、上司の意向に唯々諾々と従い、大過なく過ごすことが出世の早道になっていると感じる人が多いのではないか。

 大過なく過ごすためには、リスクは取れない。そして、日本企業の場合、役職員にとっての「リスク」というのは、多くの場合、「国内の同業他社比で違った結果になる」というのがその定義である。いわゆる「横並び」の発想がこうして生まれてくる。金融機関には特にその傾向が強い。横並びを嫌い、自らリスクを取って成功した同僚を称賛するどころか、やっかみ、足を引っ張ることすらある。

 こういうカルチャーの中では、仮に、自分の会社のため、世の中のために90%の確率で採用すべきであろうと思われる提案があったとしても、10%でもリスクがあるならば、担当者や担当役員段階で採用されないこととなる。それを採用して業績が上がっても大して評価されない反面、万が一にもわずかなリスクが顕在化したら大きく評価を落とすからだ。業界にもよるが、筆者が企業に何かの提案をする際、提案の是非に関する質問の前に「(同業の)○○会社さんはやるんですか」と聞かれることさえある。

 担当者や担当役員段階で、「やらない理由」を考えることは極めて簡単なことだ。10%のリスクを並べ立て、他社もやらない(だから他社に後れを取ることはない)と言えばいいだけだからだ。しかし、企業が成長し、その価値を上げていくためには、リスクを正しく認識した上で、そのリスクをどうすれば取れるかという「やる理由」を積極的に考える役職員が評価されるようであって欲しい。日本企業は、今や、業種を問わず、国内他社ではなく、世界の企業と戦っているのだ。繰り返しになるが、リスクがないところにリターンは生まれない。リターンがなくては、世界で戦うことはできない。

 社会全体が、勇気を持ってリスクを取る人間を評価するようになったとき、企業は活性化し、その新陳代謝も起こり、日本経済は本当の成長軌道に戻るのではないだろうか。


 


03. 2013年2月21日 16:20:37 : xEBOc6ttRg
コラム:通貨安競争回避のカギを握る日本の責務=加藤隆俊氏
2013年 02月 21日 11:55 JST
加藤隆俊 国際金融情報センター理事長/元財務官(2013年2月21日)

先の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事が「通貨戦争説は大げさだ」と述べたが、筆者も同感である。

メディア上では通貨戦争という言葉が飛び交い、各国当局者の中には通貨安競争という表現で懸念を露わにしている向きもある。円の急速な動きに触発された近隣アジア通貨の若干の動きはあるとしても、現時点で輸出拡大を狙った競争的通貨切り下げのうねりが起きているわけではない。なによりG20、そしてその直前に開催されたG7(日米欧7カ国)が、為替政策に関する共通のガイドラインをまとめたことは一歩前進である。

昨年11月以降の円安相場の急落で注目を集めた日本は、特に慎重に行動する必要がある。G7やG20の共同声明では、懸案の為替レート問題について、日本は名指しされずに済んだが、国際社会から円安誘導にお墨付きが与えられたわけではない。

特に債務危機からの回復過程で通貨安を背景に輸出を伸ばしたい欧州、あるいは新興国からは、今後も折に触れて牽制や懸念の声が聞かれるだろう。日本政府は、いわれなき批判を招かないように、安倍政権発足前後に聞かれた円安を政策目的に掲げているかのような発言や為替レートへの直接的な言及は避けたほうが良い。

他方、為替市場において、円安方向に市場心理を反応させるものとしては、「2%インフレ目標」の実現に向けた拡張的な金融政策が予想されること、東日本大震災以降の大幅な貿易赤字基調などのファンダメンタルズ面での変化、欧州債務問題の沈静化に伴う投資家のリスク許容度の上昇といった材料が考えられる。

一部には、米国当局のスタンスについて、円安進行を黙認していると見る向きもあるが、筆者はこうした考えには与しない。欧州、カナダもそうだが、近代経済学で訓練された政策当局者たちが容認していることは、デフレ不況脱却のために日本が金融政策面において思い切った量的緩和策をとることであり、円相場を念頭に金融緩和を繰り返すことではない。

米国の当局者から批判的な発言が出るようになれば、為替や株式相場に大きな影響が及ぶのはもちろん、欧州や新興国の円安批判にも勢いが増そう。その意味で、日本のオピニオンリーダーはG7・G20声明の枠組みから逸脱しないように言動に慎重を期すことはもちろん、特に日米間に齟齬(そご)が生じないように意志疎通を密にすることが求められる。

<国際社会の要請は日本の力強い成長>

また、何より大事なことは、G7やG20の場でコミットしたこと、すなわちデフレ不況からの脱却に全力を挙げることだ。財政・金融政策だけに頼らず、民間投資を喚起する成長戦略をしっかりと実行することである。

円安は万能薬ではない。確かに、世界経済の回復期と重なれば、輸出セクターは大きな恩恵を受けるだろう。国内にも設備投資の回復などを通じて、ある程度は還元されるだろう。しかし、円安は交易条件の悪化を招く。物価には遅行的に波及するため、まだその影響は国民生活において実感されていないだろうが、このまま円安基調が続けば、原油などの燃料の輸入価格上昇を受けてガソリン代や電気料金も上昇し、また輸入材料に頼っている製品も、在庫がはけると、やはり値上がりの方向に動く可能性が高い。どのあたりの円安水準が日本経済にとって居心地が良いのか、しっかりと考える必要がある。

むろん、国内経済の活性化のために金融・財政政策を駆使することは、そのときの政権担当者としてむしろ必要なことだ。ただ、それはあくまで時間稼ぎの手段である。G20声明では、財政健全化や野心的な構造改革の必要性も明示されたが、その言葉は日本にも向けられている。世界経済に資する力強く持続的な成長を果たすことが、通貨安批判を封印することになろう。

*加藤隆俊氏は、元財務官(1995─97年)。米プリンストン大学客員教授などを経て、2004─09年国際通貨基金(IMF)副専務理事。10年から公益財団法人国際金融情報センター理事長。


 


インタビュー:日銀総裁人事、過度なリフレ派は好ましくない=前原氏
2013年 02月 21日 13:45 JST
[東京 21日 ロイター] 民主党の前原誠司ネクスト財務・金融担当大臣(前経済財政相)は21日、ロイターのインタビューに応じ、白川方明日銀総裁の後継人事で最も重視する要件は、政府の言いなりにならない「胆力と使命感」を持った人であることを挙げた。過度なリフレ派は好ましくないとも指摘した。

財務省OBや日銀OBも排除せず、出身にはこだわらない考えを示した。また、5年前の総裁人事で「不同意」としたから今回も自動的に「ノー」ということにはならないとの考えを示した。

民主党は前回の日銀総裁人事では「財金分離」を理由に財務省出身者をたびたび否定した。今回も有力候補として名前が挙がる武藤敏郎・大和総研理事長(元財務次官)は総裁候補として提案されながら不同意となったが、前原氏は「5年前にノーだったから、今回、自動的にノーだということにはならない」と指摘。

仮に武藤氏が提案された場合には、人物本位で判断するとした。ただ、このことをもって武藤氏に対して「イエス・ノー」を言ったものではないと釘をさした。

 


コラム:「REITバブル」再来の可能性=竹中正治氏
2013年 02月 20日 19:00 JST
竹中正治 龍谷大学経済学部教授(2013年2月20日)

アベノミクスへの期待で株価と同時に上場不動産投資信託(REIT)価格も、昨年12月から急速な上昇に転じた。日本のREIT価格はリーマンショックと世界不況後の割安な水準を抜け出して、すでに若干ながら割高水準に移行している。

詳しくは後述するが、REIT市場はシンガポールや香港では日本より一足先に活況を呈している。新興市場の投資マネーも加わって日本のREIT価格もまだ上がり続けそうな気配だ。

REITは、本来は短期的なキャピタルゲインよりも配当利回りを目的とした長期投資の手段だ。しかし、市況がミニバブル的な高騰をするならば、長期保有の投資家にとっても割高局面ではある程度売り抜くのが合理的な選択だろう。そこで、個別のREIT銘柄と市況水準全般の双方の割安・割高を見抜く簡便な方法をご紹介しよう。

<サブプライム危機前後の教訓>

まずREITの収益源である商業ビルなどの賃料の変化は、企業収益の変動に比べるとはるかに安定しているという事実が重要である。下図の紫色の線は不動産証券化協会が公表しているREITのオフィス賃料(平方メートル当たりの平均賃料)を「2003年3月=1.0」として指数化したものだ(ここではオフィスビルの賃料を表示しているが、住宅やそれ以外の商業施設の賃料もより短い時系列だが公開されている)。

賃料指数は最も高い時期の08年に1.06、最も低い時期の12年に0.86と、過去10年プラス・マイナス10%の変動レンジに収まっている。また、賃料は契約期間が満期にならないと改訂できないので、REIT価格の変化に対して遅行性がある。逆に言うと、東証REIT指数は賃料の変化を1年ほど先取りして変化している。

もうひとつのREITの収益性を左右する要因は稼働率(逆に言うと空室率)だ。不動産証券化協会のデータによれば、これも低い時は93%台、高い時は98%台で、全体でみると比較的安定している。また、レバレッジ比率(自己資本に対する外部負債の倍率)が高いと不動産価格の比較的わずかな変動でも自己資本に対するリターンが大きく変動するが、一般にREITのレバレッジ比率は1倍(つまり自己資本と負債の比率が1対1)前後であり、高くはない。

ところが前掲の図の通り、東証REIT指数が示す市場価格は、03年から07年のピーク時までになんと2.5倍も高騰した。そして07年夏のサブプライム危機を契機に外資を含む投資家の買いが引き、リーマンショック後の09年には高値から3分の1の水準まで暴落した。そして今また株式市場全体の急回復に連れてREIT価格も急騰している。東証REIT指数の変動率は東証株価指数(TOPIX)の変動率とほぼ同じか、時期によっては(特に06―09年は)それ以上の変動をしている。

合理的に考えれば、一般に資産の基本的な価値(市場価格とは別に推計できるファンダメンタルな価値)とは、その資産が将来生み出す純収益キャッシュ・フローをリスクに見合った割引率で割り引いて求めた現在価値の総額だ。一般企業の純利益は、前年比で何十%も伸びることもあるし、反対に赤字になることもあり、不安定で、将来の予測も困難だ。したがって、一般企業の株価の変動性は高い。

一方、REITについては収益の源泉である賃料に基づくインカム・リターンが安定している限り、将来のインカムについても安定した予想が成り立つ。したがって、市場のREIT価格の変動は一般企業の株価に比較して安定するはずだ。そのためREITは、株式よりも「ミドルリスク・ミドルリターン」の金融資産と期待されて、日本では01年から取引が始まった。ところが、市場の現実はそうではなかった。

<REITに群がった投資家の非合理性>

03年から07年までに2.5倍になったREIT価格の高騰は、この時期に賃料の期待上昇率が上がったことで説明できるだろうか。

確かにこの時期は景気の回復が持続した結果、商業ビルなどの賃料も回復、上昇基調だった。REITの保有する資産(商業ビルなど)の平均余命を30年、将来の純収益キャッシュ・フローの割引率を5%という想定で計算してみよう。仮に03年賃料の期待上昇率が0%(フラット)だったとすると、それが6.65%(30年間にわたる平均年率)にまで上昇しないと、2.5倍の資産価値の上昇は合理化できない。

06年から07年は、実質2%台の経済成長を回復していた時期だった。それでも当時このような賃料相場の長期にわたる大幅な上昇が一般に期待できる状況ではなかったはずだ。ところが、期待賃料上昇率を無理やり高めに想定することで、投資を強行する「不動産投資のプロ」がこの時期に続出した。米モルガン・スタンレーが約2800億円という破格の値付けで全日本空輸(ANA)から直営13ホテルを買収したのもこの時期だ。その後、不動産価格下落を受けて資産価値が大幅に下がり、モルガン・スタンレーが買収資金のリファイナンスに追い込まれたことは記憶に新しい。

つまり、この時期には不動産ファンドブームでREIT市場の価格形成において大幅な過大評価が起こったということだ。その後の暴落は「正気」に戻る過程だったが、「あつものに懲りて、なますを吹かす」の例え通り、市場は一転して過度な悲観に転じ、REIT価格は09年以降概ね割安に推移していた。価格が割安ということは、相対的に高い配当利回りが得られたということだ。

インカムの源泉が不動産の賃料のみで、配当可能利益の90%を配当することで法人税を免除されているREITの収益構造は一般企業に比べるとはるかに単純だ。にもかかわらず、これだけのバブル的な高騰と暴落を招いてしまうということは、投資家サイドの集合的な合理性に致命的な欠陥があるということだろう。しかし、市場の非合理性は、冷静な眼を持つ長期投資家にとっては絶好のチャンスでもある。

<割安・割高を見抜く指標>

では、個別のREITあるいはREIT価格全般の割安・割高を見抜くにはどうしたらよいか。それが「P/NAV」指標だ。

これはREITの市場価格(P)を投資一口当りの純資産価値(NAV、Net Asset Value)で割った比率だ。一般企業株式の株価純資産倍率(PBR)に似た概念だが、資産を時価評価している点がPBRと異なる。

REITの資産評価が収益還元法(DCF)で適切になされている限り、P/NAVは1.0前後で推移するはずだ。ところが、市場が過度な楽観に取りつかれている時は1.0を大きく超えて上昇し(割高)、過度な悲観が蔓延している時は1.0を大きく割れ込む。

REITは各期末の鑑定評価に基づいた資産価値を公開している。NAVを計算するためには、REITの決算報告書に基づいて鑑定評価額と簿価の差額(=含み益損)を簿価ベースの純資産に加減する必要があり、少し手間がかかる。ただし、日本のREIT市場全体のP/NAV(加重平均値)は、TMAXという不動産の鑑定・情報会社がサイト上で月に1回更新して開示している。

このP/NAVの時系列グラフを見ると、07年の割高時には1.4を超え、その後リーマンショックの08年後半に0.6を割り込む割安水準まで急落した。その後ジグザグに回復して13年1月末時点のデータでは02年以来の平均値1.07をかなり超えた水準まで上がってきている。今後実体経済の回復に連れて賃料や稼働率が上昇すれば、REIT価格も一層上昇する余地はあるが、足元の賃料収益を前提にする限り、REITは割高局面に移行し始めたのだと言える。やはり「リスク性資産は不況・危機時に買え」という方針の正しさを示唆している。

ただし、繰り返すが、このP/NAV指標は個別のREITのP/NAVを全部計算して加重平均して求めるので、算出に手間がかかり、発表も遅行する。近似的でよいからもっと手軽にREITの割安・割高を判断する手段はないだろうか。

そこで筆者は東証REIT指数をREITの賃料指数(ここでは前掲図に表示したREITのオフィスビル賃料)で割ってその時系列推移を分析してみた(前掲図の青い実線)。これは実は筆者が住宅価格のマクロ的な割安・割高を判断する指標としてPRR(Price Rent Ratio)と呼んで使っているものをREITにも適用したものだ。REIT価格を賃料収益で割るという意味で、一般企業株価の株価収益率(PER)を指数化した見方と同じだとご理解頂きたい。

前掲図の灰色の水平の破線はPRRの03年以来の平均値だ。先ほどのTMAX社のP/NAV指標に近似した推移となっている。そして、2月13日時点の東証REIT指数は、やはり03年以来の平均値を上回る位置にまで上がっていることを示している。

投資家層の楽観と悲観の大きな振幅の結果、REIT価格は賃料収入の動向に依存した基本的な価値への乖離と回帰を繰り返すのだと考えることができる。そして、過去10年のPRRの平均値(もちろん幅をもって考えるべきだが)を上回った東証REIT指数は、やはり現在のREIT価格が割高局面に移行したことを示唆している。

<アジア新興マネーの参入でミニバブル再来か>

投資家にとって気になるのは、目先どこまで割高方向に上昇するかだ。むろん、そんな予測は、地震の予知以上に原理的に困難である。それに、REIT価格のミニバブル的な高騰とその後の崩壊を経験した日本の投資家だけならば、投資家層の記憶力と学習能力がよほど貧困でないかぎり、07年のような割高水準までの高騰は期待しない方が良いだろうと筆者は考えていた。

ところが、この点で注目すべき変化が起こっているかもしれない。アジアでの新興REIT投資家層の登場だ。アジアではシンガポールのREIT指数であるSTREIT指数が12 年に45%(米ドルベース)上昇し、香港のハンセンREIT指数も36%上昇するなど、REIT市場の活況が日本より一足先に起こっている。

ニッセイ基礎研究所の増宮守氏は「アジアREIT市場の現状と投資上の注意点」(1月31日付)で、次のように述べている。

「中国本土の富裕層にとって、シンガポールや香港の不動産は、資金の海外逃避先として最も人気の投資対象のひとつであるため、シンガポールや香港などのアジアREITも同様の対象とみられる。中国でもカネ余り現象が広がっており、規制強化のため取引量が減少し、停滞した2012年の中国本土不動産投資市場の状況から、一部の資金がアジアREITに向かったと考えても間違いはないだろう」。

アジアではシンガポールと香港を含む8カ国でREITが上場され、現在100銘柄、時価総額で820億ドル(約7.5兆円)となっているそうだが、REIT市場は株や債券市場に比べれば狭隘(きょうあい)な市場だ。中国を含むアジアの新興投資家のマネーが日本でもREITの新たな買手に加われば(すでに流入しているのかもしれない)、「のど元過ぎれば熱さを忘れる」の例え通り、日本のREIT市場が再びミニバブル的な高騰を起こす可能性が高くなるだろう。割安圏でREITを購入できた投資家には、楽しみな局面となってきた。

*竹中正治氏は龍谷大学経済学部教授。1979年東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、為替資金部次長、調査部次長、ワシントンDC駐在員事務所長、国際通貨研究所チーフエコノミストを経て、2009年4月より現職、経済学博士(京都大学)。


コラム:米アップル、さらなる株価下落の現実味 2013年2月8日
シンガポール・ホットストック=サンテックが下落 2013年1月23日
ETFを16日に227億円購入、前回より36億円増加=日銀 2013年1月16日
中国など新興国の政治不安、今年の大きなリスクに=イアン・ブレマー氏 2013年1月15日

 
コラム:米債下落で懸念される邦銀含み損、日本株で利食い売りも
2013年 02月 20日 16:31 JST
田巻 一彦

[東京 20日 ロイター] 19日のNY市場では米株が5年ぶりの高値を付け、米長期金利(10年米国債利回り)も2.03%まで上昇した。米株高/米債券安がこのまま進み、米長期金利が2.1%を突破して上昇するようなら、足元で米債投資を拡大させているメガバンクなどの邦銀の含み損を拡大させ、決算対策上の観点から日本株や日本国債での益出し売りも予想される。

アベノミクスへの期待感から進行してきた株高に冷水をかけたり、低位安定してきた日本の長期金利が久しぶりに上がり出すきっかけになる可能性もありそうだ。

<米株5年ぶり高値、背景にシェール革命への期待感>

19日の米株式市場では、ダウ.DJIが前日比53.91ドル上昇の1万4035.67ドル、S&P.SPXが同11.15ポイント上昇の1530.94ポイントと5年ぶりの高値を付けた。

短期的には、事務用品大手オフィス・デポ(ODP.N)と同業のオフィスマックス(OMX.N)による合併協議の動きに代表されるM&A(合併・買収)活発化を好感した買いが目立っている。だが、米株への資金流入を支えているのは、それだけではなさそうだ。低迷していた住宅市場に活気が戻り始めているほか、シェールガス・シェールオイルの生産増大が米産業の活性化に結びつき出した「シェール革命」の効果で、米景気が力強く回復するのではないかという期待感が盛り上がってきた。

こうなると、欧州債務危機を契機に表面化した世界的な「リスクオフ」心理の下で形成されてきた米長期金利の2%割れという現象も、修正を余儀なくされつつある。欧州情勢は2012年中に経験したユーロの空中分解危機から脱し、ひとまず小康状態を取り戻しつつある。そこに米景気回復への期待感醸成が加わり、米長期金利は、低下圧力よりも上昇圧力が強い局面に入った公算が大きい。

<残高増加傾向にあるメガバンクの米債投資>

ここで気になるのは、メガバンクを中心にした邦銀勢の動向だ。メガバンクは一部の地銀勢と対照的に日本国債の保有年限を長期化させていない。平均保有年限は2.5年程度とみられている。ただ、この年限では債券運用益の拡大に限界が出てくるため、米国債や米連邦機関債などの運用残高を増やし、利益の確保に努めてきたもようだ。

この戦術は、これまでのところ概ねうまく機能してきたが、最近になって雲行きが怪しくなっている。昨年末までは財政の崖へのリスクが意識され、米企業の設備投資が抑制され、米長期金利の低下材料になっていた。だが、米議会は当面の懸案を先送りし、崖からの転落をひとまず回避した。その結果、米長期金利を押し下げる圧力が大幅に後退。1月中旬から米長期金利は、ジワジワと上がり始めた。

<米債下落大きければ、日本国債・株で益出しの必要性高まる>

そこに最近の米経済の好調さを伝えるニュースが伝わり、足元で2%を突破した。長期金利の上昇(米国債価格の下落)は、邦銀にとって保有債券の含み損拡大を意味する。総合的に判断すると、米長期金利が2.1%を突破して3月期末を迎えると、想定している2013年3月期末の業績と違った"着地"になりかねない懸念が浮上しそうだ。

もし、これから2、3週間で米長期金利が2.1%を突破して、2.2%台からさらに上がりそうなら、米国債下落の穴埋めに保有する日本国債か日本株を売却して対応する必要が出てくるだろう。株で対応する銀行が出てくれば、ここまでかなりのハイペースで上がってきた日本株の騰勢に水をかけ、相場の調整色を表面化させるきっかけになる可能性がある。

また、日本国債を売却して利益を確保しようとする銀行が多ければ、低下圧力がかかり続けてきた日本の長期金利にも、上昇圧力がかかるきっかけになるかもしれない。ただ、日銀の新総裁が議長を務める4月の金融政策決定会合では、大胆な追加金融緩和の方針が決まる可能性もあり、日本における長期金利の上昇は、米国に比べれば、当面はかなり限定されることになるだろう。

<米欧金利上昇で注目度高まる日本の財政運営スタンス>

しかし、中期的には米国だけでなく、ドイツでも長期金利が上がり始めると、日本だけが別の惑星に存在するかのように、米欧と全く無関係に長期金利に低下圧力がかかり続けるということにはならないと予想する。その際に重要なのが、財政規律の維持について、政府が強い意思を持っているのかどうかだ。さらに日銀が野放図に国債買い入れを増やし、財政ファイナンスまがいの金融緩和とマーケットから見なされれば、全くの別の次元で、長期金利上昇の圧力が増大することになる。

米長期金利の上昇に合わせ、日本政府の財政政策の方針と新しい日銀総裁の財政ファイナンスをめぐるスタンスについて、マーケットの注目度が上がってくるに違いない。

 


コラム:米金融緩和解除に伴う痛み=ジェームズ・サフト氏
2013年 02月 21日 15:04 JST
ジェームズ・サフト

[20日 ロイター]米連邦準備理事会(FRB)が20日に公表した1月29―30日の連邦公開市場委員会(FOMC)議事録では、FRBのバランスシート拡大の規模や期間をめぐる強い懸念と議論があったことが示された。

投資家はこうした懸念は共有すべきだ。なぜならFRBは債券の買い入れ縮小や一部売却を通じて、膨らませたばかりのバブルを収縮させるのに必要な状況を再び作り出そうとしているからだ。

1月のFOMCでは複数の当局者が、月額850億ドルとなっている資産買い入れ額の変更に向けて準備すべきと主張した。また、一部のメンバーは資産買い入れの潜在的なリスクとコストを踏まえ、雇用市場の改善がFRBの数値基準に達する前に資産買い入れの縮小か停止が必要となる可能性があると指摘した。

一方で、複数の当局者が早期縮小に反対。一部のメンバーは購入した債券の保有期間を現在の想定より長期化する方針を示すことで一段の金融緩和を提供する案に言及した。

意見はさまざまだが、要するに大規模な資産買い入れプログラムの解除方法とその時期に関する議論が真剣さを増してきているということで、これはリスク資産の投資家にとっては実家暮らしをやめて自活する必要があると言われているようなものだ。

20日の米株市場は一時上昇したものの、下げに転じ、S&P総合500種.SPXは1.2%超下落した。一方、米国債の価格は上昇した。このことは、投資家が量的緩和第3弾(QE3)を景気刺激策と見なしていることを意味し、QE3が終了した場合に大きな問題となるのは、誰が債券を買うのかではなく何が成長を促進するのかであることを示しているとみられる。

この見方に基づくと、QEが縮小されるか終了した場合、株式市場からは資金が流出するが、景気を懸念する投資家は国債を買い続けるだろう。

だが、実際はすべてのリスク資産市場がFRBの3兆ドルにのぼる債券ポートフォリオの巻き戻し計画について懸念すべきだ。単一の買い手が独占する市場という意味で米国債市場もリスク資産に該当する。

グラスキン・シェフのストラテジスト、デビッド・ローゼンバーグ氏は、議事録の発表前にリサーチノートの中で「FRBの引き締めサイクルがこれまでにリセッション(景気後退)や金融危機、あるいはその両方の組み合わせなしに終わったことがないというのが事実であれば、長期にわたる大規模な緩和サイクルが、バブルにつながる活況を常にもたらしていることも同様に事実だ」と語った。

<金融緩和と引き締め>

1998年のヘッジファンド大手ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)破綻を受けた市場の過剰反応はFRBの金利が低過ぎたことを意味している。この間、インターネットバブルが形成され、1999年と2000年に金利がようやく引き上げられた際はるかに破壊的な事態がもたらされた。

そして言うまでもないが、過去10年間の序盤の弱い回復を受けFRBは再び金利を非常に低水準となる1%に維持し、2004年半ばまで継続した。この間、不動産バブルが形成され、成長率は実質、名目ともに妥当なペースで上昇していた。

FRBが行ってきた今回の緩和措置による影響がこうした出来事と比べて小さいかどうかを議論するのは難しい。したがってFRBの引き締め措置を受けた反応が、2000年や2008年の状況と匹敵するものになるかどうかについて考えなければならない。

FRBは利上げを実施するには程遠いかもしれないが、債券を売却することは確実に引き締めを意味する。

FRBのスタイン理事は2週間前の講演で、高利回り債市場でバブルのような兆候が見られると指摘した。これらの市場がFRBの債券買い入れの恩恵を受けているのは明らかだ。プログラムが終了したと市場が判断すれば、その時点で相場は後退する。

株式市場も同様にQEに大きく支えられており、終了によって同じような課題に直面するだろう。

最後にFRBが債券を売却している時に誰が長期国債を買いたいと思うのか。

FRBにとってバランスシートを縮小する容易な方法はない。おそらくこれが、議事録で示された議論をあまり深刻に受け取るべきでない最大の理由だろう。


 

コラム:群を抜くシンプソン、ボウルズ両氏の米赤字削減策
2013年 02月 21日 15:43 JST
By Daniel Indiviglio

[ワシントン 20日 ロイター BREAKINGVIEWS] ボウルズ元大統領首席補佐官とシンプソン元上院議員は、超党派の財政赤字削減策を策定する手腕において相変わらず群を抜いている。

2人の指揮で2010年に策定された最初の削減計画は「シンプソン・ボウルズ計画」の通称で知られたが、政治家の拒否に遭った。二人は今回、2兆4000億ドル規模の修正案を提示した。当初案と同じく、両党に嫌われる項目が盛りだくさんだ。しかし国家債務の抑制に向けたバランスの取れた代替案は相変わらず見当たらない。

米経済を救済するための最新の試みとして出された今回の計画では、税制改革を通じて今後10年間で税収を6000億ドル増やす。メディケア(高齢者向け公的医療保険)関連コストの削減でも同じく約6000億ドルを節約する。さらに支出削減と手数料収入の増加が1兆2000億ドル分を占める。これは民主、共和両党がこれまでに提示したどの案よも包括的だ。

目標額は当初のシンプソン・ボウルズ計画の4兆ドルを下回る。これは政府が既に実施した他の財政措置を考慮に入れたためだ。しかし公的債務の対国内総生産(GDP)比率の安定を目指すだけだった当初案と異なり、今回の案は2023年までに70%からさらに低下させることを意図している。

つまり、議会が修正案の厳しい項目について多少抵抗する余地は残っているということだ。民主党はメディケアなどの社会保障削減について不満を示しそうだ。共和党は1月に大幅な増税を渋々飲んだが、税控除の削減を通じてさらに増税幅を増やしたくはないだろう。しかし議員らは合意を成立させるために妥協を続ける必要がある。

残念ながら、シンプソン、ボウルズ両氏の復活は遅過ぎたかもしれない。当初案は、議会の準備が整えば即座に使える完成品だった。今回の案はまだ作業の途上だが、1週間後には1兆ドルの強制歳出削減の発動期限が迫る。議員らは再び期限を延長する可能性がある。しかし多くの議員は既に、外科手術的措置を超えた財政赤字削減策が不可避であることを認めている。シンプソン、ボウルズ両氏は良い働きをしたかもしれないが、米経済の運命を決められるのはホワイトハウスと共和党指導者らだけだ。

<背景となるニュース>

*ボウルズ元大統領首席補佐官とシンプソン元上院議員は19日、財政赤字削減策の大枠を提示した。

*オバマ米政権一期目で財政責任改革委員会(通称シンプソン・ボウルズ委員会)の立役者だった両氏は2兆4000億ドルの削減策について、3月に発動期限を迎える1兆ドルの強制歳出削減に代わり得るものだと説明。計画に盛り込んだ緊縮策の規模を考えると、米経済成長率が予想を下回った場合でも連邦財政は持続可能な経路をたどることができると主張している。

*計画の詳細は最終決定していないが、大まかにはメディケアの削減が6000億ドル、税制改革による税収増が6000億ドル、支出削減と新たな手数料収入が1兆2000億ドルとなっている。


 

FOMC議事録、資産購入の早期縮小意見も:識者はこうみる
2013年 02月 21日 06:47 JST
[ワシントン/ニューヨーク 20日 ロイター] 米連邦準備理事会(FRB)が20日に公表した1月29―30日の連邦公開市場委員会(FOMC)議事録によると、複数の当局者が潜在的なコストをめぐる懸念から、雇用市場が改善する前に資産買い入れの縮小か停止が必要となる可能性があると指摘した。

市場関係者のコメントは以下の通り。

●予想よりややタカ派、出口戦略で活発な議論

<コモンウェルス・フォーリン・エクスチェンジの首席市場アナリスト、オマー・エシナー氏>

量的緩和、および量的緩和が与える市場機能への影響をめぐる懸念が示された前回の議事録と類似している。

予想よりも幾分タカ派的なトーンが強かったため、前月のような反応が出ている。

米連邦準備理事会(FRB)は、早期の量的緩和(QE)解除を検討していないと明示したが、QEの規模が市場を歪める恐れがあることを当局者が懸念していることが示された。また出口戦略について活発な議論を交わしており、これはドルにとっては強材料、株式にとっては重しだ。

●QE縮小・停止に圧倒的支持

<ナビゲート・アドバイザーズのマネージング・ディレクター、トム・ディガロマ氏>

一見したところ議事録はタカ派的だ。量的緩和をめぐる懸念が再び焦点になった。量的緩和を縮小あるいは停止することに対してメンバーから圧倒的な支持があった。

●3月会合で量的緩和リスクの表現強まる可能性

<CRTキャピタル・グループLLC(コネティカット州)のシニア国債ストラテジスト、イアン・リンゲン氏>

投資家の間では連邦公開市場委員会(FOMC)議事録を取引材料に「したい」との意向が明確に働いているようだが、実際に国債相場に影響を及ぼす材料はあまりないと言える。

今回の議事録の論点を挙げるとすれば、1)連邦準備理事会(FRB)には買い入れペースを変更する意思がある。すなわち景気が上向けば買い入れペースを落とし、反対に景気が悪化すれば買い入れペースを速める、2)FOMC指針に定められた基準値まで経済が回復した場合、FRBは即座に行動を起こすというよりも「新たな指針」を示す公算が大きい、3)FRBは来月3月会合での資産買い入れ見直しに伴い、量的緩和のリスクに関連して一段と強力もしくは具体的な表現を用いる可能性がある、ということだ。

●タカ派トーンでも政策は維持へ

<マーク・インベストメンツのプレジデント、アクセル・マーク氏>

FOMCは政策の副作用に対する懸念を強めているようだ。恐らく数兆ドル前に副作用を考慮すべきだったが、今年FOMCの投票権を持つメンバーが非常にハト派的であることを忘れてはならない。議事録にタカ派色が表れても、FOMCは金融政策を据え置く公算が大きい。


 

 


 


焦点:拡大する中核国独仏の格差、ユーロ圏の前途に不安
2013年 02月 21日 14:55 JST
[ロンドン 20日 ロイター] ユーロ圏経済は一筋の光明が見え始めたところだが、ドイツと他の中核国、中でもフランスとの格差が開いていることについて懸念が高まっている。経済上の懸念は、成長力で他をしのぐドイツの財政緊縮策がフランスの景気回復を遅らせることだ。

フランスはドイツに対して着実に競争力を失っている。

政治上のリスクは、ユーロ圏が新たな体制作りに向けて強力な指導力を必要とする今、元よりぎこちないオランド・フランス大統領とメルケル・ドイツ首相との関係がさらに悪化しかねないことだ。

ナティクシス・アセット・マネジメント(パリ)のチーフエコノミスト、Philippe Waechter氏は、ドイツ経済の着実な回復見通しが9月の総選挙に向けてメルケル首相の立場を支えていると指摘。

対照的にオランド大統領は19日、ことしの成長率が政府予想の0.8%に届かないとの見通しを認めざるを得なかった。政府は既に、ことしの財政赤字が目標に届かないとしている。

Waechter氏は「問題はオランド大統領とメルケル首相の勢力バランスがどうなるかだ。両国はユーロ圏の政治構造において極めて重要だから」と述べた。

<勢力の不均衡>

フランスは財政赤字削減や構造改革よりも成長を優先する点で、ドイツよりイタリアやスペインと気脈を通じている。

しかし政治的後ろ盾を得てドイツに対抗したいオランド大統領にとって頭が痛いのは、24、25日のイタリア総選挙がどっちつかずの結果となりそうなのに加え、ラホイ・スペイン首相の権威が不正献金疑惑で揺らいでいることだ。

ドイツとフランスはともに昨年第4・四半期にマイナス成長となったが、今週発表された景況感調査によると、足元の景気動向は明暗を分けている。

フランス統計局が20日発表した2月の全産業景況指数は3カ月連続で横ばい。19日に発表されたドイツZEW景気期待指数は約3年ぶりの高水準だった。

ドイツでは1月の購買担当者景気指数が54.4と2011年6月以来最高となったが、フランスの同指数は42.7で、2009年3月以来最低に落ち込んだ。

スピロ・ソブリン・ストラテジー(ロンドン)のニコラス・スピロ氏は、フランスは債券市場でユーロ圏中核国扱いを受けているが、多くの景気・構造指標に照らせば「ラッキーな周縁国」の部類だと指摘。「フランスの信用力が強いとされているのはファンダメンタルズが理由ではなく、流動性に厚みがあり比較的安全で、ドイツを代替し得る債券市場が限られているためだ。ファンダメンタルズは数多くの分野で驚くほど悪い上、日々悪化を続けている」と付け加えた。

<格差>

ユーロが誕生した1999年以来、フランスとドイツの経済成長率は年平均1.4%で同じ。ユーロ圏全体の平均とも一致している。

99年から2007年にかけてはフランスの成長率がドイツをしのいでいた。しかしJPモルガンによると、世界金融危機以来、フランス経済は年平均0.1%のマイナス成長なのに対し、ドイツは0.8%のプラス成長だ。

財政面を見ると、ドイツは構造的財政収支と基礎的財政収支(プライマリーバランス)がともに黒字だが、フランスは両方が赤字だ。

JPモルガンは「長い目で見れば、フランスは既存の社会モデルと欧州内での政治的影響力のどちらを守るかという難しい選択を迫られる」と見る。

<その他中核国でも問題>

ドイツに取り残されて苦しんでいるのはフランスだけではない。フィンランドも昨年、輸出低迷と通信機器ノキアの不振でマイナス成長となった。

オランダは住宅市場の低迷が信頼感と個人消費を抑圧し、景気後退に陥っている。

こうしたユーロ圏中核国とドイツとの格差を収れんさせるには何が必要か。

ユーロ圏の金融環境が正常化すれば追い風になるだろう。ドイツの銀行が安全資産へと資金を逃避させている結果、ドイツの家計および企業向け貸し出し金利は現在、フランスやオランダの約半分だ。銀行が徐々に通常のサービスを再開すればこの差は縮むだろう。

エコノミストによると、改革が功を奏する兆候もある。オランダは住宅ローンの優遇税制を洗い直しており、フランスは労働改革法を一部成立させ、ドイツとの競争力格差を縮めるために企業に200億ユーロの税控除を施した。

しかしスピロ氏は、オランド大統領が取り組むべき課題は山のようにあると指摘。「フランスは課題の大きさに比べて十分な前進を成し遂げていない。改革という点では、隅っこに手を付けただけだ」と話した。

 

 


焦点:米とEUの貿易交渉、利益とリスクの両方を提供
2013年 02月 19日 15:14 JST
[ロンドン 18日 ロイター] 先週発表された6月開始予定の米国と欧州連合(EU)の自由貿易協定(FTA)交渉はEUにとって、今後の繁栄の源確保に向けた動きを後押しするものになるとみられるほか、アジアに軸足を移す米国との政治的な関係を再強化する重要な機会となる。

ただ交渉には困難が伴うだろう。過去15年間にわたる市場開放への継続的な試みはある程度の進展をもたらしたものの、結局失敗に終わった。今回は包括的な協議を通じ、当局者らは政治的なコストを低く抑えて合意が形成できると確信している。

ブリュッセルのシンクタンクである欧州国際政治経済研究所(ECIPE)のディレクター、フレデリック・エリクソン氏は、この理由の1つとして農業分野の変化を指摘。同分野は交渉で常に双方の悩みの種となってきたが、農産物の国際市場の変化によって2年前と比べてさほど問題になっていないとの見方を示した。

さらに米国とEUは新たな成長エンジンを活用することに慎重になっている。双方の予測によると、包括的な貿易協定によって2027年までにEUの国内総生産(GDP)は年間0.5%、米GDPは0.4%、それぞれ押し上げられる可能性がある。

しかし、強力な既得権によって引かれた越えてはならない交渉の一線をそれほど多く越える必要はないだろうとの当局者らの考えはすぐに試されることになる、とエリクソン氏は指摘する。

同氏は「供給サイドの改革実施に前向きでない限り、短期・中期的な経済的利益やより長期的なダイナミックな利益につながる合意は得られないことがより明確になってくる」と語った。

<改革>

エリクソン氏によると、欧州委員会は実際、協議をEUの経済状況改善に向けた抜本的な改革推進の機会ととらえているという。

世界的な金融危機を受け、各国政府は特に年金、労働市場改革への意欲を強めてきた。しかし、人材派遣大手ランスタッドのベン・ノートブーム最高経営責任者(CEO)は、欧州の改革について十分ではないとし、高齢化に加え、技術革新や新興国市場との競争を背景にした中程度の技術職の空洞化によって直面する課題を踏まえると、欧州は改革推進力を維持するほかに選択肢はないとの見方を示した。

EUが今月合意した2014―2020年の中期予算では農業関連予算が依然として最も高い比率を占めた。農業関連予算は削減されたものの、フランスや他の農業国は、EU予算の大部分が投資・競争力拡大に振り向けられるのを阻止した。

EUが遺伝子組み換え植物やホルモン剤で育てられた牛の肉など米産バイオテクノロジー食品に対する警戒を緩めることに消極的なことを踏まえると、米国とEUの貿易交渉でも同様に農業分野が争点になる見通しだ。

欧州改革センター(CER)のフィリップ・ホワイト氏は、したがってこうした問題を棚上げにする友好的なムードがあったとしても、農業分野は依然として交渉の妨げになる可能性があると指摘している。

<大きな利益>

スイスのザンクトガレン大学国際貿易学教授、サイモン・イブネット氏も、この見解に同調。米国とEUが世界基準の設定につながると位置付ける貿易交渉の成立を達成するためには農業分野における相違を解決する必要があるとの見方を示した。

環大西洋で自動車の安全規則や新薬の試験規則が一元化されれば、製造コストが低減され、小売価格の低下につながる。

イブネット氏は「そうなればビジネスにとって大きな利益がもたらされる可能性がある」と語った。

ただ、その上でグローバル化を懸念する有権者に貿易協定を売り込むのは容易ではないと指摘。「貿易改革からの恩恵はフィットネストレーニングのようなもので、その効果はすぐには得られず、痛みを伴う場合が多い。貿易パートナーシップも同じだ」との見方を示した。

(Alan Wheatley記者;翻訳 佐藤久仁子;編集 佐々木美和)

 


焦点:イタリア総選挙、結果にかかわらず改革困難か
2013年 02月 21日 15:22 JST

トップニュース
焦点:拡大する中核国独仏の格差、ユーロ圏の前途に不安
インタビュー:日銀総裁人事、過度なリフレ派は好ましくない=前原氏
アングル:深刻化する中国水質汚染、巨額の浄化費用も水の泡
北朝鮮核実験の実態いまだつかめず、証拠隠し「巧みに」

[ローマ 20日 ロイター] 24─25日のイタリア総選挙は、どの政党が勝利しても政権基盤は弱く、経済の競争力強化につながる厳しい改革の断行は難しそうだ。総選挙前最後の世論調査結果によると、今回の総選挙では上下両院とも、中道左派連合がモンティ暫定首相の中道穏健派と連携し、過半数議席を確保する可能性が高い。

政治リスク専門コンサルティング会社ユーラシアも、このシナリオの確率を50%─60%とみている。

市場でも、総選挙への懸念は浮上していない。2011年に6%を超えた10年国債利回りは現在4.4%付近。国内株式市場も年明け以降、概ね他の欧州株と同じ値動きをみせている。

ただ、市場が想定する選挙結果は2月上旬の世論調査に基づいている。イタリアでは投票直前の世論調査の公表が禁止されており、国内では、汚職や景気低迷に不満を持つ有権者が、予想外の投票行動をとる可能性があるとの見方が出ている。

同国では公的資金で救済を受けた大手銀行モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナでデリバティブ絡みの損失が発覚。世論調査で支持率トップの中道左派は、同行との関係が深く、今回の不祥事が支持率低下の一因になるとみられる。

モンティ暫定首相が率いる中道穏健派は、厳しい緊縮財政への批判が出るなか、世論調査で4位と低迷している。

<グリッロ氏が「台風の目」>

専門家が引用した私的な調査によると、選挙戦終盤で支持を伸ばしているのが、人気コメディアンのグッペ・グリッロ氏が率いる市民運動「五つ星運動」だ。同氏は選挙カーで全国を遊説するほか、インターネットを中心に自身のブログで既成政党を批判している。

ミラノのある銀行関係者は匿名を条件に「グリッロ氏が台風の目だ。同氏が勝つことはないだろうが、中道左派のベルサニ民主党党首や、モンティ暫定首相の得票が減り、盤石な政権づくりが難しくなる」と述べた。

同国の選挙法では、下院で最多議席を確保した政党が、得票率にかかわらず、自動的に総議席の55%を確保できるが、上院は地域ごとに票の上乗せが行われる。

世論調査機関によると、上院の接戦地区は一部だが、中道左派が上院で過半数を確保できない事態は十分考えられるという。

グリッロ氏の「五つ星運動」が躍進すれば、既成の政治に抵抗する経験の浅い新人議員が増え、議会がこう着状態に陥る恐れもある。

一部の専門家は「五つ星運動」の得票率が20%を超えると予想。中道左派のベルサニ氏とモンティ暫定首相が連携しても、上院で過半数を確保できない可能性がある。

コンサルティング会社ユーラシアは、このシナリオの確率を20%─30%としている。

ある外交筋は「五つ星運動が安定源になるとは思えない。連立政権に参加することはないだろう」と述べた。

グリッロ氏自身は、1981年に交通事故で3人を死亡させた過去があり、同運動の規定で出馬は見送っている。

<「大連立」なら市場に不安>

北部の自治権拡大を主張する北部同盟も、現政権を厳しく批判している。世論調査の得票率は全国で5%前後。同党幹部は中道右派と連携して、中道左派の勢力拡大阻止を目指す考えを示している。

専門家は、五つ星運動と北部同盟の躍進で、中道左派とモンティ暫定首相が過半数を確保できなかった場合、左派と右派の「大連立」が実現する可能性が高いと指摘している。

この場合、中道右派のベルルスコーニ前首相が新政権で要職を担い、モンティ暫定首相は政権への参加を見送る可能性が高く、市場に不安が広がるとみられている。

ベルルスコーニ前首相が率いる中道右派は、手馴れた選挙戦略や、前首相が多くの民放テレビ局を傘下に収めていることから、この1カ月で支持を伸ばしているが、勝利には至らないとの見方が多い。

ある外交官は「次期政権も目標達成に四苦八苦し、経済は精彩を欠くことになる可能性が高い。この国には新しい指導者が必要だ」と述べた。

<中道左派は4党連合、モンティ氏も3党連合>

ベルサニ氏が率いる中道左派連合は、旧共産主義者でプーリア州知事のニキ・ベンドラ氏のほか、キリスト教左派、社会主義者、中道派などが参加する4政党で構成されている。

世論調査の結果通り、単独で過半数を確保できなれば、モンティ氏が率いる中道穏健派との連携が不可欠となる。ただ、中道穏健派も3政党の連合だ。

市場関係者は、政治的な色合いが異なる7つの政党から成る政権がイタリアに必要な厳しい改革で合意できる可能性は非常に低いと分析している。

ある銀行関係者は「ベルサニ、モンティ、ベンドラの各氏で構成する政権が樹立されれば、話し合うばかりで何も決まらないだろう。ベルサニ氏とベンドラ氏の改革能力はゼロに近い」と述べた。

ある欧州の外交官は「イタリア経済は過去20年間、一貫して下降してきた。今回の選挙でその流れを変えるのは難しい。イタリアの再出発につながる改革は、実現できないだろう」と述べた。

(Michael Stott 記者;翻訳 深滝壱哉 編集 吉瀬邦彦) 

関連ニュース

独首相、伊総選挙で中道左派民主党の勝利望まず=モンティ首相 2013年2月21日
伊中道左派、改革推進とモンティ氏との連携強調 2013年2月20日
イタリア総選挙で「五つ星運動」に勢い、最大の不確定要素に 2013年2月19日
独連邦債が上昇、イタリア総選挙控えた警戒感で 2013年2月19日

 
独首相、伊総選挙で中道左派民主党の勝利望まず=モンティ首相
2013年 02月 21日 07:03 JST

[ローマ 20日 ロイター] イタリアの通信社アドンクロノスは20日、モンティ首相の発言として、ドイツのメルケル首相が週末のイタリア総選挙で中道左派の民主党(PD)の勝利を望んでいないと報じた。

それによると、モンティ首相は「メルケル首相は自身も今年選挙を控えていることから、左派政党の連携を恐れている。彼女は民主党政権の誕生を決して望んでいないと思われる」と語った。

この発言について、モンティ首相の報道官は内容を確認するとともに、これはモンティ首相が自分の意見を述べたものであり、この事柄についてメルケル首相と直接意見を交わしたと言っているわけではないと述べた。


 

コラム:中国が仕掛けるサイバー戦争、米企業の「沈黙は金」か
2013年 02月 20日 16:08 JST
By Ian Bremmer

米企業は戦争状態にあるが、それがどういうことかと彼らに聞いても答えは返ってこないだろう。企業同士が戦火を交えている訳ではなく、彼らの知的財産や機密情報を狙うハッカーによる攻撃を受けているのだ。

ハッカーによる攻撃がどれほど深く進攻しているかは、実際に被害に遭った企業にしかほとんど分からない。なぜなら、彼らはサイバー攻撃を仕掛けてきた国をことさら刺激しないよう沈黙を守っているからだ。中国はサイバー攻撃が最も多い国であると同時に、多くの場合、企業にとってはチャンスが最も多い国でもある。米企業は、中国での稼ぎを優先し、甘んじて屈辱を受け入れているのだ。

企業が口を閉ざしているとき、そうしたサイバー攻撃の実態をわれわれはどうして知ることができるか。それは、米国政府が気付いているからだ。ニューヨーク・タイムズ紙は19日、米国を狙ったサイバー攻撃と中国人民解放軍の結びつきを強調する記事を掲載した。またワシントン・ポスト紙の先週の報道によれば、米機密文書の「国家情報評価」は、中国が最も攻撃的に米企業・機関へのハッカー攻撃を仕掛けていると結論付けた。

これが、米国が負けつつあるサイバー戦争の最前線だ。国家間のサイバー戦争では、米国が健闘しているのは分かっている。高度なマルウェア「Stuxnet」を使い、イラン核施設の遠心分離機をダウンさせたサイバー攻撃はいい例だろう。

しかし、企業がらみの妨害工作やスパイ行為について言えば、米国は中国に比べ、かなり後れを取っている。われわれは自由市場資本主義だからだ。米国政府は、経済に有益な情報を民間セクターに代わって取得しようと介入するようなことはしない。ひるがえって、国家資本主義の中国は、そうしたサイバー攻撃にははるかに長けている。

オバマ大統領は確かに、一般教書演説では、国内の産業・インフラをサイバー攻撃から守る体制の強化を目指す大統領令を発表した。ただ、企業を狙ったサイバー攻撃への広範な対策は、企業が自ら答えを出さなくてはならない。こうした取り組みが聞こえてこないのはなぜか。「国家情報評価」が示唆したように、かなり多くの企業がハッカーの攻撃を受けているにもかかわらず、彼らは世界第2位の経済大国であり、最大の取引先である中国でビジネスを失うことを恐れているのだ。

中国政府の抑圧的な政策に唯一抵抗を見せたのはグーグルぐらいだ。グーグルが中国当局の検閲を回避するため、中国の検索サービスを香港に転送したのは有名だ。しかし、マイクロソフトは、グーグルの中国本土撤退をビジネスチャンスととらえた。同社の幹部はグーグルの決断を直接引き合いに出した上で「われわれは撤退しない」と明言した。

グーグルは確かに代償を払った。同社の中国検索市場でのシェアは約30%から5%にまで低下し、現地企業の百度に大きく水を開けられている。百度は言うまでもなく、中国政府と密接なつながりを持つ。

ニューヨーク・タイムズもグーグル同様、立場を明確にした。昨年10月に温家宝首相の一族に不正蓄財があったと報道して以降、同社はサイバー攻撃にさらされた。しかし口を閉ざす代わりに、ハッカーによる攻撃を受けた事実を記事にして応酬して見せた。ワシントン・ポストとウォールストリート・ジャーナルも同じように声を上げた。

グーグルやこうした新聞各紙のビジネスモデルは、情報の自由が柱となっている。しかし他のビジネスでは、マイナス面がプラス面に大きく勝ることが往々にしてある。コカ・コーラが2009年にハッキングされた後、沈黙を守ったのもそれで説明がつくだろう。コカ・コーラが中国のジュース企業に対する24億ドルでの買収を試みた後、ハッカーは同買収に関する内部文書を盗み出した。ブルームバーグによれば、この買収が実現していれば、外資による中国企業の買収としては当時史上最大規模になったはずだった。

コカ・コーラはそれからかなり後、2012年後半に事実が明るみに出てからサイバー攻撃があったことを認めた。後からでも事実を公表するのは、何も語らない他の多くの企業に比べればはるかにましだ。中国政府に食ってかかり、変化をもたらすことができる企業があるとすれば、それは業界トップしかないだろうが、コカ・コーラにしてみれば、自分たちが抜けた穴を競合相手に埋められることも心配だろう。

サイバー攻撃に対する最善の方策は、力の強い多国籍企業が競合相手と協力して問題への関心を高め、圧力をかけることだろう。もしコカ・コーラがライバルのペプシコと共同戦線を張っていれば、もっと大きな進展があっただろう。ボーイングとエアバスなど、各業界の盟主たちにも同じことが言える。企業が単独で危険を冒せないというのなら、業界団体に立ち上がってもらうのも手だ。

中国に首尾よく圧力をかけるためには、ハッキングを受けた全企業による協調した取り組みが必要だ。

パネッタ国防長官は昨年10月、米国の重要インフラに対するハッカー攻撃は将来「サイバー真珠湾攻撃」にもなりかねないと警告した。米企業はすでに、日々刻々とサイバー戦争を仕掛けられているのだ。今こそ、サイバー攻撃を受けた企業同士が協力し、知恵を出しあう時ではないだろうか。

(19日 ロイター)

*筆者は国際政治リスク分析を専門とするコンサルティング会社、ユーラシア・グループの社長。スタンフォード大学で博士号(政治学)取得後、フーバー研究所の研究員に最年少で就任。その後、コロンビア大学、東西研究所、ローレンス・リバモア国立研究所などを経て、現在に至る。全米でベストセラーとなった「The End of the Free Market」(邦訳は『自由市場の終焉 国家資本主義とどう闘うか』など著書多数。


04. 2013年2月21日 17:50:16 : xEBOc6ttRg
民主・海江田氏:日銀総裁人事、武藤氏ら提示でもただちに排除せず

  2月21日(ブルームバーグ):民主党の海江田万里代表は21日午後の定例会見で、日本銀行の白川方明総裁の後任人事で、仮に5年前に同党が反対した候補者を政府が提示してきた場合でもただちに排除せず、最近の活動などを検証した上で判断する方針を明らかにした。民主党は2008年に当時の福田康夫政権が提示した武藤敏郎元財務事務次官らの起用案に反対した経緯がある。
海江田氏は5年前に反対した人物が総裁候補者として提示された場合に政治的に今回は賛成に回ることが可能か、との質問に対し、「頭の体操だが、じゃあその方は4年の間どこで何をしていたんだろうとか、いろんな考え方があろうと思う。その4年の間、役所にいたわけではないと思う。そういうことも含めていろんなことを考えないといけない」と述べた。
その上で、「今の段階では何も提示がない。あれやこれや言うことは控えたい」とも指摘した。
これに関連し、菅義偉官房長官は21日午後の会見で、日銀正副総裁人事案の国会提示時期について「来週中にしっかり提示しないと間に合わない」と指摘。正式提示する前に民主党などに事前相談する可能性については「まったくまだ決めていない」と語った。
安倍晋三首相は21日昼、公明党の山口那津男代表と会談。山口氏によると、首相は帰国後、日銀人事についてなるべく早い段階で相談したい、と語った。
記事についての記者への問い合わせ先:東京 広川高史 thirokawa@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:大久保義人 yokubo1@bloomberg.net
更新日時: 2013/02/21 16:56 JST


 

金融緩和策をいつまで続けるか、FRB内で割れる見解
 米連邦準備制度理事会(FRB)関係者は、低金利政策から生じ得る危険性に不安を感じているが、米経済を再生するために編み出した実験的な措置の早期解除については見解が分かれている。


神経質になってきた市場、FOMC議事録で流動性縮小懸念
2013年 02月 21日 17:05 JST
[東京 21日 ロイター] マーケットが神経質になってきた。米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録を材料に、米金融緩和による流動性の縮小懸念が強まったが、議事録の内容自体はどちらにでもとれる内容だ。

高値圏の日米株に一服感が出てきたことで、利益確定売りの材料に飛びつきやすい状況となっている。FRBの資産買い入れ額が縮小すればドル高要因だが、イタリア総選挙などを控えて不透明感も強まっており、リスクオン方向の円安は進まず、日本株の下支え材料とはなっていない。

<利益確定売りが出やすい環境>

日経平均.N225は反落。150円を超える下落となり、1万1300円割れ寸前に迫った。「前日公表されたFOMC議事録の内容から世界的な流動性収縮への懸念が浮上し、短期筋が手じまっているようだ」(準大手証券トレーダー)との声が出るなど、米金融緩和による流動性の縮小懸念が売り材料とされた。

ただ、材料とされた1月29―30日のFOMC議事録自体は、金融緩和縮小を強く示唆する内容ではないとの受け止めも多い。複数の委員が、潜在的なコストをめぐる懸念から、雇用市場が改善する前に資産買い入れの縮小か停止が必要となる可能性があると指摘したが、前回12月のFOMC議事録でも、複数の委員が、2013年末より相当前に買い入れペースを緩めるか、停止することが恐らく適当との考えを示したとされていた。1月の議事録では「2013年末」という具体的な期限はなく、「一部の当局者は資産買い入れをあまりに早く縮小または停止することによる潜在的なコストを指摘した」というハト派的な内容もあった。

FOMC内部で意見の相違があることが強く印象付けられる内容だったが、資産買い入れの縮小や廃止を前回よりも意識させる内容が見られたわけではなかった。それにもかかわらずマーケットが過敏に反応したのは、日米株ともに高値警戒感が強まっているためだ。米ダウ.DJIは史上最高値水準で推移、日本株は米株に比べ出遅れているとはいえ、昨年11月半ばから30%を超える急ピッチで上昇している。

ここにきて株価上昇にブレーキがかかり、一服感が強まっていることで「利益確定売りが誘われやすい状況であり、マーケットが売り材料に神経質になっている」(国内証券)という。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券・投資情報部長の藤戸則弘氏は「現在のFOMCメンバーはハト派が多い。米労働市場も順調に回復しているわけではなく、緩和縮小の議論は出ても、実際に行動に移すには時間がかかるだろう。米株が史上最高値近辺にまで上昇してきたことで、売り材料にナーバスになっているのが実情だ」と指摘している。

<イタリア総選挙を警戒>

重要イベントが待ち受けていることも、リスクオフ方向の動きを加速させている要因だ。焦点の1つは24─25日のイタリア総選挙であり、ベルサニ氏率いる中道左派がベルルスコーニ前首相率いる中道右派を依然として約4─5ポイントリードしているとみられているが、選挙制度が複雑な上院の結果は見通せないとの意見が大勢となっている。3分の1の浮動票の行方はまだわからない。

米金融緩和が縮小されるとの見方が強まればドル高材料となるが、欧州圏を中心に先行き不透明感が強い中では、リスクオン方向の円売りは進みにくい。金融引き締め観測が出た中国でも上海総合指数.SSECが急落しており、警戒感が強まっている。21日の東京市場では、ユーロ/円などクロス円が軟調になるなか、ドル/円も重くなり、93円前半まで下落した。

三菱東京UFJ銀行・金融市場部戦略トレーディンググループ次長の今井健一氏は米金融緩和の行方に関して、来週26─27日に予定されているバーナンキFRB議長の議会証言に注目したいとしている。「FOMC内部の意見はだいぶ分かれているようだ。バーナンキ議長がどちらに傾くかで大勢が決まるとみられ、注目度がいつにも増して上がっている」という。

日本でも、次期日銀総裁人事をめぐってマーケットは神経質な展開となっている。三井住友信託銀行マーケット・ストラテジストの瀬良礼子氏は「(次期総裁が)岩田一政日本経済研究センター理事長(元日銀副総裁)になれば外債購入という話が出てくるので、いったんはドル/円は振らされるだろう。ただ、現実的には難しいので、そのあたりが円安のピークになるのではないか」との見方を示している。

(ロイターニュース 伊賀大記;編集 山川薫)

 

債券は反発、国内株安・円高で買いが優勢−20年債入札は応札倍率低下

  2月21日(ブルームバーグ):債券相場は反発。株式相場の下落や外国為替市場での円高基調が買い手掛かりとなった。一方、きょう実施の20年債入札は応札倍率が半年ぶり低水準となるなど弱めだった。
東京先物市場で中心限月の3月物は、前日比1銭安の144円34銭で取引開始し、いったんは144円32銭まで下落した。しかし、その後は上昇に転じて、午後に入ると上げ幅を拡大し、一時は144円48銭まで上昇した。結局は8銭高の144円43銭で取引を終えた。
岡三アセットマネジメントの山田聡債券運用部長は、米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録では資産購入ペース変更などの意見が出ていたが、市場の反応は米株が下落する一方、米債の反応は限定的となり、為替はドル高・円安が進まなかったと指摘。日本は金融緩和の方向にあるとして、金利が上昇しにくい地合いが続くとの見方を示した。
現物債市場で長期金利 の指標となる新発10年物国債の327回債利回りは横ばいの0.74%で始まり、午前は同水準で推移。午後に入ると0.5ベーシスポイント(bp)低い0.735%に低下した。5年物の108回債利回りは0.5bp低い0.13%と、新発5年債利回りとして19日に記録した過去最低水準で推移した。20年物の141回債利回りは1bp低下の1.76%。30年物の37回債利回りは1bp高い1.935%。
財務省がこの日実施した表面利率1.8%の20年国債(142回債)の入札結果によると、最低落札価格は100円60銭と市場予想を5銭下回った。小さければ好調とされるテール(最低と平均落札価格の差)は11銭と前回の20銭から縮小。投資家需要の強さを示す応札倍率は2.56倍と、昨年8月以来の低水準となった。
日本相互証券によると、きょう入札された20年物の142回債利回りは業者間市場では1.75%で始まり、一時は1.755%にやや上昇。午後5時現在では1.75%で取引されている。
株安・円高
SMBC日興証券金融経済調査部の山田聡部長は、20年債入札結果について、「予想より若干弱めだった。ただ、テールが前回、前々回と比べて縮小しており、無難に通過した」と分析。債券相場については「株安、円高といった外部環境を背景に先物中心に小じっかり」だと説明した。
日経平均株価 は前日比159円15銭安の1万1309円13銭で引けた。東京外為市場では円が上昇し、対ドルで一時1ドル=93円35銭を付けた。アジア株下落によるリスク回避の連想から円を買う動きが強まった。
20日の米国債相場は反発。米10年債利回りは前日比2bp低下の2.01%程度。一方、米株相場は下落。S&P500種株価指数は1.2%安の1511.95。FOMC議事録(1月29、30日開催)を嫌気して売りが膨らんだ。議事録では資産購入のペース変更、停止あるいは継続について参加者の見解が割れたことが明らかになった。
記事に関する記者への問い合わせ先:東京 山中英典 h.y@bloomberg.net;東京 赤間信行 akam@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Rocky Swift rswift5@bloomberg.net;大久保義人 yokubo1@bloomberg.net
更新日時: 2013/02/21 17:03 JST

 

2013年 2月 21日 15:00 JST
【社説】中国によるサイバー攻撃―世界経済に重大な影響

Agence France-Presse/Getty Images
中国軍主導のハッキング・グループが入居しているとされる建物(上海)
 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のほか、中国政府にハッキングされた企業から依頼を受けた米ネットワーク・セキュリティー会社のマンディアントは、中国人民解放軍が過去7年間に115の米国企業にハッキング行為を行ってきたことを示す有力な証拠を発表した。膨大な量のデータと機密情報が盗まれたのだ。その報告書はデジタル痕跡から、上海の大同路に面した人民解放軍の一組織である「ユニット61398」の本部が置かれているある建物まで特定している。

 中国政府の報道官たちはハッキング攻撃に関して一切の関与を否定し続けており、中国もそうした攻撃の被害国だと主張している。攻撃の規模と巧妙さからして、そうした反論は前々から信じ難かった。決定的な証拠が浮上した今、問題はこうした活発化している攻撃に自由主義諸国がどう対処すべきかである。

 各国の政府はこれまでも互いにスパイ行為をし合い、商業的価値がある秘密の入手を画策してきた。だとすると、中国の行為はそれとどう違うのだろうか。愚かにも適切にデータを保護することを怠っていたのなら、中国の競合他社に知的財産を盗まれているという西側諸国の企業の言い分も通用しない。

 だが、スターリンが言ったとされている言葉通り、「量も質のうちな」のだ。一国が政治的、経済的に幅広く国益を高めることを目的として民間企業からデータを盗むのにこれほど膨大な資源を投じるなど、世界でも前代未聞である。インターネットを通じた窃盗・破壊行為を好む中国の体質は、世界の経済秩序を変えてしまうかもしれない。 これが誇張のように思えるのであれば、産業革命と次々に起きた技術革新は、起業家が自らの創意や努力によって利益を上げることを可能にした法的・文化的枠組みに依存していたということを思い出してほしい。それとは対照的に、中国やその他の独裁体制では、実業界の大物は概して政治的影響力や腐敗を通じて台頭し、その地位を維持していく。自由市場の創造力に常にただ乗りしてきたのも彼らである。

関連記事

米、対サイバー攻撃戦略を公表
米政府、中国との対決姿勢強める―サイバー攻撃問題で
中国、「ハッカー国は米国」と反撃
 最近まで、中国が革新者たちに被害をもたらすことはほとんどなく、むしろ彼らの力にさえなってきた。たとえば故スティーブ・ジョブズ氏の革新的な製品を組み立てる労働力を提供するといった具合に。ところが中国政府は今や、他国の人々の繁栄を脅かすほどに、世界の経済ルールを踏みにじるつもりのようだ。近く出版される著書で、グーグルの元最高経営責任者(CEO)のエリック・シュミット氏が、中国のハッキング行為と情報統制は同国を危険にしていると書いているのもうなずける。

 かつてのソビエト連邦は、あからさまな軍事力と政治的転覆を図る能力を使って資本主義の西側諸国を脅かした。ところが、中国のハッキング行為による脅威はそれよりもたちが悪い。というのも、中国政府はルールに従って行動していると主張する一方で、追跡や阻止が難しいツールを使ってそのルールを覆しているからだ。中国企業が猛烈なスピードで成長し続けるには、いかさまをする必要があると中国政府は計算したようだ。この影響で西側諸国は、企業と国家が一定の距離を保つのではなく、1つになって事業を行わなければならない世界に引き戻されてしまうかもしれない。

 われわれは中国の行動が自滅的だと証明されることを望んでいる。経済取引の本質は相互利益であり、相手を食い物にし続けるような貿易相手国とはいかなる国も取引をし続けるべきではない。米国政府もようやく勇気を振り絞り、穏やかで弱々しい嘆願以上の反応を示そうとしているようだ。

 より強固な防衛策も絶対に必要だろう。マンディアントがしたように、ハッキング行為を行っている中国の団体を名指しして恥をかかせることも重要だが、個人や団体に標的を絞った制裁を科すことも必要になるだろう。現在のような米国との経済関係を維持したければ、サイバー攻撃はやめざるを得ないという事実を中国の高官たちは受け入れなければならない。

 かねてより「中国流社会主義」の大成功を見せびらかすことを望んできた中国政府は、ある点ではそれをしてきたのだろう。窃盗はその明確な特徴と言える。


05. 2013年2月21日 17:56:15 : xEBOc6ttRg
高野やすのりののりのりFX トップ |
米FOMC複数のメンバーが早期のQE停止を主張
2013/02/21 (木) 13:14


昨日の海外時間には、公表された英中銀金融政策委員会(MPC)議事録でキング総裁を含む3名が資産買入れ枠の増額を主張していたことが公表されポンドが急落しました。またNY時間に公表された米FOMC議事録では、複数のメンバーが早期の量的緩和縮小を主張していたことが明らかとなったことから、ドルが買われました。

欧州時間、公表された英中銀金融政策委員会(MPC)議事録で「資産買入れ枠の規模を6対3で据え置いた」とされ、買入れ枠の拡大を主張した委員が1人から3人に増え、その中にキング総裁も含まれていたことからポンドが急落しました。ポンドが売られたことから全般的にドル買いが強まってユーロドルは1.3360台まで下落し、ドル円は93.60円付近まで上昇しました。

NY時間にはいって発表された、米・1月住宅着工件数が予想を下回ったことから一旦ドル売りが強まる場面もありましたが、建設許可件数が予想をやや上回っていたことなどから買戻しが優勢となりました。米長期金利が上昇したこともあってドルが買われ、ドル円は93.70円台まで上昇し、ユーロドルは1.3330台まで下落しました。

NY時間午後になって米FOMC議事録が公表され「数人のメンバーは雇用の顕著な改善まで資産購入の継続を主張」「幾人かのメンバーは、景気予測次第で量的緩和のペースを変更すべきと主張」「複数のメンバーは、雇用市場が著しく改善する前にQE3の縮小、あるいは停止が必要な可能性を指摘」などとされたことから、FOMC内で意見が分かれているものの、これまでよりもタカ派的との見方が拡がりユーロ売りが強まって、ユーロドルは1.3280付近まで急落しました。一方ドル円は、一旦米長期金利が上昇したことから買われ94.00円台を付けましたが、米金利がすぐに反落したこともあって93.50円付近まで下落しました。

今日の海外時間にはスイス・1月貿易収支、独/ユーロ圏・2月製造業/サービスPMI、米・1月消費者物価指数、米・新規失業保険申請件数、米・2月フィラデルフィア連銀景況指数、米・1月景気先行指数、米・1月中古住宅販売件数の発表と、ブラード・米セントルイス連銀総裁、ウィリアムズ・米サンフランシスコ連銀総裁の講演があります。


 

ダックビル為替研究所 トップ |
キング総裁が緩和姿勢に 英中銀議事録と今後のポンド
2013/02/21 (木) 14:09


今月7日に開催された英中銀金融政策会合(MPC)では
政策金利(0.5%)と資産買入プログラムの最大枠(3750億ポンド)の据え置きが決定されましたが
昨日20日に発表された同会合議事録において
資産買入枠据え置きの決定が予想された8対1ではなく
6対1であったことが判明しました。
(政策金利据え置きは予想通り全員一致)

昨年11月からマイルズ委員が最大枠の拡大を主張していましたが
今回はこれに
キング総裁とフィッシャー理事が同調した格好です。

日銀金融政策決定会合や米連邦公開市場委員会(FOMC)では
議長の行こうが強く反映されますが
(というかFOMCの場合議長提案が否決されると、議長は辞任するのが不文律)
英MPCの場合、議長の意見が少数派となって反映されないのは
割と日常茶飯事で
キング総裁が議長になってから少数派に回るのはこれで4回目となり
とんでもないサプライズというわけではありませんが
英景気が劇的に回復する見込みも薄い中、
次回もしくは次々回程度までには追加緩和が行われる可能性が相当高まったといえ
ポンド売りを招いています。

英国は今月13日に発表した四半期インフレ報告において
二年後のGDP成長率見通しを
前回11月の同報告で掲げた+2.0%から+1.9%に下方修正するなど
英景気先行きはやや不透明感が高い状況
同報告の中で
2015年までは、リーマンショック前のピーク水準を上まわらないと
慎重な姿勢が示されており
そうした意味では今回の緩和主張は理にかなったものと言えます。

しかし、一方でインフレ水準の高止まりも指摘されており
2年後のCPI見通しは+2.3%と前回の+1.8%から大幅に上方修正
二年後でもまだ目標の2%までインフレが落ち着かない見通しを掲げており
緩和へ大きなハードルとなっています。

食品価格の上昇などもあり、
今年第3四半期にはインフレが上限の3%を越えて3.2%まで上昇するとも見込まれており
インフレを加速させる追加緩和には慎重になるのではという見方が強い中での
総裁の緩和主張となりました。
(慎重姿勢が強いからこそ、否決されたわけですが)

今回の影響ですが
追加緩和を織り込んでいなかったこともあり
発表直後に大きく売られ
その後の戻りも鈍くなっています。

金融政策の変更は相場に大きな影響を与える事項。
将来的な変更自体は予想されやすいため
じっくりと織り込んでいくのがパターンですが
(例えば、あと一回の利下げ派織り込み済みの豪ドル)
今回のように、織り込みがあまりなかったところに
来月初めにも緩和という状況になると
もう少し影響が続くと見られます。

もともと、景気回復期待の強いユーロ圏と比べて
売りが出やすい状況にあったポンドだけに
投資資金の逃避傾向が強まる可能性があります。

 

小笠原誠治の経済ニュースに異議あり! トップ |
貿易赤字が益々拡大する恐れ
2013/02/21 (木) 13:42


 昨日、1月の貿易統計(速報値)が発表になりましたが、1月の貿易収支は、なんと1兆6924億円の赤字になったとか。単月の赤字としては1979年以降で最大の規模である、と。


(円安が進むと短期的には貿易赤字が拡大しやすいと言う財務省)

 アベノミクスで円安が起き、そして、その円安が株価の上昇をもたらすとともに、輸出企業の業績を改善させるという良い効果ばかりが目立っていたのですが‥

 アベノミクスによって円安が起きれば、輸出が回復して貿易収支が改善すると思っていた人にとっては皮肉な結果になっているのです。

 では、何故アベノミクスが貿易赤字を大きくするのか?
 アベノミクス →→ 円安

 この関係は分かりますよね。麻生さんの説明によれば、アベノミクスは円安を目的としたものではないことになっていますが‥いずれにしても、アベノミクスが市場関係者に与える心理的効果によって円安が起きた、と。

 では、円安が起きると、貿易収支にはどのような影響を与えるか?

 円安が起きると、取り敢えずは次のようなことが起きるのです。

 ここで「取り敢えず」ということの意味は、貿易数量に影響を与えるほどの時間は経過していない前提で考えるということです。つまり、数量には影響せず、円建ての輸出額と輸入額、そしてその差額である貿易収支額にだけ影響を与える、と。

 では、円安になって輸出額はどうなるのか?

 答えは、輸出契約が、ドル建てになっているか円建てになっているかで異なります。つまり、幾ら円安になろうが、そもそも輸出契約が円建てでなされていれば、輸出額には何の変化も起きません。繰り返しますが、外国の人々が購入する数量が直ぐには影響を受けない限り、という条件がついた上での話です。

 しかし、実際にはドル建ての輸出契約の方が多いので、従って、円安になればその分円ベースでの輸出額は増えるのです。

 では、円安になって輸入額はどうなるのか?

 これも同じように輸入契約がドル建てになっているか円建てになっているかで答えが異なるのですが、輸入もやはりドル建て契約のものが多いので、円安になれば円ベースでの輸入額は増えるのです。

 では、それらの結果、貿易収支にはどのような影響を及ぼすのか?

 結局、そうなれば、輸出契約と輸入契約のどちらの方がドル建ての比重が大きいかで結論が異なります。お分かりになります?

 では、我が国の輸出と輸入の外貨建て比率はどうなっているのか?

 答えは、輸出の外貨建て比率は全体の6割程度であり、その一方、輸入の外貨建て比率は全体の8割程度なのだ、と。

 従って、円安になれば、輸出額よりも輸入額の伸びの方が大きくなり、その結果、貿易収支は取り敢えず悪化することになるのです。

 ということで、今回発表になった2013年1月の貿易収支が過去最大の赤字になったというのは、そうした要因もあると言うべきなのです。

 では、円安が続けば、今後も貿易収支は悪化すると見た方がいいのでしょうか?

 しかし、円安が続けば、徐々に貿易数量に影響を及ぼす効果があるということを忘れてはいけません。

 具体的に言えば、例えば、円安のせいで外国から購入する原油の価格が円ベースで上昇すれば、ガソリンや灯油に対する需要を抑える効果があり、輸入数量を引き下げることが考えられるのです。

 では、仮に円安が輸入数量を引き下げる効果があるとして、その効果は、円安によって輸入額を増やす効果と比べてどうかと言われれば、それは、輸入の対象物に対する需要の価格弾力性がどうかという問題になるのです。

 分かり易く言えば、円安によってガソリンや灯油の価格が上がったとき、消費者がどの程度購入を手控えるか、ということにかかってくるのです。つまり、価格がどうなろうとも、消費者の購入量にそれほど変化が表れなければ、弾力性が低いということになり、その逆であれば、弾力性が高いということになるのです。

 では次に、円安になると輸出数量にはどのような変化があると予想されるか?

 幾ら円安になろうとも、海外から見て日本製品の価格に変化が起きなければ、輸出数量が変化することはないと考えていいでしょう。しかし、現実には、円安が起きれば、日本の輸出業者は、円ベースでの輸出代金が増えるので、その分現地で販売するドル建ての価格を引き下げる余裕が出る訳で、そうなれば円安に伴い徐々に価格が引き下げられ、その結果、日本製品の輸出数量が増加することが考えられるのです。

 では、円安に伴いどれほど日本製品の輸出量が増えるかと言えば、それについては、海外の消費者の日本製品に対する需要の価格弾力性がどうであるかにかかってくるのです。

 つまり、日本製品の価格を引き下げた場合に、海外の消費者がどれほど日本製品を選択することになるか、と。従って、今後、円安に伴いドル建ての販売価格が引き下げられたとき、それによってどれだけ日本製品の売り上げが増加するかがカギになるのです。

 では、そもそも日本はどのような製品を外国に輸出しているのか?

 1.自動車
 2.化学製品
 3.半導体等電子部品
 4.鉄鋼
 5.IC

 こうした品目は、自動車を除けば、完成品を作るために必要な中間財ばかりである訳ですから、少しでも価格が安くなれば、売り上げが大きく伸びることでしょう。

  従って、今後、日本の輸出については、円安に伴い数量ベースで少しずつ増加することが期待できるものの、実際に輸出数量が著しく増大するには時間がかかる一方で、原油や液化天然ガスに対する我が国の需要は、価格が上がってもすぐに急減するとは到底考えられないので、円安による輸入額の増加の効果の方が暫くは大きいと考えた方がよさそうなのです。

 取り敢えずの結論!

 ここ暫く、つまり年度いっぱいはさらに貿易赤字が拡大する見込みがあるが、4月頃からは徐々に輸出数量の増加が期待できることから、次第に貿易赤字が減少するのではないか。

 しかし、この「結論」には不確かな面があるのです。

 それは、本当に暫くすると輸出数量の増加が期待され、貿易赤字が減少するのか、ということなのです。

 もう一度、日本の主な輸出品目を見てみましょう。

 自動車、化学製品、電子部品、鉄鋼、IC‥いずれも、韓国や中国や欧州勢などの強力なライバルがいるのです。

 そのようなライバルたちが、日本が仮に円安を武器に製品価格を引き下げる戦略に出たときに黙って手を拱いて見ているのか?

 恐らくライバルたちは少々の赤字は覚悟でも抵抗するのではないでしょうか?

 だとすれば、日本に輸出は思ったほど数量が伸びない可能性もあるのです。その一方で、貿易赤字が続けば、それによって一層円安が加速し‥そして、その円安によって輸入金額が膨れ上がるので、貿易赤字がさらに増える恐れがあるのです。

 つまり、円安と貿易赤字のスパイラルが当分続く可能性さえあるのです。

 円安によっていつか貿易収支が改善することが期待できるのですが、いずれにしても貿易赤字が解消するにはまだまだ時間がかかると見ておいた方がよさそうなのです。

以上

 

【東京市場】通貨安競争は円安からポンド安に移行か
2013/02/21 (木) 14:45


21日の東京市場はリスク回避的にドルと円が買われた。昨晩の米FOMC議事録では資産購入に関して規模の縮小や停止の可能性が示唆され米株は下落、東京株式やアジア株式全般に大きく値を落としておりリスク回避を誘った。また、大手商品系ヘッジファンドが大口の手仕舞い売りを入れるとの観測から商品相場が下落しており、全般的なリスク回避を促した面がある。ドル円は午後2時半過ぎに93.36近辺まで下落し、リスク動向に敏感なユーロドルは1月中旬以来の1.3240台まで下落、ユーロ円は先週金曜日以来の124円割れとなっている。商品相場の下落もあり豪ドルや加ドルは軟調に推移した。
ドル円は仲値公示直前には93.87近辺まで上昇していたが、石油元売りの石油調達に絡むドル不足の思惑があったという。

ポンドは軟調な展開。昨晩の英中銀MPC議事録で、資産購入枠の拡大を主張したのが従来のマイルズ委員1人からキング総裁とフィッシャー委員も加わったことが判明、利下げやその他資産購入などの措置についても検討されていたこともありポンドに下押し圧力となっている。ポンドドルは2010年7月以来の安値、ポンド円は4週間ぶりの141円台前半まで下落している。円安進行が鈍化する中でポンド安に乗り換える動きが出ているとの指摘があった。

klugアナリスト 鈴木信秀


06. 2013年2月21日 19:03:28 : xEBOc6ttRg
平均賃金3年連続プラス 男女格差やや縮小
12年0.3%増
2013/2/21 14:49

 厚生労働省が21日発表した賃金構造基本統計調査(全国)によると、2012年のパートを除く一般労働者の平均賃金は前年比0.3%増の29万7700円で、3年連続で増えた。男女ともに前年を上回り、男女間の格差も縮小した。

 10人以上の常用労働者を雇う4万9230事業所から有効回答を得た。調査は12年6月の所定内給与が対象で、残業代や休日出勤の手当などは含まない。

 男性の平均賃金は前年比0.2%増の32万9000円、女性は0.5%増の23万3100円で、女性の方が伸び率が大きかった。男女間の差は昨年の9万6400円から9万5900円に500円縮小した。

 なかでも医療・福祉分野の女性労働者の平均賃金は24万7200円で、女性の全産業平均を約1万4000円上回った。

 雇用形態別では、正社員は前年比1.3%増えたのに対し、非正規社員は0.3%の微増にとどまり、回復の足取りには差がみられた。

 安倍政権はデフレ脱却のため経済界に賃上げを要請している。今後は平均賃金がリーマン・ショック前の水準である30万円台に回復するかが焦点になりそうだ。


関連キーワード
厚生労働省

雇用促進税制での創出効果 目標の6割どまり (2013/2/21 3:30) [有料会員限定]

国内に5万5000組織 労働組合の役目は (2013/2/20 6:30)

あなたの会社の退職金・企業年金調べてみよう (2013/2/19 7:00)

首相の要請どう対応 年収上げ、一時金主体で (2013/2/19 3:30) [有料会員限定]

パート労働者2.4%増、一般労働者は減 12年 (2013/2/18 10:46)


[FT]EUによって地位揺らぐシティー
2013/2/21 18:31
(2013年2月21日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 ロンドンの金融街シティーは過去50年、世界の主導的な国際金融センターとして拡大してきたが、EU(欧州連合)における立法や規制によってその地位が揺らいでいる。欧州の金融センターとしても、米国、アジア、新興市場諸国発のグローバルな資金のオフショア・センターとしても安穏としていられない状態にある。

 欧州議会は2008年以来、ヘッジファンドの行動、金融取引、そして「アングロ・サクソン資本主義」をおさえこもうと努力を重ね、最近では銀行のボーナスを制限しようとしている。ユーロ圏が銀行同盟をめざしていることとあいまって、こうした外部での動きがシティーに脅威を与えている。

 英国経済は金融、それに関連した会計や法務に過剰に依存しており、それを見直す必要があるが、何十年もかけて作り上げてきたものを捨て去ることはまずい対処法だ。

 英国はこの一大産業を保護主義で守ってきたわけではない。それどころかEUの中で改革の最前線に立ち、資本規制の強化、さらには投資銀行や小売銀行を守るための規制をめざし戦ってきた。一方、フランスやドイツはこれらの規制については軟弱だった。

 シティーにとって最大の難問はフランスとドイツに後押しされた欧州中央銀行(ECB)が突きつけている。フランスとドイツはユーロ建て証券の清算機関をユーロ圏に置くよう求めている。それは実際にはユーロの債券とデリバティブの取引の場をフランクフルトに移すことを意味する。

 ユーロ関連の取引がフランクフルトに切り替わり、国際的な金融取引がEUの規制を回避してニューヨークや香港に移動すれば、シティーはばらばらになってしまう。

 そうした過程がいったん始まった場合にシティーが取り得る戦略的選択肢はあまりない。英国がEUに残留しユーロ圏が推し進める規制を必死にはねのけるよう努力するか、あるいは予定されている国民投票でシティーがEU離脱を支持するかだ。EU離脱となれば、シティーは欧州の金融センターとしての役割を失い自由な一グローバル金融センターに変わるだろう。シティーは歴史的転換点に立っている。

By John Gapper


07. 2013年2月21日 23:05:44 : xEBOc6ttRg
ikedanobuo.livedoor.biz


2013年02月21日 10:37 経済
なぜ景気対策は失敗するのか

アベノミクスの支持者は「今はデフレギャップが10兆円以上もあるので、それを埋めるだけで成長できる」と期待しているようだが、それは本当だろうか。ラジャンはアメリカ経済について次のように書いている。

The point is that debt-fueled demand emanates from particular households in particular regions for particular goods. While it catalyzes a more generalized demand, it is not unreasonable to believe that much of debt-fueled demand is more focused. So, as lending dries up, borrowing households can no longer spend, and demand for certain goods changes disproportionately, especially in areas that boomed earlier.

住宅バブルの過剰債務で嵩上げされた需要は、バブルが崩壊すると消え、大量の失業者が出る。それまでの需要を単純に延長した潜在GDPに戻すことは不可能だし、望ましくもない。必要なのは、バブルで膨張した建設部門の過剰労働力を他の部門に移すことだ。金融政策は、その過渡的な痛みをやわらげることはできるが、もう存在しない需要を作り出すことはできない。

同じことは、日本でもいえる。次の図でもわかるように、バブル崩壊後、製造業と非製造業の生産性格差が広がり、非製造業では労働生産性が低下している。これは非製造業に大きな過剰雇用があることを示唆しているが、日本では雇用の流動性がきわめて低いので、失業率が上がる代わりに賃下げによって賃金を労働生産性に近づけてきた。これが「デフレ」の原因である。

このような生産性格差は、1930年代にハイエクの指摘したコーディネーションの失敗の一種であり、ケインズ的な有効需要の不足ではないので、マクロ的な「景気対策」では解決できない。製造業・非製造業を一緒にして「デフレギャップ」を埋めることにも意味がない。ラジャンもいうように「仕事のなくなった労働者が新しい仕事につく」ことしか解決策はないのだ。

だから必要なのは金融緩和ではなく、流通や建設などの部門に残っているゾンビ企業を退場させて、遊休している労働者が新しい職場で働くことを支援するしくみである。政府が雇用調整助成金などの補助金や公共事業によって過剰雇用を温存することは、経済の停滞をまねいてデフレを長期化させるだけだ。

北欧の経験からいえることは、成長率を左右する要因として重要なのは政府の大きさではなく、労働移動の容易さだということである。それを実現する改革の方向としては、アメリカ型のドライな労働市場より、北欧に学んで負の所得税などの社会的セーフティネットを整備し、個人を守って企業を守らないしくみに変えてゆくことが現実的ではないか。これも日本のタコツボ型組織とは相容れないので容易ではないが…

2013年02月19日 20:10 経済
渡辺喜美氏のターゲティングポリシー

みんなの党の渡辺喜美代表が、また「リフレ派を日銀総裁にしろ」と主張している。その一方で、彼は「財政政策やターゲッティングポリシーに見られる成長戦略は、小泉政権以前の自民党に先祖返りしている」と政府の補正予算を批判しているが、リフレこそ(できない目標を立てる)ターゲティングポリシーである。
他の国のインフレ目標は、インフレを起こす目標ではなく抑制する目標だ。政府と日銀の共同声明でも「できるだけ早期に実現することを目指す」と書いているだけで、目標に法的拘束力はない。ところがみんなの党は「政府は、達成すべき物価の変動に係る目標を定め、これを日本銀行に指示する」という日銀法改正案を国会に提出した。

このように「いかなる手段をとってもインフレを起こす」という政策は、John Taylorも批判するように"do-whatever-it-takes"アプローチになってしまう。本来のインフレ目標は中央銀行の裁量を排して金融調節をルール化するためのものだが、リフレは逆に中央銀行の介入を強める裁量的政策なのだ。

アメリカでFRBを批判している保守主義者はFRBの裁量的な介入を否定しているのだが、日本では安倍首相のみならず、みんなの党のように「小さな政府」を標榜している党までこういう家父長主義を主張するので、自由主義という選択肢がない。

80年代のバブルの第一の教訓は「過剰な景気対策がバブルを生む」ということだ。「円高不況」に対して日銀の行なった金融緩和は、結果的には景気対策どころかバブル崩壊で大混乱をもたらした。タレブもいうように、グリーンスパンが景気変動をならしたことがリーマンショックの原因だった。景気対策は、小さなリスクを減らして大きなテールリスクを作り出すのだ。

Rajanも「金融危機のあとで従来のトレンドを延長した『需給ギャップ』を埋めようとするのは誤りだ」と述べている。ギャップの基準となる潜在GDPが供給構造の変化で大きく下がっているので、リーマン以前の水準に戻すことは不可能だし、望ましくもない。無理に戻そうとすると、クルーグマンのいうように莫大な財政支出が必要になるが、それは維持可能ではない。

これがフリードマンが通貨供給量で中央銀行を縛ろうとした本質的な理由である。小さな政府とは、単に歳出の少ない政府のことではない。それは政府が市場に裁量的に介入しないでルールを守り、金融危機のような危機管理だけをしっかりやる政府のことだ。渡辺氏が党員からも愛想をつかされるのは、こういう自由主義の本質を理解していないからである。


2013年02月18日 15:47 経済
年功序列の終焉

安倍首相には「デフレは貨幣的現象だ」という思い込みがあるようだが、日本のデフレは生産コストの変化による実物的現象だ、というのが吉川洋氏の説明である。世界で日本だけが15年間に10%以上も名目賃金が下がり、これがほぼデフレ率に見合っている。日銀のオペレーションは一般物価水準を動かすものだから、賃金を変えることはできない。

男性大卒労働者の賃金カーブ(所定内賃金月額・百円)連合調べ

賃下げの原因として誰でも思いつくのは非正社員の増加だが、意外なのは中高年社員の賃下げも進んでいることだ。上の図のようにここ15年で50代のサラリーマンの平均賃金は新入社員の3.3倍から2.5倍まで下がり、絶対額でも月額13万円ぐらい下がった。おおむね40歳前後が労働生産性のピークなので、確実に年功序列は解消に向かうだろう。

これは言い換えると、日本のサラリーマンが雇用を守るためにワークシェアリングをしていることを意味する。おかげで日本の失業率は4%程度と、アメリカのほぼ半分だ。中国との単位労働コストの差はまだ2倍近くあるので、これは合理的なコスト調整であり、単純労働者の賃金は中国に近づいてゆくだろう。

他方、労働組合が定率の賃上げ要求を行なうアメリカでは、経営側がその要求をのむ代わりにレイオフを行ない、労働者が低賃金のサービス業に移動する。つまり新興国との賃金調整という同じ問題に対して、価格調整(日本)と数量調整(アメリカ)という別の答を出しているわけで、どちらがよいとも言い切れない。

短期的な社会的コストは日本のほうが小さいが、過剰雇用が残って企業収益が上がらない。他方、アメリカでは失業率が高いが、生産性の低下した部門から成長部門に労働人口が移動し、労働生産性が上がる。次の図のように、ここ15年の日本の労働生産性上昇率はアメリカの85%ぐらいで、この差が潜在成長率に影響している(ツイッターで教えてもらった)。


この間に日本の非正社員の比率はほぼ倍増し、世代間の所得格差は拡大した。他方、アメリカでは「上位1%にGDPの23%が集中する」という垂直格差が拡大した。つまり

 ・日本:賃下げ→雇用維持→デフレ→世代間格差の拡大
 ・アメリカ:賃上げ→失業→インフレ→垂直格差の拡大

という形で、新興国との競争が異なる種類の格差を生み出しているのだ。いずれにしても、単純労働者の賃金が新興国に近づいてゆくことは避けられないが、なるべく社会的コストの少ない形で調整する必要がある。日本の方式は若者には不公平だが、50歳以上の老人もそれなりにコストを負担しており、どちらがよいとは一概にいえない。

いずれにせよ、こうした微妙な賃金調整がデフレと呼ばれる現象の最大の原因であり、「デフレ脱却」とか「インフレ目標」とか叫んでみても何の役にも立たない。まして首相が財界に賃上げを要求しても、収益の悪化している企業が上げるはずがない。原因と結果を取り違えた日銀悪玉論は、そろそろやめてはどうだろうか。
• Naohiro Furusawa • Top Commenter • Works at メットライフアリコ 代理店
日本の賃金体系が、残業手当を賃金の主要要素とする所に問題が有ると思います。海外では時間外手当等の給与体系其の物が不思議に思われて居る。時間外をする管理職は「職務遂行能力が無い」と判断され給与削減される。時間内に職務を完結する事が省資源・エコに繋がる事が有るのであれば今一度社会システムから考え直すべきでは?
Kanji Matsuda • Top Commenter • 代表取締役 at 丸六商事
日本企業内では「労務」に相当する分野を “Human resource” と表現する国です。「物」や「金」同様に、「人」も経済的資源として労働市場内で移動するのが常です。少々日本人は所縁の土地に執着し過ぎです。その結果、労働生産性が伸びにくい社会構造となっている様な気がします。.
Minoru Mizoguchi • Top Commenter • Works at 自営業(個人事業主)
おっしゃるとおりでしょう。そもそも年功賃金制度の狙いは(1)生活給+(2)職務能力+(3)企業内人財囲い込みという広義の人事政策だったと思われます。然しながら(3)は今や硬直的で経営上足かせになっています。(1)と(2)は年齢・勤続年数に応じて賃金を上げるのでそれなりの意味がありましたが、これとて急勾配過ぎる印象です。したがって、上の賃金カーブは今後もっとフラット化されるでしょう。
Hiroki Takahashi • 佐賀大学
世界が「日本型年功序列賃金制度」の秀逸さに注目し、多くの大企業が賃金制度を元に戻す中、評論家や学者はこれを否定する。能力主義賃金制度と非正規化の拡大が、世代間格差、人材や知的財産の国外流出を招いたのではないか。
Kojiro Ito • Top Commenter • Works at ナビゲート
上の連合のグラフはどういう調査データなのか、私たちがふだん見るものとはかなり違っています。一般的な目にするのは、90年代前半は60歳への定年延長をしたときのなごりが残っていて、50代後半でもっと賃金カーブがお辞儀をしていました。その後、成果主義の導入により、次第に是正が進み、40代後半から50代前半の平均賃金が引き下げられ、近年ではかなりフラット化してきています。
そのため、年齢別でみるとカーブ全体が寝てきており、その結果、年齢別の賃金格差は縮まってきています。(職位や階層別での差は何とか維持する努力がされています)
その傾向は一定規模以上の正社員の賃金ではあります。しかし、このブログで語られる名目賃金が10%以上下がったというのは、国税庁の給与所得調査だと思いますが、その統計でみても、世代間格差はむしろ「縮小」されています。(20代前半、または20代後半と50代前半の所得倍率)

あと、蛇足ですが、下の生産性のグラフもやや恣意的な印象です。90年代は確かに日本の生産性は低下しましたが、2000年代ではアメリカとの差も縮小し、2005年以降は伸び率1%代くらいでほぼ並んでいるはずだと思います。このグラフでも、2000年当たりを100とし、2012年以降の予測部分を切れば、かなり違った風景になるのではないかと思います。

 


08. 2013年2月22日 01:20:35 : xEBOc6ttRg
【第103回】 2013年2月22日 高田直芳 [公認会計士、公認会計士試験委員/原価計算&管理会計論担当]
日本を襲う「超円高→超円安」という往復びんた
石油元売り業界の「円安限界点」はどこか
 政府と日銀は2013年1月下旬に、「物価上昇率2%」を目標とする共同声明を発表した。物価安定のためだという。しかし、物価上昇率2%など、安倍政権が誕生する以前から、とっくに達成しているだろうに、というのが正直な感想だ。

 ここでいう「物価」とは一体何か。

 ビジネスパーソンが、スーパーマーケットにある豆腐や白菜に関する「日々の物価」を熟知しているケースは少ない。しかし、「ある特定の物価」については、日々熟知しているケースが多い。ガソリンや灯油の店頭小売価格だ。

 筆者のように地方都市(栃木県小山市)に住むものにとって、車は必須の交通手段だ。通勤にマイカーを使う場合、国道に数百メートルおきに林立するガソリンスタンドの「今日の価格」は、否応なしに目に入る。

 資源エネルギー庁「石油製品価格調査」を参照すると、2012年7月のガソリン(レギュラー)は1リットル139円40銭であった。2013年2月中旬では153円80銭である。7ヵ月で10.3%もの物価上昇だ。

 もちろん、ガソリンや灯油の価格上昇は、産油国情勢や円安による「輸入インフレ」であって、内需拡大による「物価上昇」とは異なる。されど、「狂人の真似とて大路を走らば即ち狂人なり。悪人の真似とて人を殺さば悪人なり」(徒然草)。毎週3円ずつ値上がりしていく「本日のガソリン価格」は、誰がなんと言おうと「狂気の物価上昇」だ。

 円安によって、トヨタ自動車をはじめとする輸出産業には、様々な恩恵があるだろう。ただし、それがニッポン経済の隅々へ行き渡るには、相当の時間を要する。それに対して、ガソリン小売価格の上昇は、あっという間に全国のドライバーのフトコロを直撃する。

 日銀が声明を公表する3日前、浜田宏一内閣官房参与が円ドル相場について「95円〜100円であれば何も心配はない」と発言した。ガソリン小売価格は今後、160円をあっさり突破し、170円や180円にまで上昇してしまう可能性がある。

輸入業界の空洞化が始まる?
石油業界の「円安限界点」を問う

 そうしたガソリン価格の高騰を尻目に、日経平均株価は円安を受けて上昇を続けている。メディアによっては、全面高だと囃し立てている。

 それはちょっと待って欲しい。ニッポンは確かに貿易立国であるが、輸出立国ではないのだ。円安は、ドライバーのフトコロを痛めつけるだけでなく、輸入産業に打撃を与えることを忘れてはならない。

 2011年の夏は、超円高だと騒がれた。大企業が海外へ工場を移転するのに歩調を合わせて、中小企業も海外へと進出していった。海外へいったん生産拠点を移せば、そう簡単に国内へ回帰することはできない。

 超円高によって、ニッポンの輸出産業の多くで空洞化現象が見られた。今度は超円安によって、輸入産業の空洞化が始まろうとしている。ニッポン経済にしてみれば、超円高から超円安への「往復びんた」といったところだろう。

 第49回コラムでは日立製作所、東芝、三菱電機、パナソニックなどの「円高限界点」を、第50回コラムではトヨタ、ニッサン、ホンダなどの円高限界点を、そして第51回コラムではNEC、富士通、ソニーの円高限界点を紹介した。

 今回は輸入産業の代表銘柄である石油業界について「円安限界点」を論じてみたい。どこまで円安が進むと、ニッポンの石油産業に空洞化が起きるのか、という話である。

「ROEの低下」と「高い稼働率」という
相反する現象

 石油元売り5社のROE(自己資本利益)の推移を〔図表 1〕に描いてみた。図表の右肩にある配列は証券コード順としており、以下、企業名については図表の略称を使用する。


〔図表 1〕において、コスモ石油のROEがマイナスに大きく転落しているのは、2011年3月の東日本大震災で、千葉製油所が被災したことによる。当時の映像を記憶されている人も多いだろう。

 東燃ゼネラルのROEが高いのは、在庫評価方法を変更したこと(後入先出法から総平均法へ)により、1800億円程度の利益をはき出したことが影響している。

 2012年まで円高傾向にあったことから、石油業界はその恩恵を受けるべきであったはずなのに、〔図表 1〕が描くROEは総じて右肩下がりになっている。海外の市況に左右される業界なので、為替相場の要因だけでROEを評価するのは難しいようだ。

 その他に、代替エネルギーや消費者の節約意識の高まりから → 石油産業全体の稼働率が低下して → ROEが低下した、という因果関係も想定し得ないわけではない。「数学嫌い」の人々は具体的なデータ分析に基づくことなく、曖昧な推論で語ることが多いので、一見、そうした因果関係が成立してしまいそうだ。

 それはあり得ない。次の〔図表 2〕で証明してみよう。縦軸の下限を50%としている点に注意してほしい。


〔図表 2〕は、コスモ石油と出光興産の四半期報告書に基づいて作成したものなので、波形のブレについてはご容赦願いたい。

〔図表 2〕で大きく上下に変動している時期は、リーマン・ショックや東日本大震災があった頃だ。そうした要因を除くと、2社の実際操業度率は80%〜100%の間で推移しているといえるだろう。ほぼフル操業ということだ。〔図表 1〕の「右肩下がり現象」に対して、稼働率(実際操業度率)はそれほど足を引っ張っていないと推測される。

損益分岐点分析という
理論の愚かさを問う

 本連載を初めて読んだ人は「なぜ、〔図表 2〕のような実際操業度率(稼働率)が描けるのだ?」と疑問に思われるだろう。別に極秘資料を入手しているわけではない。

〔図表 2〕を描くにあたっては、次の〔図表 3〕が基本になっている。JXホールディングスの決算データ(2011年12月期から2012年9月期まで)を利用した。


〔図表 3〕の右上方にある4個の黒色の点は、2011年12月期から2012年9月期までのものを、年間ベースに換算して分布させたものだ。

 管理会計論や経営分析論の通説を妄信する人々は、この4個の点の並びから「左下がりの直線」を描く。その「直線」が縦軸とぶつかった点Dを、〔図表 3〕では「CVP固定費6866億円」と表示している。

 こうした分析手法を、CVP分析(Cost Volume and Profit Analysis:損益分岐点分析&限界利益分析)という。著名な学者やアナリストであっても、初心者であっても、誰もが同じ「CVPP固定費6866億円」という解を導き出す。故に、これを絶対的通説と呼ぶ。

 その本質は「直線=1次関数」であることから、CVPP分析(損益分岐点分析&限界利益分析)が単利計算構造に基づいていることは明かだ。

 しかし、よく考えてほしい。年間売上高が10兆円を超えるJXで、年間の固定費が「6866億円」にとどまるわけがない。それにもかかわらず、「6866億円は理論値として正しい」と、誰も彼もが主張する。

絶対的通説と鉄板の連立方程式に
一人反旗を翻す

 CVP分析(損益分岐点分析&限界利益分析)は、実務を顧みない「机上の空論だ」ということで、絶対的通説に対して筆者一人で反旗を翻して描き直したのが、〔図表 3〕においてオレンジ色で描いた「曲線」だ。

 これは、複利計算構造に基づいており、一連の分析手法を「タカダ式操業度分析(SCP分析:Sale Cost and Profit Analysis)」と呼んでいる。「企業のキャッシュは日々複利運用されており、企業は日々複利的な成長を遂げる生き物である」という、筆者独自の命題に基づいている。

 タカダ式操業度分析では、〔図表 3〕にある4個の黒色の点を、複利曲線(正確には「自然対数の底e」を用いた指数曲線)で結ぶ。その曲線が縦軸とぶつかる点Aで「基準固定費4兆2855億円」という解を得る。

 企業活動は複利計算構造を内蔵し、それを複利関数で描く。〔図表 3〕においてオレンジ色で描いた「曲線」こそが、実務解というべきものであろう。

 企業のコスト構造を「複利」で把握することにより、そこから様々な指標が生まれる。〔図表 3〕の点Bは、売上高線と総コスト曲線との交点だ。タカダ式操業度分析では「損益操業度点」と呼び、横軸へ垂線を下ろしたところを「損益操業度売上高」と呼ぶ。

 参考として、「CVPP分析の損益分岐点」と「タカダ式操業度分析の損益操業度点」を求める連立方程式を〔図表 4〕に示す。


〔図表 4〕(1)は、管理会計や経営分析などの書籍では必ず掲載される。過去100年以上の歴史にわたり、日本だけでなく欧米の学者や専門家が何十万人・何百万人いようとも、誰一人として疑ってこなかった「鉄板の連立方程式」だ。〔図表 4〕(1)を解くと、〔図表 3〕の左下方にある「CVP固定費6866億円」を得る。

〔図表 4〕(2)は、筆者オリジナルの連立方程式だ。2008年11月に出版した拙著『高田直芳の実践会計講座/戦略ファイナンス』や『会計&ファイナンスのための数学入門』がイノヴェーションの始まりである。この連立方程式を解くと、〔図表 3〕の縦軸にある「基準固定費4兆2855億円」を得る。

 ところで、損益操業度売上高の少し右上に「予算操業度売上高11兆8187億円」がある。ここはJXが量産効果を最も発揮する売上高だ。この予算操業度売上高を「100%」とし、黒色の点(実際売上高)を「実際操業度率」に置き換えたものが、〔図表 2〕になる、という仕組みだ。

回転期間分析に見る
業界の共通点

〔図表 3〕の点B(損益操業度点)から点C(収益上限点)までは、売上高線が総コスト曲線を上回る区間である。その上下幅が「利鞘」を表わす。

 その幅は極めて薄い。第101回コラム(イオン、セブン&アイ編)で紹介した〔図表3〕とよく似ている。石油業界も流通業界も「薄利多売の消耗戦」を展開していることがよくわかる。

 価格競争という消耗戦を強いられるのは、製品差別化を図ることができないからだ。故に、他の経営指標でも似たような傾向を示す。「回転期間分析」と「最適資本構成問題」で見てみよう。


拡大画像表示
〔図表 5〕左図のコスモ石油はアブダビ系であり、右図の出光興産は独立系として知られる。両社で決算の打ち合わせをしているはずはないのだが、波形がよく似ている。回転期間もほぼ同じだ。

〔図表 5〕の両図に共通した特徴を指摘しておこう。まず、キャッシュ・アウト・フローの売上債権と、キャッシュ・イン・フローの買入債務回転期間が同じということだ。すなわち、債権債務関係から資金不足が発生することはない。したがって両社とも、緑色の棚卸資産回転期間が、赤色の営業運転資金を左右していることがわかる。

最適資本構成に実務解はないと
うそぶく人々

 次の〔図表 6〕は、タカダ式操業度分析同様、筆者オリジナルの「最適資本構成タカダ理論」で解析した実務解だ。両社とも、青色の「最適デット比率」が、80%〜90%あたりで推移しているのを最初に確認して欲しい。


拡大画像表示
 最適資本構成問題というのは、他人資本debtを増やしていけば「規模の経済」が働いて、「企業価値」が上昇していくことを仮定する。「規模の経済」とは「量産効果」のことであり、〔図表 3〕の予算操業度売上高を目指すことをいう。

 ところが、次第に負債過多がアダとなって、「倒産リスク」が増大する。その手前で「企業価値」が最大になるはずであり、そのときの他人資本debtと自己資本equityの構成割合を模索するのが、最適資本構成問題だ。ファイナンスの世界では、「MM(モジリアニ=ミラー)理論」として広く知られている。

「なるほどねぇ」と納得してもらっては困る。なぜなら、最適資本構成に係る「一般公式や実務解はない」とするのが、ファイナンス理論における絶対的通説なのだから(日本公認会計士協会東京会『企業価値と会計・監査』65頁)。

 CVP分析といいMM理論といい、「企業実務に役立たない理論」を語り合うことに、どれだけの意義があるのか、筆者は関知しない。筆者は、「企業実務に役立つ理論は如何にあるべきか」を、現場の最前線で、数多くの従業員と一緒に、汗だくになりながら取り組んでいる。そこで筆者オリジナルの「最適資本構成の一般公式」を以下に示そう。

 詳細については、拙著『高田直芳の実践会計講座/戦略ファイナンス』や『財務諸表読解入門』を参照していただきたい。前者の書籍では、「収穫逓減」を対数関数で表わし、これを微積分することから一般公式を導いている。後者の書籍では、他人資本と自己資本は「代替財」の関係にあると見立てることにより、「内項の積と外項の積は等しい」として一般公式を導いている。

 2つの解法はまったく異なるが、導かれる一般公式は〔図表 7〕に示すとおり、まったく同じ結果になる。


 解法が1つだけでは、一般公式の妥当性に疑いがもたれる。まったく異なる2つのルート(解法)から出発して、共通のゴール(一般公式)に辿り着くのが、〔図表 7〕の特徴だ。

 筆者の示す一般公式が「誤りだ」と批判するのであれば、その前に「自らが考えた対案」を示すのがビジネスマナーであることに留意して欲しい。少なくとも「一般公式」さえ編み出せない者に、最適資本構成を語る資格はない。

石油業界の自己資本比率が
低くなる理由

〔図表 7〕の「一般公式」から、JXと出光興産の最適デット比率(使用総資本に占める他人資本の最適割合)を描いたのが、〔図表 6〕にある青色の曲線だ。これが筆者の提示する「実務解」である。両社とも、80%〜90%あたりで推移している。

〔図表 6〕にある赤色の曲線は、実際デット比率である。「実際の使用総資本」に占める「実際の他人資本」の構成割合を示す。JXは70%であり、出光興産は80%で推移している。「実際の他人資本」を「実際の自己資本」に置き換えると、自己資本比率になる。JXは30%であり、出光興産は20%になる。

 メディアなどでは、自己資本比率の高い企業を誉めあげる傾向がある。これには騙されないように注意して欲しい。

 例えば、自己資本比率ランキングを作成すると、製薬会社が上位を占める。これは製薬会社が、新薬開発などでリスクを取りに行く企業だからだ。リスクの高いビジネスに挑む場合、銀行借入金などの他人資本に依存してはならない。もし、失敗した場合、借金を返済できなくなるからだ。そのために製薬会社は返済義務のない自己資本の充実に取り組む。

 石油業界は、リスクを取りに行くビジネスなのだろうか。そうではあるまい。ガソリンや灯油は必需品だ。他人資本を増やして「規模の経済」を図るのが、石油業界の経営戦略であるはずだ。

 そうした観点で〔図表 6〕を見ると、JXの実際デット比率が出光興産よりも低いのは、JXが自己資本の充実に努めているというよりも、積極的な投資案件を探しあぐねている、と読むべきであろう。それはまた、円安が進んで石油業界が海外脱出を図ろうとする際、JXのほうが出光興産よりも余力を残している、とも読むことができる。

 なお、自己資本比率に関して「一般には50%以上が望ましい」と主張する人々の話を信用してはならない。「自己資本比率は50%以上が望ましい」というのは、「自己資本比率50%以上は最適な資本構成だ」と同義だ。

 しかし、「最適資本構成ついて一般公式や実務解は存在しない」とするのが、ファイナンス理論の絶対的通説であったはずだ。一般公式さえ提示できない者が、「自己資本比率は50%以上が望ましい」という実務解を語るのは、ヘソで茶を沸かすようなものだ。

石油業界の
「円安限界点」の求めかた

 そこで問題となるのが、円安だ。自動車業界や電機業界などの輸出産業では「円高限界点」が問題になる。それに対して石油業界は「円安限界点」が問題になる。

 コスモ石油と出光興産について、横軸を営業利益、そして縦軸を為替相場としたものを〔図表 8〕で描いてみた。為替相場は独立変数であり、営業利益は従属変数になるので、縦軸と横軸は逆にすべきなのだが、第49回コラムから第51回コラムまでのコラムで円高限界点を求めた例に倣うことにした。また、〔図表 8〕の縦軸の幅(60円〜180円)は、後掲の〔図表 11〕と平仄(ひょうそく)を合わせている。


拡大画像表示
〔図表 8〕の左右の図とも、12個の点を分布させている。2009年12月期から2012年9月期までのものだ。

 これらの12個の点が収束する先が、縦軸の青色の点で示してある。コスモ石油は86円38銭であり、出光興産は94円43銭だ。昨今の円安事情を考慮すると、コスモ石油は「営業損失」に転落しそうで、国内での操業を停止すべきかもしれない。

 そうした解釈は正しくない。ミクロ経済学や管理会計論などでは、たとえ営業損失に転落しても、固定費を回収できるのであれば操業を続けるべきだ、という考えがあるからだ(『マンキュー経済学Tミクロ編』396頁)。

 そこで通常、次に示す「限界利益」という概念が用いられる。


〔図表 9〕は、営業損失になっても、限界利益がプラスである限り、操業を続けるべきであることを示唆する。

 しかし、〔図表 9〕の限界利益には、いくつかの欠陥がある。1つめは、右辺第2項の「CVP固定費」は、単利計算構造に基づいて求められる点だ。企業活動は複利計算構造を内蔵するにもかかわらず、単利計算構造の「CVP固定費」を加算するのは誤りだ。

 2つめは、「CVP固定費」は、常に稼働率を100%と仮定している点だ。〔図表 2〕を見ればわかるとおり、企業の実際操業度率は常に100%を維持するわけではない。業績好調といわれる東京ディズニーリゾートでさえ、第59回コラムの〔図表4〕で描いたように、実際稼働率は60%を超えないのだ。

 3つめは、〔図表 3〕の点Dをみて明らかなように、CVP固定費は非常に小さい。これほど小さな金額を営業利益に加算して、〔図表 8〕の横軸を限界利益に置き換えたところで、五十歩百歩の話である。

〔図表 9〕の限界利益は、貢献利益や変動利益とも呼ばれ、「象牙の塔」の世界では絶対的通説として君臨している。しかし実務の面では、まったく役に立たない経営指標といえるであろう。

超円高と超円安で
「往復びんた」を食らうのは誰か

 批判をするなら対案を出せ、ということで、筆者から提示するのが次の「戦略利益」という概念だ。拙著『高田直芳の実践会計講座/原価計算』345頁において、次の式を紹介している。


 筆者が示す戦略利益は、似非コンサルタントが唱える観念的な概念ではなく、〔図表 10〕で示すように具体的な計算式で表わされる。しかも、〔図表 9〕にある限界利益の2つの欠陥を克服している。複利計算構造に基づく基準固定費〔図表 3〕に実際操業度率〔図表 2〕を乗ずることによって、「活きた基準固定費」を営業利益に加算する構造になっているのが特徴だ。

〔図表 8〕の横軸(営業利益)を、〔図表 10〕の戦略利益に置き換えて作図したのが次の〔図表 11〕になる。


拡大画像表示
〔図表 11〕左図のコスモ石油の円安限界点は161円83銭、同右図の出光興産の円安限界点は123円90銭になっている。「円安限界点のターゲット」は140円あたりか。両社とも円安に対して、かなりの耐性があるといえるだろう。その理由は、〔図表 2〕で描いた実際操業度率の高さにある、と筆者は推測している。

 ただし、「円安限界点のターゲット140円」は、短期的なものだ。長期的には、石油業界といえども国外脱出を図り、「輸入産業の空洞化」を招く恐れは否定できない。

 日本経済新聞(2013年2月14日付)によれば、「政府は『エネルギー供給構造高度化法』に基づき、14年3月末までに石油会社に実質的な精製能力削減を義務づけている」という。2011年に施行された改正消防法により、油漏れ防止装置の設置を義務づけられたガソリン・スタンドが続々と閉店するのも逆風だ。

 結局、「超円高による輸出産業の空洞化」と「超円安による輸入産業の空洞化」という「往復びんた」を食らうのは、国内にとどまらざるを得ない最終消費者になるようだ。

 もし「アベノミクス」が頓挫する事態にでもなれば、第87回コラム(グローバル・マクロ編)の〔図表6〕で予言したように、1ドル=60円台前半の「ハイパー円高」への振り戻しがやってくる。ダブルどころか、「トリプルびんた」で、白菜や豆腐の市況が大きく変動し、鍋物料理が食べられなくなるのは勘弁して欲しいものである。

【第217回】 2013年2月22日 岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]
アベノミクスの評価を一気に下げかねない
産業競争力会議の事務局官僚の暴走
 アベノミクスの3本目の矢である成長戦略を検討する産業競争力会議の第2回会合が2月18日(月)に開催されました。そこで明らかになったのは、会議の事務局の官僚の暴走がひどいということです。

成長戦略の2つの路線

 政府が産業の競争力を強化するためには、どのような政策を講じるべきでしょうか。この点について、例えば産業競争力会議の民間議員の1人である竹中平蔵先生は第1回会合に提出した資料で、@政府が民間に自由を与える、A政府が民間にカネを与える、という2つのアプローチがあると述べています。

 単純化して言えば、@は構造改革路線、Aは国家資本主義路線とも言えます。もちろん、現実的には政策がそのどちらかのみになるということはあり得ず、@とAのどちらが政策のメインとなるかが重要なのですが、だからこそ、産業競争力会議では両方の路線についてしっかりと議論して、正しい成長戦略を導きだす必要があります。

 ところが、第2回会合ではそうした当たり前のことが行われず、むしろ事務局の官僚がAの路線だけを成長戦略に盛り込みたいのであろうことが明らかになりました。この原稿を書いている2月21日(木)の段階ではまだ会議の議事録が公開されていないのですが、公開されている情報からそれを検証してみましょう。

「研究開発予算を増やしたい」だけ?
偏った安倍総理の取りまとめ

 まず、第2回会合の議題の1つであったイノベーションです。このテーマについて、民間議員の側からは2種類のペーパーが提出されました。1つは主に政府の研究開発予算を増やすことを求めていますが、これに対してもう1つは政府の予算増額よりも民間の研究開発を促進し、またビジネスモデルなど技術以外のイノベーションを重視すべきと提言しています。

資料:「科学技術イノベーション推進体制強化に向けて」
資料:「イノベーションについて」

 即ち、民間議員の側からは@とAの両方が提示されたのです。しかし、それを受けた安倍総理の取りまとめは、「世界最高水準のイノベーション環境の実現に向けて、総合科学技術会議の司令塔機能を抜本的に強化したいと思います。……省庁縦割り打破を図るため、権限、予算両面においてこれまでにない強力な推進力を発揮できるようにしたいと考えます。」と、明らかにAの立場のみを反映したものになっていました(参照:http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/actions/201302/18sangyoukyousou.html)。

 それでは、なぜそういう結果になったのでしょうか。

 当日、安倍総理は会議に最後の30分だけ出席したので、イノベーションに関して民間議員の間でどういう議論が行われたかは知らなかったと考えられます。そのため、事務局の官僚が用意した総理の取りまとめ発言をそのまま棒読みせざるを得なかったのではないでしょうか。

 そして、事務局の官僚はAの政策(政府の研究開発予算を増やしたい)だけに関心があり、かつ事務局の背後にいる経産省は、文科省と内閣府が牛耳って研究開発予算の大宗をコントロールする総合科学技術会議の運営に関与したいという、Aの延長であると同時により矮小な霞ヶ関内部のことに執着しているため、総理の取りまとめ発言の内容を意図的にAの方向ばかりにしたと考えざるを得ません。

 同じことは、第2回会合のもう1つの議題であった農業でも起きています。農業を産業として強化するための政策についても、民間議員からは2種類のペーパーが提出され、片方はAの路線(公的資金を使った官民ファンドによる六次産業化の支援)を、もう片方は@の路線(規制改革による強化)を強調していました。ちなみに、農水大臣が提出したペーパーも明確にAの路線になっています(規制改革についてはどうでもいい小ダマについてだけ言及)。

資料:「農業の成長産業化に向けて」
資料:「日本の農業をオールジャパンでより強くし、成長輸出産業に育成しよう!」
資料:「攻めの農林水産業」の展開

 つまり、農業についても@とAの両方の意見が出されたのです。それなに、安倍総理の取りまとめ発言は、「農業の構造改革の加速化、農産品・食料の輸出拡大でありますが、……日本の農業は弱いのではないかという思い込みを変えて行くということが重要ではないかと思います。……農業と流通業、そしてIT、金融業など多様な業種との協力、事業提携が加速していくようにしたいと思います」となっています(参照:http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/actions/201302/18sangyoukyousou.html

 この取りまとめを見ると、例えば“農業の構造改革”という用語は農水大臣ペーパーの表現そのままであり、“農業の規制改革”とは意味が完全に異なります。要は、イノベーションほどではないですが、総理の取りまとめはやはりAに偏っているのです。その原因はイノベーションの場合と同じです。

守旧派の事務局の暴走で
アベノミクスの効果も減退か

 ついでに言えば、産業競争力会議の事務局の官僚は、当初は会合に提出される民間議員ペーパーを1つだけにしてAの観点のみを強調したかったようにも見受けられます。そう考えると、事務局の官僚が用意していた総理取りまとめがAの観点ばかりになっていたのは、ある意味で確信犯だったとも言えます。

 さらに言えば、第2回会合では電力システム改革も議論されたのですが、そこで事務局と経産省は、経産大臣のペーパーで原発の早期再稼働の必要性をさりげなく主張し、わずか十数分の議論だけで産業競争力会議全体として原発再稼働に賛成という結果にしようとしていたようにも見受けられます。

 こうした様々な事実を考えると、産業競争力の事務局とその背後にいる経産省は改革路線とはほど遠い守旧派路線で暴走しようとしているとしか思えません。しかし、それがベースとなって成長戦略が作られたら、民主党政権時代に毎年作られた“官僚による官僚のための成長戦略”と同じような内容となり、アベノミクスの政策効果のみならず、アベノミクスに対する現状での金融市場や海外の高い評価を一気に下げかねないのではないでしょうか。

 日銀の新総裁が決まった後は、成長戦略の中身がどうなるかが安倍政権の経済政策の正念場になりそうです。

【第13回】 2013年2月22日 後藤順一郎 [アライアンス・バーンスタイン株式会社 クライアント本部戦略ソリューション室長、兼DC推進室長]
揺らぐ国債の安全神話
 前回は、長期投資を実践する際に基本となる資産の一つである株式についてお話ししました。資産形成のメイン・エンジンである株式はリターンが高い半面、リスクも高いため、最近は機関投資家でさえ二の足を踏んでいます。しかし、個人投資家は機関投資家と違って規制や会計基準などに縛られないため、じっくり腰を据えた長期戦が適していること、そしてみんなが株式を敬遠している今こそ投資を始める絶好のチャンスかもしれないと指摘しました。今回は株式と並び長期投資の基本となる資産である債券について説明します。

債券は資産形成の安定装置

 債券投資というと何だか難しく聞こえますが、実はお金を貸すことと同じです。債券の中でも、貸す相手が国の場合は国債、企業の場合は社債です。債券は銀行預金と同じように、貸している期間は一定の利子を受け取ることができますし、期日がない株式とは異なり、債券の発行体が期日に元本を返済してくれます。そして万が一、発行体が破綻した場合でも債券は返済順位が株式より高いため、回収率は相対的に高くなります。

 また、株式と同様、債券も時価で取引されますが、前述のようにたいてい最終的には元本が返ってくるため、債券は時価が額面から大きく乖離することは少なく、リスクが低いと言えます。

 しかしながら、投資の世界では、リスクが低いことはリターンも低いことを意味します。実際、米国の株式と債券を代表するインデックスの1976年以降の年率リターンを見ても、株式(S&P 500指数)の約11%に対し、債券(バークレイズ米国総合指数)は約8%と株式より低いことが確認できます。

 このように債券の特徴はリターンが低い半面、安全性が高いことですが、それだけではありません。債券は株式との相性が非常に良く、パフォーマンスは株式が良いときに悪く、株式が悪いときに良くなるという相互補完的な逆相関関係にあるため、株式と組み合せるとポートフォリオのリターンが安定します。したがって、資産形成においてはメイン・エンジンである株式に対し、債券は安定装置と位置づけることができます。

 また、債券の中でも国が発行する国債は信用力が抜群のため、安全資産としては別格の存在で、危機などの際に高いリスク・ヘッジ機能を発揮します。実際、リーマンショックのあった2008年は株式や不動産はもちろん、社債や新興国債券等の信用リスクがある債券もリターンが軒並み大きなマイナスとなる中、信用リスクが低い日本国債と先進国国債(為替ヘッジ付)はプラスのリターンを確保しました。これは危機時には投資家が少しでも安全なところに資金を逃がしたいと考え、真に安全と思われる資産へ資金が殺到する「質への逃避」と言われる現象です。このような「別格の安全資産」としての特徴もあり、債券の中でも特に国債は安心して資産形成を行うためにはなくてはならない資産なのです。

国債の安全神話も揺らいできている

 ところが、リーマンショック後は各国が不況に対処するため、一斉に大規模な財政出動に踏み切った結果、債務残高が大幅に増加し、欧州ではギリシャなどいくつかの国で債務がコントロール不可能な水準まで膨らみました。ギリシャに端を発した欧州債務危機では、債券の一部が債務不履行となり、投資家は大きな損失を被りました。しかも、危機はイタリア、スペインにも飛び火し、これらの国の国債も価格が暴落しました。このようにリーマンショック後の世界では先進国の国債といえども安全とは言えなくなってきたのです。一方、先進国国債の代表的なインデックスであるシティグループ世界国債インデックスには、ギリシャ(2010年6月除外)、イタリア、スペインなど財政状況が非常に悪い先進国の国債もある程度組み入れられています。したがって、当該インデックスをベンチマークとしているパッシブ運用(ベンチマーク通りの結果となるように運用する方法)は、自動的にこのような国債に投資をしてしまうことになります。

 残念ながら、問題はそれだけではありません。我が国の国債、つまり日本国債の安全神話も揺らぐ恐れがあります。国債を直接保有している日本人は少ないと思いますが、私たちが預金や保険として銀行や生命保険会社に預けたお金のかなりの部分をこれらの機関投資家が国債に投資しているのです。結局、私たちは日本国債を間接的に買い支えていることになります。しかし、高齢化が非常に速いペースで進んでいる日本は、国全体で見ると貯蓄する局面から貯蓄したものを取り崩す局面に入っているため、預金や生命保険等の残高が徐々に減っていくのは確実です。そうなったら、いったい、誰が日本国債を買うのでしょうか? その場合、日本政府は海外の投資家に頼らざるを得なくなると思いますが、海外投資家は今のような低い金利には満足しないため、日本政府は資金を調達するために金利を上げなくてはならなくなるでしょう。金利の上昇は債券価格の下落を意味するので、日本国債も中長期的に安全とは言い切れない状況です。

安全神話の過信は禁物

 以上のように、債券は基本的に資産形成の安定装置として機能しますが、現時点では日本を含む一部の先進国の国債にも、価格が下がる潜在的なリスクがあります。このリスクを回避するには、そのような国の国債に自動的に投資してしまうパッシブ運用ではなく、運用者の判断により、機動的に、そのような国債を除外できるアクティブ運用の投資信託が適切と言えるでしょう。リターンはほとんど期待できませんが、金利上昇の影響が限定的なMMFのようなものでも良いのかもしれません。いずれにしても、リーマンショック後のパラダイムでは国債の安全神話を過信するのは危険だと思います。

今回の川柳
債券も 思わぬところに リスクあり



【第16回】 2013年2月22日 
【テーマ13】
ねじれ議会による急激な緊縮財政への不安も
世界経済の行方を占う米国の「景気天気予報」
――桂畑誠治・第一生命経済研究所主任エコノミスト
景気を大きく失速させかねない「財政の崖」を、年初に辛くも回避した米国議会。しかし抜本的な解決には至らず、民主党と共和党の駆け引きが続くなか、不安は燻る。一方で、国内消費は回復傾向にあり、新興国経済が不調のなかで、世界経済に占める米国経済のウェイトは相対的に高まっている。2013年、日本のみならず世界経済を大きく左右する米国経済はどこへ向かうだろうか。第一生命経済研究所の桂畑誠治・主任エコノミストに詳しく聞いた。
(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)

「財政の崖」は辛くも回避されたが
2013年も緊縮財政不安は避けられない

――ブッシュ減税の期限切れと歳出の自動削減などが重なり、急激な景気失速が懸念されていた米国の「財政の崖」が、期限となる1月初頭にギリギリで回避された。富裕層を除く45万ドル以下の世帯に対する減税は恒久化されたものの、歳出の自動削減はわずか2ヵ月先送りされただけ。増税と歳出削減で対立してきた民主党と共和党の駆け引きは、2013年以降も続く。今後の財政問題をどう見ているか。


かつらはた・せいじ
第一生命経済研究所主任エコノミスト。専門は米国経済、金融市場、海外経済総括。1969年生まれ。三重県出身。法政大学卒。92年日本総合研究所入所。95年日本経済研究センターへ1年間出向。96年より為替相場、欧州経済、金融市場等を担当。99年丸三証券入社、日本、米国、欧州経済・金融市場等を担当。2001年より現職。著書に『資源クライシス』(日本実業出版社)など。
「財政の崖」は、2013年間で総額8000億ドル規模の財政緊縮となり、何の対応もせずに崖から落ちていれば、米国経済のリセッション入りは避けられなかった。このため、財政の崖回避法である「2012年米納税者救済法」のような法律の早期成立が期待されていた。

 ねじれ議会の弊害によって、年明け1月3日の成立となったが、危機はギリギリで回避された。だが、問題を先送りした部分もあり2013年に入ってからも、ねじれが続く新議会でも財政問題への対応が必要となっている。

 財政の崖で先送りされた問題とは、2ヵ月間延長された自動歳出削プログラムである。これを完全に停止するためには、2月28日までに中長期の財政赤字削減計画を策定する必要がある。再び数ヵ月間延長される可能性もあるが、その場合でも中長期の財政赤字削減計画の策定は困難であろう。

 共和党は財政の崖回避のために増税を受け入れたことから、今度は歳出削減によって財政赤字を削減するべきと主張している。一方、民主党は歳入を増やす政策も加えるべきと主張しており、議論がかみ合っていない。最終的には、自動歳出削減プログラムは開始される可能性が高い。

 また、2013年会計年度(12年10月〜13年9月)予算は、現在13年3月までの半年分だけしか成立していない。このため、4月以降の予算を3月27日までに成立させる必要がある。

 できなければ政府機関が閉鎖される可能性があるため、期限ぎりぎりで予算が成立すると見られるが、緊縮的な予算になることは避けられない。ただし、自動歳出削減が開始されていれば、景気への一段の悪影響を回避するため、過度に緊縮的でない予算となるだろう。

 どのようなシナリオとなっても、2013年に緊縮財政がより強まることは避けられず、米経済成長を抑制する要因になるだろう。

議会はデフォルト回避の方向へ動くが
歳出削減は景気の下振れ要因になり得る

――財政問題は米国の悩みのタネだ。2011年には債務上限引き上げを巡って議会が膠着状態に陥り、デフォルト懸念まで噴出した。このまま行けば、法定基準を突破したと見られる国債発行枠の上限を再び引き上げなければならない。見通しはどうだろうか。

 法定債務上限問題に関しては、5月18日まで事実上延長され、当面のデフォルトリスクは回避されたが、この延長の条件として、4月15日までに2014会計年度予算決議を成立させることが求められている。成立できない場合でも、議員の給与が支払われないだけのため、5月18日までに借り入れた額だけ5月19日に法定債務上限が引き上げられる。

 ただし、それ以上の引き上げには、中長期の財政赤字削減策を策定する必要がある。または、2013会計年度予算、14会計年度予算が緊縮的な予算となれば、その緊縮額分の債務上限の引き上げが行われるだろう。また、自動歳出削減プログラムが始まるなら、共和党は1.2兆ドル程度、債務上限を引き上げてもいいという判断になり易い。

 結果的に、議会はデフォルト回避の方向に動き、今回は2011年のようなデフォルト懸念の高まりにはつながらないのではないか。ただし一方で、現在は当時と景気の状況が違う。歳出削減への動きが景気の下振れ要因になるリスクは、考慮すべきだ。

 財政問題を放置すれば、米国債の格下げリスクも生じるため、10年スパンを見据えた財政赤字削減計画の取りまとめに努力していくだろう。

自動車・住宅需要は強まりつつある
米国民の可処分初頭は緩やかながら増加

――米国景気の行方を占う上で重要な目安となるのが国内の個人消費だ。足もとで消費動向はどうなっているか。

 足もとでは、雇用はスピード感がないものの増えてきており、賃金も上昇しているため、国民の可処分所得は緩やかながら増加している。また、金融機関の融資姿勢もクレジットカードなどで緩和気味になっており、借り入れを行いやすくなっている。実際、信用残高は増えている。

 さらに、好調な株式市場等によって、個人消費は、拡大基調を維持している。とりわけ自動車販売は、ハリケーンの影響で昨年10月に下振れしたが、11、12、1月と3ヵ月連続で季節調整済み年率換算1500万台となっている。すでに弱いとは言えない水準まで回復している。

 今回、富裕層が実質増税となったが、ボリュームゾーンである中間所得層向けの減税が続くため、消費は拡大を続けるだろう。ただし、給与税率が引き上げられたことから、年初に小幅減速するだろう。

 また、低金利が続き、可処分所得が拡大に向かっている影響で、住宅市場も底を打って持ち直しが確認されている。住宅購入意欲は今後も継続し、その影響を受けて住宅価格も上昇を続けよう。このことは、住宅関連消費やマインドの改善に繋がるだろう。

 こうした状況を見ると、米国の消費はゆるやかながらも拡大傾向を辿るだろう。

――このような環境のもとで、FRBの金融政策はどうなるだろうか。

 FRB(連邦準備制度理事会)は、現在期限を設定せず毎月400億ドルのMBS(住宅ローン担保証券)と450億ドルの国債を合計850億ドル購入し、バランスシートを拡大させている。

 緊縮財政が続く中で、経済成長を加速させ雇用の回復ペースを速めるためたに、FRBは2013年を通じて証券の購入を継続することで、金融緩和を強化すると予想される。

――景気の拡大が続いているとはいえ、米国には大規模なマイナスの需給ギャップが残存しており、成長ペースは不十分だ。米国での金融緩和が景気に与える効果は、どの程度だろうか。

 米国の金融緩和は規模が大きい上、FRBの卓越した市場とのコミュニケーション能力によって効果を高めていることから、成長支援効果はかなり大きい。FRB当局が緩和を示唆すると、期待インフレ率が上がって株価も反応する。金融政策にマーケットが素直に反応し易いという特徴がある。

 これが日本だと、市場が期待するような金融緩和が実施されてこなかったほか、日銀自身が「金融緩和をやってもあまり効果が望めない」などと、金融緩和の効果に否定的な発言を行っていたこともあり、市場の反応は良くなかった。

今年中は各国とも国債買い入れを継続
FRBが引き締めに転じるときが転機に

――FRBのみならず、ECBにも日銀にも言えることだが、中央銀行の国債買い入れに対しては、財政ファイナンスとの批判もある。近い将来、FRBも金融政策の方向転換を考えざるを得ない状況になるのではないか。そうなると、世界経済への影響も懸念される。

 むろん、経済が普通の状態であれば、どの国の中央銀行も国債の大量購入はやりたくないだろう。しかし、それをやらなければいけないほど世界は深刻な財政問題を抱え、需要不足を補う必要に迫られている。先進各国は、年内は非伝統的な金融政策を継続せざるを得ないだろう。

 問題となるのは、何年も先のことになると思うが、FRBが非伝統的な金融政策から脱却するときの影響だ。2016年に入ると、金融引き締めの可能性が高くなる。過去の例を見ると、米国が引き締めをやるとその後必ず何らかの大きな危機が顕在化している。繰り返しになるが、2013年中は景気に不安があって引き締めに入れないため、緩和気味の状態が続き、世界経済への悪影響はないと見る。

――これまでの分析から推察すると、2013年の米国景気はそれほど悪くないと言えるだろうか。

 財政の崖を回避できたことは、景気にプラス材料だが、緊縮財政によって成長率は大幅に抑制されるだろう。それでも、年初に減速した景気は年後半に向けて持ち直していくだろう。

 理由は、前述のとおり、どんな結果になるにせよ「財政の崖」に対する不透明感は薄れていく可能性が高いからだ。そうなると、国内の消費、投資は拡大ペースを速めるだろう。

 また住宅部門では、低金利、所得の改善により住宅販売の回復傾向を続く中で、低い在庫率等を背景に、住宅投資は高い伸びを維持すると見込まれる。

 外部環境を見ても、今年は昨年よりも世界経済が上向く可能性が高い。減速が止まらなかった新興国経済は、足もとでインド以外は持ち直しの方向へ向かっている。中国は景気刺激策を着実に実施していく方針を示しており、電力使用量も増えている。新興国の復調に伴い、米国をはじめ世界経済の足腰も強まっていくだろう。

 2013年の米国経済を天気にたとえるなら、基本的には晴れ間が多く、雨が降りそうになっても結局は曇りで終わる、というイメージだろうか。

米国景気は年央にかけて持ち直し
日本経済もやや遅れて勢いを増す

――気になるのは、米国経済の動向が日本経済に与える影響だ。これをどう見ているか。

 日本の輸出も、米国景気に左右される格好になる。米国経済が年央にかけて持ち直していくのに従い、日本の景気も少し遅れて持ち直し、勢いを強めていくだろう。

 ただし、米国が財政問題により景気が悪化すれば、日本もリセッションは避けられない。米国の個人消費が落ち込むと、為替はドルに対して円高になるので、日本の米国向けの輸出は落ち込むだろう。それだけでなく、米国は世界の最終消費地なので、中国などアジア向けの輸出も落ち込むことになる。それらの影響により、日本経済は再びリセッション入りする恐れもある。

 ただ、現時点では米景気は徐々に加速する可能性が高いため、私は日本経済への影響を悲観的に見ていない。

―― 一方で、経済・金融政策を個別に見ると、日米間にはお互いの経済動向に影響を与えそうないくつかの要因がある。1つが安倍政権の誕生だ。政府・日銀が共同歩調をとり、2%のインフレ目標が掲げられ、大胆な金融緩和が進めば、円安・ドル高傾向が強まりそうだ。そうなると、米国景気を抑制する可能性もある。

 今年の参院選の結果を待つ必要はあるが、日銀法改正を避けたい日銀は、今後も政府の意向に沿う形で、金融緩和を進めていくだろう。これまでは期待先行で円安に向かっていたが、日銀の取り組みが期待に追い付き、さらに3月に新しい日銀総裁が誕生すれば、円安・ドル高圧力が一層強まりそうだ。

 ただし一方で、公共投資を増やす大規模な財政出動については、国債の発行額が増えるほか、成長加速によって長期金利に上昇圧力が強まるため、円安を抑制する要因になる。

 仮に国債が格下げされると円安要因になるが、日本は国内でほとんどの国債を消化しているため、影響は限定的と見る。したがって、再び円高傾向に触れる可能性も否定はできず、今後円安ドル高の進展ペースを抑制する要因となる可能性がある。

 日本政府は、財政出動をうまくコントロールし、「積極的な金融緩和による円安によって景気を回復させる」という本来の経済効果を出せる方向性を重視するべきだろう。

アベノミクスとTPPは注目事項
日本は国益を最大化させる舵取りを

――もう1つ、日米間にはTPP交渉参加という難しい課題がある。「米国だけが得をする」と言われているが、日本はどんな影響を被るだろうか。

 米国が日本にTPP交渉への参加を求めている目的には、日本向けの輸出拡大と中国への牽制の2つがある。日米がTPPに参加すると、その規模はかなり大きくなる。その中にアジアの成長市場を取り込んでいこうという目論見だ。

 中国では自国企業が規制で保護されているため、TPPに参加すると外資に市場を奪われてしまう恐れがあり、参加したくてもできない。つまり、TPPは強大化する中国に対抗するための貿易圏となり得る。中国の規制や、制度を公平性の高いものにする圧力となる。

 その意味で、米国は日本に参加してほしいと思っているが、入ってくれさえすればいいというわけでもない。オバマ政権を支持している自動車メーカーが、日本に対して軽自動車の市場開放を求めているように、参加する際にきちんと規制を緩和してほしいと思っている。日本に対してLNG(液化天然ガス)のような「アメ」をぶら下げて見せている背景にも、そうした期待がある。

 しかし日本も、聖域なき関税撤廃が参加条件のままの状態で参入すると、農業をはじめいくつかの産業が大きなダメージを被ることになるため、安倍内閣も慎重にやらざるを得ない。日本の国益が最大となるような交渉を心がけるべきだ。

不透明感が漂っていた新興国と欧州
世界における米国経済の重要性は高まる?

――昨年大きく減速した中国、ブラジル、インドなどのBRICs諸国は一時より景気が上向いてきたとはいえ、まだ不安を抱えている。デフレが続く日本や債務問題不安が払拭されない欧州など、先進国も先行きが不透明だ。現状を見ると、世界経済に占める米国経済の重要性が相対的に高まっているように思える。世界経済の動向をどう見るか。

 確かに、世界経済の成長における米国のウェイトは、2012年初頭から次第に高まっている。米国経済はリーマンショック直後にいち早く持ち直したものの、その後低成長が続いた。一方で、中国をはじめ新興国は高い成長を続けていた。

 ところがその後、新興国の成長が鈍化し、債務危機に揺れる欧州もマイナス成長に落ち込むなかで、いつの間にか低くても成長を続ける米国が世界経済の牽引役のようになっている。この状態はしばらく続く可能性が高い。

 中国経済も、7〜8%程度の成長は維持できるだろう。潜在成長率が低下しており、かつてのような10%成長は望めないが、労働力人口は伸びているため、まだ成長力は高い。また経済成長モデルも、輸出依存から内需指導への移行を目指しているので、他国にとっては中国向けの輸出がある程度景気の下支えになりそうだ。

 一方、欧州経済の回復には相応の時間がかかるが、ESMなど財政不安が高まった国を支援するための救済基金が設立されたことや、ECBによる国債購入期待が強いことに加え、ユーロ圏全域に亘る金融機関救済システムの創設を進めているため、ユーロ危機が世界経済の足かせになる不安は改善されつつある。ユーロ圏経済も、遅くとも年半ばまでにプラス成長に転じるだろう。

 こうしたなかで、米国経済の良し悪しは、今後も世界経済にとって相応のインパクトになりそうだ。


【第10回】 2013年2月22日 西川敦子 [フリーライター]
いまや「日本脱出」がエリートの合言葉に!?
“高度人材大移動の時代”到来の衝撃
日本の人口は今、何人くらいか、君は知っているかな。2010年の国勢調査を見てみるとだいたい1億2806万人。でも、この人口はこれからどんどん減ってしまうんだって。

国立社会保障・人口問題研究所では、将来の人口について3つの見方で予測を立てている。このうち、「中位推計」――出生や死亡の見込みが中程度と仮定した場合の予測――を見てみると、2030年には1億1522万人、さらに2060年には8674万人となっている。これは、第二次世界大戦直後の人口とほぼ同じ規模だ。

どんどん人口が減り、縮んでいく日本の社会。いったい私たちの行く手には何が待ち受けているんだろう?

――この連載では、高齢になった未来の私たちのため、そしてこれからの時代を担うことになる子どもたちのために、日本の将来をいろいろな角度から考察していきます。子どものいる読者の方もそうでない方も、ぜひ一緒に考えてみてください。

超優秀な留学生を
青田刈りする国・シンガポール

 高校生の春奈(仮名)は15歳のとき、たったひとりでシンガポールに渡った。以来、ホームステイしながら、現地のインターナショナルスクールに通っている。そんな頑張り屋さんの彼女もいよいよ受験生だ。

 とりあえず、いくつかの大学を訪問してみた。そのうちのひとつが、“シンガポールの東工大”といわれるNTU (Nanyang Technological University:南洋工科大学)。留学生の合格率はわずか8〜9%。中国、インド、マレーシア――アジア中の秀才たちが集まってくる。NUS(National University of Singapore:シンガポール国立大学)やSMU(Singapore Management University:シンガポール経営大学)などと並ぶ超難関校だ。

 いったい学費はどのくらいかかるんだろう?

「通常なら、留学生の学費は年間200万円ほど。でも、政府が学費援助してくれるので、その半分で済むんです」

 こう語るパク・スックチャさんは、日本生まれで韓国籍を持つビジネスウーマンだ。ダイバーシティ(多様性)とワークライフバランスの企業コンサルタントとして幅広い活動をしており、多数の著書を持つ。

「ただし、政府の援助を受けるためには、『卒業後3年間はシンガポールの企業で働く』のが条件。3大学に入学するほとんどの留学生はこれを受け入れ、卒業後はシンガポール企業に就職していきます。狭き門を潜り抜けた超優秀な留学生を大学入学の時点で確保している、というわけですね」

 パクさんは『恐れ入った』と言いたげに、首を振った。

「このままだと、日本は20年経っても彼らに追いつけないわ」

「高度人材」だけ確保する
シンガポール政府の巧みな戦略

 シンガポール政府が今年1月に公表した「人口白書」の予測によれば、国内の生産年齢人口は2020年を境に減少に向かう。合計特殊出生率は1.2で、日本の1.39を下回る。

 ところが、白書が示す2030年のシンガポールの人口は最大690万人。このまま少子化が改善されなければ、どう考えてもこの数字にはなりっこない。つまりシンガポール政府は、国民の人口減少で不足する労働力を、外国人人材で補おうと考えているってこと。

 なにしろ、シンガポールの国土はかなり狭い。東京23区とほぼ同じくらいだ。したがって、天然資源もない。水だってお隣のマレーシアから供給してもらっている。彼らにとって、「人材」こそ唯一の資源なんだ。1965年の独立開国以来、多くの外国人たちを受け入れてきた。

 とはいえ、「外国人なら誰でも大歓迎!」というわけじゃないよ。同じ外国人人材でも、「PMET」(専門職者・管理職・エグゼクティブ・技術者)を、「マニュアル・ワーカー(未熟練労働者)」と区別し、より優遇している。

 PMETたちに発給されるのは、「Eパス(エンプロイメント・パス)」と呼ばれる就労ビザだ。Eパスを持っている人には、基本的にいろいろな特典が与えられる。たとえば永住権(PR)も取得しやすくなる。会社を辞めた場合も「個人Eパス」を持っていれば、そのままシンガポールで暮らしつつ、現地で転職活動できる。

 さらに彼らもまた、職種や能力によって細かくレベル分けされている。政府が確保したいのは、より能力の高い「高度人材」だ。

 PMETの中でも能力が高いとされるのは、「Pパス」を持っている人々。Pパスは専門家や管理職などの高度人材に与えられる就労ビザで、月収によって2ランクに分かれている。

 次のレベルのQパスは技能労働者・技術者向けで、Pパスと同じくQ1、Q2の2ランクがある。Sパスはその他の労働者が対象。月収や学歴・専門技能・職種・経験年数などを審査したうえで、発給されるかどうかが決められる仕組みだ。

 一方、マニュアル・ワーカーに与えられるのはWPという就労ビザ。雇用人数と対象国籍が業種別に決められており、雇用する企業には保証金や雇用税の支払いが義務付けられる。国内の人材でまかなえる単純労働は自国民に回さないと、街が失業者であふれてしまうからね。

 おまけにシンガポールの労働法では、解雇は自由だし最低賃金の定めもない。立場の弱い労働者にとって、かなり不利な環境といえるだろう。

 じゃあ、PMETなら安心して働き続けられるかといえば、そうでもない。

 国の移民政策に目下、国民の不満はつのる一方。その動静を警戒視する政府は、最近、外国人の就労ビザの発給条件をより厳しくしている。QパスやSパスも例外ではない。

「必要な時、必要な外国人を、必要なだけ活用する」。シンガポールの外国人人材の質と量は、政府の巧みな戦略によってつねにコントロールされているんだ。

「日本にいてはいけない」が合言葉!?
アジアのハブを目指すエリートたち

 一般の外国人については入国制限を行っても、きわめて優秀な“スーパー高度外国人材”となると話は別だ。

 遺伝子研究で著名な伊藤嘉明氏が、京都大学の退官後、シンガポールの一大研究複合施設「バイオポリス」に引き抜かれたのは有名な話。政府もヘッドハンティング会社も、トップ人材を虎視眈々(こしたんたん)と狙っている。

「実際、エース級のビジネスパーソンが世界中からシンガポールに集まってきています。アジア、米国、ヨーロッパ――日本も例外ではありません」。

 こう明かすのは、現地に赴任中の三井住友銀行 シニア・グローバル・マーケッツ・アナリスト 岡川聡さん。

「外資系企業だけでなく、日系企業からの転職組もいます。アジアのマネジメントの中心は、東京から上海、さらにシンガポールへと移り変わっている。M&Aなどの取引や企業の新規進出、新規事業も盛んです。彼らにふさわしいポストがこの街に集中しているのですから、優秀な人材が集まるのも当然でしょう」

 狭い国土ゆえの地の利も、多忙なエリートたちには魅力。官庁だろうが、空港だろうが、タクシーを走らせればどこでもあっという間に着く。個人所得税やキャピタルゲイン税(株式、土地などを売却するとき支払う税金)などの税制面も、日本に比べてダンゼンお得だ。

 さらに、岡川さんはこう続ける。

「弁護士、会計士、税理士など、サムライ業の間では『日本にいてはいけない』が合言葉。シンガポールはアジアにおける交通、金融のハブ(ネットワークの中心)ですが、今や法務、財務の世界でもハブ化しつつある。アジアで最先端の法務、財務に触れ、キャリア形成をしなければ未来がないことを、彼らは知っているのです。

 その他のホワイトカラーたちも同じ思いなのでは。ここには日本では得られない英語情報やビジネスチャンス、リスクマネー(危険も大きいが、成功すれば高収益が得られる投資)があふれています。優秀な人材がネットワークを作り、ダイナミックなビジネスがどんどん展開されていく――。スーパー高度人材がシンガポールを目指すのは、『まさに今、ここにスーパー高度人材が集まっているから』なのです」

「日本的雇用」「日本の大学」にそっぽ向く
世界のスーパー高度人材

 収入、地位、成長のチャンス、挑戦心を掻き立てるビッグプロジェクト。あらゆる仕掛けを駆使して、スーパー高度人材を狩り続けるシンガポール。

 かたや、早くも人口減少社会に突入した日本はどうなんだろう?

 まずはデータを見てみよう。2012年10月末現在、外国人労働者数は約68万人。このうち、専門的・技術的分野の在留資格を持つ高度外国人材はおよそ12.4万人(厚生労働省調べ)だ。なお、2007年の厚労省の調べによると、大企業100社で働く高度外国人材はわずか1000人に1人の割合だった。

 グローバル競争の舞台では、多様な情報、スキル、価値観を持った人たちが知恵を出し合って戦わないと勝ち目がない。しかも人口減少で国内の消費者は今後、どんどん減っていく。日本人による日本的なやり方で、世界に通用する商品やサービスを生み出せるんだろうか?

 高度外国人材の受け入れを促そうと、国は昨年5月から「高度人材に対するポイント制による出入国管理上の優遇制度」を導入した。学歴や職歴、収入などをポイントで評価し、合計70点以上の外国人を優遇する、という内容だよ。

 留学生も増やそうとしている。2008年に発表された『留学生30万人計画』では、当時約14万人だった留学生を、2020年には30万人に増やす、としている。

 これにともない、英語による授業のみで学位が取得できるコースを増設。現在、有名国公私立の13大学で合計約300コースを備えている。留学生の卒業後の就職活動期間も最長180日から1年に延長した。

 さて、その成果は――。

 計画の進捗状況は、どうもはかばかしくないみたいだ。2003年5月現在の留学生数は、13.7万人。30万人には遠く及んでいない。

 前出のパクさんは、「優秀なアジアの留学生の目線は、米国や英国を向いています。オックスフォード大学やハーバード大学に行けば、世界中のトップエリートたちとのネットワークができる。ところが、日本の大学では望むべくもありません」と解説する。

 さらに、たとえ留学生を30万人受け入れられたとしても、彼らが日本企業に就職してくれるとは限らないのでは、とパクさん。

「海外では優秀な人ほど能力主義を好む。年功序列による昇進の遅れ、成果に基づかない評価を嫌う高度外国人材は多いはずです」

 転職しづらい、流動性の低い労働市場も嫌われる一因だろう。あくまで新卒一括採用が王道の日本。いろいろな会社でキャリアを積み専門性を磨くどころか、レールを外れるとなかなか再チャレンジできないのが現状だ。海外の優秀な学生が日本の大学を選ばないのもうなずける。

 世界中で始まったエリートの争奪戦。ライバルはもちろん、シンガポールだけではない。ポイント制によって外国人材を階層分けし、より優秀な人材を優遇するイギリス。特別な専門知識や卓越した地位を持つエンジニア、技術者、研究者たちに無期限の定住許可を与えるドイツ。専門分野に応じ、高度外国人材に「ゴールドカード」「ITカード」「サイエンスカード」を発給、ビザの有効期限を延長する韓国。

 より魅力のある国、都市へ、国籍を問わず才能が集中する「高度人材大移動の時代」。君たちが大人になる頃、元気な日本であり続けるためにも、企業や大学は大きな変革を迫られているのかもしれないね。


◆お話を聞いた方

パク・スックチャ
アパショナータ代表&コンサルタント(ダイバーシティ(多様性)&ワークライフバランス) 日本生まれ、韓国籍。米国ペンシルバニア大学経済学部BA(学士)、シカゴ大学 MBA(経営学修士)取得。米国と日本で勤務後、米国系運輸企業に入社。同社にて日本・香港・シンガポール・中国など、太平洋地区での人事、スペシャリストおよび管理職研修企画・実施を手がける。2000年に退社し、日本で最初にワークライフバランスを推進するコンサルタントとして独立。企業での社員の意識改革、働き方改革及び教育研修に携わる。同時に、米国とアジアに精通したグローバルな経験を活かし、ダイバーシティ(多様性)推進に力を注ぐ。企業にもメリットをもたらす手法で進める在宅勤務導入コンサルティングで成功実績を出し、企業での在宅勤務(テレワーク)も専門とする。著書『アジアで稼ぐアジア人材になれ』(朝日新聞出版)など。

おかがわ・さとし
三井住友銀行 シニア・グローバル・マーケッツ・アナリスト
1968年東京生まれ。幼少期を台湾、少年期を西ドイツにて過ごし、獨協学園高等学校卒業後、1991年3月、上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業。太陽神戸三井(現三井住友)銀行入行。1996年、為替資金部(現市場営業部)直物為替グループ配属。以後、アジア通貨危機をはさみ、約10年間、一貫してアジア・オセアニア通貨インターバンク為替ディーラーを担当。市場営業部・直物為替グループ長、同・先物為替グループ長を経て、2010年、市場営業部シンガポールトレーディンググループ長。
2011年、市場営業統括部(シンガポール駐在)シニア・グローバル・マーケッツ・アナリスト。専門分野はアジア太平洋州の市場を中心とした為替動向調査、マネーマーケット分析を中心とした金利動向調査。


◆参考にした本、ブログ
日本人に宛てたエッセイ100〜南十字星から西東京へ

『アジアで稼ぐアジア人材になれ』(パク・スックチャ著/朝日新聞出版)


【第65回】 2013年2月22日 安藤茂彌 [トランス・パシフィック・ベンチャーズ社CEO、鹿児島大学特任教授]
日米トップ会談の成功は
オバマ大統領2期目の課題への協力次第
 オバマ大統領が2月12日に上下両院議員を前に一般教書演説を行った。一般教書演説は2期目の4年間の包括的な施政方針演説でもある。やや長くなるが、まずはその内容をご紹介したい。

 大統領はまず成果の報告から始めた。アフガニスタンから毎年3万人規模で米兵を帰還させる。大統領に就任して以降600万人の雇用を創出した。景気は回復基調に入っており、住宅市場も住宅価格が上昇に転ずるなど、回復してきている。それでも失業率の水準はまだまだ高いし、賃金の上昇も見られない。アメリカ経済は所得中間層を強くしないと本当の回復はできない。

 今年初めに富裕層のトップ1%への減税措置を撤廃し、歳出削減も超党派で協議して実現した。さらなる歳出の削減については、これから下院で過半数の議席を有する共和党と協議をしていかなければならないが、大統領と上下両院が合意できない場合には自動的に1兆ドルの歳出を削減することになる。だがこれは悪い考え方である、特に教育、医療分野の歳出削減を安易に進めるとアメリカの将来の繁栄がなくなる。

 10年間で4兆ドルの財政赤字を削減しなければならないが、それよりも税法を改正し、脱税の抜け道をふさぐことで財源を捻出すべきだ。新たな財源をアメリカの未来を担う子どもたちに投資する。そうすれば雇用が海外に流出することを防げる。共和党の協力を得て実現していきたい。私は決して「大きな政府」を作りたいのではなく「スマートな政府」を作りたいのだ。

 海外に出ていたアメリカの製造業が続々と国内に戻ってきた。キャタピラーは日本の製造拠点をたたんで米国に移したし、フォードはメキシコから、アップルは中国から、それぞれ米国内に戻している。製造業革命は再びアメリカから始まろうとしている。昨年3Dプリンティングの訓練センターを作った。こうしたセンターをこれからさらに15ヵ所作る。

 ゲノムへの投資も重要である。ゲノムへの1ドルの投資は140ドルになって返ってきた。脳の遺伝子解析からアルツハイマーへの対応もできるようになるし、再生医療にももっと投資が必要だ。天然ガスの国内採掘にも努力し、クリーンエネルギーへの転換も進めてきた。他国からの化石燃料輸入に依存せずに自立できるようになった。地球温暖化と戦う準備もできた。これでクリーンエネルギーの主導権を中国から米国へ取り戻せる。

 ハリケーン・サンディーのような大型災害の発生頻度が上がっている。災害復旧に迅速に対応するために行政手続きの簡素化を図る必要がある。米国には補修を要する古い道路や橋が7万ヵ所以上ある。こうした補修を行うための財源を天然ガスの収入の一部でエネルギー・セキュリティー・トラストを作り、その資金を使おう。エネルギーの無駄が生じるような家も建て替えよう。こうした努力を積み上げれば、エネルギーの浪費を20年間で半減できる。そうすれば米国を製造基地として魅力的な国にできる。

 製造業、エネルギー、住宅、インフラのそれぞれの分野で、アメリカが主導権を握ろう。それすれば、雇用の創出がもっとできるようになる。こうした需要に応えていくには、スキルを持った質の高い労働力が必要で、それには教育制度の充実が必要になる。小学校に入学する前の幼児の教育に力を入れると将来伸びる人材に成長することがわかっている。こうした幼児への教育投資は効率が高く1ドルの投資が7ドルになって返ってくる。

 高校しか出ていなくてもコンピュータのスキルを身に着ければ職にありつけるようになる。サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、数学が特に重要だ。高等教育を受ければ受けるほど良い職にありつけるのはわかっているが、大学の授業料が高すぎる。いくら税制支援をしても追いつけない。大学が授業料を下げる努力が必要だ。質を下げないで授業料を下げられる大学には連邦政府から支援を受けられるような仕組みを作っていく。

 総合的な移民制度改革も必要だ。不法移民を取り締まって正規の手続きで移民できるようにする。そのためにはバックグラウンドチェック、英語力の訓練強化を行い、スキルのある外国人に移民の機会を増やそう。下院で法案を作り数ヵ月以内にもってきてほしい。すぐに署名する。

 現在の最低賃金は7.25ドルで、1年間正規職員として働いても年間1万4500ドルにしかならない。これでは貧困ライン以下の水準である。そこで最低賃金を9ドルへ引き上げることを提案する。最低賃金の物価との連動も考えていく。貧困層の住む地域は荒廃している。どんな貧困層でも共働きをすれば子どもを作れるようにしよう。そのためには中間層が厚くならなければならない。中間層が厚くならなければ国は強くならない。

 アフガニスタンでのテロとの戦いは目的を達成したので、米国軍兵士を今年3万3000人帰国させ、来年3万4000人帰国させる。それを可能にするためにアフガニスタンの兵士を訓練していく。テロリストとの戦いは、現地政府がテロリストと戦えるように支援していく。米国自身も引き続き個別にテロリストを排除する計画を進めていくが、これを組織的に公明正大に透明にやる。

「核」技術がテロリストに渡らないようにする。北朝鮮は米国を威嚇しているが、威嚇は北朝鮮自身を更に孤立させる。同盟国と協力してブロックする。北朝鮮が繁栄する道は国連の決議に従うことだ。イランも国連の決議に従うべきだ。米国はイランが「核」を入手することにはトコトン抵抗する。ロシアとも協力して「核弾頭」の拡散を防いでいく。サイバー攻撃は、個人情報を盗み、行政システム、交通システムを麻痺させる。あとで後悔しない様に事前に法律を作って対応する。行政システムを攻撃から守る法律を作ることに下院はもっと積極的であるべきだ。

 成長を続けるアジアの国々と競争の土俵を一緒にするためにTPP(環太平洋経済連携協定)を推進していく。これがアメリカの輸出拡大と雇用創出に結び付く。アメリカはアジア地域の導き手(Beacon)になる。ミャンマーのスーチー女史を訪ねたときに、ミャンマー国民はアメリカの国旗を振って迎えてくれた。「アメリカには法治と正義がある」、「ミャンマーもそういう国になりたい」と素直に語ってくれた。アメリカはこうした国々が安定的に民主国家に移行できるように支援していく。欧州連合(EU)との貿易・投資協定の締結も行いたい。

 シリアの国民に自由を与え、イスラエルにセキュリティーを保証し、海外で公務に従事するアメリカ人にセキュリティーを与えるようにしていく。それには軍事力を強くしなければならない。

 このところ銃の乱射事件で命を落とす子どもが増えている。下院では銃の購入者のバックグラウンドチェックを強化する法律を迅速に審議すべきだ。併せて投票所での待ち時間を短縮する法律を超党派で検討すべきだ。次の世代により良いアメリカを引き継ぐために重要なことである。皆で協力して偉大なアメリカを作って行こう。

 演説は約1時間続いた。リーマンショック後の混乱した経済状況の真っただ中で大統領に就任し、経済が上向いてきたことに自信をみなぎらせていた。これからの経済成長を、製造業、エネルギー、住宅、インフラの4本の柱で進めていくのも、納得のいく選択である。

 気になったのは、演説の中で提案のあった諸施策は、いずれも財政赤字を拡大するものばかりのことだ。10年間で4兆ドルを削減しなければならないなかで、諸施策をどのように実現していくのだろうか。いずれの政策も共和党の根強い反発を招くのは必至である。

 もうひとつ、経済・内政重視の提案が多い反面、外交・国際紛争の解決に関する提案が皆無であったのも気になった。日中間の緊張に関する言及は全くなかった。演説の中でChinaは2回出てきてJapanは1回出てきたが、経済の文脈での言及であり、紛争に関する文脈ではなかった。「アメリカはアジア地域での導き手になる」といった表現は、暗に「アジア地域では中国に好き勝手をさせない」といった意味を込めていると考えられるが、かなり婉曲な表現である。

 海外の紛争についてアメリカは不干渉主義に徹しているように見える。シリアが内戦で多くの犠牲者を出しても何もしなかった。アルカイダの一派がアフリカ北部で活動を活発化させても、見て見ぬふりをした。さすがにアメリカ本土への核攻撃を公言した北朝鮮については言及があったものの、「国連の決議に従うべきだ」と平凡な締めくくり方をした。

 安倍首相は政権発足後すぐのオバマ大統領との会談を希望していたが、アポが取れなかったという。オバマ大統領の1期目の4年間に、日本では5回の首相交代があった。麻生首相、鳩山首相、菅首相、野田首相、そして安倍首相である。とくに鳩山首相は、「日中関係が日米関係より重要だ」といった内容の記事がニューヨークタイムズに掲載されたことで、すっかり嫌われてしまい、首脳会談を断られ続けた。その上、沖縄の基地問題も解決せずに、いとも簡単に辞任してしまった。これでオバマ大統領の不信が深まったように思う。

 それ以来、オバマ大統領の日本の歴代首相に対する対応は冷淡である。沖縄の基地問題、TPPと懸案事項が進捗していないからである。まもなく安倍首相とオバマ大統領との会談が実現する。日中間の領土紛争が議題になるだろう。だが、どこまで大統領が日本の肩を持ってくれるのかには、あまり期待が持てない。「日中間で善処してくれ」、「そのために米兵の命にかかわるような巻き込まれ方はしたくない」がオバマ氏の本音ではないだろうか。

 オバマ大統領の2期目は、「黒人として初めての大統領になり、米国経済がどん底の中からアメリカを復権させた偉大な大統領」として、歴史に名前を刻むことを意識していると言われている。米国の真摯な協力を仰ぐには、一般教書演説の中で大統領が述べている優先課題に日本が協力できる具体策を持っていく必要があろう。それはTPP早期締結か、米国の輸出拡大への協力のいずれかではないだろうか。安倍・オバマ会談の成功の可否はこの点にかかっているように思われる。


09. 2013年2月22日 07:51:44 : xEBOc6ttRg
景気懸念でユーロ下落、米緩和縮小観測でドル上昇=NY市場
2013年 02月 22日 06:56

トップニュース
労働市場改善に応じて資産購入縮小可能=セントルイス連銀総裁
1月の米中古住宅販売は小幅増、在庫は13年ぶり低水準
1月米消費者物価総合指数は変わらず、ガソリン価格の下落重し
米FRBの資産購入、年後半もかなりの間必要に=SF連銀総裁

[ニューヨーク 21日 ロイター] 21日のニューヨーク外国為替市場ではユーロが対ドルで6週間ぶり安値、対円でも3週間ぶり安値をつけた。2月のユーロ圏総合購買担当者景気指数(PMI)が弱かったことや、イタリア総選挙を週末に控え警戒感が広がったことが重しとなった。

米連邦準備理事会(FRB)が予想より早期に緩和縮小に踏み切る可能性があるとの観測を背景にドルは幅広い通貨に対して買われ、ドル指数は5カ月半ぶり高水準をつけた。ただ、対円では下落した。

ユーロ/ドルは0.7%安の1.3182ドル。ロイターのデータによると、一時1月10日以来の安値となる1.3160ドルをつけた。

ユーロ/円も1.2%安の122.78円。1月下旬以来の安値となる122.23円まで売られる場面もあった。

ドル指数.DXYは0.4%高の81.397。一時は81.508と、昨年9月上旬以来の高水準をつけた。

ドル/円は0.5%安の93.04円。
 

 

ユーロ下落、弱いユーロ圏指標やイタリア総選挙めぐる不透明感で 2013年2月22日

[ニューヨーク 21日 ロイター] 21日序盤のニューヨーク外国為替市場で、一時ユーロがドルに対して6週間ぶり安値、対円で3週間ぶり安値に下落した。2月のユーロ圏総合購買担当者景気指数(PMI)速報値が、市場予想に反して前月から低下、欧州中央銀行(ECB)が向こう数カ間で利下げに踏み切る可能性が残ったとの見方が出ている。

週末のイタリア総選挙をめぐる不透明感もユーロ売りにつながった。

ユーロ/ドルは一時、1月10日以来の安値となる1.3166ドルをつけた。

ユーロ/円は1月下旬以来の安値となる122.23円に下落する場面があった。

米連邦準備理事会(FRB)が20日に公表した1月29―30日の連邦公開市場委員会(FOMC)議事録によると、複数の委員が、雇用市場が改善する前に資産買い入れの縮小か停止が必要となる可能性があると指摘した。

これを受けてFRBが金融引き締めに近づいているとの観測が強まり、ドル指数.DXYは5カ月ぶり高水準の81.508をつけた。


 


ドル上昇、FOMC議事録で早期の緩和縮小観測高まる=NY市場 2013年2月21日
NY外為市場・午前中盤=ユーロ上昇、ECB政策据え置き観測で 2013年2月6日
1月のユーロ圏総合PMI改定値は48.6、前月から上昇 2013年2月5日


 

 


FRB、債券購入ペースの調整ではコスト要因も考慮=SF連銀総裁
2013年 02月 22日 07:20 JST

[ニューヨーク 21日 ロイター] 米サンフランシスコ地区連銀のウィリアムズ総裁は21日、米連邦準備理事会(FRB)が現行の債券買い入れペースの調整を検討する際には、景気動向、債券買い入れに伴うコストと利益を考慮するだろうとの見方を示した。

総裁は記者団に対し、債券買い入れを早期に突然停止するよりも、縮小していく方が道理にかなっているとの考えを示した。

このほか、FRBによる住宅ローン担保証券(MBS)購入は「非常に効果的な手段」だったとし、住宅ローン市場に大きな効果をもたらしているとの見方を示した。

また、総裁は同日、米雇用市場について、大きな改善の兆しが今年後半には出てくるとの見通しを示した。

ニューヨーク・フォアキャスターズ・クラブにおける講演後の質疑応答で、失業率が6.5%に低下した際にFRBが利上げを開始すれば、インフレが目標を大きく外すことはないとの見方を示した。


 

米FRBの資産購入、年後半もかなりの間必要に=SF連銀総裁
2013年 02月 22日 06:21 JST
[ニューヨーク 21日 ロイター] 米サンフランシスコ地区連銀のウィリアムズ総裁は21日、インフレ圧力が抑制される中、雇用を促すため連邦準備理事会(FRB)は今年後半もかなりの期間、資産買い入れを継続する必要があるとの認識を示した。

総裁は講演原稿で「FRBは議会から雇用最大化と物価安定という二大責務を託されているが、いずれも達成できていない。失業率は高過ぎ、インフレ率は低過ぎる」と言明し、米経済には「強力かつ継続的な」金融緩和が必要だと主張。「今年後半もかなりの期間、住宅ローン担保証券(MBS)と長期国債の買い入れが必要になると予想している」と述べた。

20日に公表された1月29―30日の連邦公開市場委員会(FOMC)議事録では、一部当局者が資産買い入れに伴うコストについて懸念を表明したことが明らかになった。

ウィリアムズ総裁は買い入れに伴うリスクについて踏み込んだ言及はしなかったが、FRBのバランスシートの大幅な拡大が将来のインフレ高進を招くとの懸念には否定的な立場を示した。

「FRBは物価安定の責務に対する決意を決して緩めていないと保証する。われわれはインフレのトレンドとインフレ期待を常に注視しており、必要となれば行動をためらわない」とし、向こう数年間の個人消費支出(PCE)価格指数上昇率は平均1.5%程度で推移するとの見通しを示した。

米経済成長率については今年2.75%、来年は3.25%と緩やかに回復すると予想した。ただ、失業率は少なくとも2014年末まで7%を上回る水準に高止まりし、6.5%を下回るのは15年後半以降になる見込みとし、早期には低下しないとの見解を示した。


 


労働市場改善に応じて資産購入縮小可能=セントルイス連銀総裁
2013年 02月 22日 06:55 JST
[ニューヨーク 21日 ロイター] ブラード米セントルイス地区連銀総裁は21日、労働市場の改善の度合いに応じて米連邦準備理事会(FRB)は資産買い入れを縮小させることが可能との認識を示した。ニューヨーク大学での講演で述べた。

総裁は今年の米連邦公開市場委員会(FOMC)で投票権を持っている。

足元のインフレ指標が低いことを踏まえると、現行の量的緩和策を比較的長期間継続する余地も若干あり得るとしながら、労働市場の著しい改善は急には訪れないと指摘。「すなわち労働市場が多少改善すれば、資産買い入れのペースも多少緩めることが可能ということであり、全面的にやめてしまうということではない」と述べた。

3兆ドル超に膨らんでいるFRBのバランスシートの規模については、極めて緩和的な政策からの「円滑な」出口を複雑にする可能性があるとした。

また、資産買い入れプログラムに伴う不透明感を踏まえれば、必要以上の買い入れは行うべきでないとの立場を示した。

総裁はさらに、記者団に対し、FRBは資産買い入れを国内経済動向に関連付ける政策を堅持すべきと語り、買い入れ規模には調整の余地があると指摘。

「FRBは(資産買い入れについて)米経済の動向に左右される政策だと述べてきた。この立場を堅持し、マクロ経済動向に応じてプログラムを調整すべきだ」とし、FOMCは入手データを踏まえてプログラムを調整する必要があると主張した。

ブラード総裁はFRBが将来の金融引き締め措置として超過準備金利を引き上げることに不満があれば、国民はそうした意見をFRBに伝えるべきとも述べた。

FRBの出口戦略は超過準備金利の引き上げと「密接に結びついている」と指摘した。

 

 

1月米消費者物価総合指数は変わらず、ガソリン価格の下落重し
2013年 02月 22日 01:18 JST
[ワシントン 21日 ロイター] 米労働省が21日発表した1月の消費者物価指数(CPI)統計は、総合指数が2カ月連続で前月比変わらずとなり、連邦準備理事会(FRB)に超緩和的な金融政策を維持する余地があることを示した。

ガソリン価格が前月に続き下落したほか、過去数カ月上昇していた食品価格が前月比変わらずとなり、総合指数を押し下げた。

ロイターのエコノミスト予想では0.1%上昇だった。

前年比では1.6%上昇した。

食品・エネルギーを除くコア指数は前月比0.3%上昇し2011年5月以来の水準となった。エコノミスト予想は0.2%上昇。

前年比では1.9%上昇しFRBのインフレ目標である2%を若干下回った。

内訳ではガソリンが3.0%下落し、前月の1.9%から下落が加速した。

被服は0.8%上昇。前月の0.1%上昇から加速した。

新車は0.1%上昇と、前月の0.2%上昇から若干鈍化した。

中古車は0.2%上昇。7カ月ぶりに上昇した。

航空運賃も5カ月連続で上昇した。

住宅関連コストは小幅上昇した。帰属家賃は0.2%上昇。


 


求む! 金融政策の力を信じる日銀総裁

2013年02月22日(Fri) Financial Times
(2013年2月21日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)


国内外から注目されている日銀〔AFPBB News〕

 経済学の知識がベン・バーナンキ氏の生け花の知識と変わらない程度の安倍晋三氏にとって、自らにちなんで名付けられた経済学の新学派を持つことは気分がいいに違いない。

 「アベノミクス」には非常に大きな影響力があることから、単にその名前を出すだけで――語るべき行動が取られる前から――、昨年10月以降、円相場を2割押し下げ、日本株の価値を3割ほど押し上げる要因になってきた。

 それでもアベノミクスの心臓部には、単純で完全に正統な命題がある。つまり、デフレは貨幣的現象であるということだ。

デフレは貨幣的現象か実体経済の現象か

 GDP(国内総生産)デフレーターで測られる物価が1994年以降18%下落している日本では、これは革命的な概念に当たる。10年以上にわたって、日本の正説――少なくとも中央銀行における正説――はその反対だった。つまり、デフレは「実体経済」の現象であり、正そうとしても基本的に金融政策の力が及ばない現象だ、ということだ。

 極端に単純化すれば、日銀の見解は、人口動態や中国のような国から入ってくる安い輸入品が日本のトレンド成長率を低下させ、供給が恒久的に需要を上回るマイナスの需給ギャップを作り出してきたというものだ。

 この見解に従えば、財政再建、労働参加率の上昇、生産性の拡大を通じた実体経済の調整がなければ、デフレを克服することはできない。こうした実体経済の力に対抗するうえでは、金融政策は単なる一時しのぎの対策で、良くてもシステミックな金融リスクを防ぐ道具にすぎない、というのが日銀の見解だ。

 来週指名される予定の次期日銀総裁に求められる最も重要な特質は、このような解釈を否定する人物であることだ。

 次期総裁は、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)のチーフグローバルエコノミスト、ポール・シェアード氏が「現代の金融政策論の礎」と呼ぶもの、すなわち中央銀行は中期的に物価に影響を及ぼせるという考え方を受け入れる人でなければならない。

 日銀はこの15年間、手をこまぬいてきたと言うのは、公正を欠くだろう。

 金利は1990年代後半から実質的にゼロに抑えられてきた。当時の総裁、福井俊彦氏の下で、日銀は量的緩和の先駆者となり、バランスシートを急激に拡大させてコマーシャルペパー(CP)を含む様々な資産を買い入れた。

大胆な金融政策を信じなかった日銀

 だが、日銀は大半の期間を通じて、量的緩和はそれほど有効に機能しないという見方をほとんど隠しもしなかった。日銀は嫌がりながら革新的な政策を発表し、必要以上に性急にそうした政策を打ち切った。2001年と2006年には、デフレが完全に死んで無事に棺に入れられる前に金利を引き上げ始めた。

 現総裁の白川方明氏の下ではもっと憶病になり、資産の買い入れを短期国債に集中させた。これはまさに最も小さな効果しか見込めないやり方だ(不動産投資信託=REIT=のようなもっと変わった資産の買い入れは名ばかりだった)。

 さらに日銀はことあるごとに、現在のデフレ均衡に不満を抱いていないという印象を与えてきた。変な話だが、日本がデフレとともに生きることを学んだというのは事実だ。物価の下落は、多くの日本人が生活水準を維持できてきたことを意味している。住宅からトンカツに至るまで、あらゆるものの値段が1981年の水準に戻っている。

 デフレはまた、政府が身動きの取れない膨大な家計貯蓄から馬鹿げたほど低い金利――10年物国債で1%を大きく下回る水準――で借り入れできることも意味している。

 だが長期的には、デフレには腐食性がある。デフレは名目成長率を押し下げ、対GDP債務比率を上昇させ、経済からアニマルスピリッツを奪う。またデフレは、若者が事業を始めたり家を購入したりするために資金を借りることを魅力のないものにする反面、高齢者の貯蓄を守ることで、若者を犠牲にして年配を助ける傾向がある。

新たな均衡に移行する危険な道のり

 日本の課題は、デフレ均衡という心地の良い――しかし最終的に破滅を招く――状態から、緩やかなインフレに基づく新たな均衡に移行することだ。ここからそこに行くことは、危険な道を歩むことを意味する。

 金利が今ほど低くても、債務の元利払いは税収のほぼ半分を食い潰している。仮に10年物国債の利回りが今の4倍の3%に上昇すれば、事実上、予算全体が債務返済で使い果たされることになりかねない。

 預金者のカネの使い道がほかにほとんど見当たらないため、銀行のバランスシートは国債でいっぱいになっている。国債価格が急落すれば、銀行の自己資本を台無しにしかねない。また、インフレは、賃金も一緒に上昇しない限り、日本人により貧しさを感じさせる。

 これらは確かにリスクだ。だが、リスクは時に誇張されていることがある。

永遠のデフレと未知なるインフレ

 インフレ期待が定着する前に、名目成長率が上昇し、長年低迷してきた税収が増えるはずだ。金利が上昇するにつれ、銀行は利益を増やし、国債価格の下落によるキャピタルロスを相殺できるはずだ。また、政府の借り入れコストはやがて上昇するが、現在の安い債務をすべて借り換えなければならくなるのは数年先のことだ。

 日本はその間を利用して、段階的に増税を行ったり歳出を削減したりすることで財政赤字を縮小できる。また、需要を増やし、供給の効率を高めるために、長く遅れていた構造改革――手始めに医療、農業、エネルギー部門の規制緩和――を実行することもできるだろう。

 これらの施策はどれも簡単ではない。デフレの罠から抜け出すためには、日銀は何年も間違った思い込みをしてきたと言うことを厭わない総裁を任命する必要がある。そして日銀は、正確な道筋を知りようがないインフレへの道のりを歩み始めなければならない。

 人によっては、それは無謀だという印象を持つだろう。だが、それに代わる道は、デフレを受け入れることだ――永遠に。それはもっと無謀だ。

By David Pilling


10. 2013年2月22日 23:57:59 : xEBOc6ttRg
コラム:米国投資家が円安・日本株高に寄せる期待と不安=佐々木融氏
2013年 02月 22日 20:54 JST
佐々木融 JPモルガン・チェース銀行 債券為替調査部長(2013年2月22日)

ユーロ圏のプラス成長は14年に後ずれへ、雇用状況を懸念=欧州委
シャープ、中期計画は鴻海からの資本増強を盛り込まない方向で調整
アングル:円安が鉄鋼大手の収益押し上げへ、トヨタ単体黒字化も追い風
来週の外為は日銀人事が焦点に、中長期的な円安予想は変わらず

つい先日、米東海岸に出張し、年金基金やミューチュアルファンドなどの資金を運用するリアルマネー投資家や、ヘッジファンドとの会合を行ったが、日本や円相場に対する関心は非常に高く、予定はびっしりと埋まった。

全体を通じてもっとも強く感じたのは、新しい日銀総裁の下で4月3―4日に予定されている最初の金融政策決定会合に対する期待である。そこで、かなりドラスティックな緩和策が発表されるのではないかと期待している向きが多かった。

筆者からは、4月4日の次の会合日である4月26日になるかもしれないと断ったうえで、次のような追加策が考えられると説明した。まず、2014年初めから予定されている期限を定めない資産買い入れの開始時期を13年5月からに前倒しすること。そして、買い入れる国債の年限を現状の3年から5年に延長することなどだ。

これに対して、米国の投資家からは「それでは不十分だろう」との声が多かった。中には、「そんな政策だけで済むはずがない。それだけだったらドル円も日経平均株価も暴落するだろう」と興奮気味に反応するヘッジファンドもあった。「なぜ日銀は残存20―30年の国債を買わないのか」と迫られる場面もあった。

米国の投資家からの質問は、大きく3つに集約できる。多い順にお伝えすると、第一は「インフレ率を2%に押し上げるために日銀は何をするのか」という質問だった。

彼らの口ぶりから筆者が受けた印象としては、日銀の金融政策だけで、すぐにでもインフレ率が2%になるような、かなり大胆な政策が新総裁の下で発表されるとの期待が多かったように思う。前述の政策は、すでに市場ではある程度織り込み済みだろう。つまり、何かしら市場が「予想外」と感じるような目新しい政策を打ち出さないと、4月は高まり過ぎた期待が剥落する中で、一定程度の円買い戻しが入る可能性は高いのではと改めて感じた。

実際、ドル円のロングポジションをすでに利食った、あるいは徐々に利食っている最中と話すリアルマネー投資家は多かった。彼らも、長期的には円安がもっと進むと見ているようだったが、過去数ヶ月間のドル円の上昇があまりに急激だったので、警戒し始めている様子だった。中には、「遅過ぎるよりは早過ぎる方がいい」として、円ショートを全て利食ったとする投資家もいた。

<ヘッジファンドの思惑>

次にリアルマネー投資家を中心によく聞かれた質問は、「どの程度まで円安が進むと日本経済に悪影響が及ぶか」というものだった。ドル円は上昇しても、日経平均株価が下落を始める日が来るのではないかとの警戒感の裏返しだろう。

他方、ヘッジファンドの多くは、短期的に円の下落余地はまだあるが、ドル円よりも日経平均株価の上昇余地が大きいと予想していた。ある大手マクロヘッジファンドは、ドル円がここからそれほど大きく上昇しなかったとしても、すでにかなり大幅に上昇しているので、今後これが徐々に企業業績の回復につながり、株価を押し上げるのではないかとの期待を示していた。日本の株価に強気な投資家は、日経平均株価と円相場のセンシティビティ(感度)の違いを利用した戦略に興味を持っているように見受けられた。

こうした中で、筆者は次のような見方を披露した。まずアベノミクスや日本の貿易収支の赤字化は円安に大きく影響しているが、最も重要なのは世界の金融資本市場がリスクオンになっていること。そして、年後半に向けてもこの状態が続くならば、日銀や政府から出てくる政策がある程度の失望を招いたとしても、円安基調は当面変わらないかもしれないということだ。

これに対して大方は同意し、一部からは年後半に米国長期金利が上昇し始めることにより、「ドル高」でドル円が上昇するとの予測も聞かれた。しかし、ある大手マクロファンドは帰り際に「ここからさらに円安の動きを追っていくことについては少し慎重だ」と言い残していった。リアルマネー投資家だけでなく、ヘッジファンドも、円相場の見通しに比べると実際のポジションはさほど円売り方向に大きく傾いていないのかもしれない。

ちなみに、3番目に多かった質問は「どのような状況になったら個人を含む日本の投資家はもっと対外証券投資を増加させるようになるか」というものだった。円安への動きを見据えながらも、ヘッジファンドがそれほどポジションを傾けていないとすれば、円安がこの先さらに一段と進むには、これまでのような海外勢主導ではなく、国内勢の参加も必要と考えているからなのかもしれない。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に、「弱い日本の強い円」など。
 

 


 

第2弾LTROの初回前倒し返済、予想大きく下回る
2013年 02月 22日 23:33 JST


[フランクフルト 22日 ロイター] 欧州中央銀行(ECB)は22日、2月27日に予定されている第2弾の期間3年流動性供給オペ(LTRO)資金の初回早期返済について、356金融機関、総額611億ユーロ(808億ドル)と発表した。

市場予想の1300億ユーロを大きく下回り、多くのユーロ圏の銀行が依然としてECB資金に依存している構図があらためて浮き彫りとなった。

昨年2月に実施された第2弾のLTROでは、800の金融機関が資金を調達していた。

第1弾のLTROは、17億4400万ユーロが27日に早期返済される。

発表を受け、ユーロ圏無担保翌日物平均金利(EONIA)2年物は低下する一方、欧州銀行間取引金利(EURIBOR)先物は上昇し、市場の金利見通しが低下していることを示した。独連邦債利回りは全般的に低下した。

ユーロは発表前の約1.3210ドルから1.3157ドルに下落し、6週間ぶり安値をつけた。

大和証券のエコノミスト、トビアス・ブラットナー氏は、返済予定額が市場予想を下回ったことは「市場の資金調達環境が依然厳しく、また再び市場が混乱するとの懸念が根強いため、周辺国に加えおそらく中核国の銀行もECB資金を手元に確保しておきたいと考えていることを示している」と分析した。

一方で「短期金利の上昇圧力を軽減できるほか、為替レートを通じてインフレの下方圧力が低下する公算が大きいため、ECBにとっては好材料」との見方を示した。

ECBは2度のLTROで計1兆ユーロ以上を金融機関に貸し出した。ドラギ総裁はこれまで、LTROにより「大規模な信用収縮を回避」したと述べている。

1月30日に実施された第1弾LTROの初回返済額は1372億ユーロで事前予想を上回っていた。

ロイターの試算によると、ユーロ圏の過剰流動性は初回返済前の6000億ユーロ程度から5000億ユーロを割り込む水準まで低下している。

ノルディアのアナリスト、ジャン・ボン・ゲリッチ氏は「過剰流動性がすぐに吸収されることはない。状況が抜本的に変化しない限り、市場金利は長期間現在の水準にとどまるだろう」と指摘した。

ドラギ総裁は、LTRO返済後も過剰流動性は2000億ユーロを大きく上回る水準にとどまる見通しで、「金融政策スタンスは緩和的」と述べている。
 
関連ニュース

3年物LTRO資金、13日の返済は49.93億ユーロ=ECB 2013年2月8日
伊モンテ・パスキの監督、不備はなかった=ECB総裁 2013年2月8日
3年物LTRO、6日の返済は27行・34.84億ユーロ=ECB 2013年2月1日
独連邦債先物が上昇してユーロ下落、LTROの返済予定額発表で 2013年2月1日

 


ユーロ圏のプラス成長は14年に後ずれへ、雇用状況を懸念=欧州委
2013年 02月 22日 20:06 JST
[ブリュッセル 22日 ロイター] 欧州委員会は22日、欧州連合(EU)各国の経済見通しを公表した。多くのユーロ圏諸国で財政状況は改善するが、ユーロ圏経済がプラス成長に戻るのは2014年とし、これまでの見通しから後ずれしている。

財政赤字についてはスペインが大幅に削減目標を超過するほか、フランスやポルトガルも目標を達成できない見込み。

<ユーロ圏成長率>

2013年のユーロ圏成長率見通しはマイナス0.3%とした。前年公表した見通しはプラス0.1%だった。企業や家計へのタイトな信用供与、雇用削減、投資凍結で景気回復が後れるとの見通しを示した。

2012年の成長率はマイナス0.6%、2014年は1.4%成長とした。委員会のマルコ・ブティ経済金融担当局長は、「金融市場の状況は改善しているが、信用の伸びはなく、経済活動の当面の見通しは弱い」と指摘。「労働市場の状況を非常に懸念している」と述べた。ユーロ圏の失業率は2013年に12.2%でピークとなるとの見通しを示した。

民間・公共消費とも成長にマイナスに寄与するとしている。

2013年のユーロ圏消費者物価指数(CPI)見通しは1.8%の伸びにとどまると見通している。

<財政赤字削減>

財政赤字削減ではスペインが最も出遅れており、2012年は目標の国内総生産(GDP)比6.3%に対し10.2%となった。銀行の資本増強関連コストを除いても7.0%となった。

2013年はGDP比で6.7%となり、目標の4.5%を上回る見通し。政策変更がなければ14年には7.2%となり、目標の2.8%を大幅に超過するとみている。

スペインは昨年7月、構造的財政赤字を12年に2.7%ポイント削減しGDP比で4.3%に、13年にさらに2.5%ポイント削減するよう求められた。しかし欧州委見通しによると、12年の削減幅は1.4%ポイントにとどまっており、GDP比5.9%となった。13年も削減幅は1.2%ポイント程度にとどまる見通し。

フランスは今年はGDP比3.7%で、目標の3.0%を下回る見込み。2012年は4.6%で、目標は4.5%だった。構造的財政赤字は12年に1.2%ポイント削減し3.3%に、今年は2.0%に削減する見通し。

ポルトガルの財政赤字は2012年はGDP比5.0%となり、前年の4.4%から上昇した。今年は政策変更がなければ4.9%と小幅低下にとどまる見通し。

欧州委は、各国政府に調整に向けた一段の猶予を与えるか、あるいは制裁措置を発動するか、より詳細な数字が明らかになる5月に決定する見通し。

欧州委員会が経済予測公表へ、財政赤字の目標延期容認か 2013年2月22日
欧州委、スペイン財政赤字が目標上回るとの見通し22日示す=報道 2013年2月22日
EU首脳が米国とのFTA推進で合意、米大統領は12日に支持表明も 2013年2月9日
13年度の実質成長率は+2.5%、経済対策が押し上げ=政府見通し 2013年1月28日


 

 


11. 2013年2月23日 01:13:22 : xEBOc6ttRg
2013年02月22日 12:12 経済
量的緩和という時限爆弾
1月のFOMCで「出口戦略」が検討され始めたことがマーケットで話題になっている。ダラス連銀のフィッシャー総裁は「量的緩和の効果を疑問視するのはもはや私だけではない。自分よりもずっと優秀な人たちからも疑問の声が上がっているのは非常に喜ばしい」とコメントした。

アベノミクスをはやす人々はデータも見てないようだが、Woodfordがこの4年のQEの経験をまとめていうように、狭義の量的緩和もリスク資産の購入も効果がなかった。これは日銀の量的緩和でも証明された歴史的事実であり、今ごろ周回遅れで「大胆な金融緩和」をしても、プラスの効果は何もない。

しかしマイナスの効果は大きい。野口悠紀雄氏もいうように、QEで過剰供給されたドル資金が南欧諸国の国債に向かってユーロ崩壊をまねいた疑いが強い。かつて日本の量的緩和がアメリカの住宅バブルを促進したのと同じだ。さらに深刻なリスクは、日銀の資産の劣化である。日銀の保有する国債は、昨年9月末で105兆円。日銀の自己資本は約5兆円だから、国債価格が5%下がっただけで債務超過になってしまう。

ただ日銀は普通の銀行とは違うので、債務超過になったら政府が資本注入できる。日銀の保有する国債を変動利付債に転換するなどの解決策もあるが、これは実質的な財政支援である。植田和男氏は、このような日銀の金利リスクを検討した結果、日銀の破綻を回避することは可能だが、それは最終的には納税者の負担になるとしている。

これはゆるやかに金利上昇が起こった場合だが、日銀の金融システムレポートによれば、多くの市場参加者が「海外要因による急速な金利上昇」を心配している。FRBのQE終了はその引き金になる可能性もある。長期金利が1%ポイント上昇すると日本の銀行・信用金庫は8.3兆円の評価損をこうむり、自己資本が大きく浸食される。

日銀が無限に国債を買い続ければ、ある程度までは金利を抑制できるが、それがマネタイゼーションだとみなされると銀行の売り逃げを誘い、売りが売りを呼ぶ。銀行が大きな金利リスクを取っているのは金融村の「空気」で支えられているからだが、山本七平もいうように、空気が変わるときは一挙に変わる。銀行は慈善事業ではないのだから、金利が上がったらメガバンクは優良な融資先に資金を移して逃げるだろう。

しかし日銀は逃げられない。2%のインフレ目標があるため、国債の保有残高を減らせないからだ。むしろ政治家は「追加緩和で金利を抑制しろ」と要求するだろう。出口戦略なき日銀は、巨大な金利リスクを一方的に蓄積する「時限爆弾」なのだ。


肥田美佐子のNYリポート2013年 2月 21日 16:03 JST
最低賃金が先進国最下位の米国で賃上げ論争―時給9ドル構想で

By 肥田美佐子


Reuters
ファストフードチェーン店の低賃金労働に対して行われたデモ(12年11月、NYタイムズスクエアのマクドナルド前で)

 最低賃金の上昇は、雇用創出の足かせになるのか。それとも、個人消費を押し上げ、景気浮揚の追い風となるのか――。

 日本では、安倍首相が財界に賃上げを要請したのを受け、賃金アップと景気の浮揚は両立可能なのかといった報道も目にするが、米国でも同様の議論が展開されている。

 米東部時間2月12日夜、オバマ大統領が、一般教書演説で、貧困解消のために連邦法定最低賃金(最賃)の引き上げを提案して以来、「最賃アップ」が企業の採用減を招くのか、経済を押し上げるのかをめぐり、シンクタンクや経済学者が熱い論戦を繰り広げているのだ 。

 現行の米連邦法定最低賃金は7.25ドル(約680円)だが、それを一気に9ドル(約844円)にすべきだというのが、大統領の主張である。年初から、アリゾナやコロラドなど10州で10〜35%ほど最低賃金が上がったものの、連邦レベルでは、2009年を最後にアップしていない。

 もちろん、財界や共和党が、オバマ大統領の提案をすんなり受け入れるはずはない。ベイナー下院議長は、早速、記者会見で反意を表明している。一般教書演説でオバマ大統領が最低賃金の問題に言及したとき、大統領の後ろに控えるバイデン副大統領のこぼれんばかりの笑顔とは対照的にベイナー下院議長がぶ然としていたことからも、共和党の反発が垣間見える。法案化されても、共和党が多数派を占める下院で阻止されるだろう。

 米メディアによれば、一般教書演説の翌日には、マクドナルドや米外食産業大手のブリンカー・インターナショナル、ドミノ・ピザなど、複数のファストフード企業の株価が下がっている。いずれも低賃金労働で知られる大企業だ。

 低所得労働者の権利擁護団体「全米雇用法プロジェクト(NELP)」が昨年7月に発表した報告書によると、外食産業には時給10ドル未満の低賃金労働者が最も多く、全従業員の57.4%を占める(09〜11年)。一方、米景気が弱々しい回復を続けていた10〜12年にかけて雇用の伸びが最多だったのも、外食産業だ(5.1%)。低所得の仕事は零細企業に多いと思われがちだが、実際のところ、低賃金労働で知られる企業の66%が、従業員100人以上の会社だという。

 こうした、低賃金労働者を戦力にしている企業の最大手50社には、世界最大の小売業ウォルマート・ストアーズやマクドナルド、小売り大手ターゲット、バーガーキング、スターバックス、中流層向け百貨店メーシーズ、ドミノ・ピザ、ブリンカー・インターナショナル、若者向けカジュアル衣料大手アバクロンビー&フィッチ、ギャップなど、小売りや外食産業の有名どころが並ぶ。その大半は、不況時でも好業績を上げている。

 最低賃金が上がれば、企業はコスト上昇を恐れて採用を手控え、雇用が悪化し、経済回復が遅れる――。これが財界や保守派の主張だが、そもそも米国の最低賃金は、そんなに高いのか。答えはノーだ。

 経済協力開発機構(OECD)の統計を見ると、先進国のなかで群を抜いて低い。2番目に安い日本(11年、9.16ドル)を大きく下回っている。トップのオーストラリアは、米ドル換算で15.75ドルという羽振りの良さだ。欧州勢も、ルクセンブルクが14.21ドル、フランス12.55ドル、アイルランド12.03ドル、オランダ11.38ドルという高さである。

 米国では、日本と違い、基本的に交通費が支給されない。また、低賃金労働者のなかには、福利厚生を受けていない人も多い。来年からオバマケア(医療保険制度改革)が完全施行されるが、すでに外食産業や小売り業界には、従業員への医療保険提供義務(週30時間以上の「フルタイム」に適用)を避けるべく、労働時間削減の動きなどが出ていると報じられている。こうした個人の負担を考えると、米国の最低賃金は、かなり低いと言わざるをえない。

 米シンクタンク「経済政策研究センター」(CEPR)によると、購買力平価に基づく米国の最低賃金は、1960年代後半にピークを迎え、12年時点の米ドル換算で9.22ドルだった。約半世紀前の最低賃金のほうが、はるかに高かったことになる。

 というのも、1947〜69年には、最低賃金も、生産性の上昇に比例して上がり続けたが、70年代を境に、その相関関係が崩れたからだ。平均的な米国人の暮らし向きが40年前より悪くなっているのも当然である。CEPRの試算では、生産性の上昇率からいえば、12年時点での米最低賃金は16.54ドルになっているはずだという。

 翻って最高経営責任者(CEO)の報酬は、依然として天文学的数字だ。たとえば、11年に最高益を上げたスターバックスのハワード・シュルツCEOは、2011会計年度 に、基本給として年俸140万ドル、ボーナス290万ドル、特別手当1200万ドル、3680万ドル相当のストックオプションなど、計6520万ドル(約62億円)を受け取っている(CNNマネー、12年1月27日付)。

 マクドナルドは、景気後退期にも、とりわけ目覚ましい収益増を記録したが、匿名従業員の内部情報に基づく米キャリア情報サイト「グラスドア(ガラスドア)」によると、レジ係174人の平均時給は7.65ドル。最低賃金をわずかに上回る程度だ。同社の従業員教育に携わったことがある米国人キャリアコンサルタントの話では、昨今は、1台のレジスターで複数のコンピューター画面を扱わねばならず、時間の制約を考えると、そう簡単な仕事ではないにもかかわらず、だ。

 景気回復で生まれた雇用の大半は、ファストフードの食品加工やレジ係、小売店の販売員など、時給が約13.5ドル以下の低賃金労働だが、米雇用統計の試算では、2010〜20年の10年間で最も成長が見込まれる職業30種の大半が、こうした仕事である。年収にすると、ファストフードの接客や食品加工などの外食産業(10年時点での中央値が1万7950ドル)、レジ係(同1万8500ドル)、清掃作業員(同2万2210ドル)、ウエートレス・ウエーター(同1万8330ドル)など、3万ドルに満たないものが多い。

 CEPRは、最低賃金を上げれば、こうした職種の離職率が下がり、組織の効率性が上がるなど、重要な「調整」が生じることで、雇用にはほとんど影響を及ぼさないと結論づける。最もお金を必要としている低所得層の可処分所得が増えることで、個人消費が伸び、景気刺激策の役割を果たすという声もある。

 不況下の人減らしや業務合理化による高収益で、かつてないほどの内部留保金を抱えているコーポレートアメリカ(米産業界)。日本の企業も余剰資金を積み上げているといわれるが、2月20日付のロイター通信によると、アベノミクスにもかかわらず、同社企業調査で、人件費や賃上げに前向きに転じた日本企業は1割にすぎないことが分かったという。

 世界第1位と第3位の経済大国として君臨する米国と日本――。だが、働く人たちを二の次にして勝ち取った国内総生産(GDP)にどれだけの価値があろうか。


  拍手はせず、拍手一覧を見る

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
  削除対象コメントを見つけたら「管理人に報告する?」をクリックお願いします。24時間程度で確認し違反が確認できたものは全て削除します。 最新投稿・コメント全文リスト
フォローアップ:

 

 次へ  前へ

▲このページのTOPへ      ★阿修羅♪ > 経世済民79掲示板

★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/ since 1995
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。

アマゾンカンパ 楽天カンパ      ▲このページのTOPへ      ★阿修羅♪ > 経世済民79掲示板

 
▲上へ       
★阿修羅♪  
この板投稿一覧