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2013年2月18日 植草一秀の『知られざる真実』
トヨタの豊田章男社長が最近の為替レートについて、
「「超円高」が是正されたもの」
と発言していた。円安進行は適正であるとの判断を示したものと受け止められる。
本当にそうなのか。
一般に為替レートの論議をする場合、人々は見かけ上の為替レートに左右されやすい。10年前に1ドル=135円だったのが、いま1ドル=95円だとしよう。
普通の人はこれを見て円高が進行したと捉えるだろう。
見かけ上は円高が進行したように見える。
しかし、本当は違う場合がある。
国ごとにインフレ率が異なる。
このインフレ率の差を考慮すると為替レートの見方が大きく変わるのだ。
為替レートを考察する際によく利用されるのがマクドナルドのビッグマック。
例えば10年前にビッグマック1個が、米国では2ドル、日本では380円だったとしよう。このとき、日米両国でビッグマック1個を同じお金で買えるようにするための為替レートは
1ドル=190円になる。
この為替レートだと、380円の資金で、日本でも米国でもビッグマック1個を買うことができる。
このように、異なる二つの国で、同じお金で同じモノが買える為替レートを「購買力平価」と呼ぶ。
ビッグマックを基準に計算すると、10年前の時点では、1ドル=190円が購買力平価=一種の均衡値ということになる。
このとき、現実の為替レートが1ドル=135円だったとすると、この為替レートは購買力平価よりも大幅に円高に振れていることになる。
「大幅な円高状態」だったということになる。
10年の時間が経過して、ビッグマックの値段が大きく変わる国がある。
10年経過したいま、ビッグマックの値段が米国では4ドルに値上がりし、日本では逆に320円に値下がりしたとしよう。
こうなると、日米両国でビッグマック1個を同じお金で買えるようにするための為替レートは
1ドル=80円になる。
この為替レートだと、320円の資金で、日本でも米国でもビッグマック1個を買うことができる。
したがって均衡のとれた、購買力平価は1ドル=80円ということになる。
このとき、現実の為替レートが1ドル=95円だとすると、この為替レートは「円高」に振れた為替レートとは言えない。
なぜなら、基準となる均衡のとれた為替レートは1ドル=80円であって、この水準を基準とすると、1ドル=95円は「円高」ではなく「円安」に振れた為替レートということになる。
現実のビッグマック価格を見ると
1991年には、
米国 : 2.25ドル
日本 : 380円
だったが、2013年には、
米国 : 4.37ドル
日本 : 320円
となっている。
このデータから計算される均衡レート=購買力平価は、
1991年が 1ドル=169円
2013年が 1ドル= 73円
になる。
他方、現実の為替レートは、
1991年 1ドル=135円
2013年 1ドル= 93円
である。見かけ上は円高が進行しているように見えるが、現実の為替レートを均衡為替レート=購買力平価と比較すると、
1991年は円高に振れている。
2013年は円安に振れている。
との結論に至る。
つまり、現在の為替レートは「円高」ではなく、すでに「円安」のゾーンに入っているということになる。
為替レートの水準を評価する際には、それぞれの国の物価変動を考慮する必要があるのだ。
ビッグマックの価格を見ても、過去10年余りの時間のなかで、米国では2倍近くに値上がりしたが、日本では逆に下落した。
これはビッグマックだけの現象ではなく、他の財・サービスの価格が同じように推移した。
こうした物価上昇率の格差を踏まえた為替レートを実質為替レートと呼ぶ。
1ドル=93円は見かけ上、「円高」に見えやすいが、インフレ率格差を踏まえれば、「円安」なのだ。
このビッグマック指数は本年1月に英国経済専門誌である「エコノミスト」に掲載された。
G20で通貨下落競争を阻止する合意文書が取りまとめられたが、とりわけ欧州では、日本が円安誘導姿勢を示すことに対する反発が強まっている。
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