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http://blog.livedoor.jp/clj2010/archives/65763392.html
・經濟評論家の三橋貴明は、最新刊『経済の自虐主義を排す――日本の成長を妨げたい人たち』(小学館101新書)で、日本政府の負債(借金)はすべて日本圓建てだから、圓をいくらでも發行できる日本政府が財政破綻することはありえない、といふ持論を繰り返す。だがかりにそれが正しいとして、政府が破綻しないことは、國民にとつて良いことだらうか。
・経済の自虐主義を排す: 日本の成長を妨げたい人たち (小学館101新書)
三橋の持論はかうだ。政府が財政破綻におちいるのは、負債が外國通貨建てか、ユーロのやうな共通通貨建ての場合だけである。なぜなら政府は外國通貨や共通通貨を自由に發行できないからだ。一方、日本の場合、政府の負債がどれだけ多くても、すべて自國通貨の圓建てだから、税收不足で政府の手元に現金がなくても、中央銀行(日銀)を通じていくらでも圓を發行し、借金返濟に充てることができる。だから日本政府が債務不履行(デフォルト。元利拂ひが滯ること)に追ひ込まれる、つまり破綻することはありえない。
これには次のやうな反論がある。日本政府が圓を大量に發行しつづければ、インフレ(物價上昇)をまねき、圓の價値が目減りする。これは實質的なデフォルトだ。なぜなら日本の國債を一萬圓分保有してゐる人が、滿期を迎へて政府から元本一萬圓を返してもらつても、そのときの一萬圓の値打ちは贖入時に比べ下がつてしまつてゐるからである。だが三橋はかう逆襲する。物價は日本などを除く世界中ほとんどの國で上昇してゐるのだから、「インフレによる国債の実質的価値削減が『実質的デフォルト』ということは、世界中のほとんどの国が『実質的デフォルト』に陥っているということじゃないか。大丈夫か……?」(208頁)
三橋のこの逆襲には一理ある。物價上昇で通貨の價値が目減りすることは、物價上昇率が毎月五十パーセントを超えるハイパーインフレだらうと、年率數パーセントの「マイルドインフレ」だらうと、變はりはないからだ。
・リフレ派の論客である高橋洋一は、同じ小学館101新書から出てゐる『「借金1000兆円」に騙されるな!』で、ハーバード大教授のケネス・ロゴフらの研究にもとづき、年二十パーセント以上のインフレを事實上の財政破綻とみなしてゐるが、二十パーセントとは過去にインフレが經濟危機をまねいた場合のだいたいの平均値にすぎず、これ以下の物價上昇であれば實質破綻でないとする論理的な理由はない。
だから正しくは、政府が通貨を發行した結果、物價がわづかでも上昇し、國債の價値が減つたなら、すべて實質デフォルト、つまり借金の踏み倒しとみなさなければならない。學校ではけつして教へないこの正論を人々が理解してゐれば、いまごろ世界中の政府首腦と財務高級官僚、中央銀行總裁はほとんど首が飛び、法廷で責任を追及されてゐることだらう。
しかしここではひとまず、三橋の主張を受け入れ、政府が起こしたインフレで國債の價値が實質減つても、デフォルトではないとしてみよう。それは國債を保有する日本人にとつて、喜ばしいことだらうか。もちろん違ふ。デフォルトと呼ばうと呼ぶまいと、損をさせられたことに變はりはないからだ。
おそらく三橋はかう言ふだらう。日本の最大の課題はデフレ(物價下落)から脱し、經濟を成長させることなのだから、インフレになることはむしろ望ましい。その結果、國債の價値が多少目減りしてもやむを得ないし、どの國もやつてゐる、と。しかし以前から述べてゐるとほり、
★デフレが經濟成長を妨げるといふのは、世界に蔓延する根據のない神話である。
・デフレの神話――リバタリアンの書評集 2010-12〈経済編〉 (自由叢書)
★歴史を振り返ると、長期の成長はむしろデフレ下で實現してゐるし、デフレと不況が同時に起こるのは、經濟學者ミーゼスやハイエクが指摘したやうに、通貨量の増大がもたらした人爲的な好景氣が續かなくなり、經濟が正常に戻る過程である。
政府が通貨の量を増やせば、景氣を一時浮揚することはできるかもしれないが、結局調整を長引かせるだけである。長い目で良いことはない。
また三橋は、日本の長期金利がギリシャの十五パーセントなどと對照的に、一パーセント未滿の低水準にとどまつてゐる(國債が高く買はれてゐる)事實を指し、日本國債の不履行リスクは小さいと投資家が判斷してゐる證據だと書く(213頁)。これそのものは正しい。しかもこの長期金利の低さは、日本政府がインフレににあまり頼らず、借金返濟ができると投資家が踏んでゐることを意味する。だがこれも、ふつうの日本人にとつて喜ばしいことではない。なぜなら、インフレに頼らないといふことは、その分、増税によつて借金返濟の元手を確保するといふことだからだ。
まとめると、日本政府が破綻しないことは、破綻の責任を問はれる政府關係者や、政府の財政に依存した一部企業人などを除くふつうの日本人にとつて、全然良いことでない。三橋の本を讀み、「日本は破綻しない。大丈夫だ」と喜んでゐる人は、まるで農家の主人から「うちは饑饉になつても大丈夫」と聞かされ、安心してゐる肉牛のやうなものである
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