07. 2013年2月07日 00:34:00
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技術革新で変わる先進国の雇用2013年2月7日(木) マイケル・スペンス 技術革新は、仕事に必要なスキルのレベルを押し上げ、雇用に格差をもたらす。同時に、世界のサプライチェーン構造も変質させ、各国の雇用に影響を及ぼしている。この新しい時代に適応するには、教育に投資し、労働モデルを調整する必要がある。 様々な新技術の登場とグローバル化の進展が相まって、個人が選べる雇用の種類は大きく変わりつつある。これは先進国であっても、発展途上国であっても変わらないし、教育水準の高い人についても、低い人についても言えることだ。 技術革新は、定型的な仕事を減らしているだけでなく、世界のサプライチェーンとネットワークをも変質させている。そのため多くの国では、コストのより低い他国に移管できるような産業における定型的な業務はもちろん、必要とされるスキルの水準が異なる様々な非定型的な業務についても、どんどん国外に移転しつつある。 雇用は停滞し、格差は拡大 ではこの新しくて、かつ解決が難しい雇用問題、そして、こうした傾向に伴って顕在化しつつある所得と富の分配の問題に、先進国の政策立案者はどう対処すればよいのだろうか。 様々な研究から最近、経済構造の進化が雇用にどう影響するかについて、興味深い事実が数多く判明している。 先進国では海外に移管できるような産業の雇用は過去20年間、ほぼ増えてこなかった。雇用が創出されても、高所得・高学歴に偏っており、所得・学歴が中程度以下の人の雇用は減少してきたからだ。ハイエンドのサービス分野の雇用が拡大する一方で、雇用の多いサプライチェーンの一角を成す製造業の雇用は縮小している。 2008年の金融危機前に、所得が中程度以下で拡大していた雇用と言えば、どれも海外への移転の利かない業種の仕事ばかりだった。先進国では、生産と雇用の約3分の2を海外への移転が利かない業種が占める。 そうした業種では、被雇用者1人当たりの所得と付加価値はほぼ変化しなかった。技術の進歩によって雇用が減ることはあっても、それは国際競争の結果ではなかった。しかも、借金をしてでも消費するという持続不能な傾向によって国内需要が拡大、現在見られるような高失業率という事態は先送りされてきた。 先進国では今、そのツケがきて定型的業務が急減。一方で、機械やネットワーク化されたコンピューターによって、置き換えたり減らしたりできない非定型的な業務が増加している。 こうした動きは、20年以上前から教育と高水準のスキルに対する見返りを劇的に高める傾向や、その結果、国民総所得のうち資本を持つ者やハイエンドの被雇用者が得る所得の比率が高まるという傾向に拍車をかけている。 サプライチェーン細分化の影響 かくして先進国では成長と雇用が乖離しつつある。こうした傾向を生む技術の進歩は、様々な方面に影響を及ぼしている。単純手作業を機械やロボットで代替する流れは強力で、今後も続く。特に製造業と物流の分野で、その傾向は加速するだろう。一方、ホワイトカラーによる情報処理の仕事も、ネットワークコンピューターに取って代わられつつある。 こうした動きの一部はいわゆる自動化だが、もう1つ重要な側面は、金融やオンライン小売り、行政サービスなど様々な分野で「ディスインターミディエーション(仲介者を不要にする)」という傾向が進んでいることだ。 だが、技術の影響はこれだけにとどまらない。作業を自動化し、仲介者を不要にし、遠隔地のコストを引き下げるIT(情報技術)は、地理的に世界各地をつなぐ複雑なサプライチェーンとネットワークの構築を可能にしている。 グローバルなサプライチェーンは、途上国の所得の上昇や、その相対的な競争優位の変化に応じて、人的資源及びほかの資源の競争力が強いところへと場所を常に移していく。 サプライチェーンでは中間製品や組み立てだけでなく、研究開発や設計、保守サポート、顧客サービス、取引処理など、ますます多くのサービスを包含しつつある。取引や共同作業、通信にかかるコストが下がっているからだ。 その結果生じたのがサプライチェーンの「細分化」と呼ばれる現象だ。細かく分割された各部門の効率性は高まり、地理的にもほぼ場所を問わない。輸送など物流コストの面では「近いこと」は今も重要だ。だが、途上国が新たな需要及び新市場の大部分を占める以上、細分化が進むという論理は今後、説得力をさらに増すだろう。 こうした効率性を追求するサプライチェーンやネットワーク、サービスの細分化の動きは、2つの傾向を招いている。第1は、世界経済の中でほかの国へ移転できる業種や仕事の比率が高まっているという傾向だ。各国の間で経済活動や雇用を巡り正面から競合することになり、これは各国内で見ても同じような競争が生じている。 第2に、グローバルなサプライチェーンの中でこれまで競争力がなかった地域は、今後、競争力のある場所に近いというだけではその地位を維持できなくなる。「近い」ということはもはや必要条件ではない。 こうした変化とそれに伴い生じる課題は、先進国だけのものではない。例えば中国は今後10年の間に、労働集約的な組み立て工場の雇用の多くを付加価値の高い製造やサービス分野の雇用に置き換えていくはずだ。この動きは他国に移管が可能な産業分野よりも、海外に移管できない成長の速い産業分野での方が顕著だろう。 自動化や3Dプリンティングの活用範囲が広がり、コストが下がることで、初期段階の途上国も含め、世界中の労働集約的な産業に影響が及ぶだろう。 教育への投資がカギ こうした変化に対応できるかは、いかに投資できるかがカギを握る。先進国の個人や企業、教育機関、政府は、広範囲にわたり教育とスキルの水準を高めるべく効率的な投資を拡大することが極めて重要となる。市場ではどんなスキルに対するニーズがあるのかといった情報提供も投資効率を高めることにつながる。 人的資源のレベルを包括的に高めることは、所得分配を直接的にも、間接的な意味でも改善させるだろう(間接的とは、スキルの低い労働者の供給を需要に対して相対的に減らせるという意味だ)。それは、所得分配の歪みが大きい場合に生じる富の集中をある程度、緩和することにもつながる。 海外に移転できる産業の競争力は、人的資源だけでなく、インフラ、税制、規制の効率性、政策による不確実性、エネルギーやヘルスケアのコストなど、様々な要因により決まってくる。 こうした分野で正しい道を進めば、個人や国が直面する雇用問題の克服に役立つと思われるが、完全な問題の解決を保証するわけではない。 実際、我々が足を踏み入れつつある時代は、社会の一体性を維持し、公平性や世代間階層移動性*1という核心的な価値を守るために、雇用モデルやワークシェアリング、派遣労働の在り方、最低賃金、不可欠な公共サービスの提供方法などを巡って、大きな調整を必要としているのかもしれない。 *1=子が親の社会経済的地位を引き継がないこと 国内独占掲載:Michael Spence © Project Syndicate マイケル・スペンス氏 情報と市場の関係に関する研究でノーベル経済学賞を受賞。米ニューヨーク大学スターン経営大学院教授、米スタンフォード大学フーバー研究所シニアフェローなどを務める。 Project syndicate
世界の新聞に論評を配信しているProject Syndicationの翻訳記事をお送りする。Project Syndicationは、ジョージ・ソロス、バリー・アイケングリーン、ノリエリ・ルービニ、ブラッドフォード・デロング、ロバート・スキデルスキーなど、著名な研究者、コラムニストによる論評を、加盟社に配信している。日経ビジネス編集部が、これらのコラムの中から価値あるものを厳選し、翻訳する。 Project Syndicationは90年代に、中欧・東欧圏のメディアを支援するプロジェクトとして始まった。これらの国々の民主化を支援する最上の方法の1つは、周辺の国々で進歩がどのように進んできたか、に関する情報を提供することだと考えた。そし て、鉄のカーテンの両側の国のメディアが互いに交流することが重要だと結論づけた。 Project Syndicationは最初に配信したコラムで、当時最もホットだった「ロシアと西欧の関係」を取り上げた。そして、ロシアとNATO加盟国が対話の場 を持つことを提案した。 その後、Project Syndicationは西欧、アフリカ、アジアに展開。現在、論評を配信するシンジケートとしては世界最大規模になっている。 先進国の加盟社からの財政援助により、途上国の加盟社には無料もしくは低い料金で論評を配信している。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130205/243298/?ST=print 雇用と所得は「誰が」奪ったのか
『機械との競争』第1章を公開 テクノロジーが雇用と経済に与える影響(上) 2013年2月7日(木) エリック・ブリニョルフソン 、 アンドリュー・マカフィー 「デジタル革命はいまがちょうど半ば。今後は凄まじいスピードで加速する」「人間はコンピュータに仕事を奪われていく」――。 こんな衝撃的な内容の電子書籍が2011年、“Race Against The Machine"というタイトルで米国で公にされた。 著者は、マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン・スクールのデジタル・ビジネスセンターの所属するエリック・ブリニョルフソンとアンドリュー・マカフィー。 この2人がまとめた近未来の技術と人間に関するこの報告書は、リーマン・ショック後の世界不況からようやく立ち直りつつあった米国国内で大きな話題となり、その反響の大きさから、2012年にはペーパーバック版として出版された。 今回公開するのは、この報告書の邦訳版『機械との競争』の第1章である。 景気回復にあらゆる手を尽くしても、機械が人間の領域を侵食していく限り、雇用の回復は見込めないという「予見」に、我々人間はどう対処すればいいのか。 第1章を読むだけでも、この本がビジネスパーソンに与える衝撃の大きさは伝わってくるだろう。 これからますます“機械との競争"にさらされる人間の働き方は、どう変わっていくのか、また、組織はどう変わっていくべきなのか。大きな問いが投げかけられている。 本書は、情報技術が雇用、技能、賃金、経済におよぼす影響を論じる。なぜいまこれが重要なテーマなのか─それは、最近のアメリカの雇用統計を見れば一目瞭然である。 2011年夏、アメリカ経済はよいニュースを渇望していた。そして7月には、11万7000の新規雇用が創出されたと政府が発表する。5月と6月には合計で10万を下回っていたのだから、これはよいニュースと受け止められ、8月6日のニューヨーク・タイムズ紙は「アメリカの雇用は堅調な伸び」と見出しを付けたものである。 だが景気のいい見出しの背後には、悩ましい問題が控えていた。11万7000の新規雇用が創出されても、人口の伸びには追いつかないのである。まして、2007〜9年の大不況(Great Recession)で失業した1200万人の再雇用は言うまでもない。 経済学者のローラ・タイソンの試算によると、雇用創出が現在のおよそ倍の月20万8000件のペースに達しても、大不況が引き起こした需給ギャップが埋まるのは2023年になるという。ちなみに月20万件というのは、2005年のペースに相当する。一方、2011年7月に創出された雇用機会が労働人口に占める比率は、過去最低の水準にとどまった。しかも政府は9月になると、8月中に創出された新規雇用は差し引きでゼロだったと発表している。 大不況とその後の回復に関するこの憂鬱な統計は、雇用が最悪の状況に陥ったことが読み取れる。不況が失業者を増やすのは言うまでもないが、2007年5月から2009年10月にかけて、失業率は5・7ポイントも急上昇したのだ。これは、戦後で最も大幅な上昇である。 雇用なき景気回復 だがもっと重大な問題は、景気が回復しても失業者が職を見つけられなかったことである。2011年7月、すなわち大不況の終結が公式に宣言されてから25カ月後のこの月に、アメリカの失業率はまだ9・1%という高水準にあった。最悪の時期からわずか1ポイントしか下がっていない。 失業期間の中央値は39・9週間と大幅に延び、戦後のどの景気回復期と比べても、ほぼ倍の長さに達した。さらに、労働力参加率すなわち労働年齢の成年のうち職に就いている人の比率は、64%を下回っている。これは1983年以来の低水準だ。しかも当時は女性の労働力参加率がいまほど高くなかった。 これが切迫した問題だということは、誰もが認めている。ノーベル賞受賞経済学者のポール・クルーグマンは失業を「おぞましい禍」「延々と続く悲劇」と表現し、「大学を出た若者が何百万人ものキャリアをスタートするチャンスさえ与えられない状況では、この先20年間、繁栄は期待できまい」と述べている。 アトランティック誌の編集長ドン・ペックは、慢性的な失業は「個人や家族を徐々に蝕んでいく疫病であり、蔓延すれば社会の土台も揺らぎかねない。歴史を振り返ると、失業はおそらく社会にとって最もたちの悪い病気だと言える。(中略)失業率が高止まりすれば、政治、文化、そして社会環境には今後何年にもわたってひずみが出るだろう」と書いた。 同誌の編集主任ミーガン・マカードルは、長期にわたって失業している人を次のように描き出している。「職を失った何百万もの人々に何が起きているか、考えなければいけない。貯金は底をつき(始めから乏しかったかもしれない)、友人や仲間も寄りつかなくなる。50代半ばの人は、引退するには早すぎる。しかし雇用主にしてみれば、前の会社の給与を保証するのはむずかしい。この人たちは、子供の学費や食費をまかなうことができない。いや、自分自身が食べていくことも危うい。彼らの絶望を考えなければいけない」 もちろん多くのアメリカ人が、彼らのことを気にかけている。2011年6月に行われたギャラップの世論調査によると、回答者の24%が、現在アメリカが直面している最も重要な問題は「失業」だとした(このほかに36%が「経済全般」を最重要問題に挙げている)。 いっこうに好転しない雇用統計は、多くの人を当惑させてきた。と言うのも、2009年6月に大不況が公式に終結して以来、企業関連のデータはすみやかに回復しているからである。国内総生産(GDP)は、大不況終結から七・四半期の間に、年率換算で平均2・6%の成長率を記録した。これは、1948〜2007年の長期平均を75%上回る数字である。 アメリカの企業収益も史上最高水準に達している。設備およびソフトウェアへの投資は、2010年には、これまでのピークの95%まで回復してきた。これほどすみやかな設備投資の回復は、過去30年間に例がない。 経済史をひもとくと、企業が成長し、利益を生み、機械や設備を購入するときには、労働者も雇うものと決まっている。だがアメリカ企業は、大不況が終わっても雇用を再開しなかった。レイオフは不況前の水準に戻っているのだから、企業が人員削減を止めたことはまちがいない。だが新規雇用は手控えられたままだ。企業は新しい機械こそ買ったけれども、新しい人間を雇おうとはしていない。 仕事はどこへ行ってしまったのか 失業という禍はなぜこうもしぶといのだろうか。専門家はこの問いに対して三通りの説明をつけている。景気循環説、停滞説、「雇用の喪失」説である。 第一の景気循環説は、いま起きている現象は何も新しいものではなく、謎もないとする。アメリカの失業率が高止まりしているのは、単に景気の回復が不十分で新規雇用にいたらないだけだという。クルーグマンはこの説の支持者の一人で、「あらゆるデータは、アメリカの失業率が高いのは需要が不十分だからだということを示している。それ以上何も言うことはない」と書いている。行政予算管理局の元局長ピーター・オルセグも同意見で、「失業者を職場に呼び戻すことができない最大の原因は、景気回復が弱いからだ」という。 景気循環説では、今回の大不況のように需要の落ち込みが激しい場合、回復までに長い時間がかかり、しかも回復のペースは甚だしく遅いと説明する。要するに2007年以来アメリカが見舞われているのは、毎度の景気循環の一つに過ぎない、ただしその度合いがひどいだけだ、ということである。 第二の説では、現在の苦境は循環の一局面ではなく停滞が原因だとする。この説で言う停滞とは、イノベーションを生み出す能力や生産性を高める能力の長期的な低迷を意味する。 経済学者のタイラー・コーエンは、2010年の著書『大停滞』(邦訳NTT出版)の中でこの説を主張している。「私たちは、いま置かれた状況を見誤っている。いま挙げたすべての問題には、たった一つの、しかしほとんど気づかれていない根本原因があるのだ。私たちは過去300年の間、手近に実った果実を摘み取りながら暮らしてきた。(中略)しかしこの40年ほどは、手の届く枝から果実が姿を消しつつある。そこで私たちは、まだ果実があるようなふりをし始めた。人類の技術は頭打ちになり、摘み取れる果実は私たちが考えていた以上に減っている。これが現状なのだ。いっこうに景気が回復しないのは、このためである」 コーエンは自説を裏付ける証拠として、アメリカの世帯所得の中央値が下がっていることを示すデータを提出した。たしかに中央値の伸びは、少なくとも30年前と比べると大幅に鈍化しており、21世紀に入ってから最初の10年間は伸び悩むどころか実際に減少している。2009年におけるアメリカの平均的な世帯の所得は、1999年よりも少ないのだ。コーエンは、これはアメリカ経済が「技術の停滞期」に入ったからだと説明している。 リスク評価の専門家であるリオ・ティルマンとノーベル賞受賞経済学者のエドマンド・フェルプスも停滞説を支持しており、ハーバード・ビジネス・レビュー誌に次のように書いている。 「アメリカのダイナミズム、すなわちイノベーションを生み出す能力と意志は、大量の雇用を創出することによって、成長の恩恵をあまねく行き渡らせてきた。また、やり甲斐のある仕事、自己実現や自己発見につながるキャリアを可能にすることによって、真の繁栄ももたらしてきた。(中略)だがこのダイナミズムはここ10年間で衰えてきている」 停滞説は大不況の影響を無視しているわけではないが、それが現在の回復遅れや高い失業率の主因であるとは考えていない。これらの問題にはもっと根本的な原因があり、それは、経済を進歩させるような新しい強力な発想の生まれるペースが鈍化したことだ、という。 こうした鈍化は、大不況の前から存在した。事実コーエンは『大停滞』の中で、アメリカの生産性が伸び悩み世帯所得の中央値の伸びも急減速した1970年代から、鈍化はずっと続いてきたと述べている。コーエンやフェルプスを始めとする停滞説支持派は、イノベーションの出現率が上がってテクノロジーが進歩しない限り、経済は現在の不振から脱出できない、と主張する。 停滞説の変種に、アメリカが停滞したわけではないが、インドや中国など他国が追いついてきたのだ、とする説がある。グローバル経済にあっては、アメリカの企業も労働者も生産性で他国を上回らない限り、より多くの利益を手にすることはできない。従来は地理的な隔たりや無知のせいで、資本家も消費者も最も安価な原料や製品を他国から調達することができなかったが、テクノロジーはそうした障壁の多くを取り払った。その結果、アメリカ人労働者は、さまざまな面で他国の労働者と競争しなければならなくなった。 その一方で開発途上国の給与は上昇し、賃金を始めとする要素価格は大幅に均衡化してきている。ノーベル賞受賞経済学者のマイケル・スペンスはこの現象を分析し、いずれは生活水準は収斂すると述べた。 アメリカの失業問題を説明する第三の説は、停滞説の逆で、技術の進歩が滞っているのではなく、速すぎるのだと主張する。私たちはこの説を、ジェレミー・リフキンが1995年に発表した著書のタイトルに倣って「雇用の喪失」説と名付けた(邦訳タイトルは『大失業時代』TBSブリタニカ)。 リフキンは同書の中で、大胆且つ憂鬱な仮説を提出している。「私たちは世界の歴史における新しい時代に突入している。それは、世界中の人にモノやサービスを供給するために必要とされる労働者の数が、どんどん減っていく時代である」 (続きは明日掲載します) 翻訳:村井 章子(むらい・あきこ) 翻訳家。上智大学文学部卒業。主な訳書にロゴフ『国家は破綻する――金融危機の800年』、フリードマン『資本主義と自由』、エセル『怒れ!憤れ!』、ミル『ミル自伝』、カーネマン『ファスト&スロー』、コリアー『収奪の星』ほか。 『機械との競争』目次 『機械との競争』 第1章 テクノロジーが雇用と経済に与える影響 第2章 チェス盤の残り半分にさしかかった技術 と人間 第3章 創造的破壊――加速するテクノロジー、 消えていく仕事 第4章 では、どうすればいいか 第5章 結論――デジタルフロンティア
解説 日本が世界に伍して戦うには 小峰隆夫・法政大学大学院政策創造研究科教授 アンドリュー・マカフィー(Andrew McAfee) MITスローン・スクール、デジタル・ビジネス・センター主任リサーチサイエンティスト。著書に“Enterprize 2:0"。 エリック・ブリニョルフソン(Erik Brynjolfsson) MITスローン・スクール経済学教授。デジタル・ビジネス・センターのディレクター。スローン・マネジメント・レビュー誌編集長。著書に『インタンジブル・アセット』(ダイヤモンド社)、『デジタル・エコノミーを制する知恵』(東洋経済新報社、共著)など。
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