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債券投資家はなぜアベノミクスに踊らないか・・異次元の地政学的実験に山を動かせない!
http://www.asyura2.com/13/hasan79/msg/202.html
投稿者 墨染 日時 2013 年 2 月 05 日 11:12:49: EVQc6rJP..8E.
 

http://toyokeizai.net/articles/-/12773?page=2

安倍晋三政権の看板政策である「アベノミクス」の実効性をめぐり、株式市場と債券市場の評価は真っ二つに割れている。

株式市場では衆議院解散が決まった昨年11月半ば以降、デフレ脱却と景気回復への期待感がますます高まっている。日経平均株価は先週、連日で昨年来高値を更新して1万1000円台に乗せ、週間ベースでは12週連続で上昇した。これは「岩戸景気」と言われた1958年12月〜59年4月の17週連続以来、実に54年ぶりの快挙という。

一方で債券市場は熱を帯びる株高を横目に冷めている。新年1月の長期金利は米債安もあって0.840%に上振れして幕を開けたが、その後は一時0.70%台前半まで急低下し、昨年12月の衆院選時のレベルに戻ってしまった。

**** 株高の原動力は外国人投資家
答えはいずれ判明する。 正しいのは株式市場なのか、それとも債券市場なのか?
このように持続的な株高の原動力は、もとより外国人投資家が手掛ける「安倍トレード」だ。外国人は、日本経済がいよいよデフレから脱却して企業業績も上振れするというシナリオを想定し、株式を11週連続で、累計3兆円近くも買い越している。株式市場の業態別売買代金シェアは外国人が7割近くを占めているだけに、その影響力はたいへん大きい。

そんな外国人の強気に感化されたのか、ここにきて個人も上昇相場に乗り遅れまいと、“参戦”し始めたという。アベノミクス期待は楽観的な外国人から悲観的な日本人にも少しずつ伝播してきたようである。

もっとも、国内の機関投資家は慎重姿勢を崩していない。株式市場では外国人とは裏腹に、累計3兆円ほど売り越している。

債券市場参加者も予想以上の円安・株高基調に対しさすがに警戒感を覚え始めたようだが、巷で指摘されるような「債券を売って株式に乗り換える」という投資行動には至っていない。債券投資家は、はなからアベノミクスの実現性と実効性に懐疑的である。だからその目には、アベノミクスの奏功を先取りしている外国人主導による株高もまゆつば物と映っているのだろう。

債券市場参加者はアベノミクスの行方を次のように見透かしているのではないか。

**** 財政は乗数効果が低下、金融は異次元に踏み込めず
まずアベノミクスの第1の矢とされる「機動的な財政拡張」について。期待される政策効果とその波及経路は、(1)公的需要の追加→(2)需要不足の緩和→(3)景気の底割れ回避――」である。実際、「真水」が約10兆円とされる緊急経済対策の裏付けである今年度補正予算は、翌4〜6月期の景気を確実に底上げするだろう。

しかし、「生産・所得・支出の好循環メカニズム」の起爆剤にはなりそうにない・・略)・・結局、今次対策も需要不足(デフレギャップ)の一時的、局所的な穴埋めにとどまり、財政収支赤字だけが拡大して終わるだろう。

第2の矢である「異次元の大胆な金融緩和」について。現実的な具体策が“国債の買い入れ増額と対象の年限長期化”が中心になるとすると、期待される政策効果とその波及経路は、(1)日本銀行バランスシートのいっそうの拡大、すなわちマネタリーベースの供給加速→(2)デフレ期待の払拭、インフレ期待の喚起→(3)投資・消費の活性化(=いわゆるトービン効果)である。

しかし、いくら安倍首相と考えを共有する「ポスト白川」日銀総裁でも、人々のデフレ期待をインフレ期待に塗り替えるような社会実験的な政策には踏み込めないだろう。それは一歩間違えると、財政ファイナンス懸念や財政インフレ期待を喚起し、「悪い円安」や「悪い金利上昇」のリスクを高めかねないからだ。結局、無期限・無制限緩和とはいっても“異次元”にまでは踏み込めず、デフレ期待の払拭にも至らない。

債券市場参加者はアベノミクスの行方を次のように見透かしているのではないか。
(略)・・ところで、長期金利の理論値は「期待潜在成長率」「期待インフレ率」「リスクプレミアム」という3要素で構成されている。

株式市場ではアベノミクス“期待”を背景に、文字どおり「期待成長率」と「期待インフレ率」が高まり、株価水準を大きく押し上げた。対照的に債券市場の期待は動かざること山の如し。安倍首相がアベノミクスという笛を吹き、株式市場はそれに乗って踊っているが、債券市場は踊っていない。大幅な株高にもかかわらず、長期金利がほとんど上がらないワケである。

今後を展望すると、アベノミクスが所期の効果を発揮するならば、それを織り込んでいる株高が裏付けられる一方、長期金利は水準訂正を迫られ、株高を追いかける格好で上昇するだろう。

逆に、アベノミクスの竜頭蛇尾が明らかになってくると、株式相場が失望感から急反落を強いられるだろう。ただし、それは債券市場にとっては読みどおりの結末だから、長期金利はそのとき、株安にもかかわらずさほど下がらないと予想される。
(石井 純 :三菱UFJモルガン・スタンレー証券)


(抜粋記事:)
◆アベノミクスを成功させる米国事情・・日本経済の立て直しは米国の喫緊の課題!
http://blogos.com/article/55481/

米中新冷戦と言う地政学的要因により、日本経済の立て直しを通して日米同盟を強化することが米国の喫緊の課題になっている。つまり日本経済を傷めている円高デフレの解消を支援することが米国の国益にかなってきたという事情がある。安倍氏の日米同盟強化という安全保障上の主張は、円安遂行にとっても決定的であったと言える。

米国新首脳ケリー国務長官、ヘーゲル国防長官のスタンスはいまだ不明だが、アジアにおける中国のカウンターバランスとしての日本重視は不変であろう。中国を抑制し自己変革の圧力をかけ続けるためには、その隣国の日本のプレゼンスの高まりがバランス上求められることである。長期経済停滞により日本人が資本主義や市場経済に対する信頼を失い、漂流し始めれば、東アジアは大きく不安定化する。ここは日本経済の浮上が、覇権国米国にとっても緊要となってくる場面である。

リチャード・アーミテージ元米国国務副長官やジョセフ・ナイ ハーバード大教授などの米戦略論のオピニオンリーダーは、日本のプレゼンスの低下、二級国への陥落を真剣に危惧している。それは(過去の異常な高競争力国日本に対する)ペナルティーとしての、極端な円高是正を容認する要因ともなる。(武者陵司)

 

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コメント
 
01. 2013年2月05日 12:12:15 : xEBOc6ttRg
アベノミクスが見せる日本の弱さ

減税と投資の効果を測り直せ

2013年2月5日(火)  田村 賢司

 「アベノミクス!? それは上手くいくのかい」

 安倍晋三首相が昨年末、就任する少し前、知人の米国人と話していたら、「へぇ」という顔と共に彼が聞いてきたのがこれだった。

 特に政治・経済の専門家でも、事情通でもない彼のような普通の米国人が「人名+ミクス」と聞けば、大抵思い起こすのは、ロナルド・レーガン元大統領。1981年にホワイトハウスに入った彼が打ち出した経済政策はレーガノミクスとして広く知られているからだ。

 減税と歳出削減、規制緩和による小さな政府で民間の活力を引き出し、一方で高金利政策によりインフレを抑え、強いドルを実現するというレーガノミクスは、景気低迷を国による需要創出を中心にしたケインズ的政策で乗り切り、経済を安定させる、それ以前の大きな政府型思想を一転させて広く知られた。

 だが、歳出で福祉予算を減らす一方、軍事費を増大したため歳出全体は減らないまま。一方、「減税→企業投資拡大→企業主導の景気回復→税収増」の目論見は外れ、大型減税だけが効いたため、財政赤字は89年までの任期中、激増する結果となった。さらに高金利政策も、ドル高から輸出減・輸入増大をもたらして1期目の途中まで上手くはいかなかった。

 潮目が変わったのは、高金利政策を一擲した後半から。金利低下によるドル安への反転で輸出を回復させ、85年のプラザ合意による一段のドル安はさらにそれを加速させた。加えて、当初の狙い通り企業部門を活性化させなかった減税が個人消費の盛り上がりをもたらして景気回復を演出する格好となったのである。

 景気回復という結果を良しとすれば「全て良し」となるが、レーガノミクスそれ自体が成功と言えるのかどうか、当の米国人にも判然としないのはこの辺りの事情による。「アベノミクスは上手くいくのか」と聞いてきた件の米国人の問いの底に潜む小さな含み笑いにはそんな含意もあるのだろう。

財源なく進む巨額の企業減税

 その目で見ればアベノミクスはどうだろう。これが「大胆な金融政策」と「機動的な財政政策」、そして「民間投資を引き出す成長戦略」の3本の矢からなるのは知られる通り。既に景気対策の10兆3000億円を含む総事業費20兆2000億円の緊急経済対策を決め、日銀が物価上昇率2%を達成するまで金融緩和を続けることも政府・日銀の共同文書に明記されている。

 矢は次々と放たれているというわけだが、点検するまでもなく気づくのは、アベノミクスは経済学で言うところのサプライサイド(供給側)とデマンドサイド(需要側)、それぞれのてこ入れを一遍に盛り込んでスタートさせているということだ。

 バラマキと昔の自民党政策への先祖返りと批判される5兆2000億円の公共事業は、しゃにむに需要創出をしようとするデマンドサイド政策の典型。その一方で、企業部門を活性化し、強くしようとするサプライサイド政策は、先日決まった2013年度税制改正に、その一片が見て取れる。

 所得税や相続税の最高税率を引き上げる一方、研究開発を促進したり、設備投資を増やした企業への減税を拡充。さらに従業員の平均給与などを増やした企業の法人税額を減らす制度も新設した(下表参照)。

来年からは相当な減税超過になりそうだ
2013年度税制改正の主な内容
  税目 概要 増減税規模など
増税側 所得税 最高税率を現行の40%から45%に引き上げ。対象は、課税所得4000万円超 数百億円か。2015年1月から
所得税・住民税 上場株式の譲渡、配当について現在、軽減されている税率10%が本則の20%に 2000億円程度か
(平年度ベース減税額に入れない)
相続税 課税対象の相続財産・6億円超の部分に新たに55%の最高税率を適用。一方、課税対象の財産から差し引いて非課税にする基礎控除は現行より4割減となる 2000数百億円程度か。同上
減税側 住宅ローン減税 2013年度末に期限が切れる住宅ローン減税を17年まで4年延長。所得税から差し引ける最大控除額は10年間で400万円に倍増(一般住宅)。所得税で引ききれない場合は住民税から差し引く。その幅も拡大 約600億円。拡充実施は2014年4月入居から
自動車関連税 クルマの購入時にかかる取得税廃止、保有にかかる重量税廃止は存続 取得税は2000億円強。2014年4月から縮小、2015年10月、廃止
贈与税 祖父母から孫への贈与を2500万円まで贈与時「非課税」に。相続時に相続税からその分を差し引ける相続時精算課税制度を見直す。このほか、緊急経済対策でも孫への教育資金を1500万円まで非課税で贈与可能に 不明
研究開発減税 試験研究費の8〜10%に当たる額を、法人税額の30%まで差し引けるようにする。現在は20% 700億円程度か。2013年度から2年間
設備投資減税 前年度の設備投資額より10%以上多く、減価償却費を上回る新規投資(生産設備など)分について特別償却30%、または取得額の3%の税額控除を認める 1500億円程度か。同上
給与増額減税 従業員の1人当たり平均給与を増やした場合、給与支払総額の増加分の最大10%まで(法人税の10%まで)を法人税額から控除 1000億円程度か。2013年4月から3年
注:増減税規模は本誌取材を元にした概算。減税項目は他にもある
 これに加え、住宅取得に伴って住宅ローンを設定した場合、10年間で最大400万円まで所得税などから控除できるように従来のローン減税も拡充。所得税額が少なく、控除しきれない場合は、地方税から差し引く額も増やし、それでも残れば現金で給付することまで決めている。2014年4月からの“実施”だ。

 自動車関連でもクルマの購入時にかかる取得税を同じく2014年4月から縮小、2015年10月に廃止することとした。住宅ローン減税と自動車取得税の縮小・廃止は、2014年4月の消費税の8%への引き上げを睨み、需要の落ち込みを防ごうというもの。その意味では需要創出側の政策ではあるが、双方とも関連産業のすそ野が広く、企業業績への波及効果が大きい分野であり、実態として自民党の目配りの比重は企業側にある。

 平年度ベースで約2700億円とする減税の一義的な狙いは、消費増税による景気の落ち込みを防ぎ、増税を円滑に実行するためとする自民党の説明はその通りだろう。だが、増税のほとんどは個人側であり、企業側は減税中心となる。しかも、その「減税財源は当面、見あたらない」(大和総研研究員の是枝俊悟氏)ままの実施という状況を見れば、底に忍ばせた本音が「企業部門を強くしたい」(自民党税調メンバーの1人)にあるのは間違いないだろう。やはり、しゃにむに企業側から経済再生を図ろうとしているのである。

 もう1つ、企業・産業部門の強化に必死になっている姿が浮かぶのがやはり1月に決めた緊急経済対策で次々と決まった官民ファンドの設置・出資だ(下表参照)。産業革新機構に1040億円を出資し、ベンチャー企業支援・先端技術の事業化を進めるほか、海外展開を進める企業への支援策として国際協力銀行にも690億円を出資。さらに世界のエネルギー革命のうねりに乗り遅れまいとしてか、石油天然ガス・金属鉱物資源機構にも329億円を出資するという。

国のリスクマネーをどう生かすか
アベノミクスでの官民ファンドなどを通じた主な投資・出資
項目 概要 投資・出資など
産業革新機構への出資 ベンチャー企業支援、先端技術の事業化 1040億円
日本政策投資銀行によるファンド創設 異業種連携などによる新事業創出 1000億円
日本政策金融公庫への出資 中小企業への資本性劣後ローンの拡充 900億円
農林漁業成長産業化支援機構への出資 農林漁業成長産業化ファンドの拡充 100億円
石油天然ガス・金属鉱物資源機構への出資 シェールガス・金属などの海外資源権益の確保 329億円
国際協力銀行への出資 海外展開を図る日本企業への支援 690億円
民間資金等活用事業推進機構の創設 民間資金を活用した公共インフラ整備・サービス 2013年度予算
注:緊急経済対策などの主な政策を掲載した
出所:みずほ総合研究所の資料を基に本誌作成
失敗しても責任を問われなかった…

 緊急経済対策については、そのほとんどを2012年度補正で措置。景気刺激の予算を前倒しで織り込むことで2013年度当初予算の新規国債発行額を42兆8500億円、政策経費を70兆3700億円に抑える“財政テクニック”を使ったと、民主党などの批判を浴びたのがそこだ。だが、問題は野党とメディアが1つ覚えのように言うバラマキよりもう1つ根深いところにある。

 まず後者から言うなら、官民ファンドへの出資金は、本当に効果を生むことが出来るのか。前述の通り、多くは政府系の特殊法人や独立行政法人などに出資し、そこが事業の目利きをすることになるが、「なぜ、役人が民間より上手く判定できると言えるのか」(元経済産業省官僚の古賀茂明氏)という疑問が1つ。

 さらに言えば、そうした投融資がその後、成功したのかどうか、それによって出資金がどうなったのかといった肝心の点が、これまでほとんど見えていない。有り体に言えば、失敗しても責任を問われることなくすんでいるのである。日本の財政、産業政策の大きな問題がそこに潜んでいる。

 あきれられてか誰も言わないが、2010年度の国の財政を企業会計風に言えば、417兆7000億円の債務超過。総資産の70%に迫る債務超過額は一般企業なら当然、破綻水準だが、その中でこの年は2兆3000億円も資産評価額が減少している。もちろん全てではないが、過去の固定資産形成や出資の目減りなどはそこに含まれる。つまり多額の「投資の失敗」が潜んでいる可能性があるのだ。

 財源が見あたらないままの企業減税も同様。そこにうかがえるのは、資金を使うことばかりで、その後、どのように効果を上げたのかの測定が甘くなっている姿だ。仮に当初の狙い通りに効果が上がらなければ、期中でもすぐに見直し、事業を改廃し、最大のパフォーマンスを上げられるように方向転換をすることは民間では当然のことだ。ところが、霞ヶ関、永田町では予算の効果測定を精緻に行い、それを元に失敗の責任追及まで行うことはまずない。

 DMAIC。10億個製品を作っても最大2個の不良品発生に抑えるシックスシグマと呼ばれる管理手法ではこう言う。まず、プロジェクトが何を解決していくのかを定める(Define=定義)を行う。次に現時点のパフォーマンスがどのような状態かを測る(Measure=測定)。

 3番目は、本来の目標と測定結果との差の原因分析(Analyze)だ。これを正確に行えば、次は当然、改善(Improve)であり、そこで成果を挙げたら、それを維持する管理(Control)が重要になるというわけだ。自公政権に、これから必要になるのは、DMAICのような管理サイクルの思想ではないか。減税や出資などの投資をきちんと管理し、成果につなげることである。

今度こそ必要な企業部門改革

 アベノミクスは、その第1段階でサプライサイドとデマンドサイドない交ぜにした必死のてこ入れで市場と国民の「期待」を押し上げることには成功した。株価上昇と円安はその現れだろう。

 だが、日本の場合、これ以上の機動的財政出動にはおのずと限界がある。次の課題は恐らく、「企業部門の改革を本当に進められるかどうかのサプライサイドにある」(第一生命経済研究所の首席エコノミスト、熊野英生氏)のだろう。バラマキよりも財政テクニックよりも、本質的な問題はここにある。

■変更履歴
2ページ目の前半に、記事掲載当初、「設備投資を増やした企業への現在を拡充。」としていました。正しくは「設備投資を増やした企業への減税を拡充。」です。
2ページ目の表中で、記事掲載当初、住宅ローン減税の規模を「最大4000億円程度か」としていました。正しくは「約600億円」です。お詫びして訂正します。[2013/2/5 11:30]

田村 賢司(たむら・けんじ)

日経ビジネス編集委員。


記者の眼

日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。

政策迷走で膨らむ貿易赤字

2013年2月5日(火)  安藤 毅 、 北爪 匡

2012年の日本の貿易収支は過去最大となる6兆9273億円の赤字となった。原発停止による火力発電用燃料の輸入増が大きな要因だった。政府のエネルギー政策の迷走は「アベノミクス」のアキレス腱になりかねない。

 「またメジャーに足元を見られる」

 昨年末、原子力規制委員会は東北電力・東通原子力発電所(青森県)の敷地内に活断層があると指摘し、同原発の早期の再稼働は困難となった。この話を知った大手商社の天然ガス担当者は思わず嘆息を漏らした。


 日本の貿易赤字が膨らみ続けている。1月24日に発表された2012年の貿易収支は、過去最大となる6兆9273億円の赤字となった。

 背景には、中国や欧州連合(EU)への輸出落ち込みに加え、原発の停止に伴う火力発電向け燃料価格の高止まりがある。主力燃料であるLNG(液化天然ガス)の2012年の輸入額は6兆円超と前年から25.4%増えた。足元の円高是正によってLNGの調達環境は一段の悪化をたどっている。

 エネルギーコストの高止まりは製造業の海外移転も促す。日本経済研究センターの試算では、今後も海外生産シフトや燃料輸入の増加傾向などが続けば、2020年頃に経常収支も赤字に転落する公算が大きい。国債消化は海外の資金に頼らざるを得なくなり、財政は危機的状況を迎えることになる。

 こうした事態を回避するには、通商政策などによる競争環境の整備に加え、電力供給不安の解決が急務だ。

 ガス業界に詳しいエネルギーアナリストの石井彰氏は、「日本の最大の弱みは交渉カードを持たないこと」と指摘する。中東や東南アジア産の在来型ガスへの依存度が高く、小口発注が多い日本の現在の調達形態では、契約時に十分な交渉力が発揮されない。

東京ガス、「炭田」に出資

 非在来型ガスの代表「シェールガス」も技術革新によって商用ベースに乗り始めているが、米国からの輸入は早くても2016〜17年となる見通し。シェールガスに限らず、複数の調達ルートを持てば、交渉力の向上につながる。

 企業単位では、調達分散化に向けた努力が進む。2011年、東京ガスはオーストラリアの「炭田」の権益を獲得した。ガス会社である同社が、石炭を日本に輸入しようというものではない。石炭に付着したメタンを取り出す非在来型ガス「コール・ベッド・メタン(CBM)」を液化して、日本に持ち込む。

 シェールガスの陰に隠れるものの、世界におけるCBMの推定埋蔵量はLNGに換算しておよそ376億トン。日本の輸入量の400年分以上に相当する計算で、開発コストも低いとされる。

 東京ガスは、2015年から年間120万トンと、自社の取扱量の1割に相当するガスを輸入する計画を掲げる。同社のCBMが、日本が最初に輸入する非在来型ガスとなる見通しだ。東京ガスの棚沢聡・原料企画担当部長は「地域・種類の多様化を実現したい」と話す。

 短期的には電力会社がコストを削減しなければ、電気料金が一段と跳ね上がり、国内の空洞化を加速しかねない。そこで、電力各社や経済界が期待するのが石炭火力発電所の新増設だ。

 石炭火力は燃料費が1キロワット時当たり約4円と石油の4分の1、LNGの半分以下と安く、夜間も運転するベース(基礎)電源として活用しやすい。昨年5月の需給検証委員会報告書によると、原発の停止で2012年度は約3.1兆円の燃料費増が見込まれるが、石炭は1000億円増にとどまる。

 経済産業省幹部は「石炭の輸入増が貿易収支に与える影響はLNGのそれに比べ相対的に小さい。輸入先も政情が安定している国が多く、地政学リスクも小さい」と指摘する。原発の早期の再稼働が困難視される現状では「石炭カード」を持つことで海外とのLNGの購買交渉をしやすくなり、調達コストを引き下げる効果も見込まれる。

 発電部門の効率化とコスト削減を急ぐ東京電力は「総合特別事業計画」に、2019〜21年度に稼働予定の260万キロワットの火力発電所について電力を外部から調達する入札を実施すると明記。東電は今年2月中旬にも入札を実施する準備を進めている。

 だがここにきて、これに待ったをかける動きが顕在化してきた。CO2(二酸化炭素)の排出削減を錦の御旗に掲げる環境省が異議を唱え出したのだ。

 「非常に心を痛めている。わが省のレゾンデートル(存在意義)たるCO2の削減には非常にネガティブな発電装置だ」。今年1月15日の閣議後の記者会見。石原伸晃環境相は東電が予定している入札に強い懸念を表明した。

石炭火力にかみつく環境相

 石炭火力の問題はCO2の排出量が多いことだ。石油火力と比べて排出量は約1.3倍、天然ガスの約1.8倍にもなる。「国内の温暖化対策論議のリード役を自負する環境省にとって石炭火力の新設などとんでもない愚行と映るのだろう」。政府関係者はこう指摘する。

 環境省の「石炭火力はノー」の姿勢は筋金入りだ。新設を巡っては、2006年、2010年と計画が浮上したが、どちらも環境相の意見が決め手となり中止に。2009年にトクヤマが増設を認められて以降、環境アセスメント(影響評価)を終えた石炭火力はない。

 関係者の証言では、15日の石原氏の発言を巡っては、環境省の事務方が記者クラブに所属する記者に質問を依頼し、否定的な答えを引き出す段取りが用意されていたという。東電や応札を検討する事業者にプレッシャーをかける狙いがあったと見られる。

 こうした構図をきっかけに、いくつかの根深い問題が再認識されている。

 まずは法的根拠もなく環境省が行政指導で事業者の行為に介入しようとしている手続き面の瑕疵だ。本来は入札後、事業者が決定され、アセス手続きで経産相が意見を求めて初めて環境相は意見が言える。事業者が応札すらしていない段階での石原氏による“口先介入”はかなりのフライングだろう。

 「仮に東電が入札をやめたり、事業者が応札を見送れば後に続こうとするほかの電力会社の石炭火力新増設の動きも止まる。菅直人・元首相が中部電力に浜岡原発(静岡県)を停止するよう求め、『原発停止ドミノ』となった事態の二の舞いになりかねない」。自民党のベテラン議員はこう危惧する。

 政府が東電の福島第1原発事故による状況変化を受けたエネルギー政策を固めていないことも大きい。

 政府は再エネや省エネの推進、原発再稼働の結論などを経て「10年以内に電源構成のベストミックスを確立する」との立場。それを具体化するためのエネルギー基本計画の策定や、2020年の温暖化ガス排出量を1990年比で25%削減する目標の見直し作業を急ぐ機運は乏しい。

 自民幹部は「今年夏の参院選前に世論の反発を受けそうなエネルギー問題で踏み込みたくない」と漏らす。だが、永田町の事情を優先する間に、政府内の不毛な対立で事業者の予見可能性が低下し、電源投資や電力各社のコスト削減が足踏みしたり、政策の実施が遅れるのは本末転倒だ。

 「3・11」後に激変した国内外のエネルギー情勢。それを踏まえ、電力の供給安定と温暖化防止の両立を図る道筋を早期に提示することも「アベノミクス」の重要な要素であるはずだ。


北爪 匡(きたづめ・きょう)

日経ビジネス記者。

安藤 毅(あんどう・たけし)

日経ビジネス編集委員。


02. 2013年2月05日 19:15:18 : Pj82T22SRI

>正しいのは株式市場なのか、それとも債券市場なのか?

どちらも正しい

株式は円安とリスクオンで上がっているが、バブルというほどでもない

今後、アベノミクスが期待したほどのものでもないとなれば下がるが、以前の底値には戻らないだろう


債券は短中期的にはインフレ急進を想定しておらず、日銀による買い支えを想定している
ただし金利は、徐々にSteep化しているので、政府と日銀が本格的なインフレ容認へと移れば、どこかで急落が起こる可能性もある


03. 2013年2月05日 20:53:21 : xEBOc6ttRg

ブログ:アベノミクスが突きつけた思わぬ「難題」
2013年 02月 5日 11:48

ブログ:安倍政権に経済外交の試金石
ブログ:日銀新体制、「顔の見える」多様な議論を
ブログ:「制裁的」課徴金は必要か
ブログ:縮むソニー、いでよ「ヒット商品」

山口 貴也

アベノミクスが、世界最大の年金運用機関である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に思わぬ難題を突きつけている。安倍晋三政権が旗ふり役となった株や外貨資産の上昇によって、定められた資産構成の比率が大幅に崩れるジレンマに陥りかねない情勢になってきた。

GPIFは108兆円の運用資産を主に日本国債で運用している。2010年度から5年とする中期目標では、資産の割合について、国内債券67%、国内株式11%、外国債券8%、外国株式9%、短期運用5%と定めている。

相場動向に合わせてそれぞれ上下5%から8%の変動も認めているが、その想定を急ピッチで下回っていると懸念されているのが、本丸である国債の比率だ。

団塊世代の大量退職を機に増大する給付資金をねん出するため、GPIFは09年度から国債などを売却。12年度の換金売りは6.4兆円と最大の規模となった。基礎年金の国庫負担分引き上げに伴う財源不足を賄うために交付国債から年金特例債に切り替わった分、売却のプレッシャーは弱まるが、それでも13年度は4.7兆円の取り崩しが必要という。

そこに株や外貨資産の市況好転でさらに比率そのものが押し下げられる状況に、内部からは「収益率が上がる分にはいいが」と戸惑いの声も漏れる。

いまの状況が妥当か、GPIFは4月から資産構成を中心とする点検を本格化する。表向きは昨年、会計検査院に定期的な検証を求められたから。三谷隆博理事長は「点検後に必要となれば、13年度から(資産構成を)見直す可能性もゼロではない」というが、池の中の鯨が比率を元に戻そうとリバランスに動けば、せっかくのアベノミクス効果は泡と消えかねない。

(東京 5日 ロイター)
 
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04. 2013年2月05日 20:59:09 : xEBOc6ttRg
インタビュー:積立金取り崩し減少へ、来春にも資産構成点検=GPIF
2013年 02月 4日 19:46 
 
雇用・所得増大へ政府・経営者・労働者が協力すべき=経済財政諮問会議
首相、産業界に賃上げ要請へ
民主党、日銀総裁人事の判断基準を正式決定
次期日銀総裁、首相の意思が通じる方を首相が判断=菅官房長官


 


再送:インタビュー:積立金取り崩しが減少へ、資産構成点検「来春にも」=GPIF理事長
2013年 02月 5日 07:42 JST  

*この記事は4日午後7時21分に配信しました。

 [東京 4日 ロイター] 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の三谷隆博理事長は4日、2013年度に予定している年金給付に備えるための積立金の取り崩し(キャッシュアウト)が4.7兆円程度と、国が負担する基礎年金の財源不足を除くベースで前の年より1.7兆円減少するとの見通しを明らかにした。同日午後、ロイターとのインタビューに応じた。第3期中期目標への備えや、昨年、会計検査院から定期的にポートフォリオを検証すべきと指摘されたことを踏まえ、来春にも資産構成の点検を本格化させる選択肢も示した。

 

 予算ベースで取り崩しの額が減少するのは2年ぶり。高齢化や団塊世代の大量退職で12年度は8.9兆円と、過去最大の規模を見込んでいた。三谷理事長は、基礎年金の国庫負担の一部を賄うのに当初の年金交付国債ではなく、年金特例国債に切り替わった関係で「今年度分(の取り崩し)は6.4兆円になった」と述べた。

 今年度末までに追加で保有資産を取り崩し、年金給付に備える必要があるかどうかについては「今年度分の手当ては終わった」と言及した。ただ「来年度も4.7兆円(のキャッシアウトが)あり、4月からの備えが必要という観点では、必ずしもその圧力がなくなったとは言えない」と話した。

 

 三谷氏はインタビューの中で、来春にも資産構成の点検作業を本格化させる選択肢も示した。第3期中期目標への備えや、会計検査院から定期的にポートフォリオを検証すべきと指摘されたことを踏まえ、「来年度に入ったぐらいのタイミングで基本ポートフォリオのチェックをやりたい。(2010年度から14年度までの第2期中期目標を策定してから)この3年くらい大きな議論もしてこなかったし、いい機会になるかも知れない」と話した。

 そのうえで同氏は「点検後に必要ということになれば、来年度・13年度からポートフォリオ構成を見直す可能性も、ゼロではない」と語った。

 政府がまとめた緊急経済対策に「公的・準公的資金の高度な運用・リスク管理体制の構築に向けて各資金の規模や性格に見合った改善策を検討する」との記述が盛り込まれ、一部でGPIFが外債投資を増やすのでは、との観測が出ていることに関しては「答えありきというわけではない。政府からわれわれのところに何か、話がきているわけでもない」とした。

 現在、2次審査に入った外国株の運用マネジャー選定作業については「夏ごろまでに終えたい」と言及。「次は国内株を見直すことになる」と述べた。アベノミクスを先取りし、上昇を続けている日本株に関しては「まだ『出遅れ』の感が残っている状況に、変わりはない」との見解を示した。

 一方、財務省が13年度国債発行計画で30年物を年8回から12回の毎月発行にしたことに関しては「発行回数が増えたからといって、(発行された国債が売れず)余って仕方ないということにはならないだろう」と指摘した。物価連動債が3年ぶりに計画枠に入ったことには「元本保証が付与されるのであればこれまでとは違うが、将来の物価上昇率をどうみるかによって変わってくる」と、投資家としての踏み込んだ発言は避けた。

 (ロイターニュース 山口貴也、程近文 編集:内田慎一)


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05. 2013年2月06日 01:44:47 : xEBOc6ttRg

【第89回】 2013年2月6日 森田京平 [バークレイズ証券 チーフエコノミスト],熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト],島本幸治 [BNPパリバ証券東京支店投資調査本部長/チーフストラテジスト],高田 創 [みずほ総合研究所 常務執行役員調査本部長/チーフエコノミスト]

金融政策と実体経済の結びつきを強めるために ――森田京平・バークレイズ証券チーフエコノミスト

ついに導入された 「2%」の「物価安定の目標」


 先月21〜22日に開かれた金融政策決定会合は、国内外の市場から注目された。同会合のポイントは、@「2%」の「物価安定の目標」(英語ではtarget)を導入、A「期限を定めない資産買入方式」(以下、オープン・エンド型買入)を2014年に導入、B政府・日銀の「共同声明」という形で物価安定の目標を「できるだけ早期に実現する」ための両者の役割を明示、の3点にある。

 なかでも「2%の物価安定の目標」は、安倍首相が再三導入を求めていたものであり、今回の決定会合の最大の目玉となった。

 ただし「2%」に目標を設定することに対して、2名の審議委員(木内氏、佐藤氏)が反対した。理由は「2%は持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率を大きく上回る」、「成長力強化の前の物価目標の明示は金融政策の信認を毀損させる」の2点。さほどに「2%」というのは野心的だ。

 今後の焦点は同目標の実現性に移る。日本の金融政策については、「どれだけ緩和するか」と同時に、「どのように緩和が効く経済をつくるか」も問われる。

 実際、日本では金融緩和が実体経済を刺激する上でいくつかの障壁がある。以下では、米国と比較しながら「潜在成長率(自然利子率)の低さ」と「労働市場の流動性欠如」の2点を見ておこう。この障壁を取り除く上で、政府が果たす役割は大きい。

第一の障壁:
低迷する日本の潜在成長率(自然利子率)

 第一に、低迷する潜在成長率が挙げられる。潜在成長率は理論的な厳密性を無視すれば、当該国の「自然利子率」に相当する。

「自然利子率」は、スウェーデンの経済学者・ヴィクセルが19世紀末に提唱した概念。需給を反映して価格が調整される世界(すなわち長期的な視点)において、貯蓄と投資を等しくさせる均衡実質金利と定義される。経済の生産性の中長期的な低下、少子・高齢化の進行、金融危機に伴う金融機能の低下は、いずれも潜在成長率を下げることで自然利子率の低下につながる。

 この自然利子率、すなわち潜在成長率を実質金利(ここでは実質政策金利)と比べると、米国では「実質金利<自然利子率(潜在成長率)」という関係が安定して成り立っている(図表1参照)。


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 かたや日本では、潜在成長率が下がった結果、「実質金利<自然利子率(潜在成長率)」という関係が成り立っていない。むしろ「実質金利≒自然利子率(潜在成長率)」となっている。

 実質金利を資金調達コスト、自然利子率(潜在成長率)を長期的に期待されるリターンと読み替えると、「実質金利<自然利子率(潜在成長率)」となって、初めて信用創造(貸出増)を伴う形で設備投資などの伸びが期待できる。つまり、金融緩和が実体経済を安定的かつ継続的に刺激できる(注1)。

 日本のように「実質金利≒自然利子率(潜在成長率)」となると、いくら実質金利が低くても、お金を借りて設備投資をすると利ざやが取れない。つまり金融緩和が実体経済を刺激する経路が広がらない。このとき金融緩和は「北極での氷売り」と化す。

注1:ここでの議論は金融システム(血管)が健全であることを前提とする。米国の場合、リーマンショック以降、金融システムが必ずしも健全とは言えないため、「実質金利<自然利子率(潜在成長率)」であっても、金融緩和が実体経済を押し上げる力は弱い。逆に、日本では金融システムは健全だが、「実質金利≒自然利子率(潜在成長率)」であることが金融政策と実体経済の結びつきを弱めている。

実質金利(実質政策金利)は中央銀行の管轄
自然利子率(潜在成長率)は政府の管轄

 米国でこのような関係が成り立っている背景として、もちろん積極果敢な金融緩和によって実質金利を引き下げたことが挙げられる。しかし、それだけではない。自然利子率(潜在成長率)が今なお2%前後で安定的に高く維持されていることも大きい。

 実質金利(実質政策金利)を中央銀行の管轄、自然利子率(潜在成長率)を政府の管轄と大胆に分けると、金融政策の実効性を高める上で政府の役割も大きいことがわかる。

 2%の物価目標を実現する上で、政府の役割をどの程度、検証可能な形で示すかという点が、先月22日の政府・日銀の「共同声明」で注目された。残念ながら、次に見るように、検証可能な数値的コミットメントは政府から示されなかった。

「消費増税法」にあって
「共同声明」にないもの:
2%の実質成長率目標

 消費税率の引き上げを謳う消費増税法附則第18条第1項は、「2011年度から2020年度までの平均で名目3%程度、実質2%程度の成長率に早期に近づける」としている(注2)。

 この法律には自民党も賛成した。そうであれば、なぜ今回の政府・日銀の「共同声明」で、政府はこの「実質2%の成長率」と同様のコミットメント、つまり「2%の潜在成長率(自然利子率)」にコミットしなかったのだろうか。

注2:消費増税法不足第18条第1項「消費税率の引上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施するため、デフレからの脱却・経済の活性化に向けて、平成23年度から平成32年度までの平均において名目成長率3%程度、実質成長率2%程度を目指した望ましい経済成長のあり方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる」

 長期的な実質成長率、つまり潜在成長率(自然利子率)の改善に裏付けられてこそ、金融緩和は期待インフレ率を安定して高め、経済厚生の向上に貢献する。同時に、「実質金利<自然利子率」という関係が成り立つことで、金融政策が実体経済に働きかける経路も広がるはずだ。

 検証可能な数値的コミットメントを日銀は示した(2%の物価目標)のに対し、政府は示さなかった(2%の潜在成長率目標)。この点で、今回の「共同声明」には不満が残る。

第二の障壁:
低い日本の労働市場の流動性

 金融政策が実体経済に働きかける上での第二の障壁として、労働市場の流動性を見ておこう。具体的には、失業率と1人当たり賃金の関係を日米で比べる。

 縦軸に1人当たり賃金、横軸に失業率をとると、米国の労働市場では右下がりの関係、日本の労働市場ではほぼ垂直の関係が見られる(図表2参照)。

 なお、ここでは賃金として左図では名目賃金、右図では実質賃金を用いているが、結論はそれほど変わらない。また、名目賃金を使った左図は「フィリップスカーブ」に相当する。


拡大画像表示
 右下がりの関係が見られる米国では、労働市場において「価格調整」(賃金による調整)に加えて「数量調整」(失業率の変動による調整)も明確に機能している。つまり労働市場の流動性が非常に高い。その結果、かえって賃金が低迷する時間が短くなり得る。

 一方、日本の労働市場では「数量調整」はほとんど見られない。すなわち労働市場の流動性が低く、調整圧力が一方的に「価格」(賃金による調整)に偏りがちだ。こうしたなか、名目、実質いずれで見ても、賃金の下方硬直性は日本では過去のものとなっている。

 ただし労働組合の存在もあり、賃金の調整速度自体は緩やかだ。結果的に、長い時間をかけて賃金が緩やかに引き下げ圧力に晒されるのが日本の労働市場だ。日本のデフレの特徴である「だらだらとした長期デフレ」の一因は、こうした労働市場の特性に求めることができよう。

流動性のない労働市場では
「雇用」を金融政策の目標にできない

 金融政策は「市場機能」を通じて働く。市場機能が働かない世界では、金融政策の効果は減衰する。米国で「雇用の最大化」が金融政策の目的として定着できた背景として、労働市場の流動性の高さは不可欠な役割を演じている。

 労働市場の流動性に配慮することなく、米国で雇用が金融政策の目的となっているから日本でも雇用を金融政策の目的とするべきだ、とする議論に十分な説得力はない。日本同様、規制の強い労働市場を抱えるユーロ圏(特に南欧)において、ECB(欧州中央銀行)が「雇用」を金融政策の目標にしないのと同じだ。

 労働市場の流動性、すなわち各種の雇用制度は政府の政策範疇に入る。先の潜在成長率(自然利子率)の引き上げと併せて、金融政策の実効性を高める上で政府の担うべき役割は大きい。


 

【第775回】 2013年2月6日 週刊ダイヤモンド編集部
リース会社から総スカンを食う
経産省の製造業救済スキーム
「これの一体どこが成長戦略なんだ」。今年初め、あるリース会社の幹部は、経済産業省が検討を進めている製造業向けの支援策を見て、苦笑するしかなかった。

 リース業界の現状を全く理解していないだけでなく、シャープなど特定の大手企業を念頭に置いた事実上の「救済策」と思われる杜撰な内容だったからだ。


政府の成長戦略を担う産業競争力会議では、特定の業界だけを支援することに懸念の声が上がり始めた
Photo:JIJI
 大手のリース各社が一様にあきれ返る救済策とは、一体どのようなものなのか。具体的な中身はこうだ。

 まず国とリース会社が連携し、共同出資の会社を設立。会社を通じて既存の工場や生産設備を対象企業から買い取った上で、リースに回す。リース契約が終了した後は、買い取った工場や設備を同業者などに転売することで、リース料と合わせて利益を得るという仕組みだ。

 このスキームの一番の問題点は、転売にある。経産省が買い取りの対象として想定する液晶パネルや半導体などの製造装置は、企業が個別に細かい仕様を施している。他の企業がすぐに流用できるものではなく、転売が難しい分野だ。

 転売が見通せなければ、必然的にリース料を上げざるを得ない。その場合、対象企業はわざわざ費用対効果に見合わないような高いリース料を払うことになるため、このスキームを利用するメリットは見いだしにくい。

 万一、転売できる相手がいるとすれば、韓国など海外のライバル企業だ。それでも、足元を見られ二束三文で買いたたかれるのが落ちだろう。国際競争力強化を掲げながら、敵に塩を送るようなことにもなり、それは経産省としても本意ではないはずだ。

 5年で1兆円という買い取り規模を見ても、リース業界全体の規模が4兆円強ということを考えると「ばかばかしい」(大手リース会社)ものだ。

 この救済策をめぐっては、実は経産省の中でも実効性に疑問を持つ人は多く、すでに頓挫しつつあるという。同省幹部の1人は新年の賀詞交歓会で、電機メーカー首脳たちから口々に救済策の進捗について聞かれたが「すみません、その話は」とお茶を濁すしかなかったと漏らす。

 省内でも生煮えの案が一部報道で表に出てしまった面はあるものの、連携するリース会社から、総スカンを食うような救済策をなぜ検討していたのか。

 背景には経産省が主導した半導体大手エルピーダメモリへの支援で、血税を無駄にした苦い経験が見え隠れする。失敗は許されないという空気が蔓延する中、官民共同出資で責任を分散させようとの思いが、今回の救済策にはにじみ出ている。そうした及び腰の支援で乗り切れるほど、電機業界の状況が甘くないことは経産省自身が一番わかっているはずだ。

 (「週刊ダイヤモンド」編集部 中村正毅)

 



06. 2013年2月06日 02:00:25 : xEBOc6ttRg
【第5回】 2013年2月6日 竹川美奈子 [ファイナンシャル・ジャーナリスト]
9割が知らない投資信託の事実 「平均点」を上回る投信は極少数!
銀行や証券会社でおすすめされる投資信託のほとんどが「アクティブ・ファンド」と言って、ファンドマネジャーが銘柄などを厳選してつくる投資信託です。しかし、その実態は「平均よりも勝てない」ものが多かったり、「人気なのに成績がよくない」という事実も!
最終回の今回は、だまされないために、絶対に知っておきたい、投資信託の知られざる実態を、竹川美奈子さんの新著『一番やさしい!一番くわしい!はじめての「投資信託」入門』より、一部抜粋で紹介します。
「インデックスファンド」=コストが安くて平均と連動
「アクティブファンド」=平均に勝ちに行く!
 投資信託の運用スタイルは主に「パッシブ運用」と「アクティブ運用」の2つにわけられます。
 まず、「パッシブ」(消極的)運用というのは、あるまとまった市場全体の動きを反映するように運用する手法のことです。たとえば、日本株の場合、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)などの指数(インデックス)と同じように動くことをめざす「インデックスファンド」が、パッシブ運用を取り入れた代表的な商品になります。いわば、特定の指数と同じような運用成績を、できるだけ安いコストで実現することをめざした運用手法といえます。
 逆に「アクティブ」(積極的)運用とは市場平均や指数を上回ることを目指す手法です。ファンドマネジャーという運用するプロが銘柄を選び、投信に組み込みます。手数料はインデックスファンドと比べると高めです。

新興国へ投資する投資信託は
8〜9割が「指数」に負けている!?
 実は、目標とする指数(ベンチマーク)に勝てるアクティブファンドは少数派です。投信ではよく「ベンチマーク」という言葉がでてきます。ベンチマークというのは、投信が運用の目標とする指数のことをいいます。
 たとえば、日本株に投資する投信であれば、TOPIX(東証株価指数)がよく使われます。インデックスファンドの場合は「このベンチマークにぴったりの動きをする」ということを目標としています。
 専門用語でいうと「ベンチマークとかい離していないか」が評価のポイントになります。
 これに対して、アクティブファンドは「ベンチマークを上回ること」を目標としています。運用担当者が個別の会社を分析したり、市場を分析したりして、株価が上がりそうな会社などに投資することで、頑張ってベンチマークを上回る成績をだそうとするわけです。しかし、この平均を上回る成績というのがとても難しいのです!次のページでデータで見てみましょう。
全体の6割以上のアクティブファンドが
「平均」(ベンチマーク)に負けている
 以下の図は5年間で、目標とする指数(ベンチマーク)に負けたアクティブファンドの比率を示しています。ベンチマークとする指数を下回るアクティブファンドの比率の高さに驚いた人も多いかもしれませんね。

 これからもわかるように、継続的に目標とする指数を上回る成績をあげ続けることができるアクティブファンドはじつは少数派なのです。こうした現実を踏まえた上で、それでもアクティブファンドを選ぶなら、インデックスファンド以上にしっかりとその投信の運用スタイルや中身、実績をみる必要があります。逆にいえば、その手間をかけたくない人はインデックスファンドを保有すれば十分だと思います。
日本で売られている約4000本の投信のうち
なんと9割がアクティブファンド
 じつは、日本で販売されている株式投信というのは、圧倒的にアクティブファンドが多いのです。2012年10月末時点で株式投信は3937本あります。そのうちインデックス型の投信は281本と全体の7%程度。残りの3656本(約93%)はアクティブファンドが占めているのです。残高はどうでしょうか。株式投信全体の純資産残高は約47兆7700億円程度です。そのうち、アクティブファンドの残高は約42兆5900億円ですから、やはり約90%はアクティブファンドということになります。
 この本で、資産形成の土台づくりに適していますよ、といったインデックスファンドの残高は意外と少ないのです。

 ですから、皆さんが銀行や証券会社で目にする販売用の資料や、売れている投信のランキングに登場するのは、アクティブファンドがほとんどだと思います。ただし、たくさん売れている人気ファンドがよい投信かといえば、それは別の話です。
売れている投信がいい投信とは限らない!
 日本で売れている投信をみると、目先の分配金の多さを売りにするタイプの投信や、その時々のテーマをうたった投信などが目立ちます。
 たくさん売れた商品は何かと話題になってメディアに取り上げられたり、宣伝を行ったりするので、目にする人が増えてさらに残高が増えるという面もあります。けれど、売れている投信の運用成績が必ずしもいいとは限りません。なかにはずっと目標とする指数(ベンチマーク)を下回る成績が続いているのに、売れ続けていた商品もあります。以下の図をご覧下さい。これは「日本株式」「先進国株式」「先進国債券」というように、同じカテゴリーの中で純資産総額がいちばん多い投信と、運用成績が上位に位置する投信のトータルリターンをあげたものです。

 これをみると、必ずしも成績のよい投信にお金が集まっているわけではないことがわかります。逆に、成績がよくても純資産総額が少ないという商品も多いのです。つまり、投信の場合、単純に「売れているから」「人気だから」という理由で飛びついてしまうのは避けたほうがいいということです。購入するときにはきちんと自分で調べた上で、しっかりと選択することが大切なのです。
 それでもアクティブファンドを選ぶなら、
・インデックスファンドと似たような動きをしていないか、中身が「かぶっていない」か
・投資方針がしっかりしていて、納得できるか
・新規に設定されたものではなく、過去の運用実績があるか
・サテライトにちょっと組み入れてもいいと思えるものか(プラスαのリターンを狙う、分散効果をはかる)
など、投信を保有する目的や役割をはっきりさせることも重要です。

アクティブファンドの選びかた、おすすめインデックスファンド名など詳細は本書↓にて!(編集部より)
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【第267回】 2013年2月6日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
資産家殺害事件で関心が集まる
「ファンドマネジャー」の仕事とは?
誰でもファンドマネジャー
になれるか
 スイス在住の資産家でファンドマネジャーの霜見誠氏夫妻が殺害された事件をきっかけとして、「ファンドマネジャー」という職業に関心が集まっている。特に、一部で霜見氏が「年収5億円」と報じられたことが、大きな要因のようだ。いったいどのようにして、そのような高収入が可能なのかとの興味を惹いたようだ。
 ファンドマネージャーとは、ひとまとまりのお金を指す「ファンド」(日本語を当てると「基金」)を「運用」(マネージ)する人を指す言葉だ。たとえば「アナウンサー」のように、一種の専門職だと言えるが、立場や仕事ぶりは多様だ。アナウンサーと同様、資格なしに誰でもなることができる職業だ。
 会社に認められるか顧客が付けば、人は簡単にファンドマネジャーになることができる。運用会社をつくる際に登録が必要だったり、業務の種類によっては免許が必要だったりするが、ハードルは高くない。
 日本には、ファンドマネジャーと呼べる人が、1千数百人くらいいると思われるが、その多くは、金融機関に勤務するサラリーマンだ。信託銀行、投資信託運用会社、投資顧問会社、保険会社などが主な勤務先であり、サラリーマン・ファンドマネジャーの場合、運用成績によってボーナスが上下する場合があるとしても、年収の水準は、所属する金融機関の普通のレベルであることが大半だ。
 主に外資系の運用会社などで、それなりに高給で処遇されるケースもあるが、概して言えば、外資系証券会社のトレーダーやセールスマンよりも収入面では地味だ。
 一方、本人やその仲間が運用会社を立ち上げてビジネスを行う場合、高収入が可能になる場合はある。それは主に、成功報酬型の契約による。
 ヘッジファンドと呼ばれる運用形態をはじめとして、独立系の運用会社が少数の顧客を相手に運用を受託する場合に、運用資産額の1〜2%くらいの固定的な運用手数料に加えて、「儲けの2割」というくらいの成功報酬契約を結ぶ場合が多々ある。
 たとえば、100億円を運用して3割儲かった場合には、成功報酬だけで6億円となるので、少人数の運用会社であればファンドマネジャーの年収が億円単位になる可能性は十分ある。
霜見氏の年収5億円は妥当?
高収入の源は「成功報酬」
 殺された霜見氏が、どのような顧客を相手に、どんな契約の下で資金を運用していたのか、現時点ではわからないが、数百億円の資産を運用していた時期があるようなので、「年収5億円」という年があっても不思議ではない。
 成功報酬型の手数料契約は、金融論的には運用資産の資産価値を原資産とするコール・オプションと経済的性質が等しく、その理論的な価値は、主にどれくらいのリスク(ボラティリティ)をとるかで決まる。
 率直に言って、「儲けの2割」という成功報酬は、通常の年率の固定的な手数料に換算すると高いことが多いし、しかも運用する側は自分でファンドのリスクを拡大することができるから、いわばお手盛りで報酬水準を拡大できる。
 成功報酬型の取引慣行は、世界的に広く行われているものではあるが、運用者側に著しく有利な場合が多く、筆者は「契約する側が金融論的に無知で愚かなのだ」と感じる。
 もっとも、年金基金のように他人のお金ならば問題だが、自分のお金をファンドマネジャーに任せる際に、納得してカモになるなら文句を言う筋合いではない。
 海外では1990年代から、日本でも2000年以降くらいから、独立系の運用会社を立ち上げる金融マンが目立つようになったが、これはこの種の成功報酬契約が「美味しい」からだ。
 もっとも日本の運用業界の場合、大手の銀行・証券・保険など、既存の金融機関の子会社が運用業界に占める割合があまりに大きく、独立系の個性的な運用会社の存在感が乏しかったが、成功報酬型の運用契約の普及は、独立系の運用会社を増やすことに少々貢献したという側面もあったとは言える。
大半は普通の金融機関並みの給料
派手ではないが、気分はいい
 さて、話を元に戻すと、ファンドマネジャーの大半は金融機関勤務のサラリーマン・ファンドマネジャーであり、運用する金額は数百億円、数千億円になることが珍しくないとしても、その収入は「普通の金融機関サラリーマン」の範疇だ。生活ぶりも、芸能ニュースに登場するような「外資系金融マン」と比較すると、ずっと地味なことが多いはずだ。
 ファンドマネジャーは、ファンドの資産を運用することによって増やすのが仕事だが(結果的に減ることはよくあるが、増やすことを目指しているはずだ)、運用対象は、内外の株式、債券、預金(外貨預金を含む)、各種の金融派生商品、商品、不動産など、運用対象は多様だ。何で運用するかは、運用会社とファンドマネジャーの得手不得手や、何よりも顧客との契約の内容で決まる。
 一番イメージし易いのは、株式に投資するファンドマネジャーだろうか。1日の流れを見ると、朝早めに出社して情報を集め、同僚と情報交換と運用方針の決定のために打ち合わせをして、朝の9時の株式取引スタートに臨み、午後3時の取引終了後は、会議を行ったり、資料を作ったり、企業調査に出かけたりする、といった仕事ぶりが典型的だ。
 投資対象・候補企業の工場を見学したり、経営者にインタビューしたりするタイプのファンドマネジャーもいるし、データとコンピュータを使って各種の分析を行うことが中心のファンドマネジャーもいる(筆者は後者だった)。
 ところで、金融業界には、「バイ・サイド」と「セル・サイド」という言葉がある。前者は、ファンドマネジャーが所属する運用業界側を指す言葉で、後者は顧客としてのファンドマネジャーを商売の対象とする証券会社側を指す言葉だ。
 率直に言って、バイ・サイドは自分にセールスする立場のセル・サイドに対しては立場が強い。セル・サイドは、しばしばファンドマネジャーの機嫌を取らなければならない。
 また、資金を投ずる立場なので、ファンドマネジャーが投資対象企業の経営者に面会を求めた場合などにも、割合簡単に会うことができるし、経営者もファンドマネジャーを丁重に扱うことが多い。
 総合的に見て、ファンドマネジャーは、人間関係の上で「気分のいい」仕事といっていいだろう。
勝てるか否かはおおむね五分五分
不確かな運用パフォーマンス
 しかし、ファンドマネジャーにも悩みがある。全てのファンドマネジャーに共通の悩みは、運用パフォーマンスが思うに任せないことだ。
 去年まで優秀な運用成績を上げていたファンドマネジャーでも、今年市場平均に勝てるか否かはおおむね五分五分なのだ(厳密には、五分五分を下回る)。運用の手数料を考慮に入れると、ファンドマネジャーの運用成績は市場の平均を下回ることの方が多い。
 しかも、過去に優秀なパフォーマンスを上げていても、将来のパフォーマンスが優れているか否かについては、大まかには五分五分なのだ。つまり、いつでも、そして、いつまで経っても、自分の運用成績に対して自分で自信を持つことができない。
 また、たとえば何十年も運用経験のあるベテランのファンドマネジャーでも、「これから競争しよう」という条件では、「運のいい素人」にはとてもかなわないのが実情だ。
 運用パフォーマンスに関するストレスは、根本的に消えようがない。ストレスで判断が狂う「ストレスが頭に来る」タイプや、ストレスで胃が痛む「ストレスが腹に来る」タイプは、ファンドマネジャーには向かない。
 ファンドマネジャーにとって運用パフォーマンス以外にもう1つあるストレス源は、顧客に関するものだ。
 通常のビジネスにあって、ファンドマネジャーにとっての最悪の事態は、顧客による「解約」だ。解約されると収入がなくなるし、仕事の対象自体がなくなる。努力のしようもなくなるのだ。
 したがって、パフォーマンスの悪いときにも、顧客にその状況を納得して貰いつつ、今後に期待をつないで貰うための、「洗練された、真剣な、言い訳」の技術が必要になる。
セールスが上手い人が勝つ
独立系は実質セル・サイド
 また、特に独立して会社をつくったファンドマネジャーだと、証券会社や投資先に対しては「バイ・サイド」であっても、顧客及び潜在顧客に対しては100%「セル・サイド」の立場に立つことになる。
 たぶん、運用が上手いよりもセールスが上手い方が、独立系のファンドマネジャーとして成功できると言い切っても間違いではないだろう(注:運用の上手さは、そもそも安定したものではない)。
 自分で運用会社を経営している場合、運用資産を求めて、さまざまな相手にアプローチすることになるし、その中には、後でトラブルになりかねない「普通でない客」が紛れ込むことがあり得る。運用資金を獲得する営業活動も重要なのだが、顧客を選ぶことも大切なのだ。
 俗に、お金は「命の次に大切なもの」と言われる。つまりお金は大切だが、運用の、つまりお金に関する失敗で、命まで取られるという事態は尋常ではない。
 顧客が「普通」の相手なら、悪い場合で「解約」、よほど腹を立てた場合でも、契約や法令の違反なりで相手を訴えて、賠償金を取ろうとしたり、運用の仕事ができなくしたりしよう、といったことが起こり得るかも知れないが、ファンドマネジャーを「殺そう」とすることはないだろう。
 殺された霜見氏は、まったくお気の毒なことであったが、「普通」ではない顧客のお金を預かってしまったのではないだろうか。


07. 佐助 2013年2月06日 08:19:52 : YZ1JBFFO77mpI : TUhrPgEJIU
「政治経済の指導者」や財務大臣は「貧乏人や中小企業は首をつって死ね(そうすれば淘汰され景気は早く回復する)」と、常々思っています。しかし自然エネルギーから産業革命を10年前倒しすると未曽有の繁栄をもたらします。

現在進行中の景気の波及効果は@情報通信,A自動車,Bサービス産業,Cその他住宅建設が基本産業で全産業の生産&雇用の75%を占めている。但し好不況に関係なく色・柄・素材・形(デザイン・ディテール)・技術の要素を組合せ合成すると、どんな大ヒット大ブームを発生させる。特に長期の大不況期には売上と利益を三倍にする。また「丸・下・狭」のスタイリング革命車が、苛酷な不況下で、毎年三倍の売上と利益を獲得できる。そしてトップ企業の位置の入れ替えが発生する。

「時代の流れを読み取ること」
例えば乗用車の2ボックス型では、軽乗用車の方が受け入れやすい。そのため、軽乗用車の生産販売が普通乗用車を追い越す。又、丸(曲線)型の流行は、スポーツ車が受け入れやすいために優位となり、他の車種もスポーツ車の流行を取り入れる。車の占有率は75%が3BOX型(セダン)から2BOX型(ミニバン,ジープ,レジャー,ワゴン,ハッチ&ファーストバック)に移行乗用車化し,占有率が75%となる。そして1・5BOX型(ミニバン,ミニワゴン)を経て1BOX型(スポーツ,クーペ,ワゴン,バス)に乗用車の75%が1BOX型車になる。車は必ず2BOX型時代と1BOXの時代がくる。2BOX型がセダンとよばれ2030年に1BOX型車を多数派にする。結論から車の税金を安くして,ディーゼルエンジンを搭載。2&1,BOXにすると毎年3倍以上は売れることになる。さらに「丸・下・狭」のスタイリングを重視すると普及は加速する。但し本命は燃料電池・太陽半導体電子です。飛行機も車も建設機械も画期的に変わります。

2020年までは「ルールを破壊することがカッコいい」という価値尺度が多数派になる

日本の基幹産業は、戦後は化学肥料・セメント・布帛の三白景気に、砂糖や紙を加えた産業が、基幹産業とよばれた。今日では、自動車産業とエレクトロニクス産業と建築産業の三大基幹産業が、国内の好不況の景気循環に影響を与えている。これらの基幹産業の売上と利益の25〜75%をしめる.要な商品アイテムが、ミニバブルとミニパニックを発生させる。それが同期すると、景気後退の谷は深くなる。そして、長期の景気上昇期には、山と谷の期間の比率は3対1となるが、長期の景気下降期には、比率は1対3に逆転する。

「1年は続く素材技術の消費ブーム」そのあとに地獄
2013年は、素材・形(デザイン・ディテール)・技術の要素が、一斉に反転する珍しい年になる。一時的に素材消費ブームとなり「景気は回復した」とマスコミは騒ぐ。しかし物価が上昇し景気が下降するスタグフレーションを経験する。そして経済指数三分の一以下という長期不況に突入しなければならない。素材技術の消費ブームは1年半続くと見られる。


08. 2013年2月06日 08:33:32 : 4gh4sp6YZw
>>1/3/4/5/6
・・・のコメント欄に長文記事でコペビ乱入している 「xEBOc6ttRg」?
・・・アラシ投稿で追放された「MR」?
だとしたら、往生際の悪い女々しいやつだ!!

09. 2013年2月07日 00:54:04 : xEBOc6ttRg
2013年2月7日 橘玲
橘玲×藤沢数希 特別対談
「金融幻想の終わり」を語る!(1)
それでも外資系金融は終わらない!?


『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』などで、個人の資産運用に革命的な示唆を与えプライベートバンクの実情にも詳しい、作家・橘玲氏と『外資系金融の終わり』がベストセラーになっている、藤沢数希氏との初めて対談が実現。金融業界の裏側をセキララに語り合った内容を4回にわたって掲載する。その第1回は、外資系金融の実情について。

『外資系金融の終わり』が暴いた「金融幻想」の終わり

橘玲(以下 橘) 『外資系金融の終わり』を読ませていただいて面白かったのは、「金融」というビジネスが、どんどんショボくなってきていることがわかりやすく書いてあったことです。外国のプライベートバンクに何人か知り合いがいるんですけど、彼らは日本に来るといつも最高級のホテルに泊まり、最高級のレストランで食事をして、優雅なビジネスをしていたんです。それが2008年を機にどんどんリストラされていなくなり、辛うじて残ったバンカーたちもサラリーマンになってしまった。ハリボテかもしれないけどキラキラした感じがなくなったなって思っていたんです。それと同じことが、投資銀行の世界でも起きているんだなというのがわかりました。

藤沢数希(以下 藤沢) バブルの頃は、実際に儲けていたから「スゴイ」と言われていたけど、金融危機で投資銀行業界は大変な損失を出して、2009年には一旦は回復しましたが、それから儲けもしょぼくなってきたし、金融業界やそこで働くプロに対する幻想ははじけ飛んでしまいました。まさにハリボテでしたね。いい意味でも、悪い意味でも、金融とか経営コンサルティングの業界って「なんだかよくわからないけどスゴそうだ」っていうオーラみたいなものがないとダメなんですよね。でも、プライベートバンクは、業界がそういうオーラを放っていた頃でも、日本では流行りませんでしたね。

橘 ええ。なので彼らはいちいちスイスや香港からやって来ては「外国には本物のプライベートバンクがありますよ」という営業トークしていたわけです。そのプレミアム感が、彼らの超過利潤の源泉だった、というのが僕の理解です。

藤沢 なるほど。しかし、海外のプライベートバンクは日本ではことごとく失敗に終わっています。メリルリンチもUBSもずっと苦戦していたし、HSBCのプライベートバンクは日本から撤退してしまいました。日本の銀行は、いろいろやろうとしていますけどね。といっても、海外のそれとはずいぶん違っていて、貯金をたくさん持ってそうな人に投資信託を売りに行くだけですけど(笑)

橘 わけのわからない金融商品を売りつけるっていうビジネスモデルですね。

藤沢 日本の銀行はなかなか上手くやっているらしいですよ。団塊の世代がどんどん退職して、2000万円とか3000万円の退職金がどーんと振り込まれるじゃないですか。それで入金を見つけたら電話を掛けて「プライベートバンキングサービスどうですか」って。

橘 でも、特別な商品があるわけでも、有利な運用ができるわけでもないんですけどね。

藤沢 スイスのプライベートバンクだったら、子どもをスイスの学校に入れたいという時に、いろいろ口を利いてくれたり手続きを代行してくれたりとか、そういうのはあるかもしれません。

橘 そんなサービスが必要なのかといわれたら微妙ですけど(笑)。スイスのプライベートバンクと言えば、2008年に大きなスキャンダルがありました。UBSがアメリカで脱税の幇助をしているというので…

藤沢 告発したUBSの従業員がアメリカ政府から1億400万ドル(当時のレートで約80億円)という報奨金を貰ったっていうやつですね。

橘 そうです。あれはすごく象徴的な事件だったと思うんです。つまり、アメリカにもメリルリンチやシティバンクに富裕層向けのプライベートバンクがあるでしょ。そういう中で、スイスのプライベートバンクのアドバンテージと言えば「スイスなら脱税できます」ってことしかなかったんだと。手品の“タネ”がバレたみたいに、決定的にわかってしまった。

藤沢 そりゃそうですよね。富裕層向けということで、何か特別な運用ができるなら、商品にせず自分達で運用してればいいわけですからね。アメリカのプライベートバンクになくて、スイスのプライベートバンクにあったのは、税務当局から見えにくい「匿名性」だけだったという。でも、そうは言ってもUBSもクレディ・スイスも、プライベートバンクはそこそこ儲けてるんですよ。

左:『海外投資の歩き方』サイトも運営する橘玲さん。右:『外資系金融の終わり』がベストセラーになっている藤沢数希さん
橘 今も、うまくいってるんですか。

藤沢 プライベートバンク自体は、富裕層からお金を預かって、金融商品を売ったりして手数料を稼ぐという、手堅いフィー・ビジネスなんですよ。だから、うまく行ってるというか、昔と変わらないけど、金融危機前までは派手に自らリスクを取って儲けていた投資銀行部門がコケたので、相対的に浮かび上がったんですね。

橘 なるほど。

藤沢 今、世界的に金融の規制を強めようという動きがありますよね。例えば「バーゼル3」では、国際的に業務展開している銀行に自己資本をさらに積み増すことを要求しています。これをクリアすれば健全性は高まるけれど、資本コストが上がるので競争では不利になります。だから、皆が一斉にやらないといけないわけですが、米国が間に合わないとかでタラタラ先延ばしにしています。

橘 2012年末から段階的に導入して、全面的に適用するのは2019年からってことになってますね。

藤沢 でも、スイス政府はすごく積極的で、UBSやクレディ・スイスに前倒しで実行させようとしてるんです。

橘 なぜ、自国の銀行が不利になることを、スイスはあえてやろうとしているのでしょうか?

藤沢 スイス政府が危ないと思っているからでしょう。UBSやクレディ・スイスは、投資銀行の世界では英国や米国に比べれば、所詮“2流プレイヤー”なんです。それでも銀行全体ではスイスのGDPの何倍もの資産を持っているわけですから、下手に張り合って失敗されたら自国では救済できませんからね。次の金融危機で、自国の銀行を自国で救済できないとなると、永世中立国としての地位が危うくなります。だから、不利を飲ませても健全性を高めて、未だに国際的に競争力のある「プライベートバンクの国」としてのブランドを守りたいんじゃないか、と。

橘 なるほど。私がUBSの人に話を聞いた時は、まだ投資銀行がものすごく儲かっていた時代で、「プライベートバンク部門は完全に窓際だ」とぼやいていました。

藤沢 スイスは投資銀行の分野では遅れてやってきプレイヤーだったんですけど、それでも2007年くらいまではものすごく儲かっていました。プライベートバンク部門は、窓際というよりも左遷部署で(笑)。ところがサブプライム危機で投資銀行部門はいっぺんにダメになってしまい、左遷部署でも毎年きちんと儲けていたプライベートバンク部門が主流に戻ってきたという。

橘 プライベートバンクはいろんな国にありますが、やはり巨額の資産を預けるとなるとスイスの伝統は強いんでしょうね。

藤沢 だから、UBSは投資銀行部門をめちゃくちゃリストラしています。債券部なんてやめちゃうくらいの勢いです。債券部って現金で債券を買って、1%程度の薄い利回りで儲けを出さなきゃいけない。だから、バーゼル3などの規制で、資本コストが上がると、ビジネスとして成り立たなくなっちゃうんです。また、サブプライム危機も住宅ローンを組み込んだ債券や派生商品が暴落したのが原因ですけど、こうした薄い利回りで儲けるために突っ込む元本はどんどん巨額になるので、それが暴落すると一気に銀行が潰れそうになってしまうんですよね。

橘 で、プライベートバンクに回帰というわけですか。かつてのように、何があっても顧客の匿名性を守り抜くということはなくなったけれど、消去法で考えたらわざわざ他国へ移すほどの理由はないし。

藤沢 そうそう。脱税とまではいかなくても、見えにくいところに置いておきたいというニーズはたくさんあるんですよ。脱税の場合、米国政府に出せと言われたら弱いけど、民事訴訟くらいだったらスイスに口座があればそれなりにプロテクションになりますよね。

次のページ>> 国際金融におけるアメリカの役割


橘 リヒテンシュタインのプライベートバンカーが言うには、彼らの一番の顧客はロシア人なんです。次は中国に進出したいといって、中国人スタッフを雇っていました。考え方はすごくシンプルで、彼らの顧客は“自分の近くにお金を置いておけない人”なんですね。いくら稼いでもプーチンや共産党政府に睨まれたら投獄されるかもしれない。そういう国ですから。そこにプライベートバンカーがこっそり行って、オフショアに会社を作ってあげて、お金を上手に逃避させてあげるという。これだけでも結構儲かるんですね。

藤沢 先日、マカオに行ってきたんですけど、マカオのカジノの総収入って、いまや年間300億ドルで、ラスベガスの70億ドルの4倍以上なんですよ。これも中国本土のお金持ちが、政府にいつ財産取られるかわからないので、マカオのカジノでお金の出所をわかりにくくして、いろいろなところに分散させる、広い意味でのマネー・ロンダリングみたいなことをしてて、それでマカオに資金が流れ込んでるみたいなんですよね。

橘 中国人は全く中国政府を信用してませんよね(笑)

藤沢 それに、ロシアや中国から“人には言えないお金”が集まってきて、顧客が死んじゃって、誰も遺族とかが取りに来なかったらお金は実質的に銀行のものになっちゃいますよね。プライベートバンクには、そういうお金も結構あるんじゃないかと思うんですよ。スイスのプライベートバンクには、昔はナチスとかいろんなところのヤバイお金がたくさんあったらしいですし。

橘 最終的に銀行のものになるとしても、100年くらいは取っておくんじゃないでしょうかね。引き出す人がいなければ、自分のものと同じですけれど。後は、アフリカの独裁者のお金とか。まあ、ボロい儲けですよね。

藤沢 このまえ英国のHSBCがイランに金融サービスを提供していたとして、米国政府から史上最大の罰金を食らっていましたよね。HSBCは戦争の前から普通にイランと取引をしていて、米国が戦争するから口座を凍結しろとかってちょっと理不尽だったんですけど。

橘 メキシコの麻薬マネーのロンダリングをしたという件と合わせての、罰金ですね。19億ドル(約1700億円)でしたっけ。

藤沢 国際的な金融ビジネスで、警察みたいな役割ができるのは結局米国しかいないんですよね。だってもしHSBCが日本でマネーロンダリングしてて、日本政府が「罰金だ。19億ドル払え」と命令しても、払ってくれるかどうか…

橘 無視するでしょうね(笑)

藤沢 やっぱり米国なんですよ。だから国際的な金融規制も、米国が頑張るしかない。でも、その米国で金融業は政治力が強くて、世界の利益よりも、もちろん自分たちの業界に利益が最優先なわけで…。『外資系金融の終わり』っていう本を出して言うのもなんですけど、なかなかしぶといですよ。(第2回に続く)

●橘 玲(たちばな あきら)

作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。最新刊『不愉快なことには理由がある』(集英社)が発売中。ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。

●藤沢数希(ふじさわ かずき)

欧米の研究機関にて、理論物理学の分野で博士号を取得。科学者として多数の学術論文を発表した。その後、外資系投資銀行に転身し、マーケットの定量分析、トレーディングなどに従事。 おもな著書に『なぜ投資のプロはサルに負けるのか?』『日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門』、『外資系金融の終わり』(いずれもダイヤモンド社)がある。ツイッターのフォロワーは7万人を超える。

(撮影/和田佳久 構成/渡辺一朗)

橘玲の世界投資見聞録]
台湾・金門島と中国・厦門、それぞれのアイデンティティ

1
2
3
 船戸与一の『金門島流離譚』を読んでから、ずっと金門島を訪ねたいと思っていた。

 主人公は元敏腕商社マンの藤堂義春で、今は落ちぶれて金門島で密貿易のビジネスをしている。なぜ金門島かというと、そこが「現代史のなかでぽっかり開いた空白の島」だからだ。

 金門島は、中国・福建省の港町アモイからわずか2キロほどしか離れていない。この島が特別な理由を藤堂は、作中でおよそ次のように説明する。

 日本統治時代の台湾とは、台湾本島と澎湖島のことで、金門島や(同じく福建省の沿岸にある)馬祖島は含まれていなかった。だが国共内戦に敗れた蒋介石軍が台湾に落ちのびるとき、人民解放軍の追撃に備えて金門と馬祖に兵力を残したため、いまも台湾の実効支配が続いている。中国共産党は、1949年の上陸作戦と58年の砲撃戦でこの2つの島を奪還しようと試みたが果たせなかったのだ。

 とはいえ、台湾国民党が受け継いだのは旧・日本の版図だけだから、国際法上、金門と馬祖が台湾領だという根拠はどこにもない。金門島では台湾ドルが流通し、台湾の教育が行なわれているが、島民にはここが台湾領で、自分たちが台湾人だという自覚があまりない。かといって、中華人民共和国の領土だとも考えておらず、どこにも帰属意識のない奇妙なことになっている。

 中国共産党はもちろん、金門島を自国の領土と見なしている。金門島の住人は「中国国民」になるから、金門島の戸籍を持っていればアモイの入管は査証なしで通過できる。すなわち、彼らは中国と台湾をビザなしで自由に行き来できるのだ。

 そのため金門島は、煙草や高級ウイスキー、ブランデー、音楽CDやゲームソフト、高級ブランドの衣類やバッグ、時計などのコピー商品の一大集積地になった。たとえばブランド品のバッグは、タイから送られた原材料を広東省の山のなかの秘密工場で加工したもので、鑑定士でなければ偽物と見破られないくらい完成度が高い。そんなコピー商品が、現代史の空白を利用してこの島に集まってくるのだ……。

金門島の歴史

 1958年に台湾海峡を挟んだ砲撃戦が勃発すると、金門島は軍事的要衝として一般人の立入りが厳しく制限され、島内には台湾軍の精鋭部隊が展開された。1996年の台湾総統選挙で独立派の李登輝が優勢に立つと、「一つの中国」を国是とする中国共産党政府は大規模な軍事演習を行ない、それに対抗して米軍が台湾沖に空母を派遣したことで、東アジアの軍事的緊張は一気に高まった。

 しかしその一方で、中国が改革・開放政策で市場経済と外資導入に大きく舵を切るにつれて、両国の関係は大きく変わっていった。

 もともと台湾人(本省人)の多くは福建省の出身で、台湾語は閩南(ビンナン)語(福建語)とほとんど同じだから、彼らは異なる国の国民というより同郷人だ。東南アジアで成功した華僑財閥の多くも福建の出身で、彼らが台湾人の企業家や投資家とともに故郷の町や村に工場を建て、積極的に投資したことで、かつては中国でも貧しい省のひとつとされた福建は大きく発展した。

 こうして、台湾海峡の危機から10年も経たないうちに、アモイ(福建)と台湾は急速に経済的に一体化していく。

 軍事の最前線だった金門島は、92年に戒厳令が解除された後、多くの台湾人が訪れる観光名所になった。その後、中国が台湾人の渡航を緩和したため、金門島経由でアモイを訪れるツアーが大人気になった。金門島の商店は台湾人旅行者のために中国本土の(コピー商品を含む)安い物産を並べ、アモイの町には金門島経由で台湾の物産が流れ込んだ。

 これが、『金門島流離譚』の背景だ。

次のページ>> 金門島にわたる

以前は外国人の渡航が禁止されていたというが、アモイの東渡港国際フェリーターミナルから金門島に渡るのは拍子抜けするほど簡単だった。


金門島に渡る国際フェリーターミナル (Photo:©Alt Invest Com)
 チケットは行きが160元、帰りが650台湾ドルで、日本円にして1000円前後だ。出入国管理はあるものの、大きな荷物がなければ税関はフリーパスで、外国に行くというよりも近くの島に遊びに行く、という感じだ。

 平日にもかかわらず客室は半分くらい埋まっていて、その多くは中国人の観光ツアーのようだった。1時間ほどで金門島の水頭碼頭に着くと、ATMで台湾ドルを下ろし(ATMは隣の出発ロビーにしかなく最初は戸惑った)、タクシーで10分ほどの金城に向かう。ここが金門島の中心地だ。

 金門島の魅力は、経済発展前の中国・台湾の片田舎の古い街並みが残っていることだ。軍事優先で都市開発が制限されていたためで、台北が近代都市になるにつれて“古きよき時代”を懐かしむひとたちがやってくるようになった。趣のある道教寺院の前に戦前の日本のような古い木造の商店街がつづき、観光客相手に土産物や貢糖(ピーナッツ飴)などを売っている。


こんな昔ながらの薬局が残っている。シャッターを下ろした店も多い (Photo:©Alt Invest Com)
 金城は30分もあれば一周できる小さな町で、団体客が泊まれるるような大型ホテルはない。台湾からの観光客は、古い街並みと、翟山(ディーサン)坑道などの中台紛争の遺跡を駆け足で見学すると、そのまま水頭フェリーターミナルからアモイに向かう。街はひなびた田舎の観光地という雰囲気で、時折、駐屯する台湾軍の兵士たちとすれ違うものの、彼らの表情から緊張は窺えず、若い男女が雑談しながら歩いている様子は軍服さえなければデートのようだ。


台湾軍が掘った坑道。いまでは金門島の観光の目玉 (Photo:©Alt Invest Com)  
 2001年から金門島・馬祖島と中国のあいだで小三通と呼ばれる通商、郵便、直行航路が開始され、2009年には金門島の住民だけでなく台湾人も、出入境証明があれば金門・馬祖から直接中国大陸に渡ることができるようになった。こうして金門島発着の中国ツアーが人気を集めるようになったのだが、経由地であるこの島に大きな恩恵をもたらすことはなかったようだ。

 船戸与一の『金門島流離譚』が出版されたのが2004年で、それから10年もたたないうちに、「パチモノの島」の様子もずいぶん変わってしまった。船戸はこの島を「すべてが偽物でできている」と描いたが、観光客相手の土産物屋に並んでいるのはいまは地元でつくる高粱酒や海産物の干物ばかりだ。コピー商品は(すくなくとも表舞台からは)姿を消し、衣料品店には中国産の安い服やバッグ、靴などが並んでいる。


金城の商店街。まるで戦前の日本のよう (Photo:©Alt Invest Com)

 コピー商品の代わりに、いまでは包丁が金門島の特産品になった。58年の砲撃戦の後、島のひとたちが鉄の砲弾を溶かして包丁をつくるようになったのが始まりで、「金門剛刀」は包丁の高級ブランドだ。

『金門島流離譚』では、殺人事件をきっかけに、「ニセモノの島」に次々と「ニセモノ」たちがやってくる。だがひなびた街をいくら歩いても一片の禍々しさも感じられず、名物の蚵仔麺線(牡蠣入りソーメン)を食べてアモイに戻ることにした。

次のページ>> より「台湾化」している厦門

はるかに台湾らしい中国・厦門

 金門島が観光地としていまひとつ飛躍できないのは、アモイが金門島よりもはるかに「台湾」化してしまったからだ。

 アモイAmoyというのは廈門(シアメンXia Men)の閩南語読みで、中国人貿易商の父と日本人の母を持つ鄭成功が、明末・清初にアモイと台湾を清への抵抗運動の拠点にしたことで知られている。このことからわかるように、もともとアモイと台湾は同じ文化圏というか、同じ地域の本土と島の関係にある。

 アモイの繁華街は中山路だが、ここには「風台(台湾風)」の看板を掲げた土産物店がずらりと並んでいて、海産物を中心に台湾や金門島の特産品はすべて買える。その近くには「台湾夜市」という屋台街があり、台北の道教寺院・龍山寺の夜市にも劣らぬ賑わいだ。海外旅行には縁のない中国本土のひとびとにとって、アモイはいまでは「パスポートなしで行ける台湾」になった。


アモイの繁華街、雨上がりの中山路 (Photo:©Alt Invest Com)
 アモイの最大の観光地はコロンス島で、街の中心にあるフェリー乗り場から片道8元(約100円)、所要時間10分ほどの距離だ。

 コロンス島は、アヘン戦争後に結ばれた南京条約で、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、日本など列強の共同租界が置かれ、各国の領事館や学校、教会などがつくられた。赤レンガ造りの洋館が立ち並ぶ一角は、まるでヨーロッパの街に迷い込んだかのようだ。世界遺産に登録されたことで中国全土から観光客がやって来るようになったが、路地に入ればいまでも往時の雰囲気を感じることができる。


洋館が立ち並ぶコロンス島 。路地に入ればまるでヨーロッパ (Photo:©Alt Invest Com)
 コロンス島は、いまでは台湾からの観光ツアーの最大の目玉でもある。島を見渡す日光岩やホワイトハウスを模したアモイ博物館は、中国と台湾の観光客でいっぱいだ。


アモイの台湾夜市。ものすごい活気 (Photo:©Alt Invest Com)
 中国と台湾は2つの異なる「国」だが、福建のひとたちは、北京や上海、広東の人々とは普通話でなければ会話ができず、台湾のひとたちとは母語である閩南語で話している。だとしたら、彼らのアイデンティティはどこにあるのだろう。

 アモイの台湾夜市で台湾B級グルメの鶏肉飯を食べながら、そんなことを思った。


鶏肉飯は15元 (Photo:©Alt Invest Com)

作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。最新刊『不愉快なことには理由がある』(集英社)が発売中。ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。


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