08. 2013年2月06日 00:55:13
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中国のバブルはまたやってくる経済の投資依存体質は変わらない 2013年2月6日(水) 肖 敏捷 習近平氏の共産党総書記就任を契機に、中国ではどのような変化が起き始めているのか? もちろん、就任からまだ3か月も経っておらず、3月5日から始まる全人代での政府の人事交代が控えているため、この時点で変化があったかどうかを議論するのは性急すぎるきらいがある。しかし、変化の兆しが出始めているのは否定しがたい事実だろう。 会議に花を飾ってはいけない 昨年末、北京で開催されたあるフォーラムで、朱鎔基元総理の秘書を務め、現在は国務院発展研究センターの主任である李偉氏がスピーチした。その中で、最近、花卉の販売量が8割減少したというエピソードに触れた。習近平氏が就任してから、会議を開催する際、「花を飾ってはいけない」という通達が出されたのが原因だとみられる。確かに、前回のフォーラムで李偉氏がスピーチした際の写真を見ると、演壇が綺麗な花で飾られていた。 また、この通達の中では、指導者などが外出した際、「道路を封鎖してはいけない」という決まりも設けられた。2012年12月、深圳などを視察した際、習近平氏は中型マイクロバスに乗り、一般車と同じように信号を守り、沿道では道路封鎖がなかったという。警備を担当した広東省公安庁のトップは、途中、1台の乗用車が習氏の車列にむりやり割り込み、あわや追突事故になるところだったという「美談」を披露した。 現在、中国では地方政府の全人代が開催されている最中だが、節約が話題となっている。会議に参加する代表たちは高級ホテルに宿泊せず、宴会や接待は一切禁止、食事はバイキング式、飲み物はお湯だけなど、節約を競い合っている。そのため、高級レストランの予約は次々とキャンセルされ、接待に欠かせない白酒の需要が急減したという。 筆者もこれまでは、全人代が開催される3月中は混雑を避けるため、なるべく北京出張を避けていた。一度、食事後にお客さんなど10人ほどを連れてカラオケへ行った際には、すべての部屋が某地方政府の代表団に占領されてしまう事態に遭遇したこともある。しかし、今年3月に全人代開催中の北京では、全く違う景色がみられるかもしれない。 2013年1月22日に開催した中央規律委員会のスピーチで習近平氏は、「踏石留印、抓鉄有痕」(石を踏んだら足跡を残せ、鉄を掴んだら痕跡を残せ)という非常に強烈な表現を使った。最近、内外の報道で、高級住宅を投げ売りしたり、札束をスーツケースに詰め込んでアメリカなどの入国審査に引っかかったりする関係者が急増したと伝えられていることから、「習近平講話」のアナウンス効果は相当大きいのではないかと推察する。 また、国民の監視の目が厳しくなるにつれ、どんな時計を付けているのか、どんな服を着ているのか、誰と食事をしているのかが、いつネット上に流されても不思議ではない状況下、戦々恐々かつ不自由な日々を過ごしている関係者も少なくないはずだ。 従って、これらの動きから見れば、習近平氏が就任してから確かに変化が起き始めたといえる。今後、汚職や腐敗などで摘発される党や政府の大物幹部が増えれば、国民は快哉を叫び、習近平政権に対する期待が一段と高まるに違いない。 しかし、役人たちが清廉潔白あるいは品行方正になるのは、マイナスからゼロになっただけの話にすぎない。こういった類の話は法律や警察に任せ、習近平政権がより次元の高い政策課題に専念できるようになって初めて、中国はようやく本質的に変わったといえるのかもしれない。 めまいがするくらい強気な投資計画 こうした中、私が一番関心を持っているのは、金銭や酒色に対する共産党や政府の幹部たちの欲望が減退するかどうかのではなく、13億人の生活を両肩に背負っている政策決定者として、その投資に対する欲望が今後変わるかどうかである。残念ながら、現時点では、そのような変化が起きる兆しすら見えないと言わざるを得ない。 前述した通り、3月5日に北京で全国レベルの全人代が開催されるまでに、地方政府の「全人代」が相次いで開催される運びとなっている。開幕式では、地方政府の行政トップに相当する省長などが「政府活動報告」を行い、経済成長目標などの抱負を述べるのが慣例である。 報道によると、現時点では、半数以上の地方自治体が今年の固定資産投資の伸び率を前年比20%増と設定しており、10%以下と設定したのは北京市だけだった。ほとんどの地方政府の2012年の固定資産投資額の伸び率は20%を超え、中でも、貴州省が53%増と伸びが目立ったほか、新疆、青海、黒竜江など30%増を超えた地域も少なくなかった。 地方政府が競って強気の固定資産投資計画を打ち出す最大の理由は、都市化の推進である。3月の全人代で総理に就任する予定の李克強氏が都市化を内需拡大の牽引車にすると再三表明していることを受け、地方政府は次々と野心的なインフラプロジェクトを打ち出している。例えば、ある地方政府は今年中に8本の地下鉄やモノレールの工事を始める計画である。地方政府ばかりではなく、政府関係者や専門家の間では、今後10年間で都市化により40兆元の新規投資を誘発する効果が期待できるとか、聞くだけで眩暈がするくらい強気の予測も飛び交っている。 私は都市化およびインフラ整備そのものに異議を唱えるつもりは毛頭ない。ただし、内需拡大であろうが、産業構造の転換であろうが、「美しい中国」であろうが、どんな素晴らしい成長戦略を掲げても、なぜ、必ず巨額な投資計画に直結するのかは理解に苦しむ。 例えば、1月28日に国家エネルギー局が発表したエネルギー発展戦略によると、第12次五か年計画」期間中に、合計13.5兆元の新規投資が必要と試算されている。各省庁が発表した投資計画を合計すると、天文学的な数字となることが危惧される。 国家統計局によると、2012年の中国の固定資産投資額は36兆人民元と、名目GDP総額(約52兆人民元)の7割に相当する規模となった。2013年について、「中国証券報」は2012年に比べてさらに8兆元増加するのではないかと予測している。 2008年末に中国が4兆元規模の景気対策を実施しただけで、中国景気のV字型回復を実現させたのみならず、そのスケールの大きさも世界を驚かせた。しかし、2013年にもし固定資産投資の新規増加分が8兆元に上れば、中国およびグローバル景気にどれだけのインパクトを与えるのだろうか。この巨大な投資計画を発表している当事者はおそらく誰も真剣に考えていないだろう。 高成長の背後に地方政府の不良債権の山 2012年の全国の実質経済成長率は7.8%増と13年ぶりに8%を下回ったにもかかわらず、地方自治体別でみると、7.8%という成長率を下回ったのは北京と上海のみであり、ほとんどが10〜14%前後の高成長を達成した。いうまでもなく、固定資産投資がその高成長の原動力となっている。しかし、この数字の背後に地方政府の不良債権の山が築き上げられているのではないかとの見方は、決して杞憂ではない。 2003年春、胡錦涛・温家宝政権が発足直後に、投資から消費へといったスローガンを打ち出したが、中国経済の投資依存体質を一段と強める結果となってしまった。今回の都市化は果たして新たな投資ブーム、とりわけ不動産開発ブームの口火を切るのであろうか。2013年1月の新規融資額が再び1兆元の大台を超えるのではないかとの観測が流れていることから、ブームは既に起き始めているのかもしれない。 都市化が内需拡大の最後の切り札だとすると、その方向性を誤れば、中国経済は取り返しのつかない結末を迎えるかもしれない。腐敗撲滅などを通じて、清廉潔白な政治を目指す習近平氏の挑戦と相まって、中国経済の投資依存体質を克服するため、地方政府の飽くなき投資欲望を抑制できるのか、全人代後、正式に総理に就任する李克強氏の手腕が問われている。 肖 敏捷(しょう・びんしょう) 中国武漢大学を卒業後、バブルの最盛期に文部省(当時)国費留学生として来日。福島大学や筑波大学に留学した後、証券系シンクタンクに入り、東京、香港、上海と転々しながら、合計16年間中国経済を担当。その後の2年間、独立系資産運用会社に勤務。現在、フリーのエコノミストとして原稿執筆や講演会などの活動をしている。「日経ヴェリタス」の2010年3月の人気エコノミスト・ランキング5位に。中国経済のエコノミストがベスト5に入るのは異例。現在、テレビ東京の「モーニング・サテライト」のコメンテーターを担当中。著書に『人気中国人エコノミストによる中国経済事情』(日本経済新聞出版社、2010年)などがある。 肖敏捷の中国観〜複眼で斬る最新ニュース
これまで20年間、東京、香港、上海における生活・仕事の経験で培ってきた複眼的な視野に基づいて、 中国経済に関するホットな話題に斬り込む。また、この近くて遠い日本と中国の「若即若離(つかず離れず)」の距離感を大事に、両国間のヒト・モノ・カネ・情報の流れを追っていく。中国情報が溢れる時代、それらに埋没しない一味違う中国観の提供を目指す。随時掲載。 点滅し始めた「崩壊」のシグナル 「地球社会への最終警告書」を読み解く(第1回) 2013年2月6日(水) 竹中 平蔵 1972年に世界的シンクタンク、ローマ・クラブが出した世界予測『成長の限界』は、資源枯渇や持続可能性について全世界が考えるきっかけになった。40年後の今、著者の一人、ヨルゲン・ランダースが『2052 今後40年のグローバル予測』を発表した。『成長の限界』を受け継いだ「21世紀の警告書」の中身を、同書日本語版の解説を執筆した竹中平蔵氏と著者ランダースの言葉からひも解く。まずは今回から2回にわたり、竹中氏による解説をお届けする。 『2052 今後40年のグローバル予測』(日経BP社) この1月、『2052 今後40年のグローバル予測』という本が上梓された。この本は、今から40年前、世界の人々に重大な警告を発したローマ・クラブ『成長の限界』(日本語版はダイヤモンド社、1972年)を受け継いで、21世紀への警告書としてあらためて世界に問い直したものだ。 著者のヨルゲン・ランダース(ノルウェービジネススクール教授)は、1970年代に「成長の限界」に関する研究が始まった時点から、直接・間接に地球社会の将来に関するこのような作業に関与してきた。まさに、元祖『成長の限界』の手になるこの本は、混沌の21世紀を私たちがどのように生きるべきか、貴重な道しるべとなる。 “21世紀のマルサス”か 経済学者である私としては、こうした警告の書を読むと、イギリスの経済学者ロバート・マルサスが18世紀末に記した、あの『人口論』を想起する。食料を生産するための耕作地の増加が人口の増加に追い付かず、人類は飢餓・戦争など悲惨な状況に突き進む……。マルサスがそう主張するのを聞いて、イギリスの歴史家トーマス・カーライルは「経済学はなんと陰鬱な学問(dismal science)か」と述べたという。 『2052』の著者ヨルゲン・ランダースは地球社会の将来に対し厳しい警告を発しているという意味で、21世紀のマルサスかもしれない。しかし同時に著者はこの本において、厳しい将来は私たちの行動で変えることができる、という主張も繰り返し述べている。ランダースの警告をマルサスのように陰鬱と受け取るかどうか、私たちの今後の行動次第であることも、重要な含意であろう。 以下では、2010年代初めの現時点でこの本を読む機会に恵まれた私たちが、いったいどのように問題提起を受け止め、いかに行動するべきなのか、考えてみたい。 復活、ローマ・クラブの警告 1972年にローマ・クラブが『成長の限界』を公表したとき、世界の人々は大きな衝撃を受けた。現状が続けば、人口増加と地球環境の破壊、さらには資源の枯渇などで、人類の成長は限界に達するという警鐘を鳴らしたのである。今でこそ、有限な地球、地球温暖化、グリーン革命など様々な言葉が飛び交っているが、その起源はすべてこの『成長の限界』にあったと言ってよい。「持続可能」(sustainable)という概念自体も、これがきっかけとなって定着していった。 ヨルゲン・ランダース氏(写真提供:ローマ・クラブ) このローマ・クラブは、スイスに本部を置く民間のシンクタンクだ。その20年後1992年には、続編に当たる『限界を超えて─生きるための選択』(日本語版はダイヤモンド社)も公表されている。
『成長の限界』が社会にもたらしたショックは、とりわけ日本において大きいものがあった。公表の時点で日本は、いまだ60年代の高度成長の余韻の中にいた。前年の1971年、ニクソンショックで1ドル360円時代は終焉していたが、それはむしろ日本の経済発展の結果を象徴する出来事と受け止められた。しかし1973年、第一次石油危機が世界を襲う。資源が有限であるという事実をまざまざと見せつけられた日本では、高度成長とは異なる新しい道を歩まねばならないことが、多くの人々の実感として受け止められた。 『2052』の出発点となる問題意識は、ローマ・クラブの警告にもかかわらず、人類は十分な対応を行わないまま40年が過ぎた、という点にある。ランダースは言う。 「『問題の発見と認知』には時間がかかり、『解決策の発見と適用』にも時間がかかる。……そのような遅れは、私たちが『オーバーシュート(需要超過)』と呼ぶ状態を招く。オーバーシュートはしばらくの間なら持続可能だが、やがて基礎から崩壊し、破綻する」(序章) 「しきりに未来について心配していた10年ほど前、私は、人類が直面している難問の大半は解決できるが、少なくとも現時点では、人類に何らかの手立てを講じるつもりはないということを確信した」(1章) 40年前の「成長の限界」の公表から間もないころ、日本人としてその作業に参加された茅陽一教授(当時東京大学)にお話を伺う機会があった。茅教授は、「この警告を人類はどの程度本気で受け止めるだろうか」と懸念しておられたことを記憶している。気がつけば成長の限界以降、さらに地球温暖化やグローバル金融危機など新たな難問も追加されている。ランダースはこのような懸念の上に、あらためてこの本を世に問うたのである。 40年後の世界は? 将来見通し、とりわけ40年という長期に及ぶ期間を見通すのは容易なことではない。その予測にどの程度の科学性が認められるのか、さらにはこのような予測には信憑性があるのか、細かな議論をすればきりがないだろう。 ここでは、『成長の限界』のシナリオ分析から出発して、慎重な手続きで将来予測の精度を高めるいくつかの工夫がとり入れられている。また、各分野の専門家による34の予測を挿入しながら多面的な検討を行い、各予測の間の整合性にも相当の配慮をしているという点を指摘しておこう。 さて、そこで描かれている40年後の世界については、実に膨大な記述がなされている。それらすべてを要約することはできないが、枠組みに関する最重要なポイントとして、以下の諸点を理解しておくことは肝要だ。 ◎都市化が進み、出生率が急激に低下するなかで、世界の人口は予想より早く2040年直後にピーク(81億人)となり、その後は減少する。 ◎経済の成熟、社会不安の高まり、異常気象によるダメージなどから、生産性の伸びも鈍化する。 ◎人口増加の鈍化と生産性向上の鈍化から、世界のGDPは予想より低い成長となる。それでも2050年には現状の2.2倍になる。 ◎資源枯渇、汚染、気候変動、生態系の損失、不公平といった問題を解決するために、GDPのより多くの部分を投資に回す必要が生じる。このため世界の消費は、2045年をピークに減少する。 ◎資源と気候の問題は、2052年までは壊滅的なものにはならない。しかし21世紀半ば頃には、歯止めの利かない気候変動に人類は大いに苦しむことになる。 ◎資本主義と民主主義は本来短期志向であり、ゆえに長期的な幸せを築くための合意がなかなか得られず、手遅れになる。 ◎以上の影響は、米国、米国を除くOECD加盟国(EU、日本、カナダ、その他大半の先進国)、中国、BRISE(ブラジル、ロシア、インド、南アフリカ、その他新興大国10カ国)、残りの地域(所得面で最下層の21億人)で大きく異なる。 ◎予想外の敗者は現在の経済大国、中でもアメリカ(次世代で1人当たりの消費が停滞する)。勝者は中国。BRISEはまずまずの発展を見せるが、残りの地域は貧しさから抜け出せない。 なお、『2052』の面白さは、巻末に近い第3部で「大勢の人に荒らされる前に世界中の魅力あるものを見ておこう」「決定を下すことのできる国に引っ越しなさい」などの具体的な助言が示されていることだ。読者なりの問題意識で、興味ある個所を熟読すれば極めて有益な情報が得られるだろう。 次回は、ランダースの予測に対すると私の見解と、日本の今後40年について考えてみたい。(次回に続く) 竹中 平蔵(たけなか・へいぞう) 1951年生まれ。1973年一橋大学経済学部を卒業後、日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)に入行。89年米ハーバード大学客員准教授。2001〜06年に経済財政政策担当相、金融担当相、郵政民営化担当相、総務相を歴任。2006年から慶應義塾大学教授・グローバルセキュリティ研究所所長。(写真:的野弘路) 2052年からの警告
1972年に世界的シンクタンク、ローマ・クラブが出した世界予測『成長の限界』は、資源枯渇や持続可能性について全世界が考えるきっかけになりました。40年後の今、著者の一人、ヨルゲン・ランダースが『2052 今後40年のグローバル予測』を発表しました。『成長の限界』を受け継いだ「21世紀の警告書」の中身を、同書日本語版の解説を執筆した竹中平蔵氏と著者ランダースの言葉からひも解きます 米シェールガス開発が生む資源の無駄遣い 2013年2月6日(水) FINANCIAL TIMES 米国では産油・ガスの急拡大に伴い、付随するガスを焼却するフレアリングが急増。天然ガスとして商品化するにはコストがかかるためだが、環境への負荷が大きい。規制当局は、ガスを燃やさずに利用する方策を推進しようとしているが…。 今や米国の産油ブームは、宇宙からも見て取れるほどだ。夜間の衛星写真を見ると、この5年間で米国の産油業界を一変させた大油田であるノースダコタ州バッケンのシェール油田が、シカゴと同じくらい明るく写っている。 光って見えるのは、「フレアスタック」と呼ばれる焼却塔で、そこでは油井から出る天然ガスを毎日、24時間燃やし続けている。 右は米航空宇宙局(NASA)が撮った夜の米国の衛星写真。ノースダコタ州バッケン油田におけるフレアリングによる明るさがシカゴ並みであることが分かる。下はバッケン油田のシェールガスの開発現場(写真左:The New York Times/アフロ、右:NASA) 利用されない天然ガス
この炎の輝きは、米国のシェールオイル及びガスブームのあまり輝かしくない側面を照らし出している。開発を急ぐあまり、産油に伴って放出される不要な天然ガスを処理する施設への投資が間に合わないのだ。 油田で出るガスを燃やして処理する「フレアリング」の問題は、何十年も前から認識されてきた。アフリカのニジェール川デルタやイラクの砂漠で燃え盛る炎は、発展途上国の原油採掘に起因する汚染と環境破壊の象徴とされてきた。だが米国でこれが問題視されるようになったのはごく最近のことだ。 投資家や環境保護団体、世界銀行からの強い圧力にさらされた石油会社は、2005〜10年の間に全世界でフレアリングを20%削減した。だが、米国でシェール開発が急増したこともあり、2011年には世界のフレアリングはわずかながら増加に転じた。 環境問題に取り組む多くの投資家のネットワークであるCERES(セリーズ)のアンドリュー・ローガン氏は、フレアリングの増大は石油産業の成長の障害になり得ると指摘する。 「過剰なフレアリングは環境を損なうだけでなく、貴重な資源の無駄遣いでもある。業界が積極的に取り組まなければ、操業許可にも悪影響が及びかねない」 水平掘削と水圧破砕(油井の中に水と砂と薬品の混合物を高圧で注入し、油を含む岩にひび割れを入れる方法)という技術の進歩で、米国のシェールオイル生産は急増した。おかげで米国は、石油の輸入依存を減らすとともに、多くの雇用を生み出すこともできた。 同じ技法で、シェールガスにも大量供給の道が開かれた。その結果、米国の天然ガス価格は2008年のピーク時の100万BTU(英国熱量単位)当たり13ドル(約1200円)強から同3.4ドル(約310円)まで急落している。 そのため現状では、油田で発生するガスは、有用な資源というより、処分すべき厄介ものと見られることが多いのだ。 単一の油田としては世界最大級の1つであるノースダコタ州にあるバッケン油田は、面積が約3万9000平方キロメートル。これは英国のウェールズのほぼ2倍に当たる。だが、この油田は一番近い大都市からでも数百キロメートルもあり、世界でも屈指の僻地油田と言える。ガスを利用するなら、必要なパイプラインや処理施設をゼロから敷設しなければならない。 産出ガスの30%を無駄に焼却 注:フレアリングとは、油田やガス田開発に伴い発生するガスを燃やすこと 出所:世界銀行に対して米海洋大気局(NOAA)が出したデータ及び英フィナンシャル・タイムズの算出による バッケン油田のシェールオイルは、18カ月ごとに2倍のペースで増産を続け、今や米国の総産油量の10%を占めるに至っている。しかし、パイプラインの接続が追いついていない。
米国では昨年、1000以上の油井をガス収集システムに接続した。それでも、この程度では米国のフレアリングの比率は下がらず、現在、米国は産出するガスの約30%をフレアリングで焼却している。 米スタンフォード大学で化石燃料から発生する温暖化ガスについて研究するアダム・ブラント氏は、「シェール油田の現在の状況は、米国の石油産業の草創期に似ている」と指摘する。 「各社は互いに競争しながら資源開発を進めているため、フレアリングを減らすために生産ペースを落とすというインセンティブがほとんど働かない」 米国全土で同じ問題が見られる。テキサス州のイーグルフォード・シェール油田では、2010〜12年の間に産油量が30倍近く増加した。だが同じ期間に、フレアリングの認可件数は6倍に増えた。テキサス州では、昨春の段階で、40万世帯以上に電力を供給できる天然ガスが焼却されていた。 フレアリングは温暖化ガスの排出量にも大きく影響する。米国産原油は多くの場合、サウジアラビアなどから輸入する原油よりも温暖化ガスの排出量が少ない。しかし、フレアリングを計算に入れると、ノースダコタ産原油の多くではこの利点が失われる(それでも、カナダのオイルサンド原油の産出に伴う発生量よりは相当少ない)。 テキサス州の鉄道委員会やノースダコタ州の産業委員会などの規制当局は、石油会社に対して、フレアリングを減らすために石油の減産を求めることができる。だが州政府も油田やガス田の使用料で思わぬ恩恵を被っているため、減産には消極的だ。ノースダコタ州は開発ロイヤルティーとして、2013〜15年度の予算で10億ドル(約910億円)以上の増収を見込む。 同州産業委員会は、「フレアリング削減のために産油制限すれば、油井から入る金額は5分の1に減る。我々は、無駄なフレアリングを削減する義務と同様に、産油量を増やす義務も負っている。よって産油量の拡大を阻むフレアリングの削減はしない」と話す。 州政府は規制と増産の板挟み フレアリング削減に向けノースダコタ州で取られている最新の動きは、ムチというよりアメに近い。現在州議会で検討中の法案は、天然ガスの出荷を促す優遇税制だ。州当局は、油井の掘削機の動力源としてガス燃料発電機の使用も推進している。 ノースダコタ州パイプライン局のジャスティン・クリングスタッド氏は、今後、ガスのパイプライン建設が進むと楽観的に予想する。バッケン油田のガスに、経済的価値があることがはっきりしてきたためだという。この油田には、プロパンやブタンなど、石油化学工業の原料となる液化天然ガスがたまっているのだ。 天然ガスの利用にはさらに多額の投資が必要になる。同州パイプライン局によると、これまでガス収集のインフラには40億ドル(約3600億円)が注ぎ込まれてきたが、今後10年でさらに100億ドル(約9100億円)が必要になる見通しだという。 Ed Crooks and Ajay Makan (©Financial Times, Ltd. 2013 Jan. 27
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