02. 2013年1月28日 00:44:09
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JBpress>海外>The Economist [The Economist] 英国と欧州:賭けに出たキャメロン首相 2013年01月28日(Mon) The Economist (英エコノミスト誌 2013年1月26日号)首相はEU離脱の是非を問う国民投票を約束することで、賭けに出ている。 1月23日、ロンドンで英国と欧州に関する演説を行ったデビッド・キャメロン首相〔AFPBB News〕
欧州のあるべき姿に関するデビッド・キャメロン英首相のビジョンには、説得力がある。 キャメロン首相が望む欧州連合(EU)とは、自由貿易と競争に力を注ぎ、お役所的規制で企業をがんじがらめにするのではなく、企業を後押しする存在だ。 EUは「よりスリムで官僚的でない連合体」であるべきだと、キャメロン首相は言う。 テロ対策などでは徹底的に協力する必要があるが、加盟国の国民に影響を与える決定については、可能な限り、その国の政府が下すべきだ。そしてこの欧州クラブには、英国も含まれていなければならない。これらはいずれも、キャメロン首相が1月23日にロンドンで、長らく先送りされてきた画期的な演説の中で語ったことだ。 国民投票は理にかなうが・・・ だが、そのビジョンを現実にするためのキャメロン首相の計画は、大きな危険を伴う。首相は、EUと英国の関係について改めてEUと交渉し、その後に、英国がEUに留まるか否かを問う国民投票を行う考えだ。国民投票は次期議会の前半、つまり2017年末までに実施するという。 キャメロン首相の動きは、元をたどれば、ユーロ圏の問題が原因になっている。保守党内の欧州懐疑派はかねて党の指導部をしつこく攻めたてていたが、欧州情勢の悪化に伴い、その攻撃は勢いを増している。ユーロ圏を維持しようとするなら、EUの結束を今よりも強いものにせざるを得ないだろう。 欧州懐疑派は現在の不安定な状況を、英国とEUの結びつきを弱めるチャンスと見ている。それに譲歩して国民投票を約束したキャメロン首相の狙いは、保守党内と英国独立党(UKIP)の懐疑派の勢力を弱めることにある。UKIPは小さいながらも確固とした方針を掲げる政党で、次回の総選挙で保守党から連立過半数の議席を奪う可能性がある。 だが、国民投票表明の主たる目的がキャメロン首相の政治的保身にあるとしても、それ以外にも、投票実施を支持するだけのもっと妥当な根拠がある。 国民投票は、各党や有権者を二分していて総選挙では決められない重要な憲法上の問題を解決する良い方法だ。本誌(英エコノミスト)も、英国と欧州の関係という難問を解決するためには、いずれかの時点で国民投票を実施する必要があると考えている。 したがって大きな問題は、いつ実施すべきかということだ。EUの未来の見通しがあまりにも利かない今は実施にふさわしい時期ではない、と語ったキャメロン首相は正しい。首相は次期議会の前半での実施を望んでいる。その頃までには、見通しはもっと明確になっているはずだ。 この猶予により、EUと英国の関係を再交渉する時間もできる。キャメロン首相は既に、英国は汎欧州的な司法・警察協定の多くについてオプトアウト(適用除外)すると明言している(英国にはそうする権利が認められている)。 それ以外にどのような譲歩をEUに要求するつもりかは明らかにしていないものの、英国民に対して、根本的な変化を約束している。 ご機嫌な保守党、不機嫌な労働党 キャメロン首相にとって、今回の演説は効果があったように見える。議席をUKIPに奪われることを恐れる保守党の若手下院議員たちを喜ばせたし、保守党よりはEUびいきの労働党を苦境に追いやった。労働党が国民投票を約束しなければ、労働党はエリート主義だという印象を与えることになる。 英国にとっても、有用な点が多い演説だった。キャメロン首相は賢明にも、ノルウェーやスイスのようなつかず離れずの関係を目指すべきだという、欧州懐疑派の間で人気のある意見を却下した。 この意見を認めたなら、英国は結局はうまくいかない解決策を追い求め、膨大な時間を無駄にすることになっただろう。というのも、その種の取り決めにほかの加盟国が同意することがあるとすれば、その内容は英国民にとって受け入れがたいものになるはずだからだ。 また、EUとの再交渉で何を勝ち取りたいと考えているのか、その点を曖昧なままにしておいたのも賢明だった。そのおかげで、何を成功とするかをキャメロン首相自身が定義し、新たに交わす取り決めを自らの勝利として英国の有権者に示すことができる。 本誌の意見を言わせてもらえば、キャメロン首相は国民投票の時期も曖昧にしておいた方がよかった。 そうしたやり方は、キャメロン首相自身の目的にはあまり適わなかっただろうが――保守党の欧州懐疑派は怒号を上げ、UKIPは野次を飛ばしただろう――、将来の保守党政権が国民投票の時期を決め、悪い時期ではなく良い時期に実施できるようにしておく方が、英国の国益にはプラスになったはずだ。 すべてを賭ける 5年以内に国民投票を実施するのは、危険な賭けだ。第1に、経済にダメージを与えかねない。経済界は総じて、英国離脱の可能性におびえている。ここ数週間で、自動車メーカー3社がEU残留を求める意見を表明した。2017年にも離脱があるかもしれないとの恐れから、多国籍企業は英国への投資を控えるだろう。 第2に、一見長いように思える5年という時間も、ユーロ圏の将来をはっきりさせるには十分ではないかもしれない。ユーロ危機が勃発した時、それが5年以上続くだろうとは、誰ひとり思っていなかったはずだ。危機の解決には、さらに長い時間を要する可能性がある。 次期議会の任期半ばでは、残留にせよ離脱にせよ、英国はその相手がどのような欧州なのか分からないまま投票することになるかもしれない。 第3に、EUとの交渉がうまくいかない可能性がある。欧州の指導者の多くは、英国の自分勝手な主張に腹を立て、英国は離脱に向かっているものと考え始めている。英国の関心が欧州統合プロジェクトの健全性よりも自国が思い通りに振る舞うことに向いていると判断すれば、他国の指導者たちは断固たる態度を取り、キャメロン首相にとっては手厳しい結論に至るかもしれない。 面目を失った英国民が政府(その頃は任期半ばで必然的に支持率が低下しているはずだ)を叩く道具として国民投票を利用し、自国をEU離脱へ追いやることも考えられる。 リスクはかなり大きい。だが、キャメロン首相は、悪くないカードを何枚か握っている。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、リベラルな同盟国として英国を評価しており、EU予算や銀行同盟が問題になった際には、譲歩をしてキャメロン首相が英国内の欧州懐疑派を抑えるのを支援する構えを見せた。 メルケル首相が、今後の再交渉でも、英国の国民投票で望ましい結果を得るために英国に譲歩をする可能性は高い。そして、はっきりしているのは、どれほどEUに不満を抱いているとしても、英国民の離脱志向は決定事項ではないことだ。 昨年5月の世論調査では、離脱を望む人が残留を望む人の2倍に上っていた。だが、離脱の可能性が高まるのに伴い、離脱支持の声は小さくなった。現時点では、離脱と残留の支持率はほぼ五分五分だ。 キャメロン首相は不要な賭けに出て、英国の未来を危険にさらしている。だが、キャメロン首相の持ち札は、一部の対戦相手が主張しているよりも強い。少しの幸運があれば、そのギャンブルは報われるはずだ。 |