06. 2013年1月24日 14:38:55
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焦点:年7兆円に迫る貿易赤字、円安「逆効果」で13年脱却難しく 2013年 01月 24日 14:01 JST トップニュース 中国、2015年までの一次エネルギー消費量を抑制へ ロシアは2月にも米・カナダ産肉類輸入停止か、飼料添加物問題で 2012年貿易収支は過去最大の赤字:識者はこうみる コラム:トリプル安は杞憂か、日米国債に潜むブラック・スワン=斉藤洋二氏 [東京 24日 ロイター] 2012年の貿易収支が7兆円に迫る巨額の赤字となり、過去最大を更新した。経済専門家は13年も赤字脱却は難しいとの見方を示す。巨額のエネルギー輸入国となった日本にとって、円安は輸入金額をさらに押し上げる。 他方で円安による輸出数量効果は、世界需要の本格回復が難しいほか、海外生産シフト加速で以前ほど期待しにくい。円安傾向の持続で時間を買う間に、政府の成長戦略や企業自身の努力で日本企業が本格的に競争力を回復できるかが問われる年になりそうだ。 <円安のコストと便益、過去と異なる局面に> 足元の円高修正が輸出企業の売リ上げ回復要因となることは確かだ。しかし、日本経済全体でとらえた場合、必ずしも貿易赤字の解消につながるとも言い切れない。その背景には貿易構造の変化がある。 エネルギー輸入を中心とする貿易赤字が続く現在、円安は輸出押し上げ効果を上回って輸入金額を押し上げる。契約通貨をみると、輸出のドル建て比率が5割前後なのに対し、輸入は7割前後で、円安が円建ての輸入価格を押し上げる効果が上回る。 こうした事実を踏まえ、野村総合研究所金融ITイノベーション研究部長・井上哲也氏は「日本の貿易赤字基調が海外の景気循環だけでなく、構造的要因やエネルギー価格の高騰などにも影響している面をとらえて、円安のコストと便益のバランスが変化しつつあるとの見方も出てきた」と指摘。閣僚などが円相場のレンジに言及し始めたことには、こうした議論が影響している面もあるだろうとの見方を示した。 <2013年も黒字化困難に> 貿易収支赤字は今後も続くのか──。BNPパリバ証券チーフエコノミスト・河野龍太郎氏は「昨秋から製造業のグローバル・サイクルが持ち直しに転じつつあることから、輸出は早晩拡大に向かうとみられるが、今後も鉱物性燃料の高水準での輸入が続くとみられるため、貿易収支が黒字基調に戻ることは容易ではない」とみている。 輸入は、原発の稼働が難しい状態にあることを踏まえれば、今後も年間70兆円台という高水準で推移する可能性がある。これは07─08年当時の資源高による景気後退時に匹敵する水準だ。エネルギー輸入の動向は市況に大きく左右されるため、今年も高水準で推移するかどうかは不透明ながら、少なくとも輸入数量が大きく減少する見通しは立っていない。 一方で輸出は、本来であれば時間の経過とともに円安による競争力回復で数量増加が見込める。しかし、現状では持ち直しは緩やかなものにとどまる可能性が指摘されている。「主要な輸出先である中国向け輸出がそれほど拡大しない可能性がある」(河野氏)ためだ。過剰ストックの積み上がりにより調整が長引くほか、尖閣諸島問題も日本の輸出の重しとなる。 国際通貨基金(IMF)は23日、13年の世界経済成長見通しを3.5%に下方修正。12年の3.2%と比べてもわずかな加速にとどまる見通しで、日本の輸出が大きく持ち直すことは難しそうだ。 加えて海外シフトの影響もある。バークレイズ証券チーフエコノミスト・森田京平氏は「円安だからといって、すぐに海外生産から国内回帰となるわけではない」と指摘。輸出回復は容易ではないとみている。 <時間買う間に競争力強化を> こうした輸出入をめぐる内外の需要動向だけでなく、輸出回復に欠かせないのが日本製品自体の競争力だ。 野村総研の井上氏は「円相場を安定化させるだけでも、企業が対外競争力を回復するための時間を買う点では、意味のある政策になり得る」と指摘。日銀の金融緩和期待と貿易赤字傾向を背景に円高修正がしばらく続けば企業収益は一息入れることができ、その間に効率化投資や研究開発投資を行い、新たな展開に備えることができる。08年当時は78兆円台の高水準の輸入を80兆円を超える輸出でカバーし、何とか貿易黒字を維持していた。世界経済が回復する日に備えて時間を有効に使うことが求められている。 (ロイターニュース 中川泉;編集 石田仁志) 関連ニュース 産業競争力会議が初会合、6月めどに成長戦略を策定 2013年1月23日 デフレ早期脱却、政府と日銀の政策連携強化し取り組む=共同声明 2013年1月22日 産業競争力強化の前にデフレ脱却の議論を=コマツ会長 2013年1月16日 11月のユーロ圏貿易収支は予想以上に黒字拡大、輸出が急増 2013年1月15日 コラム:トリプル安は杞憂か、日米国債に潜むブラック・スワン=斉藤洋二氏 2013年 01月 24日 14:11 JST
斉藤洋二 ネクスト経済研究所代表(2013年1月24日) 北京で蝶(ちょう)が羽ばたくと、ニューヨークで嵐が起こる――。これは、複雑系科学の教える「バタフライ効果」を表現した有名なたとえ話である。 為替・株・債券・不動産・デリバティブなど複雑に入り組んだ国際金融市場においては、「蝶の羽ばたき」程度の些細な変化でも様々な波及経路を辿って大相場(そしてバブル)に発展し、やがては金融危機すら招く可能性がある。そして今、その因果の出発点の候補に加わったのが、日本である。 日本におけるデフレは、すでに15年を超えた。これは、7つの海を支配した大英帝国が1873年から96年まで24年に及ぶ長期不況に陥り(卸売物価は約40%下落)、没落に至った歴史に比肩しうるほどではないが、戦後の主要先進国に限って言えば、他に例のない事態だ。日本経済の全般的な物価水準を表すGDPデフレーターは消費税率の引き上げで一時的にプラスに転じた1997年を除き、95年以降ほぼ一貫して前年比マイナスで推移している。 このデフレからの脱却を最重要課題に掲げ、リフレ政策を打ち出したのが安倍晋三自民党政権である。首相就任前から「2%インフレ目標」「日銀法改正」の可能性に言及したことを受けて、市場は円安・株高へと大きく動き出した。これまで見向きもされなかった日本の経済政策が久方ぶりに世界の注目するところとなり、まさに現在「東京で蝶が羽ばたき始めた」のである。 <「市場参加者は合理的」の幻想> 複雑系では、秩序から無秩序状態に移行することを「相転移」と形容するが、相場においてはバブルの生成から崩壊への転換がまさしくこれに当たる。つまり、臨界点に達していれば、ひとひらの雪により雪崩が発生する。臨界点にあるか否かの判別こそ、投資の勝敗を決するものである。 2012年は欧州の小国ギリシャで蝶が羽ばたき、財政状況が臨界点に達していた南欧諸国へ伝播し、世界中を震撼させた。秋口以降、欧州中央銀行(ECB)による新たな国債買い取りプログラム(OMT)発表などが奏功し、国際金融市場の緊張が緩み越年した。13年は、世界のどこで蝶が羽ばたき、いかなる経路を辿り臨界状況にあるどの市場を直撃するのか。その未来予測こそ、個人を含めた投資家たちに課せられたテーマである。 今、周囲を見渡せば、3つの市場がすでに臨界点に達していると思われる。海外投資家に相手にされず長く低迷してきた日本株、日本の弱体化する経済力を反映しない円高、さらには欧州債務危機に起因する「質の逃避」で歴史的な高価格(低金利)にある国債だ。 ただ、過去2カ月において日本株はすでに約20%上昇し、為替についても円は対ドルで約10%、対ユーロで約14%下落した。その変動スピードの速さや、90年代とさして変わらぬ公共事業を主体とした政府の経済政策の効果への疑心などから再び円高・株安へ反転するとの声も聞こえる。しかし、貿易収支の赤字転換をみると、円高から円安へのパラダイムシフトの初期段階にあると考えるのが妥当だろう。 「市場参加者は常に合理的であり、高値で売り安値で買うから市場は安定する」とかつて著名な経済学者は言ったが、実際に市場参加者だった筆者には、この説はどうもしっくりこない。現実の相場は、「高値は売る、安値は買う」とのネガティブ・フィ―ドバック(逆張り)と、「高値、安値はさらに追いかける」とするポジティブ・フィードバック(順張り)とのゆらぎの中にある。したがって、前者が勝る場合には、相場はふらふらとランダムウォークし、また後者が勝った場合は、相場は一方向へとトレンドを形成するものである。 つまり、水準訂正が一定程度なされた現在においては、短中期的には、ネガティブとポジティブという2つのフィードバックの間を錯綜すると見られるが、長期的には弱体化した日本経済に相応しい均衡点を探しながら(と言ってもそれを見つけることは不可能に近いが)、円安トレンドが継続されると考えて良いだろう。 <日米国債急落はブラック・スワンか> 新古典派経済学は、ニュートンにより確立された古典物理学から派生して19世紀末に成立したが、現代ではこの手法では解決できない経済事象があまりにも多い。その代表が、頻発する世界的金融危機であり、相場予測の難しさと言えよう。 なぜなら経済の主体である生身の人間は、新古典派経済学が想定するホモ・エコノミクス(合理的経済人)に常に徹するとは限らず、ましてや物理学が取り扱う原子や分子などとは異なり、意思を持ち、直感的に選択し、さらに他人に影響されては非合理な行動をとるからだ。この人間の複雑さが市場の複雑さの上に重なって複雑さを増幅する。小は人間の脳から大は文明までこの世の中の多くが複雑系で出来ていると言われるゆえんである。 かつてウォール街のオプションディーラーだったナシーム・ニコラス・タレブ氏は、金融市場について「起こりそうにもない破滅的な事象は起きるものだ」と結論し、かかる事象を「ブラック・スワン」(黒い白鳥)と名付けて世界的ベストセラーを書いた。 実際に金融市場は、国家と異なりその中心の所在はあいまいだ。資力もリスク許容度も相場観も異なる、それでいてネットワーク化された何億人もの投資家によって国境を越えて形成されている。コントロール機能は、事実上存在しない。こうした性質上、筆者の経験から言っても、情報力格差により投資家間に疑心暗鬼が生まれ、不確実性と脆弱性が増幅され、起こりそうにないこと、すなわちブラック・スワンが現出する。 13年の相場を見通す上で、ブラック・スワンに警戒することは大事だ。それは、どの市場が臨界点に達しているかを探ることと同義だ。先ほど3つの市場に言及したが、筆者は特に日米の国債市場に最大の注意を払う必要があると考えている。 欧州債務危機などに起因する過剰な逃避資金が国債市場に流れ込んだことで、10年債において日本は0.7%、米国は1.8%の超低金利水準となっている。日米ともに中央銀行が量的緩和を継続していることから投資家には買い安心感が根強いが、この2つの市場こそ臨界点に達している可能性が高い。 日本国債については、金融機関の保有債券の平均残存年限は2年半程度と案外短期であると推測されるが、期間20年超の超長期金利は上昇傾向にありイールドカーブの右肩上がりの形状が強まりつつある。つまり、政府により意図された期待インフレ率の高まりとともに、金利先高感が醸成されていくことを予測させるものである。 一方、米国に関しては、連邦準備理事会(FRB)は超低金利政策を続ける目安として、「15年半ばまで」との時間軸政策に加えて、「失業率6.5%」などの数値目標も掲げたが、同時に出口戦略を語り始め、将来訪れる緩和政策の変化を予感させたことは特筆される。 当面、日米ともに中央銀行が国債購入を継続することは不変とはいえ、強気も極まれば弱気に転じるとの喩(たとえ)の通り、中央銀行が国債購入額の減少もしくは停止を決定する前のどの段階で売りに転じるか、つまりバスから飛び降りるタイミングを探るのが13年のテーマとなる。 今年は、東京に続いてどこで蝶が羽ばたくのか。北京かパリか、はたまたリオデジャネイロか。その結果として嵐や雪崩が起こる可能性の高い場所として、日米国債市場にはよくよく注意を払う必要がある。眼下の円安・株高にしばらく浮かれたとしても、債券安・円安・株安のトリプル安到来を「想定外」とすることだけは避けたほうが良い。 *斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。 |