05. 2013年1月25日 01:06:10
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【第11回】 2013年1月25日 【テーマ9】日本国債は暴落するか 日銀の買い支えで13年は楽観 それから先はいまだ視界不良なり 去る1月22日、ついに日本銀行がインフレ目標を導入した。にもかかわらず、翌23日の国債価格は小動きに終始した。「失望したと言う人もいれば、予想通りという人もいる」(メガバンク運用担当者)。 インフレ目標の導入でデフレ解消に向かうと予想されれば、金利は上昇(国債価格は下落)するはず。一方、日銀がインフレ目標達成のために、金融市場関係者が驚くほどの国債買い入れを発表すれば、国債価格は上昇(金利は下落)したかもしれない。 「現白川総裁では、この程度の緩和しかできない。次期総裁がだれで、どのような政策を打ち出すかまで様子見。これから2ヵ月間やることがなくなった」(同担当者)。どちらにも振れなかったということは、国債市場は結論を先送りしたことを意味する。 「株高」「緩やかな金利高」「円安」が 2013年のメインシナリオ 一方、為替は円高、株は下落した。材料出尽くしで、昨年末から続いた熱狂も小休止といったところだ。だが、安倍政権が誕生して、経済政策の枠組みが大きく変わることは間違いない。それが国債市場にどのような影響を与えるのだろうか。 「超金融緩和」「財政出動」「成長戦略」の3本の矢からなる「アベノミクス」。そのアベノミクスが描くベストシナリオは超金融緩和(インフレ目標)→円安・輸出増加、株高→設備投資の増加→景気回復→持続的な成長軌道への復帰→税収増加→財政再建の進展である。いま国債市場の運用関係者が描く、2013年のメインシナリオは、「株高」、「緩やかな金利高」、「円安」。目先のシナリオは、アベノミクスに乗っている。 その「読み」はこうだ。2014年4月からの消費増税は、景気の回復が条件となっている。判断するのは今秋だ。このため安倍政権としては、公共投資という力技を駆使しても、この4月〜6月期のGDP成長率を上げにかかる。消費増税が決まれば決まったで、今度は増税前の駆け込み需要が発生するから、13年(あるいは13年度)の景気は強い。 一方、積極財政で国債発行が増えることに対して、消費増税が悲願の財務省も抵抗できない。それで国債の発行額は増加するものの、インフレ目標を採用し、新総裁を迎えた日銀が、その実現のために超金融緩和を実行し、市中から国債をジャブジャブ買い入れる。本来なら景気が強い分、金利は上昇するはずだが、日銀の国債購入のおかげで国債価格が急落(金利は急騰)することはない。 依然として強い 国債へのニーズ 日銀による国債の買い入れ増加ばかりでなく、需給面で国債価格を安定させる要因がある。国債を大量に保有しているのは、銀行をはじめとする金融機関、生命保険会社、公的年金や郵貯グループだ。 「2003年のVar(バー)ショックのように、長期金利が1.5%も2%も上がることはあり得ない」。あるメガバンクの運用担当者の見立てである。Varとは、金融機関が採用しているリスク管理の手法のこと。各金融機関は同じようなリスク管理手法を採用していたため、03年の夏に一部の銀行の売りが売りを呼ぶ状態になって、国債価格が暴落(金利は急上昇)した。 件の運用担当者によれば、当時と今では、銀行の運用・調達構造が大きく変わっているという。当時、メガバンクで預貸率は約8割だった。預貸率とは貸出金(運用)を預金(調達)で割った比率で、預金のうちどれくらいが、運用として貸出に回っているかを示す。それが足元では、長期の経済停滞を反映して約6割に低下している。 「2003年当時は金利が上がれば、資金を調達するために国債を売った。今は大幅な預金超過の状態。ある程度、長期金利が上がれば、むしろよい運用先として国債に対する需要は高まる」 つまり、03年当時、国債運用はある意味で、一時的な余裕資金の運用先だったが、預金がジャブジャブに余っている現状では、貸出が少々増えても対応できるし、むしろ国債は重要な運用対象そのものになっているというわけだ。 金融機関自身にも国債に対する需要があるし、日本銀行も買ってくれるから、需給面で不安はない。だから、今年に国債の価格が暴落することない――というシナリオと相成る。 3%成長でも財政赤字は続き 国債残高は増え続ける しかしである。14年以降となると、まだだれも国債市場の行方を見通せない。視界不良の一言に尽きる。 現在、「アベノミクス」に対する期待で、日本国内は明るい雰囲気が高まっているものの、足下の財政状況は依然として厳しい。日本総合研究所の予測によれば、名目成長率1.5%を前提にした場合、2020年でプライマリーバランス(基礎的財政収支)は約18.5兆円、財政収支は約53兆円の赤字(収入不足)となり、公債(国債)の残高は約1000兆円の大台に乗る。ちなみに、財務省の予想では13年末の公債残高は約733兆円となる。 成長率が3%に高まった場合でも、プライマリーバランスは約11.4兆円、財政収支は約50兆円の赤字となり、公債残高は約991兆円となる。試算では、2016年以降の財政支出は、社会保障費が毎年3%の増加、他の支出は横ばいと、かなり手堅い財政運営がなされるという前提を置いているにもかかわらず、だ。 プライマリーバランスとは、国債の償還費と利払いを除いた財政支出と国債発行による収入を除いた税金などの収入を比べたもの。家庭で言えば、借金の元本と利息の支払いを除いた日常の支出を、夫(あるいは夫婦)の給料でどのくらい賄えているかを示す。つまり、日本の財政は給料を上回る日常の支出があるため、その赤字を埋めるために、国債という借金が増え続けている。 それだけではない。プライマリーバランスがバランスすれば(支出と収入が等しくなれば)、それ以上、国債の残高は増えないと思っている人も多いが、この理解は誤り。国債費(国債の償還費+利払い)があるため、その分も国債の発行で賄わなければならない。すでに、借金の返済のために新たな借金をしなくてはいけない状態にあるのだ。今後、プライマリーバランスを何とかバランスさせたとしても、この状態は続く。これが財政全体の収支(財政収支)の赤字が、プライマリーバランスの赤字を大きく上回る理由でもある。 資金調達の期間も どんどん短期化 さらに財政状況の悪化を示しているのが、調達構造の短期化。国債の償還年限がどんどん短くなっているのだ。OECDの資料によれば、財政危機に襲われたギリシャで長期債の割合は53%、スペインが61%、財政状況の安定しているドイツでも59%なのに対して、日本は32%しかない(図表参照)。 拡大画像表示 もちろん期間が長くなれば、国債の金利も高くなるから、期間が長ければいいというものでない。だが、調達期間が短いと「金利が上がった時に、利払いが急速に増える可能性がある」(日本総研・河村小百合調査部主任研究員)。短期間で国債の償還期限が来るから、政府に対する信用がガタ落ちすれば、資金調達=借り換えにさえ苦労するかもしない。
この動きと符合するかのように、メガバンクは保有する国債の満期構成も短期化させている。「保有国債のデュレーション(平均回収期間)は、2年を切っている。金額ベースで、1年以内がほとんどを占めています」(別のメガバンクの運用担当者)。 短期債のウエイトを高めているのは、金利変動の影響を極力小さくするためだ。金利が上がると満期までの残存期間が長い債券ほど価格が大きく下落するからである。メガガバンクの動きはいわば面従腹背。短期ではアベノミクスに便乗するものの、長期的な視野に立つと、その成功に確信を持っていない。 日銀が12年10月に公表した『金融システムレポート』によれば、金利が2%上昇すると、大手行で7兆円、地域銀行で5.6兆円の債券関連の損失が発生する。体力(自己資本)対比では、地域銀行の打撃が大きい。 財政規律が緩んだとき Xデーがやって来る では、国債暴落というXデーはいつ来るのか。これもまた誰にもわからない。国内の貯蓄残高が国債の残高を下回ったとき、あるいはほぼ同じことを言っているのだが、経常収支が赤字になったときと見る向きもあるが、これは前々からその動きを予想できる。だから、市場の地合いは形成しても、暴落のトリガーになることはないだろう。 市場の見方でほぼ一致しているのは、トリガーとなるのは財政規律が緩んだと判断される時であり、それを反映する形で国債が格下げになったときだ。 では、財政規律が緩んだと、何を基準して判断するのか。こう尋ねても明確な答えは返ってこない。例えば、この4月初めに任期の来る白川方明日銀総裁の後任人事。「安倍首相の言いなりになるような人であれば、政府がどんどん発行する国債を、日銀がバンバン買う。つまり、財政赤字を日銀がファイナンスするマネタイゼーションに行き着く。つまり、これから財政規律が緩むと判断されかねない」と言う人もいれば、「まだ金融緩和は足りない。リフレ派の総裁になれば、デフレ脱却から景気回復が展望でき、金利多少上がっても、それはよい金利上昇」と見る人もいる。かように、財政規律が緩んだと判断するかどうかも、簡単ではないのだ。 2月から3月初旬にも予想される日銀総裁人事、13年度予算編成、7月の参議院選挙、消費増税の帰趨と、財政規律を試されるイベントが続く。それぞれのイベントを市場がどう解釈し、判断するのか。アベノミクスも一時的な景気回復を演出したのち、借金の山だけを残す結果になるのか、成長軌道につながるのか、その帰趨も当然ながら定かではない。 昨年末以来、市場はアベノミクスを囃し立て、その雰囲気が一夜にして変わることを証明して見せた。ゆえに、財政規律を判断するという「鵺(ぬえ)」のような敵と戦うために、綱渡りのような国債管理政策が続く。これだけが確かに言えることである。 (ダイヤモンド・オンライン編集長・原英次郎) |