05. 2013年1月23日 19:35:06
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節税と資産フライトの真実、教えます 富裕層のシンガポール移住は損か得か 中村 繁夫:アドバンストマテリアルジャパン代表取締役社長2013年1月7日 前回は三菱商事の金属部門がシンガポールに進出する話題を取り上げたが、今回は個人事業主や富裕層が、シンガポールに進出したり、移住したりしている現象について取り上げたい。とはいっても、シンガポールのことを知らないと「ほんまかいな」といぶかしく思う向きもいるだろうから、出来るだけ判りやすく解説してみた。 お年始回りで若いトレーダーやベンチャー経営者たちが、わが家に飲みに集まった。三菱商事の金属部門がシンガポールに移転する昨年末の記事を読んだ連中たちだ。お屠蘇気分で「シンガポールに移住したら本当に得するのかどうか」との議論になった。 シンガポールは国まるごとデューティフリーのようなもの 30代の彼らは、ベンチャー精神豊かで海外経験も豊富なIT関係者、ソーラー発電等の自然エネルギー、さらにはコモディティなどを扱う連中である。 彼らの立場からすると日本の社会保険料はいくら払っても、自分たちには応分の年金は戻ってこないから、「日本にいても馬鹿らしい」というのが、共通した持論である。 しかし、話をよく聞いてみると社会保険制度だけでなく、日本の税制の不備についても100%理解している。だから、「自分はもらえて当然」と考えている団塊の世代よりも、よほど冷静に考えている真面目な連中である。したがって私も、今回のテーマをあまり煽ることのないように客観的事実だけを説明することにした。 そこでまず、初めに日本とシンガポール両国の税制を比較してみた。シンガポールの法人税は最大17%(実効税率は10%以下)で、日本の法人税は40%超と世界一高い水準といってよい。接待交際費などは原則、経費計上が可能で、住居費についても経費計上できる。 一方、個人の所得税率では日本が最高約40%(プラス住民税10%で合計50%)に対し、シンガポールは最高20%(住民税はゼロ)だ。さらに、相続税・贈与税はなく、資産運用益に係るキャピタルゲインやインカムゲインに対する課税もゼロである。まあ、重税感に苦しんでいるわれわれからすると、「国中がデューティフリーショップ」のようだから、うらやましいかぎりだ。 何をやっても、この15年間のシンガポールはうまくやってきた。というのも2000年まではシンガポールの法人税はまだ26%であった。香港(16.5%)と比べても明らかに高かった。しかし、01年には25.5%、02年24.5%、03年22%、05年20%、07年18%、10年17%と、しだいに低く誘導していった。意外である。初めから優遇税制を餌にして企業誘致をアピールしてきたわけではなかったのだ。 これだけのメリットがあれば、法人も個人も考え込んでしまうというものだ。日本の政治や経済が停滞していることに加え、若い世代は失業問題や税金問題、そして年金問題に疑問を持っている。だから世界屈指のビジネスインフラや合理的な税制システムが整ったシンガポールへ引っ越ししようかな、と思うのは当然である。私だって、若いときなら、とっくに移住していたかもしれない。 現在、シンガポールの日本人は2万4000人ぐらいいるとされている。ちなみにシンガポール人口は現在約500万人程度で、外国人はそのうち約30%。日本人比率はたった、0.5%しかいないことになる(外人比率でもたった1.7%である)。 メーカーの出身者によると、シンガポールがモノづくりには適さないようになってマレーシアやインドネシアに転出する人も多い、という。だが、日本からシンガポールへの移住者はこれからが本番になりそうだ。 いまや、シンガポールは世界でも有数の先進的ソフトパワ―国家に成長した。積極的な外資の誘致努力で、経済成長が高く、ついに一人あたりのGDPでも07年には日本を追い抜いてしまった。主なデータは以下の通りである。 1) ビジネスのしやすさランキング世界1位(12年、世界銀行発表) 2) 貿易円滑化指数世界1位(11年、世界界経済フォーラム) 3) 今後、最重要な金融センターランク世界1位(11年、Z/Yen英国グループ) 4) 世界で最も住みやすい都市ランキング世界1位(12年、ECAインターナショナル) 5) 国際競争力レポート「政治への国民の信頼」世界1位(12年、世界経済フォーラム) 6) 国際競争力レポート1人当たり名目GDP(11年)アジア1位 (12年、シンガポール通商産業省) いやはや、大したものである。 シンガポールの金融サービスはピカイチ 日本にいると、一般庶民でも税制のメリットが少ないのは誰だって知っている。 税金の少ない国に移住したら、税金の浮いた分で何でも好きなことができそうだ。旅行もよし、趣味もスポーツもマイホームも、新車だって何でも買える可能性が広がるから、シンガポールに移住した方が人生は楽しくなるだろう。 東日本大震災の時に、日本の若者たちは身を挺して被災地に駆けつけてボランティアをしたが、自分たちの力だけではできないことも多く、脱力感を持った。仮に特別復興税制が迅速に上手く機能したなら、もっと早く復興が進み被災地向けの寄付や支援だって増えただろうと、私は考えた。 そもそも、日本にいると閉塞感のために「真綿で首を絞められる」ような気分になるのはなぜだろうか? 大手企業は十分儲けを出しているのに、昔ならいざ知らず、今はサラリーマンには、そのおこぼれは回ってこないのだ。 日本でサラリーマンをしていても、税金は徹底的に源泉徴収で絞り取られる。年末調整で少し戻ってきて、喜んでいるのが関の山だ。 世界でこれだけ真面目に税金を納めている国民は私の知る限り見たことがない。 一方で、反社会勢力をはじめ、大企業や農業従事者の一部のように、税金をほとんど払わなくても当たり前だと思っている輩が跋扈する社会制度を放置している国家も珍しい。いずれ消費税率の改正で、この点は改善されると信じたいものだ。 資本主義国家だから仕方がないと、諦めるのが一般の庶民の悲しい性(さが)である。だが一方で、現時点では日本では浮かび上れるチャンスは皆無に近いが、シンガポールではそうでもない、と気がつき始めた賢明な連中も徐々に増えてきた。 がんじがらめになっている日本の金融 世界中から資産家・富裕層が集まる国シンガポールには、世界を代表する数多くの大手金融機関が居を構え、個人・法人を対象に、プライベートバンク、保険、債券、投資ファンドなど、何でもありの世界だ。ただし、お金持ちなら何でもできるが、貧乏なクラスにはやっぱり厳しいことは言うまでもない。 投資商品のバリエーションや運用実績でもシンガポールは世界最高レベルだ。日本国内のサービスとは比較にならない。日本の証券マンは会社によく電話をしてくるが、世界の金融の実態を知らない。 何でも金融庁の指導があるらしく「あれもできない、これも駄目」と言う。だから、申し訳ないが会社に来ないでほしいとお願いする始末だ。これも昔の証券マンの成功体験の繰り返しで、具体的な提案もなしに証券会社の用意した(それも多分、海外ファンドがつくったリテール用の)資料を持ってきて、自分で判断して下さいと繰り返すだけの営業である。 なぜ、もっと金融のプライベートバンカーが日本に育たないのかが理解できない。驚くことは、メールによる連絡さえできないことが多いのだ。必要なら持ってくるかFAXを流すといってくる。 アドバイスをするならモニター画面を見ながら合理的なデータや分析結果を報告するべきなのに、なぜか謝りながら会社の冊子を置いていくのである。 良く聞いてみると、日本の金融の世界は金融庁のがんじがらめのルールに支配されているとのことだった。世界の潮流に遅れている日本の金融環境で金融資産の有効利用をすすめているのに、リーマン以降の証券市場で株価が上がっていないのは主要国では日本市場だけといってもよいほどである。 一方、シンガポールは居住環境、成長性、法体制、治安、立地など総合的なバランスで見ても、昔から金持ちが集まるスイスや香港よりも便利になったらしい。今や資産保全・資産形成を行なうのに最も適した国に感じられるのは、私だけではないはずだ。 シンガポールの中心からチャンギ国際空港までは20分で到着する。街の中心のアパートを借りれば、アセアン諸国のどこに行くにも大変便利。しかも1時間から3時間もあればタイ、ミャンマー、ラオス、ベトナム、カンボジア、インドネシアと、どこでもすぐに到着する。空港は24時間稼働だ。世界一のサービス充実度を誇る上に、週5000便以上の定期フライトが運行されていて、日本への直行便も毎日就航しており6〜7時間で到着する。 港湾も歴史的に貿易拠点として繁栄してきた。現在もアセアンにおける立地条件を生かしてアジアにおける物流ハブを提供している。その重要な役割を担っているのが太平洋とインド洋を結ぶマラッカ海峡である。 世界トップクラスのコンテナ取扱量を誇っているが、港湾業務のIT化をいち早く導入しており、着岸から離岸まで12時間以内という作業効率の高さを誇っている。世界中の物流企業の支点がシンガポールに移転したために、今後ともアジア市場の物流のセンターとしての役割はますます重要になってくるかもしれない。 とはいえ、実は、シンガポール政庁は移住希望者が増えてきたので、永住権やビザ発給基準を次々と厳しくしている。現地に行くと中国からの投資家(旅行者も含めて)が殺到しているようにみえる。 一定額以上の財産保有や国内銀行への預入条件を満たせば永住権が発給される金融投資スキームも12年4月で廃止された。今後は会社を設立して永住ビザを取得する外国人(大陸からの中国人)が増えると予見している。 シンガポールに法人を設立するのは超簡単 では、シンガポールに現地法人を設立するためには何をすれば良いのか? 順序を追って説明しよう。シンガポールには会社設立の代行業者は(現地の公認会計士でも税理士でも)よりどりみどりである。 ただ日本の企業が現地法人を設立する場合には日本のメガバンク等の紹介で業者を選択したほうが良いだろう。言葉の問題もあるし、シンガポール独特のルールもあるので初心者の方には現地に長く滞在している日本人コンサルタントを通じて会社設立する方が無難だ。 日本でも現地に詳しい公認会計士や税理士に相談しながら進めることが前提になることは論を待たないが、まず初めに決めなければならないのは会社の名前である。会社設立業務は以下のとおりだ。 1) 会社名(商号)の決定は名前の重複を調査して、決定する。 2) 必要書類(定款)の作成:資本金額、事業内容を決定、株主、取締役等を選定する。 3) 商号確認:会計企業規制庁(ACRA)に会社名予約申請を行う。 4) 会社登録申請: 会計企業規制庁(ACRA)に会社登記申請を行う。 5) 銀行口座開設:会社名義での銀行口座開設手続き(DBSとHSBC)を行う。 口座開設については、日常会話ができる人なら、何とか対応は可能だ。以上がたった一日で終了するから、日本とは大違いだ。 「明るい北朝鮮」と呼ばれるシンガポール シンガポールは治安が良くて市内のどこを見てもきれいだが、ガムを捨てても唾を吐いても罰金を払わなければならないのは有名である。たばこを吸う場所は屋外にしかないので愛煙家にとっては困った国家である。だが、嫌煙権が確立されているので、どこに行ってもたばこで嫌な思いをすることは一切ない。 リークアンユー元首相が街を歩いていて偶然、街に捨てられたチューインガムを踏みつけたことからリー氏はチューインガムの販売そのものを禁止してしまったエピソードがある。街にポスターや落書きは一切ない。だから街の佇まいがすっきりしている。 治安面では有名な話だが、アメリカ人の18歳の少年がいたずらで車にスプレーで落書きをしたことにより、シンガポールの少年法でむち打ち刑になった事件があった。当時のクリントン大統領は嘆願書を出したが、シンガポール政局は一切無視してむち打ち刑(4回)を遠慮なく行った。その意味では徹底した管理社会であるから「明るい北朝鮮」とも呼ばれている。 シンガポールにも四季はあるという日本人がいる。ただし、シンガポールの四季は3つしかないと彼らは言う。良く聞くと「Hot、Hotter、Hottest」だといって笑っている。平均気温は26〜27℃、最高気温は32〜33℃程度であるうえ、海からの風が爽やかなので「ガーデン・シティ」といわれ、日本の夏より過ごしやすい。 また、年間降雨量は2000〜2500mmと日本(1500〜2000mm)より多いがスコールなので、短時間(数分〜数時間)の降雨で終わるのが一般的だ。むしろ雨が降ることで涼しくなり過ごしやすい。最近の日本は震災などの天災や原発問題があるので心配が増えているが、シンガポールには天災リスクが低く原発もないので環境面でも安心である。 リー・クアンユー氏は1965年に建国して以来、日本をお手本にしてシンガポールの発展を目指してきた。従って日本文化への関心は高く、親日家の多い国だ。今や若い人の間では日本のアニメやJ-Pops、ファッションが好まれている。日本の駐在員が多いことから日本食が他の外国よりもおいしくいただけるし日本のスーパーマーケットが早くから進出してきたことも日本びいきを増やした原因だ。 また、教育環境が優れているからシンガポールに移住した駐在員たちは子供の教育をシンガポールで受けさせてやりたいと思っている。英語教育と中国語教育を受けさせながら日本語学校にも通わせるので国際人に育てるにはもっとも良い環境だといえよう。 アメリカの投資家であるジム・ロジャーズ氏は、07年に家族と共にシンガポールに移住した。21世紀は中国を中心に回るから、目的の一つは子供たちに中国語教育を与えることだったといっている。 駐在員が帰りたくない国のナンバーワン もう一つ驚く事実は、シンガポールには2年間の兵役制度があり、しかも防衛予算が世界でNo2だということだ。もちろん、それは人口1人あたりの予算での話だが、1位はイスラエルで3位はロシアだ。その次に教育予算に力を入れている。教育予算が多いので欧米の医師免許を取ったシンガポール人が多く、医療水準は日本と同程度のレベルにあるとされる。 私自身はこれまで100カ国をまわってきたが、食事の面では安くてうまいシンガポール料理だけでなく、中華料理、インド料理、マレー料理といった各民族の伝統料理を、「ホーカーズ」と呼ばれる屋台から高級店まで、様々なスタイルで楽しんでいる。 国際都市であることからフレンチ、イタリアンなど、世界各国の料理で見つからないものはない。それゆえシンガポールに住んでまず飽きることはないのだ。駐在員の奥さんたちは例外なく帰国の話が出た時に「帰りたくない」というらしい。仕事は旦那で自分はゴルフ、麻雀、グルメ、広いコンドミニアムの家事は女中さん任せだから当然でしょうな。 これだけ、移住する条件がそろっていれば、これからは日本の企業だけではなく、個人事業主も「節税」プラス「アセアン市場開拓」のために移住者が増えるのは確実である。ただ、世の中にこれほど良い情報ばかりが溢れていること自体が不自然な気もする。 もういちど、シンガポールと日本の主な個人税制の比較をもう一度おさらいしてみたい。 個人人所得税= 最大20%に対し、日本は最大40% 国外源泉所得= 非課税に対し、日本は課税対象 住民税=非課税に対し、日本は10%+4000円 相続税=非課税に対し、日本は最大50% 贈与税=非課税に対し、日本は最大50% キャピタルゲイン税=非課税に対し、日本は原則20% イインカムゲイン税=非課税に対し、日本は原則20% シンガポールでは日本同様、「基礎控除」「配偶者控除」など、さまざまな人的控除が認められているため、税負担はさらに抑えられるのだ。 以上を経済合理性だけで判断すれば、シンガポールに投資法人を設立して自身の資産形成を行なうことは、まさに一石で何鳥にもなる合理的な選択といえるだろう。 損益分岐点はおそらく年俸1億円以上か さて、わが家に来た若手経営者たちの結論は以下のとおりとなった。 経営者として、確かにシンガポールに個人事業主として会社を移転させる価値はありそうだ。だが、金融や貿易取引などでASEANを攻める場合には意味があっても、節税のためだけに、シンガポールに会社ごと移転することはあまり意味がないのではないか、との結論だ。 結局は、大金持ちのための税制優遇であり、中小零細企業の社長がシンガポールに行っても大したことはない。そもそも、世の中にそんなうまい話があるわけはないし、長続きはしないとの結論である。 三菱商事のように、会社ごと移転する際に、サラリーマンとして現地に駐在するならば住民税が不要になるが所得税(14%)を払わされるならば、例えば600万円の給与所得者ではシンガポールの税制では約34万円(控除含まず)ほどだ。 一方、日本では所得税は20%で約35万円に住民税(10%)が約39万円として合計74万円である。これなら差額はたった40万円だから、600万円くらいの報酬をもらっている給与所得者にはコスト倒れで逆にリスクがあるだけでメリットは無い。 直観的には、1800万円以上の給与所得層は所得税が33%(プラス住民税10%)の所得層なら、税金の差額が日本の492万円に対してシンガポールなら約17%で約221万円(特別控除は含まず)となり、271万円の節税が可能となるから多少はメリットが出てくるが、これも経費倒れになるだろう。 なお、年俸1億円となると、この場合は日本の所得税が40%で約3452万円、住民税が933万円だから合計4385万円となる。一方シンガポールでは最高でも20%だから約1845万円である。その差額は2540万円となり、これならシンガポールに移住する経済合理性はありそうだ。 若手経営者たちの意見によると、国税の眼を盗んで節税をする暇があれば正々堂々と日本で税金を払ってベンチャー事業を推進する方が、話は早い。 ただし、企業規模が大きくなり、個人の年俸が1億円以上の実力になったときには、海外投資を積極的に推進して、日本国に利益送金を実行する方が国益に資するとの結論である。 いわば、損益分岐点は年俸で1億円以上ということだ。 大企業がこすからいことばかり考えているような世の中なのに、日本の若手経営者たちはしっかりした考え方をしているものだ、と正月から驚いた次第である。 今回も少々長かったかもしれないが、多少は皆さんの参考になっただろうか? 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