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安倍晋三首相の金融政策のブレーンとして内閣官房参与に就任したイェール大学名誉教授の浜田宏一氏。日本外国特派員協会で行った講演で、日本銀行はより積極的な金融緩和を行うべきだと主張した。
先日出版した著書『アメリカは日本経済の復活を知っている』で、世界中の中央銀行の考え方を紹介し、日本銀行を批判した浜田氏。1月18日に日本外国特派員協会で行った講演で、「2012年11月以降の株高円安は、それまでの日本銀行の金融政策が誤っていたことを示した」とコメント。
■今、日銀は発行済み国債の11%を保有していますが、この割合に制限はあるべきだと思いますか。
★浜田 経済学というのは、医学と非常に似ています。高熱を出している患者にどのくらい新しい薬を投与すべきかというのは、やってみないと分からないところがあるわけです。もちろん常に注意深く薬を与えないといけません。経済においては、例えばインフレーションが起きたら、また違うことをやらないといけないわけです。
インフレーションの何が悪いかというと、これは基本的に国民全体に大きな税金を課するということです。つまり価格が上がるので、購買力が下がるということです。結局多くの人たちから、税金をとっているようなものです。ですので、「これは何とか避けなければいけない」と思うのですが、やってみないと今のデフレは脱却できないと思っています。
金融緩和を続けて、価格があまり変動しないのであればずっと続けるべきだと思います。そして、ある点で価格が上昇し始める時に、日銀は何かしないといけません。日銀の方たちは私が聞くところによると非常に高給取りということなので、それは彼らの仕事であるということです。あまりに価格が上がり過ぎるなら、彼らがそれを止めないといけません。
しかし今、日銀は「オオカミが来た!」と叫んでいる少年のような感じで、すぐにハイパーインフレーションが来るのだと脅しているような感じがしますが、そんなことはないと思っています。
■ドイツのショイブレ財務大臣が安倍新政権が目指している将来的な追加金融緩和に強い懸念を表明したのですが、これについてどう思いますか。また、日本政府は問題を解決するために多くの紙幣を印刷すればいいと考えているところがあると思うのですが、持続可能な成長を確立するためにどのくらいの構造改革が必要だと思いますか。
★浜田 私は今日のプレゼンテーションを準備していて、新聞を読んでいなかったので、ドイツの財務相が何を言ったのかは知りませんでした。しかし、似たようなコメントは日本の中でも聞きます。リーマンショックの時、為替レートは1ドル100〜110円だったと思います。1ドル110円レベルになったら問題かもしれませんが、過去3年間を振り返ってみると、日本の物価水準はほとんどフラットあるいは少し下がっています。それに対して米国では毎年3%増加しています。
結論から言えば、私は1ドル100円くらいはいい水準ではないかと思います。先日、甘利明内閣府特命担当大臣が「3ケタを過ぎると、輸入価格の上昇が国民生活にのしかかってくる」とお話ししたのですが、「なぜそんなことを言ったのかな」と私は思います。確かに1ドル110円くらいになると問題かもしれませんが、1ドル95〜100円くらいだったら特に心配ないと思います
構造改革は必要かという質問ですが、政府が非効率的な組織あるいは事業を支えることは良くないと思います。日本でも米国でも欧州でも同じことが言えると思います。
基本的に何が重要かというと、一方ではリフレ政策を実行し、もう一方では構造改革を進めるということではないかと思います。
■お話を聞いていると、金融緩和政策を積極的に実行するべきだという一方、財政政策に関してはちょっと懐疑的な目で見ている感じがします。今、安倍首相は両方を推進しようとしているわけですが、明確にしている政策というのは大きな補正予算を組んだということです。この刺激策をどう見ていますか。どういう規模が適切で、どのような必要性があると思いますか。そして将来的にまた新しい刺激策が組まれるとお考えですか。もし、さらに刺激策が必要であるということでしたら、どのような水準が必要だと思いますか。
★浜田 私は安倍首相はもう2つのことを実現したと思います。アナウンス効果をうまく利用したと思っています。2012年11月にこういうことをすると発表しただけで、金融市場は非常によく反応してくれました。そういう意味では、もう金融政策を実行し始めたと言えるのではないかと思います。さらに予算を発表していますので、これも合わせて2つの大きなアナウンス効果が出ています。
ここで1つ、告白しないといけないのですが、私は人生を通して経済理論をずっと勉強してきたわけですが、率直に申し上げるとちょっと数字に弱いところがあります。昔、経済企画庁の仕事をさせていただいた時にも非常にショックを受けました。担当者から、「浜田先生、価格や金利がこのような方向に動くとおっしゃっていますが、どのくらいの期間これが続くのか、どのくらい上下するのか」と聞かれたのですが、私は具体的な数字とか聞かれると、これは大学院生などが一生懸命研究するような分野ではないかと思うので、具体的な数字はちょっと控えさせていただきます。
ただ私が非常に懸念していることは、もしかすると多くの政治家やジャーナリストがちょっと誤解しているのではないかということです。つまり、「財政支出は必ずしも経済を刺激するわけではない」ということです。これは金利がゼロの時以外ではということですが、どのくらいの財政支出を考えているのか、どのくらいの質のものを考えているのかということがミクロ経済学的な目で細かく吟味されるべきではないと思います。
つまり本当に必要なプロジェクトを行うべきなのですが、そういうプロジェクトを通して何とか経済を刺激させようと思うのは良くないと思っています。ここでまた告白があるのですが、私はもしかしたら竹中平蔵さんの考えに近すぎるかもしれません。
■小泉竹中改革の時に規制緩和を推し進めたことで、経済格差が広がったという批判がありました。今回、安倍氏が首相になったことで、格差が広がるような施策が多くなるのではないかという社会的な不安もあるのですが、そのことについてどのようにお考えですか。
★浜田 日本は非常にホモジニアス(同質)というか、人種も比較的変化がなくて、社会としては全体のレベルを考えると格差の少ない国だろうと思います。
しかし、小泉改革路線があまり国民の同情を得なかったというのは、競争で優秀な人がどんどん伸びてくる面は強調した一方、それを強調するあまり、競争から落ちこぼれになる弱者に対する思いやりを持った経済政策が叫ばれなかったことにあると思います。
小泉時代、競争が盛んになって、みんな競争するから結局はレベルが上がって、むしろ格差は小さくなることも起こったと思います。学者の社会などで競争させるといけないというのは分かるのですが、むしろ格差ができるような競争に耐え抜いていかないと仕事の能力が上がっていかないということで、そういう意味では構造改革の精神は非常に重要と思います。しかし、弱者に思いやりのあるというか、「落ちこぼれた人がどうしていくかという配慮が表面に出てこない社会になりそうだ」とみんなが心配したことはあると思います。
■もし火星人が突然日本に来たら、安倍総理や麻生太郎副総理を見て、「バカかウソつきでないか」と言うのではないかと思います。なぜなら、彼らは日銀をバッシングして民主党を倒したわけです。一方、3年前に民主党は官僚をバッシングして政権をとったわけですが、その結果はみんな分かっているわけです。さらに数年前には、安倍さんや麻生さん、福田康夫さんがトップだったわけですが、当時は「OECD諸国の中で最も無能なリーダーだ」とみんなで笑っていたわけです。どうしてこういう人たちがより良い政策を実行できると思うのでしょうか。
★浜田 確かに振り返ってみるといろんなミスがあったかもしれませんが、各政治家はその時正しいことをやろうとしていたと思っていたと私は思います。そして少なくとも安倍首相について言えることなのですが、彼はずっと続けて日銀を批判してきたわけです。そういう意味ではこれは大変評価できることではないかと思います。麻生さんについてですが、私が経済社会総合研究所の所長を務めた時、そのトップは麻生さんでした。2カ月くらいだったのですが、元上司を批判するのはちょっとつらいところではあります。
私は政治家が日銀をバッシングしたのは悪くはなく、長い間、間違った政策を実行していた日銀をそのまま放置していたことが良くなかったと思います。質問者の方は日銀の政策は正しいと思っているようですが、私は日銀の政策は間違っているものだったと思っています。
政治家が今まで怠っていたことは、間違った日銀の仮説を信じてしまったことにあります。日銀が「こういうことをすると、こういうことになりますよ」と脅しのような仮説をずっと言い続けてきたわけです。一時的には財務省もそういうことをしていたと思います。またさらに誰のせいかというと、多くの日本のメディアの方々、また外国のメディアの方々も加わりましたが、このような今までの金融政策が正しいと言っていたので、これも責任を持つべきではないかと思います。
重要なことは、多くの政治家は本当の実質経済のメカニズムを深く理解しようとしなかったということ、つまり日銀にすべて任せてしまったということです。
例え話ですが、ある人が「お腹が痛い」と思って医者に行ったとします。これは日本の経済においては、デフレ状態としましょう。胃が痛いのでお腹の病気じゃないかと疑うわけですし、日本人も経済が何かおかしいのでこのデフレ状態は何かお金に関する問題ではないかと思うわけです。しかし医者が「これはお腹の病気ではない。循環器系の病気だから違う医局に行ってください」と言っているようなことです。それと同じように日銀は「これは金融政策の問題ではないので、財務省とかほかのところに原因がある」、あるいは民間セクターに「構造的にイノベーションをもたらせるような政策を考えてください」と言ったわけです。
つまり日銀は正しい薬を持っていたのですが、その正しい薬を出さなかったというわけです。そしてまたこういう金融に関するツールを独占していたというのが大きな問題ではないかと思います。
■具体的に安倍首相にどのようにアドバイスされているのですか。また政治が専門ではないという話がありましたが、専門家と話していると、中国との関係が経済に大きな影響を与えると言っています。そういう観点からすると、安倍首相の政策は必ずしも日本のためではないのではないかということですが、どう思いますか。
★浜田『アメリカは日本経済の復活を知っている』浜田 私は常に安倍首相のアドバイザーを務めているわけではありません。私は『アメリカは日本経済の復活を知っている』の構成に入った時に、安倍首相から電話でいろいろ質問を受けました。その時に非常に恐縮したため、すべて言いたいことを言えなかったので、私の考えをこうして本などでまとめようと思ったわけです。今は大変素晴らしいアドバイザーが首相の周りにいるので、そういう方たちや安倍首相から何か質問があればまた助言していくつもりです。
私が特別参与に任命された時、友人や親戚などから手紙をいただきました。その中で「私は安倍首相の外交に関する考え、憲法改正に関する考えが非常に嫌いなのですが、なぜ参与というポジションを受けたのですか」と聞かれました。私は今は金融政策に自分の仕事を限定しようと考えています。
日本が今、直面している金融の課題はたくさんあります。その中には非常に多くのものがあって、その中に例えば国際貿易なども入っています。しかし、私はポリティカルサイエンスの分野ではまったくの素人です。ただ一つ言えることは、私は現実主義者でもあります。例えば、日本が米国より上回らないといけないとか、何があっても平和憲法にしがみつかないといけないとかではなく、現実的な目で物事を考えたいと思っています。私はゲーム理論をずっと研究していたので、そういう意味でも非常に現実的ではないかと思います。
もちろん外交や政治経済という分野では、1つの国の動きが他の国にも大きな影響を与えるということはよく分かっています。例えば、親米政策を日本が実行することになると、中国を始めとした国々が非常に不安になるかもしれませんし、その逆も言えるのではないかと思います。
しかし、私は先ほども申し上げましたように、国のリーダーというものは1つの原則にしがみつくということではなく、どのように国民を守るのか、国民の福祉を守れるのかということを一番に考えるべきではないかと思います。今は非常に多角的な世界になってきているので、これは簡単に答えが出ないというのも良く分かります。
私は今までのように金融マターに特化するつもりですが、今後、ほかの政治的なアドバイザーにもお会いする機会が増えるのではないかと思うので、それを非常に楽しみにしています。つまり私は外交について首相にアドバイスするつもりはないのですが、違う分野について勉強できることをとても楽しみにしています。
■今回の刺激策ですが、基本的には建設業界を支援するような刺激策だと考えています。しかしこれは昔からある、そんなに支援が必要でない業界ではないかと思います。刺激策はもっと未来に目を向けるものではないか、違う新しい分野に刺激策を導入すべきではないかと思うのですが。
★浜田 まったく同感です。日本だけでなく、私は今ボストンの郊外のニューイングランド地域に住んでいるのですが、長い冬が終わって雪が解けると、多くの建設工事が始まります。「本当に全部が必要な工事なのかな」と時々思うのですが、どの国でもこのようなことがあると思います。やはり構造改革が必要だと私も思います。
――1月21日から日銀の金融政策決定会合がありますが、どのような政策をするべきだと思いますか。例えば、無制限の国債買い入れなどの金融緩和を続けるべきだと思いますか。あるいは現在行っている資産買い入れ基金は2013年末までとなっているのですが、期限を撤廃すべきだと思いますか。また、2%のインフレターゲットについて、具体的にこの時期までという具体的な期日を設けるべきだと思いますか。
浜田 大きな質問なので、答えるのは難しいです。ただ1つ申し上げられることは、私は無期限という言葉は嫌いです。いつかはインフレーションの圧力が入ってくるかもしれないので、その時にはちゃんと対処しないといけないと思います。デフレ状態が続いているなら、今のような金融緩和政策は続けるべきだと思いますが、それは患者を見ながら最終的に決めないといけないと思います。
さらにもう1つ申し上げたいことは、いろんな政策は重要なのですが、重要なことは日銀の行動に対して、どのようなインセンティブが日銀側にあるかを考えないといけないと思います。つまり日銀は今まで推進してきた政策を持続させたいという気持ちがありますし、もしかしたら利害を守ろうという力が働いているかもしれません。つまり、今の法的枠組みをそのまま残すということでいいますと、例えば1月21日からの金融政策決定会合でかなり合理的な政策が決まったとしても、そのような政策が今後も続けられる保証がないわけです。つまり今後、メンバーが変わることもあるわけです。
なので、組織としてしょうがないのですが、基本的には日銀が一番好むような抑制的な政策を続けられるような状況を設けることが、とても重要だと思います。つまり、日銀改正法をさらに改正するべきだと思っています。今の日銀法では日銀は目標も立てるのも自分の裁量権で決められますし、目標を果たすために、どのようなツールを使うのかも決められるわけです。
医者に例えると、日銀は薬を選ぶだけではなく、こういう状態が一番いいというのを患者の意見も聞かずに決めているような状況になっています。ですので、そういう判断にはどうしてもバイアスがかかってしまうので、是正しないといけないと思います。−−抜粋。
(参考記事:)
★アベノミックスは経済学的には危険だが、断固すべし!
http://blogs.yahoo.co.jp/ddogs38
★アベノミクスとは意外に相違している浜田教授の考え―小笠原誠治
http://blog.livedoor.jp/columnistseiji/archives/51516307.html
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