01. 2013年1月21日 02:18:19
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JBpress>イノベーション>ウオッチング・メディア [ウオッチング・メディア] 基調講演パナソニックスタイルvsサムスンスタイル CES2013レポートその1:基調講演参加のススメ 2013年01月21日(Mon) 志村 一隆 CES(Consumer Electronics Show)では3000人くらい収容されるホテル会場で、何回か基調講演(英語ではKeynoteと言う)が開催される。 「基調講演」と言うと堅苦しいイメージをお持ちの向きもあるだろう。スピーチ台を前に原稿を読み上げ、聴衆が畏まって聴く雰囲気。難しそうと考えて行かない人も多いに違いない。 基調講演はまるでエンターテインメント しかし、海外、特に米国カンファレンスの講演は、むしろエンターテインメントショーに近い。開始前にはスモークが焚かれ、大音量の音楽が流れる。司会によるスピーカー紹介もライブコンサートのように盛り上げる。 講演の途中でも、無意味にダンサーが出て踊ったり、音楽ライブが突然始まったりする。映像、ライティングも凝っている。ただ座っているだけで楽しい。 基調講演には日本語の同時通訳もつくので、英語が分からなくてもOK。元ガンズ・アンド・ローゼズのスラッシュ、シルク・ドゥ・ソレイユ、テイラー・スウィフトなどなど、ショービジネスの人気者が出てくるときもある。 また、CESには世界60カ国以上、1800人のジャーナリストが集まる。イベント参加者全体では世界170カ国から3万5000人、米国内を合わせると合計で15万以上。ちなみに、日本からの参加企業は米国、カナダ、韓国に次いで4番目、1600人である。 こうしたメディアがCESで起こったことを世界にすぐ伝える。もちろん、参加した人がそれぞれツイッターでつぶやくだろうし、CESオフィシャルサイトでは動画も公開されている。だからこそ、話す側も気合いを入れる。 こうした誰もが楽しみにしている基調講演(キーノート)の雰囲気を今回は紹介してみたい。 クアルコム社オープニングキーノートの豪華なゲスト クアルコム社キーノートの冒頭シーン(筆者撮影、以下同) 毎年恒例のCESプレイベントのオープニングキーノートは、クアルコム社のポール・ジェイコブスCEOが登場した。 その様子を時間軸で追ってみよう。 CESを主催するCEA(全米家電協会)のゲイリー・シャピロCEOが、ジェイコブスCEOを紹介する。すると、「BORN MOBILE」というテーマが舞台背面にドーンと映し出され、映像が始まる。 そのあと、ジェイコブス氏が登場。話を始める。そして開始7分、いきなりマイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOが登場。 バルマーCEOは昨年まで5年間オープニングキーノートのスピーカーだった。だから、会場のほとんどの人は、ジェイコムブス氏の講演をバルマー氏と比べながら聴いていたと思う。そんなサプライズ演出で、会場は一気に引き込まれる。 バルマー氏とのやり取り(というかほぼバルマー氏が1人で話していた)は7分間。最後に2人で「BORN MOBILE」と叫んで、バルマー氏は舞台の袖に消えた。 その後2分間モバイルの未来についてジェイコブス氏が話したあと、映像が2分。映像のあとは、自社製品の説明がしばらく続く。 講演も30分くらい過ぎた頃、自社製品が技術サポートをしている映画『パシフィック・リム』の映像が流れ、ギレルモ・デル・トロ監督が登場。2人のやり取りが始まる。 それが終わると、今度は講演開始40分で次のゲストが登場。NASCARのトップドライバーだ。その話が10分。その後は、セサミストリートのビッグバードが出てきてデジタル教育について話し、今度は映画『スタートレック』の出演女優が登場する。 そしてロールス・ロイスが舞台に出てきて、モバイルと車について少し話す。最後にMaroon5が3曲生演奏して終了。 これで1時間。ずいぶん賑やかで楽しそうに思えませんか? 手を動かさずに話すのが“パナソニック・スタイル” パナソニック津賀社長は終始手を後ろに組み話す。手を動かすことはない。話を聴くときは手を前に組む 翌朝8時半からは、パナソニックの津賀一宏社長のキーノート。こちらは、展示会開始初日の枠で注目度大だ。 パナソニックは、進行役を立てて講演を進める形式である。進行役はジャーナリストのリサ・リン氏。冒頭、彼女が「パナソニックはテレビだけの会社ではない」と宣言。映像が流れパナソニックのビジネスについての説明がある。 その後、津賀社長の登場だ。 パナソニック・キーノートで少し残念だったのは、津賀社長が講演中ずっと手を体の後ろで組みながら話していたことである。つまり、手振りがまったくない話し方だ。最後まで後ろで組んでいたから、意識してやっていたのだろう。 さらに頭を左右に振りながら話すのだが、手振りがないので、その頭の動きがとても目立つ。少し違和感を感じた。 パナソニックのメディア向け発表会での様子 ちなみに、前日に行われたメディア向け発表会のとき、パナソニックのスピーカー(日本人)は体の前にずっと手を組んだまま話していた。 ともかく「手を動かさない」のがパナソニック・スタイルだ。 大物ゲストが登場したサムスンのキーノート パナソニックが基調講演した日の翌朝には、サムスンのキーノートがあった。登壇したのは津賀社長と同じくエンジニア出身のスティーブン・ウー氏(President of Samsung Device Solutions)。 サムスンのキーノートは、映像、舞台など舞台道具だけでなく、講演者のジェスチャーまで凝っていた。「今日の講演のポイントは3つある」と言いながら、指をかざすジェスチャーは舞台役者のようだった。とにかく、手は動かす。 サムスンのスティーブン・ウー氏による基調講演。話し方は欧米流。パナソニックより自然に見えた。背景の舞台装置は箱が終始動いている映像になっている そして最後に、クリントン元大統領が登場。これにはかなり驚いた。笑いを取りながら10分以上スピーチをして帰っていく。 とにかく、インパクトの大きなキーノートだった。 クリントン元大統領のスピーチ。スピーチ台を前に話す カンファレンスに参加したらキーノートを体感すべし キーノートでどんなメッセージが発信されたのかはニュースを読めば分かる。動画もこの原稿末尾にリンクを張ったように、ユーチューブなどで見ることができる。 それでも、もしカンファレンス自体に参加しているなら、基調講演は極力会場に足を運び、エンターテインメントとして楽しんだほうがよい。あとでアップロードされる動画は少しずつカットされている。 クリントン元大統領が会場を爆笑させていた部分やMaroon5の演奏も当然ながらカットされていて見られない。 また、ニュースとして報道される情報にもバイアスや限界がある。日本のメディアが報じる情報と実際に参加して受ける印象はやはり違う。 メディアの報じる情報だけで判断すると方向性を見誤る。特に自分でビジネスをしているなら、メディア情報と自分の五感で確かめるのと両者を上手く使ったほうがよい。 シスコのチェンバースCEOの講演。客席に降りて話しているところ。非常にエネルギッシュ(モバイル・ワールド・コングレス2012にて) ちなみに、今まで自分がいちばん驚いたキーノートスピーカーは、シスコのジョン・チェンバースCEO。激しく手を振り回しながら、舞台の端から端まで動き回る。 客席に降りてきたときは本当に驚いた。まるでロックスターのようだった。 ということで、今回はキーノート参加をオススメしてみたが、どう思われただろうか。 キーノートに参加すると楽しいだけでなく、自分がビジネスなどで発信側になったときにどうしたらいいのか考えさせられる。 グローバルとは、よくも悪くも欧米流ルールで戦うということである。 そのとき日本式で通すのか、欧米流にいくのか、色々な判断があるだろう。アイデンティティーを残す部分と相手に合わせる部分、その按配には高度なコミュニケーション能力が必要である。 米国で開催されるグローバル発信のイベントで、どの国の人も英語で話すのを聞くというこの複雑な位相は、なかなかその場にいないと味わえない。 参考写真:ソニー平井一夫社長のメディア向け発表会での講演。手は動く 参考:各キーノートの映像が見られるサイト クアルコム:CES TV パナソニック:Channel Panasonic(YouTube) パナソニック・メディア向け発表会:Panasonic LIVE@CES(UStream) サムスン:Samsung Tomorrow(YouTube)(クアルコムと同じCES TVでも見られる) ソニー:Ustream(SE Update) JBpress>海外>IT [IT] アマゾンからの挑戦状、アップルはどう受ける? 手数料を回避し、iPhoneで音楽を拡販 2013年01月21日(Mon) 小久保 重信 米アマゾン・ドットコムは先週、デジタル音楽販売「アマゾンMP3ストア」の米国版サービスについて、「アイフォーン(iPhone)」や「アイポッドタッチ(iPod touch)」の利用者が使いやすいように、両端末向けウェブサイトを刷新したと発表した。 アップル商圏外なら手数料は不要 アップルのアイパッド上に表示されたアマゾンのロゴ〔AFPBB News〕
アマゾンには、「アマゾン・クラウド・プレーヤー(Amazon Cloud Player)」という音楽サービスがあり、アマゾンMP3ストアで購入した楽曲は、同サービスの専用アプリを使ってストリーミング再生したり、ダウンロードしたりできる。 アマゾン・クラウド・プレーヤー用アプリには、米グーグルの「Android(アンドロイド)」に対応したものや、アップルの「iOS」に対応したものがあり、前者では音楽販売も行っている。 ところがアマゾンはiOS向けアプリ内では音楽を販売していない。アプリ内のコンテンツ販売は規約によって、売り上げの30%が手数料としてアップルに徴収されてしまうからだ。 こうした事情からアマゾンはアップル端末の利用者にアプリ内ではなく、アマゾンのウェブサイトで音楽を購入してもらっているが、アイフォーンやアイポッドタッチの小さな画面では使い勝手が悪く、購入しづらいという問題があった。 新たなサイトは「HTML5」と呼ぶウェブの標準技術を使って構築しており、専用アプリに近い形で操作できるというのがアマゾンの売り文句だ。 アイフォーンのスワイプ操作にも対応し、パソコン版と同じく楽曲の試聴もできる。ベストセラー、新譜、割引販売、ジャンルなどの一覧表示、推奨機能なども用意している。 同社はこの新サイトでアップルの音楽配信サービス「アイチューンズ(iTunes)」に対抗し、アイフォーンとアイポッドタッチの顧客を取り込みたい考えだ。 しかしこうした仕組みでは、音楽を聞くためにはアプリを使い、購入するためにはウェブサイトに行かなくてはならず、利用者にとって不便だ。だが、それでもアマゾンは現在考えられる最良の方法を取ったと言われている。 アマゾンの新サイトは「挟み撃ち作戦」 アマゾンの本音は、アイフォーンに標準搭載されている音楽アプリのように、アプリ内に販売サイトへのリンクを設け、2つのサービスを連携させたいところ。しかしアップルは2011年に規約を改定し、それを禁止している。 これにより、アプリ内に「購入」ボタンなどを設けてコンテンツの販売が可能な外部サイトへ利用者を誘導することが不可能になった。 米フォーブスの記事は、こうした規約に加え、アップルは自社サービスと競合するサービスに厳しい条件を設けることがあり、この先どう反応するか分からないとしたうえで、「(新サイトは)アマゾンのジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)がアップルに突きつけた挑戦状ではないか」と報じている。 もしアップルがアマゾンのアプリを排除するような動きを見せれば、それが大きな話題になり、アマゾンにとってこの上ない宣伝になる。 さらに今回構築したサイトはウェブの標準技術を使っているため、少しの改良を加えるだけでウィンドウズフォンやブラックベリーなど他社OS向けに最適化でき、投じた開発費用は無駄にはならない。 一方、アップルが何も行動を起こさなければ、アマゾンは膨大な数のアイフォーン利用者を獲得することができ、同社のほかのサービスへも取り込むことができる。アマゾンの今回の展開は「挟み撃ち作戦」。 アップルがどう反応しようとアマゾンには有利で、見事な作戦だとフォーブスの記事は伝えている。
欧州危機で圧勝する独VW 2013年1月21日(月) FINANCIAL TIMES 独VWが欧州市場首位の座を不動のものにしようと、3カ年計画を策定した。トップの座を得た背景には、ユーロの導入や債務危機が同社に追い風となった面はある。だが先を見通し、大胆かつ細心に経営を進めてきた同社自身の努力も見逃せない。 独フォルクスワーゲン(VW)がこのほど、2013〜15年の3年間で500億ユーロ(約6兆円)を投じて、新車開発や新工場建設を進め、生産設備の刷新も進めるという計画に着手した。これは、ほかの大手自動車メーカーに対する明確な挑戦にほかならない。 首位の座を不動にするのが狙い 欧州の競合各社は、こんな短期間でこれほど巨額の投資をする力を持ち合わせていない。既に大幅な赤字に苦しみ、市場シェアを失い、工場を閉鎖して従業員の削減を進めているメーカーもある。 2008年の金融危機以降、韓国の現代自動車といった欧州の企業ではないライバルメーカーは、猛烈な勢いで欧州市場での存在感を高めてきた。だが、そうした企業にとってさえも、VWははるか先を行く存在だ。 VWは今回の投資計画によって、現在の優位性を徹底的に生かし、今後何年もこの優位性を不動のものとすることを狙っている。 欧州自動車市場における同社のシェアは、2005年の18%から2012年には24%へと拡大した。このペースでシェアが拡大すれば、2020年には欧州で販売される新車の3台に1台がVW車となる。 ライバル各社は、これが夢物語などではないことを十分に認識している。大手国際会計事務所のKPMGがこの1月上旬に発表した調査報告によると、自動車業界の経営幹部の81%が、VWが今後5年間で世界市場におけるシェアを拡大させると予想している。同社がシェア拡大予想の首位に立つのは、これで3年連続だ。 VWが欧州で成功を収めていることについては、3つの解釈がある。同社はブラジルと中国でも好調だが、インドと米国ではまだそれほど成功していない。 ユーロ導入と債務危機追い風に 第1の解釈は、同社が教科書通りの資本主義を実践したことで、成功を手にしたと称賛するものだ。 ヘンリー・フォードが100年前にT型フォードで成し遂げたのと同じように、優れた生産技術を活用しつつ、世界中で優れた生産管理を展開し、どこよりも低価格で販売するという公正な競争によって相手を打ち負かしているとの評価だ。 第2の解釈は、同社の経営手法を無責任で搾取的だと非難するものだ。伊フィアットのセルジオ・マルキオーネCEO(最高経営責任者)は、VWが中国など欧州以外の事業で稼いだ利益を注ぎ込んで法外な値引き販売を展開するため、欧州が「血の海」になったと、VWの経営姿勢を問題視する。 この見方では、欧州自動車業界の最大の構造的問題は、その過剰な生産能力だとされる。それゆえ、VWは他社や当局と協調して生産能力を削減し、必要であれば合併をも進めるべきである、という立場だ。 第3の解釈は、VWが優位に立てたのは、経営者やエンジニアや営業担当者が有能かつ容赦ないまでに積極的だっただけでなく、欧州全体の政治的、マクロ経済的条件が同社に追い風となったおかげだった、と見るものだ。 ここで念頭に置いているのは1999年のユーロ導入、2000年代前半に行われたドイツの労働市場改革、そして際限なく続くように見える債務危機が、自動車業界に及ぼした影響だ。 ユーロの導入は、かつてマルク高の恩恵を労せずして得ていたユーロ圏の競合メーカーからその恩恵を奪い、VWに有利に働いた。ドイツの労働改革は、フランスやイタリアとは比較にならないほど徹底して進められ、結果的にVWの競争力をも大いに高めた。 それでも2008年までは欧州の新車販売は好調で、どのメーカーにも大きな成長の余地が残されているように思われた。だがそんな幻想はすぐに消え去った。過去5年間、金融市場の混乱と景気後退、そして緊縮財政を礼賛する政治的な風潮の下、クルマに対する需要は低迷した。 この逆風を真っ向から受けたのが、仏プジョーシトロエングループ(PSA)やフィアットなど、欧州市場への依存度が高すぎる一方で、人員削減は最低限に抑えるよう政府から圧力を受けてきた企業だ。 欧州危機は別の面でもVWに追い風となった。投資家が優良な、つまり安全な株に群がったため、同社は借り入れ金利を競合メーカーより低く抑えることができた。欧州債務危機のおかげでドイツが欧州連合(EU)の盟主として浮上してきたように、VWも危機のおかげで欧州自動車市場における首位の座をさらに確固たるものにしつつあると言える。 大胆な精神と細部への気配り それでも、VWは30年近くも前から中国市場に参入するなど、その先見の明は称賛に値する。今や世界最大の自動車市場である中国で販売される乗用車の5台に1台がVW車だ。 一方で、同社はスペインの「セアト」やチェコの「シュコダ」など、系列メーカーとプラットホームを共有することで生産コストの圧縮を図っている。今年開始する3カ年計画では、20%のコスト削減を目標に掲げている。 また、同社の投資計画については、ハンス・ディーター・ペッチCFO(最高財務責任者)がしっかりと目を光らせている。売上高に対する土地や工場、設備への投資額の比率は、5%を優に下回る。 VWの株価は、こうした理由から、過去3年で3倍近く上昇した。だが、PER(株価収益率)で見ると同社株はドイツ国内の競合メーカーであるBMWやダイムラーよりも割安で取引されている。昨年、フェルディナント・ピエヒ会長の妻であるウルスラ・ピエヒ氏が監査役に就任したことに代表されるように、同社のコーポレートガバナンス(企業統治)に対しては懸念材料が残っているためだ。 どの業界でも同じだが、自動車業界でも1社の支配が永遠に続くことはない。ほんの20年前には、VW自身の状態も決して良くはなかった。だが同社は、大胆な精神と、断固とした決意と、細部への地道な気配りによって、チャンスをものにしたのだ。このことは、ユーロの時代の教訓と言える。 Tony Barber (©Financial Times, Ltd. 2013 Jan. 10)
HMVだけじゃない。英国の小売りを襲う“倒産ドミノ” 加速するネット依存、リアル店舗に未来は? 2013年1月21日(月) ローラ・スカーレット 英国の繁華街からまた1つ、消費者に愛された小売りブランドが姿を消すかもしれない。 ロンドンのオックスフォード・ストリートにあるHMVの旗艦店 1月15日、英国最大のCD販売チェーンであるHMVが倒産した。HMVは1921年に1号店を開いてから、長年にわたってこの国のエンターテインメント文化の一翼を担ってきた。レコードやCDのアルバムを初めて買った店がHMVだったという英国人は多く、HMVのバウチャーはクリスマスの代表的なギフトとしてすべての世代に親しまれてきた。
だが、現実は厳しかった。同社の経営陣は事業を継続させるための買い手を探しているが、先行きは不透明だ。 倒産の日、店内に若者の姿はまばら HMVが倒産した日の朝、ロンドンの繁華街オックスフォード・ストリートにある旗艦店を訪れた。新聞やテレビでの報道にも関わらず、閉店セールを期待して押しかける消費者もいなければ、倒産に慌てる従業員の姿もない。いつものように、静かな平日の朝だった。 仕事や学校があるのも一因だろう。店内には若者の姿はまばらで、中高年の買い物客がほとんどだった。その中の1人、アマンダ・ホッブスさん(43歳)は、「HMVが倒産したのはとても残念。実際にお店にCDを買いに来るのが好きだった。手にとって、ジャケットを見て。私は今でもiPodを持っていないし、使い方も知らない。インターネットでCDを一度も買ったことすらない。これからどうしたらいいの」と憤っていた。 また、60代の女性は、「(倒産したから)もうバウチャーを受けて付けてくれない。まだ60ポンド分もあるのよ。HMVの失敗は、私たちのような年寄りの顧客を大切にしてこなかったからだわ」と怒りすらあらわにする。 CD市場でシェア35%、それでもiTunesに負けた HMVは約4350人の従業員を抱え、235店舗を展開してきた。昨年、英国のCD市場では35%のシェアを持っていた。それでも、業績は急降下していた。2012年4月期の連結売上高は前年比2割減の8億7300万ポンドで、最終赤字は縮小したものの依然として8000万ポンドに上っていた。 経営悪化の背景には、米アップルの「iTunes」に代表される音楽配信サービスの台頭がある。 英国の音楽業界団体であるBPI(The British Recorded Music Industry)によると、2012年第1四半期に音楽配信などデジタル形式による売り上げが市場の55%を占めて、CDなど物理的な媒体による売り上げを初めて上回った。シングル曲に限れば、昨年販売された1億8900万曲のうち、実に97%がダウンロードによるものだった。事実、レコードレーベル会社にとっても、もはや最重要顧客はHMVではなくなっていた。ソニーミュージックUKのニック・ガッツフィールドCEO(最高経営責任者)は、「英国最大の音楽小売店はiTunesだ」と打ち明ける。 遅すぎた配信サービス進出 HMVも、音楽配信に取り組んでいなかったわけではない。2010年には、音楽配信を手がける英セブンデジタルと合弁会社を設立してサービスを開始していた。だが、小売業の著名コンサルティング会社、英コンルミノのニール・サウンダース氏は、「HMVの参入は遅きに失した。既にiTunesが大成功を収めていた上に、iPodやiPhoneと統合されたサービスの牙城を崩すことは不可能だった」と話す。 そもそも、英国の消費者はインターネットでモノを買うことに対する抵抗感が少ない。米ボストン・コンサルティング・グループの調査によると、2010年時点で英国の小売業におけるネット販売の売上高は全体の13.5%を占めており、G20 (主要20カ国・地域)の中で最も高い。オンラインへと消費の舞台が急速に移行していることが、「ハイストリート」と呼ばれる英国の繁華街にチェーン店を展開してきた大手小売りを追い詰めている。 消費者の購買行動が変化したことの犠牲となったチェーン店は、HMVだけではない。今年に入ってから倒産した大手小売りチェーンとしては、カメラチェーン大手のジェソップス(Jessops)に続き、HMVは実は2社目。そして16日にはDVDレンタルのブロックバスターUK(Blockbuster UK)が倒産した。新年早々3社が立て続けに経営破綻する事態は、まるで“倒産ドミノ”だ。 倒産ドミノは、既に昨年から始まっていた。スポーツ用品のJJBスポーツ(JJB Sports)、格安衣料のピーコックス(Peacocks)、アウトドア用品のブラックスレジャー(Blacks Leisure)、カード専門店のクリントン・カーズ(Clinton Cards)、ビデオゲームのゲームグループ(Game Group)、家電のコメット(Comet)が相次いで倒れている。 倒産ドミノでハイストリートは荒廃? これらの小売りチェーンは、音楽業界のHMVのように、それぞれの分野で英国の消費者に親しまれてきたブランドばかりだ。そのために、相次ぐ倒産で荒廃が始まっているハイストリートの将来を懸念する消費者は多い。だが、iTunesなどのデジタル配信サービスや米アマゾン・ドット・コムに代表されるオンライン小売業者との競争激化によって、今後もさらなる倒産は避けられそうにない。 コンルミノのサウンダース氏は、「今後もさらなる閉店は避けられず、店の規模も小さくなっていく」と断言する。その一方で、「ただし、それは“ハイストリートの死”を意味するものではない」とも言う。リアルの店舗の役割が、消費者が商品を実際に体験し、ひらめきやアイデアを得るための拠点に変わっていくからだ。言い換えれば、「オンラインとリアルの店舗を途切れなく連携させて、マルチチャネルで消費者を誘惑できた小売りこそが成功を収める」(サウンダース氏)ような時代が到来する。 英国の消費者の実利主義は、近未来の日本の姿か 確かに、したたかな英国の消費者を誘惑するには、既存の小売業者は今まで以上に知恵を絞る必要がありそうだ。 HMVでセール中だったクラシック音楽のCDを大量に買い込んでいたギャビン・エールズさん(43歳)は、「大好きだった小売店が消えるのは確かに寂しいが、こればっかりはどうしようもない。実際、iTunesは便利だし、CDが無くなっても何ら問題はない」と割り切っている。ローラ・グリサフィさん(26歳)も、「私たちは、より安く、より便利な選択肢をいつも選んでいる。その結果、たいがいはアマゾンで買うことになるし、さらに安いところがあれば別にアマゾンではなくてもどこでも良い」と言う。 結局のところ、HMVなど大手小売りチェーンの相次ぐ倒産は、エールズさんやグリサフィさんのような実利主義を徹底する英国の消費者による選別の結果だ。今後、英国だけではなく、世界の消費者がインターネットに消費の軸足を移していくだろう。その時、英国のハイストリートを襲っている倒産ドミノは世界に波及していくかもしれない。日本の既存大手小売りチェーンも、HMVの轍を踏まないよう、備えが必要だ。 ローラ・スカーレット 日経ビジネス・ロンドン支局特派員。英国IT業界を中心に欧州の企業・経済動向をリサーチ・取材している。英シェフィールド大学では日本語、英国王立芸術大学院ではアジアのデザイン史を専攻。約1年間、日本での留学経験がある。 ニュースを斬る
日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。 |