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2014.01.09(木) 烏賀陽 弘道
「がんの原因は心的ストレス」は本当か?
http://blog.livedoor.jp/home_make-toaru/archives/7502823.html
とある原発の溶融貫通(メルトスルー)
以下は,JBPRESSに投稿された烏賀陽弘道さんの記事からの引用です。
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スリーマイルが教えるフクシマの未来(その8)
1979年にメルトダウン事故を起こしたアメリカ・ペンシルベニア州のスリーマイル島(TMI)原発からの現地報告を続ける。今回から数回にわけて、周辺住民の健康への影響について調査した疫学調査について述べる。事故から35年が経過したTMI原発事故では、調査も複数回行われ、その結論がほぼ出そろっている。原発事故で周辺住民が被曝した事故は人類史上TMI、チェルノブイリと福島第一の3回しか起きていない。その経過や内容は福島第一原発事故の未来を予測するのに極めて数少ない先例として参考になる。
結論を先に箇条書きにしておく。
(1)最も早く短期調査をしたペンシルベニア州政府・連邦例府は「健康被害はあってもごくわずかで、有意の範囲ではない」と結論を出した。
(2)ボランティアの個別訪問調査や生活実感から、住民たちはこの結果に納得しなかった。
(3)事故で原発から放出された放射性物質の総量をどう定義するかも見解が分かれた。
(4)1990年代になって長期調査の結果が公表されるようになった。
(5)コロンビア大学の調査はがんなどの増加を指摘しつつ「有意の影響は見つからなかった」とした。
(6)ノースカロライナ大学の調査はコロンビア大学のデータを再検討して批判し「放射性雲(プルーム)の流れた方向と健康被害は関連がある」と結論づけた。
(7)ピッツバーグ大学の調査はがんなどの増加を指摘したが「結論にはまだ経過観察が必要」と結論づけた。
筆者は6、7の調査責任者に直接面談してインタビューした。スケジュールの都合でコロンビア大学の調査責任者には面会することができなかった。
州政府は「影響は“Not significant”」と結論
最も早く短期調査をしたのは地元のペンシルベニア州政府厚生局である。事故から3カ月後の1979年6月、TMI原発から半径5マイル(8キロ)に住む住民3万6000人の調査を始めた。これは当時の全住民の94%を網羅していた。調査項目は「病歴」「事故以前の被曝歴」「教育」「職業」「喫煙習慣」「事故後10日の調査対象エリアでの行動」などである。
TMI原発事故では、福島第一原発事故と違って全住民の強制的な避難は行われていないが、その代わりに事故後5年で半径5マイルの住民の半分が引っ越してしまった。よって、この調査は“Three Mile Island Population Registri”(スリーマイル島住民登録調査)と呼ばれる基礎的な数字として現在も使われている。この母集団を“Three Mile Island Cohort”(“Cohort”は統計学の母集団の意味)という。
1983年になってこの調査をもとにした調査結果が公表された。そこでは原発周辺の住民の全身被曝量(whole body dose)を次のように結論づけた。
・平均9ミリレム(0.09ミリシーベルト=90マイクロシーベルト)
・最大25ミリレム(0.25ミリシーベルト)
原発に最も近い都市である州都ハリスバーグの自然放射線被曝量は年間116ミリレム(1.16ミリシーベルト)である。こうしたデータをもとに州政府は次のような結論を出した。
・原発事故による被曝量は胸部のレントゲン撮影1回分ほどにすぎない。
・原発事故がなくても半径50マイル(80キロ)に住む220万人に通常発生するがん死者32万5000人に1人が増える程度である。(偶然だが、この220万人は福島県全県の人口規模に近い)。
・その影響は“Not significant”(“Significant”は 統計学用語で「有意」=「偶然のみによって起こると思われる以上に大きな差がある」の意味)とされた。
(Gur, et al.1983 "Radiation Dose Assignment to Individuals Residing near the Three Mile Island Nuclear Station" Proceedings of the Pennsylvania Academy of Science 57;99-102)
こうした結論に、ボランティアの聞き取り調査や生活での見聞から「がんや腫ようが増えている」と考える住民たちが反発したのは前々回の報告(「娘ががん死、原発会社を訴えた訴訟の結末とは」)で述べた通りである。
「放射性物質が放出された期間」の違い
こうした州や連邦政府の調査結果に住民が納得しなかった大きな理由の1つは、事故で放出された放射性物質の量の算定をめぐって見解が割れたことだ。
そうした政府の算定では、TMIでの放出量は10の16乗ベクレル単位。チェルノブイリでは18乗単位である。比較のためおおざっぱに言うと、TMI:福島第一:チェルノブイリ=1:10:100である。
・TMI事故の希ガス放出量:「9.25×10の16乗」ベクレル
・チェルノブイリ事故の希ガス放出量:「1.85×10の18乗」ベクレル
(原子力百科事典ATOMICA、原子力安全委員会『ソ連原子力発電所事故調査報告書』より)
この根拠になっているのは、アメリカ連邦政府の原子力規制委員会、エネルギー省、厚生教育省などの原子力専門家がつくった臨時組織“Ad Hoc Interagency Population Dose Assessment Group”(公衆被曝アセスメントのための省庁間臨時グループ)の算定だ。
このアドホックグループは、前述のTMIコホートと同じ5マイル内の総被曝量を3300人レム(33人シーベルト)、1人当たり15ミリシーベルトとはじき出した。そして原発の敷地境界に事故が進行していた1979年3月28日から4月7日まで立っていたと仮定しても、100ミリレム(1ミリシーベルト)を超えない、と算出した。
公式には、TMI事故では格納容器に大きな破損はなかったことになっている(異説もある)。よって「燃料棒はメルトダウンしたが、放射性物質の大半は格納容器や建屋の中に封じ込められた」ことになっている。これは、原子炉の暴走が進行していた1979年3月28日から4月7日に限っていえば正しい。
しかし、その後、溶けた燃料棒を抜き取り、原子炉を廃炉する工程で、原子炉や格納容器内にたまっていた放射性物質を大気に放出する作業(ベント)が行われた。住民は猛反発し、差し止めの訴訟にまでなったが、裁判所はベントを許可する判決を出した。1980年6月にベントが行われた。また原発構内の除染で発生した放射性汚染水も、そのまま構内に置かれ、水分を蒸発させた。
州・連邦政府の計算では、こうした「事故の進行が止まった後に環境に放出された放射性物質」は考慮されていない。一方の住民側にすれば「自分たちが生活する環境に放射性物質が飛んでくるという点では変わりがない」と思える。
こうした「いつからいつまでを放射性物質が放出された期間と定義するか」について、州・連邦政府側はあくまで「メルトダウン事故が進行していた1979年3月28日から4月7日の間だけ」と「短め」の解釈を変えなかった。その上で「健康被害はあってもごくわずかで、有意ではない」との結論を出した。そのために住民に「政府は被害を過小に見せようとしている」という根強い不信感を残すことになった。
こうした住民の疑問は、34年が経過した筆者の取材の時点でもまだ残っていた。この「政府は被害を過小に見せようとしている」という住民側の強い不信感は、筆者が取材した福島第一原発周辺でもそっくり似た現象が起きている。
もともと、こうした短期調査は極めて難しい問題を含んでいる。TMI原発事故のような低線量・長期被曝によるがんその他の病気の発生に「因果関係がある」とも「ない」とも「定説」はない。また、発生したとしても、がんの潜伏期は20年から30年と言われている。短期調査は「実績」ではなく「予測」の域を出なかった。
再検証されたコロンビア大の健康被害調査
事故後、数年の時間を置いて健康被害の「実績」を調査した結果が公表され始めるのは、事故後10年以上経った1990年代に入ってからである。
先頭を切ったのは1990〜91年にかけて発表されたコロンビア大学(ニューヨーク市)の疫学者チームの調査だった。原発から10マイル(16キロ)内に住む16万人が対象。病院にあった病歴記録と死亡証明書を基礎資料にした。1979〜1985年の期間で、原発から住居の距離とがんの発生に関係があるのかどうかを調べている。対照資料は事故前の同じ地域のがんの発生である。
結果は矛盾していた。「1982〜83年にはがんが著しく増加」する一方「1984〜85年には減少」していたからだ。この原因をコロンビア大チームは「事故の影響で健康診断を受ける人が増えたため、がんが発見されやすくなったから」として「事故が原因ではない」「がんの増加は心的なストレスが原因ではないか」と結論づけた。
(Hatch, et al."Cancer Rates After the Three Mile Island Nuclear Accident and Proximity of Residence to the Plant" American Journal of Public Health 81 (6): 719-24 )
1997年になってこのコロンビア大学調査はノースカロライナ大学公衆衛生学部疫学チームによって再検証され、批判された。再検証チームを率いたスティーブ・ウィング教授はこう書いている。
・コロンビア大学の調査は次の種類のがんで被曝量との間に関連性(positive associations)があると述べている。
非ホジキンリンパ腫
肺がん
白血病
全種類のがん
・しかし、論文の筆者は「TMI原発事故の放射能が調査対象地区のがんに影響を及ぼしたと確信できる証拠は見つからなかった」と結論づけた。
・そしてがんの増加の原因を「心的ストレスではないか」という仮説を提示した。
・コロンビア大学調査は、放射線に最も敏感でその影響も未確定な部分が多い子供の症例への考察が欠けている。
・被曝量の計算や被曝時間の計算も過小である。
・心的ストレス量は「原発に近い方が高い」としているだけで、具体的な計量方法に欠ける。
・がんのような神経内分泌性の障害がストレスで発生するという仮説は憶測にすぎない。
・こうした仮説に基づく結論は“equivocal”(曖昧、いかがわしい)である。
(Wing "Objectivity and Ethics in Environmental Health Science" Environmental Health Perspectives. November 2003)
こうして、コロンビア大学説とサウスカロライナ大学説は、同じデータを使いながら、正反対の結論に至り、対立した。
次回はこのウィング教授に面談したインタビューを報告する。
【筆者からのお願い】
筆者の取材活動への「投げ銭」のお願いです。福島第一原発事故関連の取材に関わる諸経費について、筆者はすべて自腹を切っています。こうした報道に経費を払う出版社も、もうほとんどありません。筆者の取材は読者からの「投げ銭」に支えられています。どうぞよろしくお願いします。PayPal、銀行口座など投げ銭の窓口と方法はこちらをご参照ください。
https://www.facebook.com/note.php?note_id=226356587385640
2014.01.09(木) 烏賀陽 弘道
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39627
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がんのストレス発症説はいかがわしいということです。
有意義な調査ですね。
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