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【あの人に迫る】 原発職員たちに膨大なストレス/重村淳 精神科医
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2013年12月1日 東京新聞朝刊 「あの人に迫る」より :俺的メモあれこれ
防衛医科大学校(埼玉県所沢市)の精神科教室チームは、東日本大震災の2カ月後から、福島第一、第二原発で働く東京電力職員たちのメンタルヘルスの支援をしている。講師の重村淳さん(44)はそのリーダーで、災害時のトラウマ(心的外傷)の研究者だ。支援活動から見えてきたのは、職員たちが抱える猛烈なストレスと、差別・中傷の問題だった。(安藤明夫)
“いろんな人が怒りや恨みを超えて生き続けていかなくちゃいけないのが、この原発事故以後の日本だと思う“
──現地で東電職員たちに会ってまず感じたことは。
震災の年の5月6日に初めて入り、福島第一、第二原発の職員の方たちとお会いしたのですが、感じたのは強烈な「四重のストレス」でした。
まず惨事ストレス。津波に巻き込まれた、目の前で原発が爆発した、被ばくした、被ばくしたかもしれない、といった体験。2つ目は被災者体験。職員の多くは地元の方で、7割ぐらいは避難生活をしながら仕事をしています。3つ目は悲嘆の体験。第一原発では若い職員2人が津波にのみ込まれて亡くなった。第二原発でも関連会社の職員が亡くなっています。同じ仕事をする仲間、あるいは家族、友人を亡くしているわけです。
そして4つ目、これが一番大きいのですが、「東電バッシング」による差別、中傷です。職員が避難所に制服のまま帰ると「おまえ、こんな所で何やっているんだ。早く原発に行って直してこい」とののしられたり、「こっちへ来るな」と嫌われたり、胸ぐらをつかまれたりする。アパートの大家さんが「うちは東電お断り」と拒否したり、ようやく借りたと思ったら、ドアに「東電出て行け」の張り紙をされたり…。
──それで東電職員のメンタルヘルスの調査をした。
彼らのストレスは今までの災害にないほど膨大でかつ複雑だと感じました。私が「差別はいけない」と訴えても効果がない。データとして伝えないと説得力がない。それで第一、第二原発の職員を対象にメンタル調査をさせてもらった。アンケート形式で1495人。結論としては、四重のストレスを皆さんが経験していて、それは従来の災害よりも高い傾向があった。そして一番影響を与えていたのは差別・中傷だった。差別・中傷を経験した人はそうでない人に比べ、2倍から3倍、心の変化が出やすいと分かった。心の変化とは不安やうつなど心の不調を示す数値が高いことと、PTSD(心的外傷後ストレス障害)によって思い出したくないことを思い出してしまう、緊張して眠れない、音にビクッとなるといったことです。
──本来、怒りは東電経営陣に向かうべきことです。
確かに東電は企業として恥ずかしい対応をしていて責められても仕方ないと思う。加えて、目に見えない災害だから見える人を攻撃することは原子力災害の特徴です。社長のような責任を持っていなくても「東電」というだけで、激しく責められてしまう。
でも現場で働いている人たちはすごく公共性の高い仕事をしています。彼らが頑張らなければ私たちの生活すべてに影響が出てきます。虐げられることでその人の根本的な尊厳を傷つけてしまう。社会人として、専門家として、福島県民としてのプライドが失われていく。何のために復旧活動をしているか分からなくなっていく。
汚染水騒動だとか、何かあると世間の目が厳しくなり、現場が疲弊していく。震災から2年8カ月が過ぎた今は、みんなヘロヘロになって仕事をして、初歩的なミスをして、批判され、また委縮するという悪循環が起きています。そして退職者が増えているという悲しい現実があります。
──心の傷を回復させるためにどうしたら。
最低限必要なのは安全・安心と衣食住なのですが、この原発災害ではそれがかなわない。4号機の燃料棒取り出しが始まりましたが、ものすごく大変な作業をしながら寝泊まりする場所がプレハブだったり、弁当が粗末だったりします。いまだに現地は回復に入っていない急性期です。
私は、最前線で働く人たちにもっとねぎらいと敬意を持ってほしいと思う。この震災では自衛隊はとても感謝されました。「自衛隊ありがとう」とプロモーション映像を作ってネットに載せる人もいます。同じように社会のために働く東電の原発職員も支援者といえると思うのですが、「ありがとう」の声がかかることはあまりない。日本の文化の中では原発職員は「働くのが当たり前」と考えられやすいけれど、ねぎらいと敬意はトラウマからの回復に大きな力を持つ。
──原発職員への支援体制に課題は。
私は今までに42回、被災地に行き、原発関係だけで数百人の方とお会いしました。最初は、東電の非常勤の産業医の谷川武先生(愛媛大教授)からの個人的な紹介で出掛けたのですが、やがて国の事業として防衛省が防衛医大を派遣するという形を整えることができた。でも、私たちのチームが日常業務を抱えた中でできることには限りがあります。東電の関連会社の方たちにまで支援を広げるのは不可能だし、退職していった人たちのフォローもできない。この国難に対しもっと社会が力を入れて取り組んでほしい。この問題は「心のケア」といった小さな取り組みで解決できることではなく、幅広い支援を進めていくべきだと思っています。
そもそも、原発推進派、反対派を問わず、こんな状況は早く終わってほしいと思っているはずですよね。働いている人の健康を守ることが1日も早い復旧につながるという共通認識を持ってほしい。
今、福島では「共生」という言葉がよく使われます。原発関係者・そうでない人、賠償金をもらっている人・いない人、いろんな人が怒りや恨みを超えて生き続けていかなくちゃいけないのが、この原発事故以後の日本だと思う。それが共生ということです。
──多くの学会のシンポなどで現地の声を代弁されています。
時間がたつと、人々の関心は薄れていきますし、東電への差別中傷も固定化する。さらには福島への差別中傷も固定化してしまう。そこに非常に危機感を持っています。
差別された人は言いたいことが言えなくなる。言えないと社会は無関心になり、差別のレッテルを貼ったままにしてしまう。みんな福島はどうなっているか、原発はどうなのか知らないまま、ただ不安がったり、恐れたり、嫌ったりする。これはエイズやハンセン病、水俣病などもすべてそうです。新型インフルエンザ騒動のときも最初のうちはみんなが分からないまま大騒ぎして、人権侵害的な報道もあった。
こうした差別について当事者が発言するのは大変な勇気が要るから、外部から福島に入る人たちが発信しなければならない。それが私たちの役割だと思っています。
[しげむら・じゅん]
1969(昭和44)年静岡県沼津市生まれ。慶応大医学部卒。慶応病院精神神経科などを経て99年、防衛医大助手に。PTSDとみられる患者を十分にケアできなかった反省から災害ストレスに関心を持った。米国軍保健科学大のトラウマティックストレス研究センターの客員研究員(2003〜05年)を経て06年から防衛医大講師。特に災害救援者・支援者のメンタルヘルスを専門とする。
日本トラウマティックストレス学会の副会長、日本精神神経学会災害支援委員会委員も務める。共著として「大震災と子どものストレス」 「PTSDの伝え方─トラウマ臨床と心理教育」(いずれも誠信書房)がある。
◆インタビューを終えて
「テレビ局の人に、支援者は絵にならないと言われました」と苦笑する。被災者の姿は視聴者の涙を誘うが、支援者は関心を呼ばないということらしい。
そのせいか、重村さんは震災関係の学会シンポジウムで引っ張りだこなのに、マスメディアでの注目度は高くない。福島の「心の現実」をきちんと報道してきたか、自省する必要がある。
原発職員への差別・中傷だけでなく、放射能をめぐる住民同士の意見対立や政治不信も、子育て環境も、当初より悪化しているように思える。
「共生」の橋をどう懸けていくのか。これからを見つめていきたい。
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