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「甲状腺異常が見つかっても、それは被曝の影響ではない」という結論にみちびくシナリオが……
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2013年11月22日 秋場龍一のねごと
福島原発事故
県民健康管理調査の闇
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日野行介
岩波書店、2013
福島県は福島第一原発事故による健康への影響について網羅的に調べる「県民健康管理調査」を実施した。
だが、その「調査」の裏では、恐るべきブラックな事態が進行していた――。
本書の著者は毎日新聞現役記者。
その内容は俗にいう“スクープ”である。ただし下世話な興味本位のものではなく、今後数十年、場合によっては世代をまたぐ長期間にわたる、人の生命と健康に関する重大な問題に関したものだ。
その生命と健康の対象となるのは、福島200万県民、さらには東北・関東・北陸・中部など、放射能汚染にさらされた約4000万住民にもかかわるものである。
そういった意味でジャーナリズムの本領を発揮した最高の“特ダネ”ということになる。
「県民健康管理調査」を実際に担当するのが福島県立医大、その調査方法や検査結果を評価するために設けられたのが「検討委員会」である。
そして、ここに登場するのが、山下俊一その人を筆頭とする御用学者の面々。
山下は県立医大副学長と検討委員に就任し、「調査実行」と「検討評価」を兼務することになる。
これは、プレイヤーとアンパイヤー、あるいは被告と裁判官を兼ねるという立場だ。
このひとつの事実だけでも、この「調査」の信頼性が著しく疑われるだろう。
そして、その疑惑どおり、そこには「闇」が潜んでいた。
……検討委員会は約1年半もの長期間にわたって、一切その存在を知らせることなく「秘密会」を繰り返し開催していた。報道機関や一般に公開する検討委員会の会合を開く直前に、福島県と県立医大は「準備会」「打ち合わせ」の名目で秘密裏に検討委員たちを集め、「どこまで検査データを公表するか」「どのように説明すれば騒ぎにならないか」「見つかった甲状腺がんと被曝との因果関係はない」などと、事前に調査結果の公表方法や評価について決めていたのである。(本書X頁)
――こんな「秘密会」が存在することを、毎日新聞は12年10月3日、一面トップと社会面で報じたのだ。
この「調査」は、調査の前にその「結果」が決まっていた。
それは「甲状腺異常が見つかっても、それは被曝の影響ではない」という結論にみちびくというシナリオが……。
そして、このシナリオがまだ廃棄されず、シナリオに沿って忠実に進行していることは、この間の「調査」の報告を聞いてもあきらかだ。
さらに、この報道に動揺する県幹部のようす、毎日新聞への民主党県議の「抗議」や自民党県議の「懇願」が記されているが、彼らがだれのために存在しているのかが浮き彫りになる。
また、国の原子力規制委員会、とくに事故後の「健康管理」を検討するとりまとめ役となった中村佳代子委員の、その会議での言動や振る舞いに、この人の正体があきらかになるだろう。
ところで、内部被曝をできるかぎり正確に検査するには、ホールボディカウンター(WBC)では不十分で、尿検査が必要である。
だが、山下俊一は、そのWBC検査さえ、できればやりたくないという趣旨の発言をしている。
そして、著者の直接インタビューで、山下は原子力発電について、その「意義」を明確にしていることを付け加えておこう。
巻末に「県民健康管理調査」の検討委員とオブザーバーの氏名と所属が記されている。
これはぼくたち、とりわけ子どもたちの生命と健康をまもるための「貴重」なリストになるだろう……。
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