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http://sankei.jp.msn.com/politics/news/131104/plc13110403190001-n1.htm
原発恐れず議論の時
2013.11.4 03:18 [原発・エネルギー政策]
原発事故で被災した福島・浜通りの人々約30人が9月、チェルノブイリを訪れた。そこで彼らが見たのは日本で報じられてきた放射能汚染に苦しむ荒廃した町とは全く異なる、よみがえった町と子育てにいそしむ人々の姿だった。
ウクライナの首都キエフでは国立放射線医学病院を訪れ、原発事故の健康被害についても学んだ。同病院が原発職員や周辺住民約2万3千人を27年間追跡調査した結果、他地域の住民との間にがん発生率で有意の差はなかったとの分析に、浜通りの人々は驚いた。チェルノブイリの放射線拡散量は福島の50倍といわれているのに、である。
ウクライナは実は広島と長崎の体験に学び、被曝(ひばく)者手帳の配布と定期診断で人々の健康データを一括管理してきた。浜通りの人々のまとめ役として訪露したNPO法人ハッピーロードネット理事長の西本由美子さんは「チェルノブイリは広島、長崎から学んだ。なぜ、福島はチェルノブイリ、さらには広島、長崎に学べないのでしょう」と問う。
こうした事例に学ばず科学に背を向けたことが、不必要な恐怖を引き起こした一因であろう。たとえばCT検査1回で10ミリシーベルトの放射線量を受けることが明らかな中で、安全のためには1ミリシーベルト/年を超えてはならないというかのような過度な恐れが、今も人々を福島から遠ざけている。人の戻らない故郷は廃虚となる。
ウクライナは1986年の原発事故後、90年に原発を全廃した。すると経済が破綻し、自殺者が急増した。旧ソ連の崩壊でウクライナは共和国として独立、93年、安全性を高めて原発を再稼働させ、経済と人々の暮らしを立て直した。現在15基が運転中で、さらに2基を計画中である。
放射能も原発も、正しく恐れることが大事だ。恐れすぎ、厳しく規制しすぎることの負の影響はかつてのウクライナ、現在の福島に見てとれる。浜通りの人々は深刻なのは放射能汚染よりも情報汚染であることを知ったという。
日本で今顕著な情報汚染は汚染水問題だろう。汚染水はALPS(多核種除去設備)で処理し、希釈して海に放出するのが国際社会のとっている方法であり、人体への被害を示すエビデンスはない。
だが、国も専門家も世論の反発と不信の前で、科学的に処理すれば汚染水は安全だと説明できない。他方大半のメディアは反原発の視点で非科学的な汚染水報道を続ける。
これでは汚染水問題はおろか、原発、エネルギー政策、アベノミクス、ひいては日本の安全保障政策など、まともに論じられるはずがない。
日本の原発の安全性は3・11の後、顕著に高まりつつある。安全重視を大前提として、日本経済および安全保障にどれほど原発が必要かを広く論ずるときではないか。
原発の停止によって電力会社が支払う燃料輸入代金が増大化し、日本は2011年、30年ぶりの貿易赤字に陥った。12年度の赤字幅は8・2兆円に膨らみ、13年度の燃料費はさらに3・6兆円増える。
日本の1次エネルギーの海外依存率は今、92%、1973年の石油ショック時より高い。一気に40年前に引き戻された状況で、いかにしてアベノミクスを成功させるというのか。
燃料輸入を続けるにしても、シーレーン(海上交通路)には危険要因がついて回る。日本の原油輸入の83%は中東に、うち80%はホルムズ海峡に依存するが、シリアの内戦は言うまでもなく、イラン、イラク、アフガニスタン、エジプト、リビアなど、中東の政治情勢は極めて不安定である。いつも安定して輸入ができるとはかぎらないのである。
加えて、経済成長、人口増加要因などから米、中、欧州、インドなどの諸国はエネルギーの安定供給を目指して原子力推進に走っている。21世紀は間違いなく原発推進の世紀である。
東アジアに限っても、現在稼働中の原発は、中国17、韓国23、台湾6である。建設中を加えるとおのおの、71、32、8になる。日本が原発から撤退しても、わが国周辺で優に3桁の数の原発が運転される。
いかにしてこれらの国々の原発の安全性を高めるかは日本の命運にもかかってくる。その技術に今、他のどの国よりも貢献できるのが日本である。世界展開する商業用原子炉メーカー4グループで、日本企業3社が中核を占め、情報公開や安全性で共通基盤を有する日米欧の3極体制を作り上げている。韓国、中国、ロシアの企業グループも存在するが、彼らの原発も含めて、最重要の原子炉圧力容器は、世界の8割が日本製鋼所の技術に依拠している。
また、核非保有国として日本は唯一、核燃料サイクルの保有を認められ、ウラン濃縮および核燃料の再処理を許されている。これは日本が平和に徹してきたこと、核燃料サイクルの構築に関して公正さと透明さを保ってきたことへの高い評価と信頼の証しである。
世界は日本を原子力でも核問題でも信用しているのである。それだけの信頼を国際社会から寄せられていることを肝に銘じたい。そのうえで日本と自分たちへの信頼を取り戻したい。
汚染水にも原発の事故処理にも、厳しく、しかし、あくまでも科学的に公正な検証を加え、政府も関係者も、世論の反発におびえるのでなく、正しく説明し続けることが大切である。日本こそ原発を必要とし、その技術を介してアジアと世界への貢献を求められていることを、明確な表現で国民に説き始めてはどうか。
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