http://www.asyura2.com/13/genpatu34/msg/494.html
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東電事故賠償額4人世帯9000万円
「東電が帰還困難区域の住民に支払った額は4人世帯で平均9000万円だった。審査会は長い間帰れない人への慰謝料、避難指示の解除後の賠償継続、新しい家の購入に必要な費用の補償の3点を賠償指針に加える方針で、賠償額は増える可能性もある」(http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS2504L_V21C13A0PP8000/?dg=1)ということだ。この報道によると、4人家族で「財物」が4,910万円、「就労不能損害」が1,090万円、そして、「精神的損害」が3,000万円だという。これらの金額は既に東電と被害者の間で合意ができたものの平均額だ。財物が実際にどんなものであったかは明らかになっていない。
まず、最初に受ける印象は4人家族で9000万円ならかなりの金額だというものだろう。しかし、よく見ると5000万円近くが財物であり、これは例えば土地持ちの方が多く居て、それらの土地代金ということのはずだ。更に、多分一家の大黒柱が仕事を失ったことに対して約1000万円と言うのは決して大きな金額ではないだろう。更に、大きな問題が精神的損害と言う名目の3000万円だ。自分としては、この精神的損害にこそ大きな落とし穴があると思う。それは、これが将来表面化するはずの被曝影響に対する実質的な賠償になってしまっている様子があるからだ。
しかし、ともかく、賠償の実態を見てみよう。それは、賠償のモデルケースを見ることで分かる。文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会のページにモデルケースが載っている。
<試算>4人世帯における原子力損害に係る損害賠償額(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/kaihatu/016/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2013/10/25/1340807_6.pdf)
によると、
・世帯人数 4人(夫婦と子供二人、労働収入は夫婦のうち夫(30代)の給料収入)
・家屋の延べ面積 147.54u
・家屋の敷地面積 410.03u
・家屋の築年 昭和50年=築年数36年(新築した場合の価値:2,343万円)
と言うモデルケースで賠償額は帰還困難区域の場合、
宅地:523万円
建物:937万円
構築物・庭木:211万円
家財:675万円
と言うことで、財物の合計が2346万円になる。
就労不能損害:957万円
精神的損害:3,000万円
合計:6,303万円となっている。
まず、このモデルケースの設定でおかしな点があると思う。家屋の延べ面積とか敷地面積を平均値で出しているが、築年数については期間別の統計でもっとも多くの家屋が建てられた年代を基準にしている。これが夫の年齢が30代であるにもかかわらず家屋が築36年になっている原因だ。おまけに期間別の統計と言っても昭和の時期は一期間が10年であるのに平成の時期になって5年になっている。(元の統計数字は次のURLに載っている:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/kaihatu/016/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2013/10/25/1340807_6.pdf)確かに一年ごとの建築数をそれぞれの期間で出しても同じような築年数になるはずだが、夫の年齢よりも家屋の築年数の方が多いように見えるモデルケースの設定は適正かどうか疑問だ。ちなみに、この統計から加重平均を求めると築27年となる。ただし、例えば昭和35年以前建築は築53年、昭和36年から45年は築43年と見なすようにしての計算だ。
次にこういったモデルケースについて、その賠償額の設定が適切かどうかだ。一般的に原発の近隣地域は人口過疎だ。だから、土地代は安い。しかし、同程度の家屋を別の地域で用意しようとすると、新たに就職の先を確保する関係で都市部に近い地域で見つけることになり、結果的にずっと高価なものになってしまう。だからこそ「新しい家の購入に必要な費用の補償」をすると言っているのだろうが、それなら、最初から宅地の賠償額を523万円ではなくて1500万円程度に設定するとかした方が分かりやすいはずだ。
ここで、将来、福島第一原発事故の賠償の最も深刻な問題になると思える被曝被害について検討してみよう。
今までの経過を見ていると、仮に小児甲状腺がんが発症しても関係ないと切り捨てられてしまう可能性が高いようだ。帰還困難区域は大熊町、双葉町、富岡町、浪江町、飯館村、葛尾村、南相馬市のそれぞれ一部ということで、合計約2万5千人が対象だ。この地域は事故直後の被曝線量が相当に高いはずで、しかも、その事故直後の被曝線量ははっきりしていない。被曝後かなり早い時期に地域の人びとが福島医大などに被曝線量の計測を依頼して回ったがすべて断られたという。
行政による行動調査も事故後数か月が経過してからやっと始まった。先行調査として川俣町(山木屋)、浪江町、飯館村の調査が始まったのが2011年の6月27日、先行地域外での調査は8月26日からだ。この行動調査の簡易版が、”県民健康管理調査「基本調査」の実施状況について”http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/250820siryou1.pdf に載っている。これは簡易版だが、3月11日から7月11日までをまとめて一日の外出時間を、1時間、2時間、3時間、4時間以上( 時間)から選択することになっている。簡易版だからしょうがないということかもしれないが、これでは事故直後の放射能が大量に漏れた時期の外出とそれ以外の時期の外出が同等に扱われてしまう。仮に事故直後断水した結果給水車の列に並ぶため一日3時間外に居たが、水道が回復してからは買い物で外出するぐらいだという方はほとんど被曝影響が考慮されないことになる。
行動調査の詳細版では3月11日から25日までの一日ごとに何時から何時まで戸外に居たか、車などに乗っていたか、屋内だったかを答えることになっている。多分、帰宅困難地域の方であれば、詳細版でアンケートに答えているはずだが、どれほど正確に回答ができるかかなり疑問だ。
そもそも疑問なのが、原発事故が起こった場合、被曝線量を推定するためには行動記録が必要になることはもともと分かっていたことであるはずなのに、全くそのことが伝わっていたとは思えないことだ。福島県ばかりでなく、他の原発立地県にしても事故で避難したときに様々な記録を取っておく必要があるという話しは出ていないと思う。数十キロ避難してそれで事足れりとしているがすべての避難に於いて行動記録を詳細にとる必要があるということを徹底するべきだ。
そして、この被曝線量評価でもっとも疑問なのが放射線医学総合研究所による「外部被ばく線量評価システム」であり、これがどの程度実態を反映したものになるかがよく分からない。「外部被ばく線量の推計
」http://www.nirs.go.jp/data/pdf/nirsdose.pdf という資料が公開されている。この中にとても不思議な記述がある。「3月16日以降については、文部科学省が公表しているモニタリングデータを利用した。文部科学省が公表しているモニタリングデータが利用できない3月12日から15日のうち、3月12日から14日までの3日間は、本年6月に原子力安全・保安院が公表した放射性物質の放出量データを用いて、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)により計算された結果を適用し、3月15日については、3月16日のデータと同じとした。」と言う。不思議なのは、「3月15日については、3月16日のデータと同じ」と言う部分だ。SPEEDIは3月15日もそれ以前と同様に動いていた。だから、3月15日をなぜSPEEDIのデータで評価しないのか、説明がされていない。
これについて考えられることがある。それは3号機の爆発の影響の隠ぺいだ。3号機爆発は3月14日の午前11時過ぎに起こっている。もし、14日の午後12時までの風向きが西風で、15日の風向きが東風であれば、3号機爆発で出た放射性プルームがかなり陸域に広がっている可能性があるからだ。14日と15日の風向きは実際にはもっと複雑に変化していたはずで、3号機の爆発がないとしても、15日のSPEEDIデータが被曝評価に使われないということ自体がおかしなことだ。
3号機の爆発は公的に言われているような水素爆発ではなく、小規模な核爆発であった可能性が強い。明確に水素爆発だと思える1号炉のそれと3号炉の爆発とは明らかに幾つかの点で異なる。1号炉では爆風が横方向に広がっているのに対し3号炉では鉛直上方に吹き上げている。1号炉の煙は白かったが3号炉のそれは黒かった。1号炉の最上階の鉄骨はきれいにそのまま残っていたが、3号炉のそれは飴のように曲がってた。1号機の爆発では見られなかった閃光が3号機の爆発では観察できる。そして、もし核爆発であればプルトニウムなどのアルファ線核種やストロンチウムなどのベータ線核種が相当量エアロゾルとなって大気中に拡散した可能性がある。問題なのは、ガンマ線核種ではないこういった放射性物質については「文部科学省が公表しているモニタリングデータ」でカバーされていないはずであることだ。大気中でアルファ線もベータ線もあまり飛ばない。だから空間線量を測ってもほとんど考慮されないのだ。
環境モニタリングは基本的に外部被ばくについてのものだ。内部被ばくについてもアルファ線核種やベータ線核種の影響はほとんど分からない。ガンマ線核種のようには体外からの計測がほとんどできないからだ。
このことに関連して、「プルトニウムの被ばく事故」(http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=09-03-02-09) に幾つものプルトニウム被曝の事例が載っていて、そのどれもあまり影響がなかったとされている。しかし、この影響がなかったという結果はそもそも事実なのだろうか。アルファ線核種の生体への影響を計算するとき、ガンマ線核種よりもずっと影響の程度は大きく評価されていることと明確に矛盾する。理論的にもガンマ線よりもアルファ線の方が遺伝子などへ与える影響は大きいとされていて、少なくともなぜこれらの事故でプルトニウムの影響があまり出てこなかったのかが説明されていない。
以上に見るように、福島第一原発事故での被曝影響はいろいろな形で隠ぺいされていて、近い将来それが表面化してくる可能性はかなり高い。それも数年から数十年、または世代を超えて影響が続く可能性がかなりある。
そして、少なくとも東電による賠償の現状を見る限り、被曝による健康被害についてはほぼまったく無視されている様子だ。福島県立医大が中心になって行っている甲状腺検査で甲状腺がんと確認された例でも賠償対象にはなっていない様子だ。
これらの健康被害は多分長期間続く。白血病になっても放射性物質は体内に残り続けるので完治は難しく、何年、何十年と健康を害した生活が続く可能性が高い。
そして、こういった健康被害に対して、精神的損害の賠償という名目の4人家族で3000万円と言う金額は決して妥当なものではないだろう。
更に、賠償どころか、TPPなどの動きを見ていると、将来健康保険でカバーされる範囲がどんどんと狭くされ、被曝影響で出てくる被害についてもカバーされず、治療費のほとんどが個人負担にされてしまう可能性がある。
しかし、こういったことは多少でも長期的に見たとき、日本社会全体にとっていいことではない。健康被害に対して賠償もされず、健康保険でもカバーされないとなれば、どんどん悪化するに任せて手遅れになるケースが増えてしまうからだ。結果的に早期治療ができず社会的な負担が倍増してしまう結果になる。
だから、少なくとも被曝による健康被害については別に賠償するとはっきり宣言し、なるべく早く、賠償の範囲とその認定の方法を公的に決めるべきだと思う。TPP加盟が実現してしまえば、こういったことさえも決めることが出来なくなる可能性が高い。
こういった形で被害を受けた方たちが実際に反政府的な行動をとるかどうかは疑問に思う。しかし、少なくとも、こういった被害が顧みられなければ、このことを口実に誰かがテロを起こすということは可能だろう。その結果は、日本に住んでいる限り誰にとっても深刻なものになるはずだ。
最後に、モデルケースの4人家族で6303万円という賠償額は、一人あたりに直すと1580万円に満たない。これで家屋敷から健康までのすべての賠償だとすればあまりに安いのは明らかだ。東電の経営陣、そして官僚や政治家の方たちは自分がこう評価されたとき、それでいいと納得されるのだろうか。
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