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放射線基準量をごまかしながら107億円を無駄にする国の「支援基本方針」
http://bylines.news.yahoo.co.jp/bandotaro/20131022-00029120/
2013年10月22日 15時20分 坂東太郎 | 早稲田塾論文科講師、日本ニュース時事能力検定協会監事
2013年10月、政府は東京電力福島第1原発事故の被災者を支援する「子ども・被災者生活支援法」(2012年6月成立)の基本方針を決定した。復興庁(2012年2月設立)がまとめた。
東日本大震災の発生は2011年3月。原発事故で避難生活を送っている方々は、いまだ福島県内外で約15万人もいる。基本方針が出るまで2年半、復興庁発足から数えても1年半、子ども・被災者生活支援法の成立まで我慢しても1年もの間、「いったい何をしていたのか」という批判もさることながら、この方針がまたひどい代物である。順を追って説明しよう。
●放射線基準量を定めなかった
何がひどいか、これに勝るものはないだろう。避難する最大の理由は、放射性物質が発する放射線の恐怖だ。法律(放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律)の施行規則は、一般人の年間被ばく限度を1ミリシーベルトと定めている。この「1ミリシーベルト」論には、一部の科学者が異議を唱えていることを筆者は承知している。また、聞くべき知見も多いと考える。とはいえ、法律が「1ミリシーベルト」と決めているのは揺るがせない事実。ならば、それ以上の線量を記録する地域を法律(子ども・被災者生活支援法)の対象とすること自体は、科学的にはともかく(これは科学者同士で徹底討論すればいい)政治的には正しいはずだ。
ところが、政府の基本方針は対象地域を原発立地地点からほど近い33市町村に限定した。「1ミリシーベルト」で考えると、福島全域どころか県外にも及ぶ。そもそも「子ども・被災者生活支援法」には「一定の基準以上の放射線量が計測される地域」を対象とすると明記しているのだから「一定の基準」が「1ミリシーベルト」でないとすれば(それが前提としか思えない)、「基準」は何なのかを明確にする責任がある。
一律で「1ミリシーベルト」としなかった。その理由として漏れ伝わるのが「地域の混乱」という理由だ。同じ自治体でも、「保障されるところと、そうでない部分が出ると混乱する」とか何とか。だからといって「基準は定めない」の方がよほど「地域の混乱」を呼ぶであろう。放射性物質が市町村境や都道府県境にお構いなく飛散するのは誰でも知っている。なのに、根拠不明の「支援対象」と何が「準」だか意味不明の「準支援対象地域」さらに対象外に3分割するのはどう考えてもおかしい。「1ミリシーベルト」懐疑派ですら「変だ」という声が挙がる始末である。
政府や復興庁は、口が裂けても言わないが、背景には「国の財政負担をなるべく増やしたくない」とか「責任の所在をあいまいにしたい」とか「責任を限定しておきたい」という思惑があるのは明白。「いや、そうではない」というならば逆に聞きたいものだ。「では他に何の理由があるのですか」と。
これを示す傍証として、「子ども・被災者生活支援法」の案を復興庁で担当していた幹部(参事官)がツイッターでつぶやいていた暴言がある。法案段階から「一定の基準」を明確にするかどうか議論があった。そのさなかに幹部は「懸案が一つ解決。白黒つけずに曖昧なままにしておくことに関係者が合意」と書き込んだ。まごまごした公式の政府関係者コメントよりよほどスッキリする。
幹部のような官僚(高級公務員)は、表だっては文字通りの「官僚答弁」でしっぽをつかませない半面、「ツイッターやSNSとなると如実に本性を現すのだなあ」と妙に感心した。ポイントなのは「白黒つけずに曖昧なままにしておくこと」をもって「解決」とみなす救えない感性だ。民間ならば白黒つけてこそ解決と呼ぶ。彼我の違いに呆然とせざるを得ない。
●支援対象者への冷たい扱い
福島県内外で健康被害を恐れる避難者にもいろいろある。
1.汚染で住めなくなった地域に居住していて出て行かざるを得なくなった
多くは今でも仮設住宅住まい。一度訪れてみればわかる。それがどれだけ厳しい環境か。文字通り「仮設」レベルの建造物である。
2.災害救助法に基づく県外避難者
家賃補助が2014年3月末で打ち切るとしていたのを1年間延長した。基本方針はそれ以降を「適切に対応する」としか述べていない。
このなかにはもちろん1の方も含まれる。そうでなくても恐ろしいので避難した人もいる。なかには家族の働き手(夫が多い)が地域を離れられないので(でないと失業する)残り、母子が県外に避難するケースも目立つ。この場合、家賃補助以外の支援はわずかしかしかないのが現実だ。一つ屋根の下にいれば「1」で住んだ光熱費などが別の生活を行うがゆえに「2」となる二重負担がのしかかる。
さらに被ばくを心配する人々が心から願う健康調査についても基本方針はあいまいだ。国の責任でそれが行われるのは、地域では先に挙げた33市町村のみ。その他は「適切に支援地域と対象者を設定のうえ実施する」と、なんとも言えない内容となっている。
健康調査は、汚染された可能性の高い地域を中心に切実な願いであるばかりでなく、科学的にも極めて重要だ。不謹慎を承知で申し上げれば、「原発事故に発する放射能汚染の健康被害」調査はやろうとしてできるものではない。事故を人為的に起こすわけにはいかないからだ。だから貴重なデータが取れる。それは被ばく者へ還元できるばかりでなく将来の人類全体への財産にもなるはず。カネや手間をおしむ理由がない。
国の対応とは別に心配なのが、特に県外避難者に最近冷たい声が発せられる点だ。「タダで住んでいる」とか「地域に貢献していないのに(多くの避難者は帰還を願って住民票を移さない)住民サービスを受けている」とか。避難者を二重に苦しめるような事態に陥らないようにするのも国の責任である。
●がれき処理していないのに107億円
「3.11」の直後、日本人や長らく住まい者の大半が「復旧・復興が最大の課題だ」と信じたであろう。最大の被害者は死者・行方不明者を除けば被災者なのも間違いない。なのに既にほとぼりが冷めたかのような予算要求が成されているのを以前に述べた。
(http://bylines.news.yahoo.co.jp/bandotaro/20131008-00028569/)。
本当にカネがないのか。震災関連に限っても驚くようなニュースが2013年5月に流れた。震災がれきを処理していない自治体などに、環境省が107億円もの交付金を支出していたというものだ。
なりゆきはこうである。震災直後、信じがたいほどのがれきが出て、どう処理するかという議論が沸騰したのを覚えている方も多かろう。最も合理的な「被災地での処理充実」という声をかき消して、環境省は広域処理を推し進めて被災地以外の都道府県に呼びかけた。放射性物質の混入が主な不安材料で反対したり、その声を「住民エゴだ」と批判したりと当時やりあったものだ。当初、広域処理分は401万トンにも及ぶと推計され、茫然自失の被災地からの当然の呼びかけもあり、応じた自治体もあった。
ここまでの成り行き自体は非難されるべきではないのかもしれない。何しろ未曾有の事態だったからだ。ただその後、2013年1月の調査で広域処理分が約70万トンと当初の6分の1で済んだとわかった。2013年度中には処理を終えるとみられている。
問題はここからだ。広域処理する分のがれきが予想外に少なかったため、受け入れ候補となりながら実際には処理しなかった7道府県10団体が生じた。そこに、国は復興予算から約107億円もヒッソリ支払ったのである。「国の都合で候補からはずしたから、支払い義務がある」というのが言い分なのだけど納得できようか。
被災地支援に関して何が重要で何が後回しかを国のご都合で決めるのはいい加減よそう。まずは「誰に、何が必要か」、国民が納得する明快な基準を示すところから始めてもらいたい。
坂東太郎
早稲田塾論文科講師、日本ニュース時事能力検定協会監事
毎日新聞記者などを経て現在、早稲田塾論文科講師、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。 著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など。
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