11. 2013年10月23日 11:47:09
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中国主導になる世界の原子力産業 2013年10月22日 田中 宇-------------------------------------------------------------------------------- 英国が、経済面で中国にすり寄っている。英政府の財務相やエネルギー相、ロンドン市長らが次々と中国を訪問し、中国とのつながりを強めることで破綻した英経済を救う試みをやっている。今月訪中したオズボーン財務相は、中国政府と交渉し、英ポンドと人民元の為替の直接取引(ドルを経由しない取引)を強化することが目的だった。ジョンソン・ロンドン市長の訪中は、ロンドンを人民元建ての金融取引の国際センターにすることが目的で、米英の30年間の経済成長を支えてきた債券金融システムがリーマン倒産以来崩壊している状況を乗り越え、ロンドンを多極型世界の金融センターとして蘇生させる構想だ。(Chancellor George Osborne cements London as renminbi hub) 英国が、破綻が近い米英金融同盟(債券金融システム)に見切りをつけ、人民元の国際センターとして延命しようとしていることは、以前から書いてきた。今回、私が驚いたのは、それでない。英国のデイビー・エネルギー相が訪中し、中国の国営企業2社から資本金の半分以上にあたる投資を受け、中国とフランスの技術で、英国内に新たな原子力発電所(南西部のヒンクリーポイント原発)を建設すると決めたことの方だ。原発建設の主幹事はフランスの公益企業EDFで、中仏合弁の受注だ。同原発の建設は、2011年の福島原発事故以来、欧州で初めての原発建設決定だ。(UK nuclear deal with China a `new dawn') 英国は、これまでフランスやスペインの企業に国内の原発建設を発注してきたが、国策の根幹である核とエネルギーの政策に外国が影響力を行使するのを防ぐため、原発を所有する会社の株の半分以上を外国企業が持つことを禁止してきた。しかし今回、新原発の株の半分以上を中国の2社が持つことを中国側が強く主張し、中国と経済関係を強めることを重視して英国側が折れた(最初は少数派株主)。(George Osborne to give the ok for Chinese nuclear power stations to be built in the UK) 今回の英中の取り決めは、単に一機の原発建設にとどまらず、もっと戦略的だ。先進諸国で中国製の原発が作られるのは今回が初めてだし、先進国の原発建設に中国の資本が入るのも初めてだ。英国は、今回の中国による原発建設と投資を、これから中国が世界に向けて原発を売り広げていく際のショーケースにすることを中国に提案している。英国には、ロールスロイス、INSなど、原子力技術関係の企業がいくつかあるが、これらの企業は今後、中国企業と一体となって、中国の原発の開発や建設に参加する。(UK wants Chinese nuclear to help move to a low-carbon economy) これは要するに、英国の原子力産業を中国側と合体し、中国が自国内外で原発を建設していく中で英国勢も儲けようとする戦略だ。英国はかなり前に、自国の産業のみで原発を作っていくことをあきらめ、外国の資本と技術を導入した。どうせ外国勢と組むなら、未来があまり明るくないフランスや日米勢と組むのでなく、これから国内に何十機も原発を作る予定で、国際政治力をテコに世界に原発を売っていこうとする中国と組もう、というのが英国の戦略だ。 英経済は、すでに破綻している。英国には250万社の企業があるが、その1割は事実上債務超過のゾンビ企業で、ゾンビの数がリーマン倒産後の5年間で倍増した。英国民の間では飢餓が増えており、福祉事業の食糧支援所に行く人の数が、今年上半期に前年同期の3倍になった(1・5万人から6・5万人へ)。英国は、従来の米英覇権体制の世界において支配する側だし、18世紀からのたくみな国際プロパガンダ術を持つので、自国の経済破綻を隠している。だが現実をみると、英経済はすでに破綻している。(第一次大戦以来、英経済の基調は「破綻」であり、90年代から08年までの米英債券金融システムなど、効果的な延命策があった時だけ蘇生していた)(Insolvency threat from UK's `zombie' businesses)(British PM urged to launch public inquiry into question of food poverty) 経済が破綻しても、英国は旧覇権国なので国際政治を熟知している。原発を世界に売り込むには、国際政治力が必須だ。中国は、アフリカやアジア、中南米などの途上諸国との経済関係を拡大し、政治影響力が増している。そこに英国の国際政治技能を加えることで、原発以外についても、中国の国際販売力を強化し、同時に英国が中国の発展の恩恵にあずかって国家経済的に延命しようとするのが、英国の戦略だろう。英政府の原発の発注価格が高すぎると批判されているが、政治戦略であると考えれば、価格の評価が変わってくる。(An expensive nuclear deal that ignores all the energy alternatives) 中国は、経済発展の中心を輸出から内需に転換していく過程にある。中国の内需は統計上なかなか増えないが、実際の内需は統計よりかなり大きな勢いで拡大しているとの指摘がある。中国は、所得税や法人税の課税制度が不完全で、金持ちはお金の出し入れを隠して所得をごまかし、経営者は企業を私物化して個人使用のものを法人使用として計上する傾向が強い。お金持ちがごまかした分だけ、中国の消費は過小評価され、個人の消費が法人の消費として登録される。この分を加えると、中国の内需はかなりの勢いで拡大していると指摘されている。(China may be in much better shape than it looks) 歴史的に中国で一番ずるく搾取したのは英国だが、中国人は、学校名から商品名まで英国のブランドへのあこがれが強い。英国は、うまくやれば中国の内需拡大を利用して自国経済を立て直せる。(UK education system grabs China audience) 英国は、国権を剥奪されるので欧州統合に参加したくない。欧州統合は独仏中心の事業であり、英国は、統合に本格参加すると歴史的ライバルのドイツに国権を奪われる。EUが統合を加速しても、英国は部分的にしか参加せず、本質的に孤高を保とうとするだろう。孤高を可能にするには、英経済が国際的に儲かる状態を維持せねばならない。今のように貧困が加速するばかりでは、いずれEUに吸収されるしか手がなくなる。それは国家的な英国の終焉だ。それを避けるには、大胆な国際戦略が必要だ。 従来のように米国が世界を支配する体制が続くなら、英国は、米国の政財界に影響力を行使し続ければ繁盛するが、世界はいま、米国の覇権が崩れ、BRICSやEUなどが並び立つ多極型へと転換している。多極化が歴史の必然なら、英国は、BRICSなどとの関係を猛然と強化するしかない。英国は、これまでの米国覇権下で、米英同盟を強化するため、米国と一緒にロシアや中国、イランなどを敵視・包囲してきた。しかし今後の英国は、これら最近まで敵視してきた国々と、急いで協調していかねばならない。米国がイランを許しそうになったとたん、英国は、イランと国交を回復し、イスラエルから非難されても無視している。(Britain and Iran to restore diplomatic relations) 英政府は最近まで、チベットのダライラマと公然と仲良くし、中国政府を意図的に怒らせる包囲網戦略を採っていた。しかし、米国の自滅的な財政破綻騒動などで米国の覇権衰退が如実になったため、英国は転換を余儀なくされ、自国を中国原発産業のショーケースにしたり、英中の原子力産業の一体化を模索したりして、中国との戦略提携に熱心になった。英国は、これまで中国を敵視してきただけに、仲良くしてもらうために大胆な策をやっている。英国の動きに接するたびに(ときに茶番で喜劇的な)国際政治のダイナミズムを感じる。 米国の財政危機は、議会共和党がオバマに譲歩して政府閉鎖が終わったことで一段落したかに見える。しかし、米政府が再開されても、財政赤字が拡大しているのに政府支出が縮小し、米国の経済状況が悪化して社会崩壊が加速している事態は変わらない。米政府の生活保護策(フードスタンプ)は11月1日から縮小され、その後はさらなる事業縮小(支出削減)が予定されている。11月からの縮小は、米政府が閉鎖している間に発表されたので、私はてっきり政府が再開されたらフードスタンプの縮小も取り消されるかと思ったが、実はそうでなかった。縮小は、リーマン危機後の景気対策としてのフードスタンプ拡大の時限政策が終わることによるもので、財政難の中、時限的拡大の終了はやむを得ないと考えられている。失業増の中、フードスタンプの縮小は、餓死や貧困を増やし、米国の社会危機を拡大する。(Food stamp benefits going down before the holidays)(◆米覇権自壊の瀬戸際(2)) 米国で財政騒動が始まると同時に、BRICSが相互の結束を強め始めた。中国とインドは、来週インドのシン首相が訪中するのに合わせ、国境紛争を終わらせる協約を結ぼうとしている。ロシアとインドは首脳会談を行い、ロシアの石油をパイプラインでインドまで送る計画を開始することや、一緒に原子力開発すること、インドがロシア版GPS(GLONASS)を使うこと、シリア和平策でインドがロシアに協力することなどを決めた。(India, China near pact aimed at keeping lid on border tension)(Russia and India talk direct oil supplies, joint use of GLONASS, nuclear power generators) またブラジルは、米欧から武器を買っていたのを減らし、ロシアから迎撃ミサイルを買うことにした。ブラジルは、米当局のNSAが各国の要人が送受信する電子メールなどを盗み見していたのをやめさせるため、BRICS諸国などを集め、米国を経由しないインターネット網の構築を目標とする国際会議も主催している。このように、BRICSが米覇権に対抗するかのように結束を強めているのは、米国債とドルの危機が今後も続き、米国覇権が崩壊していく過程にあると考えているからだろう。これら米国とBRICSの動きと同期して、英国が中国にすり寄っている。(Brazil builds Russian defence ties with missile plan) 英国と今回の原発建設は、中国とフランスの合弁事業で、フランス勢は中国と並んで出資もしている。フランスは、かつての日本と並ぶ世界有数の原子力立国だ。今回の英仏中の合弁は、英国だけでなくフランスの原子力産業も中国と組む傾向にあることを示している。EU統合の主役であるドイツは、強く原発反対であり、経済的にドイツより立場が弱いフランスは、EU統合にともない、いずれ原発を国内に作れなくなるかもしれない。中国と組み、BRICSや途上諸国に原発や周辺技術を売れると、仏の原子力産業は、何とか延命できる。(終わりゆく原子力発電) 福島原発事故以来、世界的に原発の危険性への懸念が強まっており、英仏と中国が組んでも、原発が売れないかもしれない。原発と核兵器は表裏一体であり、世界的核廃絶が実現すると、原発の新設もなくなるかもしれない。しかし、イラン核問題の交渉の落としどころに象徴されるように、今の世界の決まりは「核兵器開発はダメだが、原発など核の平和利用を行う権利は、世界のあらゆる国にある」というものだ。(中国が核廃絶する日)(US Considering Letting Iran Keep Its Civilian Uranium Enrichment) BRICSの雄である中国が、英仏と原発で組むなら、中国と並ぶBRICSの大国で強い原子力産業を持つロシアも、この枠組みに入ってくるかもしれない。中国との経済協力関係を強化しつつある韓国も、ここに関係するかもしれない。 ここで気になるのが、もう一つの勢力である「日本」ないし「日米」である。米国の原子力産業(GEとウェスティングハウス)は、すでに東芝や三菱重工業といった日本勢に吸収されたり統合したりしており、日本の原子力産業は「日米」の原子力産業でもある。従来、世界の原子力産業は、日米勢とフランス(欧州)勢が二大勢力だった。フランス(英仏)が中国と組むと、欧中と日米の戦いになると考えたくなるが、実態は「戦い」になっていない。日本は稼働原発ゼロの状態で、再稼働できない可能性があるし、米国も原発の新設がとりやめになり、廃炉も進んでいる。(日本の原発は再稼働しない) 米国では、採算の悪化でバーモント州のヤンキー原発の廃炉が8月に決まったし、オハイオ州のデービスベッセ原発で原子炉内に亀裂が見つかり、ミズーリ州のキャラウェイ原発は設計ミスが指摘され、いずれも廃炉の可能性が強まっている。米国ではシェールガス・石油のバブルが喧伝され「米国はシェールによって大産油国になったので、もう原発は不要だ」という空気になっている。実際のところ、米国のシェール石油ガス田の多くは数年で産出量が急減する。シェールブームは金融界が仕組んだ投資の「詐欺」だといえる。しかし表向きのマスコミや世論の世界では「シェール革命」と原発の廃炉が大まじめで語られ、実際にシェールのバブルが崩壊するころには、米国の原発の多くが不可逆的に廃炉にされているだろう。(More cracks discovered in Davis-Besse nuclear reactor shield)(US nuclear power: meltdown)(Callaway atomic reactor remains closed following fire in central MO)(シェールガスのバブル崩壊) 米国は、原子力産業を日本企業に高く売りつけた末、自国の原発も廃止の傾向で、原発新規建設は言葉だけで、実際のところ原子力をほとんど放棄している。米政府の原子力安全委員会(NRC)は、福島事故の直後、非常に厳しい報告書を出しており、米国は上層部の意志として、日本にも原発を廃止させたいと考えていると感じられる。米国は、日本には原発を廃止させたいが、中国が原発を国内に無数に作って世界にも売りまくることは看過するという、隠れ多極主義である。(日本は原子力を捨てさせられた?) 日本の原子力産業は、何とか原発を再稼働させたいと考え、政府に圧力をかけている。だが米国は、表向き日本の原発再稼働問題に何も言わないが、実際のところ、日本に再稼働させたくないようだ。民主党の対米従属派である前原誠司もかつて脱原発を標榜した。安倍首相も対米従属派なので、米国の不歓迎を知っているはずだ。だから小泉元首相に応援を頼み、小泉が「原発を全廃すべきだ」と言い出したのでないか。(日本も脱原発に向かう) 日本は東京五輪を開催することになったが、おそらくその前に原発の全廃を決めねばならない。福島事故以来、米国中枢の隠然たる再稼働反対もあり、世界のマスコミが「福島事故の悪影響がいかにひどいか」を誇張して報じるのが国際プロパガンダの傾向だ。東京五輪が近づくにつれ、この国際報道の傾向が強まり、たまたま起きる(実は大したことない)放射能漏れなどが誇張され「東京は五輪開催地として危険すぎる」という国際世論が張られ、日本政府は原発全廃を宣言して五輪開催を世界に許してもらうという展開が考えられる。 日本の権力を握る官僚機構は「震災復興」にくわえて「東京五輪」を、国民を結束させて官僚機構に従属させる策として得た。官僚の権限が強化される震災復興に協力しない者が非国民であるのと同様、東京五輪に賛成しない者は非国民であるという印象が、マスコミで喧伝されている。テレビで「私も大賛成です」という感じでタレント(テレビに出続けたい人々)が熱弁するテーマを見ると、プロパガンダの方向性を感じ取れる。東京五輪は、国民の結束、国際的印象の向上、ハコモノ行政(五輪施設建設)など、官僚が好む方向性をいくつも内包するので、やめるわけにいかない。原発全廃を決定しても、五輪はやるだろう。 このように、原発に関して日米勢は、英仏中の対抗馬として機能していない。米国が本気で原子力に力を入れ、日米の原子力産業が隆々としていたら、英国は中国などと組まず、日米と組んだだろう。しかしそもそも英国勢は、米国のウェスティングハウス(WH)を2000年に買収したものの、06年に東芝に転売している。この時点で、すでに米国は原子力産業を棄てており、だからこそ英国はWHを何も知らない日本に高く売りつけた。米国が原子力を放棄し、迷走しているので、英国は中国と組むことにしたのだろう。 英国の世界戦略はもともと地政学的な「ユーラシア包囲網」(ユーラシア周縁の海洋勢力が、内部の大陸勢力を包囲する)だ。明治時代に弱体化したとき英国は、ロシア包囲網維持のため「日英同盟」を組んだ。しかし今回、英国が原子力で組む相手として選んだのは、海洋勢力の日本でなく、大陸勢力の中国だった。これは、英国が現代のユーラシア包囲網策である「冷戦」や「テロ戦争」をやらせてきた米国の覇権が崩壊し、英国が包囲網策を放棄して大陸勢力と組まざるを得なくなっていることを意味している。 日本にとってもう一つの選択肢として、日本が原発建設で中国、韓国と組むことが、以前(鳩山政権時代など)はありえた。しかし、日本が対米従属維持のため中国や韓国との対立を扇動する国是を選択した今では、まったく無理だ。原子力の分野でも、中国が勝ち組で日本が負け組の構図が確定しつつある。自国を負け組だと書く私に対する中傷がくるだろうが、実のところ、国際政治で自国が負けている現状をまず把握することが、安倍首相の言葉を借りていうと「日本を取り戻す」ための第一歩だろう(そもそも日本を「取り戻し」が必要な喪失状態に陥らせたのは、中国などの外敵でなく、安倍とその背後にいる官僚機構自身なのだが)。 http://tanakanews.com/131022nuclear.htm |