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被曝と健康14 (見解書−5) 自然放射線は「安全」か?
http://takedanet.com/2013/10/post_7779.html
平成25年10月20日 武田邦彦(中部大学)
藤井がんセンター部長の論理では「自然放射線と同等かそれ以下なら安全」という前提に基づいています。この前提は原発事故後、専門家も一般の人も、また自治体などもかなり強く言ったことですが、科学的には根拠がありません。被曝と健康に関する科学的な知見は、
1)100ミリシーベルトの被曝をすると「確定的に疾病」になる(その人が被曝したら、その人が発病する)、
2)100ミリシーベルト以下の場合、「確率的に疾病」になる(誰が病気になるかは判らないが、ある割合で病気になる人がでる)、
3)100ミリシーベルト以下は被曝量に比例して疾病が出る、
4)1年1ミリで10万人に5人が致命的ガン、1.3人が重篤な遺伝的障害になる。
ということだけです。このような知見の中で「自然放射線は人間に対して影響がない」という結果はありません。ばい菌の場合の「無菌室」とか重力の場合の「無重力状態」などと同じように「無被曝環境」というのを作ることが難しい事です。
かといって「自然のものは安全」という事もありません。それは生物の歴史が太陽からの「電磁波(放射線や紫外線)」との戦いだったという事からも判ります。地球上に生物が誕生した頃、まだオゾン層ができていなかったので、太陽(原子炉)からの放射線が直接、地表に降り注ぎ、生物はガンになって死にました。
紫外線は皮膚のメラニンである程度は防ぐことができますから、地表で紫外線の強い南洋では黒人が、北の国には白人というぐらい大きな変化があります。紫外線程度のものからガン(主として皮膚ガン)を防止するだけで、黒人と白人ぐらいの差をつけているのですから、「自然のものは安全」などととても言うことはできないのです。
放射線は世界中であまり変わりませんし、地域ごとのデータも不足しているのですが、紫外線やその他の自然条件と人間の防御を考えると、自然放射線の強い地方はそれに応じて、そこに住む人のガンに対する防御がされているはずです。
人工的な放射線と自然放射線は基本的には同じですから、1年1ミリで8000人がガンか遺伝子異常で死ぬとすると、自然放射線はその1.5倍ですから、12000人は自然放射線でガンか遺伝疾患になっているということになります。夏の海水浴で白い肌の女性はかなり皮膚ガンが発生しますが、「自然だから病気にならない」などいうことはありません。
「自然放射線だから大丈夫、自然放射線は1.5ミリだから、1.0ミリなら大丈夫」というようなことは、第一に自然放射線が安全だということではなく、第二に「並列に比較するのではなく、足し算するので、1.5ミリで安全でも、2.5ミリ(1.5+1.0)で安全というようなことは、科学的ではありませんが、なぜ、それを承知でがんセンター部長が発言されているかを考える必要があります。
この図は、世界の平均的な自然放射線と医療放射線の関係を示したもので、世界平均では自然放射線が高いので医療での被曝が少なくなっており、それに対して日本は自然放射線が少ないので、医療での被曝が多い傾向にあります。
いずれにしても基本的には、自然放射線、医療、原発からの放射線など、内部被曝ではある程度の影響の差がありますが、ほぼ同じと考えても良いでしょう。そして世界では1年3ミリですから日本の人口では約2万4000人がガンか遺伝疾患になり、日本では医療被曝が多いので、1年4ミリになって約2万8000人の発がんか遺伝疾患とされています。
このことは、医学界の重要な論文集(ランセット)にも載っているもので、被曝理由に関わらず、被曝を減らすことが大切であるということは世界共通の認識なのです。
この見解書(東葛6市)でがんセンター部長が「自然放射線より少ないので大丈夫」という論調であるのは実に不思議なことです。というのは、少し専門的になりますが、エネルギーを持つものは、電気、熱、酸、放射線などあらゆるものが、「示強性変数」と「示量性変数」に分けられ、電位、温度、pH, 波長などが示強性変数であり、電流、重量、容量、シーベルトなどが示量性変数です。
示強性変数は足し算をするのではなく、相互に比較するものですが、示量性変数は足し算をする必要があります。理科系の人でこのような学問の基礎を知らないと言うことになるとよほどサボってきたということを示しています。
その点では、藤井部長はもしかすると倫理観が不足しているのではなく、学力不足である可能性が高いとおもいます。つまり、具体的なこと(規制値など)は詳しくても、人体と放射線の影響、生物の進化、10億年前の生物の防御、示強性変数などの判断のもとになる知識を持っておられないと考えられます。
大変失礼な言い方ですが、専門家の中には細かい専門的知識はお持ちでも、その底に流れる基本的な学問を知らない場合が多いのです。それでも職場では狭い専門知識ですみますし、みんなが「専門家」というものですから、自分もごまかされているところがあります。
人体と放射線の「専門家」が必要なのは、具体的な規制値ではなく、基礎学問であることは言うまでもありません。ただ、新聞記者などが狭い知識だけを求めることに問題もあり、本人も錯覚しているのでしょう.私の分野のエネルギーや資源でもそのような専門家であふれています。
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