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2013/10/9 晴耕雨読
「マガジン9:http://www.magazine9.jp/」
ミランダ・シュラーズさんに聞いた脱原発を決めたドイツから見た、日本の「フクシマ後」 から転載します。
ミランダ・シュラーズさんに聞いた脱原発を決めたドイツから見た、
日本の「フクシマ後」
福島第一原発の事故後、「脱原発」へと舵を切ったドイツ。その決定過程において重要な役割を果たしたのが、メルケル首相の主導で設置された「ドイツ・安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」。さまざまな分野の有識者らが原発について、エネルギー問題について意見を交わし、報告書にまとめて提出した内容は、メルケル首相の決断に大きな影響を及ぼしたといいます。倫理委員会のメンバーの1人である政治学者のミランダ・シュラーズさんに、ドイツの「脱原発」について、そして日本について、さまざまな視点からお話しいただきました。
ミランダ・A. シュラーズ
1963年アメリカ生まれ。コーネル大学で生命科学を学び、ワシントン大学で教養学士、ミシガン大学において比較政治学で修士号取得。ハーバード大学、ユトレヒト大学、慶応大学、中央大学、立教大学の客員研究員および客員教授、メリーランド州立大学教授を経て現在ベルリン自由大学教授・環境政策研究所所長。著書に『ドイツは脱原発を選んだ』(岩波ブックレット)、『女性が政治を変えるとき―議員・市長・知事の経験』(岩波書店、五十嵐暁郎共著)、編訳書に『ドイツ脱原発倫理委員会報告―社会共同によるエネルギーシフトの道すじ』(大月書店、吉田文和共編訳)がある。
ドイツの「脱原発」を支えた「倫理委員会」
編集部
ミランダさんが現在暮らしておられるドイツでは、政府が福島第一原発事故の約1か月後に、2022年までに完全な「脱原発」を達成するとの方針を表明しました。その決定に大きな影響を与えたのが、メルケル首相によって設置された「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」の議論だったといいます。「倫理的に脱原発を選択した」というメッセージは、私たちにはある意味とても新鮮で、衝撃を受けるものでした。ミランダさんもそのメンバーの1人でいらっしゃいましたが、他の顔ぶれはどんな方たちだったのですか?
ミランダ
共同委員長を務めたのが、元国連環境計画事務局長のクラウス・テプファーさん。ドイツではチェルノブイリ原発事故の後に初めて「環境省」ができたのですが、その初代大臣が彼です。もう一人の共同委員長のマティアス・クライナーさんは、環境問題の研究機関であるドイツ研究振興協会(DFG)の代表。その他、プロテスタント司教とカトリック枢機卿もメンバーでした。プロテスタントもカトリックもどちらも1970年代には原子力というのは、倫理的な問題のある技術である、というペーパーを書いて出しています。また、ドイツの一番大きな科学製造会社「BASF」の取締役は、電気をたくさん使う企業の代表として選ばれていました。他にもドイツの代表的な政党、CDU/CSU、SPD、FDPなどの元大臣や政治家、消費者問題の専門家などもメンバーに入っていましたが、「緑の党」の政治家はいませんでした。ウルリッヒ・ベックというミュンヘン大学の社会学部教授だった人は、80年代にリスク社会学についての本を著して、リスクと技術の関係について論理的に論じた方です。
このように、政治家や企業家、社会学者や哲学者、経済学者など、いろんな立場を代表する方たちが選ばれていました。
誰がどんな理由で選ばれたのかということは明らかにされていませんが、原子力関連の企業関係者が1人もいなかったというのは重要な点ですね。あと、NGOからの参加者もいなかった。これも意図してそうしたのだと思います。
編集部
企業関係者がいないというのはわかりますが、NGOも? 緑の党の政治家がいないのも意外ですね。
ミランダ
緑の党に近い方は、呼ばれたけれど断ったと聞きました。企業関係者はやはり、自分の企業の利益を考えがちだから。NGOは、何らかの強いイデオロギー的な立場を持っている方が多いからではないでしょうか。やはり、会として最終的に「統一の立場」を作らなくてはならない、という目標がありましたから、「絶対反対」「絶対賛成」という両極端な立場の人はメンバーには入れないようにしたんだと思います。
編集部
ミランダさんご自身は、なぜ選ばれたのだと思われますか?
ミランダ
わかりませんが、地球温暖化やエネルギーの問題を昔からやっているということ、アメリカ出身でアメリカの事情がわかるということに加えて、福島での事故の当事者国である日本との関係が深いということもあったのかもしれません。委員会での議論の中でも、日本で事故が起こった背景はどのようなものか、ドイツで同じような事故は起こりうるのかといった議論をかなりやりました。
編集部
そして、その議論を通じてまとめられた倫理委員会の報告書(※1)が、政府に対しても大きな影響力を持ったわけですよね。ひるがえって日本では、例えば震災後に復興に向けた指針策定のための議論を行う場として「東日本大震災復興構想会議」が設置されましたが、そこでの議論はメディアでもほとんど取り上げられず、政策決定にもほとんど活かされることがなかったように思います。この違いはどこから来るのでしょう?
ミランダ
ドイツにはもともと「アンケート委員会」という仕組みがあります(※2)。憲法や地球環境保護など、複雑で重要なテーマについてさまざまな観点から議論し、議会に勧告を行うのですが、この勧告は一定の影響力を持っています。特に「このテーマは重要だ」と国民的なコンセンサスが取れているようなテーマでの報告書は、政策にかなり影響を与えますね。
ただ、今回の倫理委員会の報告書に関して言えば、一番大きかったのはメルケル首相が「倫理委員会の報告書が出るまで(脱原発に関する)判断を保留する」と明言したことです。あの発言がなければ、そこまでは大きい影響力を持たなかったかもしれません。メディアもその発言を受けて議論の流れをフォローし続け、新聞やテレビに倫理委員会に関するニュースが継続的に掲載されていたんです。
※1 報告書の内容:
・原子力発電所の安全性は高くても、事故の可能性はゼロではない。
・原子力の事故が起きた場合は他のどんなエネルギー源よりも危険である。
・次の世代に廃棄物処理などを残すのは倫理的問題がある。
・原子力より安全なエネルギー源がある。
・地球温暖化問題もあるので、化石燃料を使うことは解決策ではない
・再生可能エネルギー普及とエネルギー効率性政策で原子力を段階的にゼロにしていくことは将来の経済のためにも大きなチャンスになる。
※2 アンケート委員会(Enquete-Kommission)…ドイツの連邦議会に設置される委員会。連邦議会の付託を受け、特定のテーマについて技術的、経済的、社会的な観点からの情報収集・検討評価を行う。近年では、「憲法改革」「遺伝子技術」「地球環境保護」などをテーマにアンケート委員会が設置されている。
編集部
その報道を受け止める市民の側も、もともと原発の問題についての関心が高かったのでしょうか?
ミランダ
そうですね。もともとドイツ社会では原発の是非についての議論が長く続いていて、そこにさらに福島での事故が大きなインパクトを与えた。原発推進派も脱原発派も、倫理委員会が政府にどういう勧告をするか、関心を持って見ていたと思います。
編集部
原発についての議論が以前からあったというのは、やはりチェルノブイリの事故の影響が大きいのでしょうか?
ミランダ
それ以前から議論はありましたが、やはりチェルノブイリの影響は大きかったですね。「あんなに危ない事故の可能性があるんだから原発はもうやめよう」という人たちと、「あれはソ連(当時)だからであってドイツであんな事故はあり得ない」という人たちの間で、激しい議論が巻き起こりました。やはり、放射性物質がヨーロッパまで達していたこと、そして一歩間違えばさらに大きな事故になって、ヨーロッパはもう人が住めなくなるくらい汚染されていたかもしれないという危険性を多くの人が認識していたからだと思います。
メルケル首相のリーダーシップと「緑の党」
編集部
倫理委員会の報告書が大きな影響力を持ったのは、メルケル首相の発言が大きかったとのことですが、外から見ていても彼女は、非常にリーダーシップのある政治家のように思えます。危機的な状況にも何度も陥ったEUを牽引しているのも彼女だろうし、シリアに対するアメリカの軍事介入について、いち早くドイツは、軍事作戦に参加する意思がないことを、メルケルさん自ら言明しました。ここ数年、世界で最も影響力の強い女性のナンバーワンは、メルケルさんですね。つい先日行われた、選挙でもメルケルさんの三選が決まったということですから、国民の支持も厚いのでしょう。
ミランダ
メルケルさんは、世界で一番強い女性ではないかしら。政治のポジションもけっこう保守的ですけれども、ドイツの保守は日本の保守と全然違います。アメリカの民主党より左かもしれません。だから一応保守党のリーダーなんですけれども、それは「ドイツの保守」という意味です。そこをまず、押さえておいてください。
それにメルケルさんはもともと物理学者ですし、環境大臣の経験もあって、地球温暖化の問題や酸性雨の問題、いろんな環境問題を細かく研究してましたし、原子力の問題にも詳しい。私も何度か会ったことがありますが、びっくりするくらい専門的な質問をされました。もちろんチェルノブイリや福島の事故についてもよく知っていますし、原子力のいい点、悪い点の両方を見ている人だと思います。
しかし、それより何より彼女は「政治家」として強い人なんですよね。個人的に原子力をどう考えているかではなくて、世論の強い「原発反対」の声を聞いて、脱原発を進めるしかないと決意したのだと思います。
編集部
福島の事故が起こる前年には、むしろ原発の稼働期間を延長させることを決定したりと、ドイツの脱原発を後退させたという見方もありましたね。
ミランダ
そうです。ドイツは地球温暖化問題にも非常に関心の強い国で、以前はメルケル首相もそれをメインイシューとして掲げていました。温暖化ガス削減の高い目標を実現するために、脱原発の方向性は保つけれどその実行までの期間は延長を認めたわけで、それに対しては批判も多かったです。
しかし、福島の事故を経た後は、明確に「脱原発」を打ち出しました。それまで彼女を強く批判してきた野党の緑の党が主張していたことを、そのまま自分の政策として打ち出したわけで、そういうところもやはり「政治家」としてのノウハウのある人だと思いますね。
編集部
しかし、いくらメルケル首相にリーダーシップがあっても、それだけでは政治は動きませんよね。もちろん国民の脱原発を求める声が強かったということもあるのでしょうか。日本だと誰が首相になっても、トップダウンで脱原発を言ったところで、つぶされてしまう、という社会のシステムがあります。
ミランダ
ドイツも、やっぱり最初はボトムアップから「脱原発」の声は上がっていきました。地方の住民運動や市民運動から反対の声が出てきて、反対だけではなくて、新しいアイディアも出てきました。トップダウンになるまではやっぱり、いろんな変化も必要だったのです。そのような中から出てきた、緑の党の誕生は、本当に大きい意味を持っていたと思います。
緑の党は、1970年代に平和、核廃絶と脱原発、女性の権利獲得という三つのイシューから生まれた政党なのですが、その誕生がドイツの政治に与えた影響はとても大きかったと思います。与党になるほどの支持拡大には至らなくても、他の政党が緑の党の支持層を取り込もうとして、環境や平和の問題に取り組むようになった。緑の党が誕生したことで、多くの政党の政治的なポジションが徐々に変わっていったんです。
例えば脱原発についても、緑の党の誕生当時、それに賛同している政党はほとんどありませんでした。しかし、チェルノブイリの事故などを経て、他の政党も徐々に、何年もかけて「脱原発」を自分たちの政治イシューに掲げるようになっていくわけです。他の環境問題などを見ても、同じような傾向がありますね。
日本はどんな「国としてのビジョン」を掲げるのか
編集部
さて、ドイツはそうして「脱原発」を打ち出したわけですが、もちろんヨーロッパすべてがそうではありません。フランスはよく知られているように原発推進の姿勢を崩さず、チェコやポーランドなど東ヨーロッパ諸国も、ロシアへの天然ガス依存の状況を変えるために原発を利用していくと打ち出しています。今年6月に安倍首相がポーランドを訪れた際には、原発輸出を「セールス」したと報じられました。
ミランダ
東ヨーロッパ諸国が本当に原発を推進していくのかは現時点ではわかりません。ポーランドなども自然エネルギーが新しいビジネスとして注目を集め始めていますし、ご存じのとおり原発を動かしていくにも実は莫大なお金がかかりますから、だったら自然エネルギーの方向へ向かおうとする可能性もあるのではないかと思います。
ただ、いずれにしてもフランスや日本の原発輸出には、私はすごく倫理的な問題があると考えています。安全基準などに関しても、世界共通の基準がまだできていない状況ですし、特に福島の問題が収束していない今、日本が輸出に踏み切るというのは…。
編集部
本当に恥ずかしいと思います。本来なら、福島の事故があって、そして今、日本では原発が一基も稼働していない。もちろん、化石燃料に頼っているという問題はあるけれど、特に事故直後は節電意識も高まっていたし、原発なしでもなんとかやれている状態が続いている。本来なら国のリーダーがそのことを強調して、「日本は今、脱原発を実現できている。将来に向けてもその方向に進んでいく」といった宣言をしたほうが、国際社会からも尊敬を得られるのでは? と思うのですが。
ミランダ
そう、おっしゃるように「原発ゼロ」がこれだけ長く続いているわけですから、脱原発が可能だということは明確になっていると思うのですが…私が今、日本を見ていてすごく残念だと思うのは、「フクシマ後」を、チャンスにできていないことです。もちろん危機は危機ですし、それは非常に困難な、大変なものでしょう。でも、そこから学んで、新しいビジョンを打ち出していくことが本来ならできるはずなのに、そうなっていない。
1970〜80年代くらいの日本は、世界でも存在感のある国でした。そして、その当時の日本が持っていたビジョンは「豊かになる」ことだった。でも、今は日本が国として持っているビジョンがなんなのか、今ひとつはっきりしないのです。
編集部
そうした「ビジョン」を確立していくという考え方がそもそも政治の場にないのかもしれません。長期的な視野に立って、この国がどうあるべきなのかを議論していくとか…。ドイツではそうした考え方は一般的ですか?
ミランダ
100年、200年先までとは言いませんが、例えば50年くらい先を見て、今このやり方を変えないと将来が大変だとか、国の将来のために教育やインフラに投資しようとか、先を見て政策を立てないとダメだという考え方はかなり浸透している気がしますね。ただ、今の南ヨーロッパなどを見ていても思うのですが、国というのは経済的に落ちてくると、短期的なことだけを考えがちになるのかもしれません。日本もずっと経済的な問題が続いていて、周辺諸国の脅威みたいなことも言われる中で、どうしたらいいかわからない、昔の、安定していた時代に戻りたいというような気持ちがあるんじゃないでしょうか。
編集部
そうした流れの一つに今の憲法改定議論もあるのだと思いますが、ミランダさんはこの動きをどう見ておられますか?
ミランダ
まず、表現の自由を定めた憲法21条を変えようという動きがあることを懸念しています。表現の自由に制限をかけるというのは、民主主義の危機ではないでしょうか。
あとはやはり9条の問題ですね。ドイツは日本と同じ敗戦国ながら軍隊を持っていて、NATOにも参加していますけど、それが許されているのには、西ドイツ首相だったヴィリー・ブラントがユダヤ人ゲットー跡地で跪いて謝罪したように、首相などが何度も周辺国に対して謝罪を続けてきたことが大きいと思います。今日本が憲法9条を変えるというときに、周辺諸国がそれをどう見るかはちょっと心配ですね。
編集部
敗戦の後、一度9条をつくって「もう侵略はしません」と言ったからもういいでしょ、なのか、持続的に過去の歴史を引き受けていくのか…。戦争の問題だけではなく原発についても、そのどちらの方向に向かうのか、それが今問われているのかもしれないですね。今日は長い時間、ありがとうございました。
(構成・写真/仲藤里美)
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