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「変心」それとも「深謀」?原発の安全審査申請を承認した泉田新潟県知事の本意とは
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10月4日 東京新聞「こちら特報部」
新潟県の泉田裕彦知事が、東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働に向けた安全審査申請を条件付きで承認した。泉田知事といえば、再稼働反対の急先鋒(せんぽう)で知られてきた。昨夏の関西電力大飯原発(福井県)の再稼働では、反対だった関西の知事たちが最終局面で「腰砕け」になった。今回の承認劇も関西の再現なのか。それとも「条件」が再稼働の前に立ちふさがるのか。現地で探った。 (小倉貞俊、林啓太)
「東電が『安全確保に自信がない。第三者に見てほしい』と言っているのに応えないのは、安全を軽視することにつながる。立地地域住民の不安に寄り添った」
泉田知事は一日、開会中の県議会で、柏崎刈羽原発6、7号機の安全審査申請を先月二十六日に条件付きで承認した理由について、こう答えた。
これまで「福島での事故の検証が先だ」と再稼働を突っぱねていた同知事が、再稼働の前提となる東電の安全審査申請を認めたことは波紋を広げた。「変心」か、それとも「深謀」か。この日の答弁も、どこかけむに巻いた響きがあった。
泉田知事は現在、三期目。経済産業省の官僚出身で、県議会最大会派の自民党の支持を受けてきた。ただ、二〇〇七年の中越沖地震による柏崎刈羽原発での火災事故などに直面。安全対策に厳しい目を注いできた。
同知事の真意を測るかぎは申請承認に付けた「条件」にありそうだ。どんな中身なのか。
まず、条件に入る前に同知事は広瀬直己東電社長に二十五日、県と柏崎市、刈羽村の三者が東電と結んだ安全協定の順守を確約させた。協定は紳士協定ゆえ、法的拘束力を持たない。だが、社長の確約が付けば別だ。
全十九条で構成され、第三条には「原発施設の増設や変更の際には、事前に県と市村の了解を得るものとする」とある。
付けた条件で焦点となったのは、事故時の最後のとりでであるフィルター付きベント(排気)設備の設置にあった。
ここで知事側は一方的な東電仕様のベント設備ではなく、その内容に条件を付けた。まず、地元の避難計画との整合性を持たせ、さらに操作して住民たちに健康被害が出かねない仕様なら認めないという内容だ。
東電に県とのベント設備についての協議を条件として義務付け、具体的には県の技術委員会に東電に参加してもらい、県側が納得するまで改善させるという形にした。
ただ、県の技術委が原発推進派一色であれば、事実上、東電の言いなりになってしまう。技術委の内実はどうなのか。
技術委は〇二年、柏崎刈羽原発での東電のトラブル隠し問題を契機に設けられた。原子炉工学や地震工学、地質学、ヒューマンエラーなど各分野の専門家十七人で構成されている。
五月からは国会事故調委員を務め、東電の事故説明に異議をとなえてきた元原発技術者の田中三彦氏も参加している。少なくとも、名ばかりの委員会ではなさそうだ。
今回の知事の判断の真意については、地元関係者たちの間でも、とらえ方が割れている。
保守系のベテラン県議は「知事には安倍政権の高支持率もあり、支援母体の自民党の反感を買うのは得策でない、という読みもゼロではなかったはずだ」と推し量る。
一方、再稼働に反対する県議は「『安全協定』に拘束力はなく、東電は県の承認がなくても申請ができた。でも今回、東電側に『条件付き承認』をのませることで、県が今後の展開に関与できる余地を残した」と知事の“狙い”を評価する。
地元財界関係者の一人は「地元の大企業である東電の経営危機が迫る中で、一定の現実策を取った」との見立てだ。
柏崎刈羽原発の地元周辺の人びとはどう受けとめているのか。
地元の行政関係者は困惑を隠さない。柏崎市役所の職員は「今までの主張と矛盾した知事の論理が分からない。安全性が確保できなければ承認が無効になるという考え方も、分かるようで分からない。こんな約束はアリなのか」といぶかる。刈羽村の品田宏夫村長も「知事の考えていることは結局、知事にしか分からない」と苦笑した。
JR柏崎駅前には、原発の停止以来、空車のタクシーが列をなす。一人の運転手は「柏崎駅から原発に連れて行く客が減って大変。知事もようやく動いてくれた」と喜んだ。柏崎駅前の飲食店経営の女性は「スナックが何軒もつぶれた。知り合いのママたちはパートで必死。泉田さんの判断は遅きに失したという印象だ」と不満げだった。
一方で、原発反対派の間では意見が割れた。
「原発反対刈羽村を守る会」の高桑千恵氏は「変節したのではなく、名を捨てて実を取る戦略では」とみる。泉田知事は原子力規制委員会に「福島事故の検証と総括なしに新規制基準が作れるのか」と迫ってきた。「柏崎刈羽が審査の対象になり、規制委の委員長に会う大義名分ができた」
逆に、「原発問題を考える柏崎刈羽地域連絡センター」の高橋優一氏は「知事が再稼働の方向に考えを変えたということだろう。言っていることが前と違っているのだから、そうとしか考えられない」と語る。ある柏崎市議も「国や財界からのプレッシャーもあり、知事が屈した面もあるのでは」と推測する。
原発から北に約五キロにある椎谷町内会の佐藤正幸会長は「知事が言っていることを100%信用すれば、新規制基準に適合するかどうかを見てみたいだけ。一県の知事として当たり前のことをやっているという感覚ではないか」。「原発問題を考える刈羽西山住民の会」の内藤利成氏は「知事の真意は必ずしも原発推進ではない。頭のいい人なので、これまでと違うことを言って、県内や柏崎刈羽地域の人びとの反応を見ているのではないか」と推測する。
結局、知事の腹は知事にしか分からないというのが、地元の反応だ。
審査を申請した柏崎刈羽原発の6、7号機だが、規制委の審査も簡単には済みそうにない。現在まで再稼働のため、審査を進めているのは加圧水型だが、6、7号機は沸騰水型。東京大の井野博満名誉教授(金属材料学)は「仕組みの違う炉を初めて調べるのは簡単ではない」と指摘する。
「福島で事故を起こした東電の原発で、しかも同型だ。少なくとも半年以上はかかるだろう」
<デスクメモ> 「東電はお金と安全のどちらを大切にするのか」「当然、安全を大切にしたい」。知事と東電社長の会話だ。東電が柏崎刈羽の再稼働に前のめりなのは、銀行団の融資を受けるためだ。お金が大切なのだ。福島での相次ぐ汚染水漏れの根底にも経費削減がある。ウソを恥じない風潮が社会を覆っている。(牧)
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