http://www.asyura2.com/13/genpatu33/msg/734.html
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http://blog.livedoor.jp/nishiokamasanori/archives/6830433.html
(書評)渡部昇一(著)、中村仁清(著)『原発安全宣言』(遊タイム出版・2013年)
http://www.amazon.co.jp/%E5%8E%9F%E7%99%BA%E5%AE%89%E5%85%A8%E5%AE%A3%E8%A8%80-%E6%B8%A1%E9%83%A8%E6%98%87%E4%B8%80/dp/4860103335/ref=cm_cr-mr-title
5つ星のうち 2.0
何故、福島第一原発事故の原因を分析しないのか?−−マーク1を再稼働させて良いのか?,
2013/9/24
By 西岡昌紀
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ここで食い止めなければ事故の規模はどのくらいになったのか、と私が最初に質問すると、吉田さんは「チェルノブイリの10倍です」と、答えた。
「福島第一には、六基の原子炉があります。ひとつの原子炉が暴走を始めたら、もうこれを制御する人間が近づくことはできません。そのために次々と原子炉が暴発して、当然、(10キロ南にある)福島第二原発にもいられなくなります。ここにも四基の原子炉がありますから、これもやられて十基の原子炉がすべて暴走を始めたでしょう。(想定される事態は)チェルノブイリ事故の10倍と見てもらえばいいと思います」
もちろんチェルノブイリは黒鉛炉で、福島は軽水炉だから原子炉の型が違う。しかし、十基の原子炉がすべて暴走する事態を想像したら、誰もが背筋が寒くなるだろう。(中略)
当然、東京にも住めなくなるわけで、事故の拡大を防げなかったら、日本の首都は「大阪」になっていたことになる。吉田さんのその言葉で、吉田さんを含め現場の人間がどういう被害規模を想定して闘ったのかが、私にはわかった。
のちに原子力安全委員会の斑目(まだらめ)春樹委員長(当時)は、筆者にこう答えている。
「あの時、もし事故の拡大を止められなかったら、福島第一と第二だけでなく、茨城にある東海第二発電所もやられますから、(被害規模は)吉田さんの言う“チェルノブイリの十倍”よりももっと大きくなったと思います。私は、日本は無事な北海道と西日本、そして汚染によって住めなくなった“東日本”の三つに“分割”されていた、と思います」
それは、日本が“三分割”されるか否かの闘いだったのである。
(門田隆将「日本を救った男『吉田昌郎』の遺言」(月刊Will(ウィル) 2013年 9月号30〜39ページ )同誌同号33〜34ページ)
http://www.amazon.co.jp/WiLL-%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%AB-2013%E5%B9%B4-09%E6%9C%88%E5%8F%B7-%E9%9B%91%E8%AA%8C/dp/B00DVMU83I/ref=sr_1_3?ie=UTF8&qid=1379462410&sr=8-3&keywords=Will
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本書の内容は、渡部昇一(わたなべしょういち)上智大学名誉教授と中村仁清(なかむらひろのぶ)大阪大学名誉教授が、主に、低線量放射線の人体への影響について語り合った対談である。私は、渡部昇一氏の著作を『知的生活の方法』以来興味を持って読んで来た。そして、特に、渡部氏が書かれて来た日本の近現代史に関する著作から影響を受けて来た人間である。又、中村仁清先生は、日本を代表する放射線科医であり、一人の内科医として尊敬して居る方である。お二人とも日本を代表する知識人である事は言ふまでも無い。しかし、そのお二人が出されたこの本の内容には多々批判したい点が有る。以下に、私がこの本を読んでお二人に申し上げたいと思った事柄を文献も挙げて述べるが、私は、お二人に何ら悪意は無い事を申し上げておく。厳しい事を書くが、両氏のそれぞれの専門分野でのお仕事に対しては、尊敬の気持ちを持って居る事を最初に申し上げておく。
1)この本の題名について
先ず、この本の題名と内容が大きく乖離(かいり)して居る事を指摘しなければならない。「原発安全宣言」と言ふならば、原発が安全である事を論証する内容である筈だ。だが、この本の内容は、大部分が低線量放射線の人体への影響の問題に費やされて居る。お二人が原発を支持するのは御自由である。又、低線量放射線について「ホルミシス効果」を語るのも御自由である。だが、「原発安全宣言」と言ふからには、工学的な視点から「原発は安全だ」と断言する根拠を語るべきはないか。事故の原因を明らかにせずに、「安全宣言」をするなど、まるで、中国の高速鉄道事故における中国当局の発表と同じではないか。特に、今回の福島第一原発については、チェルノブイリ原発よりも旧式と言はれても仕方が無いマーク1型原発について、専門家たちが、様々な問題を指摘して居る。それについて答えるのが、渡部、中村両氏が最初にすべき事である。もう一度言ふが、それでなければ、「原発安全宣言」など出せる理由が無いからである。マーク1は、アメリカのメーカーが地震も津波も想定せずに開発した非常に古い原子炉である。福島第一原発では、そのマーク1が炉心溶融を引き起こした。そして、マーク1がこうした危険をはらんで居る事は、1980年代から指摘されて居た。そのマーク1についても、渡部、中村両氏は、「安全宣言」を出すのだろうか?出すとすれば、いかなる科学的根拠から「安全宣言」を出すのか?この対談には、そうした工学的検討が全く無いのである。その様に、マーク1についての討論も検証もせず、マーク1をも再稼働させるべきだ言ふなら、余りにも無責任である。例えば、マーク1の格納容器が小さい事をお二人はどう考えるのだろうか?これは、直しようにも直しようの無いマーク1の欠点である。こう言ふ事について語らずにマーク1の「安全宣言」など出せる訳が無いではないか。
2)「ホルミシス効果」を学界主流派はどう見て居るか?
上述の様に、本書の大部分は、低線量放射線は、却って体にいいとする言はゆる「ホルミシス理論」についての対談に費やされて居る。私は、渡部教授がこの「ホルミシス理論」の熱心な信奉者である事は承知して居る。だが、中村仁清教授は、「ホルミシス理論」に対してはもう少し距離を置いて居ると思って居た。従って、本書の対談において、渡部教授はともかく、中村教授が、「ホルミシス理論」にこれまでより肯定的である事は、少々意外であった。又、中村教授は、原子力発電についてももっと慎重な姿勢を取っておられたと思ふので、本書における中村教授の原発への肯定的発言も、少々意外であった。その渡部教授と中村教授は、以下に引用する本の一節をどう読むのだろうか?
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低線量被ばくが健康にいいかもしれないという、いささか物議を醸しているデータもある。この考え方は「ホルミシス」として知られている。だが、ホルミシスを支持する科学者はほとんどおらず、大多数は恩恵があるとは納得していない。
(ロバート・ゲイル&エリック・ラックス(著)朝長万佐男監修、松井信彦訳『放射線と冷静に向き合いたいみなさんへ』(2013年・早川書房)48ページ)...
http://www.amazon.co.jp/%E6%94%BE%E5%B0%84%E7%B7%9A%E3%81%A8%E5%86%B7%E9%9D%99%E3%81%AB%E5%90%91%E3%81%8D%E5%90%88%E3%81%84%E3%81%9F%E3%81%84%E3%81%BF%E3%81%AA%E3%81%95%E3%82%93%E3%81%B8-%E4%B8%96%E7%95%8C%E7%9A%84%E6%A8%A9%E5%A8%81%E3%81%AE%E7%89%B9%E5%88%A5%E8%AC%9B%E7%BE%A9-%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88-%E3%83%94%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC-%E3%82%B2%E3%82%A4%E3%83%AB/dp/4152093935/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1377835971&sr=1-1&keywords=%E6%94%BE%E5%B0%84%E7%B7%9A%E3%81%A8%E5%86%B7%E9%9D%99%E3%81%AB%E5%90%91%E3%81%8D%E5%90%88%E3%81%84%E3%81%9F%E3%81%84%E3%81%BF%E3%81%AA%E3%81%95%E3%82%93%E3%81%B8
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これは、骨髄移植と白血病の世界的権威であるアメリカのロバート・ゲイル博士(1945〜)の近著の一節である。ゲイル博士は、チェルノブイリ原発事故(1986年)の際、ソ連(当時)に飛んで、被曝した作業員への骨髄移植にあたった事などで知られる急性放射線障害のエキスパートであり、別に脱原発派ではない。ところが、そのゲイル博士が、「ホルミシス理論」について、こう言ひ切って居るのである。つまり、お二人がこの本で持ちあげた「ホルミシス理論」は、ゲイル博士に言はせれば「支持する科学者はほとんどおらず」と酷評される様な異端的主張だと言ふ事である。
科学は多数決で決まるものではない。学界の主流派が正しいとは限らないし、主流派の多数派意見に挑戦する様な気概を持つ事は大切である。だから、渡部、中村両教授が、ゲイル博士をはじめとする世界の医学界の多数派に挑戦するのであれば、それはお二人の自由だし、説得力の有る説明を聞かせて頂けるのなら、私も、お二人の主張を支持する事が有るかも知れない。だが、学界の主流派に正面から挑戦するのであれば、先ず、この本の様な一般読者向けの本においては、御自分たちの意見が学界主流派からはここまで酷評されて居る事を読者に語った上で、自論を述べるべきではないだろうか?
ところが、お二人は、まるで、自分たちが支持する「ホルミシス理論」が、学界の主流派の見解ででもあるかの様に、対談を進めて居る。これは、こうした一般向けの出版物の在り方として適切な事だろうか?
3)「ホルミシス理論」の内容について
その上で言ふが、私個人は、「ホルミシス理論」を全否定する立場は採らない。ゾウリムシを宇宙線を遮断した環境で観察すると、宇宙線の有る自然環境下のゾウリムシの方が良く増殖すると言った報告など、「ホルミシス理論」の根拠として挙げられる実験事実の中には、確かに、否定出来無いのではないか?と思はれる事例が有る。だが、単細胞生物をはじめとする原生生物などで観察されたこの様な現象が、多細胞生物においても有益な物であるかは、直ちには分からない。何故なら、仮に低線量の自然放射線が単細胞生物の増殖を自然放射線が促進するのであれば、それは、多細胞生物においては発癌促進に働く作用なのかも知れない、等の問題が有るからである。又、低線量放射線は、DNA修復を活性化すると、お二人は熱心に語っておられるが、先ず、DNA修復はDNAの塩基配列を変えてしまふ可能性が有り、過度に活性化する事が良いのかどうか疑問である。又、癌細胞も、DNA修復を行なって増殖して居る事を考えれば、低線量放射線によるDNA修復の活性化は、癌細胞の活性化をもたらす可能性も有る。従って、単純に「低線量放射線はDNA修復を活性化するので体にいい」などと断言は出来無い筈である。p53の活性化も、p53がストレス時に活性化する遺伝子である事を考えれば、低線量放射線が生体にストレスを与えて居る証拠かも知れない。この様に、低線量放射線の作用は、単純ではない。それをお二人は余りにも単純化して語って居る。
又、低線量放射線によって体内の活性酸素が増えると、SODが増えるので、体にいい、と言ふ論理を中村教授は、本書で再度展開して居る。この主張に対して、私は、中村仁清教授の前著に対する書評(アマゾン)で、怪獣とウルトラマンの比喩を使って批判したが、本書111〜112ページで、中村教授が、私のこのアマゾンでの書評を取り上げて反論して下さった事は光栄である。光栄であるが、それに対する中村教授の私への反論は、定量的根拠を欠いており、中村教授の仮説にすぎない事を指摘し、再反論としておく。−−中村教授の主張が証明される為には、低線量放射線照射後の全身の活性酸素とSODの定量的比較が必要であるが、この対談で、そうした研究の存在は紹介されて居ない。
私が何よりお二人を批判したいのは、低線量が人体に与える影響については、それが有害な作用を与えることを報告する論文が有るのに、お二人が、特に医師である中村教授が、そうした「ホルミシス理論」の都合の悪い論文には言及しない事である。たとえば、オックスフォード大学のグループは、2012年、Leulemiaと言ふ白血病に関する権威有る雑誌に、1980年から2006年までのイギリスでの小児白血病とその他の癌の発生率は、自然放射線(background radiation)の線量に相関して居るとする論文を発表して居る。おわかりだろうか?お二人が「体にいい」と断言する低線量放射線(ここでは自然放射線と同義)の線量に相関して、子供の白血病は増加する傾向が確認されて居るのである。
(G M Kendall et al "A record-based case'control study of natural background radiation and the incidence of childhood leukaemia and other cancers in Great Britain during 1980'2006 "(Leukemia (2013) 27, 3'9; doi:10.1038/leu.2012.151; published online 6 July 2012 ))
又、同じく2012年、イギリスの医学雑誌ランセットには、CTスキャンを施行された子供の撮影回数と、脳腫瘍が起こる頻度を比較すると、CTを撮影した回数が多い子供の方が脳腫瘍の発生率が高いと言ふ結果が得られたとする内容の論文も掲載されて居る。(M.Pears et al "Radiation exposure from CT scans in childhood and subsequent risk of lealemia and brain tumors: a retrospective study"(The Lancet, Volume 380, issue 9840, Pages 499 - 505, 4 August 2012 )こうした論文を批判されるのであればそれは御自由だが、「ホルミシス理論」にとって不都合なこうした論文の存在を読者に語らないやり方は、フェアではない。中村教授が、国際放射線防護委員会(ICRP)の委員まで勤められた方であるからこそ、本書のこうした点は批判しない訳には行かない。
更に、46〜47ページで、中村教授は、セラフィールド再処理工場の労働者の子供に認められた白血病の増加(BMJ 300.423.1990.)を報告したガードナー論文に言及しておられるが、この論文で、報告者たちが、父親の靴に放射性物質が付着し、家庭に持ち込まれた可能性を否定して居ない点に、中村教授は言及して居ない。(私はこの可能性に注目して居る)低線量放射線の場合に限らず、疫学は相反する報告がなされる事が多いが、こうした「ホルミシス理論」に不都合な論文、研究についての言及が、本書の対談には全くもって不十分である。
「ホルミシス理論」に関するお二人の発言については、他にも批判したい事が多々あるが、長く成るので、別の機会に譲る。
4)除染について
除染についての対談では、お二人に理が有ると思ふ点は有る。自然放射線を含めて、絶対安全な線量と言ふ物は無いが、私も、年間1ミリシーベルト以下まで除染をする事は非現実的であり、そこまでする必要は無いと考える。
5)原発全般について
私の知人で、高速増殖炉の開発に従事して来た原子炉の専門家は、「高速増殖炉は作れない(実用化しない)」と言ひ切って居る。又、その人以外にも、私は、少なからぬ原子力関係者に聞いた事が有るが、高速増殖炉が実用化すると言った専門家には会った事が無い。脱原発派ではない。日本の原子力発電をその中枢で担って来た技術者、専門家たちが、口をそろえて「高速増殖炉は作れない(実用化しない)」と言って居るのである。高速増殖炉を作れないと言ふ事は、核燃料サイクルは実現しないと言ふ事である。それでも原子力発電(核分裂発電)を続ける事に日本の国益が有るのだろうか?しかも、天然ガス価格の長期的下落が予想されるこれからの時代に、福島第一原発事故の様なリスクを冒してまで、原発を維持する事に日本の国益が有るのだろうか?私は無いと考える。
(西岡昌紀・内科医)
http://blog.livedoor.jp/nishiokamasanori/archives/6830433.html
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