http://www.asyura2.com/13/genpatu33/msg/731.html
Tweet |
特集ワイド:福島原発の汚染水問題 「7年後」までの解決、処方箋は 空冷、堀で包囲、地下ダム
http://mainichi.jp/graph/2013/09/24/20130924dde012040074000c/002.html
毎日新聞 2013年09月24日 東京夕刊
これでは7年後の東京五輪までの解決などおぼつかない。安倍晋三首相の「コントロール」発言にもかかわらず、福島第1原発の汚染水は海に流れ続け、いつ収束するか見通せない状況だ。政府はもっと広く知恵を募るべきではないのか。専門家に「処方箋」を尋ねた。【田村彰子】
京大原子炉実験所(大阪府熊取町)の今中哲二助教の研究室を訪ねると、ひっきりなしに電話が鳴っていた。安倍首相の「コントロール」発言について意見を求める取材が殺到しているのだ。「状況は何も進展していない。2年半前の事故発生直後に思っていたより、だらだらと後始末が続いている」とため息をつく。
今中助教は1986年のチェルノブイリ原発事故の調査に携わってきた。「旧ソ連は最悪の事態に備えて手を打っていた。例えば事故後すぐに原子炉の下を掘って配管を設置しました。溶けた核燃料が地下に漏れてくるようなら、冷却のための液体窒素を流そうと考えていたのです」と振り返る。
そのチェルノブイリと比較しても「福島の事故処理の方が圧倒的に難しい」と今中助教。原因は「水」だ。
「チェルノブイリは溶けた燃料1トン当たりの発熱量が福島第1の半分以下だったうえ、爆発で遮蔽(しゃへい)用の砂と混じり合ったこともあって事故後の早い時期に燃料が空冷で固まり、水で冷やし続ける必要がなかった。原子炉の下につながる廊下があったために、空気の流れができたことも幸いしたようです。地下水が建屋にどんどん入り込む状況でもありませんでした」
実際、高濃度汚染水がたまったトレンチ(配管用地下トンネル)からの漏水によるとみられる地下水汚染、さらに汚染水貯蔵タンク自体からの漏水……その都度処理に追われる東電の作業は果てしがないようにみえる。
だが、原子力コンサルタントの佐藤暁さんは「もう少し全体を見回して抜本的な作業をすれば改善できることは多い」と話す。米ゼネラル・エレクトリック社の外国法人で原発の設計や検査に18年間携わり、福島第1原発でも作業経験のある佐藤さんは、打開策として核燃料に水が触れないシステムを挙げる。現在は溶けて固化した核燃料が原子炉圧力容器の中にあり、水をかけて熱を取っているが、「そろそろ空気で冷やす方法にすべきだ」と言うのだ。
佐藤さんによると、圧力容器を内蔵した格納容器の外面と、さらにその外側を覆うコンクリートの間には下から上まで隙間(すきま)がある。そこでコンクリートの上部に穴を開け、風を流すことで空冷にする方法を提案する。
佐藤さんの試算では、原子炉内の数百キロワットの熱を風で取るのに必要な空気は最大で毎時約1万5000立方メートル。直径1メートルのダクトで毎秒5メートル強の空気を吸い上げれば足りる。燃料自体に触れないので空気の汚染は少なく、吸い上げたダクトにフィルターをつければ放射性物質の除去は簡単にできる。「事故から2年半を経て熱量が減ってきた今なら検討に値する」と言う。
汚染水の海洋流出の最大原因となっている地下水の流入はどう食い止めるか。
佐藤さんは「敷地全体をひとつの島にするのがいい」と続ける。現在の計画は原子炉建屋の周辺だけを凍土壁で囲い地下水をブロックするというものだが、それよりも敷地全体から地下水を追い出そうというのだ。
具体的には敷地を囲うコの字形に海まで通じる全長10キロほどの堀を造り、堀の底面は海面より3メートルほど下げる。原子炉建屋は海面より10メートル以上、地上タンクは海面より30メートル以上高い場所にあるため、地下水は敷地に入る前に堀を通じて海へ流れ、汚染源の原子炉建屋周辺に直接は到達できなくなる。原発周辺には年間800〜1800ミリの雨が降るが、地上に排水溝を造り堀に流し込むようにする。流れ込んだ雨水が汚染された場合は干満の差を利用して堀に海水を取り込んで希釈し、最後は吸着材を通してから海に戻せば放射能を取り除ける。「この方法なら完成に7年もかかりません。2年半もあれば十分にできます」
専門家の間では、佐藤さんの案のように「原子炉建屋周辺で汚染水を止める」より「そもそも原発敷地内に地下水が入りにくくする」方が有効ではないかとする声が上がっている。
産業技術総合研究所の丸井敦尚(あつなお)・地下水研究グループ長も「当初は東電も1〜4号機の建屋から一滴も汚染水を漏らさないと言っていましたが、不可能なことが明らかになってきて、敷地全体の広い面で勝負しようという方向になっているはずです」と話す。
丸井グループ長によると、敷地付近では海面マイナス10メートルからプラス30メートルの範囲に砂れき層があり、水を通しやすい。この層の地下水は雨水が地面に染みこんだものがほとんどだ。とすれば敷地の表面をアスファルトで固めたり、薬剤をまいてビニールコーティングしたりすれば雨水が染みこみにくく、地下水を減らす抜本的な対策になる。
一方、山側から流れてくる地下水の対策も重要だ。広さ約3・5平方キロメートルの敷地はほぼ台形で、地下には台形の斜辺に沿うように「地質の尾根」と呼ばれる部分がある。これは周辺の地質より硬く標高が高いため水を通しにくい。つまり地中の分水嶺(ぶんすいれい)のような役割を果たしているのだ。丸井グループ長は、この「地質の尾根」を利用する方法を提案する。台形の上辺の部分にあたる敷地境界に「地下ダム」を造り、敷地内に流れ込もうとする地下水を両側の「地質の尾根」の外側に導いて海に流すのだ=図。
「地下ダム」建設は困難に思えるが、敷地境界部では地下水を通す地層が地表付近に出ている部分があり、そこから薬液を入れるだけで地下水の速度を低下させるという。薬液といっても石灰を水に溶いたもので、土の中で固まり、透水性は現在の100分の1以下になる。
丸井グループ長によると、現在は敷地全体を通過する地下水量は1日約4000トンで処理すべき水の量はうち約700トンに達するが、「地下ダム」によって数トンに減らせる。「茨城県土浦市の人口は14万人ですが、1日の水道配水能力は約7万トン。4000トンという量がいかに膨大か。敷地全体を流れる地下水を減らすことは非常に重要なのです」(丸井グループ長)
ただ、こうした対策をとったとしても原発処理が「コントロール」し切れるかは不透明だ。
今中助教が警告する。「チェルノブイリでは事故後2年半の時点で原子炉内がどうなっているかテレビカメラで調べられたが、福島第1では溶けた燃料がどうなっているか把握できていない。一刻も早く原子炉内の燃料の状態を確認するとともに、汚染水貯蔵タンクに水量計やアラームを付け監視を強めるなど、やるべきことは多い」
希望的観測によらず、「最悪」を見据えて「コントロール」する指揮官こそが求められているのではないか。
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。