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「おい、傾いていないか……」
台風18号の影響で福一原発が1時間に80ミリの豪雨にさらされた9月16日の翌朝、汚染水タンクを点検していた作業員は異変に気付き、同僚と顔を見合わせた。
いくつかのタンクが、わずかではあるが傾斜していたのである。
「すぐに元請け会社の上司に報告しましたが、そんなはずはないの一点ばり。まともに取り合ってくれません。再度確認しましたが、やはりタンクは傾いているように見えます。もっと大きい台風や、竜巻が直撃すれば倒壊し、汚染水がまき散らされる可能性さえあった。心底ゾッとしました」
今回の台風で福島原発の敷地には大量の水が溜まり、東京電力は放射性物質を含む1130トンの雨水を、タンク群に設けた漏水防止堰から放出する事態となった。京都大学原子炉実験所の小出裕章助教が危惧する。
「福島原発の土壌は、高台から地下水が流れているためもともと脆弱です。しかもタンクの中には、コンクリートの地盤とボルトでつなぎ合わせただけのものもある。再び台風が来て大雨が降り地盤がさらに緩めば、タンクが傾斜してもおかしくない。倒壊する危険性もあるのです。半分のタンクが倒れれば、広島に落ちた原爆の5000倍以上の放射性物質が放出されることになるでしょう」
福島原発を襲うのは大雨だけではない。埼玉県や群馬県などで9月上旬に発生した、竜巻にも警戒が必要だ。
「竜巻は積乱雲の活動が活発な9月から10月に、福島のような平地の多い地域で発生します。日本ではF3(平均風速70〜92m/s)までの竜巻しか起きないと言われてきましたが、今年はF4(平均風速93〜116m/s)クラスのものが頻発している。F4だと鉄筋コンクリートの建物でも根こそぎ飛ばされてしまいます」(気象予報士・森田正光氏)
福島原発では9月5日にも、作業員の心臓を凍らせるような事故が起きていた。3号機周辺の瓦礫撤去作業をしていた600トンの無人クレーンのアーム(約100m)が折れ、落下したのだ。幸い周囲に人はおらず死傷者は出なかったが、「東電からは具体的な説明はなかった」と前出の作業員は振り返る。
「東電は無人機を、ほとんど点検していません。原因は調査中としていますが、潮風を浴びた部品が錆びてもろくなっているんだと思います」
同種のクレーンは、他の原子炉建屋近くでも稼働している。巨大竜巻が直撃すれば、こうした重機が飛ばされ凶器となる。米国の原子炉設計者で、エネルギー・アドバイザーのアーニー・ガンダーセン氏はこう指摘する。
「もっとも危険なのは、使用済みを含め1500本以上の核燃料棒が保管されている4号機です。飛んできた重機などで燃料プールが破損し燃料棒が折れれば、クリプトン85という放射性物質が大量に発生します。風の方向によっては、東京まで飛散する可能性があるのです」
だがこうした天災に対し、東電の対策は心もとない。
「今回のような台風が起きれば、クレーンにアンカーウェイトという15トンの重りをつけ倒れないようにします。タンクなど異常がないか、パトロールして逐次チェックいたします」
東京オリンピックまで、あと7年。フクイチがもつ保障は、どこにもない。
(了)
投稿者コメント〜
戦前に開催が決まっていた東京オリンピックが戦況悪化によって中止になった経緯と、現在の状況は酷似しているように思います。オリンピックの空騒ぎに浮かれているうちに国家滅亡の危機が刻々迫っているような予感がします。
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