38. 2013年9月22日 16:02:26
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2013/03/07 「子ども・被災者支援法が進まないのは官僚機構のせい」 みどりの風・谷岡代表に訊く〜谷岡郁子議員インタビュー 〖政治が動く秋─特別公開中〗 会員以外の方へ動画も文字起こしも9月24日まで公開! ※全文文字起こしを掲載しました(6月12日) 2013年3月7日(木)15時40分から、東京都千代田区の参議院で、みどりの風代表の谷岡郁子(たにおかくにこ)代表が、岩上安身のインタビューに応えた。 谷岡氏は、TPPを巡って立場が反対の、みんなの党との連携について、「公に意見をバトルさせる場を作って、新しい政治の形を示したい」と希望を語った。また、原発事故子ども・被災者支援法が具体的に進まないのは、「全党・全会派が賛成して作られた法律を、国家官僚が無視しているからだ」と、官僚機構を痛烈に批判した。 谷岡氏は、みんなの党と連携したことについて「物事の判断は、10かゼロかではない。みんなの党とは、脱原発や消費税など、考えが一致する部分が多くある。逆に新自由主義については、まったく合わない。連携する際、協定書には意見が違う点をはっきり書いた。合わないところを明確にして、議論を深めていきたい。また、双方が合意できるものは、共同で政府に対して提言もできるだろう。政策協定は、他の党にも持ちかけている。今は、野党同士で喧嘩している場合ではない。昔の政治家のように裏で握手して物事を進めるのではなく、他の政党も呼び込んで、さまざまな選択肢をオープンに示していきたい」と語り、「今までの永田町政治を変えたいという思いは、一致できる」と強調した。 原発事故子ども・被災者支援法については、「被災者が、主権者として扱われているか。子どもが外で遊べない。子どもから、子どもらしさを取り上げるほど、残酷なことがあるのか。逃げることも、留まることも、戻ることも支援されるべき。基本になるのは、個人の自己決定権だ」と説明し、原発事故被害の補償責任は国にある、という視点を示した。 また、原発事故子ども・被災者支援法の基本方針が定まらず、具体的な施策が実行されていないことについて、谷岡氏は「全党・全会派が賛成して作られた法律を、国家官僚が無視している」と痛烈に批判。補正予算委員会で、安倍総理や麻生財務大臣と直接やりあって認めてもらい、東日本大震災復興特別会計の、6000億円積んである予備費を使うと、総理がおっしゃった」と話し、突破口が見えつつある、とした。 TPPについては、「アメリカを動かしているのは、軍産共同体や多国籍企業だ。国を超越する存在が、自分たちに都合の良い働きアリや、消費者を作ろうとしている」と分析。「然るべき情報を与えられれば、日本の国民は正しく判断できると信じる」とした。 復興予算奪還プロジェクトに関しては、「役所や産業界の復興ではなく、被災者の生活や人生の再建を行なわなくては。本予算は、具体的な修正をしていきたい」とし、「安倍総理から、原発事故は収束していない、という言質を得たことを、この予算奪還に繫げていきたい」と述べた。〖IWJテキストスタッフ・柴崎/奥松〗 ―― 以下、全文書き起こし ―― 岩上「皆さん、こんにちは。ジャーナリストの岩上安身です。私は今、参議院にお邪魔しております。これから、みどりの風代表の谷岡郁子議員にお話をうかがいたいと思います。谷岡先生よろしくお願いします」 谷岡「よろしくお願いします」 岩上「お久しぶりです。遅くなりましたが代表就任おめでとうございます。 以前『みどりの風のすべて』ということで、みどりの風共同代表の4人の皆さんに集まって頂いて、お話をおうかがいしました。(※)しかし最近になって、みどりの風は『女性議員が全員平等で共同代表である』という体制から、谷岡先生が代表になるという体制に移られました。どうしてこのような体勢に変わられたのか、その理由を教えて頂けますでしょうか?」 (※)2012/09/04 「みどりの風」のすべて〜新党への期待と課題〜(IWJより) 谷岡「『共同代表』という体制にはすごく良い面が多く、私達はそれで満足をしていたのですが。12月末に政党にする時に、亀井静香さんや、それから平山誠さんが入ってこられ、そういう状況の中で『公党であるならば、責任の所在や、分担責任が明確になるような形の党にしないと駄目だ』という話になり、私が一番年長でしたので『お前が年長なのだからやれ』という話になり、それに対して、皆『異存はない』という話になって『はい。やります』ということで私が代表になることになりました」 岩上「なるほど、わかりました。それから、もう一つ『みんなの党と連携をする』という話題があります。そして、みどりの風の共同代表のお一人であった行田邦子議員が、みんなの党に移ることになりました。 しかし『みんなの党と連帯すると言っても、政策の部分が一致するのか』という疑問があります。とりわけ、TPPについて、みんなの党はTPPには賛成ですが、みどりの風はTPPには反対、新自由主義に反対をされています。これほど最も包括的に『社会の広範に渡る政策において一致点がない両党が提携できるのか』ということと『どうしてこういう経緯になったのか』ということについて、少しお話しをおうかがいしたいのですが」 谷岡「この問題は、やはり行田さん自身の政治家としての今後を考えた上での判断だと思います。本人も『悩んだ』と言っていました」 岩上「『みんなの党の渡辺喜美代表が、行田さんを一本釣りして口説いた。みどりの党から引き抜いていった』と報じられていますが、これは間違いないのでしょうか」 谷岡「間違いないと思います。ですから、率直に認めたいのは、総合力としての政策の素晴らしさや、仲間の良さという事を別にして……支持率や規模を含むのかもしれませんが……総合力という魅力の点で『みどりの風がみんなの党に勝てなかった部分がある』と、私は素直に思っています。 しかし、例えば『シーズン途中で選手を引きぬいた野球チームが、今後も野球業界で存在していけるのか』と言えばそれはないと思います。しかし、なぜか日本のルールが生まれる政治の世界では、そういう『ルール無視』ということが当たり前になっています」 岩上「国会は立法府ですし、ルールを決めるところですから、ルール無視はいけませんね」 谷岡「そうなのですが、自分達自身にはルールがありません。ですから、私が渡辺代表に率直に申し上げたのは『これは18歳の新人のドラフトの問題ではないんです。もし、私になにかあれば、みどりの党の代表代行として代表になる人の話しです。これはレッドカードと同じ行為ではありませんか?』とお伝えしました。それから『結党以来仲間として頑張ってきた、私達の大切な同志を失うのは困ります』というお話もさせて頂きました。 ただ『最終的には個人の判断』ということも、尊重すべきですから『どういうふうに、この問題を建設的な関係に変えていくことができるのか?』という話し合いを持ち、そして、その結果から出てきたのが『政策的な連携』ということだったと思います。 一つ、ここで申し上げたいのは『私達は、いつも100対0で物事を言っているのか』ということを指摘しておきたいと思います。例えば、この消費税について『賛成』なのか『反対』なのかと言えば、今の消費税の上げ方に対してみどりの風は反対です。しかし『それなら未来永劫、消費税を上げなくて良いのか』と言いますと『そこは考えなければならない』という話になります。 それから、例えば『消費税に他の流用への穴が開いている』という問題については、絶対に認めがたいと思っています。そして『他の金融関係など、もっと税金が取れるところを放っておいて、庶民増税という事をやっていこう』としていることもそうですし、これは福祉の問題にも関わってきますから問題です。しかし、最近の補正予算の問題で、私達は凄く悩んだ結果、賛成をしました」(※) (※)安倍内閣が提出した緊急経済対策を含む2012年度補正予算が26日の参院本会議で自公両党や日本維新の会などの賛成多数で可決し、成立した。採決では、賛成117票、反対116票の1票差だった。民主、みんな、生活、社民の4党は、公共事業費の削減などを盛り込んだ補正予算案の修正案を共同提出したが、否決された。 (朝日新聞 補正予算、1票差で可決 参院本会議、維新なども賛成) 岩上「そうですね。一票の差でした。あの場面では、みどりの風がキャスティングボード握っていたと思います」 谷岡「あの場面で賛成をした、その一つの理由として『景気の発揚という、国民の期待があるこのタイミングを逸してはいけない」という事がありました。 もう一つの理由は、それ以上に大切な事なのですが。この補正予算の審議(※)の中で『「子ども・被災者生活支援法」(※)にかかる経費を、今、用意されている復興特会の予備費6000億の中から出します』と、はっきり安倍総理が言ったという事です。 (※)参議院予算委員会(補正予算審議):2013年02月19日 谷岡代表 YOUTUBE映像2 (みどりの風活動記録より) (※)〖子ども・被災者生活支援法〗:「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」(平成二十四年六月二十七日法律第四十八号)のこと。 (目的) 第一条 この法律は、平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故(以下「東京電力原子力事故」という。)により放出された放射性物質が広く拡散していること、当該放射性物質による放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されていないこと等のため、一定の基準以上の放射線量が計測される地域に居住し、又は居住していた者及び政府による避難に係る指示により避難を余儀なくされている者並びにこれらの者に準ずる者(以下「被災者」という。)が、健康上の不安を抱え、生活上の負担を強いられており、その支援の必要性が生じていること及び当該支援に関し特に子どもへの配慮が求められていることに鑑み、子どもに特に配慮して行う被災者の生活支援等に関する施策(以下「被災者生活支援等施策」という。)の基本となる事項を定めることにより、被災者の生活を守り支えるための被災者生活支援等施策を推進し、もって被災者の不安の解消及び安定した生活の実現に寄与することを目的とする。(電子政府の窓口イーカブより) それから、もう一つは、補正予算の根本的な慣行の問題として指摘した事について『そこについて来年度から直していく』という事が、はっきり確認できました。ですから『時間を与えましょう』という事で賛成をしました。これはどういう事かと言いますと、物事の判断は10対0ではなく、6対4であったり、7対3であったり、場合によっては、5.5対4.5という事もあるという事です。 『どうして、行田さんはみんなの党に行く事を考えるんだろう』と、私達も最初はとても戸惑いました。その中で『行田さんが、そのように魅力を感じるのであれば、私達も話し合ってみようか』と。そして『連携できるところがあるのか話し合ってみよう。脱原発という事については、みんなの党も同じだ』という話になりました。 そして『今の消費税のこの形はおかしい』、『三党合意はおかしい』、『国会のやり方は余りに古臭い』そして『官僚の天下りとか、官僚本位というのは違う』という事。それから『皆が、それぞれ自分自身になる事ができて、自由度の高い社会にしなければならない』という部分では、みんなの党と全て意見が合うという事がわかりました。 ただ、みんなの党が賛成をしている『新自由主義』については、みどりの風が考える『日本の自然や人々との付き合い方を含めて、このありようの良さ』という物を崩す可能性がありますので『新自由主義を私達は絶対受け入れられない』という事はベースの問題としてありました。そして『そこは最後まで意見が絶対に合わない』と初めからわかっていました。 今、協定書がほぼでき上がっているのですが。『私達(みどりの風とみんなの党)は、こういうところでは意見が違います』という事をはっきり書きました。そして、その上で『だから議論を深めよう』、『国民の前でオープンに議論をしよう』という事で、具体的には『共催でシンポジウムなどをしよう』と。ですから、今『みどりの風vs.みんなの党で、TPP、是か非か』という事で大ボクシング大会を繰り広げたいと思っているところです」 岩上「谷岡さんの繰り出すパンチは強そうですね (笑)」 谷岡「それは、向こうは向こうで選手を選べば良い事ですから。そして、双方が合意をして『懸案事項や留意事項だ』と考える事については、共同で政府に対して提言する事もできますし、意見が一致しないところについては『ここは違う』という事も、明快にする事ができます」 岩上「国民に対して『選択肢をこういうふうに提示します』という事も含めて、という事ですね」 谷岡「はい、もっと深い選択肢を改めて示していきたいと思っています。ですから、皆さんにも協力して頂きたいと思っております。そのシンポジウムをネットで流し、しっかり国民の皆さんに見守ってもらうような議論をしっかりして、国民的な議論を深める事を共同でするという事です。『そういう事を一緒にやろう』という話し合いを含めた連帯です。 それから、よく私達が陥りがちなのは、TPPの慎重派ばかりが集まり、そして賛成派ばかりが集まって、お互いに『そうだ。そうだ』と言っています。しかし『もっと、議論を深めるためには、他にやるべき事があるのではないか。そういう事を含めて考えましょう』と。そういう意味での連携の方向に今向かっています。しかし、これは『一緒になる』というような話では全くありません」 岩上「では、これは『連携していった果てに一緒になる』というような話ではない、という事ですね」 谷岡「それはありません。むしろ、私達が話合い始める事によって『そこに他の人達も入ってきてくれると良いな』という感じです」 岩上「ということは、この『公開の議論の場という連携の場に、与党も野党も含めて呼びこもう』と思っているという事でしょうか」 谷岡「最初は一対一で議論します。しかし、私達は政策協定を他の党にも呼びかけ始めています。3分の2を衆院で持ってしまった大与党が誕生しました。そして、ある意味で、先祖返りの公共土木事業、それから原発推進、果ては、憲法改正で自衛隊を小国防軍にしていくという、こういう状況を見ていた時に、今、野党がやはり喧嘩している場合ではないと感じています。 ですから『どこでも一緒にやれる』という、共同のプラットフォームを作っていかなければいけないと思いますし、お互いの個性の明確化『ここが違うんだ』という事を、はっきりさせていく事によって、国民の選択肢や、その連携という物のフレームを作っていかなければいけないと思っています。 これは、かつての『誰かと誰かが両手で握手をして』という、裏で決まるようなの世界ではなく、表で国民が選択していけるような世界を作っていかなければいけないと思っています。そういう意味も含めて渡辺さんとも話し合っています。 それから、今までの永田町には、日本の料亭政治の中心人物であった、田中角栄や様々なプレイヤーがいました。しかし、私達は料亭で行われる会合の裏で握手をすることによって、政策がどういうふうに決まったのかよくわからないという、こういう物を表に出して、国民から見える形にしたいと思っています。 そして、一つ私が感じた事は、そういう『21世紀の党でありたい』という事に関しては、両方共が一致できる点だと思っています。しかし、そこはお互いに切磋琢磨して、時には、それこそグローブはめて、というルールの元で殴りあいながら、そして、きちんとしたマッチをしながら話を進めていきたいと思っています」 岩上「政界が格闘技界になりそうで面白いですね。でも、前向きな話だと思います」 谷岡「今、格闘技の話が出てきましたが、私は至学館大学の学長をしていまして、そこで、レスリングの吉田沙保里選手や、小原日登美選手、そして姉妹である、伊調千春選手、伊調馨選手を育ててきました」 岩上「はい」 谷岡「そして、オリンピックからレスリングが競技種目からなくなるという最大の問題を、私はどこに見ているかと言いますと。古代オリンピックの一番大事な事は、そもそも、喧嘩の道具であり、戦闘その物であった取っ組み合いであったものを、ルール化し、ルールがあるところできちんと競う事によって、スポーツにし、それが平和主義、オリンピズムの言わば原点であり、象徴であったというその問題点だと思います」 岩上「『野蛮の文明化』という事ですね」 谷岡「ですから『ルール感を持って殴り合う』という事をしないで、なにか数の力や、お金の力で、それこそ談合のような事をしてしまうところに問題があったのだと思っています。これは、三党合意にも言えと思います。ですから、私は政治の世界でも、ルール感を持ったところで正々堂々と論戦で殴り合う、スポーツのフェアプレイの世界に近づける必要があると思います」 岩上「その道を切り開くには、谷岡さんは本当に適任だと思います。(笑) しかし、もう1点『みんなの党と連携をしていく』という中で、考え方が根本的に違うのは、憲法の問題だと思うのですが。憲法の問題については、どのように考えていらっしゃるのでしょうか?」 谷岡「憲法は、元々『国民主権』とか言いながらも『実際の実権は政府の手の中にある』という状態です。そして、その政府が国民に対してやりたい放題しないようにするための『権力を縛る装置だと』私達はそんなふうに考えています。 ですから、上からの『憲法改正』などと言うことは基本的にありえないと思っています。まして、今、衆院が『違憲状態』と言われている中で『違憲議員達が変える憲法はありえないだろう』と私達は思っています。しかし、その一方で『未来永劫、一語一句変えてはいけない』と は思っていません。しかし、それは民主主義の成熟と共に、国民主権の確立と共に下からの国民の意志として出てくる物でなければならないと思っています。 ですから、私達が言っている事は『まず、憲法改正云々を言うためには、シングルイシューの国民投票を制度としてきちんと導入すべきだ』という事です。そして『それに対して、真摯に応える制度を作るべきだ』と。 例えば、私が議員になってから関わった問題の中で、一番困ったのは臓器移植の問題でした『人間の死をどう見なすか』という問題です。これは宗教の問題であり、そして、その人の死生観という物が関わっている問題でもあります。私は、これは政治が決める事ができる問題ではないと思いました。『いくら、私達が国民の代表だと言っても、その人が「いつ死ぬ」という事を私達決められない』と思っています。例えば、そういう問題や、後は、死刑の問題。そして、今は原発の問題があります。こういう問題こそ、まずシングルイシューで国民の投票をして、その過程において、国民が主権者意識に目覚め、そして自らの主権の行使という事について目覚めた時に、初めて『憲法改正』というのは可能になる問題ではないか、というのが、私達の考え方です」 岩上「なるほど、わかりました。前段のインタビューが長くなりましたが。実は今、311から、2年になろうとしています。そして、IWJでは311のスペシャル番組を幾つか作っています。 そして、311から2年が経過し、幾つかのサブテーマが絞り込まれてきましたので、その一つ一つのテーマを、きちんと絞り込んでお話を伺いたいと思います。 谷岡先生に、是非、お話を伺いたいと思っているのは『子ども・被災者生活支援法』についてです。非常に素晴らしい内容の画期的な法律を作られたと思いました。また、そのように言われました。しかし、これが何か棚晒しのようになっていて、法律に体力が付けられていない、予算が付けられていない、というような状態になっているのではないかと思います。 そして、同じように、お金に関わる事なのですが。『復興予算』(※)というものが作られました。ところが、この復興予算の流用が非常に目立つようになりました。この問題が浮上した時に『復興予算奪還プロジェクト』というものを立ちあげるという発表がありました。(※)その中心的役割を、谷岡先生が果たされていらっしゃいますので、今日は311の特集として、この二つについてお話を伺いたいと思います。 まず『子ども・被災者生活支援法』なのですが、この法律には画期的な点が幾つかあると思います。その点を、谷岡先生ご自身からお話して頂きたいのですが」 (※)〖復興予算〗東日本大震災の復興に使う政府予算。国は震災から5年で19兆円を投じる方針で、そのうち1兆円は被災地以外の防災対策に使える全国防災対策費とした。財源のうち10・5兆円は所得税、住民税に上乗せする復興増税で賄われる。2013年から25年間は所得税に税額の2・1%分、14年6月から10年間は住民税に毎年1千円が上乗せされる。( 2012-10-25 朝日新聞 朝刊 横浜 1地方 )(kotobanku.jp 朝日新聞掲載「キーワード」の解説より) (※)2012/10/24 復興予算奪還プロジェクトチーム 発足記者会見 冒頭の挨拶で、みどりの風の谷岡郁子共同代表が、「今回、復興予算奪還プロジェクトチームを有志で発足し、ここに17名が集まった。復興予算の流用は非常識、不公正である。この会は、復興予算の流用問題に疑問を唱え、もっとも被災者のためになる方法を検討していく。現在、復興予算の流用は合法になってしまった。しかし、それを合法化してしまった原因と責任は、自分たち議員にある。被災者のため、被災者に予算を奪い返すために、このプロジェクトチームを立ち上げた」と要旨を述べた。(IWJより) 谷岡「この法律は『国と国民との関係性』がテーマの法律です。はっきり言いますと『彼らは主権者として扱われているのか』という事を、被災した方々を見ていてつくづく感じました。 例えば、津波で被災された方々の事情や、気持ちを考慮せずに『あなたはあそこの仮設住宅に行って下さい』という事がお起りました。それから、原発の問題では『ここは放射線量が高いから逃げて下さい。ここは放射線量が低いので逃げなくても大丈夫です』と、単純に国から指示を受けました。しかし、その中には、子供も、お爺ちゃんも、お婆ちゃんもいます。お爺ちゃんや、お婆ちゃんは『線量が高くてもここで余生を送りたい』と、思っている人もいます。 しかし、子供やその親は『こんな線量の高いところで、感受性の高い子供を生活させるなんてとんでもない』と思っている人もいます。それを、一律に年間20ミリシーベルトで『あなたは逃げる人。あなたは支援される人。あなたは支援されない人』と区切ってしまう、こういう主権者の意志には問題があると思います。そして『個人個人の主権者が持っている自己決定権は、どうなっているんだ』と思いました。ですから、まずこの法律を作ろうと思った時に、最初にやらなければいけないと思った事は『主権者としての地位を被災者の皆さんにお返ししたい』という事でした。 そして、もう一つは『子供に子供らしさを戻してあげたい』という事でした。なぜなら、家の外に非常に不自然な放射能がたくさんある環境の中で、子供達は外で遊べない状態でしたから。 私達、みどりの風は、本当に『野山で子供達が駆けまわる日本というものを目指して作ろう』と思い結成しました。『子供が野山を走っている時にみどりの風になる。その笑い声が風の音だ』という、そんな願いを込めてみどりの風を作りました。 その子供達が家の中に閉じ込められて、花や葉っぱ、虫やカエルも触る事ができない状況にいる。しかし、子供は何にでも興味がありますから、探検をしたいと思っている。子供は何にでも触りたいと思っている。しかし、現状では『行くな。触るな』という事を言わなければならない状況下に子供達がいます。これは『子供らしくあるな』という事に他ならないと思います」 岩上「そうですね」 谷岡「この2年間に亘って、子供らしさを取り上げられている子供達がいる。そして、その子供達の子供時代というものが、そういう状況下の中で過ぎ去ってしまう。『子供から、子供らしさを取り上げるほど残酷な事があるのか』という思いの中で『何とか子供達に子供らしさを返す、その出発点になる法律が作れないか』という、この二つの命題が私の中にはありました。 ですから、まず『自己決定権がある』という事を主張しました。これは、自分の環境についての情報をしっかりと与えられ、選択肢を与えられている事。そして、その人の意志によって、ある一定の線量レベルのところは逃げる事も、又、そしてそこに留まる事も支援されるという事です。 例えば、いつか線量が下がった時には戻って来る事も支援される事。出て行く人や、戻っていく人には、学校や、仕事、住居といったそういう基本的な国としてのサービスを求める事ができる事。そして、留まる事を決意した人達には、その人の健康というものをどうやって守っていくのかという事。除染やモニタリング、そして健康診断といったものをしっかり作っていかなければいけないだろうという事で、どの方向についても、その元になるものは『個人の自己決定権である』というところに重きを置きました。 そして、もう一つの大きなポイントというのは、特に子供の場合は『医療費』です。どのような病気であっても、そして、それが『放射能由来である』という事が証明されていなくても、国が『全く関係がない』という事を証明しない限りは、医療費の面倒を国が見る事になるという事」 岩上「『国に立証責任がある』という事ですね」 谷岡「そうです。水俣やエイズ、そしてB型肝炎やアスベスト問題では、常に長い裁判を多くの犠牲者を出しながら戦ってきました。そして、その犠牲者の側が因果関係を立証しないと国は責任を認めませんし、支援もしてきませんでした。この構造を変えるためには『立証責任は国側にあり、その方の健康被害が放射能とは全く関係ない事を立証しなければいけない』としない限り人々は救われません。 そこで、私達が考えたのは『この放射能と、それによる生活の激変によってもたらされた病気というのは、甲状腺癌以外にも数多くある』という事でした。 例えば『鬱が酷くなる』という事があります。しかし、これは元々の病気が悪化したものかもしれません。例えば、子供が家の中でゴロゴロして、スナック菓子食べながら、テレビゲームばかりをしている事によって肥満体質になり、糖尿病になる。これは全部、その生活が激変した結果、放射能が環境の中にある結果の問題なわけです。こういう物も含めて考えなければならにあと思っています。 それから、避難生活の厳しさの中で、医療をしっかり受けることができなくて、悪化したような病気もたくさんあると思います。そういう事をきちんと見ていかないといけないのではないかと思っています。なぜならば、原発政策を誘導してきた『国の責任』というものがあるからです。 ですから『国の責任は二つある』と、私達は規定しました。一つは、基本的な人権。国民主権者を守る、国の責任としての憲法上の責任。 もう一つは、この原発政策というものを主導してきた社会的道義的責任。『その両方の責任というものを、国はしっかり果たすべきである』という事を書きました」 岩上「この法律が成立して、法の趣旨を聞いた時に『本当に素晴らしい』と思いました。その一つとして『それぞれの選択に任せる』(※)という事があげられると思います。 (※)子ども・被災者生活支援法:基本理念(第2条関係) 1被災者生活支援等施策は、被災者一人一人が支援対象地域における居住、他の地域への移動及び移動前の地域への帰還についての選択を自らの意思によって行うことができるよう、被 災者がそのいずれを選択した場合であっても適切に支援するものでなければならないこと。 私は、311以降、福島の方々の今後に心を痛めながら取材していく中で『福島の方達の一人一人の多様な選択をそのままに記録していこう』という事で『百人百話』(※)というインタビューシリーズを作りました。これはまだ作り続けています。百人の、その方達の生い立ちから、今までを聞いていくというシリーズです。 (※)百人百話 故郷にとどまる、故郷を離れる。それぞれの選択 そのインタビューの中で、多くの方は『福島に留まるのか』、『それとも出て行くのか』、という選択に悩み、そして『放射能をどの程度危険なもの捉えるのか』、『安全と捕らえるのか』という事で悩んでいらっしゃいました。そういう中で、不幸な事に、その意見が異なる為に家族間や友人の間で意見の対立が起きていました。 しかし、おっしゃられたように『十分な情報が与えられ』そして『それぞれがそれぞれの選択をして』、そして、それに対して『他方を選んだ者が不利益を被る事がないように協力をする』という事は、とても大切だと思います。福島に留まる人にも支援をし、そして出て行く人にも支援をする。こういうことを、この国のリーダーである人達にしてもらえないだろうか、と思っていたところ、こういう事を考えてくださる方々が立法府にいらっしゃって、この立派な法律ができました。本当に素晴らしい事だと思います。 そして、福島の原発事故の放射線の影響によって生まれた病気に関しても『国に立証責任があるんだ』(※)と書かれてあります。これは、先程の憲法の概念と深く関わってくる事だと思います。国が勝手な事をして、国が国民を統治するという形ではなく、国民の側が国の責任をきちんと問う事ができるシステムにならなければいけないという事ですよね。これは本当に重要な事だと思います。 (※)子ども・被災者生活支援法(放射線による健康への影響に関する調査、医療の提供等) 第十三条三項。 国は、被災者たる子ども及び妊婦が医療(東京電力原子力事故に係る放射線による被ばくに起因しない負傷又は疾病に係る医療を除いたものをいう。)を受けたときに負担すべき費用についてその負担を減免するために必要な施策その他被災者への医療の提供に係る必要な施策を講ずるものとする。 しかし、問題は『これがどのように具体的に被災者の状況を改善していく事ができるのか』という事だと思います」 谷岡「そうですね。これは、他の地域でもたくさん他の問題が出てきていると思います。とりわけ、今は『国と国民の関係』という問題が象徴的ですから、そういう問題を取り上げて、私達はかなりラディカル(急進的)な法律を作りました。その『ラディカルさ』というものが、今、困難を抱えている要因になっているかもしれない、と思うところもあります。しかし、後悔はしていません。 そして、この要因については大きく二つあると思います。一つは、これは統治を国がしてきた考え方と完璧にぶつかってしまうという事です。要するに『所得税は、国税として国民から直接取るけれども、全てのサービスは、県や、自治体を通じて間接的にしかしません』というのが、これまでの国の統治の方法です。ですから、実質の現場に住民は存在しますが、国民は不在という現状です。 復興庁は『県がこう言うから、自治体にお任せして』と言い。そして、自治体の意見は『我々はこうして県に聞くのが筋だし、県は自治体に聞くのが筋だから、それを無視して住民の皆さんが望まれる事をすることは一切できない』と言う。『住民の意見を聞く』と言った場合、その地区の自治会長さんだとか、役所の方に聞くのですが、大概が60歳以上の男性なんです。そうすると、30代、40代のお母さん達の声はほぼ反映されません。 ですから、まず一つの問題として、この法律ができてから私が官僚の皆さんと喧嘩をしているのは『国税だけ直接取っておいて、サービスは全部間接的にしかできないというのはどういう事なのか』という事です。 言わば、本当に基本的な人権だとか、国民の基本的な文化とか、健康や命の権利というものを守る場合に、それに対して、場合によれば、自治体や県がそれに反抗するような事をやってきた場合『国は国民に対して責任を持つ』という概念を持つしかないのではないかと思います。何でも『自治事務だ』とか『そのお金は付けてありますから私達には責任はありません』と言って、そういう責任を避けて来たんです。 そうすると、福島県にしても、それから自治体にしても、地方交付税は人口で計算をしますから人口が減ると困ります。そうすると、人が避難していくような問題に対しては、全力で抵抗をして来る。そうすると、いつまで経ってもその人達は救われない事になってしまいます。 ですから、まず大事な事は、これは被災者の皆さんにも申し上げている事なのですが。『私達は住民である前に国民だ、という事をしっかり言ってください』とお願いしています。これは『住民として助けてもらいたい』と言っているのではなく『国民として、国に支援を求めているんだ』という事です。この『国民対国の直接関係という事を言って下さい』とお願いしています。 その間に挟まる事によって『自分達の責任を常に回避してきた、官僚達に直接の責任があるという事を、私達も働きかけますが、国民の皆さんの方もそこをしっかりと強調して、私は住民として言っているわけではない。国民として言っているんだという事を言って下さい』とお願いしています。そこを、やはり運動として働きかけて行く必要があると思っています」 岩上「国に『責任取れ』と、直接向かって言うという事でしょうか?」 谷岡「『国が』と、全部直接書いてあります。例えば、医療の問題で言いますと、福島の県民に関しては福島県に基金が積んであります。しかし、福島県から引っ越してしまえば、その人達には一切何もない事になっています。不安があっても、健康診断が無料で受けられないという状況です。 しかし、放射性プルームは県境などを考えてくれませんし、放射性物質は色々なところに飛んでしまったわけです。『これはどうするの?』という問題があります。その問題を、県に留める事によって国は責任を回避している、という構造があります。一つは、その構造が大問題なんだ、という事です。ですから、これが一つの進まない理由になっています。 二つ目は、予算の問題です。この予算も突破口を作ってしまうと、そういう今の問題を含めて色々な問題が国にかかってくるのを避けたいわけです。ですから、予算を付けてこなかったという問題がありました」 岩上「これは、補正予算の中でお金がつかなかったという事なのでしょうか?」 谷岡「1円もついていません」 岩上「『1円もつかなかった』のに『1円もつかなかったものが通った」というのは驚くべき事だとおもうですが。この法律に『お金がつかなかった』という事は、この法律は現実に対する実行力みたいな物を持ち得ない、という事なのでしょうか?」 谷岡「現実問題ではそうなります。それから、これはおかしな事なのですが。この法律は、実は参議院で先に提出された法案であり、そして、全党・全会派が共同で提出をしています。こんな法律は憲政史上これまでありません。これはいつ解散があり、選挙があるかわからないような衆院ではまず起こり得な事です。参議院だからこそ出せた法律でした。それと同時に、全会派、全党が賛成をして、国会の衆議院・参議院の全議員が賛成して作られた法律です。 しかし『誰一人反対する人がいない法律を国家官僚達は無視をし続けてきている』というこの事実があります。この事で、日本がいかに官僚の権力が強い国か、という事を率直に表しています。ですから、まず、皆さんにはこの事実に気が付いて頂きたいと思っています」 岩上「なるほど。国会軽視も甚だしいですね」 谷岡「国会軽視もあります。そして、この法律に賛成をした議員の中には、安倍総理も、麻生(太郎)さん、そして、その前総理の野田(佳彦)さんや、城島(光力)さんも含まれています。ですから、全国の国会議員が賛成し、それから総理や大臣達も賛成をしてできた法律というものは、言ってみれば『政治の意思』というものがそこにあるという事ですよね。その『政治の意思』を『官僚は行政の意思で無視する事ができる』という事を、証明してしまったのが、今の事態なわけです」 岩上「例えば、国会議員が、官僚が補正予算の案を作ってきた時に『これはおかしいだろう』と言って、差し戻し、あるいは、国会で議論し『そういう事を積み上げる中で、全ての議員が賛成し、超党派で賛成したこの法律は尊重されるべきだ。だから予算をつけるべきだろう』という事は言えなかったのでしょうか?」 谷岡「皆、頑張って言ってきました。本当に、この法案と直接関わった人は数多くおりますが、その人達はずっと言ってきました。それにも拘わらず、予算がつく事はありませんでした。どこで誰が止めたのか、どういう形で大臣達が官僚の手の平に乗って掃除をされてしまったのか、その詳しい経緯はわかりません。少なくとも、民主党政権の時は、私が民主党を出てからも仲間がたくさんいましたし、大臣も、その必要性がわかっていました。しかし、それができなかったんです」 岩上「民主党の時にはできなかった」 谷岡「そして、自民党政権になってもできませんでした。しかし、今回、補正予算の委員会にテレビが入り、私が総理や麻生財務大臣と直接やり合い、その必要性を認めて頂きましたので、今、官僚大慌てです」 岩上「なるほど」 谷岡「なぜなら『谷岡さんの言っていることが、具体的にどういう事なのかを聞いてきちんとやれ』というふうに、総理も財務大臣もおっしゃったからです」 岩上「そうならない限りは駄目だった、動かなかったという事でしょうか?」 谷岡「動かなかったと思います。私は元々民主党にいた議員です。しかし、残念な事にそれだけの政治的リーダーシップを、民主党の野田さんも大臣達も持っていませんでした。むしろ、今の安倍さんや麻生さんとは、考え方が違う事が山程ありますが、少なくともこの問題については小さな突破口ができつつあります。 しかも、財源は、復興特別会計に6000億円が積んである、福島等の復興などに使う予備費です。『これを使ってくれ』と、私は明確に補正の予算委員会の中で指摘し『その財源を使います』という事を、安倍さんがおっしゃりました。これは、国会の場で大臣が言明して議事録に残っています。これは総理が言った事ですから、ここで初めて無視ができなくなりました。そういう意味では、野田さんなどは官僚答弁をお読みになるだけで、全く答えて頂けませんでした」 岩上「野田さんに対しては、そういう意味では『失望が深かった』という事でしょうか?」 谷岡「深かったですね」 岩上「これは補正予算を巡る議論ですが。先程の冒頭で『補正予算でみどりの風が賛成するかしないかという事が、大変大きな決定権を持っていた』とお話しました。参議院は『ねじれ国会』と言われており、一票の差でこの補正予算が決まりました。しかし『子ども・被災者生活支援法』に予算を付けるという事に、安倍総理が言明する事がなければ、反対をされていた可能もあるのでしょうか?」 谷岡「『子ども・被災者生活支援法』に予算がつかなければ、反対をしていました」 岩上「もしかしたら、その圧力が大きかった可能もありますよね」 谷岡「この補正予算案には問題がたくさんありますから、私達は悩みに悩みました。『国民の血税をこういうふうに使うのか』という事が、この補正予算案の中にはたくさん入っていましたから。ただ、あそこで反対をしても、まず予算を衆院が優越するという事。そして、今その衆院において3分の2を自公が握っているという事。しかし、これは国民の意志の結果そうなったわけですから、私達は受け入れざるをえないという、そういう状況の中で、参議院で否決をしても4〜5時間遅らせるだけでした。 そこで一旦戻って、両院協議会を開くのか、それとも衆議院に差し戻すのかと話し合いました。しかし、どちらにしろ、色々な手続きをしても、4〜5時間しか変わらない状況でした。その間に、官僚達は待機をし、結局、その晩遅く帰るという事で超過勤務手当がその分付いただけという事になってしまいます。 それでも反対をすれば『真っ直ぐ通さなかった』、『戦わずして城を明け渡さなかった』という事は言えるかもしれません。しかしそれは、はっきり言って政治家の自己満足でしかありませんし、これは庶民にとってはたいした問題ではありません。 ですから『4〜5時間遅らせるためだけに反対をするのか』。それともここで『本当に被災者の皆さん達がこの間ずっと叫ばれてきて、そして、その突破口を開ける事ができなかったこの光が見えた部分を、きちんとコンプリート(完了)するために、ある意味で自公民に「恩を売る」ために、恩を売ってでもそれをするために賛成票を投じるのか』という事を、私達は党内で議論し『この突破口を取ろう』という決意をしました」 岩上「『名を捨てて実を取る』という事ですね」 谷岡「ですから、補正予算案が通ってから、この部屋に、総理以下、皆さんが行列になってこられ、マスコミの方もいらっしゃいました。そこへ総理が入ってくるなり『ありがとうございました』と握手した後『みどりの風の宿題をしっかりやります』と、はっきりとおっしゃられました。その『宿題』というのは、正にこの『子ども・被災者生活支援法』予算の事です。 甲状腺癌だけではなく、甲状腺の機能障害や異常は血液検査をしないとわかりません。そして、以前から『血液検査をしなければならない』と言われてきましたし、その他の健康問題を考えることも必要です。ですから、今こういう問題を復興庁や環境省と相談し始めています。 それから、高速道路の料金の問題についても話合っています。例えば、避難している母親や子供のところへ、お父さんが週末に行く時に高速道路を使う時、あるいは、割りと線量が高いところにいる家族が週末に、外へ出て、例えば、二泊三日で帰ってくる時に高速道路を使うなどといった、そういう事に高速道路の無料化という形で使ってもらえれば、子供達を野山で遊ばせてあげる事ができますよね。 そうするためには、そういう具体的な事をいくつか出すという事をしています。後は、本当に二重生活で母子避難をしている、生活が苦しい方々のために何ができるのかという問題を具体的に話し始めています」 岩上「なるほど。私は、先日、秋田県に避難をしている女性の取材をしました。お子さんが2人いらっしゃって、長男は高校生で『仲間と離れたくない』と言って福島県にいます。そして、次男だけを連れて秋田県に避難されています。物凄く心が引き裂かれる思いで避難をされています。 そういう状況下で、福島県にいる長男は甲状腺の検査を受ける事ができたのですが、秋田県に避難をしているお母さんと次男に、福島県は『あなた達は県外にいるから検査を受ける事ができません』と言い、甲状腺の検査をさせてもらえませんでした。 そこで、お母さんと次男は、秋田県で自費で甲状腺の検査を受けました。そしたら、お母さんと次男、そして長男にも甲状腺に異常が見つかりました。この心が引き裂かれている状態だけでも可哀想なのに、全員に甲状腺の異常が見つかり『子供の事が心配でならない』と言って、 気丈なお母さんが涙するわけです。そして、更に『あなたは福島の外にいる人間だからと、冷たい扱いを受ける』という事を聞いて、居たたまれない気持ちになりました。何重にも傷つき、かつ、生活をする上でも負担を負っていらっしゃいます。 本来ならば、こういう『子ども・被災者生活支援法』のような精神が、行政の全てに貫かれないといけないのではないかと思うのですが」 谷岡「恥ずかしい事ですよね。本当に、国会議員として、政治家として、凄く恥ずかしいと思います。そして、今盛んに言われている『教育改革』、『道徳教育』と言う前に、直接自分の部下である、官僚達の道徳教育をきちんとしてほしいと思います。私は、次の予算委員会で、是非、その問題を取り上げたいと思っています。本当に『官僚の規範意識だとか、道徳観はどうなっているんだ』と」 岩上「本当にそうだと思います。『国民にのみ道徳を強いて、高級官僚だけは全く道徳から縛られていないかのような振る舞いは何だ』という事ですよね」 谷岡「ありえない事だと思います。ですから、私は安倍総理が『基本的人権』や、『基本的な共通の価値観を持っている国々』という事をおっしゃる度に血圧が上がるんです」 岩上「(笑)血圧が上がるんですか。大丈夫ですか?」 谷岡「血圧が上がります。私は低血圧ですから、それでちょうど良いぐらいなのですが。それでも、自分の中で血圧が上がるの感じます。『何が基本的人権だ』と思うんです」 岩上「『基本的人権の制限』という事が書き込まれている自民党の憲法草案というものがあります。もし、夏の参院選で自公が圧勝という事になれば、96条の改正・改憲がしやすくなるとも言われています。しかし、極端な事を言いますと、衆院・参院で改憲が進んでいく可能性もあります。 その時に、今、谷岡先生が言われた『全ての基礎は国民主権』という事や、『民主主義』という事。そして『基本的人権の尊重』という事。あるいは『憲法が政府を制約する』という事。『国民が政府を制約する』という事。こういう近代の立憲主義を全否定している議員が、自民党にはたくさんいます。『立憲主義も、天賦人権説も、基本的人権も、西洋から押し付けられた物で、我が国の伝統や国柄には相応しくない』などという人達がたくさんいます。 そうしますと、今お話になっている、全ての事が基盤から崩れかねないと思います。そこを非常に私は懸念をしているのですが、先生はどのように考えていらっしゃいますでしょうか? 7月の参院選には、谷岡先生も関わるわけですよね」 谷岡「本当にそうだと思います。もし、これでそういうものが全て否定されるような事があれば、私は若者に『国を出よう』と言わざるを得なくなるのではないか、というふうに思っています。 私の娘がよく言うのは『お母さんが議員で頑張っている間は、私もある種の希望を持たなければいけないのかなと思う。でも、もしそうでなかったら、私はどこへ行こうかな』と、トイレに世界地図を貼って眺めてしまうぐらいなんです。ですから『国民を大事にしない国家は栄える資格はありません』という事だと思います」 岩上「なるほど」 谷岡「それから、世襲議員の皆さん方は、まるで江戸時代の殿様や藩主であるかのような、そんな感覚すらあるのではないか、と思います」 岩上「『特権意識』みたいなものでしょうか?」 谷岡「そうですね。『特権意識』あるいは『支配者意識』に近いものだと思います」 岩上「一般の国民を、自分達よりも一段下のセカンドシチズンと見做すような、そういう目線という事でしょうか?」 谷岡「ですから、今の『教育』なるものを見ても『統治しやすい国民』、『国家にとって都合の良い国民のための道徳や規範意識』といったものばかりがあるような気がします。 『自分でよく観察し』、『自分の中に固有の規範意識を持ち』、『自由な一人の自立した人間として、社会と調和しながら幸せになっていく』という、そういう私が今まで教育者としてイメージしてきたような、個人の教育とは全く対極にあるものを言っているような気がしてならないんです。私は『良い子の教育と、都合の良い子の教育は違うのではないか』と、ずっと言ってきたのですが、どうも都合の良い子を求めているような気がします」 岩上「そうですね。『良い子の教育』であれば、そう悪くはないと思います。しかし、国家にとっての都合の良い子、又、国家にとって都合の良い子を大量生産し、それを鋳型にはめて、たくさん作らなければいけないという事が、国家にとって緊急の課題になる場合は戦争が前提になっていると思います。 昨年の9月をピークに、尖閣諸島の問題が大変クローズアップされました。しかし、これは、政治的に煽ってきた部分が非常に大きかったと思います。石原(慎太郎)さんの発言から始まり、その背景にはアメリカの思惑がありました。アメリカが日中間の対立を煽り、それを利用しつつ、日本側が少し出過ぎると、安倍さんバッシングをとも思えるような記事を書き、日本を良いように翻弄しながら兵器を売り、しかし、自分達は戦争に巻き込まれないようにするというとても巧妙な操作を日本に対して仕掛けてきているのではないか、と思えて仕方がないんです。 その間に、着々と、今おっしゃるような『都合の良い国民』が作られる体勢が進んでいっているのではないか、と凄く危惧しています。この対外的なアメリカとの関係、中国との関係、それから日本国内の、まるで『かつて来た道』を行こうとしているかのような、この動きついては、どのようにお考えでしょうか?」 谷岡「アメリカが『誰の物なのか』という事が、この20〜30年の間に物凄く大きく変わってしまったのではないかと思います。かつて、アメリカは自由な国民達のものでした。しかし、それが、いわゆる『1%対99%』という問題に象徴されるような状況が起きて、今、アメリカの政府を動かしているのは、アメリカの国民ではなく、やはり今おっしゃった、軍産複合体であり、多国籍企業だと思います。 それから、多国籍企業というものはどの国に対しても、実は愛国心を持っていません。言わば、多国籍企業が、自らの『儲け』というもの中心にして、人間の問題や命の問題、あるいは、環境問題、あるいは、固有のそれぞれの文化の問題、国民性の問題に対して『こんな物は関係ない』、『我々の利益の邪魔だ』と言い、そこで作られたものが、実はTPPなのではないかという気がします。 ですから、その全ての企業の利益の観点から見ますと、その国固有の制度や、その国固有の環境を守ったり、命を守ったりする制度を、全部『非関税障壁』と括ってしまい、その企業の利益を邪魔すればそれを訴える事ができ、そして賠償金払わせる事ができるというシステムを作っていくという事に関して、私はTPPはそういう意味においても『究極だ』と思っています。 そして、今、戦争をしたい人達が、尖閣諸島でしている事や、それから、ほとんどの国民・庶民が『原発は要らない。他のものでも電気を作る事ができる』と言っているのに、あえて『原発を売らなければいけない』という部分もそうだと思っています。 原発にしても『日立が作っている』、『東芝が作っている』と言っても、日立は、確かGEと提携しているわけですし、東芝は、ウエスチングハウスと提携しています。これは全て多国籍企業です。『多国籍企業』という名の、言わば国を超越しようとする存在が、ある意味、自分達に都合の良い働きで蟻や、自分達に逆らわない消費者達を作ろうとしていて、その構造ができ上がりつつあるという感じを受け取っています。 ですから、私達は、よく『アメリカが』と言いますが、それは多国籍企業が主にアメリカの企業だからだと思います」 岩上「そうですね。先程『かつて来た道』と申し上げました。国民が都合の良い国民にされて、そして『都合よく使われる』という意味において、都合の良い兵士にされてしまうかもしれない可能性があると思います。 しかし、その国民を都合よく使っている主体が、今まではアメリカでしたが今は変わっているのかもしれません。もしかしたら、日本の国家権力ではなく、日本の国家権力はその下にあるのかもしれません。しかし、その日本国家の下にある官僚機構が非常に勝手な振る舞いをしています。そして、その真の支配者は『多国籍企業』あるいは『多国籍の資本』になっているのかもしれない、という事ですね」 谷岡「ですから、TPPについての情報を持っているのは多国籍企業なんです」 岩上「その通りです」 谷岡「アメリカの通商委員会の委員長の、ワイデン上院議員などは『上院にも、全くTPPの中身がわからない』と文句を言っています。ですから『TPPはアメリカの意志なのか』という事を考えた時に、アメリカでは外交問題などは議会の意志が強いのですが、その議会の上院議員が『自分達には情報がない』と言っていることを考えれば『アメリカの意志とすら言えないのではないか』という思いが、私の中にあります。そして、アメリカの上院議員が『自分達には情報がない』と言っていますが、日本でも全く同じ状況が起こっています。 先程『復興予算』の問題が出ましたが。復興予算で一番驚愕した事は、いわゆる、多国籍企業でもあるような、日本産の大企業の工場を作る事などにお金が使われていて、地元の商店街や、地元の漁業組合などの工場を作る、というお金が一桁少ないという事です」 岩上「実際、地元で働く人、地元の商店で買い物をする人、つまり、暮らしを共にしている人達は多いのに、ほんの一握りの企業に予算がついていきます。しかも、復興予算というのは、あくまで被災地を復興させる為のお金であるはずなのに、地域が違うところや、業態にしても、被災地と何の関係もないところに予算がついてしまいました。どうして、こんな事が起きたのでしょうか?そして、いつ国会議員の方々はこの事に気づかれたのでしょうか?」 谷岡「これは三党合意なんです。自公民の三党合意という事については、私達は『消費税の問題があった』と思っています。しかしその前に、この復興の特別会計を作る時の三党合意がありました。ですが、最初に民主党政府案で作っていた復興予算は、被災地以外では使えない事が決まっていました」 岩上「なるほど」 谷岡「それが、三党合意によって変化したんです」 岩上「という事は、これは自公の意志だったという事でしょうか。自公が『被災地以外では使えないという縛りを解け』と、民主党に言ったという事でしょうか。あの時は今とは違い、民主党が政権を取っていました。そして、自公に協力を求めていました。野田さんは、非常に自民党に秋波を送るというような状態にありました。その時の交換条件として『この復興予算の使い道の縛りを取れ』と言ったのでしょうか」 谷岡「多分、そういう事なのだと思います。どうして『多分』と言うかと言いますと、冒頭にお話しましたように、密室の行われる、いわゆる談合というより、ごく一部の党内の意志を無視した人達の談合である、三党合意で決まり下りてくるという、そういう構造になったわけです。その時に、私達は『政権交代は意味が無かった』と思いました。正に、それを廃するはずの民主党政権がそこへ行ってしまったわけですから。 そして、そういう事が行われ復興予算の流用の穴が開いてしまいました。ですから、そこで『被災地以外にも使える』という間接的な理由を作ってしまったのだと思います。間接的な理由などは、作ろうと思えばいくらでも作るわけですから。頭の良い官僚達は、ありとあらゆる、その間接的な理由を考え出し、蓋を開けてみればそっちが主になってしまっていた。『主客転倒していた』という事になったわけです。その全く同じ文言が、消費税の三党談合にも入ったわけです」 岩上「これは、本来ならば『社会保障に』という話でした。使途を制限していたわけですよね」 谷岡「ところが、今の法案には、全くその同じ文言が復興予算と同じように入れられていて、消費税も流用ができるようになっています。これが私達が消費税に反対する大きな理由です。本当に国民の皆さんが安心をして、たくさんの老後の蓄えを持っていなくても『大丈夫だ』と思えるような状況になっているのならば、私達も消費税の増税を考えないわけではありません。しかし、これには明らかに流用ができるようになっています。それが、三党合意だったんです」 岩上「これも、民主党の元々の案では、一応『社会保障のために』という事だったわけですよね。これも先程と同じ構造で、これを成立させるために自公に媚を売らなくてはいけなかった、そして、自公側から民主党に『こういう条件を飲め』という事になった。 しかし、この構図は多くの国民は理解していないと思います。その後に成立した安倍政権は、世論調査では『支持率70%』と言っています。しかし『国民のための政治』とは違う事をしているという気がします」 谷岡「『三党合意』というもので、ある意味、民主党政権がそれまでの自公のやり方、自民党、公明党の手法に擦り寄ったわけです。そこで、民主党は決定的に自民党と一緒になる事によって、この三党合意なる物で国民を裏切ったという構図があります。あの時、あれほど多くの議員が反対をして『党が割れた』という理由がそこにあります。 そして、秋になって復興予算の問題が出てきました。しかしこれは、皆が薄々感じていた問題でした。そして、復興予算の流用が出てくる事によって、それが益々、私達としては確信が持てる状況になりました。 今朝も、『消費税を上げる』という事で勉強会をしていたのですが。財務省は、この企業減税がなされるという状況の中で税収が減るという、来年度の予算を試算して出しています。ですから『わざわざ、自分の収入が減る事を、せっせとやる財務省って何なの?』という質問をしました。そして『なぜそういう事ができるのか』と言えば、消費税で増えるものを当てにしているからです」 岩上「法人税はこれまでも減らされてきました。そして、1989年に消費税ができてから、2009 年までに220兆の消費税の増収がありました。そして、それと同じぐらいの金額の法人税が減税され、そこに充当されていったという構図になっています」 谷岡「ですから、今『大企業が200数十兆円の内部留保を持っている』と言われているのは、正に消費税の増収分が大企業の内部留保になった事を表しています」 岩上「このお金を『国民の生活や投資など他に回してくれ』と言いたくなるのですが」 谷岡「あるいは、復興予算や被災者に回してくれればと思います」 岩上「大企業にはお金がありますが、国は金がないと言っています。そして、国民も懐は寂しいと言っています。この問題は指摘をされ続けているのに、一向に改善される気配がありません。むしろ、これが加速していけば、更に、この大企業の内部留保が増えていき、トリクルダウン(※)は起きずに、株主は吸い上げられていくだけですよね」 (※)トリクルダウン効果:トリクルダウン効果とは、大型公共投資や税の優遇などを通じて大企業や高所得層の経済活動を活性化させ、社会全体の経済規模の拡大によってえられた富のしずくが高所得層から中所得層に、さらに中所得層から低所得層に流れ落ち、結果として社会全体の利益となるという考え方である。 第二次大戦後の日本では、政府主導の開発政策の実施によってトリクルダウンの効果はあったという説もあるが、経済構造が複雑化している現代では社会の格差は拡大し続けていることから、この考え方の有効性は疑問視されている。(恵泉女学園大学 恵泉ディクショナリー 谷本 寿男 2012年11月19日) 谷岡「ですから、そこのところが多国籍企業の問題なのだと思います。国内という事で考えて、昔ながらの国内的な状況で考えればトリクルダウンは起きます。しかし、今、トリクルダウンが起こるところは、海外の人件費が安いところに工場を作るという形で全く違うところにトリクルダウンが起き、それによって、益々日本は競争力を失う、という形になっています。日本人が一生懸命汗をかいて出したものを、結局、その大企業は別のところに投資をする、という形になり日本に返ってこない、というこの構図が続いているわけです」 岩上「これは、間接的な取材ですのでお名前も出せないのですが。ある日本の輸出大企業のトップクラスの方が『TPPを、おやりになるならどうぞ。しかし、我々の企業は、世界的なグルーバルな企業だから生き残れますが、日本の国民が働く労働環境はなくなりますよ』という事を言っています。TPPに入っても、その企業はどこからかでも製造をして輸出していく拠点がありますから、日本以外で製品を作ると。資本も移動できるし、現地の人間を採用すれば良いだけだと。 『ただし、日本の中で多くの雇用を生み出したり、日本の経済と社会を支えるという事はできなくなる。そして日本から工場はなくなる』という事を言ったと聞きました。こういう話を複数聞いています。これは大変な事ですし、国民国家の終焉を指しているのではないかと思うのですが」 谷岡「それが多国籍企業なるものの本質ではないでしょうか」 岩上「でも、一体どうしたら良いのでしょうか?」 谷岡「ですから、みどりの風というのは、そういうTPPという事ではなく、そして、今の世代の一人勝ちだとか、お金だけを価値観とするという事ではなく、やはり、もっと地域として、人間として、文化として健やかな状況を作るというところに、基本的な価値転換をし、そして政治の転換もしていかなければならないのだと思います」 岩上「TPPへの参加を止められると思いますか?この3月中旬ぐらいにも『安倍総理はTPP交渉参加を表明する』という話が出ております。一旦交渉参加をしてしまえば、そう簡単には抜ける事ができるものではないとも言われています。TPPは秘密交渉ですから『その秘密を知った後は出る事ができない』という話になると思います。 例えが悪いのですが、ぼったくりバーに入って『何の問題もなく出てこられる』と楽観的に言っている状態だと思うのですが。これをどうやって食い止めたら良いのでしょうか?」 谷岡「難しい話だと思います。ただ、私達に言える事は『計算できない未来なんかないんだという事を、信じるしかない』という事です。そして、日本の国民が『しかるべき情報を与えられれば、しかるべき判断ができる国民である』と信じるしかないと思います。その為に、発信をし続け、訴え続けていくしかないんだろうと思います」 岩上「私達は、TPPの問題が菅政権で突如浮上してから『これは大変な事だ』と思い、ずっと追い続けて、民主党の『TPPを慎重に考える会』でも、メディアも誰もいない時から中継をしてきました。今、IWJにはTPP関連の番組の総本数が200本超えています。それから、TPP特集を作っています。『これだけやっているのになあ』と言いながら、中々浸透しないという状況に、本当に歯痒い思いをして来ました。ただ、ここへ来て『本当に身に迫ってきた』と思う人が増えてきたような気がしています。 谷岡先生もTwitterで発信されながら、他の人達の発信もお読みになられていると思います。TPPという言葉、あるいは『TPPはこういうものだ』という事を色々な人が書いています。そして、皆、非常に的を得た事を書いていますし、しかも詳しくなっています。『ISD条項だけではなく米韓FTAを見ろ』とか、『ラチェット条項』、あるいは 『スナップバック』とか、こういう事がわかる人がすごく増えて拡散していっている、という事を感じるのですが。 そういう非常に、慎ましい情報の拡散しか今は期待ができないのかもしれませんが。この手の情報の拡散、浸透という事に関して、希望を持たれていらっしゃいますか?それとも、歯がゆい思いをされていらっしゃるのでしょうか?」 谷岡「両方ですね。片一方では、何かそこにも階層と言いますか、情報の格差ができてしまっているように感じています。そして、求める人達には非常に高い質の情報が入っていく一方で、その何というのでしょうか『関係ないや』と安易に言っている、本当は関係している人々。こういう人々が、やはりこの事に関して、どんどん面倒くさく感じるようになってきている感じがします。そして、この二極化の構造という事がやはりあるのかな、という思いがあります。そういう中で、大メディア、既存のメディアというものが流す情報が、本当に質が低下している、という構造になってしまっていると思います」 岩上「『なってきた』のではなく『初めからそうだった』という気もしますが」 谷岡「私がTPPに反対をするのは、これが『人類の叡智の伝統に完全に反している』と思う事があるからです。その一つは『人類の知識は全員の物だ』、『全ての世代の物だ』という単純な発想が、ソクラテスやプラトン、そして孔子の時代からありました。 そして、そういう形で大学が創られ、そこに図書館という形で知識を保管し『次の世代に伝達する』という形で、教師や学生が生まれてきました。そして、そこに留学生なども受け入れて、世界中に広がっていき『パテント』だとか『知的財産』だとか言わなくても、こういう事が今まで行われてきました。 その結果、山中さんのIPS細胞なども生まれています。しかし、これは130年以上前に、津田梅子さんが、その元になる研究を実はアメリカの大学でしています」(※) (※)1889年、東部の女子大、ブリンマー大学に入学した梅子は、生物学を学び、楽しい学生生活を過ごしました。また、指導教官のモーガン教授が後にノーベル生理学・医学賞を受けた論文の前書きに、「この論文が書けたのは津田梅子のおかげである」と書いたほど、必要とされました。しかし、1892年には教授の引き留めを振り切って帰国します。それは、明治政府に対する恩の意識と同時に、日本で自分はすべきことがあるという意識からだったのです。(YOMIURI ONLINE【1】津田梅子とアメリカ―「女子英学塾」創設の背景より) 岩上「そうなんですか?」 谷岡「その長いケーブルの元に突破口が生まれています。その最後の一滴を、山中さんの発見で加え、IPS細胞を使って何かをなした企業が『この大きな池の中の最後の一滴を加えたから、数十年間自分の物だ』というのはおかしい事ですよね」 岩上「おかしいですね」 谷岡「明らかにおかしいんです。例えば、大きなアメリカの会社が『白雪姫を作った』と言っていますが、そのキャラクターが出てくるのはドイツの民話があったからです。それならば『アンデルセンの家族に「人魚姫」のパテントを払っているんですか?』という事になります。それなのに、元になる物に、最終的にある加工したら、それが『全て自分達の物だ』と言ってしまう。 『過去の叡智』というものは、全て前の世代までの様々な努力の結果を、自分達が引き継いでいるから次の世代にも無償で与える事ができるものです。あるいは、その特許だとか、知的財産権を主張したとしても『それを抑制的にする』という事が、世界中の普遍的な伝統であったはずなんです。これを、今、覆してきているのが、いわゆる遺伝子組み換えをしたりするような会社です」 岩上「モンサントのような会社のことですね。『知的財産権の保護強化』というのは、題目だけを聞くと立派に聞こえるのですが、よくよく見ると、情報空間において、かつ、地表を自分達がいかに専有するかという事に全力をあげているように思います。本来は、先住民が住んでいた土地を『我々は文明人だから、我々が発見したんだから』と言って略奪し、そして所有権を打ち立てて、土地の所有権を確立してしまい、土地を登記してしまうという事をやり続けて、地表に略奪する土地がなくなってしまいました。 ですから、情報空間、知的財産の世界、あるいは、伝統や知識と言った、皆が共有してきたものに手を伸ばし始めました。土地を例にしますと『入会地』や『公有地』に当たる物を、私的所有してきた事と同じように、皆が共有してきた『共通の知』という物を、今度は自分達で独占的に専有する事を始めようとしています。これは『帝国主義的な領土分割のような話ではないか』と思うのですが」 谷岡「例えば、ある種の楕円形みたいな形が登録されたとします。『楕円形』などというのは、人類が今までどこの文化でも持ってきたものですよね。ですから『それがどうして、たまたま、この楕円形を登録した人の物になるの?』という事だと思います。 ですから、そういう意味において、人類が皆で共通して作ってきた『知識の入会地』。これを急に『自分の物だ』と、誰かが旗か何か立てた途端に宣言できる、という事をしてしまえば、人類の文明の知的進歩は止まります。 私は、やはり大学人として長い間生きてきた中で、大学はそういう意味では知識を普遍的なものとして、全世代や全人類に開き続けるというそういう構造を持ったものですから、そういう仕事の誇りにしてきました。ですから、その人間にとって、数十年とか、100年とか、知的財産権がどこかの誰かに所属してしまうというような事は、もう全く考えられない気違い沙汰にしか思えないわけです。私が最初に『TPP反対』と言い出した理由はそういう事なんです」 岩上「なるほど。これは本当に重要な事だと思います。TPPという、一つの条約だけではなく、この新自由主義の、今ある形や情報空間、そして知識、それから、サイバー空間まで全部を含めたところに広がる、帝国主義的な野望と言えば、大げさに聞こえるかもしれませんが、本当に19世紀の帝国主義が可愛く見えるぐらいの野心だと思います。その試みに、一番核心をついたご批判さなっているのではないかと思います」 谷岡「そして、そういう事を私達が考え始めるようになったのは、311がきっかけだった部分が凄く大きいと思います。皆、薄々と気がついていたのだと思います。原発の安全神話にも薄々と気がついていたし『使用済み核燃料をどうするんだ』と事にも薄々気がついていた。 そして『どうもこの新自由主義はおかしい。格差社会もおかしい』と、薄々と気がついていた。しかし、その『被災者』という形で、人々が難民化し、その人々が全く基本的人権というものも守られない状況になり、そして、国がそれをそっちのけにして、別の人達の為に官僚達が働いている構造が余りにも露骨に見えてしまった、という事が、それまでは、まだそれを『そうじゃないんだ』と思いたかった人達も、そう思わざるを得ない状況になってしまった。 しかし、そこで『311が起きた』という事で、日本の国民的な覚醒が起きたと思います。ですから、このTPPが、他の国に比べて日本でこれほど大きなテーマになってきているのも、そういう事なのだと思います。 しかし、それを日本の国民がこれだけ大きなテーマにしているという事は、やはり、このTPPの問題も、311でこれだけの犠牲を払い、311の被災者達、この私達の同胞や仲間の事を見て気がついている、という事が凄く大きいと思います。そして、やはり、そこを絶対に風化させないという事を、していかないといけないのだと思います」 岩上「もしそうであれば、冒頭の話に少し戻るのですが。みどりの風が『TPPには賛成である』と言っている、みんなの党と『手を結ぶ』という事に非常に違和感を感じるのですが」 谷岡「『手を結ぶ』という事は、皆さんそういうものだと思っていると思います。しかし、政治は議論の場ですから『きちんと土俵に乗って議論をするための構造を作るための提携や、連携もあります』という事を、私達は言いたいだけなんです」 岩上「なるほど。先程の話しに戻ってしまいますが『議論のバトルができる場を作るんだ』という話ですね」 谷岡「ですから、例えば、三党合意のような形ではない『フェアな議論のバトルの場というものを作る事も、私は連携として必要なのではないか」と思っています」 岩上「でも、行田さんを取られてしまったのですから、みんなの党から『川田さんをちょうだいよ』という事はできなかったんですか? (笑)」 谷岡「(笑)実は、渡辺さんに言いました」 岩上「言ったんですか?『どっちかというとうちに近いんじゃない』のと」 谷岡「渡辺さんが『それは、川田さんの問題だから』と言われたので、私も『そうだ』と思い、そこでその話は終わったのですが」 岩上「『川田さんはどうして、みんなの党にいるの?』と言っている人が凄く多いのですが」 谷岡「行田さんの事もそう思われている方が多いと思います。行田さんは、新自由主義には反対をしていますから」 岩上「不思議ですね。しかし、色々な事情があるのだとは思いますが」 谷岡「ですから『誤解は、色々な過程の中ではされても仕方がない』と、私達も思っています。しかし、私達が政策協定を今申し出ているのは、みんなの党だけではありません。たまたま、みんなの党が一番最初だっただけです。 又、反対に、そういう政策での意見が異なるところと、いくつかある政策の中から『ここは一緒にできる』と、協定の最大公約数になる物を結んでいく事ができれば、他の野党も入ってこられる可能性が高くなると思っています。そうする事によって、このまま行けば、自公が何やりだすかわからないような状況を止める事ができるだろうと思っています。今の最大の問題はそこです。しかし、TPPや他の問題が小さい問題だ、などと言っているつもりはありません。 ここで考えなければいけない事は、やはり野党がバラバラになるような構造というものはもっと望ましくないという事です。そして、やはりフェアにきちんと建設的に議論をし、議論の中から知恵を生み出すという事なのだと思います。その構造を作らない限りは、どこまでいっても、ただの選挙の延長上のバトルグラウンドにしか議場はなりません。私は、選挙は『合戦だ』と思っています。しかし、議場は建設的に議論をし、知恵を創りだす場でなければならないとも思っています。 その知恵を一緒に創る事ができる相手は、同じ足場に立ってなくても良いし、同じ考え方をする人達でなくて良い。むしろ、そうでない人達と、きちんと話し合う事が新たな知を生み出す可能性になる、というふうに私自身は思っています」 岩上「『みどりの風は生活の党と近い関係ではなかったのか』と思ってらっしゃる方が多いと思います。この協議の場は生活の党との間にも生まれるのでしょうか?」 谷岡「これから作って行けると思います。しかし、生活の党ですと、ほとんどバトルにはならないのではないかと思っています」 岩上「それ程、差がないという事でしょうか?」 谷岡「生活の党が主張している事は、それ程、みどりの風と大きな差があるようには私には見えません。もちろん、物事に対してのアプローチの仕方やスタイルは違うと思います」 岩上「話は変わりますが『復興予算奪還プロジェクト』(※)についてお聞きしたと思います。この奪還プロジェクトが立ち上がりましたが、どの程度成果が上がっているのでしょうか。そして、何をどういうふうに、これからされようとしてらっしゃるのでしょうか。この事についてお話頂ければ嬉しいのですが」 (※)2012/10/24 復興予算奪還プロジェクトチーム 発足記者会見 2012年10月24日(水)12時より、東京都千代田区の衆議院第一議員会館で、「復興予算奪還プロジェクトチーム 発足記者会見」が行われた。東日本大震災の復興予算が、被災地以外に流用されている問題に批判が集まる中、みどりの風が中心となり、党派を超えた議員による、復興予算奪還プロジェクトチームが発足して、会見を行った。 谷岡「『復興予算奪還プロジェクト』は、選挙前に、選挙が迫ってきている状況の中で、私達は復興地の大臣のところまで報告書を持って行きました。『もっと被災者個人や被災者の生活の再建を助けなければいけない』と。いわゆる、間接的にインフラを作るだとか、例えば、そういう東京の会社が持っていってしまうような構造ではなく、要するに役所の復興であり、業界の再建だったりするわけです。それで私達は、『被災者の生活の復興や人生の再建をしなければならない』、『そちら側に復興予算を回さなければいけない』という事で、具体的に書き込んだ報告書を現地の復興大臣に持って行きました。 そして、それが一定の歯止めにはなってきていると思います。しかし、これは継続して見ていかなければいけませんし、今、野党の中でも、みんなの党も含めて『本予算の修正の協議には早くから入ろう』という話が始まっているところです。 それから、私達は今回の本予算で、前の野党が出してきたような、全てを削るような事ではなく、もっと具体的に『これを削って、こっちへ』というような形の修正をしていかなければいけないと思っています。 そして、みどりの風としては、特に復興予算、又は『子ども・被災者生活支援法』に掛かるような予算に『こういう削ったところから入れてくれ』というような提案をきちんとしていきたいと思っています。そして、そういうものが、まとめて野党の修正案になるべきだと思っています」 岩上「このプロジェクトは超党派で選挙前に動き出しました。そして、この選挙が終わっています。今このプロジェクトは稼働しているのでしょうか? 又、超党派の議員達の中には落選された方もいます。ですから、そのプロジェクトに参加されている議員が増えているのか減っているのか、そして、動きはどうなのかという事をお聞きしたいのですが」 谷岡「これは、一番大きなポイントなのですが。選挙後、このプロジェクトの主力となり、参加をしていた議員はかなり減りましたが、今のこの状態でも続けられると思っています。しかし、実際には、予算委員会云々や私達の党の運営などでかなり忙しい事は確かです。 ただ、これは、今おっしゃられたように、被災者の皆さんやその周りにいる人達を含めて、ある種の協力体制を作る事によって続けてく事ができる可能性があると思います。今、岩上さんとお話をしていて、何とかそういう事をもう一度具体的に立ちあげていく、という可能性を考えていきたいと思いました。 それから、子供被災者支援の一番大きな原動力は被災者自身です。やはり、被災者の皆さんが頑張ってくださった事が大きかったと思います。彼等が、この2年間でいかにスピーチが上手になったかという、この事を考えると本当に胸が痛くなります。これは本当に本気で訴えられてきたからだと思います。 そういう意味において、やはり被災者達の原動力というものは本当に大きいと思います。これを、政治の側がどういうふうに繋いでいくのかという事、そして、そこで力を貸して頂けるような構造や枠組みを作る事ができるのかという事を、真剣に模索していきたいと思います」 岩上「311から2年になろうとしています。本当に、ここが節目ではないかと思います。本当は、収束をしていないのに『収束!』という、キャンペーンが浸透し、そして、この後、福島原発事故の問題がフェードアウトしていくような状態にあると思います。少なくとも、国民の意識からフェードアウトしていくような方向に行ってしまいかねない状況にあると思います。そして、そういう方向に持っていきたい人達や勢力の力を物凄く強く感じます」 谷岡「安倍さんには言いたい事が山程あります。しかし、私が本会議させて頂いた『事故は収束していますか?』という質問事に対して『個人的には収束していない』と答えてくれました。あれは大きかったと思います。それから、あそこで官僚の答弁を読み上げるだけではなく『個人的には事故は収束していないと思う』と言ってくれた事が、ある意味でこれからの私達の足がかり、あるいは、手がかりになっていく可能性があると思います」 岩上「証言が取れたという事ですね」 谷岡「この事は凄く大きいと思います。そこだけは評価したいですね」 岩上「なるほど。一つ一つ積み上げながら、是非、被災者の為の政治を取り戻して頂けたらというふうに思います」 谷岡「ありがとうございます」 岩上「今日はどうもありがとうございました。ご視聴して下さった、皆さん、長時間ありがとうございました。谷岡先生、どうもありがとうございました」 〖文字起こし・@sekilalazowie, 校正・Jade〗 ☮http://iwj.co.jp/wj/open/archives/64386 |