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世界はこう見た! 福島第一原発の汚染水流出問題(大貫 康雄)
http://no-border.asia/archives/14165
2013年09月04日 大貫 康雄 :DAILY NOBORDER
ドイツで(1日)二大政党の次期首相候補同士のテレビ討論(90分間)が行われ、メルケル首相は「脱原発の決断は正しかった」と強調した。
福島第一原発で、高濃度汚染水の大量流出という事故発生以来、最も重大な問題が進行するなど、今なお極めて深刻な状況が続いているのを意識しての発言だ。
その前にも『DW(ドイツ国営国再放送ドイツ)』『ZDF(ドイツ公共放送)』『RTF(フランス国営国際ラジオ』『BBC(英国公共放送)』、CNNやスペインTVEなど海外放送メディアはこのところほとんど連日、活字メディアも頻繁に報道している。
毎日新聞は4日付で「海外メディア辛辣報道」の記事を載せているが、何といっても日本の代表的な基幹産業が引き起こした事故である。大勢の人たちが被曝し、症状が深刻になる例も増え、今なお避難を余儀なくされているのに、大半のマスコミは、押し並べて深刻さが感じられず、核心を突く報道や提言などはなかなか見られない。
海外メディアは、2年前の事故直後から放射能の拡散、メルトダウン、メルトスルーをいち早く伝えて以来、日本政府・東電の対応姿勢を批判してきた。汚染水流出問題でも2年前から厳しい視線を送っている。
高濃度の地下汚染水大量流出は、今年の3月から指摘している。今回の高濃度汚染水の大量流出を東電は、参議院議員選挙投票が終わるのを待ってようやく認めた経緯がある(スペイン通信社は参議院議員選挙後に発表したこと自体“意図的“という論調だ)。
毎日新聞と重複する部分もあるが、海外メディアの報道を要約すると以下のような点が指摘されている。(順不同)
(1)事故を起こした福島第一原発では毎日のように新しい問題が起きている。
(2)汚染水流出は日ごと深刻になる一方。
(3)東京電力は廃炉能力がないことを認め、政府が対策の前面に経って対応を決定。廃炉作業を原発稼働と分離する案(経費は政府が税金で負担。利益は東電関係者へ)が浮上(茂木経済産業相の現地視察と政府主導の汚染水対策発表に関し)
(4)流出がまったく監視されず。
(5)汚染水貯蔵タンクは粗製乱造。タンクの周囲に流出防止壁を設けていたが堰が開けられたままだった。東電は“雨水が滞るから”と説明(雨水など滞ったら線量を計測し、安全と判れば空けて外に逃せば済むことなのに)。カッコ内は筆者
(6)貯蔵されている汚染水の放射線量計では高濃度の計測不能なのに、そのまま使い続ける。
指摘を受けて初めて、急遽、高濃度計測が可能な高品質の線量計に変える(東電内に人材がいないのか、政府との協議の上なのか不明だが、一般の人々を馬鹿にしている)(。
(7)“事故直後に決断をするべきだった”と専門家は指摘。これまで東電はごまかしを続け、政府は知らぬふり。情報公開を怠り、国民の信用を失い、怒りが増したため政府が乗り出さざるをえなくなった(8月28日付け・DW)
(8)安倍総理は事故の深刻さをよそに原発セールスマン外交。政治家、責任ある指導者としての姿勢に疑問。
(9)事態は日本政府・東電に信じさせられたより、遥かに深刻だ。東電の能力を超える事態。海外の専門家(企業)に支援を仰ぐべき。日本は支援を求めるのが下手という問題を抱えている(8月24日付・BBC)。
毎日新聞の言葉を借りるならば、辛辣というか新鮮なのは……。
(10)フランスの民間RTL(ラジオ・テレビ・ルクセンブルクの略)の「急に政府が対策の前面に立ったのはオリンピック招致への影響を意識してのこと」という視座だろう。
(11)CNN、WSJなど米メディアは日本政府・東電に汚染水問題の解決能力はない、と見ている。
忘れてならないのは、政府が「巨額の予算を投入して東電に代わり汚染水対策の前面に立つ」というが、予算は国民の税金である。
政府が前面に立つのであれば、予算投入の前に(今は緊急事態なので同時並行でもやむを得ないのだろうが)まず、自分の事故を自分で解決できない東京電力を破たんさせ、売却利益を最優先で被害者の賠償に使うべきだ。
企業破綻の責任を負うべきは、第一に近年の経営陣、第二に大出資者(銀行など)、第三に株主、そして従業員という構図が欧米では一般的だ(例外は“リーマンショック”後の金融機関を税金で救済し強い批判を浴びている)。
従業員は事業ごとに分かれた新会社で同じ仕事を続けられ生活は維持でき、電力事業も継続できる(継続できない? とか、電力不足?になるとか、電気料金が跳ね上がる? というのは脅しに過ぎない)。
そして、原発事故当初いろいろ指摘された原点に戻り、東電をはじめ大電力事業者の地域独占体制を撤廃し、発電と送電事業を分離。欧米同様、消費者が電力会社を自由に選べるようにするべきだろう。その方が電力料金は確実に下がる。
かつてNTT独占の電話事業体制を撤廃し、自由競争にした結果、技術革新、IT化の波に乗って今日の活発な競争が繰り広げられる産業になった。電話代もはるかに安くなり、はるかに便利なサービスがいくつも現れた。
欧米メディアの一部に、オリンピック招致を意識してではないか、と推察する報道も一面、なるほどと思わせる。
しかし筆者としては、政府がこの期に及んで東電に代わって汚染水対策の前面に出るというのは既得権益層の利益を擁護し、東電及び電力地域独占の現体制には一切手をつけず温存させる狙いがあると推察している。
そればかりか、事故処理費が増える一方なので、東電や経済産業省内部ではさらに電力料金を値上げし、他の選択の余地を提供しないまま、一般消費者にさらに負担させようとの案さえ出ていると聞く。
日本のマスコミは消費税率引き上げに関する形だけの“意見交換会”の報道よりも、世界史的な重大事故を引き起こした原発事業のあり方を構造的に分析、見直すべく、問題点を遥かに厚く報じるべきではないか。
このままでは再び海外メディアが指摘し、それを事実が追随するとの経過を取るのではないか。
【DNBオリジナル】
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