15. 2013年9月04日 11:04:01
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JBpress>海外>欧州 [欧州] 福島に懲りてなますを吹いてしまったドイツ 脱原発をわめいていた住人が今度は風力反対! 2013年09月04日(Wed) 川口マーン 惠美 8月の初め、北海に、ドイツで3番目のオフショア(洋上)ウインドパークが完成した。商業的ウインドパークとしては初めてで(既存の2基は試験用)、リフガートウインドパークと命名されている。 ウインドパークというのは、複数の風車が立ち並ぶ大型発電施設だ。風力発電の欠点は、凪ぎのときや、風の吹かない時期に発電できなくなることだが、ドイツ北方にある北海とバルト海は、年がら年中、風が強く吹くので、その心配がない。 ドイツ初の洋上ウィンドファームが稼働 ドイツ・ツィングスト村でのウインドファーム稼働式に出席するメルケル首相(2011年5月2日撮影)〔AFPBB News〕 しかも、風は夜中も吹くから、太陽光発電と違って極めて効率が良い。北海のテストウインドパーク 「alpha ventus」では、2012年、発電効率96.5%を記録した。他のどんな再生可能エネルギーも、これほど安定した電力供給はできないそうだ。 そのため、福島第一原子力発電所の事故のあとに脱原発を決めたドイツでは、オフショアウインドパークに大いなる期待がかかった。これこそが、将来訪れるはずの原発フリーの世界で、特別明るく輝く希望の星となるはずであった。 期待を集める巨大風力発電プロジェクトの致命的欠陥 さて、今回完成したリフガートウインドパークは、30基の風車からなり、108メガワットの性能を持つ。風車の羽1枚の長さは60メートル。つまり、風車が回った軌跡の円の直径は120メートルにもなる。水面上に出ている支柱の高さは90メートルなので、水面から羽の一番てっぺんまでの距離は、約150メートルだ。 支柱は、海底を掘削して造った基礎に固定されている。基礎は長さ70メートル、深さ40メートルという巨大なものだ。設計から工費まで、合計で4億5000万ユーロ(約585億円)が投資された。この高価な30基の巨大風車が順調に稼働すれば、12万戸の家庭の電気を供給できる。まさに、希望の星にふさわしい。 ところが残念なことに、リフガートには致命的な欠陥がある。ウインドパークと陸地を結ぶケーブルの敷設が完成していないのだ。発電しても、電気はどこにも運べない。だから、発電できない。 ケーブルの完成は、早くても来年の春になるらしい。つまり、目下のところ、リフガートは何の役にも立たない発電施設である。 送電線の敷設は、ドイツの脱原発計画のネックだ。遅れているのはオフショア発電向けの海底ケーブルだけではない。地上の高圧送電線の敷設も滞っている。 今、再生可能エネルギーでの発電量は、全体の発電量の25%にまで伸びている。それを、ドイツ政府は、2030年に50%、2050年までに80%にまで増やそうとしている。 再生可能エネルギーと言えば、風力、水力、バイオマス、地熱、そして太陽光などだが、その中で、現在、発電量が一番多いのが風力だ。すでに全発電量の8%近くを占めるに至っている。 その風力発電は、風が強くて、山が少なく、土地に余裕のある北ドイツに集中しているが、しかし、北ドイツにはそれほどの電力需要がない。そこで本来なら、北で作られた電気を、工業地帯である南ドイツへ送電しなければならないのだが、その高圧送電線の敷設が進まない。 リストラが始まったオフショア発電施設メーカー 今まで、電力の大消費地域である南ドイツの電気は、ほとんど原子力と石炭火力に頼っていた。その大量の原子力エネルギーの電力分を、近い将来、再生可能エネルギーで代替し、しかも、安定した供給を確保しようとすれば、頼みの綱は、北海とバルト海のオフショア発電しかない。 陸の風車は、そろそろ飽和状態になりつつあるから、それほどの増加は見込めないし、太陽光は効率が悪いうえに、助成金がかかり過ぎるという、別の大問題がある。 そこで、当初の政府の計画では、オフショアの発電量を2020年に1万メガワット、2030年には2万5000メガワットまで増やす予定だった。ところが、今年の6月末の数字は、たったの385メガワット。 どんなに頑張っても、20年までに7000メガワットがいいところだという。そのうえ、それが達成できても、送電線が追い付かないようなら、物の役に立たない。 リフガートの完成から2週間、8月26日には、やはり北海のもう1つの商業ウインドパーク、Bard1が、3年の工期ののち、めでたく完成した。こちらは、ありがたいことに陸までのケーブルがつながっている。 ただ、後続のオフショアプロジェクトが続かない。送電線の整備が不確かで、利益の安定性に問題があるため、投資家が手を引いてしまったのだ。 そんなわけで、Bard1を施工した会社では、現在リストラが始まり、すでに去年から、オフショア発電施設のメーカーはどんどん閉鎖に追いやられている。景気の悪い北ドイツに、雇用と繁栄をもたらすはずだったオフショアプロジェクトは、大きな困難に陥っている。 住民や環境団体の反対で2023年までの脱原発に黄信号? 5月30日に発表されたところによれば、脱原発の完成すべき2023年までに、ドイツを南北に縦断する4本の送電線、計3800キロの建設が必要で、さらに、4000キロの既存の送電線も拡大強化されなければいけないという。 ところが、現在完成しているのは、その10分の1にも満たない。 計画されているこの4本の主要送電線は大規模なもので、電圧は38万ボルト。数十メートルの長さの腕を持った高さ80メートルの鉄塔が、それも1列ではなく、ところによっては2列、3列と並行して走る予定だ。 その横幅は500メートルから1000メートルになるというから、つまり、将来のドイツでは、そういう縦列になった鉄柱群が、幅広の帯のようになって、山越え、谷越え、南北を縦断すると想像すればよい。コストは、2000億ユーロ(約26兆円)。 ただ、前述のように、この計画は、最初から頓挫している。主な理由は、住民の反対だ。中部ドイツには、広大な森林地帯があり、その自然を破壊すると、景観が悪くなるばかりでなく、観光業に差し支えるとか、居住地に近いところを通る場合、住人の健康に害が及ぶとか、要するに、環境保護団体や住民による反対運動が盛り上がっている。 ドイツ中北部のハルツ山地にあるボーデ渓谷(ウィキペディアより) そのうえ、ドイツは州政府の力が強いので、こういう複数の州にまたがるプロジェクトとなると、とりわけまとまりにくい。
各州政府としては、ドイツ全体のことを考えなければいけない一方、次の選挙を考えると、州民の意向に逆らうわけにもいかないというわけで、大いなるジレンマに陥っている。 極端なところでは、1つの州では建設計画が進んでも、隣の州では許可が下りず、州の境界線で計画が頓挫してしまっているという。 環境保護団体グリーンピースなどは、送電線を場所によっては地下に入れることを主張しているが、その場合、コストは4倍から10倍になるという。しかも、地下ケーブルでは超高圧での送電ができないので、いろいろな意味で手間もコストも増えてしまう。 脱原発が成功するかどうかの大きなカギは、送電線が敷設できるかどうかだ。送電線のネットワークが整備されるスピードが、すなわち、再生可能エネルギーの発電が実用化されるスピードを決める。 つまり、このまま送電線の敷設が遅れていけば、2023年の脱原発達成という目標自体が危うくなってくる。それなのに、多くの地域では、具体的な敷設場所さえ、まだ100%決定していないというのが現状だ。 反原発運動が送電線建設反対デモに様変わり 建設されなければいけないのは、それだけではない。38万ボルトで長距離を輸送された電気は、今度は、段階的に22万ボルト、11万ボルトと降圧されていくため、869カ所の大型変圧所が必要だという。 そして最終的に、それをさらに小規模の変圧所で家庭用の230ボルトまで下げるので、それぞれの地方自治体がこれからやらなければいけないことは多い。市民の反対運動は尽きないだろう。 これに対し、ドイツ政府は「送電線敷設推進法」というのを作って、対応を図ろうとしている。建設許可も、これまでのように州が出すのではなく、国が一括で出すことになる。 また、送電線の走る地方自治体への、1キロ当たり4万ユーロの賠償支払いも決まった。さらに、送電線の走る場所から400メートル以内のところに住宅がある場合、州政府は、その送電線を地下に埋蔵することを要求できるということも決まった。 福島の原発事故のあと、熱に浮かされたように脱原発を決めてしまったドイツ人。 当時のアンケートでは、「送電線の鉄柱が近くを走っても仕方がない」という意見が80%を超えていた。しかし、青写真が固まってくると、当時、反原発と言ってデモをしていた人たちが、送電線の建設反対を掲げてデモをしている。 政府が賠償を払うことに関して、「我々は自分たちを売らない」などと言っているのを聞くと、なんだか彼らの考えていることがよく分からない。 この調子では、来年の春、北海のリフガートの海底ケーブルが陸まで繋がっても、その先がなかなか繋がらない可能性は大である。 |