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(原発利権を追う 立地のまちへ:上)裏仕事、自責の告白 疑惑、なお向き合わぬ東電
朝日新聞デジタル 2013年8月28日
http://digital.asahi.com/articles/TKY201308270700.html
http://digital.asahi.com/articles/TKY201307270610.html
この連載は、原発で長年働き、裏仕事を担ってきた東京電力元社員の30時間を超える証言に基づく。
2011年3月11日、今井澄雄氏(64)は宇都宮市内の病院にいた。6歳年下の妻が1週間前に脳梗塞(こうそく)で倒れ、入院していた。激しい揺れを感じたのは、妻の衣類をコインランドリーで洗っている時だ。かつて勤務した福島第一原発が世界を揺るがす事故を起こすとは思いもしなかった。
3号機で水素爆発が起きた14日、妻は帰らぬ人となった。お通夜に福島県白河市や南相馬市の親族は参列できなかった。今井氏は福島第一原発に赴任したころ、白河市の伯父(故人)から投げられた言葉を思い出していた。
「原発が爆発したら、こっちもおかしくなるだろ」
今井氏は「そんなこと絶対ないから、心配はしないで」と答えたのだ。
妻の実家がある新潟県柏崎市の親族は、お通夜に間に合った。妻は柏崎刈羽原発の建設事務所で知り合った東電元社員だった。葬儀所内のテレビで流れる原発事故のニュースを、親族たちは不安げに眺めていた。
思えば、原発と歩んだ人生だった。忘れられないのは06年夏の記憶だ。東京地検特捜部に呼び出されたのである。
特捜部は、東電が福島第二原発で発注した土砂処理事業の不透明な資金の流れに注目し、東電関係者だけで荒木浩・元会長ら10人以上を参考人として事情聴取した。今井氏は事業発注時の現場責任者だった。検事の追及は厳しかったが、決して口を割らなかった。
あの判断は正しかったのか――。妻が他界して1年余が過ぎた昨夏、今井氏は「もう、原発のことでウソや隠し事をしたくない」と決意した。かつて原発利権の取材で接触してきた朝日新聞記者と仙台市内で会い、「自分の経験を明らかにしたい」と切り出した。
東京電力、ゼネコン、そして警備会社会長の白川司郎氏らの関係は、国税当局の税務調査や検察当局の捜査を取材する過程で、何度か垣間見えたことがある。
福島第二原発の港内の土砂を運び出す事業の下請けに入った中堅ゼネコン「水谷建設」(三重県)が、孫請けの「日安建設」(東京都)に支払った外注費のうち、2億4千万円はリベートだとして、2003年に名古屋国税局から課税処分を受けた。日安建設は、白川氏の警備会社の100%子会社として93年に設立。現在は社名を変え、白川氏が代表取締役会長を務める。
なぜリベートを支払う必要があったのか。東電とどんな関係にあるのか。取材を進め、本州最北の地で新たな情報をつかんだ。東電が青森県むつ市で建設を進める使用済み核燃料中間貯蔵施設の地元対策に、日安建設社長らが加わっていたというのだ。
記者は05年春、誘致の旗振り役だった当時の杉山粛(まさし)・むつ市長(07年死去)に接触。市長は日安建設社長らの仲介で東電役員と会い、誘致交渉が始まった経緯を認めたものの、資金の流れは確認できなかった。
■ ■
むつ市の施設を巡る東電と白川氏らの関係が再浮上したのは08年末、東京地検特捜部が準大手ゼネコン「西松建設」(東京都)の裏金事件の捜査を進めている最中のことだ。
「中間貯蔵施設の用地買収で億単位の裏金が動いたようだ」。むつ市で誘致の地元対策にあたってきた会社役員が、記者に電話で認めた。「これが表沙汰になったら、施設の建設がストップしてしまうかもしれない。そうしたら今までの苦労が水の泡だ」
役員は電力会社に代わって行う地元対策を「ビジネス」と割り切る一方、「日本の将来のために原子力は必要だ。そのための裏仕事だ」とも語っていた。東電関係者や地権者らの口は一様に堅く、この時も裏付けは取れなかった。
役員と再会したのは東日本大震災から1年8カ月が過ぎた昨年11月。原発事故について語り合う中、その口調が珍しくたかぶった。
「原発を立地する時、東電にはコンプライアンスのコの字もない」
地元対策の裏仕事は必要だと信じてきたが、原発事故後、東電に加担してきたとの自責の念が生じたという。数カ月後、用地買収を巡る裏金疑惑に話を向けると、「東電の意向で西松建設が買収資金を出し、白川さんが解決したものだ」と打ち明けた。
■ ■
原発事故で意識が変わった人は東電側にもいた。
「原子力を将来も選択するのなら、過去に隠したことも国民にさらさないと再生できない。福島の人々が苦しんでいる中で、これ以上ウソはつきたくない」
原子力部門で長年働いた東電元幹部は昨年から、ゼネコンや白川氏との関係を少しずつ語り始めた。
取材班は西松関係者からも新たな証言を得た。内部資料も入手した。それらには裏金疑惑の取材を裏付ける内容が含まれていた。
取材開始から10年。3・11は原発立地の裏仕事をした人々の意識に変化をもたらしたのだ。
東電は多くの証拠を示しても「当時の役員による個別のやりとりは承知していない」と繰り返した。裏金疑惑を報じた後も、その対応に変わりはなかった。
東電社外取締役の一人は取材に「社内調査で事実を確認できなかったと報告を受けた。事実なら良くないことだ」としたうえ、「仮に清水元社長を調査して認めれば、公表しなければならない。原発再稼働、汚染水、賠償などの課題が山積しており、まず先にやることがある」と語った。
(この連載は、市田隆、村山治、久木良太、田内康介、野上英文が担当します)
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<裏金疑惑報道> むつ市の使用済み核燃料中間貯蔵施設の用地買収に困った東電の清水元社長らが白川氏に相談し、地権者に払う裏金2億円を西松建設に肩代わりさせた▽西松側が東電に事前確認をしたうえで、前むつ市長側に1億円、原発がある福島県楢葉町の前町長の親族企業に2億3千万円を融資し、大半が焦げ付いた――との疑惑を朝日新聞が報じた。白川氏は関与を一切否定し、西松は「資料がなく回答できない」とした。
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