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(書評)副島隆彦(著)『放射能のタブー』(KKベストセラーズ・2011年)
http://www.amazon.co.jp/%E6%94%BE%E5%B0%84%E8%83%BD%E3%81%AE%E3%82%BF%E3%83%96%E3%83%BC-%E5%89%AF%E5%B3%B6%E9%9A%86%E5%BD%A6-%EF%BC%B3%EF%BC%AE%EF%BC%B3%EF%BC%A9%E5%89%AF%E5%B3%B6%E5%9B%BD%E5%AE%B6%E6%88%A6%E7%95%A5%E7%A0%94%E7%A9%B6%E6%89%80/dp/4584133484/ref=sr_1_33?s=books&ie=UTF8&qid=1377167482&sr=1-33
副島隆彦氏は、愛国者である。その事は、この本にも良く現れて居る。先ず、2011年3月11日の東日本大震災とそれによって引き起こされた福島第一原発の事故から間も無い同年(2011年)3月19日、3月28日、そして4月12日に、副島氏は、危険を承知で、お弟子さんと共に福島第一原発に接近し、空間線量を自身で測定して発表した。この勇気ある行動は氏が日本を愛し、真実を求め続ける姿勢の発露であり、最大限の賞賛に値する行動であった。その事について、私は、この場で、副島氏と副島氏のお弟子さんに心からの敬意を表したい。
だが、そうした勇気有る行動を起点として書かれたこの本の内容の多くに私は異論が有る。この本の内容の全てについてではないが、この本で副島氏と氏のお弟子さんたちが書いた見解に対して、私は、多々批判したい点が有る。副島氏とそのお弟子さんたちに敬意を抱いて居る事を申し上げた上で、以下、@アルチュニアン博士との対談について、A福島第一原発事故に対する見方について、B放射線及び放射性物質の人体への影響について、C原子力発電に対する考え方について、私の意見を述べる。
T)アルチュニアン博士との対談について
先ず、本書の冒頭で副島氏は、ロシアの物理学者であるアルチュニアン氏と、チェルノブイリ事故について、そして福島第一原発の事故について対談して居る。そして、その中で、放射線の人体への影響についての一般的議論を含めた対話をして居る。この対談におけるアルチュニアン氏の発言の中には非常に興味深い発言も有るが、氏は、旧ソ連の国々(ロシア、ベラルーシ、ウクライナ)でチェルノブイリ事故の医学的影響について、見解が分かれて居る事を十分語って居ない。要約すれば、アルチュニアン氏は、IAEAとWHOの見解に忠実な論者であり、それはもちろん一つの見解であるが、旧ソ連の医学関係者の中には、甲状腺癌の増加以外に、チェルノブイリ事故による医学的異常は確認できないとしたIAEA及びWHOの結論に異論を唱える論者が多数居る事をアルチュニアン氏は十分語って居ない。そして、ここが重要だが、IAEAとWHOの見解を経時的に比較すると、彼等は、以下に引用する様に、自分たちが言った事を自ら否定すると言ふ矛盾を演じて居るのである。
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2005年に開かれた「国連・チェルノブイリ・フォーラム」(Chernobyl Forum of the United Nations, WHOとIAEAの共催)で発表されたチェルノブイリ原発事故がもたらした健康影響に関する内容には深刻な矛盾がある。
たとえば、WHOとIAEAの公式発表は、もっとも被曝線量の高い集団から、将来がんと白血病によって最大4000人の超過死亡が発生するだろうとしている。しかし、この報告の基礎となったWHO報告書には、死亡者数は8930人と記載されている。この数字はどの新聞にも掲載されなかった。しかも、実際にWHO報告書が引用した論文を読んでみると、がんと白血病による超過死亡数は1万人から2万5000人の間であると記載されている。
そうであるなら、WHOとIAEAの報告は自分たちの出したデータをごまかして報告したことになる。チェルノブイリ原発事故の健康影響に関する彼らの発表には真実味がまったくない。
このチェルノブイリ・フォーラムの報告は、旧ソ連以外のヨーロッパ地域の集団線量[放射線影響の大きさを表す代表的な計測値。人・シーベルトで表示]がチェルノブイリ周辺地域の値よりも高いという、「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」でさえ公表している推計値を考慮していない。 (中略)
2005年、S.Pflugel(放射線防護協会会長)は、WHOとIAEAの公式発表、WHOの報告書、そこに引用されている文献(Cardisら)の間に食い違いがあると指摘している。しかし、現在に至ってもチェルノブイリ・フォーラム、IAEA、WHOは、これまで彼らの発表した数字の2倍から5倍も、がんと白血病が将来発症するという、元はと言えば彼ら自身の分析から導き出した推計値を公表する必要性を認めていない。
(核戦争防止国際医師会議ドイツ支部 (著), 松崎 道幸 (翻訳) 「チェルノブイリ原発事故がもたらしたこれだけの人体被害: 科学的データは何を示している」(合同出版・2012年)15〜16ページ )
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アルチュニアン氏が、IAEAとWHO主張のこうした自己矛盾について説明して居ない事は残念である。又、アルチュニアン氏は一言も触れて居ないが、チェルノブイリ周辺の医療機関で、カルテが大量に紛失して居る事を副島氏は御存知だろうか。以下に引用する今西哲二氏の報告を読んで頂きたい。
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ロシア科学アカデミー・社会学研究所のB・ルバンディンは、チェルノブイリ原発に隣接するベラルーシ・ゴメリ州のホイキニ地区で、事故直後の状況について、医師からの聞き取りと当時のカルテの調査を行ない、1992年に発表している(「隠れた犠牲者たち」技術と人間、1993年4月号)。ホイキニ地区では、地区病院に加えて軍野戦病院が二つ設置されて住民の検診と治療にあたった。住民を収容する基準は、甲状腺からの放射線量が1ミリレントゲン/時以上を示すか、白血球数が3000以下に減少した場合であった。急性放射線障害に対する治療マニュアルが医師全員に配布され、第1度の急性障害として治療にあたるよう指示があったが、放射線障害という診断を下すことは禁じられた。ルバンディンらが地区病院のカルテを調べ直した結果、第1度の急性放射線障害例75件と第2度の症例7件が確認された。原発周辺全体の住民では数1000件の急性障害があったであろうと彼は推定している。追記しておくと、1990年秋、ホイキニ地区病院の記録保管室から事故当時のカルテ3000〜4000件が盗まれたとのことである。
(今西哲二他『チェルノブイリ10年−−大惨事がもたらしたもの』(原子力資料情報室・1996年)39〜40ページより)
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アルチュニアン氏は、こう言ふ事を知らない人なのだろうか?それとも知って居て副島氏に語らなかったのだろうか?カルテが大量に紛失した中での疫学研究など信用に値する物か、そして、その様な状況下での「疫学研究」の結果を自信満々に語るアルチュニアン氏を何処まで信用して良いか、副島氏に考えて欲しいと私は思ふ。
更に、38ページでアルチュニアン氏は自然放射線と人体の関係について述べて居るが、ここ(38ページ)でアルチュニアン氏が語って居る事は非常に大雑把で杜撰な議論である。(日本でもそうだが、物理学者が語る「医学」は大雑把で、荒削りである事が多い。)一例だが、2012年にオックスフォード大学のグループが1980年から2006年までのイギリスでの小児白血病とその他の癌の発生率を調べたところ、自然放射線(background radiation)の線量に相関して居たと言ふ論文が、Leukemiaと言ふ白血病研究の分野で権威の有る医学雑誌に掲載されて居るので、その論文を提示しておく。⇒”A record-based case–control study of natural background radiation and the incidence of childhood leukaemia and other cancers in Great Britain during 1980–2006 ”(Leukemia (2013) 27, 3–9; doi:10.1038/leu.2012.151; published online 6 July 2012 )
これは、2012年の論文だが、これ以前から、自然放射線の人体に対する影響については色々な見解が有り、学界のコンセンサス等は確立されて居ない。それにも関はらず、アルチュニアン氏は、自然放射線は全くもって安全だと言ふ自信満々に自説を述べて居るのである。この様に、アルチュニアン氏の医学知識は、物理学者らしい大雑把な物であり、アルチュニアン氏が、例えばこの問題について、十分な文献的検討をして居るとは考えにくいのである。アルチュニアン氏は、物理学者としては優秀な人なのかも知れないが、この対談では、医学的な事柄について、不正確な知識を自信満々にしゃべっており、副島氏が、そのアルチュニアン氏の言葉を余りにも無批判に聴いて居る事は残念である。
U)福島第一原発事故について
この本の中で、私が一番注目し、今に至るまで考えさせられ続けて居るのは、下條竜夫氏が執筆して居る第二章である。そこで紹介されて居る西村肇東大名誉教授の見解は驚くべき物である。西村肇教授は、水俣病の発症メカニズムを量子化学の視点から考察した高名な化学者である。その西村肇教授は、2011年4月8日に都内で記者会見を開き、その時点で、福島第一原発から放出されて居る放射性物質の量は、1日10テラベクレルと推定されると発表して居る。西村教授は、この見解を更に『現代化学』2011年5月号で発表して居るが、西村教授が主張するこの数値は、同年4月2日に原子力安全・保安院と原子力安全委員会が発表した数値の数百分の一である。下條氏はこの差の大きさに注目し、日本政府は、放出された放射性物質の量を意図的に水増しし、福島第一原発を立ち入り禁止区域にして、ここに放射性廃棄物の最終処分場を作ろうと計画して居るのではないか?と推測する。これは、この本で最も注目すべき内容だが、現時点において、私は判断が出来無い。よって、この問題についての私の見解は留保するが、私が知る或る原子力関係者(専門家)は、以下の四つの理由から、西村教授の発表した数値に懐疑的に成らざるを得ない旨のコメントを私に寄せて居る。@西村氏は化学者であり、原子力の専門家ではない、A西村教授の計算は、『現代化学』の論文を見た限りでは、手計算に近い計算でしかないのではないか?と言ふ印象を受ける事、B政府が発表した数値は、経産省原子力安全・保安院が原子力機構(旧原研)に依頼して評価した値であり、原子力機構は、その時点での最新の測定値を基にした解析(ある距離における線量率などからコンピュータプログラミングされた拡散方程式で厖大な計算を実施し、広域の全体評価計算値を算出して評価)や推定をして居ると思はれる事、及び、C原子力機構は、政治的に、過大評価したり、過小評価したりするいい加減な組織ではない事。私は、その専門家の批判を鵜呑みにはしないが、日本を代表する原子力の専門家であり、非常に公正なその人が、西村氏の発表した数値にそうした疑問を表明して居る事は、そのまま述べておく。事故全体については、私がこの書評を書いて居る2013年8月22日(木)現在、汚染水の海洋への流出がレベル3の事故(事象)に「格上げ」するべきかどうかが議論されて居る事を先ずは指摘する。今この本を読みなおすと、この事故の行方について、副島氏らの見通しは楽観的過ぎたと言ふ印象を持たざるを得ないが、私は間違って居るだろうか?
V)放射線及び放射性物質の人体への影響について
この本で私が最も批判したいのは、六城雅敦(ろくじょうつねあつ)氏が執筆した第4章である。ここで、六条氏は、主にトーマス・ラッキー教授の主張を引用する形で、言はゆる「ホルミシス理論」を紹介して居るが、六条氏は、ラッキー教授らの見解を余りにも無批判に受け入れて居る。以下に、私の「ホルミシス理論」に対する見解の一部を述べる。
1.私は、低線量放射線が、生物にとって、更には人体にとって有害な作用のみならず、有益な作用も持つとする仮説を全否定はしない。紫外線が、皮膚癌を発生するリスクを持つ一方で、ビタミンDの活性化を促す様に、低線量放射線が、同じ線量の下で、有害な作用と同時に有益な作用を持つ可能性は有るかも知れないと考えて居る。だが、この紫外線のビタミンD活性化の様な作用が、ガンマ線やベータ線に有ると言ふ確証は、人体に関する限り得られて居ない。
2.ゾウリムシを宇宙線の遮断された環境で生育させると、宇宙線を浴びて居るゾウリムシよりも増殖力が落ちるとする実験などは、低線量放射線が、単細胞生物の増殖を促して居る可能性を示して居る点で非常に興味深い。この現象などを「ホルミシス効果」と呼ぶのであれば、「ホルミシス効果」は、ゾウリムシの場合には有る事に成るだろう。しかし、これは、ゾウリムシと言ふ単細胞生物の場合であり、多細胞生物の場合、仮に、低線量放射線が細胞の増殖を高めるのだとすると、それは、発癌リスクの増大を意味する現象かも知れない。従って、ゾウリムシのこの実験から、人間にとっても低線量放射線が有益だとする結論は導き出せない。
3.人間の場合、ゾウリムシの様に、大勢の人間を宇宙線から遮断された環境に置いて宇宙線の医学的効果を検討する事は出来無い。よって、低線量放射線の人体への影響の解明には限界が有る。
4.原爆による放射線被曝は、一部の被爆者に長寿命化をもたらして居るとするラッキー教授らの主張が有る。だが、広島大学原爆放射線医科学研究所(原医研)の大谷敬子研究員、大滝慈教授たちは、生存した被爆者の寿命について解析した結果を2011年に報告し、その中で、男性の場合、被爆者健康手帳を早期に取得した被曝者ほど長生きする傾向にあると述べて居る。されています。つまり、「放射線ホルミシス効果」ではなく、被爆者手帳による医療の無料化が被爆者の寿命延長をもたらして居ると言ふ事である。一方、ラッキー教授は、『放射能を怖がるな!』(T・D・ラッキー著、茂木弘道翻訳、日新報道・2011年)に収められた、2008年にラッキー教授が書いた論文(訳・茂木弘道氏)野中で、何とこう書いて居る。「日本の被曝生存者のうち軽い被曝線量であった人々の平均寿命が増加していることは、被曝者に対する医療行為の効果かも知れないし、放射線ホルミシス効果によることかもしれないし、あるいは両方の効果によるものかもしれない」(同書84〜85ページ) つまりラッキー教授は、生存した被爆者の長寿化の理由は「医療行為のせいかも知れない」と、自分で認めて居る(!)のである。これでは、自身の作業仮説(原爆の低線量放射線によって一部の被爆者の寿命が延びているとする仮説)が証明されていないことを自ら認めているのと同じではある。
5.自然放射線の人体への影響については、逆にその有害性を指摘する論文も有るのに、六城氏は無視して居る。
6.台湾のマンションの事例では、マンションの水道、住民の経済状況、医療へのアクセス、職業、などをマンション外の台湾人と比較して居るのか疑問が有り、この本のこの記述では納得できない。
等。
他にも指摘したい事は有るが、余りにも長くなるので、このぐらいにする。なお、私は、月刊ウィル2012年11月号増刊に、 「ここが変だよホルミシス論争」と言ふ題名で、ラッキー教授とその信者を「ホルミシス理論」を批判して居る。(245〜246ページ) お読み頂けたら幸いである。
W)原子力発電に対する考え方
私は、副島氏に以下の一文をお送りする。
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ここで食い止めなければ事故の規模はどのくらいになったのか、と私が最初に質問すると、吉田さんは「チェルノブイリの10倍です」と、答えた。
「福島第一には、六基の原子炉があります。ひとつの原子炉が暴走を始めたら、もうこれを制御する人間が近づくことはできません。そのために次々と原子炉が暴発して、当然、(10キロ南にある)福島第二原発にもいられなくなります。ここにも四基の原子炉がありますから、これもやられて十基の原子炉がすべて暴走を始めたでしょう。(想定される事態は)チェルノブイリ事故の10倍と見てもらえばいいと思います」
もちろんチェルノブイリは黒鉛炉で、福島は軽水炉だから原子炉の型が違う。しかし、十基の原子炉がすべて暴走する事態を想像したら、誰もが背筋が寒くなるだろう。(中略)
当然、東京にも住めなくなるわけで、事故の拡大を防げなかったら、日本の首都は「大阪」になっていたことになる。吉田さんのその言葉で、吉田さんを含め現場の人間がどういう被害規模を想定して闘ったのかが、私にはわかった。
のちに原子力安全委員会の斑目(まだらめ)春樹委員長(当時)は、筆者にこう答えている。
「あの時、もし事故の拡大を止められなかったら、福島第一と第二だけでなく、茨城にある東海第二発電所もやられますから、(被害規模は)吉田さんの言う“チェルノブイリの十倍”よりももっと大きくなったと思います。私は、日本は無事な北海道と西日本、そして汚染によって住めなくなった“東日本”の三つに“分割”されていた、と思います」
それは、日本が“三分割”されるか否かの闘いだったのである。
(門田隆将「日本を救った男『吉田昌郎』の遺言」(月刊Will(ウィル) 2013年 9月号30〜39ページ )同誌同号33〜34ページ)
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これが、福島第一原発事故の際、日本が直面して居た現実である。この狭い日本の国土で、しかも地震と津波が繰り返し海岸を襲ふ日本に、この様な事故を起こし得る原発を建設し、運転し続ける事が、日本の国益であろうか?しかも、天然ガスの価格が長期的に下落する事が確実とされるこれからの時代に、原発を続ける必要が有るだろうか?愛国者である副島氏が、私のこの問ひに正面から対峙してくれる事を私は信じて疑はない。
(西岡昌紀・内科医/戦後68年目の夏に)
http://blog.livedoor.jp/nishiokamasanori/archives/6746889.html
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