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2013年7月29日 東京新聞朝刊 こちら特報部
チェルノブイリ原発事故最大の被災国ベラルーシで、死亡した人を解剖して臓器ごとの放射性セシウムを測定した医師がいる。ウクライナ在住の病理解剖学者ユーリー・バンダジェフスキー氏(56)だ。低線量内部被ばくに警鐘を鳴らす研究は当局に危険視され、投獄される憂き目も見た。来日した「不屈の学者」に聞いた。(佐藤圭)
◆論文発表後逮捕 「不屈の学者」
「たとえ微量であっても、セシウムなど放射性物質が含まれる食品を継続的に食べ続けると、健康被害を誘発する恐れがある。内部被ばくと健康被害には相関関係がある」
バンダジェフスキー氏は今月10日、市民団体の招きで来日し、21日まで東京など全国6カ所で講演した。日本を訪れるのは昨年春に続いて二度目。チェルノブイリの教訓を日本に伝えるためだ。
旧ソ連のチェルノブイリ原発は現在のウクライナ北部にあるが、1986年の事故で最も被害を受けたのは、国土の約23%が放射性物質に汚染された隣国ベラルーシだった。
病理解剖の専門家である同氏は90年、ベラルーシ第二の都市ゴメリにゴメリ医科大を創設して初代学長に就任。内部被ばくの影響を調査した。
同氏は、人の臓器にどれくらい放射能があるかを実際に解剖して確かめたことで知られる。96〜98年、ゴメリ市内の複数の病院で、心臓血管系の疾患や感染症が原因で死亡した123人の大人や子どもを調査したところ、心臓や肝臓、腎臓などからセシウム137が検出された。
同氏は、セシウム137は特に心筋細胞に蓄積しやすく、心筋障害や不整脈などの心臓疾患が起きやすくなると結論付けた。ベラルーシ人の死因トップは心臓血管系の疾患だ。
世界保健機関(WHO)などはチェルノブイリ事故で、放射性ヨウ素による小児甲状腺がんしか認めていない。同氏は、セシウムによる内部被ばくの論文を発表した直後の99年、収賄容疑で突然逮捕される。一貫して無罪を訴えたが、2001年、禁錮8年の判決を受けて服役した。海外の多くの人権団体が「政治的意図による冤罪(えんざい)」と非難する中、刑期途中の05年に釈放されたものの、ベラルーシを国外追放された。現在はウクライナで研究を続けている。
同氏は「私の研究が『国家へのクーデター』とみなされた」と振り返る。逮捕後、ベラルーシ政府は、事故以来住民が避難していた汚染地域への「再入植」方針を打ち出した。「ベラルーシ国民の放射能への意識は高いが、政府が内部被ばくの影響を軽視している以上、汚染地域で静かに生活するしかない」
◆「汚染食品食べない努力を」
福島原発事故から約2年5カ月後の日本の現状をどう見るか。福島県が18歳以下の県民を対象に実施している甲状腺調査では、疑いも含めて27人が甲状腺がんと診断されているが、県は「被ばくの影響は考えにくい」としている。
同氏はこう強調した。「健康被害が出ないことを望んでいるが、チェルノブイリの経験からすると、楽観できない。内部被ばくに対処するには、汚染食品を食べないように努力するしかない。技術力と資金力のある日本は、よりよい食品の放射線量管理システムを確立できると信じている」
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