03. 2013年7月22日 20:01:59
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肥田美佐子のNYリポート2013年 7月 18日 14:18 JST 国連科学委議長に聞く(後編)=小のう胞と甲状腺がんの関係は未解明 7月5日付の本コラム(前編)では、東京電力福島第1原発の事故が住民の健康に「いかなる差し迫った影響も及ぼさなかった」とする国連科学委員会(UNSCEAR)の報告書(秋に正式発表予定)の概略について、ヴォルフガング・バイス議長の見解を紹介した。後編では、日本政府がデータをすべて提供したのか、UNSCEARの推定被ばく線量と世界保健機関(WHO)の推定線量にはなぜ差があるのかなど、一歩踏み込んだ問題についてリポートする。[image] UNSCEAR ヴォルフガング・バイス教授 ――ヨウ素131など、事故直後、十分な公式データが計測されなかった放射性物質もある。また、規制当局の速記録(2011年9月9日、内閣府原子力安全委員会「放射線防護専門部会――原子放射線の安全に関する国連科学委員会(UNSCEAR)原子力事故報告書、国内対応検討ワーキンググループ」)を見ると、ありのままのデータを提供することに及び腰の規制当局者などもいたようだが。 「時間はかかったが、(日本側から)必要なデータはすべてもらった。必要なデータの長いリストを最初に提出し、その後、追加の依頼を何度も行った。28カ国から入手したものや国際機関から提供されたものなど、日本政府とは無縁のデータも数多く使った。日本のデータのみに頼っていたら、政府の言うことしか信じないのかと、世間から非難を受けていただろう。 ヨウ素131や132など、もはや当時に戻って影響を正確に測り直すことができない放射性核種については、最善の方法で、被ばく線量を推定した。 一方、ヨウ素129は、半減期が半永久的に続き、非常に計測しにくいが、将来的にやるつもりだ。その結果を、今後何十年も計測可能なセシウムと比較することで、もはや計測不可能なヨウ素131に関する知識を深めることができる。これが、(ヨウ素131などの)モデル評価と実測のズレを減らすのに役立つだろう」 ――今年の春、WHOは福島の住民の推定被ばく線量を発表したが、UNSCEARの推定線量より高かった。 「理由は、いたって簡単だ。WHOが使ったのは、事故後3カ月間、つまり11年夏までに計測されたデータであり、同機関の発表は「初期線量評価」と呼ばれるものだからだ。WHOは、ほとんど情報がなかったため、モデルに依拠せねばならなかった。そのモデルとは、パラメータ、つまり何かを算出するために必要な推定に基づいたものだ。同機関に唯一可能だったのは、被ばく線量の幅――下限と上限――を算出することだった。そして、その上限を使って健康リスクを推定した。 ところが、そうした初期のデータには、住民の避難や(放射能汚染)食品の規制など、緊急対策を講じるために設定された数値などが含まれており、科学的データとは言えない。注意深く吟味し、分析すれば、使用可能なデータではあるが。 一方、UNSCEARは、2年近くに及ぶデータを基に調査を行った。WHOの報告書よりデータベースの量で勝っているため、(線量やリスクの)不確実性が少ない。だから、被ばく線量の幅も推定健康リスクも小さくなる。研究の科学的なクオリティーがどうのこうのという話ではなく、実測データの差の問題だ。 UNSCEARは、たとえば5年後など、何年かたった後で、また研究を行うつもりだ。チェルノブイリ事故の影響についても、まだ研究を続けている」 ――5月末日に行われたUNSCEARの記者会見で、教授は、超音波による福島の子供たちの甲状腺スクリーニング検査では、高率で、のう胞やしこりが見つかったが、香港では、もっと高率で子供たちの甲状腺にのう胞やしこりが見つかったと述べている。 「福島では、事故直後、被災地の子供たち1080人を対象とした甲状腺検査が行われたが、しこりが見つかる率は非常に低かったため、リスクなしということで、検査を続行しなかった。 だが、その後、1080人を対象にした、この(特定の地域や集団の健康などを調べる)コホート調査には、被ばく線量が高い子供たちが含まれていないのではないかといった懸念が指摘され、超音波検査などを行うことになった。本来なら、当初から3万〜4万人の子供を対象に検査を実施すべきだった。 この超音波検査には問題がある。まず、事故による放射線の影響を受けていない、被災地から遠く離れた県内の子供たちには実施しなかったことだ。実施していれば、被ばくした子供たちの甲状腺検査の結果と、そうでない子供たちの検査結果を比較し、健康リスクを分析することができたのだが。 だから、チェルノブイリの子供たちの検査結果と比較せねばならなくなったわけだが、非常に精度の高い新技術である超音波検査と違い、27年前の技術では小さなしこりは発見できなかった。そのため、チェルノブイリでは、福島の場合より、しこりははるかに大きいが、数は少なかったことから、福島では、なぜ小さなしこりがこれほど多いのかという懸念が生まれている。 だが実際、甲状腺がんと関係があるのかどうかは、まだ分からない。香港や韓国では、もっと高率で子供たちの甲状腺にしこりが見られた」 ――教授は、記者会見で、今後、福島では、より多くの甲状腺がんが発見されるだろうとも述べている。 「おとなの場合も子供の場合も、甲状腺スクリーニング検査で健康状態を精査することで、以前なら見つからなかったがんが発見されるからだ。『スクリーニング効果』である。とはいえ、今のところ、福島で報告されているがんの発症数は、自然環境でがんになる基礎的リスクに準じたレベルだと考える。 低線量被ばくによるがんの発症リスクが、絶対的な意味でどのくらい高いのか、という問いに答えるのは難しい。線量が低ければ低いほど、不確実性が増す。リスクはないと言う一部の専門家と違い、われわれは、あると考えてはいるが」 肥田美佐子のNYリポート バックナンバー ・国連科学委議長に聞く(前編)=低線量被ばく論議はさらに半世紀続く ・米サンオノフレ原発が廃炉を決定―福島の教訓で変わる米原発事情 ・米専門家「小さいが発がんリスクある」―影響なしとの国連原発調査受け ・米テクノベンチャーCEO、長山大介氏が挑む世界初の時間単位広告 ・米銃規制派が全世帯銃保有条例を違憲と提訴―過熱する銃論議 ・米ノマド界のカリスマでベストセラー作家のティモシー・フェリス氏に聞く ・「眠らない街」NYの地下鉄終夜運行を検証―「東京24時間都市」構想で ・米中流層受難の時代―IT化で減るパイに学歴インフレで競争激化 ・世界を変える日本人―シアトルで起業した窪田良氏が挑む難病治療薬 ・米ノマド最前線 ヤフー在宅勤務禁止令で論議が沸騰 ・最低賃金が先進国最下位の米国で賃上げ論争―時給9ドル構想で ・日本は女性の活用など大胆な構造改革を=グッドマン米CSIS部長 ・イデオロギーよりも安保を=米政治学者M.グリーン氏が安倍政権に ・東電に99億円請求した被ばく米兵8人の代理人弁護士に聞く |