http://www.asyura2.com/13/genpatu32/msg/563.html
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http://www.fra.affrc.go.jp/eq/Nuclear_accident_effects/senryaku_summary.pdf
1.研究の背景と目的
1.背景
・東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故発生から1年以上が経過し、多くの水産生物で放射性セシウム濃度が低下傾向にある中で、突如沿岸域において定着性の強いアイナメやしばしば汽水域で漁獲されるクロダイ等から高濃度魚が出現した。
・東北から北関東の内水面漁業では、イワナ、ヤマメ等の放射性セシウム濃度が予想に反して低下せず、出荷制限が続いている。遊漁も出来ない状況で、地域内水面漁業の存続や観光業にも関わる問題となっている。
・高濃度汚染魚の汚染経路と汚染原因を緊急に解明し、漁業者と消費者に科学的な根拠に基づいた説明と高濃度汚染魚出現の見通しを示すことが重要となっている。
2.目的
・アイナメ、クロダイ等の高濃度汚染魚の出現や内水面の魚類で放射性セシウム濃度が高く維持されていることの原因と汚染経路を緊急に解明する。
・得られた結果を迅速に国内外に発信し、流通している水産物の信頼性確保と風評被害の防止に貢献する。
3.研究内容
・アイナメ、クロダイ等の海産魚での高濃度汚染魚出現機構に関する研究
@耳石などの硬組織に蓄積された物質の分析による汚染履歴の解明、A飼育実験や標識放流調査等による高濃度汚染魚の生理生態特性の把握、B曳航式放射線計測システムを用いた海底土の放射能の連続・精密測定、等を行い、魚類で放射性セシウム濃度が高く維持されていることの原因と汚染経路を緊急に解明する。
・中禅寺湖および周辺地域における高濃度汚染魚の出現機構に関する研究
@安定同位体比等を指標に高濃度汚染魚へとつながる食物連鎖の解明、A周辺環境・餌生物の汚染と魚の濃度の関係解析、B現場飼育や放流・再捕実験による非汚染魚の取込過程の把握、等により、放射性セシウムが高濃度に維持される要因を緊急に解明する。
2.課題構成と担当機関
海産魚
@高濃度に放射性セシウムで汚染された海産魚の汚染源解明(独)水産総合研究センター
T:高濃度汚染魚の発生頻度調査
U:オートラジオグラフィー実験
V:環境放射能測定調査
Aアイナメ等沿岸性魚類の移動生態の解明(独)水産総合研究センター
T:標識放流等による高濃度汚染魚の移動特性調査
B原子力発電所周辺海底土の汚染状況把握(国)東京大学生産技術研究所・(独)海上技術安全研究所
T:海底土放射能分布測定システムの開発
U:海底土放射能分布分析技術の開発
C魚類におけるカリウムおよびセシウムの動態の解明(国)東京大学大学院
T:カリウム/セシウムの排出に関与する塩類細胞型の特定
U:環境水や餌料中のカリウム濃度が塩類細胞活性に及ぼす影響解明実験
淡水魚
D高濃度に放射性セシウムで汚染された内水面魚類の汚染源解明(独)水産総合研究センター
T:安定同位体比等を用いた汚染経路推定調査
U:種苗生産過程における放射性セシウム動態調査、および現場飼育による蓄積過程の把握
E奥日光周辺水域における森林の汚染状況把握、内水面魚類の餌生物の放射性Cs濃度分析、経路解明(独)森林総合研究所
T:森林および渓畔水域の放射性セシウム汚染状況調査
U:内水面魚類の餌生物の放射性セシウム濃度分析と汚染経路推定調査
F中禅寺湖周辺における魚類の年級別汚染状況の把握栃木県水産試験場
T:中禅寺湖周辺における魚類の年級別汚染状況の把握
U:現場飼育および清水飼育実験による放射性セシウム蓄積・排出過程調査
3.海産魚
3−1.高濃度汚染アイナメの汚染時期と汚染源
1)高濃度汚染魚の出現頻度
・2012年8月に20km圏内の太田川河口域で採取された試料の放射性セシウム濃度25,800Bq/kg-wet(図中○)は他の福島沖試料の測定結果から大きくはずれた値であり、12月以降に原発港内で採取された個体試料と同水準(左図)である。
・2012年8月〜2013年3月に福島県海域(20km圏外)で採取されたアイナメのセシウム137濃度測定値から求めた対数正規分布で近似した出現確率(右図)を仮定すると、放射性セシウムの合計値で10,000Bq/kg-wetを超える個体(Cs-137濃度では6,500Bq/kg-wet超に相当)の出現確率は5万分の1以下(右図)である。
・太田川河口域で2012年8月に採取された個体はそれまで福島県海域で採取されてきた個体と異なる環境を経験してきたものと考えられ、原発港内等の原発のごく近傍の環境との関係があると推測される。
2)アイナメの移動生態
・2012年8月に原発から約20km離れた場所で25,800Bq/kg-wetのアイナメが採集された。相馬沖ならびに原発の沖合(20km圏内)からアイナメ等沿岸魚に外部標識あるいは魚の遊泳水温・深度を記憶するアーカイバルタグを付けて放流するとともに既往の知見を整理した。
・2013年3月28日現在再捕報告はない。
・過去の標識放流調査(太平洋北区栽培漁業漁場資源生態調査選択魚種(アイナメ・メバル・キツネメバル)に関する調査結果報告書昭和49年福島県水産試験場)により、アイナメは最大27km、多くは0−15km移動(平均8km程度)する事が報告されている。原発港湾から太田川河口への距離(約20km)は報告された移動範囲にある。
3)オートラジオグラフィ実験による汚染時期の把握
・イメージングプレート(IP)による耳石切片からの放射線の検出に成功するとともに、IP画像解析により放射線の強度分布を解析した。
・アイナメ耳石のIP画像と耳石の輪紋の関係の解析から、放射線の反応の中心が2011年春−夏に当たる輪紋部分に相当することを把握した。事故初期の高濃度水への曝露を反映するものと判断される。
4)高濃度アイナメの経験環境の履歴の把握
・太田川河口域で採取されたアイナメの高濃度化には、陸域由来の濃度の高い餌や低塩分環境での放射性セシウム排出の鈍化の影響が考えられる。このため、高濃度アイナメといわき沖の130Bq/kg-wetの濃度の個体の耳石中のSr/Ca比(低塩分環境にて大きく低下する)を調べ、低塩分環境の経験の程度を解析した。
・耳石のSr/Ca比の比較では、太田川河口域で採取された高濃度アイナメ(上図)に、低塩分環境の経験を明確に示す変化は検出されなかった。
5)福島沖海底土に含まれる有機物中の放射性セシウム濃度評価
・底魚類で高濃度魚が出現する要因として餌の汚染の影響が考えられる。このため、底魚類が餌としているベントスの体内に取り込まれる海底土に含まれる有機物中の放射性セシウム濃度の評価を行った。
・海底土有機物中の放射性セシウム濃度は海底土全体の濃度よりも3-50倍高い。
・海底土中の有機物含量は1〜5%であった。
・地理的には、原発から南方沿岸に有機物中放射性セシウム濃度の高舌状海域が存在する。
・事故後初期に放射性セシウム濃度が高い水が分布した海域に相当する。
[高濃度汚染魚への影響は]
・福島南部のベントスの放射性セシウム濃度はプランクトンの10倍程度高いこれらの生物が、海底土中の高濃度に汚染された有機物を餌の一部として使用していることが要因と考えられる。
・原発港内等の海底土の高濃度汚染域のベントスの放射性セシウム濃度は不明だが、これら原発近傍ではベントスの濃度がまだ高く、高濃度汚染魚の濃度低下を抑制している可能性がある。
6)アイナメ個体汚染モデルによる汚染源の推定
・原発港内の海水中の放射性セシウム濃度および既往のパラメータ(海水からの取込係数:0.2、生物学的半減期:100日、摂餌量:体重の1%)を基に、魚体中の放射性セシウム濃度のシミュレーションモデルを設計し、港内の濃度の時空間的なばらつきから高濃度値、中程度の濃度値、低濃度値を求め計算を実施した。餌生物については、それぞれの濃度レベルにおいて海水からの取込(係数:0.2)と排出(生物学的半減期:100日)から濃度を計算した。
・港内の2012年12月-2013年3月の104Bq/kg以上のアイナメの放射性セシウム濃度をほぼ再現する個体汚染モデルを構築した。初期に高濃度水の影響を受け、濃度が急上昇し、その後海水濃度の低下に応じて濃度低下が始まった。濃度は継続して低下するが、濃度の高い餌の摂取は低下を抑制する効果を示す。
・2012年8月に採取された高濃度アイナメ(図中○)は、原発港内で高濃度汚染水の影響を受けた後で、いずれかの時点で港湾外に移動したと考えられる。
3−2.高濃度汚染クロダイの汚染時期と汚染源
1)高濃度クロダイの出現頻度の把握
・宮城、福島、茨城のクロダイの検査において仙台湾で5検体と福島沖で1検体から500Bq/kg-wetを超える放射性セシウム濃度が検出された( 上左図)。
・仙台湾の集中調査で県内3海域で採取された試料の分析から、500Bq/kg-wet超の個体が数%〜10%含まれることを把握した(下図)。
・500Bq/kg-wet超の個体は体長30cmを超える個体に限られ、さらに放射性セシウム濃度の頻度分布解析から500Bq/kg-wetを超える個体群は400Bq/kg-wet以下の個体群と異なる集団に分類されると判断された(上右図)。
2)高濃度クロダイの経験環境履歴
・クロダイの放射性セシウム濃度と低塩分環境(汽水域)の経験との関係を、仙台湾で採取された高濃度個体と低濃度魚個体の耳石中のSr/Ca比(低塩分環境にて大きく低下する)から解析した。
・仙台湾で得られた放射性セシウムの高濃度個体と低濃度個体の間でSr/Ca比を比較したが、両者の間で顕著な環境履歴の違いは確認できなかった。
・高濃度個体が仙台湾沿岸に沿て広く出現する傾向にあり福島県の検査で原発の南でも出現したことから、事故後に放射性物質濃度の高い海水が沿岸域に広がった時期の海水からの取り込みと河口域での陸域起源の濃度の高い餌を摂取したこと等の環境要因と汽水魚であることによる排出の遅延等が影響している可能性が考えられる。
3−3.海底土の高濃度汚染域
・東京大学生産技術研究所が開発した曳航式放射線計測装置を用い東北沿岸海底土放射能の連続的な分布を調査し、高濃度域の有無、空間スケールを把握した。
1)調査設計
・船から海底を曳航する放射線計測システムの調査概念図。計測装置は1.0m/s程度の速度で曳航する。
・福島第一原原子力発電所(F1 NPP)沖調査
F1 NPP20km圏内において8測線のグリッド状曳航調査を実施合計95.2kmの海底土放射能分布を計測
・仙台湾調査
60m深度及び120m深度の等深線状曳航調査を実施合計142.0kmの海底土放射能分布を計測
・阿武隈川河口域調査
阿武隈川の河口海域において6測線のグリッド状調査を実施合計26.2kmの海底土放射能分布を計測
・F1 NPPの20km圏内においては、底質が岩場が多く、サンプリングが困難な海域で効率的にデータが取得することに成功した。
2)F1 NPP沖調査
・3航海で合計5日間のF1 NPP沖調査を実施し、グリッド状調査で合計95.2kmの海底土放射能分布データを取得した。
・原発の5km圏内に入ると、全体的に放射線量(count/s)が高くなった。
・地形の凹み・崖の底には放射線量(count/s)が数10mから数100mの距離で局所的に高くなる場所を複数確認した。
3)仙台湾調査
・5日間で60mと120mの等深線を調査し、合計142.0kmの海底土放射能分布データを取得した。
・120mの等深線の方が、60mの等深線より高い放射線量(count/s)値を示している。
・阿武隈川河口沖で放射線量(count/s)の上昇が観測された。海底の凹み地形でも放射線量(count/s)の上昇が観測された。
4)阿武隈川河口域調査
・2日間で阿武隈川の河口海域を調査し、グリッド状に合計26.2kmの海底土放射能分布データを取得した。
・放射線量(counts/s)は河口域の南側で高く、河口から南東に、陸から2.5−4.0 kmの場所で高い放射線量を観測した。
・海底の凹み地形で放射線量が高いことを確認した。
【本研究のまとめ】
○高濃度アイナメの出現について
・太田川河口域で採取された高濃度アイナメ(25,800Bq/kg)は、放射性セシウム濃度の統計的な解析、標識放流の知見による移動可範囲の評価、耳石から放出される放射線の分布解析による汚染時期の特定結果から、原発港内または周辺での高濃度汚染水の影響により高濃度化した後、港外に移動したと推定された。
・原発港湾内の魚の個体汚染モデルを用いた解析により、初期に原発港湾内で高濃度汚染水の影響を受け濃度が急上昇すること、汚染された餌の摂取により濃度低下が抑制されることを確認した。
・耳石のSr/Ca比の解析から、当該のアイナメが放射性セシウムの排出が抑制される低塩分環境の影響を強くは受けてはいないことがわかった。
・沿岸域の海底土中に高濃度の放射性セシウム含む有機物が数%含まれ、底魚類の餌となるベントス類への放射性セシウムの供給源となりうることが示唆された。
○高濃度クロダイの出現について
・仙台湾のクロダイについての統計解析により高濃度個体は他のクロダイとは異なる集団に分類され、全体の数%の出現率を示すことを把握した。高濃度個体と低濃度個体の経験環境に明確な差は認められず、環境要因を特定するには至らなかった。
○海底土の高濃度汚染域の把握
・原発の20km圏内や阿武隈川河口域には、数10mから数100mの空間スケールを持つ局所的に放射線量(count/s)が高い場所が存在すること、およびそれらの場所は凹地形と強く関係していることが明らかとなった。同所に生息するベントス類への高濃度有機物の供給源となる可能性が考えられる。
4.淡水魚
【モデル水域の選定】
・中禅寺湖は流入河川の源流域の湯の湖に比べ、魚類の放射性セシウム濃度が10倍以上高く、2012年3月8日付で栃木県が発出した「ニジマス、ブラウントラウトおよびヒメマスの解禁延期要請」を受け、ワカサギを除く全ての魚類の持ち出しを禁止し、キャッチ・アンド・リリースにより遊漁が行われている。中禅寺湖は生息魚種も豊富であることから、中禅寺湖水系をモデル水域とした。また、中禅寺湖水系に隣接しながら空間線量率や放射性セシウムの沈着量が高い久蔵沢についても対比のために調査水域に加え。
1)モデル水域の汚染状況
・放射性物質は北関東を南下し、山沿いに広く沈着した放射性セシウムは渓流水を通じて下流に流出する可能性がある。
・北関東の19のダム湖の集水域の汚染度は0.09-0.37μSv/h (8-90 kBq/m2) 。中禅寺湖は0.11 μSv/h、湯の湖は0.10 μSv/hとそれぞれ下位から2,3位の位置づけ。
2)空間線量率、沈着量と魚類の放射性セシウム濃度との関係
・イワナ・ヤマメ等渓流魚では、空間線量率が高い水域ほど体内の放射性セシウム濃度が高くなる傾向
・中禅寺湖内に生息するヨシノボリの放射性セシウム濃度は空間線量率が高い南岸で高い傾向
3)安定同位体比分析に基づく放射性セシウムの移行経路の特定
・生態系の中で餌生物から捕食者へ栄養段階が一つ上がると炭素安定同位体比(δ13C)が約1‰、窒素安定同位体比(δ15N)は約3.3‰ずつ上昇することが知られている。食物連鎖を通じた移行経路の把握のため、モデル水域の生物やその胃内容物等の窒素と炭素の安定同位体比を測定した。
・河川では藻類や陸生植物の落葉から、水生昆虫、魚類へとつながる食物連鎖系列を確認した。
・湖沼では、プランクトンまたはベントスを起点とし、魚類へとつながる主要な食物連鎖系列を確認した。
4)モデル河川の落葉〜土壌等の汚染状況の比較
・2011年に落葉した古い葉のCs濃度が高く、特に足尾地区の久蔵沢で濃度が高い(約10倍)。全般に2012年の落葉の濃度は低く、川底の新鮮な落葉はさらに低濃度である。
5)モデル河川における付着藻類〜水生昆虫のセシウム濃度
・渓流中の付着藻類の放射性セシウム濃度は足尾で濃度が高い傾向がある。水生昆虫では、日光のモデル河川ではNDが大多数であるが、足尾では検出される個体の率が高い。
6)モデル河川における魚類の年齢別汚染状況の把握
・各魚種ともに、年齢が高く放射性物質降下を経験した魚で放射性セシウム濃度が高い傾向がある。
・放射性物質降下経験魚では、空間線量率が高く餌の放射性セシウム濃度も高い久蔵沢でより高い傾向がある。
8)現場における魚類の放射性セシウム取り込み状況
・河川において天然イワナの放射性セシウム濃度は高水準で推移したのに対し、放流イワナでは放射性セシウム濃度の顕著な上昇は認められず、新たな汚染の影響は小さいものと考えられた(上図)。
・中禅寺湖に設置した網生け簀に畜養したヒメマス、ホンマスでは、ともに体内に取り込まれる放射性セシウムは増加する傾向が認められ、現時点で汚染が継続していることを確認した(下図)。
【本研究のまとめ】
・福島県ならびにその周辺の内水面では空間線量率の高い所でイワナやヤマメ等の放射性セシウム濃度が高いことを確認した。
・中禅寺湖では、プランクトンまたはベントスを起点とし、魚類へとつながる主要な食物連鎖系列、河川では藻類や陸生植物の落葉から、水生昆虫、魚類へとつながる食物連鎖系列があることを確認した。
・河川の食物連鎖の起点となる落葉について、古い落葉で放射性セシウム濃度は高く、2012年の落葉で低いこと、さらに、空間線量率と川底の落葉に正の関係があることを明らかにした。また、水生昆虫、微細藻類の放射性セシウム濃度は空間線量率が高い河川で高い傾向があり、魚類へとつながる主要な食物連鎖構成生物の放射性セシウム濃度は空間線量率と関連を持つ。
・河川域では魚類の主たる汚染時期がフォールアウト時であり継続的な汚染の影響は小さい。
・中禅寺湖では魚類の放射性セシウム濃度が高く、未だに汚染(放射性セシウムの取込)が継続している。
5.海産魚・淡水魚の高濃度維持要因としての生理特性
1)研究の背景と目的
・アイナメ、クロダイ等の一部の海産魚で、放射性セシウムに高濃度に汚染された魚が出現。
・魚の生理学的特性を把握し、放射性セシウム濃度が高く維持される原因を解明する。
・海水魚と淡水魚でセシウムの排出メカニズムを明らかにし、効率的な除染方法を検討する。
・生体内でカリウムと同じように挙動するセシウムは、鰓の塩類細胞からROMKというチャネルを介して排出される。本研究では海水および淡水に馴致したモザンビークティラピアを実験魚に用いて、次のことについて調べた。
1)環境水カリウム濃度がROMKの発現に及ぼす影響
2)カリウム/セシウムの排出に関与する塩類細胞型の特定
・海水魚・淡水魚とも血液の浸透圧(塩分濃度)は海水の約1/3に保たれている
・淡水では体内から塩類が流出し、血液浸透圧が低くなる傾向にある。
・淡水魚は鰓の塩類細胞からNa+・Cl-を取り込む。
・海水魚では外から塩類が流入し、血液浸透圧が高くなる傾向にある。
・海水魚は鰓の塩類細胞からNa+・Cl-を排出する。
・広塩性魚ティラピアの塩類細胞はその機能から4型(T〜W型)に分類される。
・淡水でU型とV型の塩類細胞が、海水でW型の細胞が発達する。
・V型とW型は同一の塩類細胞で、環境塩分濃度に応じて機能が切り替わる。
2)環境水カリウム濃度がROMKの発現に及ぼす影響
・鰓におけるROMKの発現は淡水よりも海水で高くなる傾向がある。
・ROMKの発現は通常海水よりも高カリウム海水で高まる。
・鰓におけるROMKの発現は通常淡水よりも高カリウム淡水で高まる。
・腎臓ではROMKの発現がほとんど見られない。
3)カリウム/セシウムの排出に関与する塩類細胞型の特定
・海水ティラピアの鰓で見られる塩類細胞はほとんどがW型である。
・従って、海水ティラピアではW型塩類細胞がROMKを発現する。
・淡水ティラピアの鰓でROMKはNHE3と同じ塩類細胞で発現する。
・従って、淡水ティラピアではV型塩類細胞がROMKを発現する。
【本研究のまとめ】
・生体内でK+と同じように挙動するCs+は鰓の塩類細胞からROMKを介して排出される
・ROMKの発現量は淡水よりも海水で高く、そのため海水魚は淡水魚よりも放射性Csの生物学的半減期が短いと考えられる
・海水、淡水を問わず、環境水中のK+濃度が高いと鰓におけるROMKの発現が高まる
・鰓のROMKは淡水でV型塩類細胞に、海水でW型塩類細胞に発現する
・V型とW型の塩類細胞は機能の可塑性有する同一の細胞であり、このV/W型塩類細胞がK+/Cs+排出を担当する
【なぜ放射性セシウムに高濃度に汚染された魚が出現するのか?】
・魚が放射性セシウムで汚染されても、清浄な環境水・餌料条件下であればK+の代謝回転によって放射性セシウムは徐々に排出されるはずである。
・太田川河口域で採補されたアイナメ等の高濃度汚染魚が出現する理由として、事故直後に超高レベルに汚染された魚が存在した可能性が考えられる。
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