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[原発のたたみ方]
(上)廃炉拡大、備え乏しく 処分場・費用、重荷に
原子力発電所をどう「たたむ」かが政策課題に浮上してきた。原子力規制委員会が定める新たな規制基準が7月に施行されるのを受け、運転が難しくなる原発が相次ぐ見通しのためだ。一方で原子炉の解体や使用済み核燃料の処分など容易に踏み込めない難題が並ぶ。
電力会社が「ゲンダイさん」と呼ぶ会社がある。国内17カ所の原発すべてに社員を置き、放射性物質の除去を請け負うアトックス(東京・中央)。かつての社名「原子力代行」が愛称のいわれだ。茨城県東海村で国内初の「原子の火」がともった1957年から原発の歴史とともに歩んできた。
東京電力福島第1原発の事故後「ゲンダイさん」は廃炉の仕事に力を入れる。福島第1の廃炉に全社員の4分の1、400人がかかわる。年内に仏アレバ社と合弁会社を立ち上げ、全国で受注をめざす。
開始時期見えず
7月の規制強化で運転をあきらめる原発が増えれば商機が広がる。ただ大塚誠企画部長は「制度が整っていないので、廃炉が順調に進むかわからない」と話す。
視界不良には理由がある。廃炉は1基54万トンものゴミが出る。燃料棒は長期間冷やして再処理するが、やっかいなのは炉心に近い圧力容器の部品や制御棒など約100トンのゴミだ。地下50メートル以下に埋める必要がある半面、国内に処分場はない。
電気事業連合会は青森県六ケ所村に深さ100メートルの坑道を掘ったが「廃棄試験のため」と説明。坑道を処分場にする交渉を地元としていない。処分場がなければ核のゴミが出る廃炉に踏み込めない。2008年に浜岡原発1、2号機の廃炉を決めた中部電力の作業も滞る。
お金の問題も重荷だ。電力会社は廃炉に備え引当金を40年かけて積む。この会計ルールは原発を40年以上動かすのが大前提。途中の廃炉を想定せず、停止中は積めない。茂木敏充経済産業相は「原発は事故が起きないという『神話』を基につくられた」と認める。
国内50基の原発の全てをいま廃炉にすれば、経産省は引当金の積み立て不足などで計4.4兆円の損失が出ると見積もる。電力各社がためらい続ければ再稼働も廃炉もできず、どっちつかずの原発が広がりかねない。経産省は廃炉しやすくするため、損失の分割計上を認める会計ルールの検討を25日に始める予定。
1基最大800億円
仮に処分場や会計など制度が整っても、いかに早く安く廃炉するかという壁は立ちはだかる。
「とてもまねできない」。新型転換炉「ふげん」の廃炉を控え米国の事例を研究する日本原子力研究開発機構の担当者はつぶやく。世界最多の10基を廃炉にした米国では圧力容器をそのまま切り出し、船と自動車で砂漠の中の処分場に運ぶ。日本では核のゴミを公道で運ぶことすら難しい。
米国は官民が技術を磨いてきた。日本の廃炉費用は1基で最大800億円を見込むが、米国は3億〜4億ドル(約300億〜400億円)と半分程度。廃炉専門会社の米エナジーソリューションズは上海に拠点をつくり、日本進出をうかがう。
日本でも廃炉の作業の効率化は急務だ。電事連では各社が出資する日本原子力発電を廃炉会社に衣替えする構想が浮上。一方、公営機関が廃炉を担う英独のように「政府が支援機関をつくるべきだ」との声が自民党内に出る。議論の焦点は定まらず、時間を空費する恐れが増している。
米規制委・委員に聞く 官民は十分に意思疎通を 電力会社、情報提供に責任
米原子力規制委員会(NRC)のマグウッド委員=写真=は日本経済新聞社に対し、原子力発電所の廃炉を巡り「電力会社が規制委のルールは何かを理解し、きちんと取り組む機会を与えた上での判断でなければならない」と強調した。「当局と電力会社が完全な形で意見交換することが極めて重要」とも述べ、廃炉の進め方で官民による十分な意思疎通を促した。
NRCは米原子力行政の司令塔。マグウッド氏は言及しなかったが、米側は廃炉の技術的な課題やコスト、電力供給への影響で共通認識が必要とみている。日本では活断層の判断や安全対策を巡り官民間で不信感がくすぶる。マグウッド氏は日本の原子力規制委員会が直下の断層を活断層と認め、再稼働が難しくなった日本原子力発電敦賀原発2号機に関し「明白な科学的知見に基づく限り、日本の規制委がどんな行動をとろうと支持する」と表明。一方で活断層と判定する根拠の明確化が必要との見方を示した。
安全の確保では「原発の運用は非常に入り組んでいる。当局の職員が全ての細部を点検するのは現実的でない」と語り、電力会社による正確な情報提供が大前提と主張。「日本の電力会社が自発的に取り組む余地はまだある」と認めた。当局の役割は「統計的な検査」に基づく安全性の検証だと指摘し、不正や虚偽の情報があれば厳罰で臨む手法をとるよう訴えた。
(ワシントン=吉野直也)
[日経新聞6月18日朝刊P.5]
(下)地元支援長い道のり 新たな産業、どう育成
東日本大震災後の混乱が続く2011年5月。経済産業省で福島第1原子力発電所の事故に対応していた1人の官僚はある本を手にした。
「石炭政策史」。石油輸入自由化で斜陽となった石炭産地を「閉めてきた」政策を記録する。産炭地対策は01年まで46年間に及び、費用は計4兆円を超えた。震災直後から経産官僚が原発の廃炉後の地域対策を意識していたことがうかがえる。
40年運転が前提
原発を軸に街づくりを進めてきた立地自治体に、規制強化という国の政策変更が廃炉を迫る。「ずっと国の政策に協力してきたのに『あとは自分たちでがんばって』と言われても困る」(福井県敦賀市のタクシー運転手)。廃炉は「第2の産炭地」を生み出しかねないだけに「地元の理解なしにはできない」。ある電力会社の首脳は漏らす。
自治体は原発が1基建つと、運転開始の10年前から50年間、国から1400億円の交付金を受け取れる。40年運転が前提で、途中で廃炉を決めると核燃料向け以外は交付金も消える。原発にかかる固定資産税など貴重な財源も廃炉で失う。
中部電力は08年に浜岡原発1、2号機の廃炉を決めて国の交付が途絶えた際、約20億円を静岡県に寄付した。値上げを申請するいまの電力会社に寄付の余裕はない。福井県美浜町の山口治太郎町長は廃炉完了まで交付金の継続を求める。支援策なしには自治体が廃炉の足かせになりかねない。
参院選もにらみ政治の動きは速い。超党派の国会議員による「原発ゼロの会」は5月、交付金や課税の特例を設ける法案の骨子を公表。自民党も19日、立地自治体のためのプロジェクトチームを立ち上げた。座長に就いた宮路和明衆院議員は「原発事故を契機として疲弊している自治体を支援し、エネルギーの街として発展させていく」と話す。
石炭産地に教訓
自治体も動き出した。全国最多の14基の原発を抱える福井県は、ロシアに近い立地を生かして液化天然ガス基地や火力発電所を建てる構想を抱く。4月にはロシア国営ガスプロムの幹部を芦原温泉でもてなした。
国内で原子力が発祥した茨城県東海村は原子力研究拠点の誘致を進める。村上達也村長は「国依存の開発・発展型の地域づくりを早く清算し、持続可能な社会を自らつくれるかが問われる」と話す。事故があった福島県に世界中から原子力研究者を集める計画もある。
旧産炭地でも学園都市に転換した福岡県飯塚市、「フラガール」などの観光業や製造業、流通業の多角化を進めた福島県いわき市などの成功例がある一方、北海道の夕張市や福岡県の赤池町(現福智町)は財政再建団体に転落した。石炭や原発という「一本足打法」に頼ってきた地域の再興は一筋縄ではいかない。
参院選では原発を再稼働すべきかどうかが一つの争点になる。いずれの道を選ぶにせよ、原発を「たたむ」時代は目前に迫る。廃炉を決めるまでも、そして決めた後も険しい道が続く。
古谷茂久、本田幸久、高橋元気、平本信敬が担当しました。
[日経新聞6月21日朝刊P.5]
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