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漂流東電、「電力村」で孤立 戻らぬ自民との蜜月
2013/6/17 7:00 日本経済新聞 電子版
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK14046_U3A610C1000000/
東京電力の国有化からもうすぐ1年。かつての「電力の盟主」を他の電力会社は異端視し、距離をおくようになった。以前は蜜月関係を誇った自民党とのパイプもすっかり細った。漂流する東電に誰が救いの手を差し伸べるのか。経営危機の火種が再び膨らみつつある。
■始まった兄弟げんか
5月上旬、中部電力の企画部門幹部は東電の担当者に何度もきつい口調で迫っていた。
「そんな簡単に東電さんの要求はのめませんよ。我々が納得できる案を示してほしい」
戦後に生まれた東電や中部電。兄弟のように育った電力会社の社員同士が、ここまでぶつかることは珍しい。衝突の舞台となったのは、東電と中部電との石炭火力発電所の共同建設計画だった。
福島第1原子力発電所事故の処理で資金繰りが厳しい東電が火力発電所の入札を実施し、中部電が応じたこの案件。最初は東電支援のつもりでパートナーに名乗りをあげた中部電だが、やり取りを重ねるうちに東電への不信感が募っていく。
東電はできるだけ多くの電力を確保したいと主張する一方で、800億円前後もかかる建設費用の大半を中部電に負担させようとしていたのだ。
「あまりにも身勝手だ」と憤る中部電。電気の上限価格が1キロワット時あたり9円53銭という採算割れすれすれの入札条件で、そもそも東電に協力するうまみは少ない。そこで、中部電は建設費を負担する代わりに、この発電所の電力の何割かを引き取って「首都圏で顧客に直接売りたい」と訴えた。
これにも東電は難色を示す。だが、中部電が離れれば、電源不足に陥る懸念も出てくる。最終的には発電した分の7割を東電、3割を中部電が引き取ることで合意し、中部電は首都圏進出の道筋をつけた。東電は火力の建設費を浮かすことはできたが、その代償として中部電を敵に回すことになった。
■「社長会」に入れない
中部電だけではない。東電に対する警戒心は電力業界で広がっている。Jパワーも火力入札で一時は東電のパートナーとして組むことを考えたが、早い段階で交渉のテーブルから離脱。結局、新日鉄住金と組んで入札に参加した。Jパワーのある幹部は「東電はお金をパートナーに頼るのに、自分たちの思い通りにしようという姿勢が目立った。これではいい関係が築けない」と手厳しい。
昨年6月の株主総会で、1兆円もの公的資金を使った資本注入が決定。国と電力会社がつくる原子力損害賠償支援機構(原賠機構)が過半数の議決権をもち、実質的に国有化された。それから1年。電力業界の秩序を守るために先頭に立ってきた「盟主」の姿は消え、他電力が東電を仲間として支えようという意識も薄れている。
東京・大手町の経団連会館に入居する電力大手の業界団体、電気事業連合会(電事連)。毎月中旬の金曜日になると、全国から電力大手の社長が集まり、そのときどきの共通の課題について考え方を擦り合わせてきた。いわゆる「社長会」だ。電力業界の事実上の最高意思決定機関といえるが、東電を除外する社長会を開く回数が増えている。
東電の国有化以降、「具合が悪いことがあるから、テーマによっては東電を外した会合で議論することがある」(西日本の電力大手首脳)。政府や与野党への対策を練る場に、国の資金と経済産業省の人材が投入されている東電が加わると、内容が政府に筒抜けになる恐れがあるからだ。
■盟主が「改革の先兵」に
発送電分離に道筋をつける電力システム改革への対応を巡る協議では、東電はほぼはずされていたという。電事連は発送電分離に反対しているが、東電は今や逆の立場になっているからだ。
公的資金の注入と引き換えに、東電が政府に約束したのは、当時の会長、勝俣恒久ら経営陣の退陣や追加リストラだけではない。自らが「電力改革の先兵」となることものんだ。持ち株会社化を視野に「火力・燃料」「送配電」「小売り」の社内カンパニー制を4月に導入、発送電分離を先取りする姿で組織を変えようとしている。
「昔の東電がいた頃なら、もうちょっとうまくやれたかもしれない、という嘆き節が至るところで聞こえてきた」。電力システム改革を巡る政府とのやりとりについて、ある電力大手幹部はぼやく。電事連は東電に代わって関西電力が率いることになったが、政治力はかつての東電に見劣りする。電力システム改革は4月に閣議決定し、電事連は敗北した。
ある東電元副社長は「電事連=東電だった。『永田町のどこを押せばいいか』を豊富な経験で知っていたし、政策や規制の立案も東電の社員が手伝っていた」と指摘する。多くの政治家が東電労使の集票力を頼った。東電は企業献金をやめた後も、役員個人が自民党への献金を欠かさなかった。
■官邸が描く「線引き」
そんな慣習も国有化とともに消えた。個人献金はもちろん禁止。労働組合も世論の反発を考えると、動きにくい。かつての東電であれば、政治家とのパイプが太かった総務部が政界工作に奔走しただろうが、ある役員は「今の総務に出番はない。昔ながらの自民党人脈は機能しない」と言い切る。複数の東電関係者によると「機構出身の幹部が東電プロパーの総務部が政治家とむやみに接触しないよう目を光らせている。昔に戻れるはずがない」という。
過去の東電と自民党との濃密な関係は癒着を生み、改革を阻む一因にもなった。政界とのパイプはネガティブな印象があるが、完全に消失すると今の東電にとっては致命傷にもなりかねない。経営再建には、実質オーナーである政府、つまり安倍政権の支援が不可欠だからだ。政府支援抜きには、一企業の努力を超えた廃炉や除染を含め、東電の抜本再建などは進みようがない。
4月30日。東電会長の下河辺和彦や社長の広瀬直己、社外取締役らは人目を避けるように、首相官邸を訪れた。政権の要である官房長官の菅義偉をひそかに訪問するためだった。
その4日前には首相の安倍晋三を訪ねたばかり。安倍からは「国も一歩前に出たい」という言質を引き出したが、首相とじっくり話せたわけではない。政権内の実力者である菅のスタンスを確かめたかったのだ。
「ここまでは企業、ここからは国がやる、という線引きをしなければならない」
「国の役割」にまで言及した菅の反応に東電首脳らは手応えを感じた。菅は人材流出が続く東電社内の士気についてもさかんに気遣っていたという。
■期待は空回り
ある社外取締役は菅への訪問を終えると、「やはり、今の政権は我々の主張をよく理解してくれている。これからきちんと議論が進むはずだ」と意を強くした。しかし、現段階では安倍政権の支援メニューがはっきりしているわけではない。
東電の下河辺らが記者会見を開いて、政府に追加支援を要請したのは昨年11月上旬。賠償や除染などの費用負担が10兆円に跳ね上がる恐れが出てきたためだ。翌月に自民党が政権を奪取し、東電経営陣の一部では「事態が好転するのではないか」と期待が高まった。ところが、政府の動きは鈍く、期待は空回り気味だった。
ある東電幹部によると、横浜市議出身で神奈川2区選出の菅は神奈川支店高島通営業所長だった勝俣と懇意だったという。神奈川支店長を歴任した広瀬とも面識があり、「もともと東電にシンパシーがある」(東電幹部)と言われている。それにもかかわらず、なかなか面会の約束がとれなかった。
東電自体の力そのものが衰えたからだ、というだけではない。そもそも、「ねじれ解消を期す今夏の参院選を控え、最優先課題は景気のテコ入れ。東電は後回し、というスタンスだろう」(エネルギー大手首脳)。
ならば、誰が東電で、新しい自民党の政権とのパイプづくりに動いていくのだろうか。
「とにかく顔が効く。東電と関わりが薄かった文部科学省や財務省でも、どこを突けばいいのかをよく分かっている。勝俣さんもいないし、彼しかいない」。衆目が一致するパイプ役は、取締役執行役の嶋田隆だ。
嶋田は昨年の国有化に伴い、原賠機構の実務トップから東電の経営陣入りしたが、もともとは経済産業省のキャリア官僚。昨年政界を引退した与謝野馨が入閣するたびに秘書官に起用されたことで知られ、政界と各省庁に幅広い人脈を持つ。昨春の東電の会長人事、再建プランの「総合特別事業計画(総特)」づくりでは民主党政権実力者の仙谷由人らと連携しながら、「勝俣東電」を追い詰めていった。
今度の相手は安倍政権。その嶋田の神通力にも限界が見えている。安倍政権と接近するために、嶋田が頼ったのが、安倍の政務秘書官、今井尚哉。2006〜07年の第1次安倍内閣の時も安倍に首相秘書官として仕えた。昨年12月までは資源エネルギー庁次長をつとめ、原発再稼働や電力システム改革などの議論に深く関わった。
嶋田と今井は1982年の同期入省。多忙な安倍らを捕まえて4月に東電首脳との会談をセットできたのは、この2人の「経産官僚ライン」が機能したからといえるが、嶋田にとって、政府中枢の複数のキーマンと自由にやりとりしていた民主党時代とは勝手が違う。安倍政権とのパイプは盤石といえないのが実情だ。そのなかで、東電の再建が想定通り進められるのだろうか。
■次は「新総特」
「やはり、計画づくりは今秋かな」
「決まってないけど、そうじゃないと間に合わない」
東京・内幸町の東電本店。自民党が政権を奪取して以降、本店9階の「企画部」、そして、機構出身者と東電プロパー組が混在する「経営改革本部」のメンバーらは、次の再建計画づくりのタイミングを気にし続けている。
その計画は、本店内で「新総特」と呼ばれている。いわば、昨年春につくった総特のアップデート版だ。
昨年の総特を巡っては、資本注入や値上げ、原発再稼働が再建3点セットと呼ばれていたが、1年もたたないうちに計画は大きく狂っている。資本注入は予定通り実行されたが、値上げ幅は圧縮、再稼働は議論が進んでいない。この計画は今年4月から柏崎刈羽原発(新潟県)が順次稼動することを前提にしており、もはや現実とずれてしまっている。金融機関などに約束した黒字化のめどはまったくたっていない。
そうなれば、早晩、金融機関などの間で再び東電の再建への疑念が高まっていく。
下河辺は最近、「2013年度が正念場だとみんな知っている」と漏らしている。いつも温厚な顔つきが、このときばかりは険しくなるという。
かつての自民党との蜜月関係はもう戻ってこない。東電はどうパイプをつくり直すのか。結末は、東電再建ばかりか、被災地やエネルギーの未来図にも影響してくる。=敬称略(鷺森弘)
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