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6月15日 東京新聞「こちら特報部」 :「日々担々」資料ブログ
福島原発事故の健康影響について、国連科学委員会は先月末、「被ばく線量は少なく、健康への明確な影響はないとみられる」ことを骨子とする報告書案を発表した。これまでも、世界保健機関(WHO)や民間団体が影響の推測をまとめてきたが、今回の報告は他と比べても「安心」の度合いが高い。この報告書をどう読むべきか。京都大原子炉実験所の今中哲二助教らに聞いた。 (出田阿生、中山洋子)
「国連科学委の報告書案に記された数字で計算すると、福島原発事故により、少なくとも日本全体で二千五十人のがんによる死亡が増えることになる。これを多いとみるか、少ないとみるか」
京都大原子炉実験所(大阪府熊取町)の今中哲二助教はこう語る。今中助教は、原発事故直後から福島県飯舘村に入って放射性物質の測定などの調査を続けてきた。
今中助教が注目したのは日本全土でどれだけ被ばくしたかを表す「集団実効線量」の推計だ。甲状腺の集団実効線量は十一万人・シーベルト(生涯の被ばく線量)、全身でみると四万一千人・シーベルトとなっている。
国際放射線防護委員会(ICRP)は「一万人・シーベルトで五百人のがん死が起きる」とみている。全身の集団線量に当てはめると、がん死の増加は二千五十人だ。
この数値をチェルノブイリ原発事故後の旧ソ連や欧州諸国の約六億人分のデータと比較すると、福島原発事故による被ばく量は甲状腺は約二十分の一、全身が約十分の一という結果になる。
「大したことはない」と安心したくなるが、こうした一連の数字をどう読むべきだろうか。
「無視できる数とは言えない。当てはまった人は、事故という人為的な原因で死を迎えるのだから」(今中助教)
健康影響を語る際、被ばくとの因果関係が明白ながんや白血病のみを取り上げがちだ。この報告案もそれを踏襲する。
しかし、被ばくによる健康影響には、いまも不透明な部分が大きい。チェルノブイリ原発事故後には、子どもの免疫低下や心臓疾患の発生が見られた。今月初旬、ウクライナを視察してきた今中助教は「被ばくの人体への影響は多様だと実感している」と話す。
◆WHO報告は対照的な視点
国連科学委の報告書案と対照的なのが、今年二月末にWHOが発表した報告書だった。
「大半の福島県民にがんが明らかに増える可能性は低い」と結論する一方、一部の乳児は甲状腺がんや白血病などのリスクが生涯で数%から約70%増えると推計。十五年後は一歳女児の甲状腺がんの発生率が浪江町で約九倍、飯舘村で約六倍になると予測した。
WHOは前提条件を「計画的避難区域で事故後四カ月避難せず、県内産の食物だけを口にした」とした。この想定は論議を呼んだが、飯舘村では近い実態もあった。
「想定は過大評価になるかもしれない。だが、過小評価よりも良い。過小評価の危険を最小化したかった」(WHOの公衆衛生環境担当マリア・ネイラ氏)という。
国連科学委の報告書案でもう一点懸念されるのは、この推計の根拠とされたデータの信頼性だ。一例として、子どもの甲状腺被ばくについての数値がある。
この数値は政府が二〇一一年三月下旬、飯舘村や川俣町、いわき市などで、事故当時に県内に住んでいた十五歳以下の子ども千八十人を対象に実測し、まとめた。
今中助教は同時期に飯舘村に入って調査していたが、空間線量を測定すると村役場の屋外で五マイクロシーベルト、室内で〇・五マイクロシーベルトだった。ところが、政府の調査で子どもの首に測定器を当てて測った数値は「〇・〇一マイクロシーベルト」などと記されていた。
今中助教はこれほど周囲の放射線量が高い場合には、そうした微量の放射線は測定することは不可能だと指摘する。
甲状腺に集まる放射性ヨウ素の半減期は八日。事故直後に測定しないと測れなくなる。今中助教は「真っ先に取り組むべきは、最も影響を受けやすい子どもの甲状腺被ばくなのに、検査数があまりに少なすぎる。旧ソ連でさえ、約四十万人の子どもの甲状腺被ばくを調べた」と振り返る。
健康影響に否定的とみられる報告書案だが、一方で一〇〇ミリシーベルト以下の低線量被ばくでも「がんの増加について科学的根拠が不十分でも、調査を長期間継続すべきだ」としている。今中助教は「被ばくの影響が完全に解明されていない以上、この姿勢は重要」と話す。
「国連科学委員会は厳密さを追求する組織。だが、行政には健康を守るための予防原則が求められる。科学的な厳密さより、これからどんな影響が出てくるか分からないという視点が大切だ」
<デスクメモ> 「白黒つけずにあいまいなままにしておくこと」。復興庁参事官がツイッターに書き込んだせりふだ。時間がたてば、国民はフクシマを忘れるという「解決策」が政府の本音と感じてはいたが、実際そうだったわけだ。その先にあるのは今秋からの再稼働だろう。都議選、参院選は忘却との闘いである。 (牧)
<国連科学委員会> 被ばくの程度と影響を調べるため、国連が設置した。各国の核実験で放射性物質が拡散し、被ばくへの懸念が高まっていた1955年に発足した。関係者の間には「核実験の即時停止を求める声をかわす目的だった」という指摘もある。報告書はICRPの基礎資料になる。ICRPのメンバーと重複する委員もいる。
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