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2013年5月3日 23時29分 小出 五郎 | 科学ジャーナリスト
ゴールデンウィークで観光地は大賑わい、アベニミクスの効果とマスコミが伝える中で安倍首相は中東のサウジアラビア、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)を歴訪、「日本の安全な原子力技術を提供したい」と述べています。
サウジアラビアは16基、トルコ4基、UAE12基の原発建設計画があり、そのうちの何基かの受注を目指したものです。
UAEとは5月2日、原発輸出の前提となる原子力協定に署名しました。
日本の原発輸出企業はアメリカの企業と密接な関係があります。思い返えせば民主党政権の時の野田首相は、民意の「脱原発」を放棄する理由の一つとして、日米企業間の原子力連携をあげていました。
政権交代で返り咲いた安倍首相が、原発セールスマンとして熱心なのはこれまでの自民党時代からの原子力ムラ政策を忠実に引き継いだものです。
それにしても安倍首相が各国で「安全な原子力技術」を強調しているのはいささか恥ずかしい気がします。
安倍首相の言動はしばしばリアリティーがない、つまり観念優先で現実を直視せず影響や結果をあまり考慮しないところがありますが、どうして「安全な原子力技術」と言い切れるのか頭の中の論理構造が不思議です。
5月1日に原子力規制委員会は、福島原子炉事故の未解明な点を調査して年内にIAEA(国際原子力機関)に提出することを決めました。
事故から2年以上もたって、何とも遅ればせながらの話です。
それに年内という期限では、放射能のために現場に近づけない現状からして無理ですね。本気で調査するならこれから何十年もかかると予想されます。
地震による機器や配管の破損、水素爆発の原因、格納容器や圧力容器の破損個所や原因など、わからないことが山積しています。これまでの政府、国会、民間、事故調査委員会報告でも、食い違っている点や時間切れで未解明なままになっている点が多々あります。それでも安倍首相は、日本の水準の高い「安全な原子力技術」と断言しています。
私のブログを読んでくださっている匿名の方から、福島原発に関する建設当時からの膨大な資料をいただきました。ブログ上で改めてお礼を申し上げます。
まだ一部を読んだだけですが、原発史を考えるうえで興味深い論考や記事があってたいへん勉強になっています。
そのひとつ、1971年6月の「電気情報」誌のなかの「より高度な安全施策を推進―福島原子力の建設工事―」と題する座談会記録があります。当時の建設所長、所長代理、6人の課長、保安担当に、電気情報誌の社長と主幹が質問してまとめたというものです。
東電の担当者は、設備の安全のために「二重三重の防護措置、設計通りの慎重な工事、運転保守の人員の海外研修、放射線対策に保安課の新設」などの対策がなされたと説明しています。
地震対策のためには、5000トンの鉄筋を使用して「コンクリートの壁厚も、地下室で1.3m、1階で1.2m、3階が0.8m、さらに0.5mというように建物全体がコンクリートの塊のような構造物になっている」こと、建物を「しっかりした岩盤の上に設置」したこと、400年の地震事例を参考にして基礎岩盤で加速度180ガルを想定、これは「標高35mで450ガルの地震に相当する」こと、「450ガルの地震」はほとんど起こりえない「仮想事故までを対象にしているのが原子力発電なのですね」、「関東大震災以上の地震でもびくともせず回りがやられても福島原子力発電所は発電を続けている(笑)」と述べ、まさに自信満々です。
ただ、津波についてはまったく言及がないことから、津波が考慮の対象になっていなかったこともはっきりとわかります。
このように書くと、現在から過去を批判するのは簡単なことだという反応が聞こえてきそうです。私もそう思います。
記事で興味を引いたのは実はこのあとの内容です。
周辺住民に原子力発電所が安全であることを確認してもらうために、空中線量の測定、土壌・海水・川水・農産物、海産物の放射線測定などを行い、福島県との協定に従って「測定結果、分析のしかたなど資料の公正な取り扱い」が必要としています。
安全確保の条件として、公正な「情報公開」をするということです。
また、安全確保のために東電の社員と請負の社員の「施主と業者という立場を越えて、一体となって安全管理」をする仕組みの大切さを強調しています。メーカーの設計、実際の施行、東電の管理が「三位一体となってはじめて安全が確保される。どの一つが欠けてもいけない」、「不安全設備と不安全動作の重なった時に事故が起きるという事実」を各自が意識することが基本とも言っています。
当たり前のことが当たり前に強調されているのですが、この座談会の40年後に起きた事故、そしてこれまでの事故調査報告書からも明らかになった安全神話、無責任な経営管理を考えると、現場技術者の初心はしだいに軽視、無視されるようになって来たようすが目に浮かびます。
安全に対する関係者の「意識」と国の政策からマニュアルにいたる「制度」が劣化してしまいました。後に指摘されることになる津波の警告を、経営判断で後回しにしてしまったのです。
安全は、「技術、制度、意識」のどの一つが欠けても成り立ちません。
福島原発事故原発を輸出する先の国の「技術、制度、意識」は確かでしょうか。
たとえば、独裁国に情報公開制度は期待できるでしょうか。
輸出が実現すれば経済的な利益は上がるでしょうし、アベノミクスにはプラスの評価になるでしょう。
関係企業は莫大な利益を上げて株価は上昇するでしょう。
しかし、原発4機の同時多発事故を起こしたことを忘れたかのような商売に対し、世界の日本に対するリスペクトはどうなるのでしょうか。
私は、次の世代に遺したいのは一時的なマネーではなく永続的なリスペクトであると思います。
小出 五郎
科学ジャーナリスト
「見ざる、聞かざる、言わざる」と真逆の三猿を、由縁も不案内のまま勝手に「言論の自由ざる」と名付けて気に入っています。秩父神社の本殿の彫刻です。縦割り社会を科学の視点で横につなぎ、日本のいまの姿を顕わにするのが願い。NHKの科学番組ディレクター、解説委員、日本科学技術ジャーナリスト会議会長、大妻女子大学教授を経て、現在はフリーの立場で取材、論評をしています。
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