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◆科学とエゴのはざまで
東京電力福島第一原発事故の後、インターネットの掲示板などに「鉄腕アトム」への批判的な意見が相次いだ。多くは「原発のイメージアップに加担しているのではないか」という書き込みだ。
手塚治虫の長女るみ子(48)は不安に駆られ、何度も声を上げそうになったが、そのたびにファンが反論して“疑惑”を打ち消してくれた。
おかげで今はそんな批判も、冷静に受け止められるようになった。「あらためて原作を読み、真意をくみ取るきっかけにしてほしい」
有名なアトム誕生のエピソードからして「父の思いがよく出ている」とるみ子は言う。
わが子を失った天馬博士が悲しみのあまり、息子そっくりのロボット、アトムをつくる。博士は最初は喜んでかわいがるが、成長しないアトムにいらだち、ついに追い出してしまう…。
「幸福のためにあるはずの科学技術が、人のエゴや欲でゆがめられてしまう。アトムはいつもそのはざまで悩んでいるんです」
手塚は1985年夏、東京・西新宿で開催した「手塚治虫漫画40年展」で1枚の風刺漫画を展示した。
米国が行った核実験で被ばくした「第五福竜丸」が海に浮かんでいる。
アトムに向かって「この原子力ロボットめ、死の灰を降らせるな!」と叫ぶ村人たち。涙を浮かべたアトムに、手塚はこうつぶやかせている。「ボクは正義の味方だと思っていたのになあ」
「アドルフに告ぐ」 「グリンゴ」など手塚は後年、社会派の作品を残した。時流に敏感な手塚が生きていたら、原発事故から着想を得て、シリアスな人間ドラマを描いたに違いない。
「なのはな」 「プルート夫人」など、福島の事故後、原発をテーマにした作品を次々に発表した漫画家の萩尾望都(63)は、「鉄腕アトム」が原発と関連づけて語られることにやるせなさを感じ、こんな「アトム最終回」のあらすじを考えた。
原発の事故直後、アトム、コバルトの兄弟と妹ウランが一緒に、放射性物質の除染のために福島に向かう。3人は発電所内で除染を終えた後、壊れて動かなくなる…。
「その物語を、いつか私に描かせてほしい。(福島の現状を見て)手塚先生は、きっと許してくださると思うんです」(文中敬称s略)
東京新聞 2013/4/19
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