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http://mainichi.jp/opinion/news/20130410k0000m070117000c.html
毎日新聞 2013年04月10日 01時24分
◇地域の判断から逃げるな
新潟県議会で今年1月、東京電力柏崎刈羽原発の再稼働の是非を問うための県民投票条例案が否決された。同様の条例案の否決は、大阪市、東京都、静岡県に続き4自治体連続だった。いずれの議会でも議論は尽くされたとは言い難い。県民投票を呼びかけた市民団体メンバーは、否決後も議会を傍聴し議論を続けてきた。だが、地方議会には「原発問題は国策。地域で決める問題ではない」という意識が根強くあるように思う。東電福島第1原発事故で多くの住民の暮らしが奪われた現実を私たちは見てきた。原発問題は国の問題であると同時に地域の問題でもある。問題の重大性を認識した住民たちの「みんなで決めよう」という訴えから、首長や地方議員たちは逃げてはいけない。
県民投票実施を目指す市民団体「みんなで決める会」(新潟市)は昨年12月、約6万8000人の署名を添えて、泉田裕彦新潟県知事に条例案を直接請求した。条例案は県議会臨時会で1月21〜23日の日程で審議された。過半数を占める自民は「原子力政策は国策。県民投票にそぐわない」との理由から条例案に否定的で、修正案が社民党、共産党などの県議から提出されたが最終日に原案、修正案ともに賛成少数で否決された。
県議会を傍聴して違和感を覚えたのは、否決理由すら十分に議論されなかった点だ。
泉田知事は臨時会に先立ち「条例案の課題」として6項目を挙げた。主な内容は、県民が稼働の是非を判断するための情報不足▽原発停止の際の地域振興策▽使用済み核燃料の処分問題−−など具体的なものだった。これに対し、臨時会での県議の質問は多くが「知事の賛否が分かりにくい」「本気で実施するつもりがあるのか」など知事の姿勢を問うものに終始し、「なぜ原子力政策は県民投票にそぐわないのか」といった議論はほとんどなかったのに、議決前の各会派の意見陳述では「稼働の是非は国の責任で判断すべきだ」(自民)「二者択一では民意をくみ取れない」(民主)など反対意見が並んだ。否決ありきで議論を避けた、と言われても仕方あるまい。
否決の瞬間、傍聴席からはヤジが飛んだが、その怒りはもっともだと感じた。閉会後、みんなで決める会の橋本桂子共同代表(40)は「国の責任で判断すべきだと言うが、その結果が福島の事故ではなかったか」と憤った。事故後、新潟県にも多くの被災者が避難してきた。取材で出会ったある男性は、福島と新潟を往復する日々に疲れて私に電話をかけてきた。「どうしてこんな仕打ちを受けなければいけないんだ」。原子力災害の過酷さを垣間見た気がした。
◇意思示す権利と責任で自立へ
昨年4月のみんなで決める会発足時から取材を続けて感じたのは、「私たちは原発問題に無関心だった」という彼らの自省の念だ。私自身にも同じ思いがある。私は4年間を新潟で過ごし、原発が立地地域の活性化や雇用に貢献してきたことも知った。確かに核燃料サイクルや電力の安定供給は国家レベルの問題だ。
だが、「安全神話」が崩壊してしまった今、新潟県民が柏崎刈羽原発を見る目は大きく変わった。県内では昨年11月、長岡市の住民組織が安定ヨウ素剤を自主配布した。今年1月には立地自治体の柏崎市と刈羽村を除く全28市町村が東電と安全協定を締結。こうした動きは当事者としての危機感ゆえだろう。
臨時会の冒頭、同会のメンバー、宮島雅子さん(44)は意見陳述でこう訴えた。
「県民自ら判断する権利が与えられ、共に責任も生まれます。偉い人にお任せする社会でなく、自立した社会を作る出発点にさせてください」
民意とは何だろうかと思う。民主党政権は討論型世論調査などを活用した「国民的議論」の結果として、「30年代原発ゼロ」の目標を掲げた。その後、衆院選で大勝した自民党政権は、「30年代原発ゼロ」政策の転換を示唆している。だが衆院選も争点は原子力政策だけではなかっただろう。原発稼働問題について、民意はくみ取られてきたと言えるのだろうか。
泊原発のある北海道でも住民投票条例案の直接請求をしようと運動が始まった。原発再稼働をめぐる国民投票実施を求める運動もある。住民投票に限らず、原発稼働問題について「自分たちで判断したい」という人々の訴えは、今後も続々と出てくるだろう。国だけでなく地方自治体も、こうした真摯(しんし)な訴えから逃げることは許されない。再稼働議論が本格化した際には、地元住民が意思表示する機会を用意すべきだ。(新潟支局)
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