02. 2013年4月05日 02:39:41
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【第111回】 2013年4月5日 週刊ダイヤモンド編集部 【日本原子力発電】 敦賀原発“断層”問題で財務懸念 開き始めた電力の「パンドラの箱」 保有する原発に活断層の疑いが指摘され、資金繰りの悪化が取り沙汰される日本原子力発電。同社の財務を読み解けば、電力業界全体がもたれ合ってきた原発の構図が浮き彫りとなる。「電力各社の原子力事業の発展に重要な日本原電を支えたい」 3月16日、電力会社9社で組織する電気事業連合会の八木誠会長(関西電力社長)は、資金繰りに苦しむ日本原子力発電を支援していく姿勢を明確に打ち出した。 日本原電とは1957年に東京電力、関西電力をはじめとする電力9社と、電源開発(J‐POWER)の出資で設立された原発専門の卸売事業者である。もっぱら原発で発電した電気を電力会社に売り、収益を上げている。 だが、現在はその収益源である全3基の原発がいずれも停止しており、再稼働の見通しが立っていない(図(1))。東海第2原発は地元が再稼働に反対しているほか、敦賀原発1号機は稼働年数が40年を過ぎ、民主党政権下で決まった制限年数に抵触している。 さらに2012年12月に、原子力規制委員会が敦賀2号機の真下を走る断層を「活断層の可能性が高い」と指摘し、2号機の廃炉の可能性が取り沙汰されている。
通常、唯一の収益源がなくなれば、売り上げが立たなくなると想像するだろう。だが、原電の場合はそうではない。 東日本大震災直前の11年1月に敦賀1号機、5月に敦賀2号機、東海第2がそれぞれ定期検査入りし、そのまま運転停止となった。このため、12年度中間期の「販売電力量」はゼロにまで落ちた。だが、収入となる「販売電力料」の項目を見ると、11年度通期でも1443億円の安定収入が得られているのだ(図(2))。 発電がゼロ、にもかかわらず収入は安定している──。奇妙な現象だが、携帯電話の月々の支払いに例えると、毎月定額で徴収する「基本料金」と、月々利用した程度に応じて変わる「通話料」の2階建ての仕組みだという。こうして原電は東電をはじめとする電力5社から、設備維持名目などで震災以後もほとんど変わらない収入を得られている。
それどころか、原発が停止していることで運転に必要な経費が抑えられているため、利益率が伸び続けている。12年度中間期には当期純利益が過去最高の209億円になる“異常事態”が発生しているのだ。 だが、ただの奇妙な料金体系では済まない。問題となっているのは、原電に支払いをしている肝心の電力会社自身が経営危機に陥っていることだ。 原電から受電する5社のうち東京、関西、東北の3社は料金値上げを実施または申請している。つまり、消費者に負担を強いて、再稼働の見通しが立たない原電に「購入電力料」を支払っていることになり、批判が起きている。 図(3)に、関電が値上げをする際に今後3年間の原価に織り込んだ、原発の購入電力料の内訳を示している。その項目をつぶさに見ていくと、原発をめぐる業界構図の複雑さがわかる。 購入電力料の内訳では、敦賀原発などが3年間稼働しないことを前提にしている。だが、これによって関電の支払いがゼロになるのは核燃料費と送電料金の55億円分だけ(図(3))。それ以外の人件費や修繕費など、原電の固定費部分を関電が支払っているという構図になる。これは関電に限らず、他社から電気を購入する電力会社に共通の仕組みだ。
結局、値上げ審査を経て、関電が原電に支払う購入電力料は一定規模で継続される見通し。原発で売電する事業者を、電力各社が支えていく、という電力業界の構図は温存されることになっている。 敦賀2号機が廃炉なら 各社の経営さらに悪化 購入電力料の問題は、再稼働の可能性があれば今後解決できるかもしれない。だが、規制委が活断層の疑いを指摘した敦賀2号機は、電力各社のさらなる経営悪化を招く可能性がある。 もし、敦賀2号機が廃炉という判断になった場合、多額の追加負担が必要になるためだ。 廃炉の費用は法令で「運転開始から約40年で積み立てる」としているが、敦賀2号機は運転開始から25年で積み立てが終わっていない。さらに減価償却費などを含めると「追加費用は2000億円を超えるのでは」(電力会社幹部)。原電の純資産額は1864億円で、債務超過に陥る可能性も高い。 拡大画像表示 このため、原電に融資する金融機関も、原電の経営状態に懸念を抱いている。結果、社債発行が困難になり、有利子負債も直近では「短期」のものが急激に増えている(図(4))。12年4月に金融機関から借り入れた1040億円も13年3月に関電など4社が債務保証したことで、なんとか借り換えることができた。
こうした支援により、原電は「来年度の事業見通しが得られる」(八木・電事連会長)が、期末を乗り切ることができただけで支援効果は限定的だ。 規制委は敦賀2号機の断層について月内にも報告書をまとめて、原電に対応を求める予定である。それでも廃炉は、経済産業大臣もしくは原電自身が判断しない限りは実施されない。だが、例えば原電が規制委へ明確な反論をせぬまま長期にわたって判断を先送りしても、途中で会計上の減損処理が迫られる可能性もある。 廃炉や減損処理が行われれば、廃炉費用など電力各社の支援が必要になり、それがさらなる値上げにつながる。 かくも「原電問題は電力業界の“パンドラの箱”」(外資系証券アナリスト)なのだ。 (「週刊ダイヤモンド」編集部 森川 潤) http://diamond.jp/articles/print/34100 |