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原子力規制庁ナンバー3の審議官だった当時、電力会社に資料を漏らして更迭された名雪哲夫氏(54)が、山形大教授に出向した。この大学の学長は旧科学技術庁出身で、元文部科学事務次官の結城章夫(64)。原子力ムラは癒着体質を反省しないばかりか、「天下りポスト」を確保する厚顔ぶりだ。(佐藤圭)
「行き場を失った名雪氏を結城氏が拾った。通常の人事の場合、大学の理事や監事のポストが用意され、いずれは本省に復帰する。だが、名雪氏は教授で出向した。本省に戻ることはないのではないか」。文科相経験者の周辺は、今回の出向人事をこう評した。
名雪氏は1月、日本原子力発電(原電)敦賀原発(福井県)の断層調査をめぐり、原子力規制委員会の調査団が評価会合を開く前に、原電の求めに応じて報告書原案を渡した。規制庁は2月1日付で名雪氏を訓告処分としたうえ、「Uターン禁止」の建前を無視し、出身官庁の文科省の大臣官房に出向する形で更迭した。
規制庁を事務局とする規制委の田中俊一委員長は、更迭後の記者会見で「個人の考え違い」と組織の責任を否定。「大甘処分」 「無責任」 などと非難されたが、規制庁としては強引に幕引きを図ってしまった。
文科省は「厄介者」を押しつけられた格好になった。とはいえ、転んでもただでは起きない。先月31日付けで、名雪氏を山形大教授に出向させた。大学に「文科省枠」を一つ増やしたわけだ。
◆学長は同じ旧科技庁出身 元次官
山形大によれば、名雪氏の肩書は各学部の研究支援を担う「企画部」の教授。学生を直接指導することはなく、医学部で整備を進めている「重粒子線がん治療施設」の準備室スタッフになる。
大学側が「施設設置に向けて、識見のある人を紹介してほしい」と文科省側に打診。同省側から名雪氏を提案されたという。医学部などの教授会は通さず、理事による役員会で先月13日、名雪氏の人事を決めた。
山形大の黒沼毅総務部長は、訓告処分された人物の教授起用について「規制庁の処分で決着は付いている。教授就任とは別だ。倫理的に問題があるとは考えていない」と主張する。天下り批判には「出向なので天下りではない」と説明した。
この人事の背後には、学長の結城氏の存在が見え隠れする。結城氏は2005年、旧科技庁出身で初めて文科次官に就任した「旧科技庁系の大物」。07年の山形大学長就任の際には、教職員の間から「天下り批判」が噴き出した。名雪氏も旧科技庁の出身だ。
旧科技庁は、電力産業を所管する旧通商産業省(現・経済産業省)とともに日本の原子力行政を担ってきた。経産省が福島原発事故で矢面に立つ中、名雪氏らを規制庁に送り込むことで、影響力を確保しようという思惑も、霞が関ではささやかれてきた。
慶応大の金子勝教授(財政学)はこう話す。
「電力会社と癒着し、規制庁の存在を危うくした人物の天下りは、原子力ムラの官僚たちが全く反省していない証拠ともいえる。そのうえ、行き先が次官経験者の天下り先とはあきれ果てる。やりたい放題だ」
2013年4月3日 東京新聞 朝刊[こちら特報部:ニュースの追跡]より
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