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実録『トモダチ』作戦・第3部「まとわりついて離れない、放射能汚染の恐怖」[第3回]
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2013年4月3日 星の金貨プロジェクト
汚染されてしまった艦隊
「おれたちはゾンビになってしまうのか?」
ロジャー・ウィザースプーン / ハフィントン・ポスト 3月5日
「私たちはできるだけ汚染されていると思われるこの三角形の海域に入らないようにしていました。しかし被災地に救援物資、水や食料などを届けるためには、何度もこの場所を横断しなければなりませんでした。三角地帯を迂回して被災地に向かったり、また別の場所に移動したりする余裕は無かったのです。」
「援助物資を届けるためには、どうしても三角地帯に入らなければならない時もありました。
海岸から3キロ沖合であっても三角地帯からは外れている場合がありましたが、次の目的地に向かう際時間を節約するため、あえて三角地帯を通過する時もありました。」
しかし三角地帯だけが問題ではありませんでした。
ヘリコプターやジェット戦闘機のパイロットたちが持ち帰った、各空域の放射線の観測記録を見ながら、各艦艇は目には見えない脅威から回避行動をとり続ける必要がありました。
「私たちは80日程その場所にとどまり続けました。」
モーリスがこう語りました。
「その間私たちは必要に応じて沿岸に接近し、任務完了とともに沖合に退避するという行動を繰り返していたのです。それは風を相手にした、猫とネズミの追いかけっこのようなものでした。しかし実際、放射性物質がどこにあるか、そんなことは解りませんでした。でも日本側がそこには放射性物質は無い、と伝えてきた場所で我々が実際に放射能を検出した時、初めて恐ろしいと感じました。以来私たちは厳重な警戒態勢を敷き、常にガスマスクを持ち歩くようになりました。
しかし日本側が提供する情報が信頼に値しないことがはっきりし、その上信頼完全な情報を与えられない兵士たちの間には、噂、そして恐怖が蔓延して行きました。
原子力規制委員会の危機対応センターの電話会議の議事録によれば、この時空母ロナルド・レーガンの艦長は一時間ごとに放射線量の測定を行い、在日アメリカ大使館に報告するよう命令されました。大使館側が適切な対応がとれるようにするためでした。
空母ロナルド・レーガンの船体はセシウム、ヨウ素とテクネチウム、そして福島第一原発が放出したありとあらゆるもので汚染されてしまいました。
アメリカ国防総省はもはや、日本政府と東京電力が伝えてくる情報を信じようとはしませんでした。
モーリスやジェイミーのような航海士たちは、パイロットたちが集めてきたデータの中から必要な情報だけを与えられました。
「私たちは実際に、放射性物質の存在が確認された場所を書き込んだ海図を見せられました。」
モーリスがこう語りました。
「それをすべて避けて船の航路を割り出す作業は、神経が参ってしまう程きついものでした。いったいどの場所に、どれ程の放射性物質が漂っているのか完全な情報を手に入れる術はありませんでした。でもその時点でも尚東京電力側は私たちに対し、心配する程の放射能漏れは無いと言っていました」。
「艦内ではほとんど何も知らされていない人間たちの間で、噂ばかりが先行する状態となっていました。」
ヘリコプターやジェット戦闘機が任務から戻ると、放射線防護服を着込んだスタッフが現れ、石鹸と水を使って機体をこすり洗いました。
しかしそれがどの程度効果があるものなのか解らないまま、その行為だけが繰り返されていました。
「私は常にイライラしていました。」
ジェイミーが当時をこう振り返りました。
「何が起きているかは問題ではありませんでした。とにかく『気にしなくていいよ!』、あるいは『もうやめた』などといえる状況でない事だけは確かでした。顔も体もボロボロのゾンビになってしまってから『大丈夫、今、放射性物質を洗い流すから、そうすれば元通りになるから。』などと言える訳がありません。とにかくその場所にいた間は、ずっと怯えていました。」
「我々の中の誰も、放射線についてはどんな知識もありませんでした。しばらくしたら3本目の腕が生えてくるかもしれない、そんなことすら考えました! おかしいでしょう?デジタル腕時計を作るときに放射性物質が使われることを話す人間もいました。ここにいる全員がガンで死ぬようなことになったどうしよう?本当に何もわかりませんでした。それを考えると頭がぼうっとなりました。そして今度は冷静になってそのことを頭の中から追い出そうとする。ずっとその繰り返しでした。」
水兵たちが恐怖について余計なことを考えないようにするために、厳格な軍紀がある意味では役立っていたかもしれません。
「いったん命令を受けたら、直ちに従わなければなりません。」
モーリスが語りました。
「艦体に水を吹きかけて洗浄しろと言われれば、直ちにそれに従い、作業をしている間はその洗浄の事だけ考えてればいいのです。
しかし放射線を洗い流す作業について、指揮官の中の誰かが私たちに誤った情報を伝えたりすれば、私たちはかえって混乱してしまうことになるのです。」
「ですから今遂行している任務について、私たちはもっと大きな観点で役に立つことをしているのだと考えるようにするのです。海軍の艦艇のように、乗り合わせた全員が運命を共にしているような場合は、特に。そしてたとえば孤島に取り残された子供たちに、食べるものを運んできたヒーローが現れたら、子供たちはどんなに喜ぶことか、そのことを考えるのです。そうすれば自分自身のこと、自分が抱えている恐怖を忘れることが出来るのです。」
〈 第3部第4回「汚染されてしまった艦隊」へ続く 〉
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