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新年度を迎えて、福島県は間伐による森林除染を本格化する。県土の約7割が森林の同県では、街を除染しても森林から放射性物質が流れ込んできた。県は間伐材を木質バイオマス発電に利用する構想を練っている。除染のほか、発電、林業再生、雇用創出の「一石四鳥」を狙う。だが、住民たちには、汚染材の焼却が放射性物質の拡散につながるという懸念も強い。構想をめぐる賛否を追った。(荒井六貴、林啓太)
「もともとは森林の間伐が狙い。ただ、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度でバイオマス発電も採算に乗る。さらに放射能汚染対策になれば、と考えている」
福島県林業振興課の渡部正明主幹はそう話す。先月には新設するバイオマス発電所の燃料の安定供給指針もまとめた。
同県のバイオマス発電所は現在、白河市(営業開始は2006年10月)と会津若松市(同12年7月)で稼働中だ。加えて、国の復興交付金で塙町にも新設を計画している。さらに国の除染直轄事業とは別に、県も今月から除染間伐に力を入れるため、汚染のひどい相双地区(相馬郡、相馬市、南相馬市、双葉郡)に3カ所、県北・県中地区に1カ所を新設することを構想している。
この構想について、南相馬市の除染推進委員長でもある東京大先端科学技術研究センターの児玉龍彦教授(分子生物学)は「福島県の構想は良くできており、大事な提案だ」と高く評価する。
児玉教授は「山林からの汚染回収にめどがつかないと、環境汚染を解決できない」と語る。
「放射性物質は焼却によって濃縮でき、その形態の方が管理しやすい。コンテナ容器に入れ、放射線を遮蔽すれば、危険はない。汚染された土壌を高温で焼いてセシウムの99%以上を分離、除去したうえ、濃縮する技術がある。バイオマス発電で生じたセシウムを含む灰にも応用が可能だ」
発電施設には、排出ガスをろ過し、有害物質を集めるバグフィルターという装置が付けられる。だが、住民たちは放射性物質がフィルターから漏れることを懸念する。
これに対して、児玉教授は「計測可能なレベルで漏れることはない」と断言する。「発電の過程でセシウムの99.99%は灰に吸着し、フィルターでろ過される。そのフィルターを二重にすることで、安全性は十分に確保できる」と強調する。
ただ、住民に募る不信感が理解できないわけではない。「福島原発事故の当初、行政が情報を隠して住民が被ばくしたことは事実。行政は住民の不信を重く受け止めないといけない」という。
「今回のバイオマス発電所の新設構想でも、福島の行政側は発電施設に排気の放射線線量を測る『線量流量計』を取り付けることに、後ろ向きと聞いている。『原理的には大丈夫だから』と考えているのだろうが、そうした姿勢はいけない」
児玉教授の評価とは対照的に、今回の構想に批判的な見方もある。
環境ジャーナリストの小沢祥司氏は「森林を除染しようと思えば、表土を削り取る必要がある。だが、その部分は栄養豊かな部分で、森林の生態系を壊してしまう。森林除染は平地に比べ、費用もかかる。放射性物質の半減期を待ちつつ、その分の費用で避難者が新生活を始める支援を考えるべきだ」と訴える。
国の除染事業では生活圏から20メートル以内の森林も扱っているが、表土は削らず、落ち葉集めや常緑樹の葉を刈り取ることに限定している。
さらに、小沢氏は森林除染の作業中の被ばくを問題視する。「森林には毎時数十マイクロシーベルトの汚染箇所もあり、そこでの作業は線量管理が必要になってくる。果たして、広大な面積を扱うのに作業員の確保もできるのか」
排出ガスを通すバグフィルターの機能についての否定的な声もある。
環境運動家の関口鉄夫氏は「バグフィルターにより、放射性物質は99.99%を除去できるとうたわれているが、PM2.5などの微小粒子状物質は通ってしまう。フィルターを洗浄すると集じん効果も落ちる。フィルターの安全性を過大評価している」と指摘する。
たまる焼却灰の処分も課題になる。1キロ当たり8000ベクレル超の灰(指定廃棄物)は国が処分するが、最終処分場が見つかっていない。福島県内ではすでにその量は6万6000トンに上り、保管場の確保にすら苦労している。
バイオマス発電所を稼働させれば、さらに灰が増えることになる。環境省の指定廃棄物対策チームは「濃度が高ければ、保管するしかない」としており、抜本的な解決の糸口は見えていない。
県の構想ではこれから4カ所の新設場所を検討するが、建設計画が決まった塙町では住民の反対運動が起きている。
塙町の発電所の総事業費は約60億円で、半分が復興交付金、残りを民間事業者が負担。年間発電量は一般家庭1万4500世帯分の使用量にあたる。燃料の木材は年間11万2000トン、焼却灰は同11万トンに上る。
反対派住民らで組織する木質バイオマス発電問題連絡会事務局の農業吉田広明さん(57)は「高濃度の灰が漏れて、地下水が汚染されたらどうするのか。米作りもできなくなり、死活問題になる」と不安を深める。
吉田さんは「塙町は最初、町内から出た間伐材だけを燃やすと言っていたのに、途中から『県中』 『県南』 『いわき南部』の間伐材も燃やすと言い始めた。何が本当なのか分からない」と、町の説明にも疑問を持つ。
藤田一男町議(66)は「町は説明会もこそこそやっている印象だ。発電所を稼働する以前に、説明の段階で不信が募っている」と現状を語る。
塙町まち振興課の天沼恵子課長は「原発事故前から、発電所を計画していた。当初から、間伐材を運んでくる対象地域は変わっていない。安全対策は万全だ」と、反対派の主張を一蹴する。
前出の小沢氏はこう指摘する。「バイオマス発電は莫大な予算が付くから、自治体や企業が飛びついている。しかし、単にメリットが重なり、組み合わせがいいからやってみようと進めることは拙速だ。技術的な問題などを含めて、住民に情報を十分公開したうえ、時間をかけて議論していく必要がある」
[木質バイオマス発電]
木材をチップ状に加工して発電燃料にする。石油などの化石燃料よりも二酸化炭素の増加を抑えられるため、再生可能エネルギーとして注目されている。昨年7月に導入された「固定価格買い取り制度」で、事業として成り立つ可能性が高まった。林業の再生や雇用創出効果への期待もある。
[デスクメモ]
人の時間軸とセシウム137のそれとでは隔たりがある。森林除染をめぐる賛否は、そのどちらを重視するかの違いでもある。どちらにせよ、妥協の産物でしかない。首相は「風評被害をぬぐうことに全力」と言った。住民の苦悩は風評のせいのみではない。汚染という事実を「風化」してはならない。
2013年4月2日 東京新聞 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2013040202000136.html
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