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東京電力福島第一原発で、同時多発的な停電による使用済み核燃料プールの冷却停止事故が起きた。苦い記憶を忘れ、再び原発依存に迷い込むことへの警告のようだ。私たちは原発に頼ってしまっていいのだろうか。第10部では、重大事故から2年を経た原発の周辺事情を探る。
18日夜、テレビで福島第一の停電事故を知った京都府防災・原子力安全課長の前川二郎(52)は「事故収束を急ぐ現場で、いまだにこんなことが起きるのか。とんでもないな」と声を上げた。
そして、2月の府の防災会議で自らが報告したシミュレーション結果を読み返し、「こう、うまくはいかないな」とつぶやいた。
国の新指針で原発事故に備えた防災対策を進める区域がぐんと広がった。府内に原発はないが、関西電力高浜原発(福井県高浜町)の30キロ圏に宮津市など7市町が入る。避難対象の住民は、従来の1万2000人から10倍以上の13万人にまで急増した。
どうすれば、これだけの人数を早く逃がすことができるのか。前川は頭が痛い。
公共交通機関が少ない地域。住民の足は主に自家用車だが、各自が車で逃げれば大渋滞となるのは、福島事故で証明されている。そこで、前川は府内外からバスをかき集めて避難に使おうと考え、業者にシミュレーションしてもらった。
バス600台を集め、ピストン輸送すれば、10時間半で13万人全員の避難が完了する─と答えが出た。
ただし、バスは避難を決める前に集合場所の小学校に到着しているなど現実離れした条件だった。「そもそもバスを本当に確保できるのか?」。前川は、昨夏に部下2人から報告を受けた、バス会社幹部との協議内容を思い出した。
ヤサカ観光バスは、京都指折りのバス会社で、府と災害時の協力協定も結んでいる。府側から原発事故時のバス活用を打診され、専務の中野茂(69)は「協力させていただく」と快く応じた。
ただ、一つ条件を付けられた。「出せる台数は、府の防災計画に入れてほしくない」
修学旅行シーズンの4〜6月は、保有するバス74台のうち70台までが出払っている。協力したくても、実際には何台出せるか分からないとのことだった。
別のバス会社では、「協力したいが、運転手に『放射線量の高い所に行け』とは言えない」とも言われた。会社と組合の協議でも、誰が放射線量を測って健康管理をするのか。被害があった場合の補償はどうなるのか。運転手側からさまざまな疑問をぶつけられたという。結局、この会社では「個人の意見を尊重する」ことを申し合わせた。
◇
こうした事情を見通すかのように、市町の中には、避難手段の主役からバスを降ろす動きも出てきた。
宮津市は「バスは原発に近いほかの自治体に、まず投入されるだろう」と判断。自家用車による避難を基本にした。舞鶴市もバスは無理との意見が市民から多く寄せられ、自家用車も入れた。
ただし、渋滞回避が大問題。宮津市企画総務室長の森和宏(59)は「隣近所で乗り合わせる調整をしてほしい」と自治会に求めたが、自治会代表の細見節夫(70)は「事前の調整は不可能。空きがあれば乗せるという、住民の助け合いの意識を高めるしかない」と難しさを口にした。
舞鶴市は、地域ごとに時間差で避難を始める方式を模索するが、綿密すぎると、いざという時、もろさが出る欠点もはらむ。
京都の防災計画づくりは、他の自治体より進んではいるが、実際に機能するかどうかは未知数の段階だ。(敬称略)
[地域防災計画]
原発事故に備え、原発から30キロ圏内の自治体が、住民の避難先や避難手段の確保を検討してまとめる。福島事故の反省を受け、国の指針が改定され、防災対策を重点的に進める区域(UPZ)が原発8〜10キロ圏から30キロ圏に拡大。計画をつくる自治体は15道府県45市町村から、3倍の21道府県136市町村に増えた。原子力規制委員会事務局のまとめでは、計画づくりを終えた自治体は半分以下の70にとどまっている。
2013年3月22日 東京新聞 朝刊より
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