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原発事故が起きた際、電力事業者にしか賠償責任が義務づけられていない日本と違って、原子炉メーカーの責任を追及できると定めている国がある。20基の原発が稼働するインドだ。過去に起きた「史上最悪」といわれる産業事故の教訓に学んだ結果だという。福島第一原発事故を経験した日本が見ならうべき点はないのか。(上田千秋)
「日本の原子力損害賠償法は人権への配慮が欠けている。(福島で)大きな被害を出したのだから、未来の世代を守れる法律になるよう力を注いでほしい」。先月、参議院議員会館で開かれた集会で、インド人弁護士ビカーシ・モハンティ氏の声が響いた。
原子炉メーカーの賠償責任を定めたインドの原賠法は2010年9月に成立。モハンティ氏は関係者に働きかけるなどして法案成立に尽力した人物で、今回は国際環境NGO「グリーンピース」の招きで来日した。
◆84年大事故教訓に成立
こうした法律ができたのは、1984年に同国中部ボパールで起きた事故が一つのきっかけだった。米ユニオン・カーバイド社の科学工場から有毒ガスが漏れ、一晩で約2500人が死亡。最終的な死者は約2万5000人、負傷者は数十万人に上ったとみられている。
インド政府は同社に30億ドル余の損害賠償を求めて米連邦地裁に訴えたが、得られたのは約4億7000万ドル。ほとんど補償されず、後遺症に苦しみつつ貧しい生活を送る被害者が少なくない。
同国では、外国企業の支援で25〜30基の原発を新増設する計画がある。事故時の一義的な責任はインド原子力発電公社にあるが「不十分な賠償しか得られなかったボパールの失敗を繰り返さないために」との考え方から、過失があれば原子炉メーカーにも賠償を求められるようにした。
モハンティ氏は「これは本質的かつ必須の条件。日本の法律は公平ではない」と訴える。
日本の原賠法には原子炉メーカーの責任を追及できる規定はなく、福島事故の賠償責任は、政府の支援を受けながら東京電力が負う。賠償の仕組みを定めた原子力損害賠償支援機構では5兆円の枠組みを設定。支援総額はすでに約3兆2000億円に上り、東電が黒字達成後に返済する仕組みだ。
だが今後、不動産などへの賠償も始まり、総額でどこまで膨らむかも不明。支援機構法の付則には「原賠法の改正など、早期に抜本的な見直しを講ずるものとする」と明記されているが、そうした動きは出ていない。
グリーンピースの担当者は「メーカーも責任を負うようにして、国民負担が最小になるようにすべきだ」と主張する。
◆法改正すれば新増設に歯止め
原発事故の損害賠償に詳しい福田健治弁護士は「日本に原発が導入された当初は、海外から原子炉を輸入するためメーカーの免責規定は必要だった。だが、今となってはその合理性はなく、存在意義を失っている」と解説する。
「メーカーが原発を造り続けることができたのは、賠償責任がなかったから。賠償の大きなリスクを考えるようになれば、原発を新増設しようという流れにくさびを打てる。メーカーが安全性を真剣に問い直すきっかけにするためにも、法改正する必要がある」
2013年3月21日 東京新聞 朝刊 [こちら特報部:ニュースの追跡]より
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